二人の状況の差をお楽しみ下さい。
ミザリーと呼ばれた悪魔とともに現れた扉の先は、そのまま会場へと繋がっていた。
大きな円卓に等間隔で椅子が十二脚用意されている。
十名の魔王がいて現在はカリオンが行方不明のため、俺が座っても二脚余る計算である。
ミザリーの案内で着席する。
どうやら魔王になった順番で席次が決定するらしい。
そこに文句はないので、他の魔王を観察しようと周囲に意識を向けるが、今いるのは二人だけだった。
一人はラミリス。
アイツも古参だからか一番奥の上座に座っている。
足をぶらぶらさせていて楽しそうにしている姿はまるで子供である。
気にしても仕方ないので放置する。
俺から見て丁度正面には、妖艶な赤髪の男―確かに男ではあるのだが、妙に艶のある美丈夫が座っている。
目を閉じて口を真一文字に噤んでいるが、別に眠っている訳ではなさそうだ。
そして、一目でこいつの異常性に気づく。
「解析鑑定」では大した事はないように見える。
カリオンに匹敵するほどの魔素量だが、波長にムラがあり一見すると妖気を制御できない未熟者と受け取れる。
だがこれは「大賢者」の解析能力では見抜けない程に巧妙な偽装の結果なのだ。
俺やテクトの発想では実力は隠すものであり、一切の情報を与えないことに意義を見出していた。
だがこの美丈夫は相手の情報を読む力すら利用しているのだ。
情報を読む力があるか。読めぬものは論外で、読める者はその反応を見る。そうして相手を篩にかけているのだ。
偽の情報にすらビビる者は相手にする価値もないと切り捨てられ、気づいたものも底知れぬ力の一端を垣間見せることで逆らう気を奪うということだ。
だが、この見せてもいいと考える情報でもカリオン並みの魔素量である。
本当の実力など予測もできない程の力。
明らかに別格であるこの男がギィなのだろう。
そうして観察を終える頃、会場へと一人の大男が入ってくる。
会場を圧する存在感と底知れぬ魔素量にダグリュールと推測出来る。
ダグリュールはギィの二つ右の椅子に座った。
ギィの右側はミリムの席ということなのだろう。
俺達とは明らかに身体のサイズが違うが、椅子は魔法の品らしく、自動的にサイズが調節されてダグリュールの巨体を受け止めた。
ヴェルドラと喧嘩が出来るというのも頷ける、威風堂々とした振る舞いである。
いくら魔素量が多くとも使う技量が拙ければどうということはないのだが、ヴェルドラと喧嘩出来る相手が技量が拙いということはないだろうから要警戒である。
ダグリュールの次に現れたのは豪華絢爛な衣装を来た筋骨隆々で金髪の美男子だった。
ハリウッドスターのような魅せ方を心得ている風情の華やかな男の唇からは二本の犬歯が覗いており、彼の種族がうかがえる。
ヴァレンタインはラミリスの隣に座った。
気になるのはヴァレンタインの従者達。
一人目は老齢の執事っぽい男性。
一切の妖気を抑え、実力を悟らせない達人という感じだ。
問題は二人目。
服装はメイド服っぽいドレスだった。従者であるのでそこに違和感はないのだが、それを着ている少女は凄まじかった。
とても目を引く、輝くような銀髪の美少女。
透明感のある肌に、青と赤の妖しい輝きを放つ
その上、ギィの様に巧妙な隠蔽工作がされており、その魔素量は魔王ヴァレンタインよりも多いように感じられた。
ヴェルドラの言っていた
他の魔王が黙認しているのか気づいていないのかはわからないが、要警戒である。
もし、彼女がヴェルドラに国を灰にされた魔王であるならば、恨みは相当なものだろうし、関係がバレないように、よしんば、バレても尻拭いをしなくてもいいように祈るしかない。
それよりも気になるのは、彼女がテクトの方を見ている点だ。
本人も見られていることに気付いているようだが、視線を向けられる理由がわからないのか困惑している。
まぁ、妖気は完全に隠しているとはいえ魔素量は俺より多いし、何より精神が男の俺でも見惚れそうになる程の美貌だ。
注目は集めるだろう。テクトはそのうち刺されるだろうな。
と、そんな事をしていると、五人目がやってきた。
一人できたその男は二本の剣を腰に帯びていた。
ライトブルーの瞳と黒に近い紫の髪に銀のメッシュが入っていた。
見た目は若く整っているのだが、眠そうな目と気だるそうな動作が色々と台無しにしている。
そいつはラミリスの横で立ち止まると軽く手を上げて挨拶する。
恒例のじゃれ合いといった様子の口論が終わるとラミリスがトレイニーさんとベレッタを自慢し始め、一頻り話をするとヴァレンタインの横に座った。
会話の中でディーノと呼ばれていた男はそのまま机に突っ伏し眠り始める。
実力を図ろうとしたが、妨害されていたし、解析をしようとすれば薄目で睨まれたので、油断ならない相手なのは間違いなさそうだ。
続いて入ってきたのは
フォビオから聞いていたことから考えて、彼女が魔王フレイと考えていいだろう。
溢れ出るような
空気抵抗の高そうなその胸は、飛ぶのに邪魔にならないのだろうか?
おっと、ついつい思考が横道に逸れた。それ程のインパクトがある登場だったので、仕方ないのだ。
それで、フレイだが、ミリムの席が空席であるのをチラッと眺めると、その後、俺に視線を向けてきた。
その流し目にも色気がある。
いやいや、これはこれは……
通り過ぎた際の香りの、なんと芳しい事よ。
そう思っていると、背後から不穏な気配。シオンが明らかに不機嫌になった模様。テクトも呆れた様子であり、俺が色香に惑わされそうになっているのに気付いたらしい。
これ以上は危険と判断出来るので、真面目な観察に戻る。
魔素量は特筆すべき程ではない。どちらかと言えば、シオンやベニマルよりも少ないだろう。
といってもシオンはヴァレンタインに並びそうなレベルだし、フレイもそこまで少ないというわけではない。以前テクトがエラルドに言ったように重要なのは質なので、侮るのは愚策だろう。
おそらく隠し持った能力がかなり多いのだろう。
フレイに関してはそれくらいだが、目を引くものがあった。
付き従っている従者だ。
一人はフレイに匹敵しそうな巨乳の
まだ幼さを残すのに、なんともけしからん身体つきである。テクトも若干視線を送っていたし、この事はいつか役に立つ情報になるだろう。
もう一人は、フレイに匹敵しそうな魔素量の大男。背には大鷲の翼が生えているので、有翼族の男性なのだろう。
素顔は
《告。「解析鑑定」による推定》
まさか、ね
カリオンとは波長が違うし、別人だな。間違いない。
行方不明のカリオンなら、こんなバレバレの方法で魔王達の宴に参加する訳が無い。もっと用心深く、慎重に行動して然るべきである。
世の中には、自分に似たような人が三人いるとかいうし、フレイの従者も他人の空似だろう。
(リムル)
とそこにテクトから呼ばれ、ふと視線を向けると周囲にわからないように視線である方向を指していた。
その方向からは丁度金髪美女が入ってきたところであり、その人物はまっすぐに俺に向かって歩いてきた。
「お前がリムルか」
「そうだけど」
声をかけてきた相手に何者なのか問いかけようとした時、思い当たった。
残る魔王は四名。一人は行方不明のカリオンで残りはクレイマンとミリム。
そして、レオン。
金髪で「
「そうか、お前がレオンか。俺に話しかけてくるとは、何か用でもあるのかよ?」
「いや、特に用があるわけではないさ。その姿を見て、ふと懐かしく思ってね」
予想通り、目の前の人物がレオンらしい。
テクトが声をかけてきたのはひと目見て正体に思い至ったためだろう。
美女と見紛うような、美麗な男である。
元人間との話だが、雰囲気は堂々たるもの。
魔王の貫禄が備わっている。
そして、用があるわけでもないのに話しかけてきた理由は
「レオン、シズさんは死んだぞ」
シズさんの幼き頃の姿である俺を見て、シズさんの事を思い出しただけだったらしい。
「知っているさ。死ぬのは当然だ。なんせ彼女は、イフリートを受け入れて魔人になるのを拒んだのだから」
「彼女からお前を一発殴ってくれと頼まれているんだ、殴らせろ」
レオンの平然とした態度に怒りからか、思わず口から攻撃的な言葉が出る。
テクトが止める様子がないあたり、俺もまだ冷静な方なのだろう。
「断る。私はシズに、自らの生を選択する機会を与えた。彼女は魔人ではなく、人間として生きることを望んだのだ。イフリートを選別にくれてやったのに、殴られる筋合いなどない。だが、お前にも少し興味がある。招待してやるから、文句があるならば来たらいい。罠だと思うなら、拒否してくれても構わないよ」
俺の言葉に激昂するでもなく冷静に返される。
最後の提案など、怖ければ止めておけと言われたようで、受けるしかない申し出だった。
「わかったよ。受けてやるから、招待状でも送ってくれ」
「ああ、そうしよう。もっとも、お前がこの場で生き残れたら、だがな」
レオンは煩わしそうに頷くとそっけなく言って俺の左隣の席に座った。
これ以上は相手をする気がないという意味で取って間違いないだろう。
シズさんのことは伝えることができたし、招待状を出すと言い出す以上、この場で敵に回ることはないだろう。
ひとまず、クレイマンを敵として集中できそうだった。
会場入りから一時間。
座っていく順番から考えて、会場に案内されるのは古い魔王からのようだ。客である俺は、たまたまラミリスといっしょにいたから先に入ったらしい。
まぁ、レオンみたいに自力で来る者もいるようで、正式な決まりという訳ではなさそうだが。
残るはクレイマンとミリム。
もうすぐ始まりそうだと思った時、テクトから話があった。
どうやら、ベニマルから報告があったらしい。
異界であっても魂の回廊が確立していれば「思念伝達」が通じるようだった。
肝心の報告だが、一時間足らずで戦争は集結し、一方的な展開だったとのこと。
当方からはけが人は多数でたものの、死者はゼロ。クレイマン軍からは確認できた死者だけで千名。けが人はその三倍以上とのことだ。
生きてさえいれば回復出来るため、死者が少ないのも当然なのかもしれない。
ついでに、敵の指揮官のヤムザが、なぜか
「
ベニマルは想像上に強くなっていたようだった。
「竜を祀る民」はミリムの信奉者だけあって想像以上に強かったらしく、彼らが本気で戦おうとすれば犠牲者を出しかねない相手だったらしい。
百名程度ならと考えた俺達の浅慮の結果なので、気をつけねばならないだろう。
そして、クレイマンの主張も判明した。
奴らはカリオンの裏切りを調査するという名目で動いていたらしい。
魔王達を裏切り、クレイマンの配下を殺し、俺と繋がっているという証拠の捏造を行おうとしていたのだろう。
こちらが勝利したことによりそれは潰せたので、どのような言い訳をしてくるか不明だが、他の魔王が賛同することはないだろう。
仮に賛同するものがいればクレイマンと共に排除するしかないので、できるだけ楽に勝てる方向に話を持っていくように頑張ろう。
智慧之王さん、期待していますよ!
《……》
智慧之王さんもやる気だ。
これで一安心である。
ソウエイからも報告がきたようで、クレイマンの本拠地を落としたらしい。
その際、なにやら濁されたらしいが、
重要なのはカリオンが囚われていなかったことだろう。
それともう一つ。
宝物庫からクレイマンと中庸道化連のつながりを示す証拠が見つかったらしい。
財宝も根こそぎ奪ったようだが、窃盗を心配する俺を他所にテクトはホクホクしている様子だ。
証拠に関してはゲルドを通じて送られてきたので、クレイマンの言い分とその根拠を潰す準備は万全である。
そうして報告の共有をしていると、ようやくクレイマン達が姿を表した。
クレイマンは意外にもハンサムでやや神経質そうな顔をしていた。
高級そうな服に特質級の装飾品を身に着けている。
しかも、その腕に抱く狐はとんでもない妖力と魔素量であり、下手をすれば、魔王にも届きそうな程である。
腐っても魔王というだけあり、配下の層は中々に厚いらしい。
クレイマンへの「解析鑑定」の結果、少し気になることもあった。本拠地を落としたからと舐めてかからずに、仕上げは慎重に行動するとしよう。
その後ろにミリムが続き、これで魔王達が出揃った。
皆が皆、油断ならない化け物である。
ちなみにレオンへの「解析鑑定」の結果もギィ同様に解析不能であり、俺と同格の能力、つまり、究極能力を持っていると判断出来る。
となると、ギィが偽情報を読ませていたのは究極能力への対策だったのだろう。
究極能力で解析不能ならば、相手も究極能力を持つという証明になる。
俺達の場合はそれぞれの先生が優秀だったから偽情報に気付けただけであり、危うく騙されるところだった。
となると、ギィ、ひいてはミルスも究極能力を持っていると考えるべきだろう。
究極能力の性能はユニークスキルの比ではなく、獲得には本人の資質と運と偶発的な要素が絡み合う。真なる魔王でさえ獲得出来るとは限らない能力みたいだし、切り札とも呼べる力なのだ。
だからこそ、今後はより慎重に行動すべきである。
そして、俺が究極能力の所持者であることは、ギィにはバレていると考えていい。
これは失敗だったが、ただで転ぶつもりはない。
究極能力の系統はバレていないので、要である智慧之王は絶対に隠し、逆に戦闘の基本となる
四つも究極能力を持つからこそ出来る大胆な隠蔽工作と言えるだろう。
とそんなふうに反省をしていると、驚くべき光景を目にする事になった。
「さっさと歩け、このウスノロ!」
クレイマンがそう言って、いきなりミリムを殴ったのだ。
「ノロマめ、さっさと席に座りなさい」
そして偉そうに、ミリムに向かってクレイマンが指示を出す。
怒りが爆発しそうになったが、我慢する。
なにせ俺よりもミリムと親しいテクトが我慢しているのだ。
勝手に爆発するわけにはいかない。形式に則り正々堂々と宣言するまでは、この怒りを我慢しなければ……
しかし、ミリムはどうしたのだろうか。
これが逆なら納得出来る。
しかし、殴られたミリムは抵抗もなく、文句も言わない。
言われるがままにギィの隣へと座った。
やはりミリムはクレイマンに操られているのか?
これは、最悪の事態も想定する必要がありそうだ。
驚いたのは俺だけではないようで、他の魔王も戸惑うような表情を見せている。
ギィの表情はわずかに笑っていたようにも見えたが、長い付き合いであろうはずのミリムが殴られていい気はしないだろうから、見間違いだろう。
クレイマンは得意の絶頂という様子で、優越感に満ちた表情をしている。
その顔を見て、驚愕が引いていき、怒りが再燃した。
楽に殺してはやらない。俺達の友達を殴った報いはキッチリと支払わせる。
テクトも殺気が漏れており、殺る気十分だ。
クレイマンの死は確定した。
だが、慌ててはいけない。
宴はまだ始まっていないのだ。
今回の魔王達の宴に参加するのは以下の通り
十大魔王中、カリオンを除く魔王、九名。
そしてもう一人
今回の話題の主役、新たな魔王を僭称する者―
ギィの配下であるレインと名乗ったメイドが涼やかな声で紹介していく。
レオンの呼ばれ方が以前聞いたものとは違う気がしたが今は放って置くことにする。
紹介が終わるとクレイマンが立ち上がった。
「さて、本日は私の呼びかけに応えて頂き、誠にありがとう御座います。それでは始めましょう、我等が宴を! ここに、
そして、主催者の権利として、開会を宣言した。
波乱の予感を含み、魔王達の宴が始まったのである。
次回「
感想・評価・お気に入りありがとう御座います。
テクト視点は早ければ水曜日に、間に合わなければ今回と同じ様な時間に投稿しようと考えています。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい