精査が足りなかったと反省しています。
ヤバい。
何がヤバいって、ミリムに決まっている。
クレイマンへの怒りが吹き飛びそうになるほどに、ミリムの相手は大変なのである。
フォビオが見たという戦闘形態を取っていないので、まだまだ本気ではないのだろうが、全力全開で食らいつくのが精一杯だった。
一方、テクトとシオンはというと、案外余裕そうだった。
テクトは主に
九頭獣は魔素量こそ巨大だが、戦闘経験は少ないらしく、二体の魔物とともにあっさりと不可視の糸に絡め取られていた。
テクトがそれ以上何もしないのは九頭獣にかけられた呪術の解析をしているらしく、あまり殺したくないことがうかがえる。
それに関しては賛成だし、もう少しくらいなら耐えるとしよう。
そしてシオンはテクトの援護を受け、善戦していた。
黒フードの中身は精巧な魔人形だったらしく、ぶっちゃけクレイマンよりも強そうに見える。
「フハハハハ、この私の最高傑作であるビオーラはどうです? 美しいでしょう?」
クレイマンが自信満々になるのも納得の強さではあるのだが、美しいだろうか?
身体中から特質級の武器が飛び出し、防具も無論特質級である。
炎熱、雷撃、氷雪、圧壊、共鳴、その他諸々の攻撃手段が、無尽蔵と思えるほどに繰り出されていた。
テクトが大半を撃ち落としていくため、シオンもビオーラへと斬りかかるが、接近するとテクトの援護が効きづらく、クレイマンとの連携もあり、攻めきれずにいた。
いくらテクトといえど、シオンの援護をしながらミリムの相手は無謀なので、まだ時間がかかるかと考えていると、願っていた援軍がやってきた。
「お待たせして申し訳ありません。リムル様、ワレの力もお役立て下さい」
「待ってたよ、ベレッタ!」
どうやって入ってきたかはわからないが、これでシオンの援護を頼める。そうすればテクトもこっちに来れるし、勝ちは揺るがないだろう。
「テクトとシオンの援護をしてやってくれ!」
「ハハッ!」
これで後はミリムを助けるだけ。
遠からずテクトも駆けつけるだろうが、それを待って俺がやられては元も子もない。
早速ミリムを開放する準備に移ろう。
意識の全てが集中し、周囲から雑音が消える。
先程よりもはっきりと見える拳の軌道を見つつ、クレイマンの呪縛を解くための演算へと集中する。
さあ、
クレイマンを他力本願と煽っておいて自分は頼るのかって声が聞こえる気がする。声の主が何を勘違いしているのか知らないが、智慧之王さんは俺の力なのだ。
我が心に一片の疚しさなし!
《解。「解析鑑定」結果……該当なし》
は? はああっ⁉
えっと、どういう意味?
まさかとは思うけど、クレイマン如きの呪術が見抜けないとか?
《呪法が確認出来ませんでした。これは》
おいおい、役立たずってレベルじゃねーぞ!
今までは集中してなかったから解析出来ないのかと思っていたが、全力を出しても駄目だったみたいだ。それどころか、呪いそのものを発見できないとか。
智慧之王さん、肝心なときに頼りにならないな。
不味い、このままでは非常に不味い。
正直、智慧之王さんが発見出来ないことから、テクト達も発見できるかわからない。
ミリム相手では二人がかりでも勝てる可能性は低いだろう。
こうなったら、シオン達がクレイマンを倒すまでなんとか粘るしかない。
そう覚悟を決めて、ミリムに相対した。
とはいえ、俺もかなり強くなったものだ。操られている上にまだまだ本気ではないだろうが、ミリムを相手にして戦闘が成立しているのだから。
以前なら、一分も立たずに地に伏していた。
ところが今は、既に十数分、全力戦闘を維持できているのだ。
案外、本気で殴ってみたら元に戻ったりして?
いや、仮に戻ってもテクトが怒りそうだし却下だな。
うん、あいつが刺されて死なないように祈ろう。
しかし、どうするか……
《案。「
お? おおっ⁉ その手があったか!
早速実行するとしよう。
防御してもダメージになるので、あくまで受け流しを行う。
その際に、「暴食之王」による魔素の吸収を行うと、ミリムは嫌そうに距離を取った。
ミリムの魔素の総量から考えれば実に小さなダメージだが、少しづつでも体力を奪うことが出来る。
出し惜しみせず全力を尽くしても勝てる見込みはない上、たの魔王の前で手の内を曝け出すのはNGだ。
ここはテクトが合流するまで少しづつダメージを重ねるしかなさそうである。
そうしてオワタ式の防御に専念していると、ミリムの右拳の形が変化する。
これはパンチに見せた竜牙という技であり、一撃の後の戻す手でひっかくというものである。
それ故回避ではなく横受けが正解なのだが、そうして防御した左腕は激しいエネルギーの奔流を受け、吹き飛んだ。
攻撃を受けたわけではなく受け流してこの有り様なのにミリムの理不尽さが現れており、文句をいいたくなるところだが、そんな思いが通じたのか思わぬ好機が訪れた。
ミリムがバランスを崩したまま強引に、左手でのパンチを放ってきたのだ。
《告。罠と推定》
智慧之王さんの冷静な指摘はわずかに遅く、既に俺は攻撃を始めていた。
左手の軌道に合わせてバランスの崩れたミリムを背負投げを仕掛けようとしていたが、ミリムは左手を止め、ニンマリと笑っていた。
詰みを覚悟し、粉砕された状況からでも「無限再生」で復活できるのかと考えつつ諦めていた時、声が響いた。
「
声とともに糸で編まれた鎖がミリムを縛り、動きを止める。
声の主はテクト。
ベレッタを送ったことで決着が着いたのか、援護に来てくれたらしい。
しかし、なんというタイミングか……
洞窟での宣言通りとか、俺の精神が男でなければうっかり惚れそうなところだ。
「た、助かったよ、テクト」
「攻めっ気を出すのはよくなさそうだね。しかし、さすがミリム。もうちぎられた」
退避した俺にテクトが反省点を述べる。
自分でもわかっているのであまり言ってほしくないのだが、文句よりも伝えなければならない事があるのだ。
「マズイぞ、テクト。ミリムに呪法を見つけられない。あっちが先に片付くのを待ったほうがいいかもな」
「シオンがクレイマンに負けることはないだろうし、あんまり時間はかからないと思うよ。それまで精々必死に、ミリムの遊び相手になろうじゃないか」
俺の絶望感たっぷりな言葉にテクトはのほほんと返す。
決着までそうかからないとはいえ、その僅かな時間が大変なのだが、文句をいうよりも先にミリムが距離を詰めてきた。
テクトも先程のやり取りを見ていたのか、ミリムのパンチを受け流し、俺の攻撃の隙を作る。
テクトがあっさりと受け流したことにミリムは警戒したのか距離を取ると、少しの間を開けて、今度は俺へと向かってきた。
今度は欲をかかずに受け流す準備をしていると、目の前に割り込んだ者がいた。
こちらへと向いていたそいつは後ろのミリムに気づかず、ミリムの拳が後頭部へと突き刺さる。
「グオッ⁉ いきなり何をする⁉ 酷いではないか!」
俺とミリムの間に割り込んだのは、褐色の肌に金髪の、俺とよく似た男……って、ヴェルドラかよ⁉
けっこうな音が鳴ったが、大したダメージはなさそうだ。
ヴェルドラがここに現れたのは、俺の「
逆走までしてきた理由だが……どうにも原因は俺のイタズラらしい。マイペースに漫画のページをめくる音で、幾度となく雰囲気をぶち壊されたことに対する意趣返しに、ある漫画の最終巻のカバーをかけた別の漫画を忍ばせていたことに気付いたようだ。
丁度読んでいた漫画の最終巻がそのシリーズだったらしく、最終巻を求めてやってきた、と。
町の防衛はどうなったのかとも思ったが、何故かディアブロが戻ってきているようだし、ここはミリムの事を任せよう。
「よし、続きを渡す前に一つ頼みがある」
「む? なんだ?」
「そこのミリムと、少しの間遊んでやってくれ。ただし、絶対に怪我させないようにな」
「ミリム? おお、我が兄の一粒種か。会ったのは初めてだが、まだまだ子供だな。良かろう、我に任せよ!」
マンガの続きが読みたいからかヴェルドラは快諾した。
ミリムの興味もヴェルドラへ移ったらしく、俺達が離れても問題ないだろう。
ヴェルドラの発言に気になる点もあったが、この隙にクレイマンを倒してケリをつけるため、シオン達の元へと移動するのだった。
ベレッタの方は既に終わっていた。
ビオーラは解体され、特質級の武具がまるで見本の様に並べられ、ベレッタがそれを得意げに磨いていた。
ベレッタには傷一つなく、圧勝だったようだ。
特質級の武器にも目立った傷はなさそうだ。破壊すればもっと楽だったろうにこうしている理由は、回収した武具を俺へと献上し、ラミリスが魔国連邦に移住する許可を得る一助になればと考えてのことらしい。
なんでも、隔離空間に入る際、ギィに主を決めるように迫られ、ラミリスに会えた恩を返すために俺を助けた後は、ラミリスのみに仕えると宣言したそうだ。
だが、ベレッタも狡賢い悪魔である。
抜け道としてラミリス共々魔国連邦に移り住み、ラミリスの望みを叶えるという形で俺を助けるという方法を取ろうとしているとのこと。
詭弁もいいところである。
回答を保留するとベレッタも引いたので、意識をシオンへと移すと、決着は間近だった。
少し前に本気を出したクレイマンとシオンは激突していた。
「超速再生」を持つシオンなら大丈夫だろうとベレッタの様子を伺うことを優先したが、大丈夫だったらしい。
本気を出したクレイマンは確かに強かったが、やはりシオンには敵わず、新たに生やした腕をへし折られ、本気を出した際に被った仮面を砕かれつつ地に伏せた。
そのタイミングでベレッタとの話も終わったのである。
「リムル様、トドメを刺しても宜しいですか?」
「く、クソッ‼ ミリム、ミリムは何をしている⁉ そんなヤツ、さっさと倒して」
シオンがクレイマンを睥睨しつつ、俺へと確認を取る。
このままでは長くない事を理解したクレイマンは慌てたように周囲に目をやり、絶句した。
そこには俺達の見知った動きで魔素の塊を射出するヴェルドラとそれを楽しそうに弾くミリムの姿があった。
「な、何者だ……? な、なんだ? な、なんなのだ、あの桁外れの力はッ⁉」
「人の姿をしているけど、ヴェルドラだよ。言っただろ、俺と友達だって」
絶句したクレイマンは俺の言葉を否定したいようだったが、ヴェルドラの放つ妖気と派手な攻撃に認めざるを得ない様子だ。
ヴェルドラと戦うミリムに頼ることは出来ないとクレイマンは判断したのか、今度は隔離空間の端まで逃げ、外へと叫ぶ。
「ふ、フレイ! フレイ、何をしているのです⁉ 貴女とは運命共同体なのだから、さっさと私に手を貸しなさい!」
「あら、悪いわねクレイマン。この結界は、ギィが認めないと通れないのよ。本当に残念だわ」
必死にすがるクレイマンに対するフレイの返答は心のこもっていない返事であり、ギィがミリムの参戦許可を出した時の言葉と合わせて考えれば、味方をするつもりはないという宣言に他ならなかった。
クレイマンは忌々しそうに舌打ちすると、ミリムへと振り返った。
その目は理性を失ったように痙攣し、完全に狂気を宿している。何を思いついたのか、狂気に染まった笑みを浮かべていた。
「クハ、クハハハハ! ミリム、ミリムよ! 私の命令に従い「
などと、とんでもない事を言い出した。
クレイマンはなりふり構わず、ここを生き延びようと考えたみたいである。それは不味い。さすがに不味い。
もう悠長に見学している場合ではなく、テクトもミリムへと構えているのを見て、俺もクレイマンを倒すべく参戦しようとしていると、信じられない言葉が聞こえた。
「なんでそんな事をする必要があるのだ? この場にはテクトがいるのだぞ?」
驚いて振り返るとミリムがニンマリと笑みを浮かべて踏ん反り返っていた。
「ミリム⁉ ちょ、お前、操られていたんじゃ……?」
「わ──っはっはっは! 見事に騙されてくれたようだな、リムルよ! ワタシがクレイマンなんかに操られる訳がないであろう?」
なん……だと……
《……》
何故だかわからないが、智慧之王さんが怒っている気がする。
それはともかく、今はミリムだ。
「お前、クレイマンに支配されていなかったのか?」
理解が追いつかず、もう一度尋ねるが、ミリムは笑うだけだった。
魔王にも混乱している者がいるが、中でも一番驚愕しているのはクレイマンだった。
「そ、そうです。貴女は「あの方」より授かった支配の宝珠で、完璧に私の支配下にあったはず……私の命令で、カリオンを殺したではないですか⁉」
あーあ、クレイマンの奴。
あまりにも驚き過ぎて、自分が何を口走ったのかも気付いていないようだ。
これで証拠映像の信憑性も高まった。
なんせクレイマンは自分で犯行を証言し、しかも黒幕がいると自白したのだから。
その言葉に反応したのはミリムだった。
「そう、それだ! ワタシはそれが聞きたかったのだ。答えよ、クレイマン。「あの方」とは、一体誰のことを言っておるのだ?」
何事もなかったかのように、ミリムは鋭く問い返した。
クレイマンの質問は完全無視なのが、如何にもミリムらしかった。
ここまでをまとめると、ミリムは操られておらず、端からクレイマンを疑っていたってことか?
「おいおい。誰が死んだって?」
ミリムの行動の疑問が晴れる前に隔離領域の外で聞き覚えのある声が響く。
声の主は魔王フレイの配下の男の方……
え? まさか……そんなバレバレの変装を⁉
《……》
ヤバイ。
智慧之王さんが呆れている気がする。
そういえばなにか言おうとしていたような……いや、 気の所為だ……
というか、テクトが今更驚いている。
仲間がいたのかと希望を持ちかけたが、その視線は俺を捉えていた。
気付いていたなら言ってほしかったなぁ……
その間にもカリオンはマスクを外し、翼をしまって元の姿に戻った。
「無事だったんだな、カリオンさん」
「よお、リムル。無事、とは言えないがな。それはいいが、俺の部下達が世話になった」
「いいって」
カリオンは俺に礼を述べるとクレイマンを見てニヤリと笑った。
これで確定、ミリムは支配されてなどいなかったのだ。
「な、そんな……では、本当に……? だが、フレイの報告では……そうか、フレイも。貴様も裏切っていたんだなぁ──‼」
ようやくすべてを理解したのかクレイマンは発狂したように声をあげ、フレイを睨みつけた。
しかし、フレイはどこ吹く風だ。
状況を見るに、これは裏切ったというよりも……
「あら? いつからワタシが貴方の味方になったと錯覚していたの?」
フレイはしれっとそんな事を言いだした。
ああ、やっぱり。女って、怖い。
やはり最初から、フレイはクレイマンを欺いていたのだ。
「ふ、ふざ、ふざけるなよ⁉ き、貴様ら……許さん、断じて許さんぞ‼」
「シオン」
「お任せを!」
怒りのままに動こうしたクレイマンだったが、テクトの名前を呼ぶだけの指示に従い、切りかかったシオンに斬り伏せられた。
防御に使った三対の腕ごと袈裟懸けに切って捨てられ、精神をも侵すシオンの大太刀の一撃に、クレイマンは言葉もなく倒れ伏した。
次回「
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次回の投稿でひとまず一人称視点は終了となります。
私の思いつきにお付き合い頂きありがとうございます。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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