子供たちについての説明を受け、話を終えたテクト達はカバル達と合流した。
カバル達にしばらくこの国に滞在することを伝え、馬車と装備を報酬として渡した翌日には、カバル達はイングラシア王国から去っていった。
その後、テクトとリムルは引っ越し作業を行うこととなった。とはいえ、家具は部屋に備え付けのものがあるため、寮のカギを受け取って手続きを行っただけなのだが。ちなみに一人一部屋借りられることになっていた。
「しかし、私たちが教師をすることになるなんてね」
「例の子供たちはシズさんが受け持ってたクラスの生徒たちだったみたいだしな。関わりを持つにはちょうどいだろ。結構な好待遇なのもうれしいな。部屋付き・三食付き・日当銀貨十枚とは」
寮の部屋は昨夜泊まった部屋に負けず劣らずのものであったうえ、宿泊費が素泊まりで銀貨四枚であったこととイングラシア王国での平均の日当が銀貨七枚であることから考えると、好待遇であることは間違いなかった。
そこから一週間。
学校で教える内容が不透明であったことと魔法の習得のために魔法書を読むため、図書館に通う日々を過ごした。
とはいえ、実際に本を読むわけではなく、一旦「
そうして自由学園での仕事初日。
テクト達は挨拶の後、学園の教頭先生に注意事項の説明を受けた。
この自由学園は組合員育成機関といえるものでもあった。通常の学校のような一般教養に加え、魔法学や魔物学といった専門知識の座学、戦闘訓練や生存訓練といった実技系の授業から好きな授業を受けることができる。
テクト達が受け持つこととなったのは選択授業とは違う「Sクラス」と呼ばれる特別教室だった。
このクラスは問題のある生徒を集めた特殊なクラスであり、前の担任である
後任の先生は何人も来たのだが、「爆炎の支配者」の二つ名を持つ英雄の後釜という重圧と生徒による苛烈な行動によって学園から逃げ出してしまったらしい。この中にはBランクの冒険者も含まれていたという。
そして、Sクラスの生徒には五人であり、全員が異世界人であるとのことだった。
ユウキ曰く、異世界人は世界を渡る際に何らかの能力を得るのが大半らしい。
特に召喚者の場合は必ず能力獲得が行われ、召喚の目的にあった能力が与えられるが、召喚に耐えられる強靭な魂を持っている必要があり、耐えられない場合は召喚に失敗するとのことだった。
今回の件ではこの召喚の際の能力獲得が問題であった。能力獲得では一度元の肉体が滅び、この世界に合うように肉体を再構成されるのだが、この際に大量のエネルギーを取り込むことになるのだ。
召喚には様々な条件を提示したうえで三十人以上の召喚術師が協力して七日かけた儀式を行う必要があり、それだけのことをしても、成功率は一%未満である。そのうえ、同じ人物が召喚を行うには長いインターバルが必要となる。
しかし、インターバルが長ければ長いほど条件の絞り込みを行うことができ、目的に合った人物が召喚できるらしい。とはいえ、成功率が低いことには変わりなく、召喚術師が現役の間にインターバルが明けるとは限らないため、目的の打開策として召喚を行うメリットが低いことには変わりない。
では、策として成り立たせるにはどうすればいいのか。
問題点は成功率の低さとインターバルである。
成功率に関してはどうにもならない。召喚術師が何らかのリスクを負えば上昇する可能性もあるのかもしれないが、長いインターバルが明ければ再度召喚に臨めるし、命の危険を伴いかねない検証を行うことはできなかった。召喚に失敗したことで召喚者が魂の崩壊を起こしてしまうことはいいのかという疑問は残るが、そもそも無理やり呼びつけていることだし召喚者の事情など知ったことではないのだろう。
インターバルに関してはどうなのか。こちらはあっさりと決着がついた。条件の提示をしなければよかったのだ。目的に合った人物の召喚ができる可能性が低くなったが、代わりにインターバルがぐっと短くなり、同じ人物が召喚を行うことが容易になった。成功率こそ変わらなかったものの試行回数が稼げるようになったため召喚者の数は増え、召喚成功時には能力獲得が行われることもあって、召喚者の何人かは戦力補充を主として何かしらの問題解決に充てることができていた。
ただし、召喚者を問題解決に充てることのできない場合も存在した。それは召喚者が子供であった場合である。
子供が召喚にされた場合にも他の召喚者と同じく肉体の再構成は行われ、大量の魔素が取り込まれる。しかし、子供の不完全な肉体では能力獲得が行われず、取り込まれた魔素の行き場がなくなってしまうのだ。
そして、そのうちに行き場のなくなった魔素によって自身の体が焼き尽くされてしまうらしい。その期間はこれまでの観測では最長で五年。肉体の崩壊を防ぐ手段は見つかっておらず、召喚に関与した各国も匙を投げている状態である。そのためユウキが子供たちの引渡を求めた際にはあっさりと応じたようだった。
「にしても、ユウキはいいやつだよな。自由組合を発展させたときにランク制度作って安全性高めてるし、不完全な召喚をされた子供たちのことで尽力してるみたいだし」
「…………そうだね、きっとユウキはいい人なんだよ」
「どうした? 体調でも悪いのか?」
「いや、なんでもないよ。それよりも、対外的な姿として、もう少し身長伸ばさない? また子供扱いされてたし」
テクトとリムルは雑談をしながら教室へ向かう。ドアの前に立ち、取っ手に手をかけたタイミングで警告が来た。
《告。魔素の高まりを検知しました》
(魔素? なんでだ?)
