転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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予告通りの遅刻です。

申し訳ありません。

転生時点でのオリ主の情報を分けていた理由を忘れたので、一話目の後ろに移動し、全体的に校正しました。

校正ついでに一話目を大分書き直しました。

表現を始め、編集前からかなり変わりましたが、初期構想からは変わってないです。

そして、告白回がこんなものでいいのだろうかと頭を悩ませつつ、思いついたことをするために覚悟を決めて投稿。


44話:告白と魔王達

 魔王達の宴(ワルプルギス)当日。

 

 魔王達の宴について確認したところ、会場が特殊な空間であるため、本体が集落に存在する木であるトレイニーが同行出来ない可能性が浮上した。

 

 それを解決するためにベニマル達の出陣以降、最低限の仕事以外の時間を使い考えた解決策を持って、リムルが樹人族の集落へ向かうのを見送り、テクトは町から少し離れた高台へと来ていた。

 

 上を見上げればヴェルドラの魔素を利用した結界が貼られており、クレイマンへの防諜の役割を果たしている。

 

 町を一望出来るその場所で風に吹かれていると、待ち人が現れた。

 

「お待たせいたしました」

 

「……あぁ、待っていたよ、シュナ」

 

 テクトが振り返ると最愛の、何を犠牲にしても失いたくないと思える程に想い焦がれる少女がそこにいた。

 

 

 

 白織拓磨にとって「シュナ」はその他大勢に過ぎなかった。

 

 通販サイトやネットオークション等でその姿を見かけることはあった。だが、推すにせよ人付き合いにせよ、内面を重視する彼にとって、偶発的に視界に入るだけの彼女は、さして印象に残るものではなかった。

 

 テクト・テンペストにとって大鬼族(オーガ)の姫は初めて救うことの出来た存在だった。

 

 救うことを諦めたヴェルドラ(友人)、救うことの出来なかったシズエ・イザワ(友の恩人)、その代替に慈しみ、守る存在として庇護下へおくことは自己認識の確立にちょうどいいとさえ感じていた。

 

 だからこそ、彼女から目を離さなかった。

 

 万が一にでも傷つけることのないように。

 

 彼女の仕事場となった織物工房にも頻繁に顔を出し、色々と気をもんでいた。

 

 閉じ込めようとしていることを悟られないように。

 

 テクトがシュナの想いに確信を持ったのはミリムが来てからだった。

 

 根本的に自己評価が低く、考えが足りないが、ミリムと時折目を合わせるシュナの感情の質がそういった類のものだと全く理解出来ない程に鈍いわけではなかった。

 

 だからこそ、ミリムが去った後、仕事を多く抱え込んだ。

 

 以前語ったように、役目を失った焦りもあったが、本来いないはずの存在(自分)へと気持ちを向ける少女との関わりあうことが、自身を肯定できないテクトには負担であり、かといって関わりを断つことの出来ない故の消極的な逃げだった。

 

 そうして逃げる内、リムルがイングラシアにいくことになり、テクトはそれに飛びついた。

 

 配下の魔物では出来ない役割であり、魔国連邦からも離れられる。ある意味一石二鳥の立ち位置だった。

 

 その結果としてテクトは自己を肯定することが出来るようになり、難題に向き合うことになる。

 

 課題はさておき、自己の肯定によって、テクトは自分を俯瞰して見ることが出来るようになった。

 

 考えの浅さはあれど、僅かな思考でアリスの心境は理解出来たし、約束の際には成長に従って気持ちが薄れることを願いながらも十分な対応が出来た。

 

 時折乱入するヴェルザードに頭を抱えつつも、イングラシアでの日々を乗り切った。

 

 そしてあの日。

 

 ヒナタと遭遇し、「執着者(シガミツクモノ)」の権能をもってギリギリで死を乗り越え、魔国連邦へと戻ったテクトが違和感から最初に心配したのはシュナの安否だった。

 

 シュナの死を知った時、衝動にまかせてミュウランの四肢を穿ったが、ヨウムが庇っていたことから、今が原作でイベントがあることに考え至っていなければ、この時点で殺してしまうところだった。

 

 無理矢理に冷静さを取り繕い、魔物達の主として、町を取り仕切る立場として指示を出し、推測を元に敵の戦力を検分する。

 

 出来ることをする内に取り繕った冷静さが張り付き、思考が僅かに働き始める。自分達では見つけることが出来なかった蘇生の方法が、外部からもたらされる可能性を心の支えとして気を休めることの出来ない三日を過ごし、エレン達が来た。

 

 エレンの話はまさに期待通りの内容であり、心中が歓喜に満ち溢れる。

 

 原作(リムル)を動かすためにエレンを連れていき、詳しい話を聞き出す。

 

 不安要素を排除するためにクレイマンの盗聴を無意識に手伝っているミュウランを開放し、ついでにヨウムたちをからかって溜飲を下げると、会議の後、配下を魔法装置に振り分けて魔王への進化を目指す。

 

 「人間に近い見た目の魔物の女もいる」「桃髪の鬼が手に入らなかったのが残念」といった事を口走っていた兵士は念入りに恐怖を与えつつ鏖殺し、進化へとたどり着いた。

 

 それから先は意識もなく、目を覚ましてシュナが生きていることを認識した瞬間は安堵で涙が溢れそうになった。

 

 自身の変化にも気づかない程に感動していたテクトにとってのシュナという少女がどのような存在かを再認識し、数日。

 

 ようやく僅かながら、落ち着いて話す時間が取れたのだった。

 

 

 

 シュナがたどり着いてしばし、二人は無言のままだった。

 

 テクトが目の前に立つ少女へ声をかけようとして口を開き、しかし言葉にならず、再び口を閉ざす。

 

 そんな事を何度か繰り返してから、瞑目すると、長く息を吐くと、意を決して話し始めた。

 

「シュナ。俺は、君を愛している。俺のうぬぼれが生んだ妄想でなければ、君も俺を難からず思っていてくれていると思う。だからこそ、まずは俺の話を聞いてほしい」

 

 テクトの言葉にシュナが目を見開く。しかし、テクトの言葉を待つように微笑むのを見て、テクトは改めて話しだした。

 

「俺は半端者だ。シュナの事は間違いなく愛している。だけど、多分、他にもアプローチをかけてくる相手に心当たりはあるし、それを断りきれるとはいえない。それに、もしかしたら、シュナを疎ましく思って行動に移すかもしれない。だから、提案とお願いがある。もし、俺の今後の行動に疑問があったり、巻き込まれるのはゴメンだと思うなら、シュナの気持ちを忘れさせることが出来ると思うからそれを受けてほしい。何か違和感を感じた者がいれば、俺から説明する。でも、それでもいい、俺が守るっていう言葉を信じてくれるなら、君を、シュナを俺の一番でいさせてくれないだろうか」

 

 テクトの提案にシュナは直ぐに答えなかった。

 

 話すにつれ視線が下がっており、シュナの表情を見ていなかったことに気づいたテクトが視線を上げると、シュナは微笑んでいた。

 

「ようやく、こちらを見てくださいましたね」

 

 シュナの言葉にテクトは目線を反らしかけ、踏みとどまって視線を戻す。

 

「テクト様は遠慮し過ぎです。転生者であることも、他にテクト様をお慕いする方がおられることも、私がテクト様を嫌悪する理由にはなりません。私がお慕いしているのは、魔国連邦の主の一人でも、元人間の転生者でも、魔王テクトでもありません。今、私の目の前に立つテクト様なのですから」

 

 シュナの言葉にテクトの視界が滲む。

 

 溢れそうになるものをかき消し、シュナから目をそらすことなくゆっくりと息を吐くと、ぎこちなく笑った。

 

「シュナには敵わないなぁ……じゃぁ、改めて……大鬼族の姫―シュナ、俺は、君の全てが欲しい。だから、俺だけの巫女になってくれ」

 

「はい、私の全てを、テクト様唯お一人のために」

 

 テクトの傲慢極まる申し出をシュナが柔らかく微笑んで受け入れ、ゆっくりと二人の距離が詰まる。

 

 蒼天の元、影が重なり、小さく水音が響いた。

 

 

 

 その頃。

 

 天翼国フルブロシアに今回の魔王達の宴の開催を決定した三名の魔王が揃っていた。

 

 席についているフレイとクレイマンのそばにミリムが立たされていた。

 

 クレイマンは立たせたままにしているミリムを睨みつつ口を開いた。

 

「それで、ミリムは動くようになったのですか?」

 

「ええ、私から命令できるわけではないからどんな問題があるかはわからないけど、少なくとも目は覚ましたわ」

 

「全く、大事な時期に面倒な……呪法の効果が強すぎて、精神に負荷がかかりすぎたのか?」

 

 じっと動かないミリムを視界に収め、クレイマンはイラつきを覚えつつ思考にふける。

 

 ここ最近は魔法通信越しに高圧的にフレイへと接していたクレイマンだったが、今回ばかりは自ら出向かざるを得なかった。

 

 そもそもの発端は、ミリムの力を試すため―ついでにクレイマンの覚醒のための魂の収穫を兼ねて―に獣王国ユーラザニアへと攻め込ませたことだった。

 

 細かい条件付を行わなかったためか、ミリムが勝手に宣戦布告を行い、そこからの時間的余裕によって、首都に住む者達が全員避難してしまい、ユーラザニアでの魂の収穫は失敗した。

 

 しかもその際、監視に遣わしていたフレイより、ミリムが気を失い墜落したという報告を受けたのだ。

 

 せっかくなら支配して手駒へとしたかったカリオンも、ミリムが気絶する前の攻防で死亡したと報告され、戦力の増強も出来なかった。

 

 ならばと、雇い主の謀略で動いたファルムス王国と魔国連邦の戦争の死者から魂を収穫しようとしたが、ファルムス王国の軍は全滅し、その場には死体も魂も残っていなかった。

 

 ただ、これに関しては戦場が暴風竜が封印されていた場所と重なったことで、その場に流れた血を浴び、邪竜が復活してしまったことが原因であると判明している。

 

 情報を隠蔽し自分の手柄として魔王を名乗る小者が生まれたが、これは今夜の魔王達の宴で対処するので問題ではない。

 

 二度の覚醒の失敗を受け、軍を動かし獣王国に残っている者達を殺し尽くして覚醒を目指しているが、陽動を使いながらジュラの大森林へと逃げる避難民を捉えきれず、それも遅れている。

 

 だが、それも時間の問題ではあるうえ、復活したばかりでファルムス王国と戦ったことで消耗したのか、クレイマンが気づかぬほどに魔素をほとんど持たない邪竜を手駒に出来る可能性すら出てきて、クレイマンは笑っていた。

 

「まあ、いいでしょう。細かなことはこちらで試すとします。ミリムの管理、ご苦労でしたね、フレイ。では、また今夜に……さっさと歩け! ノロマが!」

 

 クレイマンは辞意を告げるとミリムを伴って部屋を出ていった。

 

 去っていく最中、ここ最近で聞くことの多くなった声と音にフレイはそっとため息を吐く。

 

 脅威となる暴風大妖渦(カリュブディス)を排除するためにした契約だった訳だが、想定以上に厄介な事態に巻き込まれていた。

 

 とはいえ、これはクレイマン如きを信用した自分が愚かだったのだと結論は出ている。

 

 クレイマンは狡猾で油断ならぬ魔王ではあるが、自信家で自分の力を過信しすぎていた。

 

 他者を道具としか見ず、一方的な関わり方しかしないクレイマンでは物事の本質を見抜くことはない。

 

 一方で、自分なりに事態の本質を理解したフレイは、密やかに立案された今後の手順を確認しつつ、約束を思い出し、そっと笑みを浮かべた。

 

 

 

 クレイマンがフレイの元を訪れる少し前。

 

 魔国連邦からはるか北―魔王ギィ・クリムゾンの居城である白氷宮を悠然と歩く人物がいた。

 

 長い金髪に、青い瞳をたたえた切れ長の目。

 

 透き通るような白い肌。

 

 まるで女性と見紛う程に美しい美丈夫はレオン・クロムウェルという名を持っていた。

 

白金の悪魔(プラチナデビル)」もしくは「白金の剣王(プラチナムセイバー)」と呼ばれる魔王は、他の魔王の城をまるで自分の居城であるかのように自然な動作で進んでいく。

 

 レオンが以前テクトも前に立った扉へとたどり着くと、大柄な悪魔が左右の扉を押し開け、扉の内側に控えていたミザリーがレオンの来訪を告げた。

 

 最奥に座るギィの元までレオンがミザリーとレインを伴って進み、玉座の真下まで到達すると、案内を終えた二人がギィの左右へと控え、同時にギィが立ち上がった。

 

「久しいな、我が友、レオンよ。息災だったか? よくぞオレの呼びかけに応えてくれた。礼をいうぞ」

 

 ギィはレオンへと歩み寄ると、レオンを抱擁し、ついで彼の頬へと接吻する。

 

 レオンはそれを手で押し留め、迷惑そうな表情を造った。

 

「止めろ。私は男と付き合う趣味はない。何度も言っているだろう?」

 

「あっははは。相変わらず連れない男だ。お前が望むなら、オレは女になってやってもいいのだがな。まあいい、場所を変えよう」

 

 不機嫌そのものと言った様子のレオンに対し、ギィは愉快そうにしながら返事を待たずに歩いていく。

 

 暫く歩き、最上階のテラスへとたどり着くと、二人は氷製の椅子へと腰掛けた。

 

「それで、私を呼びつけるとはどういう要件だ?」

 

「ああ。お前も知る通り、魔王達の宴が催される。今回は無理にでも誘おうと思ってな」

 

「ほう? 私に強制するとは珍しいな」

 

「ああ。今回はお前に借りを作る事になっても、参加してもらうぜ?」

 

「理由は?」

 

「ハッ、相変わらず用心深いな。いいだろう、説明してやる。今回の提案者はクレイマン。小者だ。だがな、なぜか賛同者にミリムの名があった。ミリムはオレと並ぶ最古の魔王、クレイマン如きの思い通りには動かん。となると」

 

「カリオンが死んだというのも怪しいという訳か?」

 

「なんだよ、わかってんじゃねーか」

 

 言わんとしていたことを先に言われ、ギィが不機嫌になるが、レオンは気にせずに話を続ける。

 

「クレイマンはやり過ぎた。証拠を残さぬように私への嫌がらせを行ってきたが、今回は見過ごせん。カリオンの生死は別にしても、ミリムが動いたとなると厄介だ」

 

「ふむ、俺も同じ考えだ。ミリムにとってはいつもの遊びだろうが、魔王間のバランスが崩れるのは面白くない。俺の仕事が増えるしな」

 

 レオンが魔王達の宴へと参加するのに前向きであることを感じ、ギィの機嫌が治る。それを見計らって、レオンは質問をする。

 

「それで、ギィ。ミリムはクレイマンに操られていると思うか?」

 

「ミリムの事を考えても無駄だ。オレの様に賢き者には、バカの考えは読めん。それが、数少ないオレの弱点なのだ」

 

 そっけない回答だったが、レオンはある程度納得したのか鼻を鳴らす。対するギィはニヤリと笑うと確信を持ったように問いかけた。

 

「それだけ気になっているということはレオンよ、お前も参加するって事でいいんだな?」

 

「ああ、そのつもりだ。私は馴れ合いは嫌いだが、今回は参加するしかないだろう」

 

「ほう? 良かったよ。お前にオレを一晩抱かせてやろうかと考えていたんだが」

 

「私は男は相手にしない。相手が女でも、望む者以外は遠慮するがね。それ以前に貴様を抱くなど、私になんのメリットもないではないか」

 

「なんだ、先に言うなよ。お前が望むなら、女の身体になってやるんだがな……」

 

 そう言うと再びギィはレオンに絡もうとするが、あっさりと回避される。

 

 幾度となく繰り返された攻防故、レオンの態度に不機嫌になることもなく、ギィは話題を移した。

 

「ところでレオン、ラミリスが意見を提示するなど滅多にないんだが、「リムル」というやつについてなにか知っているか?」

 

「クレイマンが言うには魔王を僭称しているそうだな。私としては、リムルとやらに実力があるならなんの問題ないと思っているよ」

 

「ほう。お前の考えでは、リムルには魔王の資格があるということか。オレとしては、ラミリスが絡んでいるって点が気になったのさ。アイツが興味を持つ者ならば、オレも楽しめるんじゃないかってな」

 

 そう言いながら、ギィの脳裏に白い蜘蛛が浮かび上がる。

 

 以前この城に招いた異常者(イレギュラー)

 

 幾度となく繰り返される友人の外出とその結果に、どれほど頭を痛めたのか考えたくもない。

 

 ラミリスと接触したであろうテクトが相方として語ったリムルと今回ラミリスが追加で参加者としてあげた名の符号が無関係とも考えられず、興味がそそられるのだった。

 

「ラミリスか、あの妖精は苦手だ。会うたびにからかわれる。何度絞め殺してやろうと思ったか……」

 

「あっははは。止めておけ。ラミリスを殺すなら、オレはお前の敵になる」

 

「だろうな。本気で言った訳ではないよ。それに、貴様に喧嘩を売っても勝つ見込みがないしな」

 

 以前のテクトとは違い、気の知れた仲であるためギィが笑いながら告げるのに、レオンも冷笑とともに返す。

 

 それにギィが意外そうな顔をした。

 

「ん? そうでもなかろう。お前なら、百万回に一度くらいは俺を殺せるぞ?」

 

「話にならん。私は確実に勝てる戦いにしか、興味はないんだ」

 

「謙遜はよせ。そもそも、俺に傷をつけられる者は少ない。オレを殺せる可能性を持つお前は、十分に強者だよレオン」

 

「フッ、言われるまでもない。貴様とミリムが別格なだけだ。そうそう、別格といえば、「暴風竜」ヴェルドラが目覚めたそうだぞ」

 

 会話の中でふと思い出したかのように告げられた言葉に、ギィが笑みを深める。

 

 驚きつつも愉快そうにするギィにレオンが満足そうにしていると、扉が勢いよく開き、ヴェルザードが入ってきた。

 

 今までで知るヴェルザードと違い、明らかに冷静さを欠いている彼女を見て、レオンが目を瞬かせる。

 

 そんなレオンヘは見向きもせず、ギィへと近寄ると、ヴェルザードは彼の肩をゆすり始めた。

 

「なんだかわからないけど、何かが起きている気がするの!」

 

 呆れた様子でため息を吐くと、ギィはヴェルザードの手を払い、彼女を少し離れた場所に移動させる。

 

 それでも興奮冷めやらぬ様子のヴェルザードにもう一度ため息を吐くとギィが口を開いた。

 

「急に眠って起きてきたかと思えば、今度はなんだよ。今のお前の話からじゃ、何もわからんよ。少しは落ち着け」

 

「そうは言っても、自分でもわからないのよ」

 

「……はぁ、ならオレにはどうしようもないな。で、話を戻すが、レオン、ヴェルドラが目覚めたってのは確かなのか?」

 

 ギィの言葉に冷静さを欠いている事を自覚しつつも、落ち着かないのか動きを止めないヴェルザードにあっけにとられていたレオンだったが、ギィの質問にようやく再起動した。

 

「ああ、それは間違いない。西側諸国に放っている間者からの報告だ」

 

「ほう……? だとしたら、なぜあの邪竜は大人しくしている? 自力で魔素量を回復できぬ程に弱っているのか?」

 

「間者からの報告では、クレイマンの謀略が原因のようだぞ。西側諸国、それも大国であるファルムス王国に働きかけ、リムルとやらが興したジュラの大森林大同盟の盟主国を滅ぼそうとけしかけたようだ。結果、ファルムスの軍勢は全滅。リムルが魔王を名乗る流れとなった。そして、つい先程判明したことだが、両国の衝突した場所にヴェルドラが眠っていたらしい。消滅寸前だったヴェルドラは、大量の血を浴びて目覚めたというのが真相のようだな。その巻き添えを食ってファルムス軍が消滅し、リムルは危機を脱したらしい」

 

 レオンの説明にギィが顎に手を当てて考え込むような仕草をする。

 

 ヴェルザードも話が進む内に落ち着いたのか、いつの間にか用意された椅子に座り、可能性を探るような表情になったのにレオンが爆弾を落とす。

 

「勇者の封印が不完全だったのかもしれないが、一つ仮説を立ててみた。何者かが創り出した亜空間に、封印ごと飲まれていたというものだ」

 

 その言葉を聞き、ヴェルザードが顔を上げ、レオンを見る。

 

 目を見開いたヴェルザードの意図がわからず訝しむレオンだったが、笑い出したギィに気を取られた。

 

「なるほどな。これは面白くなってきた。あの封印は勇者の特異性も相まって、通常の能力での解除は不可能。オレ達ならば可能だろうが、それはつまり、その何者かがオレ達に匹敵するということになる。そして、その何者かが「リムル」だと、お前は考えているわけだ」

 

「その通りだ」

 

「ああ、これはいいな。実にいい」

 

 笑いながら空を仰ぐギィだったが、ふと気になったのか、笑顔を戻し呟く。

 

「それにしても、ヴェルドラが大人しいのは何故だ?」

 

「弱っているのかしら? 以前とは比べ物にならないほど反応が微弱だわ」

 

 答えたのはヴェルザード。

 

 隠すことの得意なテクトがいるため断言はしないが、暴れないのもテクトが関わっていると考え、適当に言葉を濁した。

 

「まあ、ヴェルドラについてはどうでもいい。私は奴に興味はないからな。貴様達が仲間に引き入れたいなら、勝手にすればいい」

 

 そう言うとレオンが席を立った。

 

「もう行くのか?」

 

「ああ。私への要件はそれだけなのだろう?」

 

「まあ待て、そう慌てることもないだろう? ところで、お前の本当の目的である「特定召喚」の目処は立ったのか?」

 

「……そちらは、まだだな。趣向を変えてランダムに召喚させてみたが、それもどうやら失敗に終わったようだ。流石に目立ちすぎた。「不完全な状態での召喚」を理論化して西側諸国に流したのだが、自由組合から横槍が入ってな。確率から考えても効率が悪かったが、今後は邪魔も入りそうだよ。その時は、別の手法を探すがな」

 

「……邪魔だと?」

 

 レオンの話に引っかかる部分があり、ギィが問う。

 

「ああ。死を待つばかりだった子供達を救ったそうだ。私が引き取る前にな。結果を確認することは出来なかった上、今後も同じように邪魔されることが容易に想像出来る。なんでも、そいつは子供達の召喚に腹を立てたらしくてな。それぞれの国に対しても圧力を加える可能性がある。なので、この実験は手仕舞いだよ。これ以上は、裏で私が動いていることに気づかれてしまいそうだからな」

 

「その邪魔者になにか対処しようとは考えなかったのか?」

 

 ギィはレオンの返答が直ぐ側の竜の逆鱗に触れないように祈りつつ言葉を重ねる。

 

 子供達のことにテクトも関わっており、「邪魔者」に該当する可能性に気づき、細められたヴェルザードの目が妖しく輝くのを見て、いざという時にどう対処するのが良いかとギィがシミュレートしていると、レオンはため息を吐いた。

 

「その邪魔者こそ、今話題にしていた「リムル」なのさ。偶然と切り捨てるには早計だと思ってね。一度見てみたくなったのさ」

 

「そうか、その邪魔者ってのは、リムルってやつだけなのか?」

 

「伝わってきているのはリムルという名だけだ。なんにせよ、今夜の魔王達の宴は荒れるだろう」

 

 注目を集めているのがリムルだけと知り、ヴェルザードが落ち着いたため、ギィも内心で胸を撫で下ろす。

 

 無駄に負うことの多くなった心労をどう晴らしてやろうかと考えるギィとレオンはその後も暫く歓談し、ふと話題が変わる。

 

「前から気になっていたのだが、お前に情報を伝えている協力者とは一体何者だ?」

 

「帝国の人間らしいが、詳しくは知らん。自分では商人だと名乗っていたがね」

 

「その商人とやらは信用出来るのか?」

 

「信用? する必要などあるまい。ただ利用しているだけだしな」

 

「そうか。お前がそれでいいなら、オレに文句はない。だが、油断はするなよ? 勝手に死ぬなど許さんぞ」

 

「私を心配してくれるのか? 珍しいな、ギィ。安心しろ、目的を果たすまでは死ぬつもりなどないさ」

 

「それはまた……そんなに大事なことなにか?」

 

「ああ、私にとっては、この世の全てに優先するほどに」

 

「そうか、嫉妬しそうだ」

 

「心にもないことを言うな。忠告は素直に受け入れるさ。では、また今夜」

 

 その言葉を最後にレオンは今度こそその場を去っていく。

 

 止める間もなく去っていったレオンに苦笑しつつ、ギィが呟く。

 

「せっかちな奴だ。まあ、レオンらしいが……」

 

「慎重なレオンにしては隙が大きいわね。協力者の正体も掴んでいないようだし。こちらで探ってみる?」

 

「止めておけ。要らぬ手出しをすれば、レオンの不興を買う。俺は友人に恨まれるのは御免だよ。アイツがオレを頼ってきたら、そのときに手助けしてやればいい」

 

 ヴェルザードの提案にギィは心配などせずに返答する。

 

 レオンに対する信用からくる答えに特にヴェルザードは疑問を挟まず、首肯する。

 

「今回は楽しめそうだな。お前も行くか?」

 

 ギィが笑いながら問いかけると、ヴェルザードはわずかに考え込んだ。

 

「そうねぇ……テクトが参加するなら行くのもありだけど……ラミリスが参加を条件に加えたのは「リムルだけ」なのでしょう? きっと、弱っているヴェルドラちゃんも含めて防衛に回っているんでしょうね」

 

「そうか、では、留守は任せるぞ」

 

「ええ、その代わり、リムルとやらにテクトをよこすように伝えておいて頂戴」

 

「ああ、承った」

 

 ギィが了承するのを受け、ヴェルザードも席を立つ。

 

 後には思考に沈み、妖艶に笑うギィが残された。

 


 

 次回「開戦(プレリュード)




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

UAも65,000を超えていました。ありがたい限りです。

「ここ好き」は改行数を参照するため、編集時に行数を増やすと位置がずれるみたいです。

「ここ好き」をされている方はご注意下さい。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

  • 書くべき
  • 書かなくてもいい
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