転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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以前より塩試合とか言ってはいましたが、今回で紅蓮の絆編は終了となります。

寄り道にお付き合い頂きありがとうございました。


56話:今どき流行らんぞ、自爆特攻など

 ラージャにもたらされていた悪意を取り除き、一晩中続いた宴も終わり、昼頃。

 

 テクト達は魔国連邦へと帰ってきていた。

 

 丸一日開けたことで溜まった決済を片付ける傍らテクトとリムルは雑談に興じていた。

 

「そういえばテクト、あのティアラに何か気になることでもあったのか?」

 

「呪毒の発生する契約の内容がわかれば、それを破棄させてティアラを無害化できるんじゃないかと思ったんだけどね。随分と高位の術者が初代女王と双方同意の上で交わした契約みたいでさ。きっちり整っていてつつける程の脆弱性はなかったんだよ。少しでも隙があればそこを起点にできたんだけど、初代女王の自己犠牲の精神は凄まじいね」

 

 テクトは目論見が上手くいかなかったことに悔しそうにすると、書類の一つに目を留め、風に乗せてリムルの下へと飛ばす。

 

 リムルがそれを確認し、否決となった書類をまとめている箱へ放り込むのを確認し、テクトは雑談を再開する。

 

「リムルはトワさんとはなにを話してたの? 宴の間に訪ねてたみたいだけど」

 

「仲間と自然体で接する俺等のことが羨ましいってさ。ヒイロを助けたのも打算ありきなんじゃないかって思い詰めてたよ」

 

「国家元首たるもの、多少は打算があってもいいと思うけどね。全く腹芸ができなくて怒られる奴もいるぐらいだし」

 

「そりゃ誰のことを言ってんだ?」

 

「さあねぇ〜」

 

 目を細めるリムルにテクトは軽く返し、書類に判を押すと傍らの箱へと仕分けていく。リムルも肩を竦めると書類の裁決へと戻るのだった。

 

 

 

 数日後。

 

 ラージャが窮状を脱する算段がついたことで時間ができ、大鬼族(オーガ)の里へ自らを犠牲に助けてくれた同胞を弔いにいったヒイロとそれについて行ったベニマルを見送り、テクトとリムルは帰還したディアブロから報告を受けていた。

 

「お前らさあ、一々帰ってこなくても、「思念伝達」で報告してくれていいんだぞ?」

 

「テスタロッサもいるし、状況が逼迫することもないとは思うけどさ、面倒じゃない?」

 

「なにをおっしゃいます。このディアブロ、お側に駆けつけることなど手間でもなんでもございません」

 

 そう、二人の言うように、ディアブロとテスタロッサは数日置きに魔国連邦へと報告に帰っていた。

 

 交互に帰って来る悪魔達は経過報告を実に詳細に語り、少しでも魔国連邦へ留まる時間を創ると名残惜しそうにファルムスへと送り出されるのだが、今回はその報告は途中で遮られた。

 

 割って入ったのは開墾と農業の技術支援に遣わせていたトレイニーであり、内容はトワが倒れ、それと同時に隣国が戦争の準備を始めたというものだった。

 

 原因は突如として湖が瘴気を発するほどに汚染され、その浄化にティアラの魔力を使用したことだという。

 

「どういうことだ? まさか他にも毒素を出してる魔法陣があったのか?」

 

「ないでしょ。俺達が全力で解析してそれでも発見できなかったんだ。失われた技術(ロストテクノロジー)で隠された魔法陣があったとしても、俺達を誤魔化すほど巧妙に隠してあるのにこんなすぐにボロが出るような出力のハズがない」

 

「毒を放出していた魔法陣、ですか」

 

 呟いたのはディアブロ。

 

 魔国連邦に直接関わらないすでに処理済みの内容に興味を示したディアブロへ説明するかわずかに迷ったテクトだったが、彼が古い悪魔であったことを思い出し、湖の底に敷設されていた魔法陣が随分と古いものであったため智慧を借りられないか見せてみることにした。

 

「ああ、こんな感じの奴だ」

 

 テクトは糸で立体的だった魔法陣を再現すると、起動していた当時のように闇色に明滅させる。

 

 それを見たディアブロの視線が鋭くなるのを見て、テクトもまた目を細めた。

 

「心当たりがあるようだな」

 

「御賢察の通りで御座います」

 

「であれば、テスタロッサには俺から話を通しておく。こいつ(元凶)の対処はお前に任せる。俺達が現地の問題を解決している間に済ませてこい」

 

「承知しました。我が君(マイロード)

 

 テクトの指示を受け、ディアブロは恭しく一礼するとその場から消える。

 

 テクトはそれを見届けるとソウエイに戦争が起ころうとしている理由を探るように命じ、幹部の召集を決定した。

 

 

 

 急いでラージャへと帰るヒイロを見送ったベニマルも戻り、会議室。

 

 緊張感はありつつもいつもの構図で席につくとテクトが口を開く。

 

「少なくとも、チクアンは黒と見ていいだろうな」

 

「ああ、真面目に治療しようとしていればトワさんの体調はもっと良くなっていて然るべきだ。ものすごいヤブ医者って可能性もあるが」

 

悪魔族(デーモン)だったからてっきり契約して代々仕えるお抱えの医者かと思ってたんだが、あてが外れたな」

 

「チクアンが黒幕ではないかもしれないし、おそらく戦いになると思う。だが、俺達はトワさんを信じてラージャにつこうと思う。みんなの力を貸してくれ! ……あれ?」

 

 リムルの言葉に幹部たちが頷き、各々が準備に動き出す。

 

 テクトの言葉に引っかかりを覚えたリムルだったが、今はそんな状況ではないと置いておくことにした。

 

 準備が進む中、ソウエイから情報が届く。

 

 戦争が起こそうとしている理由だが、ラージャに存在する金鉱脈が目的だという。

 

 実際には鉱脈は枯れて久しい。

 

 それもあってろくにラージャからの輸出がほとんどないのだから気づいてもよさそうな話なのだが、それを信じている隣国の上層部にテクト達は疑問を覚えた。

 

 武装や方針が纏まったのは日が落ちた頃。

 

 隣国に接する街道に主要な戦力を配置し、敵部隊を迎え撃つことになる。ただし、何かしらの意図が感じられるこの戦いではできる限り死者を出さないように言い含められていた。

 

「よし、俺達はトワさんの容態を確認して、可能であれば避難させる。その後はラージャの調査をするから前線にはいかないが、何かあればすぐに連絡するように。行くぞ!」

 

 テクトの声とともに転送が始まり、全員がラージャへと送られる。

 

 その先ではトワが行方不明になっていた。

 

 さらにはヒイロの居所も掴めておらず、兵士には動揺している者も入るという。

 

「大臣、兵士はどれぐらいいる?」

 

「二千人程ですが……」

 

「なら、すぐにかき集めて住民を避難させてくれ。戦闘はこちらで請け負う。トワ殿とヒイロ殿もすぐに連れて来るさ」

 

 テクトの声には「畏怖」の効果が乗っており、これまでの経緯もあって軽く「魅了」された大臣達はあっさりとテクトの指示にしたがって動き出した。

 

 実に効率よく話を進めるテクトに苦笑いする仲間を他所に、テクとは目を閉じトワを探す。

 

 行使するのは「叡智之神(オーディン)」の権能の一つ「万象捕捉」。

 

 これによりトワとヒイロ達の位置を把握すると、「狡知之神(ロキ)」の「完全隠蔽」を掛けつつ再び転送術式を発動した。

 

「テクト、なんで隠蔽を?」

 

「連れ出したのが黒幕だったらトワさんを人質に取られるかもしれないだろ? なら、こっそり行って取り返す準備をしたほうがいい」

 

 リムル達はテクトの言葉に納得すると各々妖気を抑え、それを確認したテクトは転送術式を発動した。

 

 

 

 ヒイロは見知った商人であるラキュアの先導に従い、地下の広間に辿り着くと、誂えられていたかのような祭壇へトワを横たえる。

 

 彼らがこの場所に来たのはある儀式を行うため。

 

 それは魂を別人の身体へ移し替えるというもので、今回でいえばトワの魂をヒイロの身体に移すことになる。一つの器に複数の魂は受け入れられないとのことで新たにトワの魂が入ればヒイロの魂は消滅してしまうそうだが、トワを呪毒による苦しみから解放すべくヒイロは迷いなく実行しようとしていた。

 

 ラキュアの言う準備が整い、後は始めるだけとなったタイミングでトワが目覚める。いつの間にか寝室から移動していたことに驚き周囲を見渡すトワはラキュアから儀式の概要を伝えられると、目を見開いた。

 

「許しません……私は……絶対……」

 

 涙ぐんだトワは弱った身体を無理に起こそうとするがそれは叶わず、倒れる直前にヒイロが受け止める。

 

 直前のトワの言葉から拒絶の意思があると知り、ヒイロは説得するように語りかける。

 

「気にするな。俺はしたいようにしただけだ」

 

「いけません! あなたの命はあなただけのものではありません!」

 

 ヒイロの言葉にトワは語調を強め譲らない。

 

 弱っているとは思えない語気とその真意を測りかね呆然とするヒイロにトワは言葉を重ねる。

 

「生きるのです……あなたは仲間の分まで……私の分まで……」

 

 そこまで言ったところで気力が尽きたのかトワは再び意識を失った。

 

 ヒイロはトワを抱きしめ、最期の言葉を残す。

 

「その言葉だけで、十分だ」

 

 ヒイロはしばらくトワを抱きしめていたが、意を決して後ろにいるはずのラキュアに声を掛けた。

 

「儀式を始めてくれ……ラキュア?」

 

 準備は整っているはずなのに儀式が始まらないことを訝しみ、ヒイロは振り返る。

 

 しかしそこにラキュアはいなかった。

 

 これまで協力的であったラキュアが突然消えたことに困惑するヒイロだったが、どこからともなく聞こえる拍手に首を巡らせると、拍手は広間の壁からせり出した岩の柱へと腰掛けたラキュアからのものだった。

 

「ブラァボー!! よいですね! とても良い!! 悲しくも美しい光景、素敵です」

 

「なんだ?」

 

 協力者の豹変にヒイロはトワを抱きしめる力を強くする。

 

 そこから滲む警戒を見て取り、ラキュアは立ち上がると被っていた帽子を取り恭しくお辞儀した。

 

「おおっと失礼。あまりによいシーンだったのでおもわず歓声をあげてしまいました」

 

 悪びれる様子もなくおどける姿にヒイロはトワをかばうように自身の後ろへと下げるとラキュアを睨む。

 

 明らかな敵意にラキュアは臆する様子もなく楽しげに話し始める。

 

「いやぁ~、あのクソスライムが私のシナリオを壊したときはヒヤリとしたものです。だがしかぁし、我ながら素晴らしいナイスリカバリー! ハァーたのしー、うれしー。ハハァ。おお、これであのお方も喜んでくれるでしょう」

 

 そう言ってラキュアは手を組み、祈りを捧げるように目を瞑る。明らかにふざけた態度をとるラキュアにヒイロは激昂する。

 

「貴様、何を言っている! 儀式はどうなった!」

 

 ヒイロは刀を手にラキュアへと凄む。しかし当のラキュアは余裕そうな表情を崩さず、嘲るように笑い始めた。

 

「プッふふへへへへはははは、そんなものは存在しませんねぇ~」

 

 トワを救う希望であった儀式が存在しないと言われ、ヒイロが瞠目する。そんな様子がおかしいのかニヤニヤと笑いながらラキュアは話を続ける。

 

「魂を移す秘術? ぐふふふふふ、そんな都合の良い事があるわけッぷぅ──! ぷはっ、はっはっ、ひやははははは」

 

「騙したのか!?」

 

「ハァーおかしい。確かに儀式の前に私が飲ませたのは力の秘宝です。秘術もありますよ。た・だ・し、それはあなたの思うものではありません」

 

 そこで一度話を切ると勿体ぶったようにため続きを話し始める。

 

「それはさらなる試練!! 陛下はきっと全力でティアラの魔力をお使いになることでしょう! そしてそしてぇ、完全に陛下の全身が蝕まれればぁ、降り注ぐでしょう。あのお方の拍手が、ご褒美が、福音のように」

 

「貴様ぁ!!」

 

 嬉しそうに話すラキュアに我慢ならなくなったヒイロが刀を抜き、構える。そのまま突進しようとするヒイロに、ラキュアは歓喜の声を上げる。

 

「ひぃ~〜、そうそう、それです! その怒りが絶望への導火線となるのです!」

 

 ヒイロはわけの分からぬことを叫びながら小躍りするラキュアへ刀を振り上げ突進する。

 

 ラキュアはそれをかわそうともせず、一言唱えた。

 

「弾けろ、紫縛の宝珠(カース・オーブ)。ひえぇあぁ!!」

 

 しかし、何も起こらずそのままヒイロの刀が振り下ろされ、ラキュアは泡を食って転がり避けた。

 

 ギリギリの状況から素早く身をかわしたラキュアにヒイロは舌打ちし、ラキュアは困惑しつつも身構える。そして、再び同様に何かを発動させようとした。

 

「弾けろ、紫縛の宝珠! 弾けろぉ、紫縛の宝珠ゥ!! 何故だ! 何故発動しない!」

 

「カース・オーブってのはこれでいいのか?」

 

 焦るラキュアにヒイロの後方から声が掛けられた。

 

 おもわずヒイロも振り向くと、トワのとなりにテクトが座っていた。

 

 その手の中では禍々しい輝きをたたえた宝玉が弄ばれており、ヒイロの飲み込んだ紫縛の宝珠にほかならなかった。

 

「い、いつの間に!?」

 

「いつって、『ブラァボー!! よいですね! とても良い!! 悲しくも美しい光景、素敵です』とかいい出したあたりからだが?」

 

「な!?」

 

 テクトのよく似たモノマネにラキュアは目を見開く。

 

 「完全隠蔽」によって全く気づかれずに転移したテクト達はちょうど自供を始めたラキュアの話を聞くことにし、テクトはその間にヒイロから紫縛の宝珠を抜き取っていた。

 

 方法としてはヒイロに違和感を与えぬよう「完全隠蔽」を施した糸を口から差し入れて紫縛の宝珠を包み込み「狡知之神」の「虚数保管庫」へと格納し、場も煮詰まってきたので姿を現したのである。

 

 それを聞き、ラキュアは歯ぎしりをしながら帽子を握りつぶした。

 

「ふ、ふざけるなよ、新参の魔王ごときが! さしたる力もない運だけの成り上がりがあのお方の余興を邪魔するなど」

 

「やかましい。お前の事情など知ったことか。にしてもまた悪魔族か……この国、どっかで悪魔族の恨みでも買ったのか?」

 

「テクト殿、またとはどういうことだ?」

 

 騒ぐラキュアを縛り上げ、独りごちるテクトに刀を持ったままのヒイロが問いかける。ヒイロの質問にテクトは目を瞬かせるとトワを見て、彼女の表情も困惑であったことから少し考えてから口を開いた。

 

「そこのラキュアもそうだけど、チクアンも悪魔族なんだよ。最初は代々仕える医者かと思ってたけど、トワさんの反応を見る限り違うみたいだし、この国を陥れようとした一味って感じだな」

 

「そんな……」

 

「チクアンがしっかり治療をしていればトワさんはもっと元気だったはずだよ。前に渡した蜂蜜程でなくても滋養強壮になるものは色々あるし、環境を整えるように働きかける事もできた、そうでしょ?」

 

 テクトの言葉にトワは愕然とし、崩れ落ちる。

 

 信頼していた医者が自らをを苦しめていたのだと知り、体調が悪化していたのもあって気を失ってしまったのだ。

 

 テクトはトワが祭壇から落ちそうになるのを受け止めると改めて横たえ、ラキュアへと歩み寄る。縛られた状況で無理に動こうとしたため仰向けに横たわるラキュアの顔の横にしゃがみ込むと凄惨な笑みを浮かべた。

 

「さて、色々と聞かせて貰おうかな?」

 

「新参の魔王が偉そうに……」

 

「それしか罵倒の表現がないのか? まぁいい、シナリオがどうとか言っていたが、湖の底にあった魔法陣はお前の仕業か?」

 

「あのお方がお前の邪魔立てを知れば、すぐに」

 

 ラキュアは歯ぎしりしながら喚く途中で急に言葉を切る。

 

 どこを見るでもなく視線を固定したラキュアは訝しむテクトを他所に恍惚の表情で話し始める。

 

「おぉ、原初たる神よ! 貴方様の忠実な下僕、ラキュアはここですぞ!」

 

 ラキュアの言葉から主と「思念伝達」を行っているのかと考え、その発信元を探ろうとするが解析は進まず、魂の回廊のようなものを利用していると判断して断念する。

 

「そんな、誤解です。トワに大いに魔力を使わせました。あの女が原初の紫(ヴィオレ)様のものとなるのももう間もなくです!!」

 

 その間にもラキュアの表情は焦りとともにどんどん曇っていった。

 

「あの女が苦しめば苦しむほど、原初の紫様がお喜びになるかと……私はただ、力を得ていつか、いつか貴方様のそばに置いて頂きたいと……」

 

 媚びるように話していたラキュアの表情が絶望に染まったのを見て、テクトは会話の終わりを悟る。

 

 震えるラキュアを見てテクトは頭を抑えていた。

 

「やれやれ、どうやら見捨てられたらしいな。それにしても原初の紫か……ディアブロを送っておいて正解だったな」

 

「ク、クソ……こうなったら、死なば諸共ぉ!!」

 

 言うが早いかラキュアは自分の命を媒介にして魔法を組み上げ始める。

 

破滅の炎(ニュークリアフレイム)で、貴様らごと、この国ごと灰にしてくれるわ!!」

 

 言葉通り、そのまま発動すれば王宮ごと吹き飛ぶ威力の魔法だが、この場にはテクトがいた。

 

「そういうのいいから」

 

 組み上げられた魔法はラキュアとともにあっさりと塵と化し不発に終わる。

 

「よし、完了。一件落着だな」

 

 テクトが一息吐いていると、チクアンを制圧していたリムルから「思念伝達」が入る。

 

『テクト、こっちでチクアンが自爆しようとしたから「暴食之王(ベルゼビュート)」で喰っといた。事情は話そうとしなかったからよくわかんなかったけど、大丈夫だよな?』

 

『ああ、トワさんもヒイロも無事だし問題なし。ラキュアの様子からもアイツラの主も報復に出るつもりはないみたいだし、後はトワさんの体調ぐらいだけど、おっ』

 

 そう言ってテクトがトワへと視線を移すと、ティアラにヒビが入り始めていた。

 

 ヒビが深くなるに連れトワの身体から呪毒が消えていき、完全に消えた瞬間、ティアラが砕け散った。

 

『元凶の方もなんとかなったみたいだ。ティアラは崩壊して呪毒も消え去った。しばらくしたら目を覚ますと思うから、寝室まで送るよ』

 

『了解。後でな』

 

「『うん』ヒイロ、ティアラといっしょに呪毒もなくなったみたいだし、上まで戻ろう。石の上じゃ休まらないからね」

 

「は、はいっ」

 

 声を掛けられたことでテクトが破滅の炎をあっさりと鎮圧した事実に呆然としていたヒイロが正気に戻り、慌ててトワを横抱きにする。

 

 歩いて帰ろうとするヒイロとともにトワの寝室まで転移し、再び呆気にとられるヒイロを他所に、テクトは戦場に意識を向け始めた。

 

『傾注!! こちらの問題は解決した。これより悪魔族を殲滅する。今から送る情報に該当する者を確実に始末しろ。ラージャに蔓延っていた連中の手先だ』

 

 テクトの指示に各方面に散っていた者たちが即応し、あっという間に確認していた反応が消失する。

 

 扇動していた悪魔族の扮する指揮官を失ったことで何も知らない兵士達は三々五々に散っていき、それらの兵士達は見逃すことにした。

 

「『状況終了。皆、ご苦労様』お前もな、ディアブロ」

 

「いえ、造作もないことです」

 

 戦闘が終わったことで労うテクトに答えるようにディアブロが現れる。

 

 突如現れたディアブロに驚くヒイロだったが身体をはねさせた際に感じた重みにトワの存在を思い出し、ゆっくりとベッドへ寝かせる。

 

 トワが休めるようテクトはディアブロを伴って部屋を後にし、リムル達と合流すると今後のことについて話し始めた。

 

 

 

 翌日―トワの寝室にて。

 

 呪毒に苛まれることなくゆっくりと休んだことで体調も快方に向かっているトワや大臣達とテクト達は対面していた。

 

 会談ではあるが堅苦しいものはなしということでかっちりとした正装ではないものの、身だしなみはしっかりしている。

 

 唯一ディアブロの髪が乱れていたが、これは昨夜、原初相手の交渉を済ませたことを謙遜するディアブロの頭をテクトは撫で回した跡であり、場にそぐわないはずなのだが当人は誇らしげにしていた。

 

「この度はお力添え頂き本当にありがとう御座います」

 

「いやいや、俺達もやりたいことをやっただけだし、持ちつ持たれつってだけですよ」

 

「こちらが持たれているだけのような気もしますが……」

 

 大臣の礼にリムルが軽く返し、モブジが難しい顔で困ったように呟く。実際にラージャからは返せるものはないのにティアラにまつわる事件の完全解決や技術支援など様々な恩恵を受けており、重苦しい雰囲気がラージャ側に募っていく。

 

 それを吹き飛ばすように声をあげたのはテクトだった。

 

「そこなんだが、こっちからも持たれてみようと思ってな」

 

「といいますと?」

 

 テクトの言葉に何が何やらという表情の面々の前に、テクトは石を取り出し見せ始める。取り出したのが一見何の変哲もない石であったため困惑する者たちへテクトが説明を始める。

 

「これは鉄鉱石だ。ラキュアがことを起こそうとした石室近くの坑道から少し進んだあたりに鉱脈があった。魔国連邦は今考えてる事業で鉄が大量に必要になる予定でな。ラージャ小亜国でそこを採掘して魔国連邦へ輸出してもらいたい」

 

 テクトの提案にラージャの者たちが息を呑む。

 

 交渉の内容だけを見れば不足する資源のに関する交渉というだけである。

 

 しかし、実際には困窮するラージャへの体の良い資金援助であり、今回の援軍も合わせればラージャ小亜国がジュラ=テンペスト連邦国の庇護を受けているに等しいと周囲に認識されることになるだろう。

 

 そうなれば今回のように何かしらの扇動があっても簡単に攻め込まれることもなく、国防の基盤を作る期間は十分に稼げる。

 

 そんな話を断る理由もなくラージャ側からの承認を得て、交渉はすんなりと纏まった。

 

 ラージャでやることも円満に解決し、後は帰って日常へ戻るだけ

 

 とはならなかった。

 

「なんじゃこりゃー!!」

 

 転送術式によって魔国連邦に戻った瞬間、テクト達を出迎えたのは衝撃波とそれによって破壊される町並みだった。

 

 上空には拳を合わせたヴェルドラとミリム。

 

 叫び声を聞き、ゆっくりと振り返った二人が見たのは、笑顔でこめかみに青筋を浮かべたテクトだった。

 

「正座」

 

「いや、テクト、ここは外」

 

「正座」

 

「ハイ」

 

 テクトは有無を言わさず二人を正座させ、ディアブロが無言で用意した豪奢な椅子に足を組んで腰掛けると事情の説明をゆっくりとさせる。

 

 寄り道をさせたため時間はかかったが、結論は遊びに来たが誰もいなかったため魔王達の宴(ワルプルギス)の時のように()()遊んでいたのだという。

 

 規格外二人の軽くがどれほどのものか理解していたリグルドやリグルは止めようとしたものの、一応気を遣ったヴェルドラの結界に阻まれた余波だけで吹き飛ばされ、阻止は叶わなかった。

 

「申し訳ありません」

 

「いや、止めようとしただけで十分だ」

 

 恐縮するリグルド達を慰め、テクトは深いため息を吐く。

 

 あまりに長く深いため息にヴェルドラとミリムが肩をはねさせるのを睥睨しつつ、テクトは裁定を下す。

 

「ヴェルドラ、当分おやつは抜きだ。あと、漫画も没収な」

 

「そんな殺生な、っぐおぉぉおぉぉ!?」

 

 ヴェルドラの楽しみを一気に奪い去る仕置に思わず立ち上がろうとしたヴェルドラが苦痛にうめきながら崩れ落ちる。

 

 事情の説明をさせている間にテクトがゆっくりと「神域眼」による重圧を掛けていき、強烈な足のしびれを誘発した結果である。

 

 もがくヴェルドラにも冷めた視線を送り続けるテクトの様子にミリムが顔を青ざめさせる中、裁決は別の方向から現れた。

 

「ミリム?」

 

 底冷えするような声とともにミリムの頭が鷲掴みにされる。

 

 鷲掴みにしたのはフレイであり、その視線もテクトに負けず劣らずの冷え込みぶりであった。

 

「帰るわよ?」

 

「ハイ」

 

 ミリムはそのままフレイに引きずられて連行されていった。

 

 その後ミリムはフレイを通じてお出かけの中止が通告され、その日程から勉強をサボるつもりであった事がバレてより大量の課題に追われることになる。

 

 一方のテクトは回復して泣き言を喚く駄竜と復旧のため増えた仕事に追われ、リムルとともに深いため息を吐くことになるのだった。

 


 

次回「法皇両翼合同会議」




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