転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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今回は一部一人称視点になります。ご了承下さい。


50話:こんなときばっかり結託し(カーテンコール)やがって

 クレイマンの消失を確認し、テクトが再び指を鳴らすと結界が消える。

 

 完全な決着がついたのを見て、ギィが厳かに告げた。

 

「見事だ。お前が今日から魔王を名乗ることを許そう。異論のある奴はいるか?」

 

 その言葉にリムルが周囲を見回すと、すぐさま反対するものはいないようで胸を撫で下ろした。

 

 結界が消えたことでラミリスがリムルの前で自慢気にする。

 

 そしてそれを茶化したミリムとじゃれ始めた。

 

 ダグリュールはヴェルドラと話し込んでおり、妖気を隠す技術について話していた。

 

 ところどころで漏れていたテクトの魔素量の底知れなさにも言及しながら盛り上がっていた。

 

 ディーノはテクトをちらりと視界に収めたが、特に感心はなさそうに糸に縛られ椅子へと座ったままだった。

 

 レオンは我関せずといったふうにし、フレイとカリオンも特に何も言わなかった。

 

 そして、大凡まとまった場に吸血鬼(ヴァンパイア)が進み出る。

 

「ふむ。余としては下賎なスライムが魔王など、断じて認めたくはないが」

 

 反対意見は出たものの、九人中の一人であり、多数決で見れば問題ない範囲であるためリムルが聞き流していると、ヴェルドラが動き出した。

 

「クア──ッハッハッハ。下郎、我が友を侮辱するか? おいミルスよ、従者の躾が、……ぬぅ、何をするテクト、痛いではないか」

 

「アホか! いきなりそんな威圧満載で話しかけんなよ! ほんとすみませんね、ウチの馬鹿が変なことを」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 ロイを睨み、その後ろで控えていたメイドに話しかけたヴェルドラの後頭部に一撃を叩き込んだのはテクトだった。

 

 テクトにはなんとなく背景が読めていたため、従者同士らしく敬語もなく気軽に話し、軽く頭を下げる。

 

 メイドも冷ややかな表情のままだが、テクトに応じていた。

 

「ヴェルドラよ、あまりバレンタインに突っかかるでない。せっかく正体を隠しておるのにバレてしまうでないか!」

 

 が、しかし、ミリムが全てを暴露した。

 

 バレンタインという名と思しき少女に睨まれたことでミリムも失言を悟って、鳴らない口笛を吹き始める。

 

 静かに歩み寄ったテクトがげんこつを落とし、ミリムが頭を抑えていると、周囲を見回していたバレンタインは舌打ちをした。

 

「チッ、忌々しい邪竜め。どこまでも妾の邪魔をする……それに貴様、妾の名まで忘れたか。本当に、人を苛々させる上手いものよ」

 

 バレンタインの言葉にヴェルドラは気まずそうに視線を反らし、正しい名前を思い出そうとする。

 

「最終的にはミリムのせいでは……えっと、ルルス、いや、ミリスだったか……?」

 

 しかしそうして浮かべる名前もすべて違ったようで、一層表情を険しくしたバレンタインは吐き捨てるようにいう。

 

「もう良い。妾のことは、バレンタインと呼ぶが良い」

 

 そうしてヴェルドラを黙らせると膨大な魔力を開放し、魔法換装によってメイド服から漆黒のゴシックドレスへと姿を変えた。

 

 魔王として十分な強さを持っていたロイと比較しても、格の違う力を感じさせるバレンタインに事情を知らなかった魔王達が目を瞠っていると、彼女はそのままロイへと話しかける。

 

「ロイよ、貴様は先に戻っておれ」

 

「しかし、バレンタイン様」

 

「これほどの者を前に正体をバラされてしまっては、最早隠していく意味などない」

 

 バレンタインはそういうとヴェルドラを睨む。

 

