転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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先週は申し訳ありませんでした。

コロナって怖いですね…

体調も戻って来たのでなんとかなりそうです。


53話:いざ修羅場

 そうして、その日がやってきた。

 

 前々からテクトが休みを予定していたその日は、数日前からシュナには離れないように言い含められ、テクト達はまさしく新婚かのように寝食を共にしていた。

 

 この日から数日はテクトがいなくとも問題はないように仕事を済ませており、今はリムルの前にもかかわらずシュナを抱きしめていた。

 

「リムル、俺が戻らなかったら、皆を頼むよ」

 

「……いや、お前、そんな戦争に行く前の兵士みたいなこと言わんでも」

 

「死地なんだよ……! 修羅場なんだから……!」

 

 そう、この日はテクトがヴェルザードの待つ白氷宮へと赴く日。

 

 それもミリムを伴ってという、核融合もかくやという大爆発必至の大修羅場なのだ。

 

 テクトはシュナを一際強く抱くとゆっくりと力を抜く。

 

 空を仰いで大きく息を吐くと遠い目をして宣言した。

 

「逝ってきます……」

 

「お気をつけて」

 

「いや、ちゃんと帰ってこいよ? 俺一人でなんとかするのは絶対無理だからな?」

 

 テクトはシュナとリムルに見送られ、転移で魔国連邦を後にした。

 

 

 

 魔王ギィ・クリムゾンの居城―白氷宮

 

 この日の天気は過去類を見ない程の猛吹雪である。

 

 天候がそのままここに住む者の心情を表したかの様相を呈しているのを見て取り、テクトは到着と同時に帰りたくなった。

 

「ミリム、それ寒くないの?」

 

「ワタシは平気だぞ? むしろテクトのほうが大丈夫ではなさそうだが?」

 

「そっかぁ……なら行こうか」

 

 帰る切っ掛けを探るための質問に対するミリムの回答に、テクトは遠い目をしながら門を押し開け城へと入る。城内はガランとしており案内はないものの、迷うことなく最上部のテラスへとたどり着くと、僅かに躊躇った後扉を開ける。

 

「ようこそ、白氷宮へ。できれば来てほしくなかったがな」

 

 テラスにはギィとヴェルザードが座って待っていた。

 

 

 

 ギィが調整しているにも関わらず、温かい紅茶があっという間に紅茶味の氷へと変わった自身の正面のカップをみて、テクトの表情が僅かに引き攣る。

 

 テクトはかろうじて声をあげずに済んだが、不測の事態を防ぐためにも、人形を纏って来ればよかったと後悔し始めていた。

 

「さて、説明してもらえるかしら?」

 

 明らかに意識的に音を立ててカップを置き、ヴェルザードが静かに告げる。

 

「っ、ああ……」

 

 テクトは思わず上がりそうになった悲鳴を身体に糸を通して無理矢理阻止すると、落ち着いている風を装って話し始める。

 

 テクト自身について

 

 改めて、テクトは異世界人であり、転生者である。

 

 ヴェルドラの近くに転生し、リムルと出会い、三人でお互いに名を付けあって「無限牢獄」からヴェルドラを開放すべく共同での解析を行っていた。

 

 ゴブリンを救い、牙狼族を平服させたことで配下を持つことになり、町を作った。

 

 豚頭族(オーク)に敗れた大鬼族(オーガ)を保護し、クレイマンの画策していた新たな魔王の誕生のための軍勢に抗う為に豚頭帝(オークロード)を斃し、テクト達の町がジュラの大森林の大同盟の中心地となった。

 

 その頃にミリムが現れ、自分の不安定な気持ちを慰める為に共通名を提案した。

 

 その後、クレイマンの策謀で暴風大妖渦(カリュブディス)が襲来し、それをミリムが打倒した。

 

 イングラシアへと向かい、不完全な召喚で命の危機にあった子どもたちを救うための方法を探す最中、ギィの誘いに乗って白氷宮に来てヴェルザードと出会い、ギィの行動の甲斐あって、自分を肯定でき、その礼も兼ねてヴェルザードとの共通名を考えた。

 

 ラミリスと接触し、子供たちに精霊を宿らせることで魔素の暴走による崩壊を免れさせ、仕事の引き継ぎのためイングラシアで過ごした。

 

 その間ヴェルザードと何度か会う機会があった。

 

 引き継ぎを終え、魔国連邦へと帰る途中でヒナタに襲われ死にかけたがなんとか脱し、その時に起きていた襲撃によって命を落としたシュナ達を蘇らせるため、ファルムス軍を生贄に魔王になった。

 

 そして魔王達の宴でクレイマンを滅し、「九樹魔王(ユグド・イルミル)」として名を連ね、現在に至る。

 

 テクトは自身の事を伝えられる限り伝え、自分のほぼ全てを共有した。

 

 そしてその上で結論を離す。

 

「少なくとも、俺にとってシュナが一番大事であることは変わらない。だから、俺の自惚れでなければ、二人の希望を百パーセント叶えることは出来ない」

 

 テクトの言葉に誰も答えることはない。

 

 テクトは凍った紅茶を軽く沸かしてカップを傾けると、ソーサーへと戻して続ける。

 

「我が身可愛さに付け加えるなら、今この場で俺を殺しても、最期に思い浮かべるのはシュナになるってことだけ言っておく」

 

 そう言うとテクトもだまり、テラスには吹雪の風鳴だけが響く。

 

 どこかで氷柱が折れ、それが落ちて砕ける音を契機に、ミリムが口を開いた。

 

「テクト、一つ聞く。シュナには話したのか?」

 

「あぁ、ここ数日でミリムのことも、ヴェルザードのことも俺の視点で全て話した。その上で改めて俺と共にいてくれるかを問うた。それでもシュナの答えは変わらなかった。ありがたいことにね」

 

「では、今一度お前に問う。ワタシのことはどう思っているのだ?」

 

 ミリムの問にレインとミザリーが表情に緊張をにじませる。

 

 テクトの答え一つで何が起きるかもわからない状況にテクトへと視線が向いた。

 

 当のテクトはとてつもなく口に合わないものを口に詰め込まれ、さりとて飲み込むことも吐き出すことも出来ないような表情をしていた。

 

 自分をまっすぐと見るミリムの視線から目を逸らすことは出来ず、観念したかのようにゆっくりと息を吐くと、一度大きく息を吸って口を開いた。

 

「正直、惹かれていないといえば嘘になるよ。快活で明るい雰囲気は一緒にいて楽しいし、あの時期はそれに救われていた面もある。あの時ミリムが魔国連邦に来ていなかったら俺は既にこの世界にいなかったかもしれない。だから、俺にとっては恩人で、クレイマンに殴られてたって聞いたときには腸が煮えくり返る思いだったし、実際あの時カッとなってやってしまったところもある。で、結局どうなんだってなると、俺が誰とも繋がりを失いたくないクソ野郎ってだけなんだよね」

 

 テクトの本音を聞き、ミリムは静かに紅茶に口をつける。

 

 一方で、ギィは微妙な顔になっていた。

 

「それも話したのか?」

 

「話したさ。実に不誠実なことを考えているのだという自覚はあるからね。だから、『俺の視点で全部話した』って言っただろ?」

 

「希望には百パーセント応えることはないと言わなかったか?」

 

「言葉って難しいよな。応えないとは言ってないさ。俺にとっての一番はシュナだ。だから、同じタイミングで誘われたらシュナを優先するだろうし、なにかあった時一番最初に心配するのもシュナだろう。それはきっと、死んでも変わらないんだと思う」

 

 テクトはゆっくりとカップを回してから傾けると、空になったカップをソーサーに戻した。

 

 小さく音を立てて置かれたカップにミザリーが新たに紅茶を注ぐ。

 

 ミザリーが離れると同時にカップへと手を伸ばすテクトを見ながら、ヴェルザードは微笑んでいた。

 

「言いたいことがあるならいいなよ」

 

 テクトは口を尖らせると、誤魔化すようにカップを傾ける。

 

 あっという間に空になったカップを見て、ヴェルザードは噴き出した。

 

「ふふっ、いいわ。乗ってあげる。精々しっかりその娘を見ておくことね。そうしていられない程に骨抜きにしてあげるわ」

 

 そう言うとヴェルザードが蠱惑的な笑みを浮かべる。

 

 おもわずテクトが視線を逸らすのを見て、ギィがため息を吐いた。

 

「なんというか、そのシュナという妖鬼(オニ)といい、お前達といい、男の趣味が悪いものだな。俺が女の姿で迫ったら乗ってきそうな気さえするじゃねえか。レオンはその辺はきっちりしてたぜ」

 

「マジでやめてよ? ギィをベースにした女とか美人確定じゃんか。中身がギィってわかってても何か間違いが起きそうだ」

 

「そこはきっぱり断るところじゃねーのかよ……」

 

 テクトが苦笑交じりに返すのにギィがげんなりと呟くのを見てミリムも笑い出す。

 

 雪がゆっくりと降り積もる中、ギィの深い溜め息が響いた。

 

 

 

 風も収まり、テクトが出した菓子をつまみながら談笑する。

 

 イングラシアでテクトと食べさせあったと言い出したヴェルザードに対抗しようとミリムが何度も菓子を差し出すのを素直に受け取りながら、テクトはのんびりと質問する。

 

「そういえば、ギィって男女でなにか違いってあるの? 見た目以外で」

 

 テクトの問に念の為避難させていた配下を呼び戻すようレインに命じていたギィは僅かに考えてから答えた。

 

今のまま()のときのほうが直接戦闘は強いんだよ。逆に女になると魔素の操作なんかが精密になる。まあ、今のお前相手じゃ誤差みたいなもんだ」

 

「やっぱりまだまだ差は大きいか……そういえば、レオンのことを誘ってるみたいだけど、それで子供が出来た場合、性別の変更ってどうなるの? 出来なくなったりとか? まさか、子供が消滅するとかじゃないよね……」

 

 テクトの再びの問にギィは胡乱な表情になる。そうして先程よりも長く時間を取ると、思い出したように口を開く。

 

「ああ、そういえば、お前は何も知らないんだったな。結論だけいえば、俺とレオンがどれだけ褥を共にしようが、子供ができることはない。そもそも、精神生命体は基本的に子を成せんのだ」

 

「へぇ~、じゃぁ、悪魔族(デーモン)の子供っていないんだ。男女の概念はありそうなのに、不思議なもんだねぇ」

 

「何を人ごとのようにいっているんだ? お前も同じだぞ?」

 

「え……」

 

 ギィの言葉を呑気に聞いていたテクトだったが、突如告げられた言葉に絶句する。丁度手にしよううとしていたカップが転げ、テーブルに紅茶が広がっていった。

 

「精神生命体は肉体に依存しないから、子をなそうにも何もおきないのさ。これは覚醒によって精神生命体へと進化した者にも当てはまる。だから、お前らが子をなすことはない」

 

 テクトはゆっくりとギィの言葉を理解し、がっくりとうなだれる。そしてテーブルを見ることなくカップを回収し、紅茶を拭き取っていく。

 

 琥珀色に染まった糸を塵に変えて深呼吸をしている内に、新しく紅茶が淹れられた。

 

 それに口を付け、軽く息を吐くと顔を上げる。

 

「まぁ、これに関してはいいや。魔王になったことに後悔はないし、仕方がない、と思うことにするよ」

 

 納得とは程遠い表情だが、ひとまず飲み込みカップをソーサーへと戻す。

 

 難しい顔をしながら菓子を放り込むテクトにギィがふと思い出したように聞く。

 

「ああ、そうだ。お前のところに原初の黒(ノワール)がいるんだろ? ラミリスの配下に聞いたぞ」

 

「原初の黒? なんだよそれ」

 

「悪魔族の成長は上位魔将(アークデーモン)で止まる。それ以外にも階級があって生きた時間や強さによって変わるんだが、悪魔族の中でも天地開闢以前から存在する者を「原初」という称号とそれぞれの色で表すわけだ。オレが「原初の赤(ルージュ)」、レインが「原初の青(ブルー)」、ミザリーが「原初の緑(ヴェール)」で、オレ達と同時期に生まれた黒の悪魔族を「原初の黒」と呼ぶわけだ」

 

「黒い悪魔……ベレッタ以外の、あぁ、ディアブロか。ギィと同時期の生まれって相当長く生きた悪魔族だったんだな」

 

「まあ、あいつはあまりこっちには出てこない―今なんて言った?」

 

 突然語調を変えたギィにテクトは自身の言動を思い返す。

 

 そしてゆっくりと視線を逸らした。

 

「……気のせいじゃないか?」

 

「誤魔化すのが下手すぎる。そうだったな。お前は竜種にも名前をつけようとするバカだった」

 

「俺じゃないよ……リムルだって。俺は止めたって……」

 

 実に気まずそうにテクトが告げるのを聞き、ギィは再び深い溜め息を吐く。顔を挙げるとテクトを睨めつけた。

 

「お前も似たようなことしてねーだろうな」

 

「大丈夫、だと思うよ……多分」

 

 テクトの弱々しい言葉を聞き、ギィは追加でため息を吐いた。

 

「他に悪魔族で気をつけておくべき連中っている? ディアブロが連れて来るようなことがあれば気をつけるからさ」

 

「お前達の影響でヴェルドラがこっちについて、戦力バランスについてはだいぶ()()()に傾いているが、下手に名付けをされるのは困るか……原初と呼ばれる者はあと三体。「原初の白(ブラン)」、「原初の紫(ヴィオレ)」、「原初の黄(ジョーヌ)」だ。悪魔族は基本的に俺達も含めた何れかの色に分類される。それと、名持ちの古い悪魔族もいるが、そいつはフラフラしていて所在がつかめん。まあ、召喚されるような奴じゃないから気にする必要はないか」

 

「なるほど」

 

「それと、原初とそれ以外では埋めがたい差がある。黒の眷属は格上に臆するものはそういないが他の色の悪魔は別だ。どうあっても態度に出る。そのへんを判断基準にするといい」

 

「分かった。気をつけるよ」

 

 テクトは脳裏に嫌な予感を抱えつつ、平然と応える。

 

 ディアブロに対して遠慮というものを感じられない白い悪魔がそうでないことを祈っていた。

 

 

 

 原初についての話を終えてしばし歓談していると、テクトの出した菓子も尽きたのを見てテクトが立ち上がった。

 

「さて、そろそろ御暇しようかな」

 

「あら、もう帰るの?」

 

「戦後処理が色々あってね。暫く忙しいから遊びに来ても相手は出来ないかも。とりあえず、時間が取れるようになったら連絡はするよ」

 

 辞意を告げるテクトに今回はやや余裕を持ってヴェルザードが告げると、テクトも和やかに返す。

 

 要件も済んだミリムも辞意を告げ、先に帰っていった。

 

 それを見送り転移の準備をしていたテクトがふとギィへ視線を向ける。

 

「ああ、そうだ。ヴェルザードの件なんだけど」

 

 話題にあがったヴェルザードも不思議そうにするのを見て、ギィも訝しげにした。

 

「進化によって得た権能で「白氷竜召喚」っていうのがあってさ。魂の回廊を利用して異界であってもヴェルザードを召喚可能っていうものなんだよ。本気でヤバそうなときは喚ぶかもしれないから、一応事前に伝えとこうと思ってね」

 

「ああ、それでお前の進化に合わせてヴェルザードが寝てた訳か。配下ってわけじゃなくとも繋がりが深くなる負荷がかかったってことだな……ヴェルドラが急に出てきたのもそういう訳か」

 

「まあね。事前に連絡するつもりではあるけど、緊急で戦力がいる時には余裕ないかもしれないし。ヴェルドラがいるうえでヴェルザードまで喚ぶとさすがに過剰戦力だから召喚する可能性は低いけど……あぁ、うん。いざというときは頼りにしてるよ」

 

 テクトの言葉から魔王達の宴でのヴェルドラの登場に対する疑問が解けたのか納得した顔になる。

 

 隣で聞いていたヴェルザードは視線でテクトから頼りにしているという言葉を引き出してに満足そうにしていた。

 

 ひとまず話すべきことを話し終え、テクトは帰途につくことに成功した。

 

 こうして、修羅場は白氷宮が崩壊することなく終息したのだった。

 

 

 

「魔国連邦よ、私は帰ってきたぁぁぁ!」

 

「お、おう……おつかれ」

 

「お帰りなさいませ」

 

 「空間支配」で魔国連邦に帰ったテクトの第一声の叫びにリムルが引き気味に、シュナが普通に応対する。

 

「良かった……帰ってこれた……」

 

 テクトは安堵の息とともに空を見上げる。

 

 悲壮感漂う出発だっただけにリムルも強く言えず、暫く好きにさせていると、気を取り直したテクトが報告を始める。

 

 既に夜だったが、テクトの心労のケアも兼ねてリムルは遅くまで付き合うことにしたのだった。

 


 

次回「謀略への考察」




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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