リテイクを重ねた結果サブタイトルも変わっていますが、お楽しみいただければ幸いです。
子供たちを救うことを改めて誓って一ヶ月。
テクトとリムルは子供たちを救うため精霊についての情報を探していた。
この日、リムルは
「さて、ここまでは分かったかな?」
「ここまでは問題ないけどさ、テクト先生。リムル先生は?」
「今日は休み。だから、戦闘訓練も含めて私がやるからね」
テクトがケンヤの質問に答えると、ケンヤ・リョウタ・クロエは苦々しい顔になった。
別にテクトの訓練が特別厳しいわけではない。ただ、テクトの対応が問題だった。端的にいえば、テクトは手加減が下手なのだ。もちろん怪我をさせないように気をつけているし、実際に大きな怪我もしていないのだが、それでも圧倒的な差を見せつけられるのは、生徒達にとってもつらいものだった。ついでに言えば漫画というご褒美がないのも理由である。
普段から冷静なゲイルも露骨に表情を変えるほどではなかったが意気消沈しているのがわかる。
「フン! 沈んじゃって情けないわね! この際テクトを「アリス」……先生を倒してやるくらいの姿勢を見せなさいよ!」
だが、アリスは違った。本人の負けん気からか、休みの日にもテクトのもとに来て最初のテストで使っていた人形のことで質問したり、人形関係なしに遊んだりするくらいには苦手意識が低かった。
代わりに生意気さには拍車がかかっているし、時折テクトのことを呼び捨てにしてしまうことがあった。とはいえ、これを厳しく注意することなく、授業中やほかの先生の目があるときに気を付けるように言う程度に済ませていたテクトにも問題はあったのだが。
座学の時間が終わり、戦闘訓練の時間がやってくる。
結局のところテクトの圧勝で終わり、生徒たちがうなだれる結果となった。沈んだ様子を見せる子供たちを見て、テクトはこの日は元々リムルが訓練を行う予定であり、漫画がモチベーションの大きな要素となっていることを理解していたため少しはご褒美を用意しようかと考えた。
「もぉ、しょうがないなぁ。今日は終わったらカフェにでも行こうか」
「「「ほんと⁉」」」
テクトとリムルは生徒たちと賑やかに騒がしく過ごしていった。
その夜。
リムルの部屋でこの日の情報収集の結果について話していた。
「じゃぁ、結局情報は手に入らなかったんだ」
「ああ、悪いな。ハクロウもしらなかったし、トレイニーさんも今は精霊女王とやらには会えないらしい」
「謝ることはないよ。もしかしたらどこかから情報が入るかもしれないし、情報収集は続けていこう」
「そういえば、あいつらにケーキおごってたらしいけど、お前人前でもの食えないだろ? どうしたんだよ」
「事情があって固形物が食べられないことにしてるからその場では食べれなかったけど、リムルのお土産ってことにして買った分からいくらか拝借したからケーキは食べたよ。まぁ、こういう時に遠慮なく食べるために人間の体が欲しいけどね」
テクトはリムルに土産のケーキを渡しつつ、自分の現状に不満を漏らす。子供たちが嬉しそうにケーキを食べているのを見て満足はしていても、自身が何も食べられないまま日中を過ごしていることは不満であるようだ。
補足すると、人形を使用しているときは何も食べられないわけではない。ただ、咀嚼を行う際に汚れが繊維の隙間に入り込み不衛生になりかねないため食べていないだけである。
その後、テクトはケーキをほおばるリムルと別れ、翌日の授業のことを考えながら床についた。
テクトとリムルが学園で子供たちの訓練にいそしんでいたころ。
銀髪の少女が赤髪の青年に詰め寄っていた。
「それで? ようやく落ち着いて眠ったところだったのに急に起こすなんて、どういう了見なのかしら?」
「まぁ、そう怒るな。お前の気にしているヴェルドラに関して話を聞けるかもしれないんだぞ」
「どういうこと?」
「ジュラの大森林につけていた監視によると、現在例の魔物がイングラシア王国に滞在しているらしい。ろくな護衛もつけずにな。ヴェルドラの消滅とそう日をあけずに現れたイレギュラーな魔物。本来危険を伴う名付けをあろうことかミリムにも行う破天荒さ。何かあるような気がしないか?」
「何をしようというのかしら」
「なに、大したことではないさ。ただ、ミリムが気に入ったのがどんな奴なのか、あいつのダチとして気になるだけだ」
テクト達はこの日、郊外でのピクニックに赴いていた。
道中に勇者マサユキの話が出たり、周囲の反応からテクトとリムルの冒険者ランクがB+に昇進したことでの変化を実感しつつ目的地へとたどり着いた。
冒険者ランクは、リムルが以前ブルムンド王国への道中で案内を任せたカバル達が迷う原因となった幻妖花の納品依頼が出ていたのでそれを大量納品、テクトは「過食」のストック確保のため休日に行っていた狩りでの討伐証明部位の提出により昇進している。
余談だが、テクトの狩った魔物がほかの冒険者が追っていた魔物であり、「
目的地となっていた草原は観察するものが少なく、周囲への影響が出にくいため、子供たちが全力を出しても対処が容易であるため、訓練には最適だった。
そうして子供たちが全力を出し切り、リムルが勝利宣言をするのを尻目に食事の準備をしていたテクトだったが、食事の予定は延期となった。
《告。高密度の魔素量が接近中。
「天空竜ってなんだったっけ?」
「特A級の魔物だったはず。
「そんなにのんきにしてる場合かよ! 早く逃げたほうがいいって!」
リムルの疑問にテクトが答える際の気の抜けた態度に子供たちが焦り始める。だが、
「どっちが行く?」
「飛べるリムルが行ってくればいいんじゃないかな? みんなに実力をはっきり示す機会だし、メインで訓練つけてるリムルのほうがよさそうだけど」
テクトの言葉を聞き、リムルが討伐を宣言すると子供たちからは心配する声が上がる。自分たちを圧倒できる力があるといっても巨大な竜を相手にできるとは思えなかったのだろう。
「大丈夫だって。勝てない相手に向かっていくほど馬鹿じゃねーよ。テクト、ランガ、こいつらは任せたぞ」
子供たちの声に心配しないように告げ、変装のために体を大きく作り直し、着替えて飛んでいく。
「そう心配そうにしないの。すぐにかえって──!」
不安そうな顔をする子供たちに安心するように声をかけようとしたテクトはその言葉を切り上げ、天空竜の飛んできた方向へと視線を送った。
「どうかしたの? テクト先生?」
「ああ、ちょっとね。フェル、ランガと一緒に子供たちのことを頼む。リムルが先に帰ってきたら、手狭になるけどリムルの影に入れてもらって」
「承知しました」
「ちょっと、先生! って、消えた⁉」
テクトは子供の声にろくに反応することなく、影に潜むフェルに子供たちのことを任せ走り出す。視線の先に急ぐため一度人形を脱ぎ、アラクネへと姿を変える。その際に子供たちに見えないよう「隠蔽者」で姿を隠したため正体がばれることはなく済んだ。
テクトが視線を向けていた先に急ぐとその先には侍従の服を着た青い髪の女性と緑色の髪の女性が待っていた。
「私はミザリー。こちらはレインと申します」
「テクト・D・テンペスト様ですね。わが主、魔王ギィ・クリムゾン様より、貴方様をお連れするように仰せつかりました」
「ただし、御同行いただくかはご自由にしていただいて構わないとのことです。いかがいたしますか」
緑色の髪の女性が「ミザリー」と名乗り、青色の髪の女性を「レイン」と紹介する。
彼女たちからの提案は耳を疑うものだった。早い話が魔王から本拠地に呼ばれているということだ。
(「D」を付けたってことはミリムと親交の厚い魔王ってことか。やっぱり口止めしとけばよかったな。それにこの二人も相当強い。ミリムみたいに測定不能って程でもないけどカリオンぐらいはありそうだ)
「行かなかったら、どうなるんです?」
「特に何も。先ほども言ったように判断は貴方様にゆだねられております。御同行いただけなかったからといって、何かしらの報復行動をとるようにとの指示は存在しません」
「ご用件は?」
「わが主から私共への情報の開示はされておりません」
「人数等の制限は?」
「ございません。一度自国に帰り、軍を引き連れてきていただいてもかまいません」
テクトがさまざまな想定をしつつ質問していくとミザリーが返答する。テクトは少しの間瞑目し、口を開く。
「わかりました。同行させていただきます」
「では、こちらへどうぞ。わが主の居城へとご案内いたします」
ミザリーが恭しく御辞儀をすると、その背後に門が現れた。
テクトは自身の魔法を思い返し一瞬身構えるも、その門から空間属性の気配を感じ取り、転移用の門であることを察して緊張を解く。無害であることを示すように先に門をくぐるレインに続き、門をくぐる。テクトは人形を纏いなおすことを考えたが、ミリムが特に気にしていなかったこと、いざというときのことを考えそのまま向かうことにした。
一瞬の暗転の後、周囲の認識を改めると、そこは氷の大地であった。
テクトは先導するミザリーに続き、城の中を歩いていくと大きな扉の前にたどり着いた。
「テクト・D・テンペスト様をお連れいたしました」
ミザリーの声に反応し、扉が開く。
内部では多数の魔物が並んで花道を作っており、その先では赤い髪の青年が玉座に座っており、その傍らに銀髪の少女が立っていた。
「ようこそ、白氷宮へ。歓迎するぞ、テクト・D・テンペスト。俺はギィ・クリムゾン。魔王だ」
その男はいつの日かミリムがしたような言葉で名乗りを上げた。
場所を玉座の間から移動しテラスのような場所に移動した。机にはテクト、ギィ、銀髪の少女が座り、ギィの後ろにはミザリーとレインが控えている。
「さて、なぜこの場に呼ばれているのかは理解しているか?」
テクトがギィを観察していると、あちらから話かけてきた。
「ミリムの件でしょうか?」
テクトは心当たりを口に出す。しかし、返答はテクトの予想だにしなかったことだった。
「いや。お前のことはミリムからよく聞いている。今更聞くようなことではないな。俺たちが聞きたいのはヴェルドラのことだ」
「……なんのことでしょうか?」
テクトは動揺を見せないようにしながら言葉を返す。
「そういうな。お前たちがヴェルドラと通じていることは分かっている」
が、すでに確信を持っていたギィには通じない。そして、聞こうと考えた理由を話し始めた。
「それに、聞きたい理由は単なる興味だけではない。こいつの名はヴェルザード。白氷竜と呼ばれる竜種の一体だ。言ってしまえばヴェルドラの姉ってとこだな。家族の無事を伝えてやるのも、知っているものがするべきこと、だろう?」
テクトがギィの言葉に反応し、ヴェルザードと呼ばれた少女に視線を向けると、ヴェルザードはにこりと微笑み首肯する。ギィからの無言の圧力とヴェルザードの反応に一応の納得をしたテクトはヴェルドラとの関係について話すことにした。
生まれてすぐにヴェルドラ、リムルと出会い、リムル考案の「テクト」という名前と「テンペスト」の共通名をつけてもらったこと、現在はリムルにより「無限牢獄」ごと隔離されており、三名共同で結界の解析を行っていること、復活は当分先になることを話した。
「そう、じゃぁ、あの子の気配が消えたまま復活の気配もないのは、そういうことなのね」
ヴェルザードが安心したように息をつき、それを見たギィもまた雰囲気を和らげる。
その様子を見てテクトは話が終わったと考えていた。
だが、その考えは間違いであった。ギィたちにはここまでのテクトを見て別の目的が生まれていたのだ。
ギィ・クリムゾンにとってミリムは気に掛けるべき存在である。
最古の魔王として昔からの付き合いであるというだけでなく友人の娘である彼女の交友関係を気にしていた。
ヴェルザードにとってもミリムは気にかかる存在である。
ヴェルザードもギィ同様にミリムが生まれたころから知っており、その性格もよく把握している。本人の考えが浅いというわけではないが、悪意を持ったものから利用されかねない彼女のことを気にかけていた。
だからこそ、気に入らなかった。
ミリムの心に入り込んでいた目の前の「人形」が。
貼り付けた表情は二人を不快にするには十分すぎた。
ギィはテクトの本心を確かめることにした。
自身の持つ権能を用い、精神的に揺さぶりをかけてテクトから本音を引き出そうとするも反応がない。
(精神への干渉に対する耐性が高いんだろうな。仕方ない。制圧するのは骨が折れそうだが、自力でやってみるしかないな)
テクトの反応からあたりをつけ、方針を変更し、権能を介さず自力で聞き出すことにした。権能による外部からの干渉はできないため、揺さぶりの度合いの制御ができないという問題はあるものの、それで壊れるならそれまでと考え、ギィはテクトの心根へ踏み込んでいく。
「テクト・テンペスト。お前は何をそんなに不安がっている?」
「…………なんのことでしょうか?」
ギィの問いにテクトの表情がわずかに強張る。その変化は傍から見ればろくに変化していないように見えるものだが、長くを生きた二人には分かりやすいものだった。
「まさか自覚がないわけでもあるまい。一体何を隠しているんだか」
「
「何も感じていないと? そんなごまかしが通じる相手だと思っているのか?」
「
明らかにテクトの語調が弱まったのに手ごたえを感じ、ギィはさらに詰め寄っていく。
「いいや、お前は明らかに恐れている」
「
「何が不安だ? 何が不満だ?」
「
「仲間か? そういえば配下の魔物を取り仕切っているのはスライムのほうだったな」
「
「お前も頼られているのだろう。なぜそこまで周りを見ない」
「
「そんなことでは見放されるだけだぞ」
「菫コ縺後%縺薙↓縺?■繧?ア?¢縺ェ縺?%縺ィ縺舌i縺?o縺九▲縺ヲ縺?k」
《確認しました。ユニークスキル
テクトの不可解な言葉とともに世界の声が響き、新たな権能の獲得を告げる。
テクトの体から魔素があふれ、テーブルの周囲を覆いつくす。その中にギィとヴェルザードは抵抗することなく巻き込まれた。
「ギィ様⁉」
心配して声をかけるミザリーにギィは答えない。茫然自失となった三人に動揺しつつ、魔素の奔流に騒ぐギィの配下を鎮めるためにレインにその場を任せミザリーは部屋を後にした。
ギィとヴェルザードはテクトのスキルの影響下にいた。
二人はろくに先を知覚もできない暗黒の世界を揺蕩っていた。
「さて、どうしたものかね」
寂寥感と疎外感に覆われた世界でギィはひとりごちた。
「まるで黒い雪でできた猛吹雪の中にいるみたいね」
ヴェルザードは周囲からの干渉に辟易したようにつぶやく。
しばらく何もせずに暗闇に身を任せていた二人だったが、焦れたようにヴェルザードがギィに質問する。
「ねぇ、ギィ? あなたが目配せしてきたから、特に何もせずに身を任せていたわけだけど、これってどうやって戻るのかしら?」
「あ? そうだな……この状態はテクトの精神不安が原因だろうし、本人に接触して立て直すしかないだろうな」
「……なら、早くあの子を探しましょう。あまりここにはいたくないわ」
ギィの回答にヴェルザードが解決を急ぐように動き出した。が、すぐに立ち止まる。先の見えない暗闇に苦戦しているのだ。広範囲攻撃で闇を払うことも考えたが、テクトにどのような影響があるかわからないため断念した。
しばらくして、方針を決めかね歯噛みするヴェルザードをよそに、ギィがまっすぐに歩き出す。その足取りに迷いがないことを見て取ったヴェルザードはギィについていくことにした。
数分か、数十分か少なくとも、もと居た部屋ではありえない距離を歩き続けていると、暗闇の中ではひときわ目立つ白い物体が見つかった。
「どうしてここだと分かったの?」
「別にここだと確信があったわけじゃない。ただ、進んだ方向がわずかに影響の濃い状態だったから、いるとすればその方向じゃないかとあたりを付けただけだ」
ギィからの返答は簡単なものだった。影響を及ぼしているのがテクトであると考えればすぐにわかりそうなことであるためヴェルザードは閉口するが、ギィはそれを脇に置いておくことにした。
「さて、あとはこいつを起こしてこの世界を何とかしてもらうわけだが……スキルで精神に干渉できないわけだし、どうしたものかね」
たどり着いたはいいものの、テクトの耐性により自身の権能では解決できないこと考え、思考を巡らせていると、ヴェルザードがテクトに近づいて行った。
確信があったからだ、自身とテクトが似ていることに。
ヴェルザードが白い塊のそばに膝をつき、それを抱える。
泣く子をあやすようにやさしく抱きながら、わずかに言葉を紡ぐ。
何を言ったのかギィには聞き取れず、ヴェルザードが背を向けていたため口の動きからうかがい知ることもなかったが、テクトの存在を肯定する言葉だったことは予測できた。結果として、その言葉が引き金となり暗黒の世界が崩れていく。
ふと気づけば闇に飲まれる前と同じ立ち位置に戻っており、相違点といえば退出したミザリーと本来の姿である白い蜘蛛となったテクトであった。
ヴェルザードがテクトに近寄り、気づかわし気になでるのを見ながら、ギィは騒ぎ立てる配下をどうなだめようかと考えを巡らせるのだった。
次回「共感と大龍巻」
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次回はそんなに期間を開けずに投稿出来る・・・・・・はず
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい