転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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26話:精霊の棲家へ

 ヴェルザードへの名付けが無事に完了し、ギィやミザリー、レインが再起動したのはだいぶ時間が経った後だった。

 

「とりあえず、無事に終わったようで何よりだ」

 

「結界張ってくれたおかげで魔素も荒れずに済んだし、助かったよ。ギィ」

 

「あぁ、せっかく収まったってのに、あいつらがまたいきり立っても困るしな」

 

 やや疲れた様子でギィがこぼすと、テクトが結界についての礼を述べる。ギィが投げやりに返すのに元凶たるテクトは苦笑いをするしかなかった。

 

「そろそろイングラシアに戻りたいんだけど、送ってもらっていいかな?」

 

「もう帰るの?」

 

「明日からまた仕事だからね。さぼるわけにはいかないよ」

 

 ヴェルザードはテクトが帰ろうとしていることに不満そうにするが、テクトが白氷宮に来てからすでに数時間が経過しており、イングラシアは日付が変わろうかという時間に差し掛かっている。

 

 普段であればスキルの効果により休息の時間が圧倒的に短くて済むテクトといえども、大量の魔素を扱った後なので、数時間はゆっくりと休みたかった。

 

「もうしばらくすれば俺も魔国連邦に戻るから、そしたら来なよ。歓迎するよ」

 

「そうね、遊びに行かせてもらうわ」

 

 ミザリーとレインが転移の準備をするのを見やりつつ、ヴェルザードと会話していたテクトはふと思いつき、ギィに一つ聞いてみることにした。

 

「なぁ、ギィ。聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

「まぁ、かまわんが。どうした?」

 

「「精霊の棲家」について、知っていることがあれば教えてほしい」

 

「何が目的だ」

 

 その瞬間場の空気が変わる。ギィから発される気配が威圧をはらみ、緊張感を振りまきだした。テクトは精霊の棲家の情報が手に入るといいなぁといった軽い気持ちで尋ねたことでギィの気を害したかと不安になりつつも偽る理由もないため正直に答えることにした。

 

「子供たちを助けるのに精霊の力を借りたくてね」

 

「子供?」

 

 魔物であるテクトが子供を助けたいと言い出したことでいぶかしむギィにテクトは詳しい説明をすることにした。リムルがシズという人間の姿を継いだこと。その際に心残りがあると話していたらしいこと。その心残りの内容と解決には上位精霊の力を借りることが必要であることを話した。

 

 ギィは不完全な召喚をされたものの事情に明るいわけではないため半信半疑という様子だったが、テクトに話の内容を偽る様子がないことと、実例があることを明示したことで信じる方へと天秤が傾き、精霊の棲家への行き方とラミリスについて教えることにした。

 

「──とまぁ、行き方としてはこんな感じだな」

 

「なるほどね……ってできるかぁ! 子供達が助かる前に死んでしまうわ!」

 

 とはいえ、その道程は過酷なものであり明らかに子供が耐えきれるような環境ではない。しかし、ギィの知る方法で最も難度の低いものが教えられており、一応気は使われていた。

 

「大丈夫だ」

 

「何がだ」

 

「精霊の棲家への出入り口を新しく作らせればいいだけだ」

 

 ギィ曰く、ラミリスであれば精霊の棲家側から出入口を作ることができるため、イングラシア王国から子供たちを連れて行って問題のない範囲の奥地に出入口を用意してもらい、そこに向かうことで子供たちを精霊の棲家へ連れていくことで解決を図るとのことだった。

 

 もちろん、新たに出入口を作ることはラミリス自身にも危険があるためラミリスが協力してくれる保証はないが、ギィは本人の気質から可能性は高いと踏んでいた。

 

「なるほど。そういうことなら案外行けそうなのかも。一度リムルと話してみるよ。何かラミリスが好きなものってある?」

 

「そうだな……今の時期ならガキの状態だから菓子でも持っていけばいいんじゃないか?」

 

「……ああ、うん。いろいろ用意しておくよ」

 

 ギィの説明に納得し、交渉を有利にするために嗜好を聞いておこうと考えたテクトだったが、返ってきたのは雑な回答だったので、とりあえずラインナップは多めにしておこうと考えるのだった。

 

 そうしてテクトが思考を放棄していると、ギィが再び圧力を伴って話しかけてくる。

 

「念のため言っておくが、ラミリスに害をなしたのなら俺はお前たちに敵対しなければならなくなる。お前がいかにミリムのお気に入りだとしてもな。できれば、お前を殺したくはない」

 

「わかってるよ。無茶するつもりはない。こっちは頼む立場だからね」

 

 テクトがギィと目を合わせつつ応えると、ギィは納得したようにうなずき、話を終え、少し離れて腕を組む。再び会話をし始めたテクトとヴェルザードを見ながら薄く微笑んだ。

 

 そうこうしているうちに転移の準備が完了した。白氷宮に来た時と同じ門が現れる。

 

「じゃ、俺はこれで。いろいろと助かったよ。ありがとう」

 

「ねぇ、今度そっちに遊びに行ってもいいかしら」

 

「?当分魔国連邦には帰れないけど、さっきも言ったように、来るなら歓迎するよ」

 

 ヴェルザードは門をくぐる前にと礼を告げるテクトに話しかけるとその返答に微笑んだ。

 

 テクトが門をくぐり、イングラシアに帰る。門が消えるとミザリーとレインが退出し、喜色満面のヴェルザードと今にもため息をつきそうなギィという対照的な表情をした男女がその場に残された。

 

 

 

 テクトが帰還した夜。テクトはリムルの部屋でへそを曲げていた。

 

 原因は今まさに困惑しているリムルにある。

 

 テクトが白氷宮にてギィとヴェルザードを相手にあれやこれやとしている間、リムルは子供たちとともに食事を楽しんでいた。

 

 その相手はガルド・ミョルマイル。天空竜(スカイドラゴン)を倒した際に助けた商人らしく、フューズの紹介をもとに魔国連邦でポーションを購入してきた帰りだったらしい。

 

とはいえ、リムルたちが食事をしてきたことに関してはさほどの問題ではない。テクトは体の都合上、招待を受けても断らざるを得ず、相伴に預かることはできないのだ。しかして、なぜ拗ねているのかといえば、世界的に見ても圧倒的な強者である二人に挟まれている間、リムルがのんきに楽しんでいたことに対しての八つ当たりである。

 

 そして、リムルの困惑の原因はテクトにあった。

 

 なにせテクトがこんなにわかりやすく感情を出すことなど今まではなかったからだ。ミリムが魔国連邦を去り、寂しそうにしている―実際には魔国連邦における役割が減ったことで、自身の中の存在意義を見失いかけていたことによる焦りだったが―ことはあってもそれを誰かにぶつけることなどなかったからだ。

 

 天空竜を倒しに行く昼頃に分かれ、各々時間を過ごし、日が変わるころに再会した。この間およそ十二、三時間。その短い期間に人となりが変わってしまった様なものなのだ。リムルもテクトが「精神影響無効」を持っていることは知っているうえ、「大賢者」の判定から間違いなくテクト本人であることを確認しているが、あまりの落差に困惑していた。

 

「お前、本当にテクトなんだよな?」

 

「当たり前だろ。俺は正真正銘、テクト・テンペスト。転生から2年と少し。前世での名は白織拓磨。『趣味・コミック本集め』」

 

「…………『一九八一年の映画「類人猿ターザン」の主演女優は?』」

 

「『ボー・デレク』」

 

「『「今夜はビート・イット」のパロディ「今夜はイート・イット」を歌ったのは?』」

 

「『アル・ヤンコビック』」

 

「これに即答できるってことは本物とみてもいい、のか?」

 

「どうせなら最後までやってくれよ。まぁ、確認とりたくなる気持ちもわかるけど」

 

 テクトの口に出したフレーズに反応し、一連の流れにのせることである程度の確信を得たリムルに苦笑するテクトだったが、唐突にどや顔になって話始める。

 

「そういえば、今回の件でこっちはかなり進展合ったんだぜ」

 

「急になんだよ」

 

「なんと! 精霊の棲家へ子供たちを連れていくための手がかりを見つけてきたからな」

 

「へぇ、そうなのか。俺も今日聞いてきたところだ」

 

「ゑ゜」

 

 しかし、リムルも同様の情報を得ていたことで表情は固まった。互いが得た情報を確認するとリムルが聞いたルートは当たり前のようにギィから聞いたルートよりも圧倒的に安全であった。

 

 その上、情報の経路がミョルマイルとの食事の際にいたお姉さんが偶然にも精霊の棲家の付近が故郷であったためであったとのことで、情報を聞いた際のプレッシャーの違いを考えて、テクトはがっくりとうなだれることとなった。

 

「お~い。大丈夫か?」

 

「縺。縺上@繧? ≧縲√%繧後□縺九i荳サ莠コ蜈ャ縺」縺ヲ繧?」

 

「急にどうした⁉」

 

 うなだれつつ急に意味不明な言葉を発しながら頭を抱えるテクトに慌てるリムルだったが、テクトがため息をつきながら顔を上げると少しすっきりした顔になっていた。

 

「まぁ、みんなが安全に精霊の棲家まで行けるならそれに越したことはないか」

 

「っていうか、お前の情報のほうが驚きだよ。誰から聞いてきたんだよ、こんなルート」

 

「そっちは長くなるから今度話すよ。今日? は疲れたからいったん休むもうと思うんだ。明日の仕事にに差し障ると困るし」

 

「確かに、時間も遅いしそうするか。ちゃんと話せよ」

 

「ああ、ちゃんと話すよ」

 

 会話を切り、部屋を後にするテクトを見送り、一人になるとリムルは思考にふける。テクトがどういう経緯で精霊の棲家へのルートを聞いたのか考えながら最終的に思考を手放した。

 

 

 

 翌朝。

 

「みんなでちょっとした旅行をしようと思う」

 

 その日の自由学園はそんなテクトの一言から始まった。

 

「旅行? そんなことしてて大丈夫なのかよ」

 

 真っ先に声をあげたのはケンヤだった。ほかの生徒達も声には出さないものの訝しげな表情をしている。

 

 とはいえ、生徒たちの疑問も当然だろう。情報収集に向かうためテクトとリムルどちらかしかいないことも多々あり、あまり進捗がなさそうなことには気づいていた。

 

 昨日の食事の際に、リムルが何かつかんだようだが、その検証もしないうちから旅行となれば、とうとう匙を投げてしまったのかと考えてしまうのもやむなしといったところだ。

 

「ああ、ごめん。心配させちゃったみたいだね。大丈夫。旅行って言っても観光ってわけじゃない。その場所に行けばみんなの抱える問題が何とかなるんだ」

 

 あっさりと言ってのけるテクトに、子供たちは一瞬ポカンとするも内容を理解して一気に色めき立つ。

 

 子供たちは二人のことを信用している。しかし、時間はかかるだろうし、最悪の場合、間に合わないことも覚悟していた。そんなところに助かるという断言だ。これで興奮しないものはいないだろう。

 

 テクトは騒ぎ出す子供たちを落ち着かせ、目的地の説明に入る。その場所まではかなりの距離があり、行くにしても準備がいる。そのためにこの日の授業を先送りにし、買い物へと向かうことでひとまず決着した。

 

 

 

 リムルがミョルマイルを助けたことで、思わぬところから精霊の棲家への手がかりを得た日からおよそ三週間。

 

 テクトとリムルは子供たちを連れ、ウルグレイシア共和国の最北、ウルグ自然公園を訪れていた。彼らがここに来たのはこの近くの森に精霊の棲家への入り口があるからである。正確には入り口を最奥に持つとされる迷宮があるのだが。

 

 この迷宮は異世界へとつながっており、攻略に乗り出したもので帰還した人間はいないらしい。しかし、子供たちには不安はないようで気力体力は十分である。今回の旅程は昼に進み、夜はイングラシアに帰って眠るというものだったので回復が早かったのが大きいだろう。

 

 余談だが、どうせ転移を使うならとテクトが先行し転移で呼び寄せることを提案したが、旅そのものを楽しみにしていた生徒たちの顰蹙を買っている。

 

「さて、これから迷宮に入るわけだが、以前にも説明したように帰還者のいない場所だ。準備と覚悟はいいか?」

 

 リムルが全員を見渡しながら確認をとると、各々意気込みを口にする。

 

 念のための転移用の魔法陣の設置と隠蔽を終えたテクトが合流し、リムルを先頭に、子供たちをはさんでテクトが最後尾という隊列で迷宮へと入っていく。設置しておいた魔法陣への転移やランガとフェルの「影移動」が使用できないことを確認し、攻略への意志を固めつつ、迷宮を進んでいった。

 

『一本道だな。これで迷うもんなのか?』

 

『方向感覚を狂わせる罠がたくさんあるみたいだね。正解の通路が隠されているときもあるみたいだし、人の方向感覚では突破できないだろうね』

 

 二人の感知能力による脳内マップによって迷うことなく進んでいくテクト達に精神感応(テレパシー)が届く。恐怖をあおるようなセリフに子供たちが怖がる様に満足したような反応をする声が響く中、その声を逆探知し、声の発生場所を特定するとリムルがそちらへと話しかけた。

 

「ここに住んでいるのか? だとすれば、君たちは精霊か? 俺たちは上位精霊に会いたいんだ。できたら邪魔ではなくて案内がほしいんだけど」

 

 リムルの声に精神感応は面白がるような反応を示すと、目の前に光の道が生まれる。その道を進んでいくと大きな広間へとつながっていた。広間の中央には三メートルほどの鋼の巨人が立っていた。

 

『さあ、試練の内容を説明するよ!』

 

 大出力の精神感応が響くと同時に巨人の目が赤く光り軌道を伝えてきた。

 

「なるほど、こいつを倒すのが試練ってわけか」

 

 リムルの声に精神感応で肯定が入り、巨人が臨戦態勢に入る。

 

「我が行きましょうか?」

 

「いや、ランガはこいつらを守っててくれここは「俺が行く」テクト?」

 

「リムルは前に天空竜と戦ってるだろ? 俺にもかっこつけさせてよ」

 

 リムルの言葉を遮りテクトが前に出る。その姿を見て精神感応は諫めようとするが、構わずテクトは進んでいく。テクトに引く気がないことを悟ったのか声が収まると同時にテクトとリムルが巨人を解析するとテクトは感心したようにし、リムルは驚愕をあらわにしかけた。

 

「へぇ、なかなか強いじゃん」

 

『言ってる場合か⁉ 相当やばいだろ⁉』

 

『まぁ、見てなって』

 

 リムルの念話に軽い調子でテクトが返した直後、巨人の姿がぶれる。

 

 テクトは巨体での高速の突進を難なく回避すると驚いたように声をあげる。

 

「思ってたより硬いな。物理じゃ無理か」

 

 その声にリムルが詳しく観察すると巨人の表面に細かく線状の傷が走っているのを確認できた。その巨体からは想像できない速度の一撃を回避しつつ攻撃を加えたテクトに内心で舌を巻きつつも、効果的なダメージになっていないことでやや不安が出てきていた。

 

『そんなんじゃダメージにはならないよ~』

 

『勝ってるかな? 勝ってるかな?』

 

「加減してると倒せそうにないから、完膚なきまでに破壊することになるけど、それが試練なんだし、問題ないよね?」

 

『いいよ、いいよ、いいともさ!』

 

『できるものならやってごらんよ!』

 

 煽るようなセリフを繰り返す精神感応に動じることなくテクトは人形の中で「身体変成」によって姿を「アーマースパイダー」に変え、糸によって巨人の全身を拘束する。

 

『そんな⁉ 聖霊の守護巨象(エレメンタル・コロッサス)が⁉』

 

「これで『詰み』(チェック・メイト)だ」

 

 拘束されたことに困惑する精神感応を放置し、糸に「技能付与」で「腐食攻撃」を纏わせると、巨人の体が塵に代わり始め、風に吹かれて消えていった。

 

「やっぱり加減が効かないから難しいな、「腐食攻撃」」

 

『こ、こんなことって⁉』

 

 自らのスキルの使い勝手の悪さをぼやくテクトに大きく動揺した精神感応が届く。

 

 リムルはテクトのスキルの性能に表情に出すことはなかったもののドン引きしており、子供たちは驚愕で口をあけたままになっていた。

 

「さてと、そろそろ出てきてもらおうか。今のを食らいたいなら、別に姿を現さなくてもかまわないけど?」

 

 無論これははったりである。テクトはラミリスと接触したことはないので、近くにいると思しき反応が本人であるという確証を持つことはできないが、万が一にもラミリス本人であった場合、全力のギィを相手取ることになる。そのようなことは避けなくてはならなかった。

 

「はい! はいはいはい! たった今、恥ずかしながら、呼ばれてやってまいりました──!」

 

 出てこなかった場合どのように釣り上げるものかと考えていると慌てた様子でラミリスが現れた。テクトは聞いていた通りの容姿であることで本人であることを確認し、交渉可能な場所に出てきてくれたことに安堵した。リムルがテクトの呼び出したラミリスを観察するために二人へ近寄り、テクトが何を対価にすれば釣れるかと思案している中、ラミリスは名乗りを上げ始めた。

 

「我こそは、偉大なりゅ……」

 

「えっと、大丈夫?」

 

 が、舌を噛みすぐに中断される。テクトが心配するのを手で制し、呼吸を整えると改めて名乗りを上げた。

 

「我こそは、偉大なる十大魔王の一人! 「迷宮妖精(ラビリンス)」のラミリスである! 頭が高いぞ! 跪くがいい!」

 

「せいっ」

 

「うわぁ! 何すんのさ⁉ びっくりするでしょ!」

 

「お前みたいなガキが魔王なわけないだろ。吐くならもっとましなウソ吐けよ。ミリムやカリオンと比べるべくもないし、何なら豚頭帝より弱いだろ」

 

 ラミリスは彼女の外見から魔王であることを信じられないリムルによるチョップをかわし、ミリムがいかに理不尽な存在なのかを鼻息荒くまくしたて、息を整える。落ち着いたかと思えばすぐにテクトたちへの不満をこぼし始めた。

 

「だいたい、あんたたちもちょっとおかしいんじゃない!? 「精神操作」は効かないし、聖霊の守護巨象を塵に変えるような危険極まりない技は放つし! あまつさえそれをアタシに放とうだなんて、無茶しないでほしいわけ!」

 

「ええっと、なんか、すみません。魔王ラミリス様。私はテクト・テンペスト。こっちはリムル・テンペスト。お話はギィから聞いています。此度はご相談事がありましたゆえに馳せ参じました次第でして」

 

「ふ〜ん。あんたはなかなか話が分かるじゃない……「テクト」?」

 

 怒りをあらわにするラミリスにテクトがひとまず謝り、恭しく要件を告げるとラミリスの機嫌はあっさりと戻る。が、テクトの名前に引っ掛かりを覚えたのか、空中で跳ねたりひっくり返ったりしながらしばらく考えると、頭の中でつながったのか表情を明るくさせて声をあげた。

 

「ああ! あんたね! ミリムのこと落としたっていう変な蜘蛛ってのは!」

 

「ソンナコトナイヨ。ヒトチガイダヨ」

 

「えらい棒読みだな!」

 

 ラミリスにより告げられたセリフに明らかな動揺のもと、よほど鈍くない限りでも気づくであろう棒読みで返すテクトにリムルが突っ込みを入れる様を子供たちが唖然とした顔で見る中、最も早く立ち直ったアリスがテクトに質問する。

 

「ねぇ、テクト。蜘蛛って何?」

 

「ラミリス、手前何口走ってやがる!」

 

「何すんのよ⁉ あんたがとんでもないことしでかすからでしょ!」

 

 アリスによる隠し事に触れるような質問にテクトが激高し、ラミリスに食って掛かるがラミリスは言い訳を重ねる。そのまま、ぎゃいぎゃいと言い合うのもアリスがテクトの名前をはっきりと告げることで終了した。

 

「テクト!」

 

「む、ぐ……ハァ。まぁ、要するに、こういうことだ」

 

「ほんとに蜘蛛だ……」

 

 じっと見つめてくる子供たちの視線に耐えかねて自身の姿をさらす。人形をしまい、八本の足でその場に立つ。

 

 子供たちがラミリスの言葉が真実であったことに感嘆を浮かべると、再びラミリスが突っ込みを入れる。

 

「ねぇ、聞いてた姿と違うんだけど、なんかまだあんの?」

 

『なんでそこに突っ込むかなぁ⁉』

 

 再び集まった子供の視線にさらされ、あきらめたように黒い霧を纏わせるとアラクネへと姿を変える。子供たちの反応を恐る恐る探ると、その反応は好意的なものだった。

 

「すっげぇ! なんだそれ! かっこいい!」

 

「へぇ、悪くないわね」

 

「ちょっと怖いけど、先生ってことはわかるから、大丈夫」

 

「うん、先生だから」

 

「正体が魔物だったのは驚きましたが、これまでの先生を知ってますしね」

 

 子供たちの反応にほっと息をつく中、ではリムルはという話になり、リムルも正体を明かし、その姿に好評を博した。テクトはやや悔しそうにしていたが、ひとまず落ち着いて話をすることにした。

 

 

 

 テクト達は子供たちが妖精と仲良くなり遊びまわっているのをほほえましく思いながら、見守りつつ話をしていった。

 

 ラミリス曰く、帰還しない冒険者たちは死亡したのではなく別の出口から放り出したため帰りついてないであろうということ。

 

 聖霊の守護巨象がドワルゴンで計画が破棄された際に捨てられた、魔装兵の外殻を拾ってきて精霊工学をもとに復元したものであること。

 

 聖霊の守護巨象がこの迷宮の大きな防衛手段であり、完膚なきまでに破壊したことに対する文句が最も多かったのは、それだけ思い入れが強かったことによる意趣返しだったのだろうか。

 

 リムルはカイジンたちが失敗した計画を自分一人で完成させたラミリスに内心感心しつつ、ここに来た要件を切り出すことにした。

 

「すごいのは分かった。そんなすごい君を見込んで頼みがある!」

 

「はぁ? なんでアタシがあんたなんかの言うことを「テクトにさっきの食らわせさせるぞ」聞いてあげてもいい気がしてきたであります!」

 

 生意気な口調でリムルからの頼みを断ろうとしたラミリスだったが、テクトのことを引き合いに出されて即座に手の平を返した。仮にラミリスが断っても「腐食攻撃」を食らわせるつもりのないテクトは苦笑いするしかなかったが、口には出さなかった。

 

「まぁ、こっちもタダでやってくれってわけじゃない。協力してくれるっていうなら俺が新しいゴーレムを用意しようじゃないか」

 

「早く内容を言いなさいよ」

 

 リムルからの提案にラミリスがやや食い気味に反応すると、リムルは満足そうな顔でうなずき、子供たちの境遇についてについて話し出した。

 


 

 次回「規格外で想定外」

 

 




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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