 居心地悪そうに知らなかったことだからと言い訳をするヴェルドラをテクトが後ろからシバき、バラした張本人のミリムも他人事という表情をしていた為に手刀を食らう。

 

 この場においても圧倒的強者である二人に軽くとはいえ鉄拳制裁を加えるテクトに注目しつつも僅かに溜飲を下げたバレンタインはロイへと厳かに告げる。

 

「それに、気になる事があるのじゃ。クレイマンの奴が、貴様を見て一瞬だが視線を止めたぞ? この前我が領土に侵入したというゴミ虫と関係があるやも知れぬ故、戻って警備を厳重にするように伝えるのじゃ」

 

「承知」

 

 ロイは異を唱えることなくそう言うと、身を翻す。そこに反省を見せないヴェルドラへスリーパーホールドを仕掛けていたテクトが声をかけた。

 

「ああ、そうだ。ちょっと待ってくれ」

 

 足を止めたロイは飛んできた物を掴み取る。

 

 手を開くとそこには小さな宝玉の嵌ったペンダントがあった。

 

「今回はこっちが大変な迷惑をかけたようだし、保険の一つだったんだが渡しておくよ。信用ならないなら打ち捨てていくといい」

 

 ペンダントの詳しい説明もしないテクトに胡乱な表情を向けるロイだったが、判断を頼ったバレンタインが首肯したことでペンダントを仕舞い、会場を去っていった。

 

 こうして、バレンタインが再び魔王の座に返り咲いたのである。

 

 

 

 リムルが円卓を元の位置に設置し、魔王全員が席へ着く。

 

 レインとミザリーが給仕をする最中でようやくディーノが開放され、全員に紅茶が行き渡ったあたりでレオンがふと呟いた。

 

「ああ、思い出した。カザなんとかという言葉に引っかかるものがあったが、俺が殺した魔王、カザリームだな」

 

「知っているのか、レオン?」

 

 レオンの言葉に反応したのはミリム。

 

 過去に存在した魔王にも関わらず覚えていないミリムにリムルは呆れたような視線を向けたが、他の魔王も何人かはミリムと似たような反応をしていた。

 

 カザリームはクレイマンが死に際に呼ぼうとしたと思われる名だが、その正体は「呪術王(カースロード)」という名で呼ばれていた妖死族(デスマン)の魔王であり、ミリムとともにカリオンを魔王へと推薦したとのことらしい。

 

 耳長族(エルフ)から自力で進化した特殊変異個体(ユニークモンスター)だったそうで、クレイマンがカザリームの地盤を引き継いでいたとのことで、つながりがあるのは明らかだった。

 

 カザリームはレオンに魔王になる協力を条件に部下になるよう上から目線で提案したらしく、レオンはそれに応じずカザリームを倒すことで魔王の席を奪ったとのことだ。

 

「クレイマンの仲間には「中庸道化連」と名乗る者達がいましたが、人間にも協力者がいると仄めかしていましたし、レオン様との戦闘の際に死を偽装して復活したカザリームが人間に憑依している可能性がありますね」

 

「その案は正しいかもな。レオンの攻撃は、精神すらも破壊する。カザリームが生き延びたのを、褒めてやってもいいくらいだぜ? それによ、俺達悪魔族(デーモン)でさえ、魂からの復活には数百年単位の時間がかかる。妖死族なら尚更、自力で復活できたとも思えないくらいだぜ」

 

 当然のように勝手に話すテクトにギィが賛同する。

 

 精神生命体である悪魔族と違い、妖死族は生命を肉体に依存するため星幽体からの復活には時間がかかる。それ故、カザリームが生き延びたのは奇跡と言っていいのである。

 

 これにより協力者と復活が濃厚になり、クレイマンを殺したことで恨まれている可能性があると、テクトとリムルは警戒するのだった。

 

 

 

 そうして雑談も終わり、会議が再開した。

 

 司会を行っていたクレイマンがいなくなったため、ギィが代行していた。

 

「今回の議題はカリオンの裏切りと、そこのリムルの台頭についてだったが、問題は片付いた。カリオンは裏切ってなかったし、リムルは魔王としての力を示したからな。オレとしちゃあ、これで終わりにしてもいいんだが、せっかくの機会だ、何か言いたいことがあるヤツはいるか?」

 

「それなら、俺から一ついいか?」

 

 ギィの問いかけに答えたのはリムルだった。

 

 特に反対もなく先を促す状態になった事を感じ取ると、リムルは後ろに立つテクトを指した。

 

「ついさっき魔王と認められたばかりのやつが何をと思うかもしれないが、テクトを魔王として推薦したい。他の魔王の推薦があればいいんだろ?」

 

「ふむ……オレとしては却下するよりは受けるほうがデメリットが少なそうだな。お前達はどうだ?」

 

 リムルの言葉にギィは僅かに目を見開き、僅かに考え込むと他の魔王へと意見を募る。

 

 早速声をあげたのはミリムだった。

 

「テクトも魔王になるのか? ワタシは賛成するぞ!」

 

「アタシも反対する理由はないわね! なんなら、アタシの弟子にしてあげてもいいわよ!」

 

「リムルに振られたからって俺に言われてもならないぞ」

 

「なんでさ!」

 

 満面の笑みのミリムに続き、ラミリスも賛同する。

 

 戦闘開始前のギィとのやり取りを含め、最古の魔王達と親しげな様子を見せるテクトに魔王達が言い淀む。

 

 続いて口を開いたのはフレイだった。

 

「この三人が賛同するなら、決まりでいいんじゃないかしら? 勿論私が否認する理由はないし、カリオンもリムル達には助けてもらったんだし、承認でいいでしょう?」

 

「そうだな。俺様も異論はない」

 

 フレイの言葉にカリオンも頷き、魔王達の雰囲気も承認へと傾いていく。

 

「先程感じた魔素量を鑑みても力量は十分だろう。最初にクレイマンを吹き飛ばした件もあることだし、実力は問題ないのではないか?」

 

「……まぁ、いいんじゃない?」

 

「そうじゃな。妾も無駄に嘴を挟むほどのことでも無かろう」

 

「私は別にどうでもいい」

 

 そうして全員が非承認ではない事を表明し、それを確認したギィは一つ頷くとテクトへと視線を移した。

 

「さて、これでこちらの意見は纏まった訳だが、お前に魔王を名乗るつもりはあるのか?」

 

「俺としてもここまで確認とってから名乗りませんなんて言わないさ。有難く名乗らせてもらうよ」

 

「良かろう。問題は生じるが、お前が魔王を名乗る事を認めよう。せっかくだ、自己紹介ぐらいしたらどうだ?」

 

「それもそうか、では改めて、この度魔王を名乗ることを許されたテクト・D・F・テンペストだ。よろしく」

 

 テクトの自己紹介を聞き、眉を動かした者もいたが、特に何も言わず話は流れる。

 

 テクトがリムルの右隣へと座り、ミザリーが紅茶を用意すると、今度はフレイが手を挙げた。

 

「テクトの件は纏まったみたいだし、今度は私からいいかしら? 提案というよりはお願いなのだけど」

 

「いいぜ、言ってみろよ」

 

「私は今日より、ミリムに仕えることにしたわ。という訳で、魔王の地位は返上させてもらうわね」

 

 フレイの発言に場が騒然とする。

 

 特に大きな反応をしたのはミリムだった。

 

「おいおい、いきなりだな?」

 

「待つのだフレイ! ワタシはそんな話、初耳だぞ⁉」

 

「ええ、言ってなかったもの。でもね、前から考えていたのよ?」

 

 そう言うとフレイは目を細め、遠くを見るような仕草をすると、クスッと笑い、決意を秘めた声で話し出した。

 

「まあ、理由は色々あるわね。でも一番の理由は、私は魔王としては弱すぎると思うのよ。さっきの戦いを見ていて確信したのだけれど、クレイマンと戦っても良くて互角だわ。まして、覚醒したクレイマンにはどうあっても勝てなかったわね……」

 

「だがフレイよ、お主の得意とするのは、大空での高速飛行戦であろうが? そこまで自分を卑下する事はないのではないか?」

 

 ダグリュールが取り成すが、フレイはブレることはなかった。

 

「確かに、空で戦うならば私が有利でしょう。でも、魔王に言い訳は通じないわね。それに、ただ有利というだけではどうしようもない場合もあると、私は知ったのよ」

 

 そう言うとフレイはリムルとテクトにチラリと視線を向けると続ける。

 

「だからね、私はミリムの配下につくと決めたのよ。それに、ミリムだっていつまでも我儘ばかり言ってはいられないでしょう? そろそろ自分の領土の運営も叶えるべきではなくて? どうかしら、この提案を受けてくれないかしら?」

 

 そう言うとフレイはミリムへと視線を向ける。

 

「だ、だが、ワタシは民を持たぬ主義だし……」

 

 フレイの視線を受け、ミリムがうろたえる。

 

 口ごもりつつもミリムが断ろうとしていると、カリオンが口を挟んだ。

 

「ちょっと待ってくれや。そういう話なら、俺様にも言いたい事がある。俺もよ、ミリムとタイマン張って負けた身だ。ここは潔く、軍門に下ろうと思う。建前上は、魔王同士は同格だ。相手が勇者だったならいざ知らず、同じ魔王に負けた以上、その地位は返上すべきだって思うんだ。だからよ、俺が魔王を名乗り続けるのはおこがましいってもんだぜ。てな訳で、俺は今日からミリムの配下になる。宜しくな、大将!」

 

 一応確認を取ろうとしているフレイに対し、カリオンは確認を取ろうとすらしていなかった。

 

 ミリムは部下を持たないため、部下からの反対意見が出ることはないのだが、ミリムは食って掛かった。

 

「ちょっと待てカリオン! タイマンはクレイマンが悪いのだぞ! ワタシは操られておったのだ。知らんぞ、そんなこと!」

 

「てめえ、知らばっくれるなよ。さっき自分で、『ワタシを支配するのは無理なのだ!』って、堂々と言ってただろうがよ!」

 

「む⁉そ、それはだな……」

 

 ミリムの暴論に中々にうまい声真似でカリオンが返し、ミリムが言い淀む。

 

 そこにフレイが話しかけた。

 

「まあ、そこの筋肉馬鹿はどうでもいいから、私はいいわよね、ミリム?」

 

「そ、そんな事言って、ワタシを騙そうとしていないか? 部下や配下になると、気軽に話してくれなくなるだろ? 一緒に遊んだり、悪巧みもしてくれなくなるんだろ⁉」

 

 そんなミリムのセリフに、フレイは首を振った。

 

「いいえ、いつでも一緒にいられるようになるし、もっと一緒に楽しいことが出来るかもよ?」

 

「大体だな、お前が俺の国を吹き飛ばしたのが原因だろうが! リムルさん達が助けてくれるって話だが、お前にも俺達を養う義務があるんだよ!」

 

 フレイの唆しに、カリオンの直球でありながら難しい言葉を使った要求に、ミリムは目を回し始める。

 

 そして、助けを求めるようにテクトへと視線をよこした。

 

 ミリムが助けを求めたことで魔王達の視線が集まり、テクトは苦笑いをしつつも口を開く。

 

「まぁ、ユーラザニアを吹き飛ばす必要がなかったって言えばその通りだし、一応はミリムにも支配領域があるわけだからほったらかしにするのも不味いでしょ? せっかく助けてくれるって言ってくれてる訳だし、丁度いいんじゃない? 俺もミリムに味方が出来るなら嬉しいし」

 

 ミリムは味方として反対してくれると思っていたテクトがフレイ達の側に立ったことに愕然としながら黙り込む。

 

 しばらくして考える事が面倒になったのか爆発した。

 

「ええ──いっ! わかったのだ。もう勝手に好きにすればいい!」

 

 火山の噴火のように頭から煙を噴き出して考えるのを放棄したミリムをすぐ後ろの転移したテクトが気遣わし気に頭を撫でると、ミリムはうめきながらテクトへとしがみつく。

 

 その様子にリムルが苦笑いしていると、ギィはカリオンへと問うていた。

 

「カリオンよ、本当にそれでいいのかよ?」

 

「ああ、俺様も色々考えたんだ。獣王国の王を辞めようって話じゃなくてな、ミリムを上に置く新体制を築けたらって思ってんだよ」

 

「オレはお前を気に入っていたんだぜ。後数百年もすれば、お前も覚醒するだろうと期待していたんだがな」

 

 カリオンの回答にギィは鼻を鳴らして残念そうに呟くが、直後ニヤリと笑うと宣言する。

 

「いいだろう! たった今より、フレイとカリオンは魔王ではない。貴様たちの望みのままに、ミリムに仕えるがいいさ」

 

 ギィの宣言により、二名が魔王の地位を退き、魔王の数が九名となる。

 

 そしてそれは新たな問題の始まりでもあった。

 

 それはリムルのつぶやきにより表出した。

 

「そうか、十大魔王じゃなくなったんだな」

 

 その言葉に魔王達が反応する。

 

 苦い顔をして端を発したのはダグリュールだった。

 

「困ったのう? 威厳的な問題として、また新たな名称を考えなければなるまいよ」

 

「幸いにも、今は魔王達の宴の真っ最中。ここに全魔王が揃っておるのだし、良い知恵も浮かぼうというものよな」

 

「前回はさんざんだったからね。名称を決める度に増えたり減ったりしてさ、何度も魔王達の宴を開催する羽目になったもんねー」

 

「そうそう。前回の「十大魔王」って名称もさ、結局は人間が呼び出したんだぜ? 俺達が必死に考えたのも無駄になったんだよな。だから俺はもう無理。考える気力が湧いてこねーわ」

 

「黙れ、貴様等。文句ばかり言って、建設的な意見を出しもしなかったであろうが!」

 

「何言ってんだよバレンタイン。そういうお前は、ロイに全部任せっきりだったじゃねーの」

 

 ダグリュールの言葉を発端にうんざりとした顔で口々に話し始める。

 

 話をまとめると、「十大魔王」という呼び名は何年も持ち越しで考えている間に人間達の間で定着しており、まとまらなかった理由はこれぞという名称が決まったタイミングで魔王の数が増えたり減ったりを繰り返していたとのことだった。

 

 最終的に「十大魔王」を名乗ることにしたらしいのだが、誰もが納得していたわけではないようだ。

 

 侃々諤々と言い募る魔王達にギィが明るい声で話しかけた。

 

「落ち着け、お前達。こんなときこそ、普段は見せない協調性で乗り切ろうじゃねーか!」

 

「え、でも……今回は、「九―そうよ。今、ギィが良いこと言った! 皆で頑張るのよ!」

 

「それ協調性皆無って言ってるだけじゃねぇの?」

 

 ラミリスは「九大魔王」でいいのではないかと言おうとするが、周囲の無言の圧力により取り消す。

 

 ギィの言葉にテクトがぼやき、やれやれと首を振ると、ひとまず議題が移ったことで席へと戻った。

 

 名残惜しそうにするミリムに軽く謝りつつ席に座り直すと、ヴェルドラが爆弾を落とした。

 

「お? そういう話ならば、我が友が得意としておるわ!」

 

 その言葉を受け、魔王の視線がリムルとテクトに集中する。

 

 嫌な予感を覚えたテクトが口を開く前にそれを塞ぐ者が現れた。

 

「そういえばアタシのベレッタとマウザーにもサクッと名付けてくれたもんね!」

 

 先程自分の意見を封殺されたため、自分で考えたくなかったのか、ラミリスが丸投げしようとする姿勢を見せる。

 

 他の魔王も目配せをし始め、包囲網が出来始めた。

 

 そこにギィから耳打ちを受けたミリムがさらなる爆弾を落とす。

 

「確かにテクトなら安心なのだ! なにせ、ワタシとの共通名を考えるくらいだからな!」

 

「ちょっ⁉」

 

 ミリムの言葉を受け、出席者全員の視線がテクトへ集まった。

 

「そうだな! 俺達の共通名の「テンペスト」を考えたのもテクトだし、こういうのは適任だ!」

 

「リムル⁉」

 

 全体の意識がテクトへ向き、押し付ける好機とみたリムルが大袈裟に声をあげる。

 

 まさかの裏切りにテクトが思わず叫んだ。

 

(どういうつもりだよ! まさか押し付けようっていうのか⁉)

 

(ざまあみろ! 豚頭帝(オークロード)戦の後でガビルや現緑色軍団(グリーンナンバーズ)の名付けを押し付けたお返しだ!)

 

(どれだけ前のことを根に持ってるんだよ! ってか、「ざまあみろ」って、縺昴l縺御クサ莠コ蜈ャ縺ョ險? 縺? そ繝ェ繝輔°繧遺♂)

 

(え? 何だって?)

 

(うるさい! ばーか!)

 

 「思念伝達」と「思考加速」を併用した言い争いを中断し、テクトがなんとか自分一人に魔王の名称案の提案を押し付ける流れを断とうとした瞬間、円卓が真っ二つになった。

 

 重量感たっぷりの黒曜石ような光沢を持つ豪奢な大円卓がヒビもなく綺麗に分けられた光景にテクトが絶句していると、割れた円卓の逆側からギィがゆっくりと歩いてきた。

 

「今日、新たな魔王として立つテクトよ、君に素晴らしい特権を与えたい」

 

「光栄なことですがお断りさせていただきます!」

 

 ギィの提案を最後まで聞くことなくテクトが断りを入れるが、ギィはお構いなしに続ける。

 

「そうだとも。我等の新たなる呼び名をつける権利、それを君に進呈する。これは大変名誉な事だから、当然引き受けてくれるよな?」

 

 ギィは思わず逃げようとしたテクトの腕を掴み、強制的に座らせると、その頬を撫でながら言葉を紡ぐ。

 

 言葉遣いこそ優しげに問うているが、拒否は許さないという雰囲気を放っており、それは他の魔王も同様だった。

 

 黙秘を続けることで時間稼ぎを試みるテクトだったが、ギィはテクトにもたれ、耳元でささやくように依頼(脅迫)する。

 

「というかよ、お前が魔王に名を連ねるって時点で人数の変動は確定してたんだ。勿論責任を取ってくれるよな?」

 

 その言葉にテクトの眉間に皺が寄る。

 

 実際にその通りであるため、反撃の術を失ったのである。

 

 ギィの囁き(脅迫)の後も僅かに沈黙していたテクトだったが、一つため息を吐くとギィの顔を押しのけた。

 

「わかったよ、やりますよ。やらせて頂きますともさ。気に食わなかったからって文句言わないでくれよ?」

 

 不承不承という風にテクトが引き受けると問題は全て解決したと言わんばかりに笑顔を浮かべ、ギィも席に戻る。

 

 その様子にテクトはもう一度ため息を吐くと、目を瞑り、最大限に加速した思考にふけり始めた。

 


 

 さて、考えていくとしよう。

 

 というより、カリオンとフレイが魔王を辞めると言い出さなければ、もっと簡単に話は済んだのだ。

 

 なにせ十一人となった場合の名称なら考えていたのだから。

 

 最初はセフィロトの樹の構成要素をモチーフに「十一樹魔王(アイン・セフィル)」というものを提案しようとしていた。

 

 原作の魔王十名(セフィラ)盤外の俺(ダアト)を加えて十一名。

 

 神に関するものが元になっているが、どうせ一部の異世界人にしかわからないし、問題ないと思う。

 

 中々綺麗に収まったと思っていたが、こうなると別のものを考えるしかない。

 

 正直「九大魔王」で良いのではないかとも思うが、ラミリスへの無言の圧力は凄まじかった。

 

 もし提案すれば面倒なことになるのは間違いないだろう。なにか別のものを考えるしかない。

 

 しかし、「九」か……

 

 九……9……Ⅸ……九つ……

 

 そういえば、北欧における世界樹―ユグドラシルは九つの世界を貫いているんだったか……

 

 自分のスキルの名前が「オーディン」だから自分を中心に据えているようで何やら気恥ずかしいものがあるが、他に思いつかないし、これを元にするか。

 

 とはいえ、ユグドラシル単体では味気ないし、こう少しひねるとしよう。

 

 ユグドラシルに近いもの……類似として「イルミンスール」というものがあったはず……

 

 それらからとって名付けるとするか

 

 とすると……

 


 

 テクトがゆっくりと目を開ける。

 

 実際に目を瞑っていた時間は数秒であり、もう結論が出たのかと魔王達が注目していると、テクトが厳かに告げる。

 

「「九樹魔王(ユグド・イルミル)」でどうかな? 気に入らないなら、今度はリムルが考えるから」

 

「おい!」

 

 テクトの言葉に答えたのは唐突に難題が降りかかることとなったリムルのみ。

 

 魔王達は自分に何の責任を負うことはないとわかり、テクトの挙げた名称の吟味に集中していた。

 

 そして、一斉に目を見開く。

 

「決まり、だな。素晴らしい」

 

「これで勝てる! 新たな時代の到来なのだ!」

 

「やっぱね! テクトならやってくれるとアタシは信じてたさ!」

 

「さすがよな、ヴェルドラとミリムが推薦するだけの事はある」

 

「ふん。まあいいわね、少しは認めてあげましょう」

 

「一瞬かよ! すげーな。前回の俺達の苦労はなんだったんだよ!」

 

「……ふむ」

 

 魔王達からは反対意見は出ず、テクトとついでに責任を背負わされそうになっていたリムルが胸を撫で下ろす。

 

 今ここに、魔王達の新たな名称が決定した。

 

 

 

 その名は「九樹魔王(ユグド・イルミル)

 

 

 

悪魔族(デーモン)

"暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)"

ギィ・クリムゾン

 

竜人族(ドラゴノイド)

"破壊の暴君(デストロイ)"

ミリム・D・ナーヴァ

 

妖精族(ピクシー)

"迷宮妖精(ラビリンス)"

ラミリス

 

巨人族(ジャイアント)

"大地の怒り(アースクエイク)"

ダグリュール

 

吸血鬼(ヴァンパイア)

"夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)"

ルミナス・バレンタイン

 

堕天族(フォールン)

"眠る支配者(スリーピング・ルーラー)"

ディーノ

 

人魔族(デモンノイド)

"白金の剣王(プラチナムセイバー)"

レオン・クロムウェル

 

妖魔族(スライム)

"新人(ルーキー)"

リムル・テンペスト

 

亜神族(アラクネ)

"新枝(ニュービー)"

テクト・D・F・テンペスト

 

 

 

 

以上、九名

 

 

 

 この日より、新たな魔王の時代が幕を開ける。

 

 森の動乱を端に発するクレイマンの策謀は決着を迎え、さらなる混沌が始まるのである。

 


 

 次回「魔王からは逃げられない」




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

本作での魔王達の名称は「九樹魔王(ユグド・イルミル)」に決定しました。

先にこちらを決めた後でスキル名等を決めていたりします。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

  • 書くべき
  • 書かなくてもいい
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