テクトとリムルがブルムンドから戻るのと同時にランガより職人が集まったと連絡が届く。
その最後に口ごもるようにしていたため、「空間支配」でランガのいる西門付近へ急行すると、何やら小屋が建てられ、
ラミリスは前の迷宮を放棄して来たらしく、西門付近を占拠したと言い張る。
困った様子で応対するゴブキュウを見かね、テクトがラミリスの背後から捕まえた。
「何をしているんだ、ラミリス?」
「や、やっほー⁉ 元気だった、テクト?」
領域侵犯をしている自覚はあったのかテクトと目をあわせないラミリスにテクトがため息を吐いていると、トレイニーが木材を抱えてきた。
小屋の存在がバレたことで動揺し、しどろもどろになるトレイニーでは説明はできないことを理解し、テクトは再びため息を吐くと、跪いていたベレッタへと説明を求めた。
要するに、魔国連邦へと引っ越したいと言い出したラミリスにトレイニーが賛成し、マウザーもそれを止めずに迎合したということらしい。
トレイニーはラミリスに激甘であり、マウザーも面倒を嫌ってただただイエスマンを貫いていたため、どうしてもストッパーがベレッタになるのだが、大体が多勢に無勢で押し切られるらしい。
そして、今回も押し切られ、ラミリスの迷宮放棄と移住の強行に至ったとのことだった。
結局のところ言い争いではなくゴブキュウが言いがかりをつけられただけだったらしい。
「ゴブキュウ、大変だったな」
「いやいや、俺はいいんですが、門番さん達の方が迷惑を……」
そういうゴブキュウの視線の先では門番の人鬼族が眠りこけていた。
騒いでいた際に飛び出たラミリスへの暴言にトレイニーが反応し、魔法で眠らせたらしい。
騒ぎ始めた原因はラミリス達が小屋を建て始めたことらしく、その目的は小屋の中に居住空間への入口を作ることだった。
門番を眠らせ小屋の建設をしている内にゴブキュウや職人達に見つかり、そこにランガが合流して最終的にテクト達がやってきたというわけである。
「ラミリスさぁ……」
「あ、あはは……」
テクトの非難がましい視線にラミリスは笑って誤魔化そうとしていたが、その時間は長く続かなかった。
テクトは一つ息をつくと、ニヤリと笑い、どんな処分を下すのかと戦々恐々とするラミリスを縛り上げるのだった。
ひとまずラミリス達が作り上げた小屋は解体させ、テクト達は会議室へと移動した。
全員が席につき茶菓子が配膳されるも震えて処分を待つラミリスを放置し、テクトはまずゴブキュウへと話しかける。
「ゴブキュウ。闘技場地下に避難所のような空間を作ることは可能か?」
「少々大げさに見積もって、幹部様方の力を基準に構造計算をすると、舞台直下は安全とは言えませんね。空洞があれば衝撃で崩れかねません。ですが、空間を少しずらしてやれば問題ないかと」
「なるほど。その地下空間に扉を作ってもらいたい」
「―ッ⁉」
「扉ですか?」
「ああ、重厚な感じで、壁に石板でもはめ込むかのような、分厚い奴をな。意匠に凝ったやつだと尚良しだ」
「その扉の先にも空間を?」
「いや、その必要はない。重要なのは扉があるということだ。そうだろう、ラミリス?」
「テ、テクト⁉ それって、もしかしてもしかすると……」
テクトの指示の意味を理解しきれないゴブキュウは疑問符を浮かべているが、気付いたラミリスが喜色満面で震えだす。
テクトが糸を解くと同時に羽をばたつかせ、興奮を顕にした。
扉を作る意味―毎日のように闘技大会を開くのではなく、ラミリスの力で地下迷宮を創り、管理運営によって利益を出そうということだ。
イベントのない闘技場で新米冒険者に訓練を施すこともでき、怪我への備えの回復薬や武器のメンテナンス、迷宮帰りの宴で飲食物も利益になるだろう。
そうすることで、魔国連邦は冒険者達から利益を、ラミリスは住処と仕事、そして迷宮の運営費として利益の一部を得ることが出来る。
話を聞き、住居だけでなく仕事とその報酬も得られると理解し、ラミリスは慌てだす。
ラミリスの望み以上の結果が手に入ると知り、トレイニーが涙ぐみ、魔国連邦への移住が本決まりとなりそうなことでマウザーも笑顔になる。仮面で表情は伺いしれないが、ベレッタも嬉しそうにしているためラミリス側に否はなさそうだとテクト達が考えていると、ラミリスが生唾を飲み込みながら問いかける。
「あ、あのう……アタシにもお小遣いをくれるって、それって本当なの?」
「勿論。どれだけ利益が出るかはわからないが、広告なんかの必要経費を差し引いて、出た利益の一割をラミリスの取り分にしていいよ。仮に利益がさほど出なくとも、一ヶ月あたり金貨一枚は俺が補償しようじゃないか」
「ゑ⁉ マジ⁉ そんな大金が確約されるのでありますか⁉」
「ああ、どうせ住み着くなら迷宮の維持は必要不可欠だし、お金も手に入る。ラミリスにも損はないんじゃないか?」
テクトの問いかけにラミリスは大きく頷き同意する。
問題がクリアになっただけでなく、給料まで出ると聞いたラミリスがはしゃぎまわり、何やらトリップしていた。
「うへへ……これでアタシも大金をゲット出来るってワケよ。もう無職だの貧乏魔王だの、あまつさえ引きこもりだなんて不名誉な呼び名で馬鹿にされることもなくなるってことなのよさ!」
放って置くといつまでも自分の
当初の計画では西門の外、街道終わりの広場を拡張し、町から徒歩一時間以内での場所を目安にしていた。
だが、ラミリスの話した内容により状況は一変する。
なんと迷宮の中に指定した区画を丸ごと移すことが出来るらしく、現在獣人達が避難している区画を丸ごと利用できるというのだ。
意志あるものは本人に確認を取る必要があるが、住居や家財道具であれば無制限に移せるという。
ラミリスの固有能力「
迷宮内部だけでなく迷宮に隣接している人や物にも対象にできるらしく、例えば迷宮外部の人物から武具を奪うことも可能とのこと。
ただし、この力にも限界はあり、所有者の魔力で染まっている武具は奪えないらしい。とはいえ、それほどの物を持っているものは少数なので基本的にはラミリスと相対するものは丸腰で挑むことになる。
その後も大まかに質問し、ラミリスから回答が得られた。
迷宮の階層に限界はないが、現実的には百階層が限度だという。
階層を増やすことは一時間で可能なのだが、百階層以降だとエネルギーの消耗が凄まじいらしい。
また迷宮の階層に勝手に生物が発生することはなく、以前の迷宮で精霊が住んでいたのはラミリスが精霊女王だったことに起因しているとのこと。
また、以前の迷宮は出入り口がないだけで階層の一つとして残っているらしく、行き来は可能だという。
構造や階層の入れ替えも可能であり、一度変更すると二十四時間は固定となる。
そして、テクト達がもっとも驚愕した情報が迷宮内で死亡した場合についてである。
なんとラミリスの意のままに蘇生することが可能だという。
ラミリスが認識している必要があるとはいえ、これまでも蘇生の実績はあるらしい。迷宮内に発生した魔素だまりから生まれた魔物が蘇生可能かは実例がないため判断不能だが、少なくとも迷宮内に入ってきた者は蘇生可能だという。
人数が多くなると対象の把握ができるように専用のアイテムを身につける必要が出るようだが、その管理の手間を考えても値千金の内容だった。
「素晴らしい! 素晴らしいよ、ラミリス君!」
「ホント、本当にホント? やっぱ、アタシって凄いヤツ?」
「ああ、全くもって素晴らしい。ラミリスが軽く見られていたのが間違いだったと思い知らせれるな」
「やっぱり? アタシもそうじゃないかと思ってたのよ!」
ふんぞり返るラミリスに今回ばかりはテクトとリムルも全力で持ち上げる。
「宜しく頼むぞ、ラミリス」
「ええ、任せておいて頂戴。大船に乗った気でいたらいいよ」
リムルの言葉にラミリスも頷き、地下迷宮についての計画が動き出したのだった。
迷宮への入口を擁した闘技場はラミリスの提案通り町の南東区画の空き地につくる事になり、歌劇場は高級保養施設が立ち並ぶ北西地区の空き施設を改装する事になった。
獣人達の移動についての説明も衣食住の提供への恩もあってあっさりと済み、建設への協力まで提案された。
その後はテントの移設と土台作りが終わり、扉が作られたことでラミリスの迷宮への入口が完成した。
住処の問題がないことを確認した獣人と魔国連邦の職人によって本格的な工事が始まり、ラミリスへと迷宮について発注をする。
階層は限界の百階層とし、仕掛けと魔物の強さを段階的に変えるためだ。
魔物に関してはテクトとリムルの心当たりがあるためそちらは後回しにして、内容について三人で話し始める。
雰囲気が盛り上がることでどんどんよろしくない方向に進んでいくが止める者はいなかった。改めて考えてテクトは内心で冷や汗をかいたが、目を輝かせるラミリスを前に止めることはできず、ラミリスはやる気満々で迷宮の拡張を始めたのであった。
拡張はラミリスにしかできないため任せ、テクトとリムルは闘技場予定地を後にした。
迷宮内に設置する宝箱にいれる武具を用意するためにクロベエの工房へ向かうリムルと別れ、テクトが向かったのはリムルの庵。
茶室のような和の心を極めたような小屋ではヴェルドラが我が物顔でくつろいでいた。
一応ヴェルドラにも部屋を用意されているのだが、リムルの印刷した漫画があるため入り浸っているのである。
「ヴェルドラ、今少しいい?」
「む? 何だ、我は忙しいのだが?」
訪問したテクトにヴェルドラは顔を上げることなく返事をする。その姿を見てテクトは肩を竦めると踵を返した。
「そっか、忙しいなら仕方ないな。せっかくヴェルドラの妖気を―いや、邪魔して悪かったよ。忙しいところごめんね」
「おっと、ちょっと待つがいい。我も忙しいのだが、貴様の頼みなら仕方がない。話を聞こうではないか!」
「計画通り」
「ム? 今何か言わなかったか、テクトよ?」
「いや? 何も? そもそもはヴェルドラの住処の話を―ああ、いや、勿論忙しいなら別に」
「待て待て、そう慌てるでない。我とお前の仲ではないか。お前の頼みを優先するのは当然というものだぞ、クア──ハッハッハ!」
テクトの言動にヴェルドラはあっさりと絡め取られ、話を聞く態勢に移る。
テクトはそれに満足そうに頷くと、ラミリスの引っ越しと迷宮について語り始めた。
「で、今もラミリスが階層を増やしてくれているんだよ。これはこの国の名物となるようなプロジェクトであり、まさしく今後の魔国連邦の顔になるのさ」
「アヤツの力が予想より凄いのはわかったが、それが我への頼みとどうつながるのだ?」
「ヴェルドラは漫画を色々読んだからわかるだろ? ダンジョンにはそれを統べる王が必要ではないか、と」
「王、だと?」
「管理は俺やリムル、ラミリスで行う予定なんだけど、ラミリスの力を活用する以上、その最奥にはラミリスの本邸でもある精霊迷宮への扉が必要なんだよ。ダンジョンコアみたいにね。となると、その門の守護者となる者はまさに最強と呼ぶに相応しい者であるべきだと、そうは思わないかね?」
「思うとも! なるほど、流石はテクトだ。それを我に任せたいと、そういうことだな!」
テクトの甘言にヴェルドラは喜色満面に快諾する。
それを眺めるテクトも笑顔であり、絵面だけを切り取れば仲の良い友人同士の会話だった。
「その認識で間違いないよ。そして、これを受けてくれるのなら、もう一つ利点があるんだ」
「ほう? 最早引き受けるつもりであるが、その利点とやらも聞いておこう」
「ほら、前に言ってたじゃん? 魔素を押し込めておくのが辛いって」
「なっ⁉ まさか……」
「そう! 迷宮内なら外部と隔絶した空間だから魔素を抑える必要なんてない。最強たる竜種本来の姿で挑戦者を待ち受けるなんてこともできる。更に、迷宮内には魔物を配置して冒険者の迎撃を行うことができるようにするつもりだ。現実にシミュレーションゲームができるということだ」
そう、ヴェルドラの放つ妖気こそが魔物の調達先だった。
封印の洞窟内でテクトのエサとなっていた魔物達はA-ランクのものもいた。
現在のヴェルドラは成長しているので迷宮内を魔素で満たすことも可能であると考えられ、魔素濃度さえ調整すれば高ランクから低ランクまで様々な魔物を迷宮内に生み出せるのではと思われた。
また、妖気を発散させるのも重要であり、ヴェルドラが勝手をして適当に魔素を発散させてしまえば周囲が死の国になってしまうのだった。
ヴェルドラの妖気暴走を未然に防ぎつつ、妖気を有効活用する。ついでに部屋を占拠されたリムルも助かるという一石三鳥な計画なのである。
ヴェルドラは既にラスボスムーブの妄想に浸っており、テクトは今後の展望を考えつつ適当に相槌を打つのだった。
そして翌日。
地下迷宮百階層予定の階層のテクト、リムル、ヴェルドラ、ラミリスが揃っていた。
ラミリスが疲労でふらふらしていたため、一旦休憩を挟み進捗を聞くと、既に十五階層まで増えているという。
階層は勝手に増えるらしく、ラミリスが迷宮内の階層を提案し、内装を変えることにした。
何も無い空間に三百年の封印を思い起こし嫌そうにするヴェルドラのため、リムルが思念伝達で内装の案を共有するとヴェルドラは満足そうに頷き、ラミリスがその通りに一瞬で空間が作り変えられた。
壁は重厚な石壁になり、いくつかの小部屋と大広間が出現した。
大広間は百メートル四方の正方形であり中央には台座が儲けられていた。その周囲には篝火が焚かれている。
ラスボスが座するに相応しい空間に仕上がった大広間だったが、普段ヴェルドラがくつろぐ姿から人型でも生活できるよう部屋が用意されていた。
小部屋にはリムルとテクトによって絨毯や机、椅子、壁際には漫画の並べられた本棚が設置されていく。
模様替えの途中からヴェルドラとラミリスはくつろぎ始めたので、一段落したところでリムルが叱り、全員で模様替えをしてこの日は終了した。
そして一週間後。
迷宮は百階層まで拡張され、その構成は部分単位で変更可能になっていた。
これはマッピングが完了した地図の売買を防止するためである。救済措置として 十階層ごとに
迷宮内では空間転移はできないが、記録地点にたどり着けばその地点への転移が可能になるらしく、その前に関門となる
階層守護者の突破者にはボスドロップとして宝箱を用意する予定もある。
その階層守護者の補充だが、ラミリスの権能で蘇生する予定である。本人の確認のいる外部の者と違い、配下であれば不滅の存在となれるらしい。この場合の配下とは契約を結んだ相手やラミリスが認めた相手が対象となる。
また、冒険者の蘇生に関しては意思確認だけでなくラミリス作成の腕輪を配布することにした。
これによりいちいち契約を結ばずとも迷宮外に飛ばして蘇生することができる様になり、効果発動後は破損するらしい。
これの効果はベレッタが実践してみせたらしく、死亡後は光の粒子となって無事に迷宮外で復活できたらしい。
冒険を中断するために即時帰還するためのアイテムも作成しており、こちらは吹けば発動する笛型のアイテムでマウザーが実践したとのことだった。
腕輪と笛はそれぞれ“復活の腕輪”と“帰還の呼子笛”と名付けられ、ラミリスの迷宮以外では効果のないことに付いての説明を徹底的にすると共に発売する予定である。
ちなみにこの迷宮の根幹である「迷宮創造」は智慧之王やシラヌイでも再現は不可能らしく、ラミリスの重要性が上がる結果となった。
「素晴らしいよ、ラミリス。君の力がなければここまで素晴らしいものはできなかっただろう」
「へへっ、当然じゃん! アタシだって、やる時はやるのよさ!」
テクトの手放しの褒め言葉にラミリスが得意げにテクトの周りを飛び回る。
テクトが手を出すとそこに着地してふんぞり返り始めたので、テクトが苦笑しつつ撫でているとリムルが咳払いをして注目を集めた。
「さて、待たせたね、ヴェルドラ君。ようやく君に、妖気を開放してもらう時が来たようだよ」
「おお、ついにか! クアハハハ、任せよ!」
声をかけられたヴェルドラが掛け声とともに妖気を開放すると、ヴェルドラを中心にとてつもない圧力がかかる。テクトの張っていた結界をあっさりと破壊し、リムルの絶対防御が受け止めた。
「クア──ッハッハッハ! 我、見参!」
濃密な魔素の奔流の中心で吠えるヴェルドラはとても威厳に満ちた姿だった。それなりに広い大広間がその巨体で狭く感じるほどだ。
「我、スッキリ! いやあ、しかし、派手にいったな。これは外でやっていたら、ちょっぴり大変だったやも知れぬ」
「ちょっぴりどころじゃないよ、これは。壁が歪んでるじゃん……まぁ、とりあえず、今後は定期的にここで発散しておいてね。万が一外でやったらキレるから」
「う、ウム。任せておくがいい!」
テクトがヴェルドラに注意を促す最中も迷宮内に魔素が浸透していく。
中間地点である五十階層でさえかつての封印の洞窟以上の濃度となっており、ヴェルドラの持つ魔素の強大さに呆れつつもこの日は解散となった。
次回「
感想・評価・お気に入りありがとうございます。
基本的にネタバレを踏まないようにしていたので気づいていませんでしたがアニメ4期と映画第二弾が進んでいるようですね。
紅蓮の絆編を見直しながら本作に入れ込めるか考えましたが、無理そうなので諦めます。
「万象補足」と「神域眼」・「空間支配」のコンボがイベントの阻止と逃げる敵の即時撃破を可能としてしまうのがひどいですね。ものすごい塩試合になります。