カリオンが正体を表し、クレイマンは虫の息。
リムルが提示した証拠と自白により完全に信用をなくしたクレイマンをかばう魔王などいないと判断出来る状況で、もうこれ以上隔離しておく必要もないと判断したギィが結界を解除した。
フレイがミリムへと歩み寄ると口を開く。
「貴女なら操られないと信じていたけれど、ヒヤヒヤしたわよミリム。でも、ワタシとの
「わははは! 友達だからな、当然なのだ。それよりもフレイ、アレ、ちゃんと大切に持ってきてくれているんだろうな?」
「はいはい、コレでしょ? それにしても、支配の宝珠に抗えるなんて、貴女は本当に凄いわね……」
呆れた様子のフレイが取り出したのはドラゴンナックル。
ミリムはそれをそそくさと嵌めると、ニッコリと微笑んだ。
そのやり取りを見てようやく事態が飲み込めた魔王達は、芝居の雑さに呆れる者、騙されていた動揺を誤魔化そうとする者など様々だった。
「い、いつからだ? いつからワタシを欺いていた……?」
声を発したのはクレイマン。
自分の全身全霊の支配が効かなかったという事を受け止められなかったクレイマンは、頑張って無防備な状況を作り、一度完全に支配を受けたうえで、後から自力で脱したというミリムの言葉に愕然とする。
「な……なんだ、と? ワザと……ワザと受けただと⁉ 最高級の
「そうなのか? でも、ワタシを支配するのは無理なのだ!」
ミリムは自慢げに胸を張る。そんなミリムにフレイは呆れの色を濃くしていく。
「本当にね。心配して損した気分よ。というか貴女、拳を握りしめてガッツポーズしたり、口元がニヤけていたり、演技は全然駄目だったわね」
「それをいうなら、俺も文句を言いたいところなんだが? いやまぁ、手を出しておいて何をというのもあるかもれないが、状況を察したからといって俺の方を見られて、ヒヤヒヤしたのは俺もだぞ」
フレイがミリムにダメ出しするのにテクトも乗っかり、ジト目で詰めるがミリムは笑顔を深めるだけだった。
「しょうがなかろう。テクトが庇ってくれたのが嬉しかったのだ」
「あのなぁ……」
笑顔のミリムにどういったものかとテクトが頭に手をやると、フレイが思い出したように口を開いた。
「そういえば、クレイマンがミリムを殴ったときは焦ったわね。ミリムが我慢しなければ、私のお家が壊されるところだったし。本当によく我慢したわね、その点だけは褒めてあげるわ」
「ほう?」
フレイの言葉にテクトから妖気が漏れ出し、重圧が撒き散らされ始める。
予測済みの話ではあったが、改めて耳にしたことで怒りが再燃したのである。
その妖気に当てられ、フレイが後ずさったのをみて、テクトは制御を外れた妖気を収め、大きく息を吐く。
自分が傷つけられたことに怒るテクトにミリムの頬が紅潮するが、その顔に物理的に影がさした。
「ところでよミリム、一つ聞きたいんだがいいか?」
「む? いいぞ、なんでも聞くのだ!」
影の主はカリオンだった。
いい笑顔のカリオンにミリムも上機嫌な笑顔で答えるが、テクトは何やら嫌な予感がした。
「いや、確認なんだが……お前さあ、操られてなかったんだよな? という事は、ノリノリで俺をいたぶってくれたのかな?」
「う⁉ そ、それはだな……」
「いやいや、いいんだよ。それは俺が弱いってだけの話だしな。だが、俺達の国を吹き飛ばしてくれたのも、君の意思ってことだよな?」
カリオンの言葉にミリムが狼狽え、言葉に詰まる。
わずかに慌てた様子のミリムだったが、
「むうっ! カリオン、そんな小さな事はどうでもよかろう⁉」
逆ギレした。
「小さな事じゃねーよ! おまえなあ、下手したら俺様も死ぬとこだったんだぞ⁉」
「ええい、うるさい。うるさいのだ‼ アレは演技に熱中ーじゃなくて、クレイマンを騙す為に頑張っただけなのだぞ? なので、悪いのはクレイマンなのだ‼」
「おいおい、クレイマンのせいかよ……って、もういいや。どうせ文句を言っても聞く気なんざないんだろうぜ……」
あまりの暴論にカリオンは涙目になりながら遠い目をする。
と、そこにテクトが身長を合わせるためにアラクネへと変わりながら近寄り肩を組んだ。
「まぁまぁ、カリオン。ミリムも一応気を遣って宣戦布告をしたわけだし、三獣士を始めとした獣王戦士団の皆も復讐戦ってことで頑張ってた訳だし、悪いことばかりじゃないって」
「ああ、テクトか。すまんな、慰めてくれて」
「気にしない、気にしない。それに、町ならまた作ればいいんだよ。皆無事だし、再建のための労働力にクレイマンの配下を捕らえさせてあるんだ」
「っ! マジかよ……⁉」
「
ニンマリと笑って告げるテクトにカリオンの表情が明るくなる。
ミリムも何かをいいかけたが、テクトが先んじて糸で口を塞いでいた。
テクトがリムルへと振り返るとリムルも頷き、テクトの言葉が事実だと伝える。テクトが離れるとカリオンはリムルへ向けて手を差し出した。
「すまん、助かる! リムル、いやリムルさん。今後、俺の獣王国は、アンタの国を永世友好国として、協力を惜しまないと誓うぜ!」
カリオンの手をリムルも笑って取り、話がまとまる。
満足そうにするミリムにテクトが軽く手刀を落とし、反省を促すのを、魔王達が驚愕していた。
ギィがおかしそうに表情を歪め、テクトが不機嫌そうに眉根を寄せる。
それぞれの反応を気にする者もいたが、テクトが息をついて視線を足元へ向けるのに合わせて、皆が呻くクレイマンへと意識を戻した。
「ねえ、クレイマン。貴方、弱者や抵抗できない者には威張り散らすのね。私、貴方に魔王を名乗る資格はないと思うのよ。ミリムが我慢していたから邪魔はしなかったけど……少し怒っていたのよ、私も」
「まあな。弱肉強食がルールとはいえ、クレイマン、お前さんはやり過ぎた。俺様としても、国を荒らされた恨みははらさせてもらうぜ?」
フレイとカリオンが怒りとともにクレイマンへと告げる。
ギィや他の魔王もクレイマンの処遇に口を出すことはなく、クレイマンは詰んでいると思われた。
だが、
「シオン、そこから離れろ!」
テクトの声に従い、シオンが飛び退く。
その直後、クレイマンの周囲に膨大な魔素が吹き荒れた。
それらは周囲の魔素をかき集め、クレイマンへと収束していく。
「どうやら、本当に始まったみたいだな」
「リムル様? 一体、何が?」
指示に反射的に従ったシオンが状況の変化についていず、つぶやきを発したリムルへと問う。
「クレイマンが覚醒したんだ。予定通りだよ」
「予定通りでしたか、ならば安心ですね!」
リムルの言葉にシオンはあっさりと納得する。
シオンの素直さは美徳なのかもしれないが、テクトは若干不安になった。
クレイマンの覚醒
それは
それはクレイマンの魂へとへばりつく、これまでまでに殺された人々の魂の残滓を開放するための計画だった。
怨念のようなそれらは、そのままではどうすることも出来ず、成仏もできなければ、空へと拡散することもない。クレイマンを殺しても一緒に消滅するだけになった哀れな魂の残滓を開放すべく、クレイマンをとことん追い込み、擬似的な覚醒の糧として使用させるというものだった。
智慧之王の演算ではどのようなパワーアップを果たそうともリムルが上回るという結果が出ており、億が一不測の事態がおきたとしても、テクトがいるため問題ないとリムル自身も考えていた。
何より、このプランには利点も多い。
ヴェルドラという外付けの魔素タンクを失い、時間がかかるようになった魔素の補充ができるし、他の魔王へ武威を示す事で後腐れなく魔王の席を奪い取ることが出来る。
そんな思惑があったわけだが、会話を聞いたカリオンが慌てだした。
「おい、リムル! クレイマンが覚醒しただと? 信じられんが、凄まじい力だ。ここは俺様も協力を」
「いや、カリオンさん。こいつは俺が相手をするよ。俺も魔王を名乗った訳だし、自分の席は自分で用意したい。こいつを排除して、俺のことを認めさせる事にするよ」
リムルの言葉を聞き、カリオンはテクトを見るが、テクトが肩を竦めるのをみて、激励しながら引き下がった。
カリオンの激励を聞き、リムルは頷くとクレイマンへと踏み出した。テクトが険しい顔をしつつも動かないことでシオンとヴェルドラも前に出ず、魔王達も下がる。
一人で目の前に立つリムルを見て、クレイマンは薄く笑った。
「フフフ、フハハハハハァ──ーッ! 見よ、私は力を手に入れたぞ! 調子に乗っているからだよ、虫けらが! さあ、今からこの私が捻り潰してやる‼」
「言っただろ? お前はもう詰んでるって。俺はお前より強い。諦めて、お前に指示を出していた黒幕を教えろよ」
クレイマンの哄笑にリムルは鼻で笑って答える。
リムルの油断している様子に対するクレイマンの応答は
「フフフ、どこまでも生意気な。私が本気を」
会話の最中での不意打ちだった。
唐突に放たれた極大の魔力弾がリムルへと迫る。
とっさに相殺するには大きすぎる威力のそれをリムルが食らえばそれもよし。もし回避すれば空中で爆発させて、どちらにせよ逃げる糸口にできると考えていたクレイマンだったが、その目論見は崩れ去る。
なぜなら
「言っただろ、お前はもう詰んでいるんだ。そんな攻撃は無駄なんだよ。俺に放出系は通用しないのだから」
クレイマンの行動は智慧之王の予測通りであったためにリムルに驚愕も油断はなく、魔力弾は「
予想外の結果にクレイマンが驚愕し、その瞬間に軽快な音が鳴る。
その瞬間、リムルとクレイマン、そしてテクトを隔離するように結界が生じる。
音の発生源はテクト。白氷宮の一件も含め、見るのが二度目となるギィの結界を真似、
そして、クレイマンは動揺を隠せてはいなかった。
自慢の一撃が一瞬で消されて理解が追いついていなかったクレイマンへ、リムルが語りかける。
「おい、本気を出すんなら早くしろ。待っててやるから。それともまさか、今の攻撃に紛れて逃げようと考えていたんじゃないよな?」
リムルの煽りにクレイマンの雰囲気が変わる。
先程と比べ、より好戦的に妖気を滾らせ、魔素を練り始めた。
「フ、フフフ、スライム如きが、大口を叩くものだ。確かに貴様は強い、それは認めてやろう。だがな、私の本気もこんなものではないのだよ‼」
逃げるのではなく、リムルを倒すことで力を誇示し、「力こそ全て」という考えを持つ魔王達を納得させることができれば、罪を帳消しにすることも不可能ではないとクレイマンが考えた結果である。
「妖気の制御に自身があるようだが、果たしてこれは受けられるかな? 食らうがいい、この私の最高の奥義を‼
放たれたのは地脈を集積し自身の魔素と織り交ぜて増幅させて、魔素の配列を乱し、物理的防御も結界も意味をなさない撹乱作用を持つ光線として放つ対魔攻撃であるのだが、リムルには通用しなかった。
「喰らい尽くせ、「暴食之王」」
クレイマンの放った光線は、リムルへと届く前に空間の歪みに吸い込まれ消え失せる。
目の前の光景が信じられないのかクレイマンは狼狽えていた。
「無駄だよ、クレイマン。お前は俺より弱い」
「馬鹿な……そんな、馬鹿な──っ! 私の、私の奥義なんだぞ⁉」
「勝てないと理解したか? ならば問う。お前の知っている情報、お前の協力者の名を言え。素直に喋れば、苦痛を与えずに殺してやろう」
「フハハハハァ! 私は
クレイマンの言葉は最後まで続かず、リムルの殴打が遮った。
リムルにより「思考加速」を施され、体感時間を百万倍に加速させられたクレイマンは苦痛と恐怖を魂に刻み込まれ、ものの数秒で髪は抜け落ち、表情は屍人のように変わっていった。
「クレイマン、最後にもう一度聞くぞ。誰がお前に情報を流していた? その者とお前の関係は? それを話せば楽にしてやる」
「な、舐めるなよ。私が仲間を、ましてや依頼主を裏切ることなどない。それが、それだけが「中庸道化連」の絶対のルールなのだ!」
リムルの呼びかけに恐怖で身を縮こまらせたクレイマンだったが、問いかけには答えず、反抗心をむき出しにする。
テクトは情報を得られないと判断しため息を吐くと、なんのこともないかのように語り始めた。
「そうか、残念だ。お前はここで終わりだよ、クレイマン。復活なんて出来ると思うなよ?」
「な、何を? なんの話をしている?」
「お前、リムルに自分を殺させることに集中させて、死の瞬間に地脈を通じて星幽体だけ離脱させようとしているだろう?」
「な、何を?」
クレイマンは図星を突かれたように言葉を紡ぐが、テクトは意に介さない。
「お前達の策略のおかげで俺も魂のあり方については詳しくなっててな。魂の核である
クレイマンはテクトの言葉を否定しようとするが、現実を正しく認識し、へたり込んで震え始める。
テクトの言葉を認められず、実際に地脈の方へと意識を移したことで、テクトによって隠蔽されていた事実を認識したのだ。
「これからクレイマンを処刑する。反対の者はいるのかな? いるなら、相手をするけど?」
震えるクレイマンを睥睨し、リムルが魔王達へと宣言する。
誰も反対することはなく、クレイマンを助けようとする様子を見せないことから異議なしと判断し、リムルはクレイマンの額へと手を添えた。
「魂が消滅するまでのわずかな時間を、精々反省しながら過ごすといい」
「や……やめろ、やめてくれ! た、助けてくれフットマン……助けてティア、ラプラス……! 私はまだ死ねない……こんなところで死ねるものか……!」
頭を掴まれ逃げられないクレイマンだったが、身体だけは後ずさろうと必死に床を掴んでその場を逃れようとする。
そんなクレイマンの抵抗を、不可視の糸が関節という関節を穿って不可能にする。
そして
「お、お助け下さいカザ」
最期の言葉を最後まで紡ぐことも出来ず、魂の欠片も残さずクレイマンは消え失せた。
次回「こんなとき
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次回でアニメ二期分も最終回までいけそうです。
魔王達の名称は原作からは大分変わる予定です。
お楽しみに。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい