転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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今回で随分前(9話)から存在していたやらかしが起爆したりします。


61話:和解と宴

 突如巨大な門から現れたルミナスに事態が飲み込めぬ者達をよそに、七曜が青ざめた様子で跪く。

 

 七曜が跪く姿に混乱する聖騎士達にルミナスに続いて現れたルイが声をあげた。

 

「控えよ。余は法皇ルイである。そして、こちらにおわす御方こそ、我等が神―ルミナス様で在らせられるぞ!」

 

 それを聞き、聖騎士達が一斉に跪く。

 

 魔王が神を名乗っているという事実にドン引きしつつも、リムルは神を前に跪こうとするヒナタから血反吐を吐くテクトを受け取った。

 

 ようやく処置ができると早速「暴食之王(ベルゼビュート)」で剣の欠片を取り除こうとすると、リムルへと歩み寄ったルミナスがテクトの胸の穴へと手を翳した。

 

「リザレクション!」

 

 発動したのは神の奇跡:死者蘇生(リザレクション)

 

 魔王が神の奇跡を操ったことに驚愕するリムルの前で、テクトの胸の穴がふさがり、身体の各所から再生し盛り上がった肉に押し出されて剣の欠片が落ちていく。

 

 智慧之王がその光景を元に“神の奇跡”が霊子を効率的に運用する魔法である事を看破し、解析を始める。

 

 そうこうしている内にテクトの傷は塞がったが、テクトは目を開けなかった。

 

《告。呼称名:テクトの保有魔素量が低下しています。「代償補完」による消耗が原因と見られます。間もなく低位活動状態(スリープモード)へと移行する見込みです》

 

 それを聞きリムルが慌てる。

 

 低位活動状態に陥ると三日は起きないのはこれまでの経験上確実だ。普段であればさほど問題はないが、この後西方正教会と会談を行う可能性のある現状、会議等をテクトに頼ることの多いリムルからするとテクト不在の会談は不安が大きかった。

 

智慧之王(ラファエル)、なにか解決策はないか⁉)

 

《告。直接接触による魔素の譲渡を提案します》

 

 リムルの要望に智慧之王が即座に回答する。

 

 普段であれば接触せずとも魔素の譲渡はできるが、リムルの消耗も激しいため、効率の悪い方法だとリムルが低位活動状態に陥る可能性があるという。

 

 この場で魔国連邦の国家元首たるリムルが意識を失うのはテクトの低位活動状態以上にありえないので、リムルも同意した。

 

(よし、なら早速やるぞ)

 

 が、智慧之王の指示に硬直する。

 

《了。では、呼称名:テクトの口唇に接触して下さい》

 

 智慧之王曰く、粘膜に接触するのが最も効率よく魔素の譲渡ができ、むしろそれ以外の方法だとテクトが低位活動状態にならずに済む程度まで回復させることは出来ないという。

 

(口唇って要するに唇だろ!? それはなんか、こう、駄目だろ!)

 

 リムルは抗議するが、智慧之王は聞き流し、埒が明かないと感じたリムルはテクトへと視線を移す。

 

(やるしかないのか? 唇()触れるって……それは……)

 

 リムルのスライム細胞由来のつややかな肌にも引けを取らない滑らかな肌に絹糸のような髪。

 

 形の良い眉に智慧之王()接触するよう言われた薄い唇。

 

 女性と言っても通りそうな美貌が、魔素不足で崩れた隠蔽から漏れ出した「魔神畏怖」による魅了によって、より強調されていた。

 

 リムルが眠りに落ちようとするテクトをしばし呆然と見ていると、口に手を当て全く動かないリムルには打つ手なしと考えたのかルミナスが動いた。

 

「……ヒナタを助けられた恩もあるが、此奴には聞きたいことがある。寝かせるわけにはいかぬか」

 

 そう言うとルミナスはテクトの頭を起こすと、そのまま口付けた。

 

 その光景を見た全員が絶句し瞠目する。

 

 沈黙の中で僅かに啜るような水音が響くとルミナスが唇を離し、テクトとの間に銀の橋を作る。

 

 それがプツリと切れると共にテクトが目を開けた。

 

「ッ⁉ ガフッゴホッ⁉」

 

 テクトはルミナスを視界に収め、今しがたの行為を思い返してなにか言おうとしたものの、喉に詰まっていた血反吐が吐き出され、言葉にならなかった。

 

「案ずるな愛の接吻(ラブエナジー)じゃ。妾の生命力を少し分けただけよ。お主には聞きたいことがあるのでな。もっとも、その後のことまで許すつもりはなかったがな」

 

「サービス良いねぇ。魔王だけど入信したくなってくるよ」

 

 テクトにはルイのセリフが聞こえていた訳では無いが、神ルミナスと魔王ルミナスの名前の符号と聖騎士達がルミナスへの敵意を欠片も抱いていないことからおおよその事情を察し、苦笑する。

 

 テクトの様子から問題なしと判断したルミナスは口の端についていたテクトの血を舐め取ると鼻を鳴らした。

 

「フンッ、魔王が信者なぞお断りよ。『だがまぁ、血の味は悪くない。貴様が自ら進んで献上するというのなら受け取るのもやぶさかではないぞ』」

 

 ルミナスは愉快そうに笑うと自らの正体に関する部分は念話で行い、テクトへと背を向ける。

 

 誰も何も言うことがないのを確認するとルミナスは重々しく口を開いた。

 

「さて、七曜よ、此度の件、どのように言い訳するつもりじゃ?」

 

 その言葉に七曜が小さく悲鳴をあげたが、誰一人それに構うことはない。

 

 特にリムルはテクトへと視線を向けており、七曜など眼中になかった。

 

 そこにディアブロから報告が届き、ファルムス王国側も無事解決したとのこと。

 

 応答しないリムルに代わってテクトが報告に応え、主の無事を喜びつつディアブロ達は任務に戻っていった。

 

 仕掛ける予定だったとはいえ、仕組まれた冤罪は晴れ、一番重傷だったテクトも無事なため、この場にいる七曜に関しての判決はルミナスに任せることにして黙っていた。

 

 そして、判決が下る。

 

「死罪じゃ。せめて妾の手で、そなた達へ死を手向けよう」

 

『お、お慈悲を!』

 

『私共は、ルミナス様の御為に』

 

『我等の、我等の長き忠誠に免じて、何卒』

 

 震えながらルミナスへと縋ろうとする七曜だったが、その願いは叶わない。

 

死せる者への祝福(デスブレッシング)‼」

 

 ルミナスが両手を広げると、見えざる神の手が七曜を優しく包み込む。

 

 一見慈愛に満ちた抱擁だが、その実生者を死者へと変える残酷な権能であるその行為によって、七曜は苦しみもなくあっさりと滅びを迎えたのだった。

 

 戦闘は終わり、残すは戦後交渉ということで場を移すために移動する。

 

 消耗が激しくふらふらのテクトにはベニマルが肩を貸し、後方からゆっくりと移動していると、先頭がにわかに騒がしくなる。

 

 ヒナタ達の来訪を伝えるため先行していたソウエイを呼んで事情を伺うと、どうやらヴェルドラがルミナスの正体を暴露してしまったらしい。

 

 魔王達の宴の際に名前を覚えていないことを詰られたのを引きずっていたのか二つ名まで含めて全て告げてしまい、聖騎士達に神ルミナス=魔王ルミナスだと知れ渡った。

 

 自分の秘密を大勢に暴露され暴れ始めたルミナスをリムルやヒナタがなんとか抑えようとするのを、テクトは遠くから眺めることしか出来なかった。

 

 結局、尊大な物言いでの謝罪を繰り出したヴェルドラをルミナスが追いかけ回すことになり、周囲に影響がでぬようリムルが「絶対防御」で守る中、ルミナス教上層部の真実を知った聖騎士達にヒナタが謝罪し、騎士達もそれを受け入れた。

 

 話が纏まると同時にヴェルドラが落下し地面に激突する。しかし直ぐに立ち上がると、リムルを盾にするようにその背に隠れながら上空を見上げた。

 

「り、リムル、テクト、あの頑固者を説得してくれ! 我が寛大にも謝ってやったというのに、ヤツは聞く耳を持たぬのだ!」

 

「そのトカゲをこちらに渡せ」

 

 身の毛のよだつような声でヴェルドラを追ってきたルミナスが告げる。

 

 これを聞いたリムルとテクトの行動は早かった。

 

 一瞬にしてヴェルドラが簀巻きにされ、リムルがそれを差し出す。消耗が激しい中の糸の生成と操作にテクトは一瞬意識が遠のいたが気合で耐える。

 

「げえぇ⁉ 裏切ったな‼」

 

「「お前が悪い」」

 

 声を合わせてあっさりとヴェルドラを差し出したリムルとテクトにルミナスは一瞬驚くが、凄惨な笑みを浮かべると生贄(ヴェルドラ)へとにじり寄っていく。

 

 生贄(ヴェルドラ)を代価にルミナスとの和解は成立し、そのまま生贄は引きずられていく。

 

 何やら騒ぐ声も聞こえた気もするが誰も取り合わず、ルミナスの“生と死の抱擁(エンプレスドレイン)”によってヴェルドラが悲鳴をあげることとなった。

 

 精神生命体であるヴェルドラが悲鳴を挙げる理由だが、魔素の吸収と同時に「激痛」と「不快感」を情報として逆流出させているらしい。情報を遮断しない限り、「痛覚無効」をすり抜けて魂に作用するようで、受け続けるヴェルドラは暫く泣き叫び続けた。

 

 最終的に魔素を強制的に体外へ放出させられたことでヴェルドラの妖気も落ち着きを見せ、思わぬ副産物にリムル達は驚くこととなった。

 

 そして、ひとしきり悲鳴をあげさせて満足したのかルミナスがヴェルドラを放りだしたのを契機に全員で町へと移動する。

 

 簀巻きにされ、散々悲鳴をあげさせられ、今は足を糸で引きずられていくヴェルドラに憐れむような視線が集まるが、糸を引くリムルは取り合うことはなかった。

 

 町につくとリグルドが出迎え、アレルギーや宗教上の理由などで食べられないものを確認して指示を送る。

 

 回復薬やくつろぐには邪魔な武装を預かろうとする者達にヒナタが従ったことで聖騎士達も素直に武装を解除し、回復薬の効能に驚いていた。

 

 食事の用意の間に温泉が勧められ、しれっと女湯に入ろうとしたリムルが睨まれたりもしたが、リムルが男湯に入ることで決着した。ちなみにテクトは脱皮で汚れを落とし、シュナの膝枕で仮眠を取った。

 

 そして、宴会が始まる。

 

 本日のメインは天麩羅。

 

 台所を預かるシュナとテクトが協力しつつ前世での料理レシピの再現を行い様々な料理が実現されていた。

 

 和食系の料理が少ないのは西側諸国で海に面した国が少なく、輸送には莫大なコストがかかるため海産物の流通が少ないことが理由に上がる。

 

 最終的にスキルによる輸送で鮮度を保って移送が行われ、様々な料理開発が行われた。

 

 一番問題だったのは白米であり、魔法による促成栽培で品種改良をしつつ、現在はシオンの「料理人(サバクモノ)」の「確定結果」による収穫で美味しい白米を用意していた。

 

 今回は日本人のヒナタに魔王であるルミナスもいるため奮発し、全員に白米を提供する事になった。

 

 準備も整いその出来栄えにテクトが満足していると、ルミナスを先頭にヒナタ達が入室する。

 

 聖騎士達は和室に抵抗があったようだがルミナスやヒナタが気にしない様子に意を決して席についていく。

 

 席につくなり頭を下げて謝罪しようと頭を下げるヒナタを押し留め、その際にヒナタの胸元が垣間見えてそこにおもわず視線を移したテクト周辺の気配が重くなったりもしたが、なんとか誤魔化し、ひとまず魔物だからという偏見避け、問答無用の断罪を禁止することで話は纏まった。

 

 話が纏まったことで改めてヒナタは魔物達へと謝罪し、聖騎士たちも追従した。

 

 リグルドやベニマルが応じるのに対し、シオンは挙動不審となっていた。

 

 謝罪に動揺した様子のシオンにテクトが語りかける。

 

「シオン、人間に殺されたお前に彼らを許せとは言わない。だけど、人間全てが邪悪というわけではないということだけは理解してほしい。悪事を企むやつもいれば、見ず知らずの人のために戦う彼らのような者もいる。そこは魔物も一緒で、相手がどういう気質なのか見極める必要があるんだ。俺達も人間も間違いを克服する智慧がある。だから、彼らが魔物だからと偏見を持たないよう努力してくれているように、お前にも人間だからと偏見を持つことの無いよう頑張ってれると、俺は―俺達は嬉しい」

 

 テクトにはシオンの心情が理解できた。

 

 被害者であるものからすれば、魔物を悪と断じ、魔国連邦を襲った人間は邪悪の権化と言って変わりない。一度はこの世界での最愛の少女を喪ったテクトも教会への悪感情は拭えていない。

 

 だが、テクトは元人間であるが故に教会全てが悪と断じてはいなかった。

 

 だからこそある程度フラットに聖騎士に接することが出来ていたのだが、シオンにも同様のことができると信じていた。

 

 シオンは考えることは苦手だが、馬鹿ではない。

 

 無理に押さえつけるよりも自分で考えさせることで折り合いをつけてくれればという考えであった。

 

 シオンは僅かに考えた後ためらいを投げ捨て吹っ切れた顔で宣言する。

 

「わかりました! 良き者や悪しき者、テクト様の御言葉通り、一辺倒に考えぬようにします!」

 

 シオンの言葉に紫克衆も頷き同意を示す。

 

 テクトが最後に視線を向けたシュナも笑顔で頷き、この場での謝罪は一つの結論を見たのだった。

 

 湿っぽい話も終わり、リムルの適当な音頭で杯を掲げて宴会が始まる。

 

 大同盟結成時期からすでに酒の開発が進められていたことで葡萄酒(ワイン)だけでなく蒸留酒(ブランデー)麦酒(ビール)、果ては焼酎の類まで用意されている。

 

 ひとまず一杯目ということで全員に慣れがあるであろう葡萄酒が配膳され、聖騎士達派それを一口飲んで目を見開いた。続いて料理を一口食べ、今度は目を見合わせるのを見て、テクトはほくそ笑んだ。

 

 テクトは自身の努力が身を結んだことにいい気分で杯を傾けていると、ヒナタから視線が飛んでくる。

 

「どうかした?」

 

「貴方達ね、これはやり過ぎじゃないの?」

 

「なにが?」

 

 テクトがわずかに顔を赤らめつつも不思議そうに杯を置くと、ヒナタはたまった不満をぶちまけるように、一気に疑問点をあげ始めた。

 

 ブルムンドでのラーメンどころか即席麺の販売に始まり、街道の給水場や宿場の設備、更には大森林の中央にも関わらず新鮮な海鮮が提供されたことを一息に言い放つ。

 

 それに対して返答したのはリムル。

 

「だって、食べたかったし」

 

「なんですって?」

 

「いや、だからですね……俺達が食べたかったから、頑張って再現して見ようかな〜なんて」

 

 返答に対して鋭い視線を向けるヒナタに引きつつも、リムルが事情を詳細を避けて説明する。

 

 今回の食材はユーラザニアからゲルドのユニークスキル「美食者(ミタスモノ)」による猪人族(ハイオーク)共通の「胃袋」を活用しており、転送魔法のように魔素の影響を受けない流通を可能にしている。

 

 とはいえ仕事の邪魔をしないよう控えており、普段から使えるわけではないため、たまの贅沢用となっている。

 

 スキルによる運搬なら食材の移送も可能と聞き、ヒナタは新たな見識とそれを自己の欲望を満たすために使用するリムルとテクトに呆れていた。

 

 それを見てリムルはムッとして声をあげる。

 

「それを言うならテクトの方が好き勝手してるって。即席麺もテクトが作ったし、炭酸飲料の再現もしてる。今回の料理にも噛んでただろ?」

 

「まぁ、原理はしってたしね。リムルも喜んでたじゃん」

 

「そりゃそうだけどさぁ」

 

 そう言うとリムルは汁物をすすり、具を食む。

 

 そうしてふと湧いた疑問を口にした。

 

「そういえば、今回って何作ったんだ?」

 

「いまリムルのもってるそれだよ。けっこう高評価だったんだよね〜」

 

 リムルの問に酔いが回ったのかだいぶ赤らんだ顔でテクトが答える。

 

 その答えを聞き、ベニマルが椀を覗き込み、以前食べたものと同じものであると気付いた。

 

「そういえば、以前お聞きした際にはリムル様に食べさせたらと言ってましたよね? 先ほどリムル様も口をつけましたし、そろそろ教えてもらえませんか?」

 

 ベニマルの言葉でテクトへと視線が集まる。

 

 テクトは周囲を見回し、全員が大なり小なり口をつけている事を確認すると口を歪めて答えを話し出した。

 

「そーかきになるかー。よーし教えてあげよう。それにはね。足が入ってるんだよ」

 

「足? ……おい、まさか……」

 

 椀の中に具の残っているものはカニのような足を取り上げ、眺めていたが、何かに気付いたリムルが僅かに青ざめる。

 

 そしてテクトが爆弾を落とす。

 

「そう、それ。おれの足。槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)はカニっぽくていけるから同じくもである俺もいけるんじゃないかと思って。好評なようでよかったよ」

 

 瞬間。宴会場は阿鼻叫喚の大騒ぎになった。

 

 魔物達からすれば知らずとはいえ主に物理的に歯を向けた結果になり、聖騎士達からすれば信頼が置けそうだとはいえ、魔王の身体を口にしたのだ。

 

 テクトの異常さに慄き、自分の体調を気にしてしまうのは当然と言えた。

 

 落ち着いているのはヴェルドラとルミナスぐらいであり、嘔吐の衝動に駆られた者も宴席での嘔吐に遠慮し、混乱は広がっていく。最終的にテクトが張り倒され、全員の汁物が回収されて希望者が一時退席し、テクトに対する説教が行われる運びとなった。

 

 

 

 ひとまず場は落ち着き、テクトが正座させられている中、リムルがルミナスへと話しかけた。

 

「テクトはともかく……俺達の料理は口にあったかな?」

 

「うむ、気に入ったぞ。料理もそうだが、酒が良い。テクトのものも悪くはなかったがな」

 

 ルミナスの評価にテクトが得意げに口角を上げるとリムルが鋭い視線を向ける。

 

 テクトは首に自身の糸で織らされた看板が下げられており、「私はとんでもないものを皆様に提供したことを深く反省しております」と書かれており、シオンやディアブロを除く人員の付き添い無しでの厨房への立ち入りが禁止されていた。

 

「ルミナス、あいつを甘やかさないでくれ。調子に乗せると時々とんでもない事をやらかすからな」

 

 リムルの言葉にテクトが悲しそうな顔をする。

 

 それを視界に収め、若干揺らいだリムルだったが、気合で振り切り顔を背ける。

 

 ふと「万能感知」で探るとテクトが不満げに唇を尖らせており、リムルは心配して損した気分になった。

 

 その間にもルミナスはハイペースで酒を呷っており、リムルは声を掛ける。

 

「評価してくれるのは嬉しいが、程々にしないと身体に悪いぞ?」

 

「馬鹿め。毒も効かぬ妾が、酒如きに負けるはずもあるまい。寧ろ酒に酔えるように、「毒無効」効果を弱めることに心血を注いでおるわ!」

 

 ルミナスはそう宣言すると一気に杯を空ける。それを聞き、リムルは目を瞬かせた。

 

「そ、そんなことが出来るの?」

 

「当然であろう? 何を寝ぼけたことを」

 

「あれ? リムルには教えてなかったっけ?」

 

 不思議そうなテクトをよそに、リムルは呆れた様子のルミナスへ頼み込み、智慧之王(ラファエル)を通じて毒耐性を下げていく。

 

 テクトは以前、「大賢者」には毒への耐性の弱め方を教えていたが、リムルを危険に晒す可能性を無視できず、秘密にしていたらしい。

 

 現在(いま)も久しぶりの酩酊感に上機嫌なリムルに対し、智慧之王は不機嫌であり、耐性の弱化への抵抗感が感じられた。

 

「くぅ──! これだよ、これ! よし、飲むぞ!」

 

「うむ、我も付き合おうぞ!」

 

「しょうがない奴よな。妾も付き合ってやる」

 

 いつの間にやら酔っ払っていたヴェルドラとルミナスもリムルに乗り、酒の量が増えていく。

 

 彼らに当てられて雰囲気が緩んでいき、それを見計らってテクトが声を掛ける。

 

「ねぇ、リムル、せっかく色々用意している訳だしさ、カクテルも悪くないと思うんだよね。ここで作るから良いでしょ?」

 

「ん〜、ま、いいか! よし、さっそくたのむわ!」

 

 テクトはリムルの言葉にニヤリと笑うと目配せして酒類やシェーカー等様々なものを用意させる。

 

 ただ注ぐだけでなく並べていく姿に興味を引いたのかテクトへと視線が集まっていった。

 

 テクトは蒸留酒にライムっぽい果実にジュース、更に黄色がかった炭酸水を入れ、かき混ぜる。

 

「まずはこれ、モスコミュール。ジンジャーエールもどきの開発が間に合って良かった。割と飲みやすい部類だから初心者向だよ」

 

 そういいながら提供されるカクテルは中々に好評を博す。

 

 この酒にも「確定結果」を活用していたりするが、それを知る者はあまりいない。

 

「確かに飲みやすいわね。でも、カクテルはそれを使うものだと思ってたわ」

 

「そういうことにうるさい人が聞いたらブチ切れそうな暴論ではあるけれど、混ぜればだいたいカクテルだと思うよ。使わないのはロングカクテル、使うものをショートカクテルって言うんだよ。材料の問題で有名どころは無理だけど、せっかくだからこれも使おうか」

 

 言うが早いか蒸留酒やジュースの類をシェーカーに入れ、手慣れた様子で振る。

 

 甘めに作ったカクテルはヒナタの口に合ったのか、テクトは中々のハイペースでシェーカーを酷使する事になった。

 

 上位陣の酒のペースが上がるに連れ、聖騎士達の緊張もほぐれ、盛り上がっていく。

 

 多量に魔素を含んだ水で耕作された黒い米ー魔黒米を食べたフリッツが魔力の回復を報告し、それを解析した結果、魔素への耐性があればエネルギーへの変換が出来るということがわかった。

 

 それを聞いて大勢が魔黒米を要望し、米は白いものという考えが根底にある元日本人以外は嬉しそうに魔黒米を頬張っていた。

 

 酒の力もあり、魔物も人も関係なく笑顔で宴会を楽しんでおり、テクトとリムルが頬を緩める。

 

 そして、この光景を守るために力を尽くそうと決意を固めていると

 

「テクトよ! 我もそのかくてるとやらを所望するぞ! なるべく強いものをな!」

 

「そうじゃ! ヒナタにばかり振る舞わず、妾にも何か用意せよ!」

 

「ちょ、よそ見しながら注ぐなよ! こぼれるだろ! あ、テクト、俺も何かあまいやつな!」

 

 テクトへと酒乱達が絡んできた。

 

 気づけばテクトと同じように決意を固めていたはずのリムルも酒乱組に回っており、テクトは嘆息しつつも酒瓶を手に取った。

 

「はいはい、ヴェルドラはギムレットでいっか……ルミナスは、ブラッディ・メアリーかな。昔聞いた与太話だとマジで血をいれてたみたいだけど……あぁ、はい、じゃぁとりあえず俺ので。リムルにはスクリュードライバーを……え? サボってないでシェーカー使えって? いや、ギムレットに使って……わかったよ、使うから、そんな駄々こねないでよ……」

 

 宴は何の区別もなく盛り上がっていく。

 

 それはまさしく彼らの目指す理想の形の一つだった。

 


 

次回「休戦協定」




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

テクトへの魔素の譲渡に関しては擬態で見た目が変わっているとはいえ、スライムは全身が同一の細胞なのでテクトの口に指を突っ込めば良かったのですが、何故こうなったのか…

各自の動きはその時の流れに任せていますので、このままやってしまおうと思っています。

紅蓮の絆編は書いた方がいいのか

  • 書くべき
  • 書かなくてもいい
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