転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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63話:祭りは当日もそうだが準備も楽しい

 聖人ヒナタの敗北

 

 そんな噂がまことしやかに各国の上層部に流れていた。

 

 それが真実であるとする証拠はない。

 

 魔国連邦に入り込んでいた各国の情報部はテクトによって無力化され、現場を確認したものは皆無だからだ。

 

 しかし、レナードが率いた聖騎士が隠密で動いていたことは公然の秘密であり、ヒナタに至っては堂々と街道を利用していた。その上ディアブロによって七曜の攻撃から庇われた記者達の報道もあり、西方正教会と魔国連邦の間で何かしらの武力衝突があったのは聡いものであれば推測出来ることであった。

 

 そこに、噂とは別のルートでヒナタとリムルが引き分けになり、それを受けてルベリオスと魔国連邦の休戦協定と不可侵条約が締結されたという情報が届く。

 

 情報が錯綜する中、魔国連邦から招待状が届き、各国の首脳は更に頭を悩ませることになる。

 

 そんなことは預かり知らぬテクトとリムルはブルムンド王国を訪れていた。

 

 目的地であるミョルマイルの元を訪れる傍ら、自分たちの働きかけの結果である卸した商品による経済の発展や屋台の充実を楽しんでいた。

 

 魔王への進化もあって妖気のコントロールが完璧にできる様になったリムルは以前と違って素顔をさらしており、その美少女と見紛うような容貌とテクトのペアはまるで美男美女のカップルのようであり、遠巻きに眺められていた。

 

 見惚れつつも邪魔にならぬように二人の移動にあわせて人混みが割れていき、後ろには人が捌けたスペースを埋めるように雑踏が出来上がっていく。

 

 二人は無自覚に若干の交通の麻痺を起こしながらもミョルマイルのいる商館へとたどり着き、何の気負いもなく入っていく。

 

 姿が見えなくなったことで群衆は正気を取り戻したかのように騒がしさを取り戻し、日常へと戻っていった。

 

 

 

「すまない、ミョルマイル殿に会いに来たんだが、御手漉きかな?」

 

「え、あ、あぁ、はい……」

 

 テクトは入ってすぐの場所にいた使用人に声をかけ、その返答に問題なしと判断してリムルと共に進んでいく。

 

 実際にはテクトとリムルの容貌に当てられて呆然としながらわけもわからず頷いただけなのだが、自覚のない二人には気づけなかった。

 

 幾度となく訪れた場所であるがゆえに遠慮なく歩いていく二人はミョルマイルのいる部屋へとたどり着くと、これまた遠慮なくリムルが扉を開いた。

 

「いよ──っす! 元気だったかね? ミョルマイル君!」

 

「息災か? ミョルマイル……ってあれ?」

 

「誰だ貴様等、大事な商談に割り込むなど、無礼であろうが!」

 

 止められなかったのでまさか客がいるとは思っていなかったテクト達は闖入者に怒る男に面食らった。

 

 とはいえ、商談中に割り込んだことは事実なのでどう収めたものかと考えていると、後ろから使用人が慌てて止めにきた。

 

「すまない。止められなかったから問題ないかと思ったが、連携が上手くいかなかったのかな? 先に屋敷に行って待ってることにするよ」

 

「待て、小僧! 勝手に中に入ってきて盗み聞きをした上に商談を邪魔するなどと、この責任をどう取るつもりだ?」

 

「いや、失礼しました。誰にも止められなかったもので、本当、スミマセン」

 

 テクトは使用人に事態の収拾を任せて去ろうとするが、男は納得せず食って掛かる。それにリムルが調子よく謝っていると、男はリムルの顔を不躾に眺めながら言い放った。

 

「貴様はミョルマイルの情婦か? 顔はまあまあだな。礼儀は大切なもの故、この我が面倒を見てやってもいいぞ?」

 

は?

 

 男の言葉にテクトの表情が明らかに変わる。ギリギリで周囲に配慮して妖気を垂れ流すことはしなかったが、テクトを見れば切れていることは一目瞭然である。

 

 だが、何を考えているのかリムルを見てニヤつく男はそれに気づかない。

 

 これ以上何か失言と取れる発言をすれば男の首を飛ばしかねない様子のテクトをリムルが落ち着かせようとしていると、ミョルマイルが立ち上がった。

 

「おいカザック、ワシの恩人に無礼を働いておるのは貴様の方よ。たかが子爵の分際で、このワシを怒らせるつもりか?」

 

「な、何ィ⁉」

 

「貴様との取引はこれまでにさせてもらおう。今後一切、ワシに頼るでないわ!」

 

「き、貴様! たかが商人が貴族に逆らうなど、狂ったかミョルマイル⁉」

 

「フンッ! 外交問題になりそうな犯罪組織と手を組むようなヤツは、ワシにとっても厄介者だわい。この町まできな臭くなってしまうからな。そんな疫病神には、とっととお引き取り願いましょうか」

 

「お、おのれミョルマイル! 貴様、これまで目をかけてやった恩を忘れおって……きっと後悔させてやるからな‼」

 

 ミョルマイルの一喝にカザックと呼ばれた男は捨て台詞を残して去っていく。

 

 騒ぎを聞きつけ集まったミョルマイルの手下を押しのけカザックが去っていった方向を睨んでいたテクトが、その方向から聞こえて来た間の抜けた叫び声と重い物が落ちるような音に一つ鼻を鳴らすと不機嫌を隠すことなくミョルマイルへと視線を向ける。

 

 明らかに何かしでかしたテクトにリムルとミョルマイルは苦笑を浮かべるのだった。

 

 場所を移し、ミョルマイルの館へ。

 

 テクトとリムルがわざわざ二人してやってきたことでその重要性を読み取ったミョルマイルは面会希望を全て断り、仕事を切り上げていた。

 

 この屋敷の者はリムルの正体を知っているためナチュラルにスライム姿で椅子に腰掛けたテクトの膝へと鎮座したことでミョルマイルは一瞬目を瞬かせたが、リムルを突くテクトの不機嫌が僅かに和らいだのを見てあまり考えないことにした。

 

「いやあ、仕事の邪魔をしちゃったみたいで、何だか悪いね」

 

「いやいや、リムルの旦那。あんなクソ野郎とは手を切りたいと思っておったのですよ。貴族だからと、毎度毎度厄介な案件を持ち込まれておりましてな……」

 

 リムルの気楽な声にミョルマイルは顔をしかめて告げる。

 

 ミョルマイルの言葉に罪悪感の薄れていたリムルだったが、続く言葉に目を見開いた。

 

 何でも、カザックは奴隷を使って娼館を作ろうとしており、そこにエルフを使おうとしていたらしい。

 

 魔物ではなく亜人の分類であるエルフを奴隷にするのは人身売買にあたり、犯罪である。それをミョルマイルに強要しようとしていたわけだが、カザックは子爵であるためバレてももみ消す可能性があるという。

 

 目をつけられたことを不安がるリムルにミョルマイルがそれを吹き飛ばすかのように鷹揚に答えて笑い、本題へと映ることになった。

 

「まぁ、難しいことではないさ。仕事の依頼だ」

 

「ほほう、また新しい思いつきですかな? 旦那方の持ち込む仕事はとても面白いですが、毎度毎度準備が大変なんですよ?」

 

 本題に移り、ようやく不機嫌をしまい込んだテクトがニヤリと笑いながら告げるのに、ミョルマイルも同じくニヤリと笑って返す。

 

「そう言うな、ミョルマイル。貴様にまかせている「ファストフード店展開計画」だが、我が国の開国祭で先駆けて出店をと思ってな」

 

「ほほう、どこで練習させようかと思案しておったので、その申し出はありがたいです。ところで、そんなことを仰るということは、聖騎士団との問題は上手く片付いたのですかな?」

 

 ミョルマイルにも西方正教会といざこざがあることはフューズを通じて伝えていたため、不安そうな顔をしていたが、テクトは一つ頷いて続ける。

 

「ああ、無事和解に至ったし、不可侵条約も結べた。それで、訓練は順調なのだろうな?」

 

「バッチリですぞ。今では誰でも同じように、一定レベルの作業が出来るまでに育っております」

 

「頼もしいね、ミョルマイル君!」

 

 ミョルマイルの声に三人で顔を見合わせ、ほくそ笑む。

 

 そのまま話を詰めていき、基本的なファストフードと肉串の屋台を出すことに決める。

 

 そうして店舗の話が終わったところで、リムルが話を始める。

 

「交代要員も充分みたいだし、その中から腕の良いものから五名、用意してくれないかな?」

 

「五名? 何をさせるつもりで?」

 

「実は、ヴェルドラのやつが鉄板焼の店を出すと息巻いていてな」

 

「は⁉ ヴェルドラ⁉」

 

 予想だにしなかった提案にミョルマイルが叫ぶ。気持ちはわかるものの相手にすると話が進まないので無視して話が続けられる。

 

「で、ソイツだけに店を任せると不安だろ?」

 

「お、仰る通りかと」

 

「故に、だ、ミョルマイル。腕の良い上位五名でヴェルドラのサポートをしてもらいたいんだよ」

 

 スライム状態のリムルはともかくわざとらしいほどに満面の笑みのテクトにミョルマイルは空を仰いだ。

 

「手伝わせる者達の安全性は、そのう、大丈夫なのですかな?」

 

「勿論だとも! 何かあったら俺達に相談してくれていい」

 

「あいつが我儘を言うようなら直ぐに対応するし、ヴェルドラにも偽名を名乗らせサポートの従業員の心的負担にも配慮する。俺の取り分から特別ボーナスも支給しよう」

 

「そういうわけで、くれぐれもよろしく頼む!」

 

 驚愕冷めやらぬミョルマイルに二人して畳み掛け、強引に話を決める。ミョルマイルは何やら言いたそうにしていたが、しばらくして諦めたように息を吐いた。

 

「しかし、祭りですか。それだけ大規模なものとなると、参加を希望する者も多いでしょう。ワシも商人としては稼ぎ時なんでしょうな」

 

 そうミョルマイルが呟いたことで話が膨らんでいく。

 

 テクト達としては魔国連邦を保養地として発展させることを目的としており、開国祭に招待した客人をリピーターにして囲い込もうという目論見もあった。

 

 企画としては案内と護衛を兼ねた物をつけたジュラの大森林の散策ツアーや渓流での釣りなどがあるが、今ひとつ目玉として多くの人を引き付ける魅力に欠けると感じていた。

 

 それに対するミョルマイルの案は劇場での歌劇・演劇の類や闘技場での武闘大会だった。

 

 ミョルマイルは武闘大会の覇者である閃光の勇者マサユキにファンらしく熱く語っていたが、それを聞き流しつつテクトとリムルが相談を始めていた。

 

「町の区画に空きはあるし、歌劇場を用意するのはいいかもな。劇作家を目指すものが生まれれば新しい娯楽にもつながるし」

 

「それに闘技場か……最強論争が起きないように気をつける必要はあるが、武闘大会、ね」

 

 マサユキについて語っていたミョルマイルが気づけば、テクトが凄惨な笑みを浮かべていた。

 

 禍々しくも見る者を惹きつけるその表情にミョルマイルが嫌な予感を覚えていると、それは来た。

 

「ミョルマイル君!」

 

「な、何ですかな?」

 

「マサユキとやらにも熱く語っていたし、武闘大会にも詳しそうじゃぁないか」

 

 ミョルマイルは一瞬の内に魔王二柱に両脇を固められ、耳元で囁くように告げられる。

 

「まさしく適任というものだろう」

 

「我が国でも武闘大会を開催するにあたり、その手配を任せようじゃないか」

 

「待って下さいよ、旦那方! そんな重要な話を、突然言われましても」

 

「闘技場はこちらで用意しようじゃないか」

 

「君には先ず、興行に必要な諸々を調べておいてくれ」

 

 抗議には耳を貸さず一方的に告げる二人に頭を振ると、諦めたように口を開いた。

 

「毎回毎回、お二人には敵いませんな。わかりました。不肖このミョルマイル、誠心誠意、頑張らせてもらいましょう!」

 

 緊張を滲ませながらも僅かに笑みを浮かべつつ受諾するミョルマイルに満足そうに頷くと、テクトとリムルは元通りに座り直し、闘技場の詳しい話を詰めていく。

 

 闘技場は五万人を収容出来る円形闘技場(コロッセオ)を用意する予定である。基本は無料の立見席。金持ち用に指定席や貴賓席を用意するのに加え、招待客用に来賓席も準備する。

 

 その席の割合と収益率の検討や、闘技場周辺で売り出すファストフードの準備がミョルマイルに任せられる。

 

 この施策の目的は話題作りであり、移動によって街道での収益が増す。

 

 宿屋や食事の宣伝ができれば闘技場だけで利益を出す必要はなく、何度も訪れたいと思わせるための興行の企画が第一であるとミョルマイルは読み切った。

 

 実際にはさほど深く考えられておらず、他国で話題になっているのなら取り入れようと思っていただけである。

 

 他にも怪我人に回復薬を使うことで宣伝になるという話であったり、賭博運営など様々な案が出され、これを任されたミョルマイルは責任の重さに思いを馳せつつも、沸き立つような興奮に身を包まれていた。

 

「やってやる。やって見せますわい! ワシの商人魂が、大儲けの予感をヒシヒシと抱いておりますぞ‼」

 

「素晴らしい! 素晴らしい自信だね、ミョルマイル君! そう、君ならきっと、僕達を、満足させるだけの収益を出してくれるだろうね!」

 

「ウムウム、頼もしいことだ。でだ、ミョルマイルさえ良ければ魔国連邦に来ないか? 今回の大会を成功させたという実績があれば文句は言われないだろうし、大所帯になって体制の編成が必要になってきているんだ。金勘定は不慣な者が多くてな。皆も頑張って学んでくれているが、プロであるミョルマイルが手を貸してくれるのなら百人力だ」

 

「敵いませんな。旦那方には―いえ、リムル様、テクト様。このミョルマイル、何が何でもこの度の企画を成功させ、お二人の臣下に加わりたいと存じますぞ!」

 

 まるで失敗を疑わない二人の様子にミョルマイルは大きく頷き了承する。

 

 大げさだと笑う二人とミョルマイルは綿密な打ち合わせを行い、テクトとリムルはミョルマイルの元を後にした。

 

 気になることがあると言うテクトと別れ、智慧之王(ラファエル)が記憶情報から書き出した図面をランガに持たせて職人の元へ向かわせると、リムルは自由組合のブルムンド支部へと向かう。

 

 リムルの素顔を初めて見る冒険者達の動揺を後ろに感じつつ、魔王と同じ名前では活動しづらいだろうと名前変更権(リネームシステム)を教えてもらい、無事にフューズへの取次がなされた。

 

 唐突に魔王と面会する羽目になったフューズをからかってから魔王達の宴(ワルプルギス)から七曜の暗躍までのあらましをざっと話し、ブルムンド王とフューズ、そして途中で話に上がったユウキへの招待状を渡して、リムルは自由組合を後にした。

 

 一方その頃。

 

 テクトの前にゴブエモンという人鬼族(ホブゴブリン)が跪いていた。

 

「お前にミョルマイルの護衛を任せる。できる限り気づかれぬように守れ。彼の人心掌握は手本になる。護衛をしつつもどのように人を動かしているかを学ぶといい」

 

 テクトの指示にゴブエモンはやる気充分に答える。

 

 ベニマル曰く、己の能力に頼り過ぎており、部下や仲間を軽く見る()()()があるゴブエモンがミョルマイルの護衛を通じて何か得るものがあればと思いつつ、テクトは打刀を取り出した。

 

「お前が任務を全うし、何か学び取れれば、報告に来い。褒美に、このリムルから預かった打刀をやる。本人も了承済みだ」

 

 その言葉にゴブエモンは目を見開き興奮した様子を見せる。

 

 改めてテクトが頷いてみせると気合十分な言葉を残し、護衛へと向かっていった。

 

 リムルの新しい刀が完成したため今回の褒美(エサ)としてゴブエモンへの例示に使ったが、伝わったのか微妙に感じる様子に難しい顔をしつつ、次にソウエイを呼び出す。

 

 事前に呼んでいたこともあり、直ぐにソウエイは来た。

 

「ソウエイ、カザックとかいう子爵について調べろ。奴はエルフを奴隷にしようとしているらしい。しかし、貴族としての権力が大きく、簡単には裁けないようだ。エルフは確かジュラの大森林に集落を構えていた。まだ正式に配下というわけではないが、領地に住まうものを気に掛けるのは当然だからな。何より、奴はリムルを情婦扱いした。後はわかるな?」

 

「ハッ、カザックが失脚するに足る証拠を揃えてまいります」

 

 普段は冷静なソウエイも表情に怒りを滲ませて即座に動き出す。それをテクトは満足そうに見送り、話を終えたリムルと合流し、再び屋台を冷やかしてから帰還するのだった。

 


 

次回「ラミリスの迷宮」




感想・評価・お気に入りありがとうございます。

アニメ3期が終わってしまいましたが、既に4期を期待したい気分です。

早く三人娘が本格的に参戦してほしいです。
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