転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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誰が為にそれを為す

 ショウゴは苛立っていた。

 

 眼の前に立つゲルドに自分の力が通じなかったからだ。この世界に来てからはそんなことはなかった。力をぶつければ相手は無様に這いつくばり、許しを請うのが常だった。

 

 ショウゴは渾身の力をユニークスキル「乱暴者(アバレモノ)」に注ぎ、ゲルドへ蹴りを放つ。しかし、これまでと同じようにゲルドの楯鱗の盾で阻まれた。

 

「卑怯だぞ! 男なら素手で戦いやがれ!」

 

「意味がわからぬ。これは戦争なのだぞ? 卑怯も何も、持てる力を出し切ることこそが、相手への礼儀であろうよ」

 

「ふざけるなよ、こっちは武器も持っていないのに、自分だけ完全武装で恥ずかしくねぇのかよ?」

 

 ショウゴの言葉にゲルドは困惑した。まるで我慢を知らぬ幼子のような癇癪を起こしていると感じる言動に絶句していた。

 

「なんてな、悪い悪い。邪魔な盾を捨ててくれないかと思って、言ってみただけだし。じゃあ、身体も温まって来たことだし、そろそろ本気を出すとするかな」

 

 武人としての考えに染まりきったゲルドは、勝手気ままなショウゴのセリフに、以前テクトにかけられた言葉を思い出した。

 

『煽り、だまし、挑発。それらは等しく戦術だ。ゲルドの性質とは相性が悪いから取り入れろとは言わないけど、頭のどこかに留めておくくらいはするといいよ』

 

 敬愛する主の言葉に気を引き締め、ショウゴを油断なく見定めると口を開く。

 

「……本気、か。良かろう、オレも全力で」

 

「シャア──ー!」

 

 ショウゴはゲルドの言葉を最後まで聞かず、気合を発すると凄まじい勢いで地を蹴り、ゲルドへと蹴りを浴びせる。

 

 怒号のような気合とともに放たれた蹴りをゲルドは危なげなく防ぐが、その際に盾にヒビが入り、わずかに目を見開いた。

 

「もう一丁!」

 

 盾を蹴った反動で地面に着地し、その勢いを殺さぬままに再び仕掛ける。

 

 そして、その蹴りは盾を砕いた。

 

 ユニークスキル「乱暴者」の権能である「武器破壊」の効果が発揮されたのだ。いかにユニークスキルの権能とはいえ、特質級の武具の破壊を簡単にはこなせない。そこで、ショウゴは無策を演じつつ、同じ箇所を攻撃し続けていたのだった。

 

「ザマー見やがれ! 盾がなければ、次は防げないだろうが!」

 

「なるほど。短気で無策に見せかけていたということか」

 

 勝ち誇るショウゴに対し、ゲルドは感心しつつも冷静に、主の言葉を身を以て学べたことを嬉しく思いつつ、「胃袋」から新品の盾を取り出した。

 

「は? なんだ、それッ⁉汚ぇぞ!」

 

「何が汚いのだ? 言っただろう、これは戦争なのだと。あらゆる手段を取るのが礼儀。故に貴様がどのように卑怯な真似をしようとも、オレはその全てを許してやる」

 

「卑怯? このオレが卑怯だと? 舐めるなよ、豚が!」

 

「豚ではないのだが、まぁいい」

 

「うるせぇ!」

 

 ショウゴは一つ短く息を吐くと、問答の最中も油断なく盾を構えるゲルドを強敵と認め、冷静に観察する。

 

 しばし考え、ショウゴはゲルドの守りを強引に崩すことに決め、準備を開始した。

 

 三戦立ちという空手独特の基本的な構えを取り、息吹という呼吸法で外気とともに魔素を取り込みつつ全身の筋肉を締め上げて集中力を高めた。

 

 そうして取り込んだ魔素を利用し、「乱暴者」の権能である「金剛身体」を発揮し、自身の肉体の高度を鋼鉄以上に引き上げる。

 

「待たせたな。本気の姿で相手してやるから、少しはオレを楽しませてくれよ?」

 

「言われるまでもない。こい!」

 

 ショウゴの準備が終わり、投げかけられた問にゲルドが短く返すと、ショウゴは短く息を吐き襲いかかる。

 

 肉体強度が上がるとともに脳内制限が解除されたショウゴの速度と力は先ほどまでの比ではなく、その変化にゲルドはわずかに目を見開いた。

 

 一気に間合いを詰め、気合とともに放たれた竜巻正拳突きが「武器破壊」と「金剛身体」の効果を加えて放たれ、新品の盾を一撃で破壊する。自身の全力であればゲルドの防御もたやすく崩せると認識し、勝利を確信するショウゴだったが、次の瞬間には違和感を感じた。

 

 わずかに感じた四肢の痛みがあっという間に激しい苦痛に変わり、ショウゴを苛んだ。

 

「うお、なんだコレ⁉クソッタレがぁ⁉」

 

 苦痛の正体は絡みついた黄色い妖気、混沌喰だった。ショウゴが盾を破壊し、気の緩んだ隙にゲルドが攻撃へと転じたのである。

 

「貴様の肉体強度はなかなかのものだ。それはこの短時間の戦闘で観察しただけでも、十分に理解できた。だが、「腐食」には弱いようだな」

 

「ふ、腐食だと? クソがぁ! これを取れ、取りやがれ!」

 

 激しい痛みに癇癪を起こしつつ転がるショウゴを憐れむでもなく見下ろし、ゲルドが肉切包丁を構えるとショウゴは顔を青ざめさせた。

 

「楽にしてやろう」

 

「ヒィ! ま、待て! ちょっと待ってくれ!」

 

 ゲルドの守りを崩し切れず、自身の四肢が痛みとともに腐っていくのをみて、ショウゴの心は弱っていく。

 

 これまでずっと奪う側へと立っていたショウゴは自身が危険にさらされることに慣れておらず、非常に弱気に見苦しくも命乞いをするかのように後ずさって行く。

 

 混沌喰を解除する術の持たないショウゴでは、逃げても苦しむ時間を長引かせるだけなのだが、それでも這々の体でわずかでも脅威から距離を取ろうとしていたところでゲルドへと一つの影が歩み寄る。味方かとわずかに希望を持ったショウゴだったが、現れたのはハクロウだった。

 

「ゲルドよ、まだ終わっておらんのか?」

 

「これはハクロウ殿、そちらは終わったようですな。こちらも、今からトドメを指すところです」

 

「クソが、キョウヤは何をしていやがる!」

 

 現れたのがキョウヤと仕合っていたはずの魔物であったと見て取り、取り逃がしたのに戻ってこない仲間に苛立ちをぶつけていると、その死が告げられるとともに何かが投げられる。

 

 ショウゴが恐る恐るそれを視界に収めると、それはキョウヤの頭だった。

 

 錯誤のしようがない証拠にショウゴは叫び声を上げながら一目散に逃亡する。自身の行く末を予見し、心底恐怖していた。

 

 動けないと思っていたショウゴの逃亡にゲルドは顔を渋くさせ、しかし、すでに四肢を侵されたショウゴに打つ手はないと考え、その後を追っていく。それにハクロウも続き、その先で見たのはショウゴが仲間であるはずのキララを殺害する瞬間だった。

 

 恐慌状態であるとはいえ、味方を殺すショウゴの姿に目を細める二人の前で異変が起きる。

 

《確認しました。ユニークスキル「生存者(イキルモノ

 

 )」を獲得……成功しました》

 

 ショウゴの生き残りたいという願いに応え、キララの魂を代償として、新たな力が生まれる。

 

 ショウゴの身体を蝕んでいた黄色い妖気が霧散し、腐食していた四肢が治癒される。

 

「「世界の言葉」とは……コヤツ、それが狙いじゃったか」

 

「仲間殺し、それはリムル様が定める最大の罪。貴様の所業は、魂のない魔物以下の悪行だ」

 

「黙れよ、クソ虫共が! 勝てばいいんだろ? 簡単だぜ。何しろ、オレは力を手に入れた!」

 

 ショウゴは完全に天狗になっていた。攻撃に特化し、ゲルドの守りを崩しうる「乱暴者」とゲルドの攻撃をなかったかのように回復できる「生存者」により、自身が無敵になったと錯覚していたのだ。

 

「手を貸そうか?」

 

「必要ない。ハクロウ殿、リグル殿たちの援護に向かってください」

 

 勝ち誇るショウゴに対して二人の反応は淡白なものだった。短く言葉を交わすと、ハクロウが一歩下がり、ゲルドが進み出て拳を構える。

 

「はぁ? 一人でオレの相手をするのかよ? 今の俺なら、二人同時に相手をしてやってもいいんだぜ?」

 

「貴様は格闘技に自信があるようだな。オレも素手で相手をしてやろう」

 

「格好つけるなよ。負けたときの言い訳がほしいだけだろうが!」

 

 ショウゴは自身に新たに備わった回復能力に恐れをなし、ゲルドが弱気になっていると断定して攻勢に出る。

 

 しかし、その攻勢はゲルドの一撃によってあっさりと覆された。

 

 ゲルドの怪力がショウゴが防御に割り込ませた両腕を引きちぎり、拳がショウゴの腹へとめり込む。吹き飛ばされる最中で既に回復が始まるをみて、ゲルドは混沌喰を両手に巻き付けつつ宣言する。

 

「なるほど。確かに再生能力はオレより上だ。ならば、どこまで耐えられるか見てやろう」

 

 いうが早いかゲルドはショウゴを叩きのめしていく。

 

「生存者」はその権能に「痛覚無効」を内包しており、重篤な損傷であってもショウゴは肉体的な痛みも苦痛も味わうことはない。

 

 しかし、ゲルドが拳にまとわせた混沌喰は物質体だけでなく精神体にもダメージを与えていった。

 

「生存者」の回復が及ぶのは肉体の再生のみであり、精神の再生は行われない。

 

 そのため、脆弱な精神であるショウゴでは、肉体の再生の完了すらままならないゲルドの連撃を前に心が折れるのも時間の問題であった。

 

 そして、それは十分も経たずして訪れた。

 

 心の折れたショウゴが命乞いをし、ゲルドとハクロウが呆れる。それにより止んだ打撃の嵐が再開する前に身体を引きずって逃げ出し、ゲルドがこれ以上長引かせぬよう今度こそトドメを刺そうとしたとき、ショウゴとゲルドの間に一人の老人が出現した。

 

「ふむ、何事かと思って来てみれば、……生き残ったのはショウゴのみ、か。これはこれは、儂としたことが、魔物共の力を見誤って追ったようじゃな」

 

 老人は話しながらも手をかざし、障壁を生むとゲルドの追撃を防御する。それによりショウゴが老人にすがりついた。

 

「ら、ラーゼンさん、俺を助けにきて⁉」

 

 ラーゼンと呼ばれた老人は、ショウゴを一瞥すると、ゲルドとハクロウに視線を戻す。

 

「なるほどのぅ、ショウゴ達では勝てぬ訳じゃ。信じられんが、Aランク、それも災厄級とはのう。今のままでは分が悪い。一度引くとするわい」

 

 そう言うと障壁が残る間に転移魔法の詠唱をすすめ、ラーゼンは撤退の準備に移る。

 

 彼らを逃さぬよう追撃を仕掛けようとするゲルドをハクロウが押し留めた。

 

「迂闊に動くでないぞゲルドよ。其奴、只者ではないぞ」

 

 ハクロウの言葉に従い動きを止めたゲルドの前で空間が爆ぜる。障壁と同時に展開されていた罠にゲルドが目を剥いていると、ラーゼンが笑い出す。

 

「カカカッ! 鋭いのう、この罠を見抜くかよ。警戒すべきはお主の方じゃったか。ひょっとするとこの戦、儂らにとっても楽観視できぬやも知れぬな」

 

「狸め。最初から儂を警戒しておったくせに」

 

「そんなことはないぞ、鬼人族よ。強さで見れば、そちらの豚頭帝の方に目が行くのが自然じゃろうて。さて、時間じゃ。もうちと話をしてみたかったが、儂の魔法が完成したようじゃし、ここは去るとしよう。生きておれば、戦場でまた会えるやも」

 

「それはない。貴様が向かう戦場には、我らが主達が向かわれておるからのう。主等はやりすぎたのじゃ。決して怒らせてはならぬ御方々を、激怒させてしもうた。同情するぞ、楽には死ねぬじゃろうからのう」

 

「カカカッ! つまらんハッタリよ。一応は忠告として、この耳に留めておこうぞ。では、サラバじゃ!」

 

 ラーゼンは見え透いた腹芸に続く再会を祈る言葉を食い気味に否定するハクロウを笑い飛ばし、ショウゴとともに去っていく。残された二人に離れた場所から戦闘音が聞こえてくる。

 

「宜しかったのですか? あのラーゼンという魔法使いを逃がしてしまっても」

 

「よくはなかろうが、戦えばワシか貴様か、下手をすれば全員が死んで追ったやも知れぬ。やつは自分が死ねば発動するように、もう一つの魔法を隠し持っておったからな」

 

「なんと……その魔法とは、それほどに?」

 

「恐らくは元素魔法の究極、核撃魔法じゃろう。ここにはリグルやゴブタもおるし、巻き込むわけにはゆかぬからのう……下手な博打は打てなんだ」

 

 苦々しくつぶやくハクロウの「天空眼」は「魔力感知」よりも詳細な情報を掴むことができる。これによって、ラーゼンの心臓部に集中する高密度の魔力の存在を知り、禁呪級の魔法であると推測していた。

 

「なるほど……」

 

「リムル様やテクト様であれば問題あるまいが、我らはなにか対策を立てねばなるまいよ。あのように危険なものもおるということを、皆にも伝えねばのう」

 

「心得ました。オレの配下にも伝達しておきましょう」

 

 二人が聞いていれば無策でなんとかなるようなものじゃないと否定するところだったが、この場で話は終わり、周囲への周知にとどまる。

 

 その後、ハクロウとゲルドも戦線に加わり、間もなく結界の維持装置は全て破壊された。

 

 

 

 テクトとリムルの眼下にファルムスの軍勢を捉えていた。

 

 ファルムスの軍勢はちょうど雪だるまような形に広がった森の空き地に天幕を張っており、森を行軍するならば踏破には三日という位置である。さながら宣言通りに攻め込む前の最後の大きな休息中といった雰囲気であった。

 

「さすがソウエイ、情報通りだな」

 

「これってさ、警告とかするべきか?」

 

「必要ないだろ。宣戦布告はあっちがしてきているんだ。まさか「殴ったが殴り返されるわけがない」と思っているわけでもないだろ」

 

 声音だけを聞けば和やかに、しかしてその雰囲気は殺気立たせつつもリムルとテクトが会話していると、ベニマルから全ての魔法装置が破壊されたことが伝えられる。

 

 次いで、ハクロウから厄介そうな魔法使いの情報がもたらされたが、魔法に対する対策は用意していたため脇に置き、町へ戻り、別働隊の警戒をするように指示する。

 

「さて、始めるか」

 

「ほんとにこっちじゃなくていいのか?」

 

 指示を終え、眼下の人間達を睥睨するテクトにリムルが声を掛ける。

 

 事前の割当では、指揮官であるエドマリス王がいると思しき他のものよりも立派な天幕のある、雪だるまの胴に当たる部分はリムルが担当することになっていたため、念の為確認を取ったのだった。

 

「言っただろ? 今の俺は冷静じゃない。もし指揮官と出会ったらそのまま殺してしまう。今回の計画ではエドマリス王は生かしとかなきゃいけないんだ。「捕獲者」の名が泣くが、リムルに頼むしかないんだよ」

 

「……そうだな」

 

 声音だけは平静に、表情と雰囲気をより殺気立たせ答えるテクトに、割当を決めるときに同様の発言をした際のテクトの雰囲気にリグルド達でさえ恐怖を感じていたことを思い出し、自分が冷静でなかったことを理解し、リムルも気を取り直す。

 

 担当の天幕達の中心へと移動しつつ魔法の準備を始めるリムルに対し、既に準備を終えていたテクトは手に持った大鎌を正中線に構え、瞑目すると大きく息を吐く。

 

 リムル側で魔法不能領域が展開され逃走防止が成ると同時にテクトは目を見開き、自身が担当する天幕達の中心へ降り立った。

 

 着地の衝撃により土埃が起き、兵士たちがざわめく。

 

 テクトが風を起こし、土埃を吹き飛ばすと、兵士たちがテクトの姿を視認し、想像の埒外にあった存在の登場にあっけに取られた。

 

 そして、混乱した頭が判断を下す前に、思考は永遠の闇へと沈んでいった。

 

 テクトがしたことは鎌を横薙ぎに一回転振り抜いたのである。その鎌の軌跡から水平に不可視の線が広がり、その線上にあった場所が元々そうであったかのように分かれる。

 

 テクトが起こした衝撃とともに絶命した兵士たちが崩れ落ち、一瞬で幾人もの同胞が死んだことを理解した、効果範囲外にいた者たちと、テクトの落下の衝撃に身を深くかがめ幸運にも生き残った―何も感じず逝けたという点では死者の方が幸運だったかも知れない―者たちが恐慌の悲鳴を上げる。

 

 その瞬間、テクトから放たれた「畏怖」の重圧に多くの者達が気絶する。気絶を免れたものも恐慌状態であり、冷静なものは事態を飲み込めていないものだけだった。

 

 更に、冷静な者たちにも恐怖が襲う。

 

 突如、一部の者の体が動き、近くにいたものを、近くにあった武器で最も効果的な場所めがけて攻撃する。

 

 油断しきった者たちは突然の造反に抵抗もできずに倒れ、なおも血を求めるように動くものたちと相対する。下手人の表情は抜け落ちており、明らかに不自然な状況だった。

 

 誰が裏切るのかと疑心暗鬼に陥り、連携も取れず、警戒の外から同士討ちの一撃で倒れる。

 

 無論、これもテクトの仕業である。準備段階で仕込んでいた糸を首筋へと突き刺し、魔法により電気信号を送ることで、身体を強制的に動かしている。普段纏っている人形が人間の骨格と筋肉の収縮を再現しているがゆえにできた芸当だった。冷静に見れば首から伸びる糸に気付くこともできたかもしれないが、現状で気付けるものはいなかった。

 

 かろうじて冷静であったものも、事態の把握もできず、中心から広がる恐慌、疑心暗鬼を引き起こす声、更には眼の前で起きる不自然な同士討ちに精神の均衡を崩し、混乱を生み出していく。

 

 逃亡を図ったものから、突如として塵と化す異常事態に陥り、混乱の中で動けなくなり、逃げたい心と逃げられない現実の矛盾に恐慌が広がっていく。

 

 その間にもテクトは神出鬼没に現れ次々と命を刈り取っていき、その姿と犠牲者の断末魔もまた恐慌を広げていった。

 

 そして、テクトの消える場面をみて、一人の魔術師が転移で逃げることを思いつき、必死の形相で転移魔法を編んでいく。

 

 この状況下であっても、その魔術師は優秀だったのか、いつも通りの時間で魔法を組み上げ、発動を試みる。

 

 しかし、転移は失敗した。

 

 この魔術師、いや、この場にいる人間に、もはや気付けるものはいないだろうが、既にこの空間はテクトによって支配されていた。

 

 ラミリスの迷宮にて影移動が空間移動へ進化した際に、テクトは外部との空間の断絶が起きていることに着目し、空間属性について研究を行い、周辺の空間座標を固定化し、魔法による空間干渉を防ぐ術を開発していた。

 

逃げ場無し(ロック・ロック)」と名付けられたその魔法により、逃亡の術を封じられた魔術師は現状を理解することなく絶望を自身が抱く最期の感情とした。

 

 一方で、テクトの敷いた包囲網から奇跡的に抜けられたものは壁にぶつかり絶望していた。上空へと伸びる細い糸が檻のように張られていた。それらはゆっくりと中心ヘと向かっていた。この程度が障害になるものかと突っ込んだものが塵と化すのを見て、後続の足が止まる。

 

 無論これもテクトの罠であり、糸に「腐食攻撃」を付与したものであった。これは誰一人逃さないというテクトの意思にほかならなかった。

 

 そうして狩り続けた数が一万を越えようかという頃、テクトの耳に声が届く。それは転生時以来聞くことのなかった世界の声だった。

 

《確認しました。ユニークスキル「異形者(ヒトデナシ)」を獲得……成功しました》

 

(人でなし……ね。まぁ、今の俺を表すにはちょうどいい表現だな)

 

 テクトは心中で自嘲じみたことをつぶやきながら、ペースを落とすことなく狩り続ける。その片手間に新しいスキルの解析を進めていった。

 

 

 


 

 次回「魔王への進化(ハーベスト・フェスティバル)




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

多分今日中にもう一度投稿すると思います。

アニメ3期のPVも出始めて期待も高まるというものです。

3期始まるまでにワルプルギスが終わるだろうか…

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