村中がリムルの回復を祝い沸き立つ中、住人たちを集めていく。
全員がそろってしばらくはざわざわしていたが、数分で静かになった。
その間にどこからか付け髭を取り出し装着していたリムルからため息の後ひと言告げる。
「はい。皆さんが静かになるのに五分かかりました」
住人たちは誰一人その意味を理解できず不思議がる。一部待たせてしまったと考え恐縮するものもいたがそれだけだ。
(俺の渾身のネタが通じないだと⁉)
(リムル…………そういうのはいいから早くしなよ)
「リムル様、今のは?」
「なんでもない。気にするな」
隣にいるテクトからのジト目と周囲の不思議そうな視線に堪えられなかったのか、付け髭を外し、仕切りなおす。
「俺たちは大所帯になってきた。テクトも班分け程度で決めていなかったようだから、ここでルールを決めておこうと思う」
どのようなものなのかとどよめく皆に対し、ルールを告げる。
1.人間を襲わない
2.仲間内で争わない
3.他種族を見下さない
ルールの1・3についてはそれぞれリグルとゴブタからなぜそのようなルールなのか質問が出た。
リグルの質問に対しては「人間が好きだから」と答え、その一言ですべて納得したかのようにうなずく住人たちに不味いと思ったのか、集団生活を営む人間に危害を加え、反撃に来られるのはよろしくないと付け加える。
ゴブタの質問に対しては馬鹿にした相手が自分たちのように進化して強くなったときに報復に来られてもつまらないと返答し、それで質問は終了した。
その後はリグルドをゴブリンロードへ任命し、テクトが振り分けていた各班の確認をすることとなった。
「一番の問題は住居班か、技術力不足が目立つな…………」
「現状は相方の牙狼の毛皮で暖をとってるけど、それだけだと限界があるしね」
「いや、衣服はどうにかなると思うんだが…………」
「へ? 私?」
リムルが会話の途中でテクトのほうを見る。
「「
リムルに指摘されハッとするテクト。シラヌイに確認をとったところ帰ってきた答えは肯定だった。たらり、と冷や汗が流れ落ちていく。
「お前…………」
「ごめん。全く気付いてなかった。そうだよ、布って要するに糸の塊みたいなものなんだから作れるじゃんか。みんな揃って「働かせるわけには」とかいうからできることとかないと思いすぎてた」
自身の至らなさに気づきほほを赤らめるテクト。リグルドは自身の判断がテクトの迷惑になってしまったと謝ろうとするが、それを押しとどめ、さっそく衣服の作成に取り掛かることにした。
(やっぱりここはゴブリナ達から作ったほうがいいよね。シラヌイ「捕獲者」の糸で衣服の作成をお願い)
≪告。サンプルデータの取得を希求します≫
シラヌイ曰く、何もなしに作ることもできるが、サイズが違うと困るので何かしらのデータが欲しいとのことだった。データの取得には「捕獲者」で行えるとのことだ。
さっそく近くにいたゴブリナのハルナに声をかけ、データの取得を試みる。シラヌイの指示に従い「捕獲者」で糸を張り巡らせ、その内部を「巣」に指定。その内部に存在するものの解析を始める。
≪告。測定結果を報告します。種族名:ゴブリナ。体長150~160。スリーサイズ「わ──! (報告はいいから結果に沿って衣服の作成をして!)」了。衣服の作成を開始します≫
いきなり叫んだテクトをいぶかしむ周囲に何でもないと告げ、衣服の作成に取り掛かる。
しばらくしてできたのは無地の半そでシャツだった。それをハルナに渡し、着心地を確認してもらう。生地はしっかりしており、着心地には問題なさそうだった。
進化後のゴブリナたちの体格はほとんど変わらなかったので、これ以上のデータは必要なさそうだと判断し、大体の比較でゴブリナへ渡すシャツを作っていく。ゴブリナ全員にいきわたる数を作る前に魔素残量が少なくなってきたとシラヌイから警告が入り、作成を中止した。その数は半数にも届いていない。
「これじゃあ効率が悪すぎるね。消耗が激しすぎる。供給を一人に頼る状況もよくないし、やっぱり服を作れる人は必要だと思う」
リグルドにこれまでどうやって調達していたのかを聞くと、ドワーフから仕入れていたという。彼らは魔物とも取引をしているらしい。さらに、ドワーフの国は栄えており、住居に関する技術者も存在するかもしれないとのことだった。
その後の話し合いの結果、ドワーフの国「武装国家ドワルゴン」へリムルが向かい技術協力者探しを、村の守護としてテクトが残ることとなり、翌日には一度行ったことのあるゴブタを案内人として、ランガ、リグルたちを連れて出発した。
リムルが旅立ち三日が経つ頃にはシャツを配り終え、余裕ができたテクトはある考えがあった。
シラヌイからも実行可能との返事を受け取り、実行のために魔素を練っていると天幕にリグルドが入ってきた。
なんでも近くに存在するゴブリンの集落が保護を求めてきたらしい。
牙狼族との戦いのときにリグルド達を見捨てていたらしいので何をいまさらという感じではあるものの、頼ってきた彼らを見捨てれば彼らが死んでしまうというのだから、テクトからすれば見捨てづらかった。
ただ、このまま受け入れていいのか悩むところなのでリムルが帰ってくるまで滞在を許し、処遇は彼と相談して決めることを伝えた。
その後、テクトは一日ごとの報告とその際の指示出し以外には出てくることはなく、四日が経過し、リムルたちが四人のドワーフを連れて帰ってきた。
『お帰り、リムル』
「あれ? アラクネになってないのか?」
村へと帰ってきたリムルたちを出迎えたのは白い蜘蛛を先頭にした村の住人たちだった。
事前にテクトの存在を耳にしていたドワーフたちにはさほどの動揺はなかったものの、リムルからは疑問が出た。住人たちはすでに受け入れているにもかかわらず、姿を変えることに違和感を覚えたからだ。
『ふっふっふ。私もこの一週間ほどの間、ただシャツを作っていたわけではないのだよ。見るがいい! 私の新たなる姿を! 「変身」』
テクトが仰々しくポーズをとる(蜘蛛のままなのでとてもシュールなものになっているが)と糸が湧き出し、体を包み込んでいく。人一人を包めるサイズの繭が出来上がるとそれを突き破り、テクトが現れた。
──二頭身ほどで妙にずんぐりむっくりとした姿で。
ゆるキャラにも通じる大きな頭、短いわりに妙に太い手足。首は存在せず、胴体と一体になっていた。
「ええっとお、新しい姿? ま、まぁ似合ってるんじゃないか?」
リムルが若干引きつつも動揺とともに賛辞を述べる。しかし、テクトは得意げに反論した。
「ああ、別に無理してほめなくてもいいよ。ここからが本番なんだからね。「大変身」!」
テクトが再びポーズをとると、二頭身の体が内側からはじけ飛び、中から再びテクトが現れた。下半身がしっかり足となっており、蜘蛛らしさのかけらもない姿となって。
「どーよ、この姿。名付けて「
この「操糸人形」は某海賊漫画のキャラから着想を得た人形である。
糸を大量に使用することで人型を形成。形質変化により肌や眼球、髪の毛など様々な質感の糸で覆い、人間らしさを演出。
その中に「身体変成」によって体を縮小したテクトが収まり、内部からシラヌイの高速演算・並列思考を用いた糸操作によって操作。
会話に関しては風魔法と声帯や共鳴腔といった発声に必要な器官を模した糸を使用して声を発生させている。この声は魔法によって発生したものであるため「魔力付与」によって魔素を上乗せすることができ、周囲に理解できるように増幅することで会話をするという力業で解決している。
自身の扱えるスキルを精査し、その権能の一部を結集させた結果生まれた姿だった。
「す、すごいな、それ。けどそれの前のキャラクターじみたあれは何だったんだよ。すぐにはじけ飛んだし、なんか意味あったのか?」
「リムルなら通じるかなと思ったけど通じなかったのか………まあ、いいか。特に意味はないから気にしないで……ようこそドワーフの皆さん。私はテクト・テンペストよろしくお願いしますね」
テクトはがっかりしていたが気を取り直して、自己紹介を始める。それぞれカイジン、ガルム、ドルド、ミルドとのあいさつを終えると改めてリムルに向き直った。
「えっと、それでリムル。ちょっと相談というか、伝えたいことがあるんだけど………」
テクトが気まずそうに庇護を求めてやってきたゴブリンたちのことを伝える。リムルは数瞬黙り込んだが、放置すれば彼らが淘汰されていくという結論となったのはテクトと同じだったようで、彼らの合流を許すことにし、名前を付けることにした。
「よし、じゃあ今回はテクトと分けてやるとするか」
「あ、ごめんリムル。今回は参加できない」
「は?」
テクトの現在の保有魔素量は非常に低い。ゴブリンへの名付けであっても一つの群れにつけることすらできそうにない。そのことを伝え、今回の名付けを避ける。
「それにあの時言ったじゃん。「ゴブリンと牙狼族の名付けは任せる」って」
「ゑ?」
「そういうわけだから。あとよろしく。私はカイジンたちを住居班や服飾班のみんなに紹介してくるから」
「あ、おい! …………行っちまった。あいつ、おぼえてろよ、マジで」
テクトはカイジンたちを連れその場を離れていく。その後、リムルは結局一人でゴブリンたちに対する名付けを行い、
ある夜。
一人の密偵が森を進んでいた。
監視の交代まではまだ日があった。それでも帰還を選択したのは少なく見積もっても監視対象と同等の脅威度を持つと思われる存在を見てしまったからだ。
暗い森の中を急いで進む密偵の動きが急に止まる。自発的に止まったのではない。止められたのだ。隠されていた糸によって。
「「
現れたのはテクト。捕縛されたことを理解した直後、口内に仕込んでいた毒で自害を図る。
「それはだめだよ。「薬合成」」
しかし、毒を中和され阻止される。そのうえ糸を口にかませ完全に拘束された。
「別に答えてもらう必要はないんだ。必要な答えは体が勝手に教えてくれる。隠そうとしても隠していることが伝わるから偽装はできない。あきらめるんだね」
いくつかの質問の後密偵は解放され、テクトは去っていった。自身の情報は抜かれてしまったが報告はしなければならない。自身の処分に関しては王に任せることを決め、国への帰途を急いでいった。
「ドワルゴンの諜報機関か。ほかの国からも来ることになりそうだし、うちにも早いところ諜報部門ほしいな。ま、しばらくはワンオペで頑張りますか」
リムルが復活し数週間後、爆発的に増えたゴブリンたちによってパンクしたリグルド達の村から引っ越しを行い、ヴェルドラが封印されていた洞窟の近くに新たに村を立てるためカイジンたちの指示のもと建築が進んでいた。
「順調っぽいな。カイジンたちがいい仕事をしてくれてる」
「もともとの居住環境からがらりと変わって大丈夫かと思ったけどなじめてるみたいで安心したよ」
テクトがリムルを抱えながら歩いていく。人型になれるようになったことでもともとはアラクネの形態で蜘蛛の体に乗せていた状態から抱えるようになっていた。
「あれ? ゴブタ何やってんの」
「ああ、なんでも、牙狼の召喚の仕方を教えているらしいぞ」
「へぇ~、才能あるんだね、ゴブタって」
ゴブタはリムルたちがドワルゴンから帰る際に置いて行かれそうになったときに、必死に助けを求め、その結果として相棒である牙狼の召喚に成功したらしい。
テクト達のゴブタへの評価が上がっていた。
しかし、ゴブタの説明が擬音まみれのうえ、感覚的なものであったためかリムルからの評価は何段か落ちていった。
「そういえば、最初にシャツを作った時はその時のゴブリナの半分ぐらいの数しか作れなかったのにどうやって「操糸人形」なんて作ったんだよ。それ作るのに滅茶苦茶魔素使うだろ?」
「それなら、ユニークスキル「
「才能者」によって、「魔素から糸の生成効率の向上」「魔素の消費と回復を繰り返したことによる魔素量の増加」「糸の操作の正確さの向上」「演算機能の向上」といった様々な成長が促進され、「過食」によるエネルギーの詰め込みと「高速回復」による体力回復の大幅短縮にものを言わせた昼夜を問わない訓練によって、「操糸人形」を作成・制御する下地があっという間にできていったのだ。
「お前もたいがいチートだな」
「自分でもそう思うよ」
そんなことを話していると、リグルドが駆け寄ってきた。周囲の警戒をしていたリグルたちが人間を見つけ、報告に戻ってきていたらしい。
この世界に生れ落ちて初めて人間とコミュニケーションをとる機会を得たことで、テクト達はわくわくしていた。
次回「人間との邂逅」
「操糸人形」(ホワイトドール)
能力の着想はワンピースより、ドフラミンゴの
「身体変成」で体の構成を変えるのではなく、大きさを変え内側から糸人形を操っている。
動かすために演算領域をかなり使用するため、操作中の魔法使用は不可能。
また、周囲の状況確認を魔力感知で行うため視認が必要な「嘱目者」も使えない。
運動性能もアラクネに比べ低いため肉弾戦もさほど強くない。
テクトは「才能者」による成長促進で問題点の解決を図っている。
最初に見せた二頭身形態は仮面ライダーエグゼイドのアクションゲーマーLV1を白くした見た目。
このためにタイトルを決めたわけではなく二頭身形態は後付けです。なので今後は使うことなく進むと思います。
感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。
今回から新しく出てきた能力などを次回タイトルの後に書いていこうと考えています。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい