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ひとまずサルベージができた分を投稿致します。
「じゃあ、あそこにいたもの以外の犠牲者はいないんだな?」
「はい、怪我を負ったものには、治療の可能なものがすでにあたっております」
テクトたちは移動中、犠牲者以外についての話を聞くことにした。傷を負っている者は少ないものの、手遅れになっては元も子もないため回復薬を渡し、先にできる限り回復をさせることにした。
そうしていると、主だった面々が会議室に入りテクトとリムルは顛末を聞き始める。
まず最初に襲撃者に絡まれたのはゴブゾウであった。そこに介入したゴブタによってゴブゾウが悪者にされることは避けられたものの、本性を現した襲撃者によって交戦状態になった。
その強さは異常だったらしく、応援に駆け付けたハクロウと互角に渡り合ったそうだ。そこに結界が展開され、弱体化が起き、敗北してしまったのだ。
その後、ファルムス王国の正規騎士団百名が訪れ、襲撃者が助けを求めたことで、人類の法と神の名の下にという建前によって、兵士は大人も子供も区別なく攻撃をしかけ始めた。
事前に武装解除をしておけばとベニマルが悔やむが、テクトとリムルはその対応自体が自分たちの指示によるものであり、問題は「思念伝達」で簡単に連絡が可能であると考えていたことであるとして、自責の念に駆られていた。
そして、ファルムス王国の騎士が去り際に宣言を残していったらしい。
それは、
「この町は、魔物に汚染されておる! 我らは人類の法を守るものとして、またルミナス神に忠実なる神の子として、魔物の国など断じて認めぬ!! 故に、正規の手続きで以って西方聖教会とも協議し、この国の対応を考えるものなり!! 時は今日より一週間の後。指揮官は英傑との誉れ高い、エドマリス王その人である。降伏して恭順の意を示すならば、良し。貴様たち全員の命と存在を保証してやろう。無駄な抵抗をせず、さっさと降伏することだ。さもなければ、神の名の下に貴様たちを根絶やしにしてくれようぞ!!」
という内容だったそうだ。
「降伏の有無にかかわらず、こちらを滅するという結論はもう出ているんだろうな。まさに茶番だ」
「仰る通りで」
テクトが明後日の方を見ながら吐き捨てるように言うと、リグルドが同意する。
ヒナタとの会話を根拠として、西方聖教会とファルムス王国が最初からグルであり、利害の一致による行動であるという考えを告げると、驚いたのはドワーフたちだった。
魔物であるベニマルやリグルドには聖騎士という言葉は聞き覚えのないものだったため、さほど驚きはなかったのだろう。
ドワルゴンは魔物も利用できるという立場を貫いているため、西方聖教会との仲は良くないらしい。そのため、過去に何度かぶつかり合ってはいる。しかし、ドワルゴンは天然の要塞のようになっているうえ、出入りに関しては厳重にチェックしていることもあり、守りに特化している。そのため、西方聖教会も打ち滅ぼすのは困難であると考え、「神敵」認定はせず、互いに無視をしているような状態になっているらしい。
「リムル様、今回の件についてですが、一つお話ししたいことがあります」
そこで声をあげたのはミョルマイル。第三者からの意見も聞きたいとのことでブルムンド王国から訪れていた者から代表者数名を連れてきていたのだ。
「そういえば、初めましてだな、ミョルマイル。テクト・テンペストだ。よろしく」
「は、よろしくお願い致しします」
「それで、理由に心当たりがあるのか?」
テクトがふらりとミョルマイルに顔を向けて声をかけると、恐る恐るとしながら、話し出した。
ミョルマイルの話では、現状、魔国連邦を経由することで新しい交通路が生まれ、流通に大きな革命が起きているのだという。
今はブルムンドとその周辺国程度にしか知られていないが、一度広がり始めれば西方諸国中に広まることは避けられず、その利便性から注目が集まり、利用したいと考えるのが多くいるのは必然である。故に、その場所を話が広まる前に手中に収めれば、関税をかけるだけで大きな収益が見込めるとのことだ。
そして現在、関税で収益を得ているのがファルムス王国であり、魔国連邦が台頭すれば最も打撃を受けるのもまたファルムス王国であるのだ。
そういった事情を斟酌せずに自らの利便性を優先してしまったが故の襲撃かとリムルが歯噛みしていると、商人の一人が声をあげる。
曰く、ファルムス王国の王は強欲で有名であり、利害関係の衝突がなくとも、利益の拡大のために手を出してきたであろうとのことだ。
その一言を皮切りに集められていた人間たちから声が上がる。その内容はリムルたちに気を遣ったものであったとはいえ、概ね好意的なものであり、冒険者の中には魔国連邦に味方してファルムス王国と戦ってもよいと言い出すものまで現れた。
「皆さんの気持ちは嬉しいが、この問題は俺達だけで片付けます。皆さんにお願いしたいのは、この事態を一刻も早く国元へと伝えることです」
「それなら、馬車の準備をさせている」
「それではだめだ」
「どういうことです?」
「ファルムス王国からすれば自分たちに不利になるような情報を世には出したくないはずだ。ならば、魔国連邦に利のある証言をする可能性のある人間を殺して口封じをしかねない。そのうえ口封じの殺人を
しかし、リムルが戦闘への協力を断り、代わりに情報の拡散への協力を頼むが、その移動法として馬車を使うことにテクトが待ったをかける。
テクトの話に皆が納得し、ではどうやって帰国するかという話になったが、その点は「空間移動」を使えることをぼかしながらだが、無事の帰還を断言することで一定の信頼を得ることに成功し、いったん解散した。
ブルムンドからの客人がはけた後、ここまで黙っていたミュウランからの聞き取りを始めることにした。
ミュウランは魔王クレイマンの配下「五本指」の一人であり、町の内偵のためヨウムを利用して潜入することにしたのだという。
元々は「薬指のミュウラン」と呼ばれ、クレイマンの知恵袋としてかなりの地位だったらしいが、今では用済みとして軽い扱いをされていたらしい。
クレイマンに魔人が従う理由は様々であるが、大半は脅迫か魔法による強制で従わされているという。
ミュウランは自身の研究を完成させて、魔法の深淵を覗くのを生きる目標としていたところ、永遠の時と老いることのない若い肉体を餌にクレイマンと取引し、その際にかけられた秘術「
そして、命令により大魔法を行使した。当初はミリムの宣戦布告を知った魔国連邦側が、ユーラザニアへの援軍を出すのを妨害するためだと考えていたが、実際にはこれほど大規模な魔法を展開しなくともいいことに遅れて気付いたのだそうだ。
今回の命令で最後だといわれてはいたものの、成功率は低いことは分かっており、成功にせよ失敗にせよ生存確率も低いことは理解できた。しかし、ヨウムを人質に取られたうえ、この命令で最後だという希望を与えられ、それを信じて従ってしまったようだ。
もはやミュウランは生き残るつもりはなく、リムル達の推察通り、自分が死ぬことでヨウムたちに咎が及ばぬようにするつもりだったようだ。
クレイマンは最後に
「面白くなってきました。大戦争が起こりますよ! 思わぬ流れから予想外の展開になりましたが、はてさて」
といっていたらしい。
この戦争とは魔国連邦とファルムス王国との間での戦争を指しており、ファルムス王国の動きに合わせて、魔国連邦からの外部への連絡を封じることを目的としていたと考えられた。
ミュウランの大魔法は設置型であったため、消えるまでに一週間以上かかり、今ここでミュウランを殺しても解除はされない。情報封鎖を目的としている以上、簡単には解除もできないだろう。
ドワルゴンやブルムンドに現状を伝えることはできるものの、すでに行動を起こしているファルムス王国を迎え撃つには後手に回りすぎていた。
そのうえ、現状では救援を求めるわけにもいかなくなっている。
相手がファルムス王国だけであれば牽制として軍事行動を起こす演技などによる牽制も使えるが、ファルムス王国の背後に西方聖教会がついているため、ドワルゴンとブルムンド、西方聖教会まで関わる大戦争となるか、長期化し神敵の認定を受ければ、世界中を巻き込んだ大戦へと発展する可能性もあるのだ。
そして、その戦争を隠れ蓑にクレイマンが暗躍することになるのだろう。
ゲルミュッドもクレイマンの操り人形の一人だったらしく、豚頭帝の件で関わっていた魔王たちもクレイマンの手のひらの上だったようで、こそこそするのが好きだというミリムの評は間違っていなかったようだ。ただし、その危険性の判断基準はミリムの基準だったようだが。
そして、ミュウランは心臓を返してはもらえなかったらしく、使い捨てにされたことは明らかだった。かといって許すかどうかは別問題ではあるのだが。
「なるほどな」
「旦那! 怒りはもっともだ。だが、ミュウランを許してやってほしい!」
「俺からもお願いします。彼女はただ、魔王クレイマンに逆らえなかっただけなんですよ!」
話を聞き終わり、息をついたリムルに対し、ヨウムとグルーシスが懇願する。スイレンも何か言おうとしたものの、これ以上自分が叛意を持っていると取られるような行動をすれば、その原因になっているミュウランの立場を悪くするのではと考え、動かなかった。
「許すかどうかは全てが終わってから考える。それまでは部屋に軟禁させてもらう。逃げようとは考えないでほしい。そうなれば、俺がどういう行動に出るかわからないから」
「分かったわ」
「テクトさん」
「ヨウム、気がかりなのはわかるが今は冷静に裁ける状況にない。ミュウランはお前の部下たちと同じ宿に入れる。一緒の部屋にいてやれ。グルーシスもな。それとスイレン」
「は、はい」
「お前の行動は目に余る。お前も軟禁しておく。文句はないな?」
「……承知いたしました」
「リグルド、案内してやれ。監視も頼む」
「ハッ! お任せください!」
テクトがミュウランの処分を後回しにし、スイレンまで含めて軟禁するように指示し、案内のリグルドとともにミュウランたちが退出すると、リムルが声をかけた。
「スイレンはどうするんだ?」
「後回しだ。それよりも洞窟の通信結晶は使わない方がいいだろうな。こちらの知略が奴の策を上回ったとぬか喜びさせるための穴かもしれん」
「そうだな」
テクトの考えにリムルが同意すると、ゴブリナが一人入ってくる。どうやら客人たちの準備が整ったらしい。
「リムルは客人たちの移送を頼む。それとけが人の方にも行ってみてくれ。傷を治しにくくするようなスキルの影響で回復薬単体では治せないかもしれない。最後に、悪いがベニマルと二人にしてくれないか?」
「分かった。ベニマルも今はできることはなさそうだしな。よし、行くぞ」
リムルの号令に従い、テクトとベニマルを除いたメンバーが退出する。沈黙を破ったのはテクトだった。
「ベニマル。お前のことだ。いろんな奴に聞いて回ったんだろ? 聞かせてくれ」
「……お気づきでしたか」
「悪いな、普段が隠してばかりだからか気づいてしまった」
テクトの言葉にベニマルが申し訳なさそうにするのにテクトも謝り、話を促す。
「聞かせてくれ、シュナのことを」
この世界で愛することにした少女の最期を。
ベニマルは一つ息を吐くと、ゆっくりと話しだした。
「俺もその場にはいなかったので伝聞ですが、異世界人と目される人間がゴブゾウに絡んだ時、その場に居合わせた女のスキルをシュナが中和していたようなのです。そのスキルはどうやら、周囲の人間の思考を自身の魔力を乗せた声で誘導する力があるらしく、シュナの「解析者」による解析から相殺する形で魔力を発することで無効化していたらしいんですが、その最中に例の大魔法と結界が発動し、力が奪われました。攻勢に出た異世界人からはゴブゾウがかばったようなのですが……その際に急に倒れたそうです」
「倒れた……だと?」
「はい、周囲には誰もいなかったのに、殴り倒されたように倒れたと」
ベニマルの魔素が荒れそうになるたびに抑えつつ、話を聞くテクトがあげた疑問を肯定し、詳しい状況を伝えた。
(周囲に誰もいなかった……つまり遠距離攻撃。魔法か? いや、それなら何かしらの攻撃で倒れたという形の報告になるはず。精神系の攻撃なら殴られたというようには言わない。だとすると、銃を使っての狙撃か)
「テクト様?」
「ベニマル、シュナが倒れる前に爆発音を聞いたやつはいなかったか?」
「爆発音ですか? いえ、そういった話は聞いていませんが」
考え込むテクトにベニマルが話しかけると疑問を解消するための質問をするとその回答に再び考え込み始めた。
(誰も聞いていない……
「話は分かった。俺は一度現場を見てみることにする。お前はどうする?」
「……俺も随伴していいですか? 何か心当たりがあるんですよね?」
「解決に直結することではないが、それでも良ければ来るといい」
シュナが倒れた原因の心当たりをつけつつベニマルに水を向けると、ベニマルも同行を申し出連れ立って部屋を出る。転移をしないのは移動中に考えをまとめるためだった。
「テクト様は、冷静ですね。俺は役目も忘れて暴れまわるところでした。情けない限りです」
「冷静ではないさ。仮に俺がお前だったら、既にミュウランを殺していただろう。それを押さえていられるお前の方が優秀だ」
異世界人が暴れ始めた現場へと移動する最中、ベニマルがふとこぼす。テクトは声の抑揚をそのままに答えるが、平静を装えるのにも理由があった。
その理由が「苦痛無効」である。実のところ、テクトのスキルは参考としているスキルから、性質がやや違うものとなっているものがある。
例えば、「状態異常無効」に統合された「睡眠無効」は元となったスキルがそのまま効果を発揮するならば、テクトもリムル同様に睡眠は必要なく、眠れない状態になっているはずなのである。にもかかわらず睡眠を必要とするのはスキルを獲得する際にその内容が変化したことを意味する。
勿論「苦痛無効」にも本来の効果からの変化は及んでいる。
そして、その内容の多くは白織拓磨による補完によるものである。本来の「苦痛無効」とは「痛覚無効」の進化前のスキル「痛覚軽減」を取得するための前提スキルであり、痛覚による行動制限をなくすことがその効果である。
だが、それらのスキルに対する知識を習得するに際してアニメの視聴時の体調からか精査はできておらず、スキル取得の経過や効果を誤解したままで死亡したため、スキルに関して錯誤を生じさせたままの転生となった。その結果「苦痛無効」は自身に降りかかった苦痛を無視して思考を行うことを可能とするスキルとなったのだった。
それによって、現在、シュナを失ったという心因性の苦痛を無視して思考ができている。
かといって、怒りによる衝動を制御することはできず、ミュウランへの攻撃はしてしまったのだが。
現場にたどり着くとテクトは付近の確認を始める。
地面や付近の建物の状況を調べ、壊れたものを確認する。そのままになっていた壊れた屋台などのもとにも移動して観察していった。
「確認できるのは、あとは……広場の方か……」
テクトの声にベニマルの肩がピクリと動く。そこに亡骸が安置されていることを知っているが故の反応だった。
二人が広場の方に向かっているとハクロウに肩を借りたゴブタを筆頭にコウカやリグルといった暗い顔をした面々に出会う。
「テクト様……」
「二人とも傷を負ったと聞いたが、治ったようで何よりだ」
「いえ、不覚を取りまして申し訳ありません」
「気にするな。生き残っていただけで十分だ。リムルはこの先か?」
「はい、一人にしてほしいと……」
申し訳なさそうにするハクロウを制し、広場の様子を尋ねるとリムルが一人でいるという。
それを受けて少し考えると進み始めた。
「テクト様」
「リムルは戻る前に俺の話を聞いている。無碍にはしないさ。ベニマルはここに残れ。リムルを不必要に刺激したくない。お前たちも、ここにいてくれ」
進もうとするテクトにコウカが声をかけるが、それを振り切って進んでいく。誰もついてこないように伝えて広場へと進んでいくと、先ほどと同じように布のかけられた骸が横たわる中にリムルが立ち尽くしていた。その前には紫色の髪をした女性が横たわっている。
「テクト……きたのか……」
涙を流すような罅の入った仮面をつけたリムルの沈鬱とした声がむなしく響いていた。
次回「蜘蛛の糸」
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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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