ヴェルドラから名前を付けてもらったが、テクトには出発する前にやりたいことがあった。
『リムル、出発前にスキルの確認をしてもいい?』
スキルの確認である。転生してから一日と経っていないうえ、なじんできたのが先ほどのため、自身の能力の確認すらできていないのだ。リムルからは許可が出た。
(まずは「
ユニークスキルのよび方を決めた瞬間、声が聞こえてきた。
≪名付けに失敗しました。対象が存在しません≫
(失敗? ああ、スキルの呼び方を決めたのが、名付けをしようとしたって判断されたのか。でも、ほかに魔物がいないからキャンセルされた、と)
納得し、ほかのスキルについての詳細を聞いていく。
≪解。現在保有しているユニークスキルは「無不知」、「
(いや、多いな⁉ 把握しきるのに時間がかかりそうだ)
リムルに確認をとると、リムルも自身のスキルを教えてくれた。
(リムルが「「
だが、知っているものをもとに構成されていることもあり、概要程度ならばスキルの内容を把握することができた。だが、「身体変成」のスキルに関しては構成要素が存在しなかったため、判断しかねた。
≪解。このスキルは事前に設定した姿へと身体を再構成するスキルになります。ただし、新規に設定するためには明確なイメージが必要になります。また、種族の関わりを逸脱した構成先の設定は不可能です。マスターの場合はスパイダー種に関連した魔物のみが設定可能となります。現在再構成可能な形態は「ホワイトスパイダー」、「アーマースパイダー」、「アラクネ」の三種、現在の形態は「ホワイトスパイダー」です≫
(体を作り変えるスキル。勝手がさっぱりわからないな。まあ、習うより慣れろか)
しばらく悩んだ結果そう結論付け、スキルを使用する。
(シラヌイ、まずは「アーマースパイダー」に「身体変成」だ)
≪了。エクストラスキル「身体変成」にて「アーマースパイダー」へと身体の再構成を開始します≫
テクトの体が黒い霧に覆われる。晴れた先からは腹の上側の前半分を白、後ろ半分を黒のとげの生えた甲殻に覆われ姿で現れた。湖に姿を映し、自身の姿を確認する。
(ゾア・エレだな。アラバとの戦闘が印象に残っているからかな。じゃあ、次は「アラクネ」に「身体変成」)
≪了。エクストラスキル「身体変成」にて「アラクネ」へと身体の再構成を開始します≫
再び黒い霧が現れる。先ほどより多くの霧があふれ、晴れたときには、白く大きな蜘蛛の頭部から人間の上半身が生えた見た目へと変化していた。
(こっちは何となく予測がついていた。私の転生前が男だったからか上半身は男になっているみたいだな。スキルとしての確認は済んだし、あとは道すがら適当な魔物に使って確かめるとしようか)
「よし、わからないことの確認は済んだし、そろそろ…………何やってんの? リムル」
方針を決め、リムルに出発を提案しようとしたテクトの視界に入ったのは、少し一歩引いた様子のリムルだった。
『なんか、その姿のお前を見てると何となく怖気が走るっていうか…………近寄りづらいというか…………』
「えぇ…………」
突然のリムルの言葉にテクトがショックを受けているとシラヌイから回答があった。
≪告。アラクネの固有スキル「畏怖」の効果によるものです。「畏怖」の効果はスキル保持者を視界におさめたものへ根源的な恐怖を与えるスキルとなります。スキル保持者に対する心理的な要素によって効果が変動し、最大で気絶、最小で無効化されます≫
「ごめん、リムル。固有スキルが発動してたみたい。すぐにスキルの無効化を≪告。固有スキル「畏怖」は常時発動のスキルであり、無効化不可能です≫無理みたいだ」
固有スキル「畏怖」は外見も効果の要因として作用するため、アラクネの状態では無効化ができないらしかった。仕方なく、ひとまず姿をアーマースパイダーの状態に戻しつつ、出発を提案すると、スキルの効果が抜けたリムルと移動を始めた。
こうして、ヴェルドラが封印されていた場所から外を目指し移動を開始した二人だったが、順調とはいかなかった。理由は
『お腹すいた…………』
テクトの空腹である。
食事を必要としないスライムのリムルと違い、テクトは食事を必要とする。しかし、ヴェルドラが封印されていた付近は、魔物が生息しておらず、獲物が得られなかったのだ。エネルギーの効率化のため「身体変成」を解除し、さらに、エネルギーの補充をするためリムルの体を問題のない程度に少しずつ削って食すことでしのいでいたが、限界が近くなっていた。
そして、魔鋼石やヒポクテ草の捕食や修練によるスキルの取得をしながら進むリムルとそれについていくテクト達の前についに新たな出会いが訪れた。
『獲物だー!!』
会ってしまった側からすればたまったものではなかっただろうが。
テクト達の目の前に現れた黒蛇は、「身体変成」で体をアーマースパイダーへ変えつつ一瞬で詰め寄ったテクトの鎌状の足によって首を刈られ絶命した。
『いただきます!!』
そのまま生の蛇に躊躇なく食らいついていくテクトにリムルは引いていたが、半分ほど平らげたあたりで落ち着いたのかリムルに声がかかった。
『これを「捕食者」で捕食して解析したら、能力獲得できるんじゃない?』
『え…………まじで⁉』
リムルからすれば、蛇を食べたいとは思えない。味覚も触覚もないので感覚的に不快感を覚えることはないのだが、人間的な感性ゆえか、心が否定を示していた。だが、テクトには味覚、触覚ともに存在する事実と比較すると自身のほうがましといえることと、新たな能力獲得ができることが決め手となり、切り落とされていた頭を捕食することにした。
その後も食事とスキルの獲得を進めながら進んでいく二人。リムルが獲得した「毒霧吐息」を使い、魔物をドロドロに溶かし、テクトが可食部が減ったと文句を言ったり、蜘蛛型の魔物も躊躇なく食っていくテクトにリムルが再び引いたりと様々なことがありつつ、洞窟を動き回り、ついに扉の前に到達した。
『この先が…………』
「ああ、きっと外だ」
お互いに感慨深そうにするテクトにリムル。リムルは発声が可能となっていたが、テクトはアラクネの状態でしか発声できないため、リムルに気を使い「思念伝達」を使っている。
『この扉どうしようか?』
「水刃で切り刻むか?」
二人で脱出方法について話していると、扉がきしみながら開いていく。外から人間が三人入ってきた。初めて見る人間と言葉が「魔力感知」で理解できるという事実に感動しつつ、敵対する可能性を考慮して三人を見送る。通り過ぎて行ったあと、素早く、テクトに至っては自身に「隠蔽者」まで使って気配を消しながら外へ出ていった。
洞窟から抜けた先にあったのは森だった。久しぶりに浴びる陽の光を喜びつつ、二人はあてもなく進んでいく。
「いや~久しぶりのシャバはいいな。空気がうまい」
『リムルには味覚なんてないでしょうに』
くだらないことを言い合いながら森の中を移動していると、目の前の茂みから多くの影が現れた。彼らが警戒しながら声をかけてくる。
「つ、強きもの達よ、この先に何か用がおありだろうか」
「強きもの?」
『私たちのことなのかな?』
お互いに顔を見合わせて向き直ると、問いかけた人物はうなずいた。
「(思念をのせて発声すればいいんだよな)初めまして!! 俺はスライムのリムルという!! いって」
『思念が強すぎるよ。バカ! 声に押されて転んでるじゃないか』
声を張り上げたリムルを小突いて黙らせたのち、テクトが話しかける。
『連れが失礼したね。私はテクト。ホワイトスパイダーだ。こっちはスライムのリムル。よろしく。で、どんな用事なのかな』
聞けば、強力な魔物の気配を感じ警戒に来たのだという。心当たりがないと感じていた二人だったが、自分たちのことを指していること、強さを見込んで頼みがあることを聞き、彼らの村へと向かうことにした。
村につき、村長から話を聞くと、魔物の動きが活発化し全滅の憂き目にあっているらしい。原因はあたりに力を発していた神なる存在が消滅したことだという。頼み事の内容は新たな守護を求めているということのようだ。
(神ってもしかして…………)
(十中八九ヴェルドラだろうね。リムルが捕食した時期と時間的な整合性はとれそうだし)
「あの~、自分はスライムだし、相方もほかに比べて小さい蜘蛛なんで、期待されているような働きはできないと思いますが」
リムルは自分たちがあまり強い種族ではないことを根拠に自身のないことを伝えると村長から返答があった。
「ご謙遜を。ただのスライムにそこまでのオーラは出せません。それに全くオーラを出さないことに加え、これだけのオーラをすぐそばで受け続けながら全く動じることのないその姿。十分強きものであることを示しております。お二人とも相当に名をはせた魔物でございましょう」
(オーラ? 出した覚えはないけどな。「大賢者」。「魔力感知」の視点を切り替えて、俺たちを客観的に見せてくれ)
(シラヌイ、私も第三者視点での魔力感知をお願い)
そうして客観的に魔力感知で見てみるとリムルから尋常でない量のオーラがあふれていた。
(うわぁ、駄々洩れじゃねぇか⁉ 社会の窓全開で外を歩いていた気分だ。それでゴブリンたちはあんなに警戒してたのか。というか、テクトは全然オーラ出てないのはなんでだ?)
≪告。ユニークスキル「隠蔽者」の効果により、オーラがあふれることなく収納されています。仮に人間の姿であったならば人間として認識されるでしょう≫
『どうやら、洞窟を出るときに念のため使った「隠蔽者」がオーラも隠せてたみたいだね。リムルにも使っておけばよかったのか』
黙り続けているわけにもいかないため、ひとまず起きたことは置いておき、話を再開する。
「流石は村長。わかるか」
「もちろんですとも。姿はごまかせても、漂う風格までは隠せておりません」
「そうか、わかってしまうか。お前たちはなかなか見どころがあるようだな」
リムル自身もなんでこんなに偉そうなしゃべり方をしているのか理解していないが、隣にたたずむテクトの視線を感じつつオーラを収納すると。村長に感謝された。オーラの量で委縮していたものもいたようだ。
改めて現状を聞くと、東から牙狼族が押し寄せてきて戦いになり、戦士が多く討ち死にし、その中には名持のゴブリンもいたが、彼も倒れ、危機に瀕しているのだとか。名持のゴブリンの名前は「リグル」で、村長の息子で最初に声をかけてきたゴブリンの兄らしい。本来、牙狼一匹に対し、ゴブリンは十匹で相手にする必要があるが、今回は牙狼は百匹に対しゴブリンは戦えるものが雄雌合わせて六十程度と絶望的な戦力差である。
「村長、一つ確認したい。俺たちがこの村を守るなら、その見返りはなんだ。お前たちは俺たちに何を差し出せる?」
もともと何か欲しくてやるというわけではないが、体裁を整えるために対価を求めるリムルに対しゴブリン達は自身の忠誠をささげると返答した。
(問題ないよな? テクト)
(こうして事情を聞いちゃったからにはねぇ。ここで見捨てるのも気分が悪いし、助けてあげますか)
二人の間で合意し承諾を告げようとしたその時、周囲に遠吠えが響き、ゴブリンたちが慌て始める。
『落ち着きなさい。これから倒す相手を怖がる必要はどこにもないよ』
その言葉を聞きゴブリンたちが二人を見る。
『あなたたちのその願い。暴風竜ヴェルドラに代わり、このテクト・テンペストと』
「リムル・テンペストが」
『「聞き届けよう」』
ゴブリンたちが平伏し感謝を述べ、忠誠を誓う。
ゴブリンたちを助けるための闘いが始まる。
(しかし、現状だと直接戦闘は期待できそうにないね。装備は貧弱だし、全体的にボロボロだ)
(ああ、こいつらじゃあ「くっ殺」展開なんて間違いなくできないな)
戦闘前に戦力の確認をとり、それぞれがやることを考えていく。
リムルはヒポクテ草から作ってある傷薬でゴブリンの治療を、テクトは村の周囲に堀と柵を作るチームの監督や糸を使っての武器の補強を担当し、さっそく行動に移す。
そうこうしているうちに、夜が来て、牙狼族の攻勢が始まった。
次回「これなら「くっ殺」できそうだな
おまけ:テクトとリムルによる封印の洞窟の魔物について
「黒蛇」
テクト
臭みはあまりなかったが、生で食べるようなものではなかったな。ちゃんと調理すればおいしそう。鱗もとっておくべきだったね。
リムル
熱源探知は便利そうなスキルだと思う。毒霧吐息は封印だな。加減ができなさそうだし、何よりグロい。
「アーマーサウルス」
テクト
リムルが毒霧吐息を使ったから、あまり食べられる部分が残らなかった。たくさん食べたいような味でもなかったけど…………
リムル
毒霧吐息の危険性を教えてくれる存在だった。身体装甲は防御に便利だから役に立ちそうだ。
「エビルムカデ」
テクト
黒蛇の反省をもとに甲殻を削いで食べたけど、食いでがなかったな。味はエビに近い気がする。えぐみが強かったけど。
リムル
麻痺吐息は拘束とかに便利そうだな。加減が必要な時はこれを使うのがいいかもしれないな。
「ブラックスパイダー」
テクト
うっすらとカニみたいな風味がした。もしかしたら、私の体もカニみたいな味がするのだろうか。自分で確かめるのはあれだし、今度誰かに食べさせて確かめてみるのもいいかもしれない。
リムル
テクトもよく使ってるけど、糸は結構便利だ。ただ、こいつを食ってからテクトが時々変な視線を向けてる気がするんだよなぁ。
「ジャイアントバット」
テクト
あんまりおいしくなかった。次に食事をとれるのがいつか分からなかったから全部食べ切ったけど、スキル習得できそうだったらリムルみたいに話すために役立ってもらおう。
リムル
こいつのおかげでしゃべれるようになった。コミュニケーションがとりやすくて助かる。
感想・評価ありがとうございます。
「無不知」→「シラヌイ」は無理やりな感じはしますが、読みづらく、打ちづらいので呼び名として変更しました。作成当初(2か月ほど前)の自分は何を考えていたのやら…………代替案を思いつかなかったのでスキルの名前はそのままにしました
2か月かかった理由は決闘者してたからです
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい