サルベージ出来たデータ2つ目です。
テクトはリムルの声に応えることなく遺体の一つに近寄ると、顔にかけられた布をめくる。その先からテクト達のよく知る桃髪の鬼人が、シュナが現れた。
他の遺体に干渉しないように、糸を使って空中から逆さになったテクトが愛おし気にシュナの頬をなでるのを見て、リムルは呆然としたまま呟いた。
「お前は、なんとも思わないのか?」
「何も感じない、というわけではないさ。ただ、どうにもその手の痛みに耐性があるらしい」
リムルの非難するかのような言葉をテクトは聞き流しつつ、シュナの髪をなでる。その間にリムルを刺激しないように極細の糸を使ってほかの遺体の検分をしていく。
(傷はない。コウカたちが回復薬でも使ったか。とはいえ、ベニマルから聞いた証言と路面の状況から、おおよそ推測通りだろう……となると、警戒度は引き上げる必要がありそうだな)
検分を終えたテクトは眠るシュナの額にキスを落とすと、体勢を正常なものに直してリムルに対して背を向ける。その様子にリムルは口を開きかけたが、それは言葉にはならず、そのまま見送るにとどまった。
リムルを置き、ベニマルと再び合流すると、テクトは執務館へと戻った。
「さて、今回の件での死者が百二十一名、怪我人が十数名いたが全員完治、か。蘇生法に関してはイングラシアで見た魔法書から該当項目がないか当たってはいるが、望み薄だろうな」
「……そう、ですか」
テクトが部屋の窓から外を眺めつつ呟くとベニマルがうめくように返事をする。沈痛な雰囲気の中、糸を伝ってソウエイからの「思念伝達」が届いた。
『テクト様。リムル様との連絡が取れないのですが……』
「ああ、しばらくそっとしておいてやってくれ。そうだな……時々思念を送って反応を確かめてみてほしい」
『承知いたしました。それで、結界の件なのですが』
ソウエイからの報告は町を覆う結界についての報告だった。
人間たちは町の四方に陣を張っており、そこに置かれている装置によって結界が発生しているらしい。人間たちの人数は中隊規模であるが、転移の魔法陣が置かれているため、攻撃に時間をかけると他から応援を呼ばれてしまうことを考えると、ソウエイ達では殲滅は難しいとのことだった。
「そうか、無理はしなくていい。お前たちはガビルと合流して休んでいてくれ」
『しかし』
「リムルが落ち着くまでは動けない。今は待機だ」
『御意』
テクトはソウエイを休ませ、視界を切ると息を吐く。目を開けると、壊れた屋台の片づけや周囲の警戒のための班分けなどのため指示を出し始めるのだった。
それから三日。
壊れた屋台の撤去は終了し、できる限りのことをしていたテクトに警戒を続けていた班の一つから連絡が入る。以前、魔国連邦で開発していた馬車が向かってきたらしい。馬車にはカバル達が乗っており、案内している最中だという。
「テクトさん。すまない。遅くなった」
「テクトさん。その、何と言ったらいいでやんすか……」
町の外れまで迎えに来たテクトに、カバルとギドが口ごもりながら告げる。その表情には疲れが浮かんでおり、無理をして来た事がうかがえた。
「悪いな、今ごたごたしていて、ゆっくり休ませてやれそうにない。それで、何しに来たんだ?」
テクトが要件を問うとエレンが話し出した。
「あのねぇ、可能性は低いんだけど……ううん、無に等しいと思うんだけど……死者が蘇生したっていうおとぎ話が、いくつかあるのよぅ」
「っ!!」
《告。周囲を覆う複合結界と大魔法:
「……いいタイミングだ。悪い、リムルのとこまでついてきてくれ」
テクトが驚き、声をあげそうになった瞬間、シラヌイから報告が入る。リムルにも「大賢者」から同様の報告が届いており、今回の悲劇の元凶の一つについての報告であるため、絶望から気が逸れている可能性を感じたテクトは、リムルにエレンのことを伝えると返事が帰ってきたため、有無を言わさずエレンたちを引っ張っていくのだった。
リムルの場所にはすぐに到着した。エレンが蘇生に関する話を持ってきたことを伝えていたため、リムルは魔物たちの骸を背にテクトたちを出迎えた。
「よく来たな、お前ら。悪いが今、俺達には余裕がない。早速話してくれ」
リムルが会話もそこそこにエレンに話を促すと、エレンはうなずいて話し出した。
少女とペットの竜の物語
あることがきっかけで竜を殺された少女は、自らの唯一の友達でもあったペットの死を嘆き、怒りとともに手を下した国家を消滅させた。
そこに住む十数万の国民もろともに。
そして、少女は魔王に進化する。その時に、奇跡は起きたのだ。
少女とつながっていた竜は、少女の進化に伴い、死してなお進化したのだ。
けれども、そこで奇跡は終了だった。
死と同時に魂を消失していた竜は、意思のない邪悪なる
少女の命令には忠実だが、その他一切の者共に破滅をもたらす邪悪なドラゴンへと変貌してしまってのである。
怒りから覚め、魔王となった少女は、嘆きつつもペットであり友達でもあった混沌竜を、自ら封印することになる。
物語は少女が竜を封印したところで締めくくられた。
エレンの話以外にも、吸血鬼による「
神聖魔法には、神の奇跡:
万策尽きたと考えていたテクトとリムルにとって、進化による蘇生の可能性は想像の外だった。
(どう思う?)
(なくはないな……この世界では個別の名がつくだけで進化が始まる。系譜の頂点に位置するものの進化に伴って進化する可能性もないとは言えないだろう。問題は魂が残ってないってことだ)
(そうだな……いや、まて。今は魔物が通れないように結界が張られてる。この状態なら魂は拡散せずに結界内部にとどまっているんじゃないか?)
テクトとリムルはエレンたちに話を聞かせないために思念で会話をし始める。リムルの考えに反応し、「大賢者」が計算を始める。
《解。個体名:シオン及び、その他の魔物たちの魂の生存確率は三・一四%です》
(円周率かよ!)
(それだけあれば十分だ。あいつらがそう簡単にあきらめて死んだりするものか! あとは、俺たちが魔王に進化できるかだ)
《解。個体名:リムル・テンペストは「魔王種」への進化条件を満たしています。また、個体名:テクト・D・F・テンペストはすでに「魔王種」となっています。「真なる魔王」へと進化するのに
(なるほど、余裕だな)
(最低でも二万か……足りるか?)
(足りなきゃ、取りに行くだけだ)
リムルが生存確率へと突っ込みを入れ、テクトが魔王への進化が可能なのかをシラヌイに計算させる。その結果から進化へと前向きに考えていると、テクトはふとエレンへと向き直った。
「エレン。教えてくれたことは助かった。ありがとう。だが、よかったのか? これが知られれば、新たな魔王の誕生に加担したことになってしまうが……」
テクトの言葉にリムルもエレンへと顔を向ける。エレンは一瞬顔を伏せるが、すぐに覚悟を決めた目で顔をあげると話し出した。
「私はね。魔導王朝サリオンの出身なのよ。本当は自由な冒険者にあこがれてたんだけど、もういいの。シオンちゃんたちを助けたい気持ちは一緒だし、ファルムス王国も西方聖教会も許せないもの。魔物だから悪しきもの、なんて言う考え方、私は嫌い。この手法を教えたことで、もう取り返しのつかないことは理解しているの。でもどうしても、このままじゃだめだと思ったんだ……」
エレンの本来の素性はエリューンという魔導王朝サリオンの貴族であり、冒険者にあこがれて国を出たらしい。カバルとギドは彼女についてきた護衛であったようだった。
エレンは自分が冒険者を続けることで自由組合に迷惑がかかることを懸念して魔国連邦へと所属を移し、可能なら移住したいという。それにカバルとギドも従う旨を主張した。
「たぶんね、二人が魔王になったら、私が情報を漏らしたことはすぐに伝わっちゃうと思うの。私が関与しているのはすでに情報部には筒抜けだろうから、有無を言わさずに、国へ連れ戻されることになると思う。だから、それまではここで、精一杯手伝いたいの。最後まで、結末を見届けたいの」
「移住を許したら、魔導王朝サリオンとことを構えることになるかもしれないが……恩人のことを無碍にするのはなぁ……連行でエレンに危害が加えられることが争点か……まぁ、今は保留だ。忙しいし」
エレンの話を聞き、テクトは頭をかくと回答を先延ばしにした。そのことにやや不満そうにしつつも、エレンは確認を取り始める。
「そんなぁ。でも、シオンちゃんたちが助かるかどうか、最後まで確認してもいいでしょ?」
「それは構わない。エレンがくれた情報だしな。けど、俺たちが魔王になった時に、人格が変わってお前らを襲っても、責任はとれないぞ。それでもいいのか?」
「うーん。それは嫌だけど、しょうがないよね。私は二人を信じるよ!」
エレンの回答にため息をつきつつもカバルとギドは反対せず、魔国連邦に残ると宣言する。
何のかんの言いつつ忠誠心の高い二人に笑いかけつつ、方針を固めていった。
テクトたちがまず行ったのは、結界の補強である。ミュウランの張った結界の残りの持続時間が少なく不安定なので、突如結界が消失し死んだ魔物の魂が拡散するのを防ぐためである。
リムルが相当な魔素を消費してミュウランのものより強力に結界を張り、テクトから補充を受けていると、ベニマルたちが駆け寄ってきた。
「リムル様、テクト様、これはいったい⁉」
「ベニマル、皆を集めろ! 今後の方針について会議を行う!」
「御意!」
「エレン、悪いが皆の前でさっきの話をもう一度してくれ。そのためにも会議に参加してほしい」
「うん。私たちにできることならなんでもやっちゃうわ!」
「じゃ、先に行っててくれ。俺はちょっとやることがあってな」
駆け寄ってきたベニマルたちに語気を強く指示を出して追い返し、エレンにも会議の参加を頼むと快諾され、笑顔を浮かべて移動を促すと、テクトは一つの宿へと向かっていった。
テクトは目的の宿へたどり着くと、そのまま扉を押し開け中へと進んでいく。すぐに目的の部屋へとたどり着くと、一応ノックをしたが返事を待たずに中へと入った。
「テクトさん……」
「ミュウラン、お前への処罰を決めた。ここで死んでもらう」
部屋に入るとヨウムはわずかに顔色を悪くし、その場にいたグルーシスとスイレンも硬直した。彼らの顔色はミュウランへの処罰を聞いたことによりさらに悪くなったが、それに対してミュウランはあきらめたように頷くと、一歩進み出る。
それに反応し動こうとするミュウラン以外の三人を縛り、テクトはミュウランへと手をかざす。
「そうだな。最期に言っておくことはあるか?」
「少しだけ、いいでしょうか?」
「待ってくれ、テクトさ」
テクトが抵抗を続ける三人を放置し、遺言を残す時間を与えるとミュウランはヨウムに微笑み、その唇をふさいだ。
「好きだったわ、ヨウム。私が生きてきた中で、初めて惚れた人。もしも生まれ変われたなら、今度こそ貴方と一緒に生きていきたいわね……さようなら、今度は悪い女に騙されないようにね」
ミュウランはヨウムに気持ちを伝え終わるとテクトのほうへと向き直る。すると、その体が糸で覆われ始めた。
「せめてもの慈悲だ。死に様は見えないようにしておいてやる」
そういいつつテクトは糸を操り、ミュウランを糸で覆いつくすと、かざしていた手を閉じる。
《告。個体名:ミュウランの「擬似心臓」は正常に作動を開始しました》
手を閉じる動作が何を意味するのか思い至った三人が絶叫する中、糸が解かれ、ミュウランが姿を見せる。その表情は苦痛にゆがんだものでも整えられた寝顔でもなく、困惑に満ちたものだった。
「これはいったい……」
「まぁ、死んだだろうな、三秒ぐらいは」
「それはどういう……」
「もちろん、説明はする。ひとまず座るといい」
テクトが落ち着いて話をするために着席を促すと、三人は騒ぎ出す。時間が過ぎていくことにイラついたテクトが「畏怖」を込めて睨むと静かになり、着席する。それを見てテクトは話し出した。
ミュウランに仕込まれた「支配の心臓」はクレイマンによって魔素を介さない電気信号と地磁気を利用した暗号化通信による盗聴に使われていた。仮初の心臓はその鼓動と生体波長に交じり、暗号化した電気信号を発信させる。それが地面を伝わって、クレイマンの元まで届けられる。クレイマンはそれを解読し、情報を集めているのである。
詳細な報告をさせるのは、それを悟らせないためのカモフラージュというわけだ。配下を信じていないという話通りのクレイマンらしい行動といえるだろう。
テクトが気付いたのはこの三日間でミュウランについて探っていたからである。魔王三人を掌で転がそうと考えるような者が実地に赴かせる工作員一人から得られる情報だけで計画を実行するだろうかと考え、ほかに諜報員がいないか、魔法自体に情報収集をするための効果が付与されていないか精査を行っていたのだ。その際に感じた波長から情報を読み解き、ミュウランの殺害偽装を考え付いたのだった。
「と、いうわけだ」
「じゃ、ねーよ!」
「そんな簡単に言う内容じゃないでしょう? それは誰にも知られていないはずの、魔王クレイマンの力の秘密じゃないんですか⁉」
「配下全員に同じようなもの仕掛けているんだったらそれを同時に読み解けるのはさすが「
「いや、そうじゃなくて」
説明後も何事か言いたそうにするヨウムたちの口元を縛り上げ、物理的に黙らせると、ミュウランへと話を振る。
「それで、望み通り生まれ変わった気分はどうだ?」
「えっ?」
「ミュウラン、これでお前は自由だ。とはいえ、お前は俺に恩がある。それを放っておいてどこぞへ旅立つということはないだろうな?」
テクトに言われて自分を縛るもののなくなったことを遅ればせながら理解したミュウランは、笑顔を浮かべるテクトへとひざまずいた。
「何でも言ってください。忠誠を誓えというなら、私はそれに従うわ」
「よく言った。とはいえ、お前を長々と縛るつもりはない。シュナ達が生き返るかもしれない可能性がある。成功のため、協力してもらうぞ」
テクトの言葉に目を見開き驚くミュウランたちに向けて不敵に笑うと、その笑みをわずかにいやらしいものへと変え、ミュウランへと話しかけた。
「それが終われば、今度こそお前は完全に自由なわけだが、今後どうするつもりだ?」
「そうね、私、せっかく自由になれたけれど、人間の短い一生分ぐらいなら、束縛されてもいいかしら」
ミュウランの言葉にヨウムは顔を赤くし、それにつられたようにミュウランも顔を赤くする。がたがたと動き始めるグルーシスとスイレンを放置し、ヨウムの糸を外すと、ヨウムへの指示を出す。
「さて、こんな状況でもなければ祝辞でも述べたいところだが、お前にも一つやってもらいたいことがある」
「ああ、何でも言ってくれ」
「GOOD! 大変結構! ヨウム、お前には王となってもらう!」
「は?」
ヨウムはあっけにとられたような顔をする。テクトは真剣な目をすると話し出した。
「今回攻め込んできた軍は皆殺しにする。あいつらを生き返らせるためには魔王になる必要があるからな。その生贄になってもらう。だが民間人に手を出すわけにはいかない。必要となれば殺すが、いらない非難を生むことは避けたいからな。だが、ファルムス王国の現執行部には戦争を起こした責任を取るという形で粛清する必要がある。その後の治世のために、お前には王になってもらいたい」
「……簡単に言ってくれるな。俺が、王だと?」
テクトの言葉にヨウムは絶句する。しぼり出すように乾いた声で告げるが、そこにミュウランが語り掛けた。
「ヨウム。テクト、様は貴方ならできると思っているのよ。私も貴方を応援すると約束するから、波乱万丈に生きてみたら?」
「ぷはっ、俺も付き合うぜ、ヨウム」
「あ? なんだってお前がついてくるんだよ?」
「お前が寿命で死ねば、そっから時間をかけてミュウランを口説けばいいからな」
「っ! てめぇ!」
「それが嫌なら、せいぜい長生きしてミュウランの心に強く残るぐらい生きるんだな」
「チッ、分かったぜ。引き受けてやるよ! その話!」
ミュウランの言葉にわずかに逡巡するヨウムだったが、テクトに目配せして糸を外させたグルーシスが発破をかけ、それを受けたヨウムが承諾する。
テクトはスイレンがうつむくのを見てため息を嚙み殺すと、覚悟を決めたヨウムの手を取る。細かい打ち合わせは置いておき、ひとまず会議室へと移動するのだった。
俺は間違えるわけにはいかない。
これから暴虐の限りを尽くさんとするわが身に釈迦がかける慈悲などあるまいが、それでも彼女を取り戻すことを願うのは悪だといえるのだろうか。
もしそれが許されるのなら、どうか、希望の蜘蛛の糸が途切れぬように。
次回「四方同時攻略戦」
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現在投稿可能な分がなくなりました。故障したPCの修理は無理そうですが、新規購入も現状厳しいので、続きの投稿は先になりそうです。スマホでの長文の入力は苦手なので…
以前作成していた他の原作の二次創作を発掘したので、生存報告がてら投稿しようかと考えています。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい