転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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「紅蓮の絆編」という名のテクト無双。

テクトがしっかり動くとこうなる場合があるという事例ですね。

あんまり長くならないと思います。


55話:唐突な襲撃者

 その日、テクトは執務室で仕事をしていた。

 

 リムルは休日であり、シオンとともにまったりとしていたところにひっそりと危機が迫っていたが、そんな事は露知らず、集中していたテクトだったが、ふと顔をあげる。

 

「どうかしたのか、ソウエイ?」

 

 テクトの声に応じ、ソウエイが現れる。彼からもたらされた報告は看過できないものだった。

 

「執務中に申し訳ありません。どうやらゲルドが襲撃を受けているようです」

 

「ゲルドが? 休暇中じゃなかったっけ? 警邏もいるのに町中で襲撃するようなバカはいないだろ」

 

「作業の進捗が気になる地区があったらしく、現場に顔をだしていたようです」

 

「ああ、あの地区か。そんなに気にするような状況じゃないはずなんだけどなぁ」

 

 休日のはずのゲルドの行動にテクトは呆れた顔をする。完全にブーメランなのだが、それに突っ込める者はこの場にはいなかった。

 

「現状は?」

 

「現場ではソーカ達が戦闘中。ハクロウとベニマルにはすでに分身体が連絡済みです。リムル様は休日ですが、これから御伝えに上がろうかと」

 

「なら頼む。俺も向うよ。何やら嫌な予感がする」

 

「承知。御武運を」

 

 テクトの言葉にソウエイは一礼し、その場から消える。

 

 それを見送り、テクトも転移する。ゲルドが参加したことで作業速度が上がったのか、テクトの予想した作業地点から少し離れた場所から戦闘音が聞こえてきた。

 

 テクトはため息を吐くと、音の方へと走っていった。

 

 

 

 ゲルドは分の悪い戦いを強いられていた。

 

 作業中の奇襲という事もあって鎧を着込むこともできず、胃袋から取り出した手持ちの武具だけで戦う最中、あることに気づく。

 

 それは、襲撃者の容貌。

 

 ソーカたちと戦う者達は普通の人間といった容貌だが、ゲルドへ激しく仕掛ける赤髪の男にはゲルドには見過ごせぬ特徴があった。

 

 赤髪の男は二本の角を持っていたのだ。

 

 片方は黒、もう片方は白。しかし、白い角は黒い角の半分程度の長さしかなく、何か事情があったことが伺える。

 

 ゲルドは男の容貌からその種族を看破する。

 

 男は大鬼族(オーガ)―もしくはそこから進化を果たした個体ということだ。

 

 そのことを察し、ゲルドは武具を取り落とす。

 

 男の攻撃の激しさが、かつて豚人族(オーク)が大鬼族の里を攻め滅ぼした事による恨みを果たさんとしているからだと気づき、それを正当な感情であると受け入れようとしたためである。

 

 唐突に構えを解いたゲルドを訝しみつつも赤髪の男は好機と見て斬りかかる。

 

 自らの行いに対する報いであると赤髪の男の太刀を受けようと目を瞑るゲルドだったが、その前にテクトが割り込んだ。

 

「全く、責任感が強すぎるのが玉に瑕だな。過ぎたるは猶及ばざるが如しだぞ」

 

 鋭い金属音とともに太刀が大鎌で受け止められ、赤髪の男が大きく距離を取る。

 

 実際には走って割り込んだだけだが、「完全隠蔽」によって前触れなく現れたように見えるテクトを警戒し、距離を開けたのだが、そこにベニマルが現れた。

 

 そして、テクトと睨み合う赤髪の大鬼族を見て瞠目する。

 

「兄者⁉」

 

 ベニマルの言葉を聞き、思わずテクトが振り返る。

 

 テクトの視線を追い、ベニマルを視界に収めた大鬼族も驚愕とともに昂らせていた妖気を治め、構えを解いた。

 

「若⁉ 何故ここに……里は滅んだのでは……?」

 

 呆然と呟く大鬼族にベニマルが進み出ると再会を懐かしむように微笑んだ。

 

「救われたのさ。名前ももらった。今の俺は、ベニマルだ」

 

 ベニマルの名乗りを聞き、大鬼族は顔を覆うと空を見上げる。そして、目尻をそっと拭うと名乗った。

 

「俺もだ。緋色(ヒイロ)―それが俺の名だ」

 

「ヒイロ……兄者も名持ちになったのか」

 

「ああ、これほど嬉しい奇遇があるものか」

 

 互いに名乗った二人は武器を合わせ、小さく音を鳴らす。

 

「ええっと、知り合い、でいいんだよね?」

 

「ええ、里が健在だった頃の幼馴染です」

 

「そうか、なら、これ以上の戦闘は必要ないな。お前が説明するほうが納得しやすいだろう。ここは任せる。俺はけが人を治療してくるよ」

 

 そう言うとテクトはその場を離れ、猪人族の元へと向かう。

 

 一番怪我をしていたのはゲルドであり、その他のものは自己治癒力で十分だったが部外者が交ざっていては話しづらいだろうと気を遣った結果である。

 

 そうして離れるテクトを見送りヒイロが口を開いた。

 

「里を滅ぼした豚人族と一緒にいるとはどういう了見だ?」

 

「話せば長くなるが、和解したのさ。こいつの名はゲルド。俺達魔国連邦の大事な仲間だ」

 

「仲間だと?」

 

 ベニマルの言葉にヒイロは目を怒らせ、部下と思しき者達が身構える。

 

 しばしの間ゲルドを睨んでいたヒイロだったが、一度目を閉じると剣呑な雰囲気を引っ込めた。

 

「いや、お前がそう言うなら、最早豚人族は敵ではないのだな。非礼を詫びよう、心から」

 

 ヒイロが居住まいを正して頭を下げるのに合わせ、他の者も頭を下げる。そんな彼等に対し、ゲルドもまた頭を下げた。

 

「我等が大鬼族の里を滅ぼしたのは事実。何度謝っても許されるものではない」

 

 互いに謝罪したことで一旦は気持ちの整理がついたのか、ヒイロが部下にベニマルが幼馴染だと説明しているところに、リムルとシュナ達がやってきた。

 

「兄様……⁉」

 

「お前達……それにお師匠も!」

 

 シオンのつぶやきに振り返ったヒイロが歩み寄ると、シオンは大粒の涙をこぼし、泣き始める。

 

「生きておられたなんて……」

 

 それを見て、シュナも涙を流しながらヒイロの手を取るのをテクトは微妙な表情で見つめていた。

 

「テクト様」

 

「わかってるよ。でも、それはそれ、これはこれだ」

 

 

 

 二人が落ち着くのを待って移動し、その夜。

 

 使者ということもあるが、大鬼族達の再会を祝してささやかながら席が設けられていた。

 

 ヒイロはベニマル達にとって兄貴分という存在だったらしく、本人曰くガキ大将のようなものだったとのこと。

 

 また、片方の角が短いのは、昔ベニマルをかばった際の傷によるものらしい。

 

 他にも、崖から落ちそうになったシュナを助けたり、喧嘩を良くしていたりと様々なエピソードが語られ、喧嘩ではほとんど勝てなかったというベニマルは頭をかいていた。

 

 里でも一番の剛の者だったというヒイロは十人程を連れて傭兵として出稼ぎに出ていたらしいのだが、雇い主には恵まれなかったという。

 

 雇い主はクレイマンの軍勢だったらしく、それを聞いたベニマル達の顔色が変わる。

 

 先の戦争では敵に大鬼族の兵士はいなかった聞いているため、テクトは内心首をひねっていたが、ヒイロが続きを話す。

 

 提示された額はかなりのもので良い稼ぎになると思っていたのだが、従軍中に大鬼族の里が襲撃を受けていると知り、居ても立っても居られず軍を脱走したという。

 

 それ以上は目を伏せたヒイロからは語られなかったが、クレイマンが離反者を許すとは思えず、追撃を受けたであろうことが察せられた。

 

 その後、戦いで瀕死となったヒイロはラージャ小亜国によって回収され、その国の女王トワによって救われたのだという。名前もその時にもらったとのことだ。

 

 ラージャは金の採掘で生計を立てていたのだが、すでに大きな鉱脈を掘り尽くしており、かつての栄華は見る影もないという。

 

 そのような苦境の中、トワは文字通りに身を削っており、鉱脈から流れ出る鉱毒を魔法道具(マジックアイテム)のティアラで浄化している。その代償にティアラから全身に呪毒が巡っており、これを続ければ命に関わるのだとか。

 

 名付けで生命力を消耗したのもあるが、すでにあらゆる薬を試しても快方に向かうことはなく、トワはかなり衰弱している。

 

 ティアラは女王の血筋にしか使えないのだが、浄化を怠れば採掘はできず、財源がなくなれば食料の輸入もできない。かといってトワに無理を強いる訳にはいかず、事態は悪化の一途を辿っていたという。

 

 そこでヒイロの出した提案がジュラの大森林の開墾だった。

 

 食料を自給自足できるようになれば採掘による鉱毒の心配はなくなり、浄化の力を使う必要も減る。

 

 ヴェルドラの脅威を伝え聞いている大臣たちは否定的であった。しかし、リムルとテクトがヴェルドラと交渉し怒りを沈めたという報告が入り、多種族共生国家を謳う魔国連邦であればまっすぐに交渉すればあるいはという希望のもと、ヒイロが使者として交渉に来た。

 

 そして、魔都リムルを目指す最中にゲルド達を見つけ、豚頭帝の残党かと切りかかったというわけだ。

 

「いきなりゲルド殿―いや、魔国連邦に刃を向けてしまい、申し訳なかった」

 

「「申し訳ありませんでした‼」」

 

「まあ、事情が事情だしな。気にするな」

 

「ゲルドも襲撃を受けた事自体は気にしていないようだし、問題はないだろう」

 

 軽い調子で返す二人にラージャの面々も顔を上げる。

 

 ホッとした様子の三人にリムルは得意げな顔をした。

 

「良し、じゃあ、追加の情報を聞かせておこう」

 

「追加?」

 

「俺達は魔王になった」

 

 リムルはそういうなり証拠として魔素と魔王覇気を開放する。

 

 が、それはすぐにテクトによって押し留められた。

 

「出しすぎなんだよ。そのまま浴びせてたら吹っ飛ぶところだ」

 

「え? ああ、ごめんごめん。それで、俺達二人共魔王になったんだよ」

 

「そうなんです!」

 

「クレイマンのやつを倒して、他の魔王にも認められたんですよ!」

 

 自分が一時とは言え仕えていたため、本人やその軍勢の力を知っていたヒイロが目を剥くのに、シュナが嬉しそうに頷き、シオンが自慢げに魔王達の宴(ワルプルギス)での戦いを語る。

 

 それを聞いてヒイロが魔王になったことを信じたのを確認すると、リムルはすぐ横で漫画を読んでいたヴェルドラへと話しかけた。

 

「なあ、ヴェルドラ。森に立ち入ったらだめなのか? なんでだ?」

 

「知らんよ」

 

「だってさ」

 

「は?」「ゔぇる?」「どら?」

 

 あまりにあっさりとした話と出てきた名前にヒイロ達があっけに取られる。

 

 そんな三人を見て、リムルはヴェルドラの紹介を始めた。

 

「おっと、紹介してなかったな。こちら、俺達の友達のヴェルドラ君です。ほら、挨拶して」

 

「暴風竜ヴェルドラである。騒々しくせんのなら、勝手に森に入るが良かろう。クアーッハッハッハ!」

 

「まぁ、これで開墾の許可は下りたってことで」

 

 交渉するまでもなく纏まった話にしばらくヒイロ達は状況が飲み込めない様子だったが、しばらくして落ち着いたのか居住まいを正した。

 

「ジュラ=テンペスト連邦国盟主リムル殿並びにテクト殿に正式にお願いしたい。このままではラージャ小亜国は滅んでしまう。俺は命を救って下さったトワ様と、トワ様が大事にされている国を救いたい。どうか、ラージャのために力を貸して頂きたい」

 

 そう言って頭を下げるヒイロ達に続いてベニマル達も頭を下げる。

 

 それらを手で制してテクトとリムルは目配せするとヒイロへと向き直った。

 

「シュナはもちろんだが、ベニマル達も俺達の家族だ。その家族が尊敬する相手が困っているのに何もしないなんて選択肢は俺達にはない」

 

「頼まれなくても力を貸すさ。トワさんは国民思いの人みたいだし、ラージャって国も見てみたい。お見舞いがてら、トワさんに会ってみてもいいかな?」

 

「ッ! もちろんです!」

 

 二柱の言葉にヒイロが顔をあげ、快諾する。

 

 それを受けてベニマル達が再び頭を下げ、テクトとリムルは改めて顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 明朝。

 

 出発前からテクトは不機嫌だった。

 

 理由は移動に際しての割り振り。

 

 事前連絡なしということもあって、人員は最低限にということで、来訪時に乗っていたワイバーン騎乗するヒイロ達三人とランガに乗るリムルの計四騎で向かうことになったのだが、その割り振りでシュナがヒイロの後ろに乗ることになったのだった。

 

 盟主たるリムルがヒイロの後ろというのも立場上問題であるし、それはテクトも同じ。そもそもヒイロ関連で抱いている感情そのものが間違っている事はテクト自身理解しているが、なかなか折り合いをつけることができずにいた。

 

 ちなみにフェルは魔王達の宴の際に回収した九頭獣の世話をしているため、魔国連邦を離れる事ができなかったりする。

 

 とはいえそんなことで変に気を使わせるわけにはいかないとテクトが感情を押し込め、ランガに騎乗するリムルの後ろに乗って空を移送することしばし―

 

 巨大な谷に囲まれた盆地に美しい国があった。

 

 山間の国という印象があるが、周囲の湖から流れ落ちる滝もあるため一見して耕作も可能である水の豊富な国に見える。しかし、鉱毒の存在がそれを阻んでいるという。

 

 特に事故もなく到着し、テクト達は二人の老人が待つ応接室へと通された。

 

 ヒイロから紹介によると、二人は大臣と先代女王からの従者であるモブジというらしい。女王であるトワは眠っているらしくチクアンという医者が看病しているとのことで、この場にはでてこられないそうだ。

 

「なら、先ずは報告を。ジュラの大森林の開墾の件だが、暴風竜ヴェルドラ様より許可をもらえた。リムル様とテクト様の口添えあってのことだ」

 

 ヒイロの報告を聞き、大臣とモブジが頭を下げるのを遮り、テクトが口を開く。

 

「堅苦しいことは脇において、実務的な話をしよう。この国は採掘を国家事業としていて農業の専門家はいないと聞いた。そこで、こっちで話を付けてきたんだが、問題はないか?」

 

「も、問題などと……」

 

「むしろ、ここまでして頂いてよろしいのでしょうか」

 

「こっちが勝手にしたことだ。そう気にすることではない」

 

 恐縮する大臣とモブジを軽く諌めつつ、当の専門家(トレイニー)を派遣する予定を話していく。相手が樹妖精(ドライアド)と聞き再び鯱張る二人にテクトが苦笑していると、扉が開き男が顔を見せた。

 

 男の名はチクアン。呪毒に苛まれる女王の治療をしている医者であり、トワが目覚めたことを報告に来たのだった。

 

 トワに会うことも目的の一つであったため、テクト達はヒイロの案内で寝室へと向かう。

 

 そこには短めの黒髪で左右に緑色のメッシュの入った女性がティアラを付けたままベッドから身を起こしていた。

 

 女性―トワはヒイロからテクト達の紹介を受け、恐縮した様子で話し始めた。

 

「ようこそ、遠路はるばる。すみません、このような格好で」

 

 そこまで話したところでトワは咳き込み始め、それを心配したヒイロは早く本題に入ることにした。

 

「リムル殿とテクト殿であれば、トワ様の治療もできるかもしれません」

 

「いきなりやってきた魔物を信じろって言っても無理かも知れないけど」

 

「信じます」

 

 ひとまずは話をして徐々に信用を勝ち取ろうと話し始めたリムルを遮り、トワは信用を口にする。

 

「ヒイロが連れてきた方を疑うわけがありません」

 

 断固とした物言いにテクトは目を瞬かせたが、トワの言葉に何の動揺もないことを見て取り、微笑むと、トワへと歩を進めた。

 

「なら、体調について、少し調べさせて頂く。後、そのティアラも手にとってみても構わないだろうか」

 

「何を」

 

「ええ、どうぞ」

 

 テクトの言葉にチクアンが反応したが、トワが許可を出したことで歯噛みしながらも引き下がった。

 

 テクトは外されたティアラを受け取ると、「解析鑑定」を行使する。

 

 結論からいって、トワを蝕む呪毒の解除は不可能。呪いをかけた術者―ティアラを授けた者以外には解除できないようになっていた。

 

 また、ティアラからの呪毒を抑えることも不可能で、不公平な押し付けられた契約ではなく双方同意の上で公正に取り交わされた契約だった。

 

 ほころびを突いて契約を崩せれば呪毒の解除もできるかというテクトの考えは瓦解した。

 

 だが、ティアラの使用をしなければ呪毒は本人の生命力でゆっくりと無力化できる。しかし、その生命力の回復が著しく遅れているらしく、これが病床に付す事になった原因と推測された。

 

 そのため、シラヌイから対症療法が推奨され、アピトの集めた蜂蜜を滋養強壮薬として摂取させることになり、在庫のないテクトに代わってリムルが確保していたものを提供することになった。

 

 普段は甘味として消費しているだけの蜂蜜だが、万能薬としての側面があったらしく、その効能によりトワの顔色が明らかに良くなった。

 

 早くも現れた効果にヒイロが驚くのを諌めるようにテクトが口を開く。

 

「呪毒の解除は不可能だから、蜂蜜で栄養を補いつつティアラを使わずに安静にしておけば、そう日もかからず体調も良くなるだろう」

 

「本当か!?」

 

 テクトの診断結果にヒイロが思わず声をあげる。

 

 だが、トワの顔色は晴れず、それを見たテクトは苦笑して続ける。

 

「ああ。と言っても、そんな事は不可能だろうし、次は原因究明とその対策だな」

 

 テクトの診断に安堵していた者達が不思議そうにする中、言葉を発した当の本人は得意げな表情で外へと繰り出した。

 

 

 

「鉱毒と言っても色々と種類はあるけど、俺達の世界でも対策法は色々と立てられてきた。全部が全部通じるということはないだろうが、汚染の進行の緩和にはなるだろうし、汚染されている箇所の対処はできるからな。そのあたりも含めて後でレクチャーをするよ」

 

 そう嘯くテクト達がヒイロと体の調子を考えランガに乗ったトワの案内で辿り着いたのは草木の枯れ果てた湖だった。

 

 水は明らかに良くない色に濁り、時折正体不明の泡が弾けている。

 

 テクトは知識のない者達にどう伝えるのがよいのかと考えながら手を水に差し入れ、目を見開いた。

 

「こいつは」

 

 憂慮すべき事案ではあるが、他国の領土のこと、その上その地の特性上置きていることであるならば、何から何まで個人の能力で解決するのではなく本人たちに解決の術を学ばせるべきと考えていたテクトだったが、湖の水を調べて考えが変わる。

 

 急に顔色を変えたテクトにヒイロとトワが疑問を投げかける間もなく、テクトの視線がリムルを射抜いた。

 

 急に視線を向けられたリムルは首を傾げながらも、テクトへと歩み寄る。

 

「何かおかしなことでもあったのか?」

 

「おかしいなんてもんじゃない。まぁ、とりあえず見てみてよ」

 

 そう言ってテクトが汲み上げた水をリムルも解析し、目を見開いた。

 

 湖に満ちていた毒は自然的に生み出される組成ではなかったのである。

 

 つまり、ラージャを苦しめていたのは鉱毒ではなく別のなにかであり、何者かの思惑によって被害を受けていたのである。

 

 となれば、技術がどうこうという話ではなく、この場で解決すれば済む問題である。

 

 そんな訳で、早速魔王二柱の「解析鑑定」が唸りをあげる。

 

 テクトの糸が湖の数カ所からサンプルを採取し、毒素の濃度からどこが毒の発生原因かを調べていく。

 

 そうして場所を特定し、魔王二柱の視線が湖の中心へ集まると、その先までの道ができ始めた。

 

 水が左右へと割れていき、水底が現れ一本の道ができる。

 

 その終着点には大規模な祭壇が設置されていた。

 

 祭壇の中央には立体的な魔法陣が描かれており、トワにも伝わっていなかったそれが何かしらの悪影響をラージャへともたらしていた事は明らかだった。

 

 テクトは道の維持のためその場に残り、リムルが魔法陣へと歩いていく。

 

 改めて解析鑑定したことでこの魔法陣が湖に撒かれていた毒素の発生源だと断定され、リムルが祭壇ごと「捕食」したことで消え失せた。

 

 すでに毒に侵されていた水もリムルが「捕食」して毒を抜き取って戻したことで浄化を行い、湖は清水をたたえた完全な姿を取り戻した。

 

 この事はすぐに報告され、問題の解決を祝う宴が始まった。

 

 参加した国民全てが笑顔で宴を楽しみ、夜も更けていった。

 


 

次回「今どき流行らんぞ、自爆特攻など」




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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

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