転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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おりがたい限りです。


37話:テンペスト復活祭

 深い眠りからゆっくりと意識が覚醒する。

 

 まぶたの外から光がさし、陽光があたっている事を感じ、ゆっくりと目を開けると、忘れることのないであろう巫女服の一部が目に入る。

 

 桃色の髪が風に泳ぎ、視界の端で揺れていた。

 

 眼の前の光景が自分に都合の良い夢ではないことを、後頭部から感じる柔らかさと温かみとともに実感していると、僅かな身じろぎから目を覚ましたことに気づいたのか、少女が顔を覗き込んできた。

 

「テクト様! お目覚めになったのですね!」

 

「ああ、おはよう、シュナ……」

 

「はい、おはようございます、テクト様」

 

「成功、したんだな……」

 

 声を交わしたかった最愛の少女と言葉を交わし、柔らかく微笑ながらその頬を撫でる。シュナが頬を染めつつも拒絶を示さないのをいいことに、その姿を愛でながら周囲の状況を探っていく。

 

 周囲に控える魔物たちは皆、その魔素量が増加しており、死んだままのものはいなかった。

 

 自身の魔素量もまた増加しており、進化は成功したのだと安堵していると、少し離れた場所でシオンに抱き抱えられていたリムルから声がかかった。

 

「あ〜、いちゃついてるとこ悪いが、皆待ってるし、いいか?」

 

「本当に無粋だね。まぁ仕方ないか」

 

 リムルの声にシュナの顔が更に紅潮し、硬直する。テクトは起き上がるとやれやれと頭を振り、リムル―というよりは、リムルを抱き抱えたシオン―の隣に立ち、復活した魔物たちに向き直った。

 

「「「「「我ら一同、一名の欠落もなく、無事に生還致しました‼」」」」」

 

 シオンがリムルを頭上に掲げ、その存在を強調する。

 

 これからも日常を積み重ねることができるのだと感じ、長く息を吐くテクトを見て、魔物たちがどよめいた。

 

「テクト、お前、なんで泣いてるんだ?」

 

 内容こそテクトが眉をひそめるものだったが、それは悪意があってのことではなかった。

 

 リムルの声に乗せられた感情は困惑だったからだ。

 

「はぁ? 皆生き返って嬉しいのに感涙しない奴なんてそうは……あれ? ホントだ!」

 

 テクトは滲む自身の視界と目元の水滴の感触に驚愕した。

 

 なぜなら、今のテクトの姿は完全な人型だった。今までも人型に見えることはあったが、あくまで人形であり、その目から涙を流す機能はない。テクトも涙を流すような機能拡充をした覚えはなく、本人の驚愕につながった。

 

《告。魔王への進化に伴い、スキルの統廃合を行った結果、ユニークスキル「無不知(エイチエタモノ)」が最終的に究極能力「叡智之神(オーディン)」へと進化しました。究極能力へと至ったことにより、統合された「身体変成」の自由度が格段に上がりました。これにより、個体名:リムル・テンペストが行う「擬態」ほど自由ではありませんが、人間への変化が可能となりました》

 

「なるほど、進化の影響がスキルにも及んでいるみたい。人形を使わなくても人間に見せることができるみたいだね」

 

「へぇ~、スキルの進化がイングラシアに行く前ならいろんなものが食えたのにな」

 

 テクトの言葉にリムルの表情が納得とともに気遣わしげな微笑に変わる。実際にぼやいていたこともあり、テクトが口を尖らせていると、ベニマルが進み出て来た。

 

「リムル様、テクト様、まずは魔王への進化おめでとうございます。それで、念の為ですが、進化に伴い理性を失っていないか、確かめさせてください」

 

「へ?」

 

「急になにさ」

 

「『シオンの料理は?』」

 

「げぇ!」

 

 ベニマルのドヤ顔とともに放たれた言葉にリムルから声が漏れる。テクトは物語の進行上、今回の方法が正規のものであるという確信があり、理性を失うことはないと思っていたため、合言葉云々に関しては聞き流していた。

 

 とはいえ、ベニマルのセリフとリムルの挙動から予測は立っていた。

 

「私の料理がどうしましたか?」

 

 自分のことが話題に上がったからか、シオンがリムルに目線を合わせる。

 

 リムルは答えを覚えていたが、言い出すことができず、困り果てて形状が大きく変わっていた。

 

「さぁ、お答えください、リムル様。理性が残っているのなら!」

 

 答えに窮したリムルにベニマルが畳み掛ける。

 

 リムルはベニマルに怒りを向けた後に、テクトへと助けを求めるような視線を向けた気がしたが、テクトは後の怒りに巻き込まれまいとして背を向けていた。

 

「私の料理がどうかしましたか?」

 

 答えないリムルを不審に思ったのか、シオンが再びリムルへと問いかける。そんな様子を見て、ベニマルは含み笑いをしながら話し始めた。

 

「食べてみたいのだろう。お前が死んでいる間、食べられなくて残念そうだったからな」

 

(はめられた!)

 

「そうだったのですね! 喜んでお作り致します!」

 

(味見役を押し付けられたこと、結構根に持ってたんだ……でもまぁ、予測が正しいならこの合言葉はやり過ぎだし、お仕置きだ)

 

 ベニマルの言葉にリムルが驚き、テクトは納得しつつも軽くため息を吐く。そして、お仕置きのためにリムルへと念話を送る。

 

 リムルは突如として送られた思念に驚きつつも、もたらされた回答に雰囲気を明るくすると、わざとらしい咳払いとともに話しだした。

 

「あ~、ベニマル君。確か君の決めた合言葉はこうだったな? 君が『シオンの料理は?』と聞いたら、俺に『クソまずい』と応えるようにと」

 

「な⁉」

 

 リムルの回答にベニマルが驚愕する。そこへ、今度はリムルが畳み掛ける。

 

「そう言えって、お前が決めたんだよな? お・ま・え・が! ちゃんと覚えていただろう? これで俺に理性が残っている事をわかってくれたよな?」

 

 テクトの考えを参考にした回答で、リムルは罪をベニマルへと押し付けることに成功した。しかし、ことはそう簡単には収まらない。

 

 公然と自身の料理をバカにされたシオンからプレッシャーが放たれ始めたのだ。

 

「ま、待て、シオン。リムル様は目覚めたばかりで、混乱されておられるのだ……」

 

 ベニマルが語気を弱めながら後ずさる。彼らの周囲から魔物達がはけていき、集まっていた群衆にポッカリと穴が開く。

 

 シオンに抱えられ逃げられないリムルは身を縮みこませ、すぐ横から逃げることで余計な刺激を与えたくないテクトは、思わず隣にいたシュナを抱きしめ、恐怖を和らげる。

 

 突然のことにシュナが小さく悲鳴を上げたが、テクト以外には聞こえなかった。

 

 そしてシオンは

 

「わかりました。ベニマル様―いえ、ベニマル。私はリムル様の直属ですので敬称は不要でしょう。私の料理、その腹がはち切れるまで堪能させて差し上げましょう」

 

 笑っていた。

 

 怒気を隠しもせず、手に抱えたリムルの形状を変えながらベニマルへと宣言する。

 

 ベニマルの表情は絶望に染まり、彼を中心とする円が広がる。シュナを抱きしめるテクトの腕の力が強くなる中、シオンはベニマルにリムルを押し付け、気迫に満ちた表情で食材をおいてある倉庫へと向かっていく。

 

 その後姿にテクトはハッとしたような表情になると、シオンに声を掛けた。

 

「シオン、俺も食べるよ。ほら、何度か誘われたけどなんやかんやで不意になってたし」

 

「本当ですか⁉ これは腕によりをかけなくては!」

 

 テクトの言葉にシオンの表情が明るくなり、リムルとベニマルの表情が驚愕へ変わる。

 

 そのままシオンを見送り、その姿が見えなくなると、二人してテクトヘ詰め寄った。

 

「お前なに考えてんだ⁉ 皆復活してめでたいってときに犠牲者を増やすなよ!」

 

「そうですよ! せっかく妹の念願叶うっていうのに!」

 

「大丈夫だって。俺は「状態異常無効」をもってるから滅多なことにはならないよ」

 

「あ、お前食ったことないけどちゃんと毒物判定はしてるんだな」

 

「俺も試食を続けていたからか、最近「毒耐性」が身につきましたしね……ですが、あの気合の入れよう……俺はここまでかもしれません」

 

「「まぁ、それは自業自得ってことで」」

 

 自分の死期を悟ったかのように天を仰ぐベニマルにテクトとリムルから声がかかり、一陣の風が吹く。

 

 少しの間そのまま空を見つめていたベニマルだったが、気を取り直して報告を始める。

 

「そうでした。こんなことをしている場合ではなく……まだ問題がありまして」

 

「問題?」

 

「はい、お二人が眠っていらした三日の間に「「三日⁉」」はい、その間に獣王国ユーラザニアにて大変な事態が」

 

 そう言って指し示す先には、カリオン配下の最高戦力たる三獣士が揃っていた。

 

 そしてシュナは、未だにテクトの腕の中におり、強く抱きしめられたことでキャパオーバーを起こして目を回していた。

 

 

 

 一旦シュナを寝かせるため移動したテクトが戻り、会議室へと移動する。

 

 ベニマルからもたらされた報告は、ミリムがユーラザニアに対し宣戦布告をしたとのことだった。

 

 告げられた内容は魔王間にある不可侵条約の破棄と七日後に攻め込むということ。そしてそれは十日前とのことだった。

 

「ってことは……」

 

「はい、俺が見届けました」

 

 時系列の整理された話を聞き、こぼれたリムルの声に答えたのはフォビオだった。

 

 有象無象では邪魔になるだけと全兵に避難誘導をさせ、一騎打ちを狙ったカリオンとそれに応じたミリムによる戦いを見守っていたらしい。

 

 その証言により、ミリムの一撃でユーラザニアの首都が壊滅したことが告げられた。

 

 フォビオもその余波で大怪我を負ったが、転移によって避難をするアルビス達に合流し、魔国連邦に到着後、回復薬で傷を癒やしたらしい。

 

「ただ、妙な点がありまして。ユーラザニアを吹き飛ばす爆発の後でもカリオン様は健在でした。そこに魔王フレイが現れ、カリオン様が討たれたのです。魔王同士が手を組むなど、想像もしていませんでした。何より、魔王ミリムはそういった策略を嫌う性格だと信じていましたし」

 

 そこまでフォビオが語ったところで、もっともミリムと関わったテクトに視線が集まる。

 

 テクトが肯定するように頷き、先を促すのを見て、再びフォビオへと視線が戻った。

 

「その後、魔王ミリムが墜落しました」

 

「は? ミリムが?」

 

 テクトが驚愕のあまり声を上げる。その驚愕がわかる一同も真偽を確かめるようにフォビオを見つめ、フォビオも慌てるように話を続ける。

 

「落ち始めた直後に魔王フレイが受け止めました。そしてその後、カリオン様と魔王ミリムを抱えたまま飛び去りました。ですが、その方角が、魔王フレイの支配地でも、魔王ミリムの支配地でもなく…魔王クレイマンの支配地へ向かうものでした」

 

「ちょっとオレ、出かけてくる」

 

「待ちなさいスフィア!」

 

 フォビオの報告を聞き、スフィアが音を立てて立ち上がる。そのまま外に向かう彼女をアルビスが呼び留めた。流石に無鉄砲なことはしないかとテクト達は安堵したが、

 

「行くなら、全員で攻め込みますよ」

 

 どうやら違ったようだった。

 

 アルビスも立ち上がり、部屋を出ていこうとするのを、テクトの糸が押し留めた。

 

「まぁ待て、お前達。まずは情報収集だ」

 

「フォビオの話をもとに考えると、魔王カリオンは生きていると考えていいと思う。魔王フレイがクレイマンと共謀していたとして、殺した証が要るなら首で十分だ。それに、魔王フレイの性格はわからないけど、ミリムが一騎打ちの邪魔が入って怒らないということはない。となると、なにか事情があるはず」

 

 テクトの言葉にリムル、ベニマルも頷いて肯定する。

 

 そして、獣人達が先行しないように釘を刺す。

 

「魔王カリオンの救出にはもちろん手を貸すよ。だから、君たちも暴走しないで欲しい。最悪の場合、クレイマン、ミリム、フレイの三人に加えて何らかの支配を受けたカリオンまで敵になるかもしれない。万全を期すためにも、連携はしっかりとするべきだ」

 

 テクトの言葉に三獣士もうなずき、ひとまず強行軍で避難してきた獣王国の者たちを休ませることにして、それから方針を決めることにしたのだった。

 

 

 

 そして、獣人たちへの炊き出しも含め、様々な食事のいい香りが立ち込める中、一つの机だけが、異様な雰囲気を放っていた。

 

 席についているのはベニマルとテクト、そして見えない糸で椅子に縛られたリムルだった。

 

「なんで俺まで……お前ら二人で十分だろ……」

 

「まぁまぁそう言わずに。あいつだって頑張っているんです。奇跡的に美味しいかもしれないじゃないですか」

 

「奇跡はそう簡単に起きないから奇跡なんだよ!」

 

「だ、大丈夫だって。俺たちは奇跡を起こしたんだよ? きっとシオンも奇跡を起こせるって……きっと……多分……」

 

「お前も不安になってるじゃねーか!」

 

 リムルも最初は食べるつもりはなかった。

 

 しかし、珍しく涙目のベニマルがあまりにも憐れだったことと、シオンの期待に満ちた視線、ついでにベニマルへテクトのシュナの件を話していたことでテクトに縛られ、最終的に承諾したのだ。

 

 皆が楽しむ中、重い空気で待つことしばし、シオンの料理が完成した。

 

 リムルが覚悟を決めるように息を吐くと椀を覗き込み、身体を縛る糸を「捕食」してちぎると立ち上がった。

 

「待てーーい! 何だこれは! 何なんだこれは⁉ おいシオン! お前、料理するっていう言葉の意味を知っているか⁉」

 

「もちろんですとも、リムル様。どうです? 美味しそうでしょう?」

 

「馬鹿か、愚か者め! どうして野菜が一目見るだけで判別可能なほどに原型のまま浮かんでいるんだ⁉ もっと剥いたり、刻んだりといろいろとすることがあるだろうが⁉」

 

 リムルが叫ぶのに合わせ、テクトも椀を覗き込む。そこに注がれている料理? から立ち上る紫色の湯気に顔をそむけ、それに突っ込んだ虫が即座に墜落したのを見て、顔を青ざめさせた。

 

 一応監督という立場にあったはずのベニマルへ、リムルとテクトが視線を向けると、ベニマルは死んだ魚のような目で悟ったような顔をしながら語り始めた。

 

「俺には無理でした。挫折を知らなかった俺も、壁に当たっちまった。限界という名の壁に、ね。子どもの頃から不可能なんてないと思ってましたが、思い上がっていたようです」

 

 ベニマルの言葉に諦めつつシオンを見やると、泣きそうな顔になっていた。罪悪感を煽られたリムルが着席し椀を持つのに、シオンの表情が明るくなるのを見て、テクトも覚悟を決めて椀を手に取った。

 

「わかったよ。いただきますともさ。だが、これからは、せめて下処理ぐらいはしてくれよ」

 

「えぇとですね。私が下処理をしようとすると、建物ごと切ってしまうので」

 

「へ? 建物? 調理台とかじゃなくて?」

 

 呆れながらも改善を促すリムルに返したシオンの言葉にテクトがあっけにとられたように声を出す。シオンはその言葉に頷くと背負っている刀を指し示した。

 

「この剛力丸は素晴らしい切れ味なのですが、ちょっと長くて」

 

「刀は調理器具じゃないんだよ? というか、手入れを怠っているとは思わないけど、不衛生極まりないよ。料理するときにはそれ用のナイフとか使おう?」

 

「いえ、私はこの剛力丸一筋なのです。浮気はちょっと」

 

 シオンの料理を改善するのに調理器具が必須だと考えたテクトが声を掛けるも、シオンは断固とした態度を崩さない。

 

 お手上げという表情のベニマルをおいて、テクトとリムルは目を見合わせると、リムルが口を開いた。

 

「あ、そう。今度お前に包丁をやろうかと思ってたんだが、いらないんだな」

 

「すみません、私が間違っていました。剛力丸も多少の浮気は大丈夫といっています」

 

「そ、そうか……なら、今度から包丁を使うように……」

 

 シオンのあまりにも早い変わり身にリムルが軽く引きながら改善の兆しに希望を持ち、改めて料理? に手を伸ばす。

 

 耐性もある以上死ぬことはないと、その壮絶な味に耐える準備をしていたが、その予想を裏切り、よく見知ったシュナの料理のような味が口へと広がった。

 

 動きを止めたリムルにテクトとベニマルが視線を送るとリムルが目線で二人にも食べるように促す。それを受けて恐る恐る料理? を口に運ぶと目を丸くした。

 

「シオン、どういうことだ? なぜ見た目を裏切る素晴らしい味なんだ?」

 

 料理を口にした三人の驚愕とリムルの疑問にシオンが得意げに語りで出した。

 

 曰く、シオンは進化の祝福(ギフト)が与えられる際、料理がうまくなりたいと願ったのだという。それによりユニークスキル「料理人(サバクモノ)」を獲得し、その権能は料理の味を自分の望んだものにするというものらしい。

 

 もっとも、変化するのは味だけで、毒性や食感、見た目などは全く変化せず、食感に苦戦するテクトは未だ飲み込めていない。

 

 シオンがおかわりを勧めるのを断固として断り、時間をかけつつも完食した三人は盛り上がる皆に混じっていく。

 

 後日「テンペスト復活祭」と名付けられ、毎年の恒例行事となるその宴は夜遅くまで続くのだった。

 


 

 次回「悪魔と悪意」

 

 




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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