転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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アニメ三期の次回はシュナが本編で登場しそうなサブタイトルですね。

本作はアニメを契機として制作しているため、各話の最後に次回のサブタイトルをつけたりしています。


41話:人魔会談

 テクトは応接室ヘ向かうリムル、ガゼル、エラルドと給仕のためにその場を離れるシュナを見送った。

 

 国の代表という意味では、今回はフューズも行くべきだったのかもしれないが、気絶した彼を引っ張るのは酷というものだった。

 

 さらにいえば、テクトも参加すべきなのだが、リムルに対応についての策を念話で伝え、本人は会場の混乱の収拾に当たっていた。

 

「ええっと……大丈夫?」

 

「……聞いてませんよ、こんな重要な話」

 

「ちょっとひどすぎですよ! 私も何も聞いてなかったんですけど……ヴェルドラ、さん? が、友達だったって、教えてくれてました?」

 

「いや、まぁ、言ってなかったけどさ。暴風竜と知り合いだなんてそうそう言えないって。何が起きるかわからないし」

 

「それはそうですけどぉ……」

 

 テクトの心配に対する愚痴に、丁寧に返していくと、徐々に落ち着いたのか語気が下がる。

 

 会話を繰り返してゆっくりとクールダウンさせていると、唐突にフューズが頭を抱え始めた。

 

「ああ、しかし、上になんて報告すれば……って、俺がギルマスじゃねぇか!」

 

「何を一人芝居してるのさ」

 

「こうでもしてなきゃやってられないんですよ! この件はキッチリと上に報告して、後で精神的苦痛に対する損害賠償を請求させて頂きますよ!」

 

 テクトの言葉にフューズが思わず叫ぶ。

 

「まぁ、調子はでてきたみたいで良かったよ」

 

「あのですねぇ……」

 

 のほほんとしたテクトの言葉にフューズががっくりと肩を落とす。

 

 一つ断りを入れて端へより、何やらコソコソしだしたフューズに興味を惹かれつつも、それを断ち切って戻ってきたシュナを労う。

 

 そうこうしている内にリムル達が戻ってきて、会議が再開された。

 

 

 

 事情を知らない者もいるため、最初から話していく。

 

 転生とヴェルドラとの出会いに始まり、豚頭帝(オークロード)、町をつくるに至った経緯、テクトとリムルの希望でイングラシアへと向かったことをざっと離す。

 

 情報の受け取り方は様々だろうが、そのあたりを気にせず、子どもたちのことを省略して、ヒナタの話に移った。

 

 なにせ、足手まといがいた(テクトが何も出来なかった)とはいえ、リムルが一方的に敗北した(分が悪いと撤退を選ぶ程の)相手なのだ。

 

 ディアブロやテスタロッサは未知数なので判断出来ないが、ベニマルやソウエイでも危険である相手なのは間違いないので、リムルの「思念伝達」で全員へと共有した。

 

 と、そこで、ヒューズから補足が入る。

 

 曰く、ヒナタはリムル達の視点では、冷酷で恐ろしい殺人者という印象に映るが、彼らの掴んでいる情報では違うらしい。

 

 ヒナタは頼った者には必ず手を差し伸べており、その手を握ったものは助けるらしい。

 

 一方で、助言を聞かなかった者は二度と相手にしないそうで、かなり理性的な性格とのことだった。

 

 その話にガゼルも加わり、ブルムンド王国の情報戦の優秀さを認めつつ、ドワルゴンで把握している情報と相違ないことを証言した。

 

「理性的というにはあまりに一方的だったような気がするけど……リムルの話を聞かないまま俺は死ぬ寸前までいったし」

 

「それはですね、ルミナス教の教義に「魔物との取引の禁止」という項目があるためでしょう」

 

 話を聞き、違和感を覚えたテクトに答えたのはエラルドだった。

 

 ヒナタは西方聖教会で最強の騎士ということもあり、各国でも情報収集の標的になっているらしく、各国の代表から情報がもたらされる。

 

 彼らの話を総合すると、ヒナタは教義を破ることのない模範的な騎士であり、純然たる法と秩序の守護者ということだ。

 

「話はわかったが……それだとヒナタは異世界人の召喚の阻止に動くんじゃないか? 条件を簡易にした召喚なんて子供が召喚される事例が多いみたいだし、止めない理由がないだろう?」

 

「その件ですがね、彼女が各国の召喚を見逃していたというのも、本当のところはどうなのかわかりませんよ? 異世界人を呼び出す召喚魔法の行使は、公には出来ぬ禁断の秘技でしょう。西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)では禁止事項に指定されてますし、国家としても簡単には認めぬでしょうな。やっていないと言われれば、それ以上の追求は難しい。西方聖教会の権限は確かに大きいですが、内政干渉を自由に行えるかと言うとそうでもないのですよ」

 

 リムルの疑問に答えたのはフューズだった。

 

 例えば、異世界人を兵器として扱っていたファルムス王国が相手であっても、召喚したのではなく偶然発見した異世界人を保護し、恩を感じて戦ってくれているとでも言い逃れをするだけで追求は出来なくなってしまう。

 

 異世界人を召喚しているという確たる証拠がなければ、西方聖教会では干渉出来ないのだ。

 

「ヒナタが厄介なのは間違いない、か。せめて会話をしてくれるなら、敵対しなくて済むように話し合いに持ち込みたいところだけど」

 

「でしたら、私が出向き、始末してまいりますわ。後顧の憂いを断つためにも危険分子は排除するのが宜しいのでは?」

 

 テクトが腕を組みながら唸るのを見て、テスタロッサが口を開く。それを聞き、テクトが眉を寄せる。

 

「いいわけ無いだろ。魔物がヒナタを害した証拠が僅かでも残れば、それを元にして魔国連邦の「神敵」認定は避けられない。できるなら西方聖教会とは敵対はしたくないんだ。意欲は買うけど、ここは待機だ。ひとまず、ヒナタ及び西方聖教会については相手の出方を見つつ対応をしていくことにする」

 

 テクトの宣言で話が打ち切られ、皆の考えが次の議題へと移る。

 

 一方で、テクトとリムルはヒナタについて考えていた。

 

「思念伝達」で伝えなかったヒナタとの邂逅時のこと。

 

 密告の存在とリムルがシズを殺したと知っていたこと。

 

 前者はともかく、後者は情報を握っているものが少ない。

 

 カバル、エレン、ギドの三人に、ヒューズ、ブルムンド王国の上層部数人。そして、ユウキと町に住む魔物達。

 

 疑わしい人物はいる。

 

 しかし、証拠はなく、目的も読めない。

 

 結局のところ、警戒を心に留めておくことにして、思考を打ち切ったのだった。

 

 話が進み、町が襲撃された件について。そして、襲撃での犠牲者を蘇生するため魔王への進化を選択したところで、詳しい話をする前にエレンが口を挟んだ。

 

「どうせ、パパにはバレてるんでしょぅ? というか、ここに来たのもそれが理由なんでしょ?」

 

「エレンちゃん……パパにはバレててもいいけど、他所の国の人にまでバレる必要はないんだよ……」

 

 上目遣いでのエレンの言葉に親馬鹿のエラルドでは対抗しきれず、ため息を吐いていた。

 

 とはいえ、エラルドにとっても予測済みであり、リムルとガゼル、ついでに「思念伝達」で共有されたテクトも織り込み済みのため、打ち合わせ通りに話を進めることにした。

 

「という流れで、ファルムス王国軍には生贄になってもらった。そうして、俺達は魔王になったわけだ。でだ、今の話が事実なわけだが、公に発表するのはちょっと筋書きを変えることにする」

 

 リムルの言葉に魔物達が動揺をあらわにする。

 

 力こそ全てが共通理念の魔物には無意味に感じる行為であるため、動揺も当然として、理由と変更後の筋書きが語られた。

 

 まず、リムルが魔王を名乗ることにし、テクトとリムルの覚醒については隠す

 

 大前提として、各国は実情を知らない。

 

 捕虜となった三人以外は死亡し、真実を知るものはいない。

 

 ファルムス王が欲深いというのは周知の事実なので、魔国連邦側の正当防衛が成り立つ上、魔王一人に滅ぼされたという話よりも、戦争による敗北という話のほうが受け入れられやすいためだ。

 

 更に、大量の死者がヴェルドラの封印を解くきっかけになったということにする。

 

 復活したヴェルドラを、英雄ヨウムとジュラの大森林の盟主として魔王を目指していたリムルが協力し、多大な犠牲を出しつつもヴェルドラの怒りを沈め、守護者として祀ることで決着した。

 

 こうした筋書きへと変えることで、リムルの魔王への進化に意味を持たせ、ファルムス王国に全ての罪を着せ、魔国連邦の正当性を主張する理由付けを行うのだ。

 

 人は自分が理解出来ない存在を恐れ、決して認めようとはしない。たった二人で四万の軍を滅ぼすような力を持つ者が友好を口にしても受け入れるものはいない。

 

 それよりも、元々「天災」として理外の存在として扱われる「暴風竜」によりファルムス軍が行方不明となったという話のほうが理解を得られる。

 

 というガゼルの言葉にヨウムとフューズもうなりつつも理解を示し、娘が魔王へ進化するきっかけを与えたと恨まれる事を避けたいエラルドもこれを支持する姿勢を見せる。

 

 話を聞いていたヴェルドラが得意げにしていたが、誰も触れることはなかった。

 

 また、この噂の流布には魔王リムルの警戒度を下げる効果も期待される。

 

 脅威となるのがヴェルドラのみだと言う考えが蔓延すれば、リムル個人への警戒度は下がるが、魔国連邦へ仕掛けようとする動きは抑制される。

 

 どちらにせよヴェルドラの存在は公にする必要があるため、情報を最大限活用するのである。

 

「というか、テクト様はいいんですか? まるで取るに足りぬとでも言われそうな扱いですが」

 

 ベニマルの言葉に魔物たちがざわつく。

 

 特にシオンやテスタロッサは怒りをあらわにしており、GOサインを出せば飛び出しかねない雰囲気になる。

 

 そんな様子に苦笑するとテクトが口を開いた。

 

「文句はないさ。というより、概ね俺の予測通りの策だよ。それに、こちらを格下だと侮っているクレイマンをぶん殴ってやるほうが痛快だろ? ただ、ヴェルドラにはやってもいない罪を着せる羽目になってしまうけど」

 

「何も問題はないな。すでに我らは一蓮托生。暴風竜の威を存分に借りるがいい」

 

 気遣わし気なテクトとリムルの視線をヴェルドラは鼻で笑い飛ばし、堂々と宣言する。

 

「わかった、遠慮はしない。ありがとう」

 

 ヴェルドラの威風堂々とした様子にテクトも頷き、礼を述べる。

 

 一方、魔物たちの反応は良好だった。

 

 これにより、人間達への問題がクリアになるため、魔国連邦の作戦遂行能力をほぼ全てクレイマンへと向かわせる事ができる。

 

 ベニマルをはじめとして戦意を滾らせる様子をみて、テクトも獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 公表する筋書きが決まり、今後の行動についての相談に入る。

 

 ヨウムを王とする新国家の樹立についてである。

 

 この説明を聞き、各国の代表がそれそれ考えを巡らせるのを見つつ、説明が続けられた。

 

 まずは現王を開放し、今回の侵攻についての賠償を行わせる。

 

 目的は賠償問題を利用してファルムス王国を内戦状態に陥らせることである。

 

 万が一、再び反抗を企てるならその時点で王を殺し、混乱状態へ持ち込み、素直に賠償に応じるならばヨウム擁立の計画が見送られる。

 

 しかし、この二つの流れはありえないというのが、智慧之王(ラファエル)及びシラヌイの試算である。

 

 周辺諸国の者も含めて四万もの人的資源を失ったファルムス王国では、国力不足であり、金を持っているもの、要するに貴族からの徴収による賠償となるわけなのだが、貴族達が素直に支払うことはないと考えられた。

 

 様々な理由を付けて賠償を無視しようとする貴族は信義にもとるとして、クーデターを起こす筋書きなのだ。

 

 賠償に従うため王が強権を発動する可能性もあるが、その場合も内乱は避けられない。

 

 敗戦の責任を王自らが取るのではなく、貴族達にも負わせようとすれば、王の権威は完全に失墜する。

 

 どう転んでも賠償問題が原因となり、王と貴族の関係は破綻し、国内のまとまりは無くなる。後継者となる王の息子たちは成人している者がおらず、貴族達が自身に都合の良い傀儡を作るために後継者争いが始まることになるだろう。

 

 頃合いを見てヨウムが動けば疲弊した民衆が英雄を支持しやすい。

 

 結局のところ、ファルムスの滅亡は避けられないのだ。

 

 無論、魔国連邦は親交のあるヨウムを支持し、新国家の樹立の承認、国交の締結を行う予定である。

 

 現在の支配層である貴族は大半が自身の利得を守るため反抗に回る事が予測されるため、初期から協力を申し出る者たち以外は追放することになっている。

 

 魔国連邦が抑止力として直接的な武力衝突を防ぎつつ、時間をかけて国民の信頼を得る事のできるマニフェストを打ち立て、人気が高まったところで一気に叩き潰す計画である。

 

 ある程度長期的な計画であり、二、三年の猶予は見ているが、ヨウムが王となるのはほぼ確実と言える。

 

「俺達としては、ファルムスの民を虐げる意思はありません。ですが、支配者が自分勝手な振る舞いをすることを黙認していた事には報いてもらうつもりです。ある程度の疲弊は甘受し、その後の復興への努力をその応報としてもらいたいと考えています」

 

 テクトが締めると代表陣が思案する。

 

 最初に反応を示したのはガゼルだった。

 

「良かろう。俺としては、その計画事態に異論はない。だが、その男、ヨウムが王となることに関しては別だ」

 

 そう言うとガゼルは席を立ち、ヨウムを睥睨する。

 

 ヨウムから離れた位置に座っていても伝わる威圧感に、テクトたちも居住まいを正す。それを正面から受けたヨウムはうめきつつも歯を食いしばり、ガゼルを見返した。

 

「フンッ、根性だけは大したものよ。だが、その性根はどうなのだ? 民を思い、その苦しみを負って立つ覚悟はあるのか?」

 

 ガゼルの問にその場が静まり返る。

 

 僅かな沈黙の後、ヨウムは不敵に笑った。

 

「へっ、知るかよ。俺だって、好きで王様になろうってんじゃないんだ。だがよ、俺を信じて託されたこの役目、断ったんじゃ男がすたるだろうが‼ 出来もしないと決めつけて、やる前から諦めたくないだけさ。惚れた女の前で格好つけたかったってのもあるけどよ、やるからには全力でやるさ」

 

 ヨウムの言葉を受け、ミュウランの顔に朱がさす。

 

 ミュウランが小さく「馬鹿」 とつぶやいたのを契機にグルーシスが立ち上がった。

 

「確かにこいつは馬鹿だ。だが、実にヨウムらしい。ドワーフの王よ。俺も保証する。こいつは馬鹿だ「何度も馬鹿馬鹿言うな!」だが、無責任ではない。あんたのような英雄王と呼ばれる日まで、この俺、グルーシスが見届けると誓おう!」

 

 グルーシスに続き、ミュウランも立ち上がり、揃ってヨウムに並ぶと、三人でガゼルへと向き合った。

 

「で、あるか。ならば、良い。何かあれば、俺を頼るがいい」

 

 そう言うとガゼルは威圧を解き、座り直す。

 

「いい男でしょう?」

 

 テクトの問にガゼルが口角を上げて返し、今度はヨウムの顔が赤くなる。

 

 ヨウムの言葉に笑うエラルドや三獣士を前にカリオンを裏切るような発言をしたグルーシスへのからかいなど、僅かに場が騒然となる。

 

 そうして一頻り笑ったあと、ガゼルが真面目な口調で口を開いた。

 

「ヨウムよ、我が国が貴様に望むのは、農産物の生産だ。ファルムスのように我が国の製品を横流しするだけでは長くは続かんことは、すでに分かりきっているからな」

 

「俺からも頼む。欲しい穀物は要相談ってことで」

 

 ファルムスが交易路や魔国連邦の品を求めて戦争を起こしたということもあり、以前の王とは違うという喧伝のためにも新しい方針を打ち立てる必要がある。

 

 他国と競合しづらく、食料自給率の低いドワルゴンの需要も満たせるガゼルの提案はちょうどよいものだった。

 

 ついでにリムルもそこに乗り、ヨウムが王になったあとの方針が決定したのだった。

 

 

 

 そして、小休止を挟んで会議を再開した。

 

 魔国連邦側にとって一番の関門だった新国家樹立が受け入れられ、話がスムーズに進んでいく。

 

 フューズがブルムンドと懇意にしているファルムスの貴族であるミュラー侯爵とヘルマン伯爵と交渉すればヨウム蜂起後の後ろ盾にできると発言があがる。

 

 フューズの提案に、権限の問題はないのかという疑問がリムルの顔に出ていたのかフューズが苦笑しつつ説明した。

 

 魔国連邦との関係もあり、情報局統括補佐の立場を得ていたフューズだったが、この会談に参加するに当たり、王に直接連絡を取って全権代理の委任状を取得していたらしい。

 

 その時にこぼした「ブルムンド王国が終わるネタ」を聞き出すかとテクトとリムルはアイコンタクトをかわしていたが、実行は見送られた。

 

 先に挙げられたミュラー侯爵はブルムンドの遠縁にあたり、仲が良く、ヘルマン伯爵はミュラー侯爵に大恩があるため裏切ることはないのだという。

 

 この情報を元にヨウムの決起の場所が決まり、次の議題へと移ろうとする。

 

 とそこで、フューズの話には静観を決め込んでいたエラルドが呆れたように笑い出した。

 

「面白い、これは愉快だ。揃いも揃って国を担う方々が、他者を疑いもせず本音で語り合うなどと……これでは、警戒している私のほうが滑稽ではないですか⁉」

 

 声音こそ愉快そうだがその眼光は鋭く、親馬鹿ではなく大貴族としての顔を見せるエラルドが周囲を圧しながら立ち上がる。

 

 その物々しい雰囲気に皆が押し黙るなか、ヴェルドラがどこからか取り出した漫画をめくる音が響き、緊張が霧散する。

 

 気勢を削がれたエラルドだったが、咳払いをして自分に注意を戻しつつ、重々しく口を開いた。

 

「問おう。そこの男、フューズといったな。君は魔物であるリムルとやらを、本当に信じているのかね?」

 

「それは……どういう意味ですか?」

 

「別に魔物達が勝手に国を名乗ろうが、それを正式な国家として認めなくても良かったのではないかね? ましてや、国交まで結ぶ必要はなかっただろう? 立場的に鑑みても、もっと慎重に立ち回れたはずだ」

 

「そ、それは……」

 

 エラルドは嫌味や圧するわけでもなく、純粋な疑問を投げかけるような問いかけだった。フューズは言葉に詰まり、返答に困っていた。

 

「つまりだね、君。私なら、取引だけは行いつつ西方正教会の出方を見ていただろう。裏でこっそり通報し、問題がないかどうか全てを一任してね。利益のみを享受しつつ、後で何も問題が起きないように、決して一方だけに肩入れはしない。それが、小国なりの立ち回りというものではないのかね?」

 

 エラルドの言葉に対する返答を待つかのようにフューズへと視線が集中する。それに気づいたヒューズは毒づくと頭をかきむしりながら叫ぶ。

 

「わかったよ、わかりましたよ! それじゃあ、本音で語らせてもらうとしましょうか!」

 

 外交用の顔から普段のようなふてぶてしい態度へと戻ると、ブルムンドでのやり取りを語り始めた。

 

 テクトとリムルがブルムンドを訪れる少し前。

 

 魔国連邦についての報告を上司にする時のフューズはエラルドと同様の意見を告げたそうなのだが、魔国連邦と戦争になった場合について語られ、却下されたらしい。

 

 上位魔人を複数擁し、豚頭帝や暴風大妖渦(カリュブディス)を退ける国と戦争になったとしても、ルミナス教への信心が薄いブルムンドのために西方正教会が対応するとは考えられない。

 

 下手なことをすれば滅亡の憂き目にあい、抵抗は不可能。

 

 そのため、信用を得て、信頼関係を結び、共存共栄の関係を築くことに決まり、そのための協力を惜しまない。

 

 というのがブルムンド上層部の結論だった。

 

 大国と違い、一つ間違えれば終わる事になるブルムンドは、命運を委ねる先を西方正教会ではなくリムルを信じるという方針になったということだった。

 

 フューズの話を聞き、選択そのものは暴挙と呼ぶべきものだが、結果としてブルムンドは信用に値すると判断したテクトの視界の端で、エラルドが納得いったという様子で頷いていた。

 

「しかしまた、なんとも思い切ったものだ。ところで話は変わるが、君はリムル殿を助けるためにやってきたそうだが、それも上司とやらの判断かね?」

 

「その通りですよ。相互安全保障条約を締結した以上、必ず遂行しろと命じられました。もっとも、国が約定を違えていたとしても、俺はここに来てましたがね。俺は自由人ですんで。本来なら国に所属していなかった組合員たる俺が、こんな場所にいるのがおかしな話なんですよ。まあ、ブルムンド王国の情報局にも席を置く事になったのが、運の尽きってものですか……何でこんな役引き受けたんだろ

 

 西方正教会などの問題を軽視していたテクト達には、相互安全保障条約はメリットは少ないと思っていた。

 

 最悪の場合、見て見ぬ振りをする可能性さえ考えていたため、今回の援軍は魔国連邦の信用を得るには十分なものだった。

 

 フューズはリムルの問うた援軍の派遣を決めた人物がブルムンド王国の国王であることも明かし、ため息を吐くとつかれたように話し出した。

 

「とまあそんな事情だったんですがね、この選択は正解でしたよ。まさかリムル殿とテクト殿の二人だけで四万もの軍勢を滅ぼすとはね。その上「暴風竜」の復活とくれば、信じるとか信じないとかいっている場合ではなくなります。上層部が全権代理の委任状を用意してくれたのも、それはもう最速記録を塗り替える勢いでしたね」

 

「なるほど、そういう事情でしたか。済まなかったねフューズ殿。だが君のお陰で、ブルムンド王国がどういう思惑なのか、良く理解できましたよ」

 

 愚痴るフューズにエラルドが軽く頭を下げ、礼をいうのにガゼルが声をかける。

 

「相変わらず小狡いな、エラルド。そこまでして他国を試さずとも、俺がリムルを信じているのだから、貴様が疑うまでもあるまいよ?」

 

「そうは言うがな、ガゼル。魔物の国と新たに国交を結ぶ決断など、そう簡単には下せぬよ。私は今、ブルムンド王に敬意を抱いたところさ」

 

「フッ、抜かせ。最初から決断していたからこそ、貴様がでてきたのだろう? 策士エラルド、それで結論は?」

 

「まあね。私なりに結論は出ている。だけどそれを答える前に、もう一ついいですかな?」

 

 ガゼルの威圧を流しつつ、エラルドがテクトとリムルを視界に収める。その雰囲気から真面目な話だと考えていた二人だったが、長い話に退屈したのか声を上げたエレンを始めとして雰囲気は木っ端微塵となった。

 

 言葉に詰まった様子のエラルドに助け船を出すべく、テクトが動いた。

 

「聞こうか、エラルド公」

 

 テクトがしたことは立ち上がり、鷹揚な態度で声をかけただけである。

 

 しかし、進化しても無効化は出来ない、外見さえも効果の判定要素となる「畏怖」の効果は、進化により魅力を増した容貌も相まって、その場の視線を惹きつけるには十分だった。

 

 僅かな間呆けていたエラルドはだったが、すぐに気を取り直し、口を開いた。

 

「ああ、失礼。では、魔王リムル、並びに魔王テクトよ、貴殿らに問いたい。貴殿らは魔王として、その力をどう扱うおつもりなのか?」

 

 その言葉にリムルはぽかんとした顔をする。

 

 あまりに真面目な雰囲気にもっと難しいことを聞かれると思っていたからだ。

 

「俺は俺の望むままに、暮らしやすい世界を作りたい。できるだけ皆が笑って暮らせる、豊かな世界を」

 

「そんな夢物語のような世界を本当に実現できるとでも⁉」

 

 リムルの答えにエラルドが驚愕にまかせて声を上げる。

 

 感情を抑えて話していたエラルドの感情まかせの声音を引き出せたことに僅かに得意げにしつつ、リムルが語る。

 

「そのための力さ。力なき理想は戯言だし、理想なき力は虚しいだろ?」

 

「概ね同様だね。まぁ、俺はちょっとヨウムに近い部分もあるけれども」

 

 リムルに続いて口を開いたテクトが最後にシュナへと視線を送り、目のあったシュナが頬を染める。

 

 その表情を眺めていたくなったテクトだったが、意志力を総動員して視線をエラルドへと戻すと、エラルドは大口を開けて笑い始めた。

 

「は、はは、ははははは! 愉快だ、これは愉快ですな魔王リムル、魔王テクトよ! 業深き魔王よ! 貴殿らが覚醒出来た理由が私にも理解できましたぞ!」

 

 笑い出したエラルドを誰も止めることなく好きにさせる。

 

 一頻り笑ったエラルドは使者としての礼を示し、テクトとリムルの前に跪いた。

 

「失礼致しました。魔王リムル、魔王テクトよ。私は魔導王朝サリオンよりの使者として、貴国―ジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を希望致します。何卒、善きお返事を賜りたく存じます」

 

 魔国連邦側の答えを待ち、場が静寂に包まれる。

 

 テクトとリムルは一瞬のアイコンタクトを取ると、リムルがエラルドへと進み出て、手を差し伸べた。

 

「こちらからも、善き関係を築きたいと思っていた。その話、是非ともお受けしたい」

 

 エラルドがリムルの手を取り、歓声が上がる。

 

 人類国家としては三つ目、魔導王朝サリオンとの国交樹立が成立したのだった。

 


 

 次回「ラミリスの報せ」




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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