転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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5話:人間との邂逅

 リグルからの報告を受けて、テクトが「操糸人形(ホワイトドール)」に切り替えた後。

 

 二人で人間たちを視認できる位置までたどり着くと、ちょうど仮面をつけた人間がジャイアントアントの頭部に剣を突き刺し絶命の確認をしていた。

 

 周囲には炎を纏った死骸が並んでおり、ほかの人間が呆然としている様子から仮面の人間が一人で行ったものだと考えられた。

 

「すごいな。炎と剣を扱うのか。下手に敵対したら焼かれてしまうかもしれんな」

 

「とりあえず私が話しかけるから、リムルはおとなしく…………ってまずい!」

 

 仮面の人間の背後に転がっていたジャイアントアントが動き出し、強襲しようとしていた。

 

≪告。個体名「テクト・テンペスト」からユニークスキル「捕獲者(トラエルモノ)」の使用許可を確認しました。許可しますか? 「Yes/No」≫

 

「え? なんだ急に」

 

『あの人危ないかもしれない! 助けないと! 「捕獲者」で飛ばすから早く!』

 

 リムルへと「大賢者」を通じて確認が入る。思考加速まで乗せたテクトの剣幕に押され、リムルが許可を出すと、テクトの手の中からリムルが消え、直後に空間がひずんでそこからリムルが発射された。

 

『いっけー! 「投てき」リムル砲!』

 

「くらえ! 「黒稲妻」!」

 

 予想外の方法で飛ばされるリムルだが、すぐに状況を把握するとスキルによってジャイアントアントを始末した。

 

「「「スライム?」」」

 

「スライムで悪いか?」

 

「いや、悪いってわけじゃ」

 

「よかった。間に合って」

 

「人間⁉ こんなところに⁉」

 

「これ、お姉さんのだろ。大丈夫だったか?」

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「ひとまず済んだみたいだし、事情も聴きたいからついてきなよ。荷物もなくしてるみたいだから、用意できるものは用意してもいいし」

 

 仮面の人間を見つめるリムルをよそに、生き残りがいないことを確認したテクトは人間たちを建設中の街へと案内することにした。

 

 

 

 

 

 

 街についたテクトとリムルはリグルドに人間たちの要望を聞いてやるように指示をだし、警備隊に接触。今回来た人間に関しては警戒が必要のないことと報告への感謝を伝え、感涙する警備隊をなだめてから、リグルドと合流した。

 

「彼らは今何してる?」

 

「はい。腹ペコだというので食事を「それ! 俺の肉だぞ!」「そのお肉私が育ててたんですけど⁉」「食事に関しては譲るわけには行かないんでやすよ!」「……」」

 

 リグルドの声は天幕の中から聞こえてきた叫びにかき消されたが、テクトとリムルは指示通りもてなせていることに安堵した。

 

 リグルに促され天幕に入ると食事の最中だった。素顔の三人は必死の形相で肉を頬張るが仮面の女性は仮面をつけたまま食べていた。

 

「お客人。大したもてなしもできずすまない。改めて紹介しよう我らが主。リムル様とテクト様である」

 

「スライムと人間がゴブリンたちの主をやってるとは」

 

「私は人間ではないけどね」

 

「え? そう何ですか?」

 

「こう見えても蜘蛛なんだよ。人間っぽい見た目なのはスキルのおかげでね(仮面の人以外はどこかで見たような)」

 

≪解。洞窟を脱出する直前にすれ違った人間です≫

 

「(ひとまずここは警戒心を解いておくか…………)はじめまして。僕はスライムのリムル。悪いスライムじゃないよ」

 

 このセリフの意味を三人組は理解できなかったらしく首をかしげていたが、シズだけは噴き出していた。

 

(俺のネタが通じた?)

 

(多分、日本人だよね。正座してるし。というか、仮面の裏大丈夫かな)

 

 リムルのセリフの意味が伝わったらしい仮面の人間が信用できるといったことで三人組も警戒を解いた様で、礼を口にし、テクト達の質問にもあっさりと答えた。

 

 人間たちは一度すれ違った三人組がカバル、エレン、ギドといい、仮面の人間はシズと名乗った。

 

 三人組の目的はブルムンド王国のギルドマスター:ヒューズからの依頼で、ヴェルドラ消失におけるジュラの森の変化の調査を、シズは単純に目的地の方向が一致したため、マージン確保にパーティーを組んでいたらしい。

 

 リムルは自分たちが街を建設していることでギルドの反応があるのかを彼らに聞いたが、ギルドからすれば大した問題にはならないとのことだった。国に関しては分からないようで聞けなかったが、リムルはひとまず安心することができたのだった。

 

 

 

 その後、カバル達への食料等の融通をリグルドに任せ、テクトとリムルはシズのもとを訪れていた。

 

「少し、いいですか?」

 

「聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

 

「スライムさん。さっきのはゲームのセリフなんでしょ?」

 

「やっぱり……日本から来たんですね」

 

「私はやったことないんだけどね」

 

 テクト達はシズから話を聞いた。

 

 シズが召喚者であること。先ほどのセリフについてはほかの日本人に教えてもらったこと。召喚されたときは戦時下だったこと。召喚の間際に母を亡くしていること。

 

「それならいいものを見せてやるよ」

 

 いうが早いかリムルが思念伝達を使い、シズが召喚された後の日本の様子を見せようとする。一度悟のパソコンの中身が上映されかけ、テクトからジト目を向けられるというハプニングはあったものの、目覚ましい発展をしていく映像の中の日本にシズは感動していたようだった。

 

「うぐっ、くぅ」

 

「シズさん⁉ 大丈夫?」

 

「ええ、多分」

 

 リムルによる日本の情景はシズが苦しみ始めたことによって中断された。

 

 心配はあったが、いったんは収まったのか平気そうな顔をして仮面を被り直すシズに、テクト達は何も言えなくなった。それからほどなくしてカイジンに呼ばれシズを残してその場を後にすることとなったが、わずかばかりの不安が残ることとなった。

 

「それにしても、カイジンの「お邪魔だった」ってのはどういう意味なのさ」

 

「ん? ああ、それはな「ストーップ!! 言わなくていいから!」

 

 

 

 翌日。日が昇り、身支度や荷物の用意が済んだカバル達は出発することになっていた。

 

「しかし、本当にいいんでやすかい? 着替えに食料、回復薬なんてものまで」

 

「いいんだよ。三人がギルドマスターに報告するんでしょ? 報告できなかった結果、次に来る人間が「魔物は絶対に許さない」みたいな思考で私たちの悪評なんて広めたら大変だからね。先行投資ってやつだよ」

 

「しっかし、女は準備に時間がかかるよな」

 

「まあまあ、気を使いたいことも多いんだよ。きっと」

 

 恐縮するギドを納得させ、文句を言うカバルをなだめ、シズとエレンを待っていると二人がこちらに向かってきた。これで出発できると安堵していたカバルだったが、シズが急に苦しみだしたことで事態は急変する。

 

 シズの体から炎が立ち上り、発生した上昇気流による暗雲が周囲に立ち込めていく。熱風がその場にいた全員をあおり、その場に押し倒した。

 

「くそっ、危険手当上乗せしてもらわないと割に合わねぇぜ」

 

「だから、それはヒューズの旦那にいうでやすよ」

 

 軽口をたたきながら構えるカバル達だったが、シズの発する炎と「シズ」という名前から、彼女の本名が「シズエ・イザワ」―またの名を「爆炎の支配者」と呼ばれる英雄であることを看破した。

 

「リグルド、リグル、みんなを避難させろ」

 

「家はまた建てればいいけど、死んでしまったらそれまでだからね。さぁ、早く」

 

 リグルド達に命令し、住民の避難にあたらせる。シズの体が炎に包まれ、その中から炎の精霊である「イフリート」が現れた。イフリートは一度吠えるとサラマンダーを三体召喚し、周囲に火を放ち始める。

 

「チックショー。せっかく作ったってのに」

 

「(シズさん。泣いていた。彼らを矢面に立たせないほうがいいかもしれないな)三人とも下がって。私たちで止めるから」

 

「そういうわけにいくかよ! あの人がなんで殺気をむき出しにしてるのかわかんねぇけど」

 

「俺たちの仲間でやす」

 

「ほっとけないわ」

 

「…………わかったよ。「救済者(スクウモノ)」!」

 

 テクトの宣言とともにカバル達の体が一度輝く。困惑する彼らに回復系のスキルの効果であることを説明し、向き直らせる。

 

「お前、目的はなんだ」

 

 リムルの問いかけに帰ってきたのは火球の一撃。それをかわして「水刃」を放つも命中の直前で蒸発してしまった。こちらの打つ手が少ないことを見てか、イフリートは動かず、サラマンダーが動き出した。そのうちの一体にエレンが魔法を当て、注意をひく、そのまま彼らが一体受け持つこととなった。

 

「なら、あとは私とリムルで一体ずつかな」

 

「ああ、来るぞ」

 

 テクトはアーマースパイダーに「身体変成」、リムルはランガを呼び出し回避を始める。

 

「大量に水をぶっかければあいつら倒せないか?」

 

『バカ、水刃が蒸発したの見てただろ⁉ 同じように蒸発したら水蒸気爆発でここら一帯吹き飛んじゃうよ⁉』

 

 物理的な手段が取れないことを理解し、歯噛みするリムルだったが、エレンが魔法によってダメージを与えていたことから精霊に対して魔法が有効であると知り、エレンの魔法を捕食することで攻撃手段を整えた。

 

(あれ? 私って魔法を使えたっけ?)

 

≪解。魔法の使用は可能です。現在使用可能な魔法は「外道魔法/影魔法/闇魔法/暗黒魔法/深淵魔法/空間魔法/毒魔法/治療魔法/風魔法/土魔法/大地魔法/光魔法」です≫

 

『(相変わらず多いな。よし、ならこれだ)深淵魔法! 地獄門!』

 

「くらえ! 水氷大魔散弾(アイシクルショット)

 

 テクトの放った魔法により空中に門が出現し、サラマンダーが飲み込まれていく。一瞬で決着がつき、サラマンダーが完全に消滅した。そして、放った本人は完全に引いていた。すぐに思いつくことのできた魔法がこの魔法だったために発動したのだが、結果がえぐすぎた。

 

 リムルも魔法によってサラマンダーを撃破し、最後の一体に目を向けると、カバル達に近づき自爆。カバルの張っていた結界は破られ三人まとめて吹き飛ばされた。

 

『カバル、エレン、ギド、無事?』

 

「これが無事に見えるなら大抵の重傷者は無事な扱いになるっての! ってあれ?」

 

『無事だね』

 

 思わず叫んだカバルだが、叫べたことに驚いた。結界が破られ吹き飛ばされたはずなのにあり得ないほどに大きな声が出たからだ。

 

『「救済者」もこうしてみるとチート感甚だしいな。もうほとんど治ってるなんて。リムル、カバル達は私が守ってるから、イフリートをお願い! 私の魔法だとシズさんが危ないみたいだから』

 

「了解だ。任せろ!」

 

 深淵魔法は魂に干渉するためイフリートを超えてシズへの影響を与えてしまうため使用ができず、外道魔法は精神に干渉してしまうため同じく使用できなかった。そのためリムルに任せるしかなかったのだ。

 

 イフリートが分身体を使い、リムルを取り囲む。包囲された状態から脱するためリムルは全方向に水氷大魔散弾を放つことを選択し、ランガは邪魔にならないように影の中へと入っていく。分身体を殲滅したリムルに待っていたのは本体であるイフリートの炎化爆獄陣(フレアサークル)だった。しかし、熱変動耐性により炎が効かないリムルには意味をなさず、イフリートは捕食され、あとにはシズだけが残された。

 

 

 イフリートが捕食されてから一週間が過ぎた。その間シズは目を覚ますことはなく、リムルのポーションもテクトの「救済者」も大した効果をなすことはなかった。

 

(まるで結末は変えられないといわれている気分だ)

 

 テクトはシズの着替えをのせて天幕へと向かっていた。

 

「救済者」の長時間発動によって魔素を消費しつくしていたテクトだったが、臥せっているシズのそばにいればスキルを使い続けてしまうため、魔素を使い切る前に多少でも回復できるようリムルに使いに出されたのだった。

 

 ここまででも時折休息は入れて魔素切れは防いでいたが、リムルが止めなければじきにスリープモードへ移行していただろう。

 

「テクトさん、それシズさんの着替えか?」

 

『うん。スキルの持続が怪しくなってきたからね。休憩がてら取りに行ってたんだ。覗いちゃだめだよ』

 

「覗かねぇよ⁉」

 

 天幕のそばでカバル達と合流し、空元気のままに軽口をたたきながら天幕に入る。テクト達が目にしたのは臥せったシズとそばに待機するリムル…………ではなく、透き通るような髪色をしたシズに似た姿をとったリムルだった。

 

「そっか。シズさん、逝っちまったのか」

 

「悪いな。仲間のお前たちに何も相談もなく」

 

 リムルがシズを捕食したことを話し、一人で決めてしまったことを詫びる。別れを告げることができなかったことでどこかやりきれない気分だったようだが、シズが三人との旅を楽しんでいたことを告げると、旅の途中であったことで口論をはじめ、騒がしくなり始めた。

 

「(こいつら、シズさんに頼りすぎだろ。この先大丈夫なのか?)悪かったな、テクト。シズさんが目覚めたときに呼んでやればよかった」

 

『いや、いいよ。最期の時にいられなかったのは思うところはあるけど、話の途中で倒れて心配させたまま逝かせたんじゃ後悔が残るからね。あとで何を話してたのか聞かせてよ』

 

「ああ、もちろんだ。お前のことも心配してたぞ。なんか抱え込んでるみたいだからって」

 

『結局、心配はされちゃってたか…………まあ、気を付けるよ』

 

 そしてシズが亡くなって、翌日。テクトはカバル達の出発に合わせて装備の準備をしているカイジンたちのもとを訪れていた。リムルと話している場に同席しなかったのは気を使ったためだ。

 

「(最後の挨拶にほかのやつが混ざるわけには行かないからね)カイジン、急に言って悪かったね」

 

「気にしないでくれ、テクトの旦那。もともと作っていた試作品を調整しただけで手間もあまりかかってないからな」

 

「旦那はやめてってば。主って訳じゃないんだから」

 

 カイジンたちをねぎらいつつ談笑しているとリムルがカバル達を引き連れてやってきた。彼らは渡された装備にいたく感動し、作成したカイジンたちの名を聞くとさらに驚いた。カイジンたちが他国に伝わるほど高名な鍛冶職人であることを知らなかったリムルたちには別の驚きが発生していた。そうしてひとしきり騒いだ後、彼らは国へと帰っていった。

 

 

 

 

「…………とまあこんな感じだな」

 

 テクトはリムルと情報を共有した。シズの身に何があったのか。召喚されイフリートを憑依させられたこと。友人を殺めてしまったこと。勇者に出会い、救われたこと。人々を助けるために戦い、英雄と呼ばれるようになったこと。イフリートの制御が危うくなり、暴走を恐れて引退し、イングラシア王国でほかの異世界人の指導者になったこと。指導した子供について。最期の旅の目的について。この世界に対する思いについて。

 

「そういえば、会話の流れでお前の名前も教えちゃったな。悪いな、勝手なことして」

 

「いや、いいよ。それぐらい。それよりも、召喚主の名前は?」

 

「魔王レオン・クロムウェル。俺はそいつを一発ぶん殴る。シズさんが存在したんだということを魔王レオンにたたきつけてやる」

 

「私は殴るまではいかなくてもいいかな。異世界人の召喚なんてしてたのか聞いてみたいとは思うけど。まあ、逃げるというなら捕まえるまでだけど」

 

 そうして決意も新たに二人は魔王レオンを目標としてこれからのことを話し合っていった。

 

 彼らを台風の目として世界の動きが加速していくことをまだ知らないままに。

 

 

 


 

 

 次回「動乱の予兆」

 

 

 




感想・評価・お気に入り・誤字報告ありがとうございます。

「不屈者」は作中に登場していたようですね。

スキル名の作成の際は名称をまとめて一覧になっているページがあったのでそれを参考にしました。

変更後は「生にしがみつく」ということで「執着者」(シガミツクモノ)としましたが、これも存在していたら「無不知」のような意味不明なスキル名を作るかスキルの削除を行おうと思います。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

  • 書くべき
  • 書かなくてもいい
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