(うわぁ、面倒くさいことになってるなぁ)
事態を何となく察したテクトはさりげなくリムルを先行させたのに対し、リムルは疑問を抱きつつも無警戒にドアを開け放った。
「ち──っす! 今日から、君達の担任に」
リムルの挨拶に帰ってきたのは炎の剣撃。リムルがとっさにかわすと斬撃はその背後にあった黒板に命中し、そのまま黒板が真っ二つになった。
子供たちはリムルを心配することなく、剣撃をほめるもの、当たらなかったことを責めるものと、誰もが敵意をむき出しにしていた。
(おいおいおい、余命僅かじゃないのかよ。どう考えても有り余るエネルギーに任せて大暴れしてるじゃねぇか!)
(なかなかの火力。さすが「爆炎の支配者」が育てただけはあるね)
(感心してる場合か! 学級崩壊してるじゃねぇか! ……ここって異世界だし、教師の暴力で問題になったりしないよな?)
(やめなさい)
念話で言葉を交わしながら教卓で並び、生徒たちを観察する。
ゲイル・ギブスン・男・十一歳
アリス・ロンド・女・九歳
クロエ・オベール・女・十歳
不完全な召喚をされ、ユウキが各国から引き取った子供たちの敵意に満ちた視線を受けて、テクトとリムルは憂鬱そうにため息をこぼした。
リムルが職員室で受け取った資料を眺めながら生徒たちの名前を呼んでいくも、誰一人返事をすることはなかった。これを問題視したリムルがランガを差し向けるとその巨躯と威圧感に負け、おびえながらも返事をした。
「俺は今日からお前たちの教導官となったリムルだ。俺はシズさんのように優しくないので、そのつもりでいるように!」
「私はテクト。リムルとともに君たちの教導官として君達の指導に当たることになりました。どうぞよろしく」
二人が自己紹介をするとおとなしく聞いていたものの、敵意に満ちた目は変わらなかった。これまでに受けた仕打ちが原因となって他人への恨みは強いらしく、信用を得るのは容易ではないと感じられた。
「よし、それだはみんな言いたいことはあるようだし、今からテストをしようか」
リムルの言葉に生徒たちは非難囂々となった。それぞれ否定の仕方も個性的であり、その反応の違いをテクトとリムルは楽しんでいた。
しかし、子供たちのことを考えると必要なことであるため、内容を説明し、やや強引に話を進める。
テストの内容はテクトかリムルを相手に十分間の模擬戦を行い、その間に倒すことができれば子供たちの勝ちというものである。内容を聞いた子供たちは自信満々で倒す宣言をするものいまだに文句を言うものなど様々な反応を示したが、負けると考えていないのか素直に運動場へと移動していった。
(そういえば、俺たちはどうする? 子供たちに二回やらせるか?)
(いや、二回させるのも面倒だし、二:三で分けようか。じゃんけんで勝った方が二人ってことで)
その後子供たちが順番を決めるのを尻目に思考加速や感知能力による拳の握り方の観察、心理戦まで行う無駄に能力を活用したじゃんけんが行われ、リムルが先に二人相手にし、その後にテクトが三人を相手にすることになった。
そうこうしているうちに子供たちの順番も決まり、一番手はケンヤが進み出る。表情からもやる気は十分であることがうかがえた。
「おい、この剣は使っていいのか?」
「言っただろ、全力でこい。それと、負けたらきちんと敬語使えよ?」
「ふん! 大人でも俺たちにはかなわないんだ! シズ先生以外には負けたことなんてないんだからな!」
そうして試合が始まった。
ケンヤの動きは大人顔負けのものだったが声援にこたえようと力んでしまい、あっさりとリムルにかわされる。残り時間が半分を切ったあたりから泣きそうになりながら炎を撃ち始めるが、シズの使っていた技法を見よう見まねで行っているからか威力が弱くなってしまっていた。見かねたリムルが単純にエネルギーだけを籠めて打つようにアドバイスするも、意固地になったケンヤは聞く耳を持たず、そのまま十分が経過しリムルの勝利となった。
しょんぼりと肩を落としたケンヤに代わり前に出たのはクロエ。強そうには見えない彼女だったが、開始の合図と同時に魔法を発動し、リムルを水球の中へと閉じ込めた。
「その魔法は捕らえたものへと水の刃を降り注がせることができるの。負けを認めるなら解除するけど、認めないなら死んじゃうよ?」
(幼いくせに、恐ろしい子!)
(言ってることがえぐいなぁ。まぁ、リムルなら大丈夫だろうけど)
リムルは「魔力操作」によってクロエの魔法に干渉し、水の牢獄から無傷で出てきた。魔法をほめながら頭をなでるリムルにクロエは戦意喪失となり、リムルの勝利となった。
なでられた頭を押さえて嬉しそうにするクロエに代わり、前に出るのはゲイル。対戦相手もリムルから代わりテクトとなった。
「死んでも恨まないで下さいね」
ゲイルは先ほど二人が負けたことでテクト達への評価を改めたのか、小細工も躊躇もない本気の一撃を放った。が、しかし
「
「こっちに飛ばすなよ! ったく「暴食者」!」
強力な魔力弾ではあったが、テクトは「魔力付与」によって魔力への抵抗力を強めた糸ではじき、リムルへと流す。ちなみにリムルへと攻撃を流したのは嫌がらせなどではない。魔力弾の威力が大きかったため「捕獲者」では回収しきれず、かと言ってあらぬ方向へはじけば建物や結界に何かしらの被害が出ることが予測されたため一番安全な処理方法を選択しただけである。
「なんですかそれ⁉ 汚い!」
「フハハハハハ! 好きにいうがよい! どんな汚い手を使おうとも、最終的に勝てばよかろうなのだ! (そうだよね! 汚いよね! でもごめんね。ここは余裕を見せなきゃいけない場面だと思うんだ)」
テクトは心の中で謝りつつゲイルに勝利こそすべてと宣言する。ゲイルは悔しそうに唇をかみしめ拳に魔力を集中させて殴り掛かるもそのことごとくをかわされ、テクトの勝利となった。
最初からテクトを侮らずに全力で向かって言った分、先の二人よりも悔しそうにしながら下がるゲイルに代わり、リョウタが前に出る。テクトがリョウタの気弱そうな姿にどう戦うのかと考えているとケンヤの声援に反応して目の色を変えて向かってきた。
(「身体強化」? いや、動きが直線的過ぎるし、フェイントをかける様子もない。正しく表すなら「
リョウタの能力を考察しながら十分回避を繰り返し、テクトの勝利で決着がついた。
十分間ペース配分なく動き続け、ぐったりとした様子のリョウタに代わり、最後の一人であるアリスが進み出る。
「ようやく私の番が回ってきたわね! ふがいないアンタたちは、私の活躍を見ていなさい!」
自信満々に宣言するアリスを見て、テクトは彼女を納得させることが絶対条件であることを察すると気を引き締めて相手をすることにした。
アリスは合図を受けて背負っていたぬいぐるみを空に投げた。
「行け―みんな! あんな奴やっつけちゃえ!」
そしてアリスの叫ぶのに応じて動き出し、テクトに攻撃を仕掛け始めた。犬や鳥、熊のぬいぐるみが見た目に似合わぬ思い一撃をもってテクトを攻撃するのにテクトも対応することにした。
「なるほど、
テクトがそういいながら取り出したのはあみぐるみだった。テクトの指揮に従いリムルやベニマルを模したあみぐるみがアリスのぬいぐるみに対抗する。本来柔らかいものである物体である者同士がぶつかり合ったとは思えないような衝撃が発生しつつ十分が経過し、テクトが勝利した。
かくして、テクトたちと子供たちの勝負は終結した。
テクトたちは子供たちの身を亡ぼすほどのエネルギーを少しでも消費させて崩壊のリスクを回避することができればと考えていたが、その目論見は瓦解した。エネルギーに関しては上澄みを消費しているだけで元になっている部分には変化がなかったのである。とはいえ、全く意味がないというわけではなく、多少なりと崩壊までの時間を引き延ばすことができるようなので、対処療法ではあるが定期的に全力を出させることにした。
そして教室に戻ると、子供たちは最初とは違い話を聞く態勢になっていた。
「さて、今お前たちが体験した通り、俺たちは強い」
「その私たちが君たちに約束しよう。君たちを助けて見せると」
「「この仮面に誓って」」
テクト達は子供たちが話を聞く態度からひとまず一定の信用を得られたことに安堵しつつ宣言する。
「その仮面って……シズ先生の?」
ぽつりとアリスが尋ねる。
「ああ、シズさんに託された。これを受け取った時にお前たちのことも託されたのだと思ってる」
リムルの言葉を聞き、アリスは満足げにうなずき、信頼を口にする。それに追従するようにほかの四人も信頼すると告げる。
「いいか、絶対に助けてやる。だから、お前たちは俺を信じていい子になるんだぞ」
「私たちは君達のことを絶対に見捨てない。シズさんの思いは決して無駄にはしない」
「「「「「よろしくお願いします。先生!」」」」」
テクト達は子供たちの言葉を受け、改めて彼らを助けることを誓うのだった。
その夜。
リムルにあてがわれた部屋で今後のことについて話していた。
「それで、気づいたことって?」
「シズさんの仮面を見てて思いだしたんだが、シズさんが召喚されたのも十歳に満たないころだったはずなんだよ。つまり、シズさんが生き残ってたことがあいつらを救うヒントになるはずなんだ」
テクトの問いにリムルが難しそうにしながら答える。
「子供たちとシズさんの相違点がわかれば」
「あいつらを助けられるはずだ」
子供たちとシズの相違点。
まず挙がったのはリムルの持っている仮面である。が、これはすぐに違うと気付いた。なぜならこの仮面は勇者から受け取ったものであり、そのころには五年以上経過していると思われるからだ。
次に挙がったのは魔王に接触していること。しかしこれも違うと気付く。召喚の儀式については大きな相違点があるとは思えなかったからだ。
解決策がなく暗礁に乗り上げるかと思われたとき、テクトがふとつぶやく。
「イフリート……」
「イフリートがどうかしたのか? 話を聞くことはできなそうだが」
「違う。そうじゃない。精霊だ。シズさんとあの子たちの相違点。魔王レオン・クロムウェルがシズさんに何をしたか。召喚直後に適性がありそうだってイフリートを宿らせたって話だっただろ。ユニークスキルのないシズさんの体が、せっかく手に入れた肉体が崩壊していく状態ならそれを回避するために憑依した精霊自体が何かしているはず」
「そうか! なら、精霊に接触することができれば!」
「子供たちの体の崩壊を回避できるかもしれない!」
リムルの顔に希望が見え、目が輝く。ガワが人形であるテクトは表情の変化だけだが、それでも子供たちを助ける道が示されたことで希望に満ちていた。
その後、「大賢者」と「無不知」による精査で解決策として十分な根拠となりえることが示され、精霊との接触を目標に行動することとして解散した。
「ほう、イングラシア王国か。一度話を聞きたかったところだし、ちょうどいいな。…………しかし、まずは落ち着いてきて寝に入ったあいつを起こすところからか。こっちから起こすと寝起きが面倒なんだが、仕方ないか」
次回「孤独と虚飾」
あみぐるみ:素体の体形は同じであり、大きさが違う程度。服装や髪などで差別化している。素材の伸縮性が高いため関節を曲げられる。「捕獲者」で糸を使って操作する。
リムル:やや小さめ。服装は簡素なため作るのは楽。
ベニマル:大きめ。角の作成が難しい。
シオン:大きめ。角が作りやすい。ほかのあみぐるみと体形が同じなのでコウカもにっこり。
ソウエイ:分身体含め六体存在している。本体のみ編み方に違いがあるらしいが、区別がつくものの方が圧倒的に少ない。
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SAO正式サービス開始日が近くなったあたりで手を伸ばしそうになりましたが、本格的に執筆に入る前に振り切りました。
頑張ってこちらを投稿していこうと思います。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい