謁見式二日目。
一日目に謁見した種族と比較して、比較的力のある種族が多く予定されていた。
その最初―まだどこの代表も謁見の間に入らない内から外で騒がしく声が響き始めた。
どうにも二つの種族が言い争いをしているらしく、シュナが不快そうに眉を顰め、シオンは眦を決して怒りを我慢していた。
そんな二人を見て、テクトが冷ややかな目で妖気を開放しようかとしていたところでその二種族共が入ってきた。
争っていたのは
それぞれが十人ずつ程若い戦士を引き連れ、入室後も互いを威圧し合うように睨み合う。
彼等は百年以上も戦争を続けており、今回はどちらが先に謁見するか争っていたのだ。
言い争いを聞く限り、先に加護を得ることで相手より優位な立場を得ようとのことらしいが、そもそもテクトとリムルは配下の魔物への平等を謳っているので順番に意味はない。だが、当人同士ではやはりどこか違いがあるらしい。
今にも喧嘩でもしそうな空気でお互いに牽制しつつ、両種族がテクトとリムルの前に立つ。
ろくに二柱を視界に入れていないあたりで既にリムル以外の怒りのボルテージが上がりまくっているのだが、互いだけを気にする牛頭族と馬頭族の代表は気づかず、ふてぶてしくも自分達のほうが上であり、逆らう種族を滅ぼして森で最強を証明して見せると豪語する。
実際にその実力は確かである。彼等の中にはAランクに達する魔素量の者も交ざっており、百年以上の戦争経験によって技量も十分と推測できた。
だが、やはりリムルを視界に入れない様子にテクトが妖気を漏らそうとするのを当人が押し留める。
というのも、リムルは牛頭族のミノタウロスを思わせるビジュアルから彼等を地下迷宮の四十・五十階層のボスとして抜擢できないかと考えていた。
そんなわけで、テクトよりも穏便にいこうと少しだけ「魔王覇気」を開放してみたのだが、牛頭族も馬頭族も気づく者はいなかった。先程の互いの言い分が気に食わないのか罵り合っていたのだ。
「貴様等、我等が王の御前にて、無礼にも程があるぞ。このリグルドが、身の程を教えてやるとしよう!」
そういいながら前に出たのはリグルド。
普段は温厚で街の行政を頑張っているリグルドだが、実は隠れて鍛えており、単身であればゴブタやリグルよりも強かったりするのである。
実際に彼等の態度に問題があるので改めるべきであるのだが、そこは実力主義の魔物達。両種族の長もリグルドに反発し、配下の者もそれに追従した。
一触即発という雰囲気になる謁見の間でリグルドが許可を求めるように玉座へと視線を送り、テクトの形相を見て一瞬にして青ざめる。
直後、謁見の間にテクトによる暴威が撒き散らされた。
完璧な制御により控える幹部達には何の影響もなく、物理的な圧力さえも感じる圧迫感に両種族の長以外の全員が気絶する。残された両種族の長もガタガタと震え、膝を屈したのを見て、テクトが口を開こうとしたところで、シュナの結界が破られ、町の外から凄まじい圧力が放たれた。
その巨大な妖気から膨大な魔素量を有する魔人が敵対行動を取っていることが察せられる。
警備の者達では対応できそうもない気配にテクトが立ち上がり、それに合わあせて膝から飛び上がったリムルが人の姿へと変化すると、テクトが号令を掛ける。
「行くぞ」
その言葉に各々返事をし、未だ震える牛頭族と馬頭族を置いて巨大な気配へ向かっていった。
現場では
既に戦った後なのか警備の者が倒れているが全員が生きており、無事なものは住人や来客の避難誘導にあたっている。
事前の訓練の甲斐あって、さほど混乱は起きていなかった。
三人の男は髪を染めた不良という言葉が合いそうな者達であり、長身で引き締まった体躯の優男が耳に、筋肉の塊のような体躯の大男が鼻に、先の二人と比べて大分脂肪を蓄えている男が口に、それぞれピアスを付けていた。
「何だ貴様等、ここを魔王リムル様と魔王テクト様の支配領域と知っての狼藉か?」
現場に着くなりシオンが問うと、優男がニヤリと笑って前に出た。
「どけどけ、俺は雑魚には興味ねえ。クレイマンをぶっ殺して魔王の座を奪おうと思っていたのに、それを邪魔されてイライラしているんだ。無駄な殺しはしねーが、俺の邪魔をするヤツには容赦しねーぜ?」
態度こそ粗暴だが、倒れていたものは誰も死んでおらず、彼の言葉は本音なのだとわかる。
襲撃は問題だが、根っからの悪人とはいえない相手に、リムルとしてはできれば穏便に済ませたいところなのだが、時期が悪かった。
現在は謁見式の最中であり、また開国祭を前にして商人も多く出入りしている。
周辺諸国からの目が多くある中で喧嘩を売られた魔王が引くわけにはいかず、仕方無しにリムルが前に出ようとした時、シオンが制した。
「リムル様、お待ち下さい。この場は私が出ます」
ベニマルも出ようとしていたが、
「ほお、お前が魔王リムルの側近か? 親父から聞いていたクレイマンの野郎をぶっ倒した女鬼人だな? 面白い。先ずは肩慣らしに」
「兄貴、待ってくれよ。魔王は譲るから、側近は俺達にもよこしてくれや」
「ふぇ──っふぇっふぇっ、そうでやすよ。オイラも腹が減ってるんで、一人くらいほしいでやんす」
三人の言葉から優男が長男、後の二人が弟で兄弟だと察せられる。
クレイマンとシオンの戦いを聞いているということは彼等の父は
女性であるミリム、ラミリス、ルミナス、最初から精神生命体のギィを除くと候補はダグリュール、ディーノ、レオンの三人。
父親は誰なのかとリムルが考えている間に、シオンが進み出る。
「黙れ。今御二人は謁見式で忙しい。時間がもったいないから、三人まとめて相手をしてやろう」
「は?」
「おいおい、俺達を舐めているのか?」
「女だから手加減してやろうと思ったが、止めだ。泣かす。絶対に泣かせてやるぜ」
「ふぇ──っふぇっふぇっ、今のは少し腹に響いたでやんす。久しぶりに満腹になれそうでやすね」
シオンの言葉にリムルがおもわず声を漏らし、三人組が激昂する。話が纏まったのを見て、テクトが口を開く。
「戦うのなら移動するぞ。ここは狭い」
テクトの言葉に三人も従い、闘技場へと移動する。
リムルは心配そうにしていたが、テクトとベニマルを始め、誰も心配しないのを見て少しは余裕を取り戻していた。
シオンと三人を舞台に残し、後の面々が観覧席に入ったところで優男が口を開く。
「おい女、度胸は買ってやるが、今ならさっきの発言を撤回させてやるぜ?」
「ふん! 魔素量の違いが、戦力の決定的差ではないと教えてやろう!」
シオンが某彗星のような言葉で挑発するのを最後に戦いが始まった。
初手は太った男の体型に見合わぬ機敏な動作での突進。
まるで砲弾のような突撃をシオンは横蹴りで一蹴し、優男へと吹き飛ばす。
シオンはその光景に唖然とした大男の懐に潜り込むと、腕と襟首を掴み、そのまま前崩しにして背負投げを決める。
大男は頭から石畳に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
それを見て太った男が激昂しながら後ろから抱きつき締め上げようとするが、シオンは怪力で無理やり拘束を外し、向き直ると四つに組んで力比べが始まる。
僅かな間に拮抗したが、太った男の腕があらぬ方向に曲がり、膝を折る。
太った男が激痛に悲鳴をあげるよりも早くシオンの連撃が決まり、そのまま沈み込む。
太った男の沈黙を確認したシオンに優男の蹴りが迫るが、シオンは軽く仰け反って躱した。
しかし、躱された優男には笑みが浮かんでおり、その事にリムルが警戒する間もなく、シオンの頭部に凶悪な斧のように踵が降る。
鈍い激突音が響き、砕けたのは優男の足だった。
優男が驚愕する間にもう片方の足もシオンによって砕かれ地に伏すと、馬乗りにされて拳で沈められた。
「勝負あり。だな」
「ええ、シオンも手加減が上手くなりましたね」
テクトの宣言にベニマルも平然と答え、リムルは驚愕していた。
その驚愕をあっさりと終わったことで物足りないと感じた故の動揺と勘違いしたシオンを止める一幕もあったが、テクトは一旦治療をして三人を正座させた。
「これに懲りたら、もう俺達に迷惑かけてくるなよ! 後、他の魔王はもっとヤバイから、迂闊な真似は慎むように」
リムルの言葉に三人は激しく頷くと、優男が呟く。
「親父に聞いていた以上の強さだったぜ……」
「兄貴、ってことは魔王二柱は」
「ああ、もっとスゲエってことだ」
「ふぇ──っふぇっふぇっ、腹が減ったでやんす」
何やらおかしなことを言う者もいたが、三人はテクトとリムルを尊敬の眼差しで見始める。
そんな三人にテクトが問いかける。
「で、お前達は魔王ダグリュールの息子ってことでいいのか?」
「はい! 御賢察の通りです。俺は長男のダグラと申します」
「次男のリューラです」
「末っ子のデブラでやんす!」
テクトの問いかけは素直に答えることはなく、否定の仕方で探りを入れようという意図だったが、あっさりと白状されてテクトは目を瞬かせる。
故郷で暴れた三人は追い出されたらしく、ダグリュールに魔国連邦で修行してくるよう言われたそうだ。
テクトは三人への呆れと知り合い程度の仲で問題児を送りつけてきたダグリュールへの怒りを滲ませたため息を吐くと、彼等をシオンに預けることにした。
シオンの鬼軍曹ぶりを知っているテクトとしては厳しすぎる訓練に自主的に魔国連邦から退去することを期待していたが、シオンと三人はノリノリで話し始め、テクトは逡巡したが、再びため息を吐くと彼女等を置いて謁見の間に戻ることにした。
謁見の間に残されていた牛頭族と馬頭族は戻ってきたテクト達を見るなり平伏した。
テクトの「畏怖」に加え、自分達以上の力を持つダグリュールの息子たちを難なく打倒したシオンの存在が彼等の自尊心をへし折り、逆らえば自分達は滅亡するのだと強く印象付けたのである。
その後、牛頭族の長を迷宮のボスにしたいリムルによる取り成しがなされ、今回の無礼は許されることになった。
この後、本日の予定はスムーズに進んでいく。
扉の先にも漏らしていたテクトの「畏怖」とダグリュールの息子の話が瞬く間に広がり、それを謁見を終え心底怯えた様子の牛頭族と馬頭族の存在が補強した。
ジュラの大森林でも強者たる二種族でも怯える存在に逆らおうとする者はいなかったのである。
そして今、この日の最後の訪問者―
長老とはいえ青年にしか見えないのだが、耳長族は長命であり、二十歳ほどまでは人間同様に成長し、寿命を迎える直前の二十年ほどで一気に老化するため年を重ねているようには見えないのである。
そしてその長命さの理由は精霊が実体化、もしくは堕落して妖精となり、肉体を持ったものを祖先として持っているからとされている。
ドワーフや
地属性が
水属性が
火属性が子鬼族に
風属性が長耳族に
というように大別されるらしく、これらが生まれたのは大昔に他種族と妖精が交わった結果とのこと。
この内子鬼族は血が薄いため他の種族と比べて短命で、進化先の大鬼族も百年程が寿命となる。
鬼人となると精霊であった頃の力が覚醒し、強力な能力の行使も可能となるという。
話を戻して耳長族だが、その寿命は五百から八百年と言われており、人間との混血でも三百年近くは生きることができるという。
また、個体差はあり、妖精の血が濃い程長命となる。
ただ、寿命が長いために子孫を残すという欲求が乏しいらしく個体数は少ないという。
跪く長老も血が濃い個体なのだろう。
その長老の挨拶は魔王就任への祝辞と御礼だった。
カザックの件で耳長族に関しては調べられ始めていたのでテクトは理解できたが、長老の御礼の理由は牛頭族と馬頭族が関係していた。
両種族の百年以上の戦争の被害をもっとも受けていたのが耳長族であり、戦争地帯の拡大によって隠れ里を守る結界が壊され、食料の確保も困難になっていたという。
ドワルゴンでリムルが訪れた「夜の蝶」で働いていた耳長族もそうした窮状を立て直す為に働きに出ていた者達の一部らしい。
それにより人口流出にも拍車がかかり、里の維持が困難になった。
やむなく引っ越しを検討していたが、転居先も見つからず、ジュラの大森林を支配する事になった魔王に牛頭族と馬頭族をなんとかしてもらえないか陳情しようとしていたところ、その前に決着が着いたということだった。
後は引っ越し先の確保が目下の悩みらしいが、それについてはリムルから提案があった。
現在の耳長族の人口は三百人ほどであり、であれば
耳長族と樹人族は相性がいいと聞いており、九十五階層に設置された店によって仕事の確保もできるため、出稼ぎに出ている者達も呼び戻すことができる。
リムルは「夜の蝶」のような接待に使える施設も作れるのではという考えは伏せ、長老へと伝えると、長老は感激し、里に残る者達を連れてくると宣言した。
ただ一つ気になることがあるらしく、それがここ最近に出稼ぎに出た者が戻らないことだという。
耳長族は結束が強く里を見捨てるとは思えないが、個人主義な面もあるため気まぐれを起こしているだけかと考えられるそうだが、実情は違うことは調べられている。
出稼ぎに出ていた耳長族達は
各国を股にかける奴隷商会は戦闘奴隷を多数抱えた武装集団であり小国を超える戦力を誇っているということで慎重に対応を考えている最中である。
ただ、勇者が動いているという話もあり、どう転ぶかわからないため長老には調査を行うことを伝え、この日の謁見は幕を閉じた。
次回「
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