時折テクトと連絡のつかないときもあったがさほど問題は起きず、この日は幹部全員を集めて会議を行う事になっていた。
リムルが迎えに行ったハクロウから傀儡国ジスターヴ地下にダークエルフの守る遺跡があると報告を受けたが、現状危険もないため秘匿して後で片付ける事にして、会議を始める。
「まあ、全員知っていることだと思うけど、この度私達は、魔王に就任しました!」
会議室の上座でテクトに抱えられたスライム状態のリムル*1の宣言に幹部達から祝福の声が上がる。
笑う者、感涙に咽ぶ者、当然というかのようにドヤ顔をする者と様々な反応を見せるなか、報告を続けるためテクトが軽く手を叩いて注目を集め、リムルが続ける。
「色々いそがしかったから言ってなかったけど、俺達の支配領域とやらがジュラの大森林全域と決まったから。今でも盟主を名乗っているから、そこは問題ないだろ? だからまあ、無いとは思うけど侵略された場合は、俺達の名の下に迎撃しないといけない。後はそうだな、領地だと宣言するのはどうやったらいいんだろ? ほっといていいのかな?」
「「「……」」」
「どうした、お前ら?」
リムルの言葉を聞くに連れ、幹部たちに緊張が広がり始める。
リムルの言葉に答えず黙り込む幹部たちにテクトが不思議そうにすると、リグルドが恐る恐る口を開いた。
「ええと……、全域、ですか? 本当に?」
「嘘ついてどうするんだよ」
テクトの反応に事実だと認識し、今度は僅かに頬を引きつらせたベニマルが口を開く。
「おいおい、マジかよ。全域となると、川の向こう側もですね?」
「アメルド大河の向こう側ってことだろ? 東の帝国の影響を受ける地域と接することになるから防衛に対する意識は高めるべきかもな」
テクトの回答にベニマルは僅かに考え込むと口を開く。
「俺達に取っては問題というほどのことはありません。ですが、川の向こう側は
「いやいや、これは凄いことだぞ。何せ、森の資源の権利が全て旦那方にあると、魔王達に承認されたってことだろう? つまり、森で採取される資源全ての権利を、旦那方が握ったってことだ。こいつは大事になるぜ?」
話を聞いていたカイジンが興奮したように叫ぶ。
そもそもこれまでは資源の採取は暗黙の内に行われており、大同盟に関係のない範囲など無法地帯に近かった。
許可を取る必要がなかったのだから、さもありなんといった具合だが、今後は資源の採取どころか住むのにもリムルとテクトに許可を取らねば叛意ありと取られる状況になったということである。
「うわぁ、面倒くさぁ」
「だけど、今更だろ? 既に住んでるのに」
事態を受け止め嫌そうな顔になるテクトに対し、リムルは無い眉を顰めて不思議そうにする。
それに答えたのはリグルとガビルだった。
「いやいや、魔王というのはそれだけの力を誇る存在なのです。力のある上位魔人でさえも、
「その通りですぞ。魔王の傘下に入り守護してもらうか、魔王を認めずに勝手に生きるか。当然判断は自由でしょう。ですが、我が種族であった
「アビルさんが来るのか?」
「はい! シオン殿にも伝えたのですが、親父自ら是非とも御二人に御挨拶したいと申しておりました!」
ジュラの大森林でも大規模な部族である蜥蜴人族も挨拶が当然と捉えている以上、弱小部族が訪ねてくるのは当然である。
魔王への挨拶となれば部族の命運を背負う場になると考える可能性が高いため、テクト達を知らぬ者達が挨拶に来る際の対応について考える必要があった。
それはそれとして
「シオン、報告にはなかったが?」
蜥蜴人族が挨拶に来るのを知っていたはずのシオンへとテクトが視線を向ける。
それまではドヤ顔をしていたシオンが慌てて言い訳をしようとし、結局小さくなって謝罪するのにテクトは小さくため息を吐くと軽く窘めて話を戻すことにした。
今後の対応だが、ジュラの大森林の知恵のある魔物について調査を行い、それぞれに触れを出していくことになる。
同盟の圏内であれば問題はないが、それ以外の場所に住む種族に関しては苦戦が予測できた。
その状況を考え、リムルが声を上げる。
「思ったんだけどさ、どうせ俺達が魔王になったことを伝えて広める訳だろ? それならさ、いっその事大々的に宣伝して、この町をお披露目したらいいじゃないか? バラバラに押しかけられるよりも、みんなまとめて来てもらったほうが楽だろ?」
「要するに、挨拶に来る時期を指定して、その時期に祭りを行う。そうしてこの町を知ってもらって技術習得が終わって去っていく獣人に代わる住民の確保をしようと」
「Exactly!」
リムルの説明にテクトの補足が続き、理解を示した幹部たちの目が輝く。
「どうせ俺達のお披露目を兼ねるんだからさ、ここは一つ盛大にやろうじゃないの!」
リムルの声に全員が諾と答え、そこからあっという間に話が詰められていく。気づけば各国の首脳にも招待状を出すことに決まり、魔国連邦主催による大規模な祭りが開催される運びとなっていた。
祭りのことは一旦脇に置き、各員の報告に入る。
まずはリグルドから。
商人達が戻り始めたらしく、フューズの働きかけもあって以前よりも人数が増えたという。
他の国の動きはなく、魔王誕生に警戒をしているが、現在交流のある各国との付き合いを見守る段階とのこと。
また、魔導王朝サリオンの天帝であるエルメシア・エル・リュ・サリオン自らが魔国連邦との国交樹立を宣言し、その宣言に頭を悩ませている首脳陣も多いという。
次にソウエイ。
サリオンとの街道整備の事前調査は順調であり、テクトたちの影響が及ぶ範囲の魔物は現状協力的なものばかりだという。
ただ一つ問題があり、ジュラの大森林の外―クシャ山脈に住まう
長鼻族は温厚ではあるが本質は戦闘民族であり、フレイも直接事を構えるのを避けていたらしい。
現状どの勢力にも属していない彼らを無視して工事をするのは、テクト達が領土的な野心を持って侵攻する準備をしているとも取られかねず、説明は必須だと考えているようだった。
それを聞き、自ら動こうとしたリムルだったが、魔王自ら動くのはかえって警戒させるとベニマルが代理を申し出た。
テクトも承認したことでベニマルを名代として長鼻族に説明を行う事に決まり、その件は終了した。
そして、魔物の分布に関する調査報告。
魔国連邦の住人には魔素量が多い者が多数いるため漏れ出した魔素によって周囲の魔素濃度が高くなり、妖魔が発生するレベルの魔素溜まりが様々な場所に出来ているのだ。
人間にとってはDランクでも脅威となる場合があるので、人間との交流を目指すのであればその対処は必須事項である。
街道から離れた場所でA-ランクに相当する魔物が生まれ、人を襲う可能性もあるため、森全体の分布を探らせていた。
ソウエイの報告では「問題なし」。
強いて言えば
ちなみに白刃巨大熊はA-ランク。普通の冒険者では対処困難なレベルの魔物である。
警備部隊でも新米には対処不可能な魔物の存在に警備部隊を率いるゴブタとリムルが動揺する。
「ちょ⁉ ソウエイさん、それは本当っすか? そんなヤツがいるなら、新米を派遣するのは危険っすね」
「問題なかろう。お前が甘やかしすぎているのではないか?」
「待ってほしいっす! ソウエイさんにとっては大したことなくても、オイラ達からすれば油断できない魔物なんすよ」
「ならばハクロウに頼んで、もっと修行を厳しくしてもらえばよかろう?」
ゴブタの動揺にソウエイは平然と返す。
ハクロウもうなずき、ゴブタが愕然とするのをみて、テクトが口を開く。
「ソウエイ、自分が出来るからと他まで大丈夫と思うな。お前は魔国連邦でも上位の実力者だ。自分を基準に考えると、知らぬ間に周囲へ負担を強いる事になる。そして、それを続ければいずれ破綻する。まぁ、ソーカ達はお前の要求を満たせるレベルに達しているから感覚がずれているとこもあるんだろうけどな」
「俺達も他人事ではないかもな。出来るやつばっかりだから逆に気をつけないと無理をさせすぎて急に限界が来るかもしれないし。休みを取らずに無理をし続ける奴もいるしな」
「いい加減しつこくない? 俺、最近はちゃんと仕事は休んでるんだけど」
テクトの注意にリムルも補足し、具体例を交えながら説明を始める。
それを聞き、ソウエイも納得して謝罪を述べ、議題を魔物に関することへと戻した。
問題はやはり魔素濃度の高さである。
警備部隊は星狼族の足の速さと回復薬で犠牲が出る可能性は低いが、これから招待する予定の客を同様に扱うわけにはいかないのだ。
そして、対応策についてはベスターから対魔結界の敷設の提案が出た。
それを聞き、カイジンが立ち上がる。
「旦那方、完成したぜ。結界を発動させる、全自動魔法発動機の試作型がな!」
全自動魔法発動機は登録しておいた魔法を自動で維持するための魔法機器である。
先の戦争で役に立てなかった事を気に病んだカイジンとベスターに加え、時間が空いたときにはガビルやクロベエ、シュナにテクトまで参加して制作をしていたものである。
全自動魔法発動機は大気中に漂う魔素を利用する仕組みになっており、聖教会のものが魔法装置によって使っていた領域内の魔素を浄化する「
これに対魔結界を登録すれば結界を貼ることが出来るのだが、この装置の役割はそれだけではない。
魔法の発動の過程で魔素を集積することで、周囲の魔素濃度を下げる事ができるのだ。機構自体は効率が悪すぎて使いづらいものだが、保有魔素量の多い者が多数住む魔国連邦では大した問題ではなく、また、ジュラの大森林の外縁側でも作動できるように燃料補給も可能となっている。
燃料となる魔晶石は使おうにも九割近くのロスが出るため一般では自由組合の秘匿技術で作られた魔石を使うのだが、魔国連邦では「大賢者」と「無不知」によって最適化された「刻印魔法」の魔法式によって無駄を極限まで省き、十分な効果を出せる状態になっていた。
無駄になった魔素は消滅するわけではなく大気中に魔素として拡散するだけなので再利用可能であるのだ。
魔石の精製方法も予測は出来ているのだが、設備の問題で難しく、大気中から精製した魔晶石のまま利用する方法を考えたのである。
そして、この装置は結界だけでなく他の魔法も発動可能である。
さながらレコードプレイヤーのように魔法を刻印した魔鋼製の板を交換することで発動させる魔法を変えることができるのだ。
今はまだ重量があり移動には難儀するが、今回は街道の石畳に紛れさせて設置するので移動の必要はなく、魔晶石の使用期限の把握をしっかり把握して交換を怠らなければ問題はないということだった。
装置は十キロごとに設置し、警備部隊の常駐する交番が二十キロごとに設置しているので確認作業も見回りに含めてもあまり手間にならないことから装置の設置は可決され、早速予定を立てることになった。
町に残っている工兵達との調整も含め、結界の配置など考える必要ができたことで仕事は多くなったが、ベスターが笑顔を浮かべる。
会議の雰囲気は和やかなものだったが、それをヴェルドラがぶち壊しに来た。
「クア──ッハッハッハ! それが完成すれば、我も好き放題に妖気を開放出来るのだな!」
「んな訳あるか! そんなことすればこの国の大半の者が死んでしまうわ!」
とんでもないことを言い出すヴェルドラにリムルが突っ込む。
リムルは「
一方でヴェルドラは単純に無理やり体内に押し留めているだけなので精神的に鬱屈しているのだという。
妖気や魔素の扱いに長けた
「うーん。結構苦労があるのか……やっぱりどうせやるなら、こう、少しずつ放出するよりも一気にガーッとやりたい感じ?」
ディアブロの言葉を聞き、テクトがこぼした発言で注目が集まる。
その言葉に希望を持ったのかヴェルドラが問いかけた。
「そうだな。我が封印の洞窟を出る頃からずっとであるし、ドカンと発散したい気分ではある。が、その様子だと、何か策があるのか?」
「魔素の奔流を押し止める結界はあるんだよ。だけど、ヴェルドラのレベルだと抑えられるかわからないからゆっくりと出力を上げていって俺とリムルで回収できる程度の魔素濃度の増え方までならと思ったんだけど、ちょっとミスると影響が大きすぎるし、一気にできる方がいいのなら、何か他の方法を考える事にするよ」
「よかろう。我にもまだ余裕はあるが、なるべく早く頼むぞ」
そう言ってヴェルドラが再び漫画へと戻ったことで魔素濃度に関しての話は終了する。
その後も幹部たちから報告を受け、ディアブロの出番が来る。ちなみにテスタロッサはファルムスで留守番である。
西方正教会は未だ沈黙を貫いており、ルベリオス王都への潜入は危険なので内部の詳しい情報を得られていない。
ただ、効果対象が死亡した場合にその魂を回収できるディアブロのユニークスキル「
また、王となるに当たり、貴族としてのマナー等についての知識が足りないヨウムの教育をエドマリスがしている。
そして、ラーゼンより教会からの正式な回答はまだだが新王宛に援軍が送られ始めたことで、貴族派を含め戦力の確保を進めているらしく、じきに内乱へと発展する見込みである。
「問題はなし、と。流石だな。後は、ヒナタの動向か」
「あの方ってやつじゃなくて、ヒナタなのか?」
「ああ、黒幕が動くとは思えないからな」
テクトの言葉にリムルが質問する。
それに対する回答に疑問が残っているのを見て取り、テクトは説明を始めた。
黒幕はクレイマンとその支配領域、そこを基にする基盤を全て失った。
リムルは一蹴したが、魔王はそれ単体でも人間にとっては圧倒的な脅威であり、失ったのはクレイマン。
魔王の中でも貨幣制度に順応し、諜報と謀略に長けた切れ者である。その影響力はカリオンのような単純な力がある魔王以上に深く及んでいたはず。
土地、軍勢、資金、情報網を大きく損ない、その立て直しに手を取られて報復にまでは手が足りないと推測される。
だが、口は挟むかもしれない。
「というと?」
「ヒナタが俺とリムルを襲ったタイミングは最悪の一言に尽きる。それを図ったのが、黒幕だってことだ」
思い出した襲撃に対する苛立ちが漏れ、テクトとリムルから僅かに妖気が漏れる。
魔物たちが唾を飲み込む音でそれに気づいた二人が妖気を収め、テクトが続ける。
「ヒナタは「仕えるべきは法皇ではなく神ルミナス」だと言っていた。つまり、彼女に命令できるのは教会内にはいないってことだ。なら、教会と関係のない奴の命令を聞くことは余計にないだろう。それに、リムルを殺しに来たのも私怨が主といった様子だった。そうした理由が黒幕によって唆された事が原因だったら?」
「……また何かしらの手を使って俺達とヒナタが相対するように情報操作をしてくるかもしれない?」
リムルの回答にテクトは首肯する。
「そもそも、状況が複雑に絡みすぎている。ファルムスは町を支配するため、ヒナタはシズさんの仇討ちと教義の遵守、クレイマンは勢力拡大に邪魔だった。そして利害が一致して、あの襲撃に至ったと考えるのが妥当だ。ここまで出てこなかったのに、失敗が確定してから動くことはないだろう。だからこそ、失敗の腹いせにヒナタを俺達にぶつける可能性があるんだよ」
「となると、ファルムスに合流する連中以外にも警戒する必要がありそうですね」
テクトの話を聞き、発言したのはディアブロ。
「ディアブロはテスタロッサと連携して警戒を密にしておけ。レイヒムが出てきたら事情聴取をしっかりとな。ヒナタの意思が介在せず、動くしかなくなる可能性もある。事情は把握しておきたい」
「御意。時間もありますし、レイヒムが出てくるまでにもう一度聞き込みを行っておきます。エドマリス達に情報をもたらしたのは商人だったそうですが、今考えれば怪しい事この上なしですからね」
ディアブロの言葉にリムルが僅かに震える。
それを感じてテクトが視線を落とすのに合わせ、全員の視線がリムルへと集中した。
「待てよ? 商人か……」
「どうかした、リムル?」
「いや、な。ファルムス王国が俺達の町に進行した理由は利益を求めてだった訳だ。戦ってのは金が動くものだし、戦争屋ってのはどこにでもいる。その商人達が利益を求めて暗躍するってのも、十分に有り得る話なんじゃないかって思ってさ」
「なるほど、敵が最初から武力を持っている奴だけとは限らないってことか……」
リムルの言葉を聞き、テクトは顎に手を当てて考える。最終的にリムルとも共有し、顔を上げた。
「シュナ、クレイマンの城から回収した帳簿を調べて、出入りの商人の記録を洗い出してくれ」
「承知しました」
「ディアブロ、テスタロッサと手分けしてファルムスの文官から取引のあった商人についての情報を締め上げろ。殺すなよ?」
「心得ました」
「ベニマル、ヨウムの援軍として派遣するものを厳選し直せ。何が起きても対応できるよう万全を期す」
「ああ、お任せを」
「リグルドにはこの町のことを任せる。お披露目も兼ねた派手な祭りになるからな。準備をしっかりと頼む」
「言われるまでもありませんぞ!」
「ゲルドはこちらのことは心配せず、全力で仕事にあたっていればいい。でかい仕事もあるしな」
「承知」
「ハクロウはベニマルの補佐、ガビルはリグルドに協力、リグルは各種族の来訪に備えて警備体制の見直しを頼む」
「御意」
「ハハッ!」
「任せて下さい!」
「シオンは……リムルの護衛を頼む」
「テクト様の護衛はよろしいのですか?」
「……基本的にリムルといるから一緒に護衛してくれればいいよ」
「わかりました!」
「我は?」
「ヴェルドラは……皆の邪魔をしないように……」
「うむ、任せるが良い!」
全員に指示を終え、幹部達が動き出す。
そして、居眠りをしていたゴブタは目を覚まさぬまま執務室へと連行された。
次回「唐突な襲撃者」
表紙参照
座っているリムルをテクトに変える感じで
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まおりゅうで現在「異界神話」勢力の復刻ガチャが開催されているのですが、犬耳シュナ可愛いです。
前回は天井近くまで引いてリソース切れ寸前で獲得したので凸は狙わなかったのですが、今回の内に凸を目指すかモミジの方にリソースを使うか難しいところです。
紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書くべき
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書かなくてもいい