転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

66 / 113
62話:休戦協定

 和解を兼ねた宴から一夜明け、大会議室で会談が始まろうとしていた。

 

(リムル、大丈夫?)

 

(なんとか……テクトは?)

 

(俺は途中からカクテル作ってて飲んでないからね)

 

「ねえ……まさか、その状態のまま続けるの?」

 

「「え?」」

 

「はぁ……まぁ、いいわ」

 

 ここ最近の定位置という具合に膝の上に鎮座するリムルを気遣っていたテクトにヒナタから声がかかる。

 

 その返答にヒナタは嘆息すると諦めたように告げ、会談が始まった。

 

 参加者は魔国連邦側がテクト、リムル、ベニマル、リグルド。そして、現在司法・立法・行政を担当するルグルド・レグルド・ログルドの三名の人鬼族(ホブゴブリン)の長老達。

 

 ルベリオス側はルミナス、ルイ、ヒナタに加え、五人の隊長格だった。

 

 まずはお互いの認識のすり合わせから。

 

 事前にそれぞれの認識について箇条書きにしたものを交換し、それを元に話しの流れを確認することになっていた。

 

 魔国連邦としては、全てはファルムスの侵攻を端に発しており、相手の出方によって対応を変えるものである。

 

 聖教会側としては、ファルムスからの従軍要請以前に魔物が国を興した事を放置することは教義に反することであり、信者からの不信を招く前に動きたかったという事情があった。

 

 また、東の商人からリムルがシズの仇と聞いていたヒナタの意向もあり、ヒナタに心酔するニコラウスがレイヒムへと侵攻の許可を出したのだという。

 

「やっぱり商人が一枚噛んでいるみたいだね。クレイマンが利用しようとしていた豚頭帝(オークロード)の軍勢も武装していたし、クレイマンの城に残っていた帳簿も洗ったけど、東の商人との記録があった」

 

「本人の名前は一切残ってなかったけどな。後、中庸道化連に関しても収穫はないらしい。まあ、クレイマンの領地と接していて貨幣を扱っていたのは東の帝国だけだし、その商人が怪しいのは間違いないな」

 

 テクトとリムルの言葉にヒナタも頷き、偽名であると当たりをつけつつもダームという名をあげる。

 

 エドマリスからの聞き取りでも商人がでてきたことから、東の商人がクレイマンと相乗りする形でファルムスの侵攻に関わっていたと推測が立った。

 

 全ての事柄に東の商人の姿が見え隠れしたことで、クレイマンの口にした「あの方」の存在について思考がよっていく。

 

「あの方」について何も知らないヒナタにクレイマンやファルムスの侵攻を操っていた可能性が高い人物である事を軽く説明し、ヒナタが思考を始めたあたりでリムルが口を開いた。

 

「もしかするとさ、「あの方」の正体って七曜だったんじゃないか?」

 

「何じゃと? 貴様、妾に内緒で、七曜が勝手に動いていたと申すのか?」

 

 自らの手で粛清したとはいえ配下を疑われて不機嫌そうなルミナスへリムルが謝ろうとした時、ルイがリムルへと同意した。

 

 それによりルミナスの威圧がルイへと向くが、ルイは臆すことなく続ける。

 

「ルミナス様、お聞き下さい。あの者達は、ルミナス様の寵愛を欲しておりました。それもそのハズ、御自覚はおありでしょう?」

 

「何の話じゃ?」

 

「寵愛―つまり、愛の接吻です(ラブエナジー)。ルミナス様がその儀式を、前回彼らに行ったのは、百年以上も前でした。最初は週に一度の儀式だったのに、どんどんとその間隔は伸びていたのです。もしかして、お気づきではありませんでしたか?」

 

 ルミナスはルイの指摘を受け、苦々しい顔をすると、七曜について語る。

 

 彼らは元が人間であるため、ルミナスから与えられる生気がなければ老いていく存在であるという。

 

 ルミナスからの感心を買うためにクレイマンを篭絡し、覚醒したクレイマンに今のお気に入り(ヒナタ)を始末させようとしていたのではとルイが補足する。

 

 それにヒナタが呆れ気味に嘆息している内に、七曜黒幕説が現実味を帯びていった。

 

 クレイマンの忠誠心の高さからヒナタの始末をした後も人類へと無用な被害を出すことは抑えられ、ファルムスの侵攻に関してもルミナス教の教義を守って教会の名声を高めつつ利益を得ることが出来る。

 

 東の商人も戦時特需で儲け、七曜本人は一番のお気に入りの座を取り戻す。

 

 切っ掛けは思い付きだが、あながち荒唐無稽とはいえなくなってきた仮説に東の商人と聖騎士を紹介したのが七曜であるとの証言も加わり、油断ならない存在だったと過去のものにしようとしたところでリムルが違和感に気づく。

 

「って、待てよ? 七曜ってことは七人いるんだろ? ファルムスに三人、こっちに三人。後一人いるんじゃないか?」

 

 そのリムルの疑問にはヒナタが答えた。

 

 ルベリオスに残っていたニコラウスがリムルの届けさせた水晶球に改竄の痕跡を見つけ、問い詰めた際に事前に仕込んでいた霊子崩壊を不意打ちでぶつけ、始末したのだという。

 

 最後に残った日曜師グラン―本名をグランベルというらしい―が元はルミナスが下した光の勇者だったらしく、ルミナスは物思いにふけるように息をついた。

 

「けどまあ、これで一安心だな。魔王クレイマン、ファルムス王国、七曜の老師達、俺達にちょっかいを出していた者達は全員滅んだ訳だし」

 

 安心したように結論を下すリムルに、配下の魔物達の空気も緩む。

 

 しかし、テクトの纏う空気は硬いままだった。

 

「そう? 七曜が全ての黒幕だったと決まったわけではないし、俺はまだユウキのことは疑っているけど」

 

「ユウキというと、自由組合総帥(グランドマスター)の?」

 

「そのユウキで間違いないよ。それに、勇者(グランベル)があっさりと滅んだってのも疑わしい。三百年前とはいえ、ヴェルドラを封じる力を持っていた勇者もいるんだ。例えば分身体を日曜師グランとして活動させて本体を別のところにおいておくぐらいはするかもしれない。リムルもヒナタと戦ったときに似たようなことしただろ?」

 

「そうね。東の商人が西側諸国に根を張っているのは確かだし、ロイを倒した中庸道化連なるものもいるようだしね」

 

 テクトの言葉にヒナタは苦虫を噛み潰したような顔になりつつも同意し、リムルをはじめとする魔国連邦の者達が気を引き締める。

 

 今後とも警戒を続けていくことに結論付け、状況認識のすり合わせが終了した。

 

 話が落ち着いたことで一旦の休憩を挟み、今後の関係についての話に移る。

 

 事前の相談ではヒナタの謝罪を受け入れ、これ以上問題にすることはないという結論だったが、ルミナスの待ったが入った。

 

 どうやらルミナスはヴェルドラに対して負い目を持ちたくないらしく、きっちりと賠償を行うとのことだった。

 

 ヒナタもそれに追従し、テクトとリムルは思考を巡らせていく。

 

「だったらさ、俺達の国を正式に承認して、国交を結んでくれないか?」

 

 先に結論を出したのはリムルだった。

 

 発言の前にテクトには確認を取っており、互いに実現には否定的な考えではあったが、テクトがセカンドプランを考える時間が出来るかと軽く考え、無理を承知での申し出だった。

 

 が、しかし―

 

「構わぬ。馴れ合うつもりはないし、いずれはそこのトカゲを成敗するつもりじゃがな」

 

「「え?」」

 

 ルミナスは軽い調子で頷いた。

 

「しばしの休戦と洒落込もう。今後百年、国交を結ぶのもよかろうな。それを妾からの、詫びの証とするが良い」

 

 あっさりとリムルの申し出を受けたルミナスに全員が呆気にとられる。

 

 最も早く復帰したのはテクトだった。

 

「国交樹立って、大丈夫なの? 教義で魔物との取引禁止があるぐらいだし、相互不干渉ぐらいがいいんじゃ……」

 

「くだらぬ。その教義は妾が定めたものではないし、別段それが守られていなかったからと言って、妾への裏切りだとも感じぬわ。そもそも、それは迷える民への指針として、当時の指導者達が頭を悩ませて考えた規則でしかないのじゃ」

 

 ルミナスの返答にルイ以外の全員が驚愕する。

 

 ルミナス教の裏を知っていたヒナタも初耳だったらしく、呆然とするヒナタにルイが紛失した教義の元になった原稿を閲覧していれば理解出来たかもしれないと告げた。

 

 その後も色々と話したが要するに、魔物の生存を認めないという教義は人心掌握のための方便であり、ルミナスにとって重要なのは神聖魔法の行使のための契約につながる信仰心とのことだった。

 

 結論として魔国連邦を認める理由があれば民は納得するかもしれないが、今までの方針を無視するのは下部組織からの反発を招きかねない。

 

 が、しかし、既に隊長格を含む百名の聖騎士が魔国連邦へと動き、ファルムス王国の軍に合流した三武仙を筆頭にした聖騎士達が敗北したことは七曜の悪事も含めて多くの記者達が目撃している。

 

 人類の守護者としての地位が揺らぎかねない事態になっているが、そこは魔国連邦側から案を出すことになり、リムルが口を開く。

 

「なら、俺とヒナタが相討ちしたってことにするのはどうだ? そして、七曜の謀略に気づき、休戦協定に至った。俺の正体がスライムなのは知られているけど、そこに異世界人の転生者だったって情報を追加すれば、人間側につく理由付けになるだろ?」

 

「それは私達にとってありがたい申し出ね。でも、貴方はそれでいいの? 魔王が私と相討ちなんて、威厳的に問題があるんじゃないかしら?」

 

「確かに勇者でもない人間と相打ちになる魔王は侮られるかもね。けど、仕掛けてくるなら叩き潰すだけだし、そうすれば自分が敵わない相手と相打ちになった西方正教会(ヒナタ)に対して手出しすることもなくなるんじゃないかな。といっても、クレイマンとファルムスの件もあってすんなり信じる奴もあまりいないとは思うから、ルベリオスが魔国連邦へ友好的に接するようになったっって宣伝するだけになるかもしれないけど」

 

 ヒナタの確認にテクトがあっさりと返したことで最終的にヒナタも納得し、魔物全てを敵と定めるのではなくそれぞれ立場を判断すべき隣人として、ついでにこれまでドワーフの立場を保留していたため、互いに不干渉を貫いていたドワルゴンを巻き込んで友誼を結ぶことで人民を納得させる方向で進めることになった。

 

 ヒナタは今回の改革とも言える方向転換を期に七曜に毒されていた者達の粛清を検討しはじめる。

 

 ひとまず今後の交流の足がかりとしてアルノーとバッカスが文官を連れてきたうえで滞在することになり、魔国連邦側はルミナス教の教会を建設する事になった。

 

「そういえば、俺に魔素を分けてくれたときに聞きたいことがあるって言ってたけど、何かあったの?」

 

 会議も終わりも近づき、議題も尽きたタイミングで発したテクトの言葉に視線がルミナスへと集まる。

 

 急に集まった視線に煩わしそうにしながらも懐から取り出したのは一つのペンダントだった。

 

「それってテクトがロイってやつに渡してた」

 

「うむ、ロイが殺された現場に落ちていたそうじゃが、何やら僅かながら魔素を吸い取るようでな。詫びの意を込めて「保険」なるものを渡した以上、何の意味もないとは思えなんだ。かといって下手に弄って何か起きても面倒なのでな。こうして状態を維持したまま本人に聞きにきたのよ」

 

 ルミナスの話を聞き、テクトは背後に控えるシオンに視線を送るが、シオンは首をかしげるだけであったので、諦めてテスタロッサへと視線を移す。

 

 テスタロッサがルミナスからペンダントを受け取りテクトへと手渡すのを見てようやく視線の意味を理解したシオンは悔しがるが、テクトは特に何か言うこともなくペンダントを確認し始めた。

 

「うん。ちゃんと発動してる。周囲の魔素だけでも状態維持は出来るはずだけど、魔素を吸ってたのはルベリオスに聖浄化結界(ホーリーフィールド)みたいなのがあるからかな? まぁ、考察は後にして、あのときはうまくいく確証がなかったから詳しく話さなかったんだけどね。これは周囲で死した者の魂をその内部に封じ込める俺開発の魔法道具「魂の牢獄(ソウルテイカー)」。とにかく、ロイの魂は保護出来てる。後は人造人間の体でも用意できれば蘇生は出来ると思うよ」

 

「……そうか」

 

 テクトがそう言ってシオンへとペンダントを渡すと、シオンはそれをルミナスへと手渡した。

 

 戻ってきたペンダントをルミナスが握りしめるのを見て僅かに時間が流れる。

 

「ロイに関しては戻ってから考えるとしよう。一月置いておいても大丈夫だったのじゃ。このところたるんでおったようであるし、仕置には丁度よかろうよ」

 

「そうですね。サーレにも遅れを取ったようですし、問題がないならしばらくこのままでもいいでしょう」

 

「そのへんは任せるけど、あまり手放さないようにね。状態維持に魔素を食うからほっとくと保護が切れてしまうから」

 

「ってか、いつの間にこんなもの作ったんだよ」

 

「魔王達の宴の少し前だよ。襲撃の後直ぐからずっと魂の仕組みに関しては調べてたんだ。あの時言っただろ? 「お前(クレイマン)達の策略のおかげで俺も魂のあり方については詳しく」なったってさ」

 

 テクトはシュナ達の死を知って以降、復活が正史であるという希望を元に蘇生魔法に付いて調べる傍らで、そもそも命を落とさなくて済むように魂を保護する方法について考えていた。

 

 最終的に襲撃に使われた結界が魂の拡散を妨げていることを認識し、シラヌイがそれを理論化。

 

 それを再現する魔法道具を作成し、不測の事態に備えて魔王達の宴に持ち込んでいたのだった。

 

「そんなの作ってたのかよ。ってか、それをシュナに持たせなかったのか」

 

「何言ってるんだよ。出撃前に用意した巫女服の装飾に紛れ込ませていくつも仕込んださ。当たり前だろ?」

 

 テクトが事も無げに告げる巫女服の隠し機能にリムルは苦笑し、テクトは首を傾げた。

 

 会議も終わり、壊れた武具を魔国連邦産のものに交換したり、リムルが継ぎ合わされた竜破聖剣(ドラゴバスター)におもわず八つ当たりしてテクトの努力を無為にしたりとしていると、時刻は夕暮れ時になっていた。

 

 用向きも済み、帰り支度をしていたヒナタ達に、テクトが声をかけた。

 

「もう遅いし、出発は明朝にしたらどう? 今夜はすき焼きを用意しているんだけど……毒抜きした生卵もあるよ?」

 

「せっかくだしお世話になるわ。というか生卵って……やり過ぎよ」

 

「卵かけご飯も出来るよ。懐かしいでしょ?」

 

「何じゃ、それは? いや、わざわざ話題に挙げるのじゃ。それも美味であろうよ」

 

「好みは分かれるかも。俺は好きだけどね」

 

 夕飯について話し始めたテクト達を見て、聖騎士達も帰り支度をやめ、仲間内で話し始める。

 

 前日に続く宴会では酔っ払ったリムルが通信技術の詳細など国家機密レベルの技術情報を漏洩させたことで智慧之王から酒は毒であるという判定が下り、しばらく酒に酔うことができなくなったり、酒に酔って調子に乗ったフリッツがヒナタの皿から最後の一枚をかっさらって意識を狩られたりと騒がしく、多くの笑顔と共に時間は流れていった。

 

 そして翌日。

 

 出発前のヒナタからの忠告があった。

 

「昨日の話だけど、余り派手にし過ぎると天使に攻撃を受けるわよ」

 

 天使とは天魔大戦にも出現する天の軍勢のことであり、一体一体がB+ランク相当で百万もの軍勢だという。

 

 隊長クラスや指揮官クラス、将軍クラスが存在し、組織だった指揮系統を持っているおり、魔王とも戦った記録もある。

 

 天使は魔物や文明の発達した都市を攻撃目標とするため、西方正教会でも天使は人間の味方とは考えられていないらしく、前日の宴会でリムルが漏らした技術発展の展望を聞き、ヒナタは忠告をすることにしたようだった。

 

「妾としても、あの羽虫共にはウンザリしておる。この手で始末してやりたいが、それをすると正体がバレるからのう……もっとも、あのトカゲのせいで聖騎士共にはバレてしまったがな」

 

「天使に関しては向かってくるなら迎撃する予定ではあったし、いざというときは協力出来るといいと思ってるよ。……ヴェルドラは、うん、こっちでよく言い聞かせておくよ」

 

「うむ、任せるぞ、テクトよ。妾も二度も都を破壊させるつもりはないが、あのトカゲが阿呆なことをしでかせば協力できるものも出来なくなってしまうからのう」

 

 そう言い残し、ルミナス達は帰っていった。

 

 これをもって西方正教会やルベリオスと魔国連邦の争いは決着し、友好的な関係を築くことが出来るようになった。

 

 そして、その後

 

 神聖法皇国ルベリオスは突如としてこれまで黙認状態だった武装国家ドワルゴンを友になり得る人類であると発表した。

 

 それに続いて魔物の国であるジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を宣言。百年の期限付きではあるが、魔国連邦との不可侵条約の締結もあわせて発表された。

 

 これにより、亜人だけでなく魔物までもが人類の一員に成り得ると認められ、人と魔なる者の新たな関係が模索されていくことになる。

 


 

次回「祭りは当日もそうだが準備も楽しい」




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

アニメ3期も後一話。アニメの範囲を超えてしまうことに不安もありますが、まだまだ先の話なので忘れようと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。