転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

55 / 113
51話:魔王からは逃げられない

 九樹魔王(ユグド・イルミル)と言う名が正式採用された後。

 

 テクトとリムルの支配領域がジュラの森全域、ミリムの支配領域が元々の忘れられた竜の都にフレイ、カリオン、クレイマンの支配していたフルブロシア・ユーラザニア・ジスターヴを加えられた範囲と決まり、食事会へと進んでいった。

 

 これに関しては参加は強制ではないようで、レオンとバレンタインは早々に帰ってしまっていた。

 

 魔国連邦でのときのように、テクトがミリムの世話を焼いていると、頬についていたソースを拭き取られたミリムがふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえばテクトよ」

 

「どうかした?」

 

「名前が長くなっていないか?」

 

「あ、あ~」

 

 ミリムの問にテクトが視線を逸らす。

 

 しかし、ミリムの言葉に名称決めを押し付けた(委任した)際の言葉を思い出した面々と視線がかち合った。

 

「そういえばそうだった。いつの間に「F」なんて増えたんだよ」

 

 口を挟んだのはリムル。

 

 その言葉に回答可能なのがテクトだけだと理解した魔王達がテクトへと視線を集中させた。

 

 どうあっても回答を避ける事は出来ず、かといって不用意なことをいえば問題となることを察したテクトは少し間を開けて口を開いた。

 

「リムル、「精霊の住処」への行き方を教えた奴の話は詳しくしてなかったと思うんだけど、それがギィなんだよ。あのときは魔王から教えられたっていうのが無駄な疑いを生むと思ったし、もっと楽な手段があったからそっちを優先したんだ。で、増えてる理由なんだけど……その、色々あってね……まぁ、はい……無茶しました……」

 

 テクトの声が尻すぼみに小さくなっていく。

 

 テクトの言葉からミリムにも負けず劣らずの強者を相手に無謀な事をしていたのだと、何の反省もしていないのだとリムルの視線が厳しくなっていたのである。

 

 テクトが黙って数秒。

 

 最初に声をあげたのはミリムだった。

 

「ギィよ! テクト達に手をだしたら許さんと言ったではないか!」

 

 ミリムの標的はギィ。

 

 妖気が吹き荒れ、隣にいたテクトが小さく声を上げる。

 

 その声にミリムは妖気を押さえ、歯ぎしりしながらギィを睨むが、視線を受けたギィは何食わぬ顔で蒸留酒を呷った。

 

「オレは何もしてねーよ。オレはただ招待しただけ。それに乗って勝手に阿呆なことをしたのはテクトだぜ?」

 

「お前の招待に応じない選択肢が魔王になる前のテクトにあるわけないだろう!」

 

 飄々としたギィに対し、ミリムが腕を振り回し怒りをアピールする。行動を起こさないのは実際にギィと対峙すれば被害は図りしれず、テクトもただでは済まないからである。

 

「まぁまぁ、落ち着いてよ、ミリム。確かに断る事が出来る状況ではなかったけど、おかげで今の俺があるんだよ。ギィ達と会う前とあった後じゃ大分いい方に変わったんだよ。ねぇ、リムル?」

 

「お、おう、そうだぞ、ミリム。ギィと会う前のテクトだったらここまで来てなかったかもしれないし、そういうのはお前も嫌だろ? ここはギィのおかげってことにしようぜ?」

 

 ミリムが我慢しているのを見て、テクトが本格的になだめにかかる。

 

 突然話を振られたリムルも僅かに口ごもりつつもテクトに加勢し、ミリムが拳を握りながらではあるが席へと戻る。

 

 以前ミリムをなだめたように髪を梳かしていると、徐々に落ち着いたのか妖気が収まっていく。

 

 そうしてミリムの怒りを収めたテクトに魔王達は信じられないものを見たように瞠目していた。

 

 ミリムの二つ名―「破壊の暴君」の名に違わぬ勝手気ままな振る舞いをしてきたミリムが、古くからの知り合いであるギィやラミリスではなくごく最近知り合ったはずのテクトになだめられるのを見て、目を見開いていた。

 

 魔王達の驚愕が冷めぬうちにミリムの妖気も収まり、不機嫌そうに口を尖らせるだけに留まった。

 

 そんな様子にテクトは苦笑すると懐からハチミツを使った菓子を取り出し、ミリムの口へと放り込む。

 

 口に広がる甘味に気を取られ機嫌が完全に治ったミリムに小さく嘆息すると、ギィへと視線を向け肩を竦める。

 

 ギィは小さく笑うとグラスを傾け、その中身を飲み干した。

 

 

 

 一波乱もありつつ料理も出尽くし、デザートにテクトが作った菓子やブランデーを提供しているとラミリスが泥酔して眠りこけ、宴も酣ということで魔国連邦の面々は御暇することにしたのだった。

 

 〇時に始まった魔王達の宴(ワルプルギス)からテクト達が「空間支配」で帰ると既に翌日の昼近くになっていた。

 

 警戒態勢を敷いていた甲斐もあり特に問題もなかったことにホッとしつつ、連れ立って町へと入ると、その途端に住民全員が道の端へと下がり跪く。

 

 一糸乱れぬ動きで完成した道にテクト達があっけにとられていると、道の先からいい笑顔のディアブロが現れた。

 

 そのディアブロは走ってきたリグルドと目配せし合うと口を開く。

 

「お帰りなさいませ、リムル様! テクト様!」

 

「この度は九樹魔王襲名の儀、誠におめでたき事に御座います! 何よりも、よくぞ無事でお戻り下さいました‼」

 

 全員を代表して出迎えの言葉を述べるリグルドに続き、ディアブロが祝いの言葉を述べる。

 

 隔離空間である魔王達の宴の会場で決まったことをファルムス王国攻略中のディアブロが知っており、魔物たちと綿密な打ち合わせが必要そうな事をしていた事を不思議に思っているのがテクトとリムルの顔にでていたのか、ディアブロは笑顔で答えを述べる。

 

「簡単なことなのですよ、事の仔細を伝えて頂けるようヴェルドラ様に頼んでいたのです」

 

 その言葉に二人の視線がヴェルドラへと向く。

 

 目を合わせぬよう視線を逸らすヴェルドラになにかあると察した二人に詰め寄られ、事の次第が話された。

 

 なんでもデザート三食分を代価に魔王達の宴での情報を流していたらしい。

 

 それを聞き、ディアブロが九樹魔王という名称を知っていたことに関しても納得がいったが、テクトが不思議そうに呟いた。

 

「ヴェルドラって食事が必要なの? 三〇〇年も封印されていたんだし、てっきり不要かと思っていたけど」

 

「何を言うのだ、テクトよ! それを言うならお前達も必要ないのだぞ。それでもお前達は食べたい故食べるだろう? それと同じである」

 

「なるほど……って、リムルだけじゃなくて俺もなのか?」

 

「うむ。お前の伴侶の……シュナだったか? あやつのような妖鬼(オニ)程度であればまだ食事が必要だが、真なる魔王として覚醒すれば我や悪魔族(デーモン)のような精神生命体となるのだ。故にお前も食事は必要ないのだよ」

 

「へ〜」

 

 ヴェルドラの解説にテクトが間の抜けた声で納得を示しているといつの間にやら口喧嘩をしていたディアブロとシオンをリグルドが仲裁していた。

 

 ベニマル達が帰還していないため宴は持ち越しとなり、用意されていた食事や温泉を楽しみ、のんびりと時間を過ごす。

 

 テクトが離席中、シオンに抱えられたスライム姿のリムルがディアブロに意識を向けた。

 

「それで、お前は何をやっているんだ? ファルムス王国を滅ぼし、ヨウムを新たな王として立てる。その任務を放り出して帰ってきたという事は、応援が必要なのか?」

 

 だらりとしたまま手が足りないようなら増援をと考えていたリムルだったが、その心配は不要だったらしい。

 

「いえいえリムル様、その必要は御座いません。全て計画通り、順調に進んでおります」

 

 ディアブロはあっさりと提案を断ると、紅茶のおかわりを注ぎつつ報告を始めた。

 

 

 

 まずディアブロがしたことは、レイヒム、ラーゼン、エドマリスの三人を元の姿へ戻すことだった。

 

 シオンの「料理人(サバクモノ)」を使った()()により痛みもなく内臓をむき出しの状態が正常な状態へと変えられ、回復魔法が作用しなくなった彼らをそのまま返しては魔国連邦へ悪印象を与えてしまうため仕方無しに解法にあたったのである。

 

 多少苦戦はしたもののレイヒム、ラーゼンと開放したところで二人の懇願もあり、下僕にして協力させることにしたのだという。

 

 まずは二人にエドマリスを詰めた箱を持って先に帰還させ、人魔会談での筋書き通りのシナリオを話し、次いでヨウム達が演出の小道具をもって王の間まで通過できるように手配をさせる。

 

 偽の情報が浸透したところでディアブロはヨウムたちとともに姿を表し、その場の流れを和睦協議へと傾けた後に「戦場で暴風竜の呪いを受けた」エドマリスへと魔国連邦で作られた完全回復薬(フルポーション)をふりかけつつ正常な状態へと戻すことでプロモーションを行ったらしい。

 

 その後、エドマリスにディアブロを魔国連邦の使者と呼ばせることで、言外にではあるが正式に魔国連邦を国家として扱わせる宣言をさせ、選択肢を与えたという。

 

 その内容は

 

 一週間後、ファルムス王国にて両国代表による和睦協議を行う。これに先立ち次の条件を申し立てる。

 

 選択肢は三つ

 

 一つ目

 

 王が退位し戦争賠償を行う

 

 二つ目

 

 魔国連邦の軍門に降り属国となる

 

 三つ目

 

 戦争の継続

 

 一つ目、二つ目はともかく三つ目は現状維持のように見えるが、実情は違う。

 

 魔国連邦を国として扱うこととなっている状態では宣戦布告なしに戦争行為に踏み切ったファルムス王国は危うい立場となるのだ。

 

 これにより周辺諸国からの賛同は得られず、ヴェルドラ復活により西方聖教会の協力も望めない。

 

 要するにこれらの条件は脅しであり、破滅と多少のむちゃを天秤にかけさせているのである。

 

 その後騒ぐ貴族たちを無視してさっさとその場を去ったらしく、リムルは置いていかれたヨウム達に同情を禁じ得なかった。

 

 そして現在。

 

 肉塊と化していたエドマリスを貴族たちの前にさらしていた事によるイメージの悪化の可能性を考え、気持ちを落ち着ける為に紅茶を飲もうとカップを持ち上げていると、ディアブロが笑顔で続ける。

 

「それで、講和の条件ですが、賠償金として星金貨一万枚を要求しております」

 

 その言葉にリムルは紅茶を吹き出す。

 

 物々交換が主流であるこの世界において、農村部での年収は銀貨百枚にもみたない場合がある。都市部でも日に銀貨六枚が平均で、年間にしておよそ千八百枚となる。

 

 この世界での国家的な概算価値はリムル達の金銭感覚に当てはめると銅貨が百円、銀貨が一万円、金貨が百万円、星金貨が一億円にあたる。

 

 金貨を目にすることもなく一生を終える者も少なくない世界で一兆円の戦争賠償を請求したというのは、天文学的な金額の賠償請求とも言えるものなのだ。

 

 ディアブロ曰く、溜め込んでも使用が難しい星金貨はそっくりそのまま賠償に使われる可能性が高いとのことで、千枚程度は回収できる予定らしい。

 

 それを頭金としてまず支払い、その後の支払いを別のもので行うこととして、その別のものの所有者に支払いを拒否させてトカゲの尻尾切りのようにすると予測が立っている。

 

 ディアブロのユニークスキル「誘惑者(オトスモノ)」の影響にあり叛意を抱く=死という図式が成り立つ状態になっている元捕虜三名からの情報では、一つ目の選択肢を選ぶ方向で話がまとまりつつあるらしい。

 

 その後は王立騎士団をテクト達によって失ったエドマリスは責任を押し付けようとする貴族たちに対抗する為にヨウムを頼らざるを得ず、その時が来ればラーゼンから連絡が来る手はずになっているという。

 

 それに合わせて魔国連邦から援軍を出し、ヨウム達を援護することになる。

 

 周辺諸国にはフューズやガゼルから圧力がかかっているために貴族達が他国を巻き込む可能性は低く、万が一の場合はディアブロが参戦する予定だという。

 

 智慧之王での演算結果にも一致したため、確認を終えるとそのタイミングでハルナを伴ったテクトが入室した。

 

「お? また浮気か?」

 

「シバクゾ?」

 

「ごめんなさい!」

 

 シュナと想いを確認しあったテクトがゴブリナであるハルナを連れていたことでからかおうとするリムルだったが、あっという間に縛り上げられ、片言の威圧を受けて謝罪する。

 

 テクトが嘆息しつつリムルを開放し、苦笑いしていたハルナが配膳していく。

 

 その場の全員分が揃っていた抹茶プリンだったが、ディアブロは自分に渡された抹茶プリンをヴェルドラへと差し出した。

 

「ヴェルドラ様、これは約束の分です」

 

「クァ──ッハッハッハ! ディアブロよ、貴様は中々に義理堅い男のようだ」

 

 テクト達の帰還時に話していた件のデザートを受け取り満足そうにするヴェルドラにテクトは苦笑いするとディアブロへと振り返る。

 

「ディアブロは食べなくていいの?」

 

「情報の対価としてお支払いしたのですから、気遣いは不要で御座います」

 

「そっか……俺も一緒に作ったから感想欲しかったけど、しょうがないね」

 

「え……?」

 

 テクトの提案を悠然と辞退したディアブロだったが、続く言葉を聞き愕然とする。

 

 両膝をつき後悔を露わにしつつも、約束を破ることをよしとしないディアブロが涙をのんでいるのを憐れんだテクトがどうすれば丸く収められるか考えていると、リムルが思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、タイミングよく魔王達の宴の最中に帰ってくるとは、丁度すれ違いになったみたいだな」

 

「あぁ……いえ私はエドマリス王達を脅した後、各地を巡ってファルムスの財政状況を調べておりました。計画に見落としがないか調査をしていたのですが、そこでヴェルドラ様より戻ってくるようにと連絡をうけまして」

 

 ディアブロの回答を受け、その場の全員の視線がヴェルドラへと集中する。その瞬間、ヴェルドラは慌てたように立ち上がり逃げようとする。

 

「わ、我は用事を思い出したぞ」

 

「まあ待てよ、ヴェルドラ君」

 

「逃げられると思うのか?」

 

 しかし まわりこまれてしまった

 

 というよりも、テクトはドアの近くに、リムルはドアと逆側の壁に近い席にいたので最初からヴェルドラは魔王二人に挟まれる位置にいたのだ。

 

 そもそも「暴風竜召喚」もあるので逃亡は無駄だったりするのだが、ともかく逃亡は失敗し、ヴェルドラのプリンは全て没収された。

 

 戻ってきたプリンの乗った皿を拝みながら平伏するディアブロを尻目に、配下を動かすときは事前に断りを入れるようにヴェルドラへ言い聞かせるとテクトはため息をつくのだった。

 

 幸いなことにディアブロの仕事は五日後の和睦協議のみであり、調査も念の為のものであったことで目の前で取り上げた分は戻し、数日のデザート抜きに留まった。

 

 それでもヴェルドラは泣いていたが、それに取り合うものはいなかった。

 

 

 

 そして、予定通り五日後。

 

 ファルムス王国とジュラ・テンペスト連邦国との間で終戦協定が結ばれた。

 

 和議が成立したことで建前上はファルムスも魔国連邦を国家として認める形となり、迂闊に国際法を無視することはできなくなった。

 

 西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)に所属していない魔国連邦への再侵攻をファルムス王国が行っても法的な制裁措置は発生しないが、魔国連邦は人道的な観点による国家間での立場を得られたのだ。

 

 そして優位な条件での和議を結んだ魔国連邦には武力があると証明された。

 

 国を統べるのはリムルとテクト―二柱の魔王

 

 暴風竜ヴェルドラの盟友にして、たったの二年弱でジュラの大森林を完全に支配下へと収めた、人智を越えた人外。

 

 この事実を前に戦端を開こうとする馬鹿はいない。

 

 一柱でさえ国軍に匹敵する魔王が二柱。

 

 そのうえに暴風竜ときている。

 

 敗戦は必至であり、損害がどれほどになるか想像もつかない。

 

 この日より魔国連邦は不可侵の国として扱われることになる。

 

 災禍級(ディザスター)が二柱に暴風竜―決して敵対してはならない国として西側諸国に認識された。

 

 こうしてなんの問題もなく計画の第一段階が完了した。

 

 全ては悪魔の意図する通りに

 


 

次回「魔物たちの帰還」




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

UAが100,000を、お気に入りが1,000件を突破しました。

ありがとうございます。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

  • 書くべき
  • 書かなくてもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。