転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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25話:共感と大龍巻

 白織拓磨にとって、自身はこの世界にとって異分子である。

 

 彼は原作世界にとって異物であることに加え、彼自身のこの世界についての知識は通販サイトでのオススメでみたフィギュアの画像や動画配信サイトでの広告でのわずかな映像程度であり、ないに等しいものだった。

 

 それゆえ、テクト・テンペストは恐怖した。

 

 自身の存在が原作を大きくゆがめ、将来迎えるであろう結末を台無しにしてしまうのではないかと考えた。

 

 だからこそ、「好きに生きよう」などと考えながらも「私」という一人称のままで通し、無意識のうちに自分らしくあることを隠した。意識的に行っていたわけではないため完全に自身を断てていたわけではないものの、大きく動こうとはしていなかった。

 

 その最たる例がシズの一件だろう。サラマンダーに使った深淵魔法は確かにイフリートと同化していたシズ本人にも影響を与えかねないものだった。

 

 だが、耐火を付与した糸や「静止の邪眼」のような物理的な干渉を行うことによる援護はできた。それをしなかったのは解決する事象であることを知る以上に、自分の影響で原作が狂うことを恐れた故、動くことができなかったのである。

 

 豚頭帝(オークロード)の件で蜥蜴人族(リザードマン)の族長に会いに行ったのも、リムルに語った理由以上に豚頭族(オーク)の本隊と自身がぶつかるのを避けるためという無意識下の抵抗があった。

 

 

 

 とはいえ、その存在がもたらす影響を完全に消すことなどできはしない。

 

 原作絡みで大きなところでいえばコウカとスイレンだ。

 

 この二人はヴェルドラがリムルの胃袋に入ってからテクトとリムルが洞窟から脱出するまでの数十日の間、魔素を垂れ流しにしていたために、それを警戒して豚頭帝が護衛を原作以上に置いていたため、その分襲撃に参加する個体が減ることとなり、二人がシュナ達とともに生き残っている。

 

 

 

 テクトがろくに休みを取らずに仕事をしていたのも不安だったからだ。

 

 多くの仕事を抱え、欠くことのできない存在になることで、自身が必要な存在であるのだと信じたかったのだ。

 

 そのため、配下の魔物が仕事を覚え、任せられるようになるのに怖がっていたし、獣王国ユーラザニアへの使者にも名乗りを上げた。使者の件もベニマルが進言し、ベニマル自身も使節団から降りることでテクトの中での優先度が下がらなければ続けていたのかもしれない。

 

 

 

 テクト・テンペストは自身が一人だと常にどこかで考えている。

 

 だからこそ、ミリムの抱えているものに気付き、彼女なら共感性を得られるのではないかと考えた。

 

 ミリムに本来ならありえない名付けを行うことは明らかに原作をゆがめる行為だったが、この時のテクトはある意味で限界に達していた。

 

 介入を避けるためにつながりをリムルに託していくが故に感じる孤独と、配下に仕事を任せることになり居場所を奪われていくような焦燥感に、テクトの精神は耐えかねていたのだ。

 

 ミリムには語らなかった「D」のに込めた意味の一つ、「Distraction」。まぎらわせたかったのはミリムの孤独だけではなく、テクトのものでもあった。

 

 

 

 テクト・D・テンペストは苦しんでいる。

 

 自身がいなくとも世界が正常に進むことを知るが故の孤独感と主人公ゆえに目を見張る速度で強くなるリムルに対する嫉妬がないまぜになり、それを誰にも共有できないために心の澱はたまっていく一方だった。

 

 

 

 そしてそれらは、ヴェルザードにも言えることだった。

 

 ギィのことは兄が任せた世界の調停者として認めてはいるが、家族のように想うことのできる相手ではなかった。

 

 兄はすでに死亡しておりおらず、弟であるヴェルドラは勝手気ままに動いて最終的には封印を施された。妹に至っては敵対勢力に属しているため、家族といえる相手は皆無のまま長くを過ごしていた。

 

 妹に関しては彼女自身の選択の結果だ。妹がギィに相対している人間に惚れ込みその人間についたために、調停者の周囲の戦力バランスを傾けすぎないため、ギィが居城と据えた場所に住むことを選択したのだ。

 

 そうして孤独を感じているからこそ、テクトの抱える感情の出どころは理解できなくとも、その心の澱を感じ取ることができた。

 

 それゆえに、「虚飾者(ヴェイングローリー)」による世界の中で見つけたテクトに声をかけることができた。

 

 テクトの存在を肯定できた。

 

 一人でも自身を肯定してくれることがどれだけ救いになったかは語るまでもないだろう。

 

 

 

 テクトの世界からギィとヴェルザードが帰還してからしばらくが経ち、ギィとミザリーの精神の疲労と引き換えに配下の者たちが一旦の落ち着きを見せたころ、テクトは目覚めることとなった。

 

(……ここは?)

 

「よぉ、目が覚めたか?」

 

 長くを生き、あまり感情を波立たせることのないギィにしては珍しく苛立ちの感情をあらわにした声でテクトに語り掛ける。

 

 それはテクトからすれば頭が底冷えするような声であった。一言で現状の理解に頭が回り、現在の絶望的な状況に恐怖する。

 

『こ、この度は誠にご迷惑をおかけしたようで…』

 

「あぁ、全くだ。これでミリムのやつがお前のことを気に入っていなければ、そのまま目覚めることはなかっただろうな」

 

 ミリムが発端ではあるものの、ミリムの存在によって生存したことに感謝するべきか悩みながら、どうすれば自分一人で片を付けて怒りをおさめてもらえるのかと思案する。

 

 今回の件は自身の抱えていたものが爆発した結果でもあるため、魔国連邦に何か賠償を求められるのは避けたかった。

 

「よかった。意識が戻ったようで何よりだわ」

 

 しかし、その思案は上から声がかかることで中断される。目覚めてからずっとそうであったため気が付かなかったが、テクトはヴェルザードに抱えられていた。

 

『ヴェ、ヴェルザード⁉』

 

「床にそのまま置いておくのもどうかと思ったのだけど、あら」

 

「……お気遣いどうも、おかげで寒くはなかったよ」

 

 テクトはヴェルザードの話が終わる前に空間転移で抜け出し、素早くアラクネへと戻る。

 

「それで? もう問題はないんだろうな?」

 

「おかげさまでね。完全にとはいかないまでも、だいぶ吹っ切れたよ」

 

 先ほどとは打って変わって穏やかな口調で尋ねるギィに、テクトは同じく穏やかに返す。その表情は晴れやかであり、言葉通りであると感じさせた。

 

 が、

 

「そうか、ならあとは俺が負った心労の話をするとするか」

 

 再びギィの声の質が怒りをはらんだものとなりテクトの体は凍り付いた。

 

「え、えぇ~と、その、できれば俺一人で済ませられる話だといいな~なんて」

 

「お前が意見できる立場だと思うのか?」

 

「思いません」

 

 テクトは「虚飾者」が発動したタイミングの出来事は何となくだが憶えている。ミリムとの共通名の名付けの時のように無差別に魔素をまき散らした。それも他勢力の本拠地でだ。以前エレン達にも怒られたときのように、混乱が起きるのは想像に難くなく、それを治めるのに苦労があったことは容易に想像できた。

 

 何が起きるのかと戦々恐々とするテクトに、ギィはふっと息を吐いて採決を口にした。

 

「まぁ、今回の件は俺がつついた結果だしな。お前だけで済ませられるもので済ませてやるよ」

 

「いったい何を?」

 

「力を示せ。なに、そう難しいことじゃない。俺に客人として招かれるにふさわしい力があると示せばあいつらも納得するさ」

 

 ギィが提案したのは決闘だった。無論命のやり取りというほどではないが、魔物としての信念が弱肉強食であるならばと考えるとテクトにもある程度納得がいった。

 

「そういうことなら、やるよ。それで丸く収まるならな」

 

「よし。さて、相手はどうするか……」

 

 ギィがテクトの対戦相手を考えていると、そこに声がかかった。

 

「ねぇ、それ、私がやってもいいかしら?」

 

「いいんじゃないか? この際ぶつけたいものをぶつければいい」

 

「え…………まじ?」

 

 立候補したのはヴェルザード。ギィは快諾し、近場の広場に空間を繋げて準備を始める。テクトは唖然としたままに整っていく舞台にがっくりと肩を落としながら、ギィの繋げた先へと進んでいった。

 

「一応、あなたの耐性を聞いておこうかしら」

 

「「物理耐性」、「打撃無効」、「自然影響耐性」、「精神影響無効」、「状態異常無効」、「苦痛無効」、「痛覚無効」、「魔力耐性」、「重圧耐性」、「酸耐性」、「腐食耐性」、「気絶耐性」ぐらいかな」

 

「だいぶ充実しているな。問答に切り替えざるを得なかったのは「精神影響無効」が原因か」

 

「なるほどね。なら、打撃でやれば危険は少ない訳ね」

 

「なら、ヴェルザードは打撃のみ。テクトがあきらめるか、一発あてられれば終わりでいいな?」

 

「もうどうにでもなってくれ」

 

「よし。では、このコインが地についたら開始とする」

 

 テクトが投げやりに返すのを肯定とし、ギィは合図をきめてコインを宙へとはじく。

 

 甲高い音とともに打ち上げられたコインが落下をはじめるのを尻目に、油断なくヴェルザードを見ていたテクトの表情は驚愕に彩られた。

 

「そんなに見つめられたら照れちゃうわ」

 

 声が後ろから聞こえてきたからだ。

 

 気付けば正面にヴェルザードの姿はなく、衝撃によって前方へと弾き飛ばされる。耐性のおかげでダメージはないものの、動揺が消えることはなかった。

 

(何が起きた⁉ 転移を使ったにしては痕跡がなさすぎる!)

 

 その後も幾度となく弾き飛ばされつつも、テクトは事態の認識のために思考を巡らせる。

 

 シラヌイの観測によって空間転移の可能性はなくなった。高速で移動している可能性も考えたが、いくら探ってもそのような過程が感じられなかった。

 

(クソ! 全く理解を超えてやがる! 空間転移とも違う! 催眠術だとか、超スピードだとかそんなチャチなもんじゃぁ断じてねぇ……ん? もしかしてこれか?)

 

 心中で毒づき、ネタに走るような思考に流れる。しかし、そこから光明を見出した。

 

「「捕獲者(トラエルモノ)」! 「営巣」開始!」

 

 テクトが手を上げて叫ぶとともに、テクトを中心としてドーム状に糸が張られ「捕獲者」による「巣」が完了する。

 

「へぇ、これでどうするつもりなのかしら」

 

「こうするんだよ。「投てき」!」

 

 ヴェルザードの問いに答えるようにテクトがあげていた手を振り下ろすとともに糸の付近の空間が歪み、そこから武器が現れる。武器の種類は一定でなく、剣や槍、挙句には調理用の包丁まで現れ、降り注ぐ。

 

 が、しかし

 

「あら? 全然当たってないみたいだけど」

 

「そういう目的の行動じゃないんでね」

 

 それらは一つとしてヴェルザードに当たることはなく、周囲の地面に刺さっていくだけであった。

 

「なら、その目的ってものを見せてもらおうかしら」

 

 ヴェルザードが言葉を切ると同時にその場から姿を消し、テクトの右側から蹴りを仕掛ける。これまで通りに命中すると思われた一撃だったが、その一撃はテクトが腕を交差させて差し込むことで防御される。

 

 その直後、地面に刺さっている武器が掻き消え再び射出される。再び刃が降り始めたことに反応して飛びのいたヴェルザードを見て、テクトは確信をもってつぶやく。

 

「成功ってところかな」

 

「へぇ、どうやって私が現れる先を予測したのかしら? 予知能力でもあるの?」

 

「予知能力はないよ。でも、これで確信ができた。ヴェルザード、君は時間を止めることができるんだな」

 

 ヴェルザードがわずかに目を見開き、驚愕をあらわにする。

 

 テクトが武器を出したのは攻撃のためではなかった。武器を投げること自体が目的だったのだ。

 

 地面に刺さった武器の柄頭にあたる部分と「巣」を形作る糸を繋ぐように細く脆い糸を張り付け、某法王の結界のように空間に糸を巡らせた。あとは糸が切れる場所とタイミングのずれを確認してヴェルザードの使用しているのが時間停止能力であることを確信した。

 

 そして、その糸が切れた先にヴェルザードが移動したことがわかるため、死角のない「魔力感知」の情報をもとに防御をしたのだった。

 

 しかし、

 

(さて、あとはどうやって一発を通すかだな)

 

 問題はここである。決着のためにはヴェルザードに一撃入れる必要がある。

 

 しかし、移動した直後に攻撃を置いたとしても命中するかは怪しいところだった。よしんば当たったとしても、条件的にもテクトの心情的にもヴェルザードが回避できない状態できっちり一撃を通す方が納得いきやすい決着のため単なる予測を基にした攻撃というのは避けたかった。

 

 ゆえに、糸による感知、それをもとにした防御、糸の再配置とそれをカムフラージュする武器の投てきを繰り返しながら策を練り始める。

 

(よし、これでいこう。ミリムがいたら絶対できないけど今はいないしな)

 

「防御ばかりじゃ終わらないわよ」

 

「そうかな? 案外簡単に終わりそうだけどね」

 

「ふぅん? 雑な挑発ね。まぁ、いいわ。乗ってあげる」

 

 作戦の実行に際して腹をくくったテクトの挑発に乗る形でヴェルザードが姿を消し、背後に現れ攻撃を繰り出す。その攻撃をテクトは頭部に受け、そしてそのままテクトの頭部は吹き飛んだ。

 

「は?」

 

 その光景にヴェルザードはあっけにとられる。先ほどまで攻撃が命中したとしてもさしたるダメージもなく平気なように動いていたはずのテクトが明らかな重傷を負う様にわかりやすい動揺を示した。

 

(かかった!)

 

 「打撃無効」を無効化し、ダメージを受ければ動揺するだろうことは理解していた。なにせ、事前に耐性について説明をしたうえでこれまでの攻防で問題なしと判断したうえでの攻撃だったのだ。にもかかわらず、大きなダメージが発生すれば動揺は必至だった。

 

 動きの止まったヴェルザードを糸によって拘束し、大鎌を取り出し、そのまま横に構えて振りかぶる。

 

 これから襲い来るであろう刃の感触にヴェルザードが動揺から思わず目を閉じて数拍。何の変化も起きないことに疑問を感じ恐る恐る目を開くと、刃は体からやや手前で止まっていた。

 

『これで十分だろ? ギィ』

 

 テクトが鎌をヴェルザードから引きながらギィに尋ねると。結界がゆっくりと消失する。ヴェルザードは彼女の拘束を解き頭の修復に魔素を集中させ始めたテクトに話しかけた。

 

「事前に示し合わせた条件的には寸止めみたいなことしなくても問題なかったと思うけど? それに私はあれでどうこうなるような身体してないわよ」

 

『不快な気分にさせたのなら謝るけど、個人的な感傷だよ。女の子の肌に不用意に傷をつけるのが嫌ってだけ』

 

 特に考えなしに口にした言葉だが、我ながら気障なものだと考えながらテクトが頭部の修復を終えると、ヴェルザードはテクトに背を向けていた。

 

 ヴェルザードにとって、女性扱いとは全く持って縁のないものだった。

 

 まずもって、一定周期で休眠に入っている彼女は関わり合いになる人数に乏しい。主に居住している白氷宮内で接触するのはギィとミザリー・レインぐらいのもので、その他のギィの配下からは主に並び立つ存在として遠巻きにされる程度であった。

 

 ギィからは友人の妹といった扱いであり、多少気を遣う場面はあれど、女性扱いということはない。ミザリーとレインは従者であることに加え同性なので白氷宮ではそういった扱いはない。

 

 白氷宮以外で接触するのはギィ以外の魔王と敵ぐらいであり、その中で親交のあるものはミリムとラミリスぐらいである。

 

 その二人も同性であるため女性としての扱いはせず、友人付き合い程度のものだった。

 

 敵に至ってはヴェルザードの能力の高さに畏怖するものが大半であり、そうでないものはただ倒すべき敵として見定めるのみである。

 

 ちなみにヴェルドラは様々な事情によりヴェルザードに苦手意識を持っているため接触は多くない。

 

 要するに結論を言えば、誰かと関わり合いになることがなく、女性扱いをされることのなかったヴェルザードは大変ちょろい状態であったといえるのだ。

 

 それに加え、「虚飾者」による精神世界でのことで、テクトに対して同族意識を抱いていたこともあり、すでに絆されかかっていた。

 

 この状態のヴェルザードにとって、テクトの言動はある種の致命的な一撃だったといえるだろう。

 

 

 

 戦闘終了から数時間後。

 

 ギィの用事もすべて済んでいるためイングラシア王国へと移送してもらおうとしていたテクトだったが、ヴェルザードの状態を察したギィの「こっちのわがままで戦闘になったのだから少しぐらいゆっくりしていけ」という提案に乗り、のんびりと茶をしばいていた。

 

 ゆっくりとした時間を過ごし、いい加減に帰らなければとテクトが考え始めたころにヴェルザードが放った言葉は周囲を―ギィも含めて―硬直させた。

 

「ねぇ、テクト? ミリムにもやったように、《みどるねーむ》とやらをつけてくれないかしら」

 

 数刻硬直したテクトだったが、遠くで氷柱が落ちて割れる音が聞こえ、ハッと再起動する。

 

「えぇっと、ヴェルザード? それ、どういうことかわかってる?」

 

「それは分かってるつもりだけど……ダメ、かしら」

 

 そう告げるヴェルザードに強く否定できなくなった―するつもりもなかったが―テクトは目を閉じ、「捕獲者」での保有魔素とここまでの経緯で推定できるヴェルザードの魔素量を比較して可能かどうかの確認を始めていた。

 

「ヴェルザード、手を出してくれないか? ちゃんと測っとかないと死にかねないし」

 

「ええ、よろしくね」

 

 ギィが硬直したままの中、テクトが目を開き、ヴェルザードに魔素を測らせてほしいと告げると、前向きに検討していることが伝わり、ヴェルザードは嬉しそうに手を差し出した。

 

「う~ん、このままだと少し足りないか? いや、ヴェルザードに分けてもらえばいけるかな?」

 

「本当⁉」

 

 シラヌイの回答で実行可能そうであることをテクトが告げると、ヴェルザードは嬉しそうに声を上げる。その声に反応し、ようやくギィが再起動した。

 

「お、おい……テクト。ほんとにやるつもりか? 正直、提案する方もする方だと思うが…」

 

「ヴェルドラのことでは迷惑かけたみたいだし、ミリムにもしたし、コスト(魔素)も何とかなりそうだし、何より本人が望んでるわけだしね」

 

 名付けが日常化しているテクトにとってみれば、イベントらしい気構えはなく、いつも通りのことではあるのだが、一部の例外―リムルぐらいしかいないが―を除き名付けは安易にするようなものではない。そのためテクトの弁にギィは閉口し、ミザリーとレインはいまだに思考停止していた。

 

(さて、どうしたものか……白氷竜なんだし、氷にちなんだものがいいかな? ミリムが英字一文字の「D」だったことを踏まえると……「F」かな。「Freeze」が「凍らせる」とかだし……あれ? 「ミドル」ネーム?)

 

「ヴェルザード。ミドルネームってさ、ファーストネームとラストネームの間に挟むものだけど、ヴェルザードはラストネームってあるの?」

 

「そんなものないわよ? ……もしかして、どうにもならなさそう?」

 

「共通名にするミドルネームと別に名付けをするわけじゃないから必要な魔素量はそう変わらないよ。ただ性質上確認を取りたかっただけ」

 

 テクトの確認に名付けに対する負担の増加があるのかと心配するヴェルザードだったが、テクトは首を振って否定する。テクトの返答にヴェルザードは安堵し、ほっと息をついた。ラストネームに関してもテクトが考えることとなり、テクトは再び思考の海に潜っていく。

 

(ラストネームはどうするか……氷関係だとすっと思いつくのは「F」が先に来ちゃうしひねりがない気がする。低温……零度……絶対零度とか? 確か英語だと“absolute temperature”だから……ちょっとひねって…「アブソリュート」とでもしようかな)

 

「よし」

 

「決まった⁉」

 

 小さく声を上げたテクトに反応し、ヴェルザードが声をかける。

 

「うん、とりあえず始める前に魔素を分けてもらうから抵抗しないでね」

 

「わかってるわよ」

 

「ギィ、結界張ってくれない? 周りに影響出かねないし」

 

「お、おぉ」

 

 ギィがテクトからの要請と、それを聞いたヴェルザードからの圧に押され、魔素が漏れないように結界を張る。

 

 結界が張られ準備が整うとテクトはヴェルザードと目を合わせる。ヴェルザードの意識が高揚しているのを見て取り、普段意識することはなかったが、本来であれば重大なイベントであることを思い出したテクトが無駄に大仰な言葉を紡ぎだした。

 

「じゃぁ、始めるね。……汝、ヴェルザードに新たな名を。我と汝をつなぐ橋となる名を。新たな名は「ヴェルザード・F・アブソリュート」。我は「テクト・D・F・テンペスト」。「F」の名によりて、我らに新たな絆を結ばん」

 

 テクトが言葉を切るとともに結界の中に魔素が吹き荒れる。ヴェルザードから魔素が引き出され、テクトに吸収され、噴き出す。そのまま二人の間で滞留し、絆を形作る。

 

 最古の魔王とその配下がろくに反応できないうちに異端の偉業が達成された。

 

 魔素の出力により疲弊しつつも達成感を感じるテクトと新たにできたつながりに嬉しそうにするヴェルザードが微笑みあうのを見ながら、ギィは完全に思考を放棄した。

 


 

次回「精霊の住処へ」

 




感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。

ヴェルザードがログインしました。

以前リクエストがあり、熟考の結果いろいろやりたいことが出てきたのでやってもらうことにします。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

  • 書くべき
  • 書かなくてもいい
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