来週は引っ越しの手伝いがあるので投稿できないかもしれません。
申し訳ありません。
謁見式も終わったその日の夕刻。
久しぶりに幹部一同が集合し、近況報告会が行われることになった。
幹部の他にもヴェルドラとラミリス、そしてベレッタ、トレイニー、マウザーの三人に加え、ミョルマイルが参加している。
ミリムは正式に訪れることになる三日後まで滞在すると流石に問題だと察して帰って行った。一応対策としてテクトの作品を持たされており、フレイの怒りを中和できないかと姑息な策がもたらされていた。
幹部が揃う場ということでミョルマイルのことを改めて紹介し、彼から説明が始まる。
二日後、開会式の前夜には町を挙げての前夜祭が執り行われる。
これは招待客だけでなく、訪れている商人や護衛の冒険者も含めた全員に無料で酒や料理を提供する予定になっており、すでにテクトは厨房への立ち入り禁止令が下っている。
食事の提供は近隣都市まで告知済みであり、これを目当てにやってくる者は将来の顧客や労働力とできる可能性があるので盛大に持て成す予定になっている。
また、迎賓館では王侯貴族を招く宮廷晩餐会が催されることとなっている。
今回、王侯貴族に提供する料理はシュナとテクト、そして吉田という異世界人による共作となっており、立食形式で行われる。テクトはレシピには関われたものの試作すらさせてもらえず厨房から締め出され、ちょっと泣いた。
そして本番である開国祭初日。
リムルによる演説から始まり、歌劇場での鑑賞会が予定されている。
これは魔王として武を誇るのではなく文化に精通していることを見せつけることを目的としている。
その裏では円形闘技場での武闘大会の予選が行われているが、前述の理由から見学は行わないことになっている。
そして、昼食を挟み技術発表会となる。
ガビルとベスターによる、回復薬の歴史紹介。
クロベエとガルムによる、武具の展示。
が博物館で行われる事になっている。
歌劇場や博物館の一般公開は二日目からとなっており、王侯貴族とは観覧時間が重複しないようになっている。
二日目の午前は武闘大会の本戦見学。
昼からは歓談会という名目の自由行動となっている。
テクトとリムルは闘技場では貴賓室にいるので、用件のあるものはこの時間で順番に話すことになる。
招待状ごとに案内の者が用意されており、できる限り不自由ないように配慮されていた。
三日目は午前に武闘大会の決勝、午後には地下迷宮の御披露目がなされる。
今回は制限時間を設け、その間の攻略の具合を見て難易度の調整を行う予定になっている。
日程の確認を終え、各員の報告に入る。
特になければソウエイからの報告で終わる予定だったが、ラミリスから手が挙がる。
何でも九十五階層の森林が侵食を始め、七十一階層までを覆い尽くしたらしい。
完全に隔離していた九十一〜九十四階層は無事だったが、他の階層はヴェルドラの魔素を浴び繁殖した植物たちが鬱蒼と茂り、原生林のような有り様だという。
また、魔素が樹木の成長に持っていかれたことで魔物が発生せず、下層階のボスにふさわしい魔物が生まれなかったとのことだった。
一度A−ランクの
「でね! アタシは
「我にはボスに相応しい者を雇ってくれ。それと、原生林を綺麗に掃除せねばならん」
「ふむ……」
ラミリスとヴェルドラの言葉を聞き、テクトが少し考える。
そもそもラミリスには精霊工学関連での協力を要請していたこともあり、聖霊の守護巨像を創ることは問題ない。
だが、当分は冒険者が下層階へ到達する事はないと見込まれる以上、ヴェルドラの話はしばらく放って置く方針で回答しようとしたところ、シュナ、トレイニー、ランガの声が重なった。
まず、シュナが推薦したのはアダルマン。
日光に弱く、洞窟内で過ごしていたアダルマンとその配下達も迷宮内であれば問題なく過ごせる上、夜な夜な徘徊していた彼等による苦情も解消できるというどちらにも理のある提案に見えた。
また、テクトを神と定め、シュナを巫女姫と見立てて賛美歌でも歌いそうな勢いであり、テクトも相手をするのは面倒だと感じていた。
そのためこの案は承認され、アダルマンが六十階層に、彼に協力させつつ聖霊の守護巨像の作成を進めて七十階層に設置することに決まった。
次に、トレイニーが推薦したのはゼギオンとアピト。
彼等が眷属を召喚すれば森の開拓も可能であり、これまでも
ヴェルドラがゼギオンを鍛え上げて見せると豪語し始め、その可否はともかくとして、少なくとも嵐蛇以上には強いため、これも承認される。
そして、ランガが推薦したのは
魔王達の宴の後、支配の反動からか目覚めなかった九頭獣はフェルや
森を開拓するのは得意だと話しているらしく、本人がやる気であるならば任せてみてもいいのではとのことだった。
差し出されたランガの頭の上には四本の金色の尻尾を持った子狐が目を輝かせていた。
「まぁ、本人がやりたいって言うならいいか。そうだな、階層を任せる訳だし、名前もつけるか。よし、お前は今日から
名付けが行われたことでクマラに変化が生じる。
と言っても身体が大きくなることはなく、尻尾が九本に増えただけだった。
クマラには八十一〜九十階層を任せ、当分は冒険者も訪れないはずなので、ゆっくり開拓させることにした。
これにより、ゼギオンとアピトには七十一〜八十階層が任される事になった。
開国祭関連での話も終わり、改めてソウエイからの報告に移る。
それは
何と勇者によって奴隷商会が壊滅させられたというのだ。
奴隷商会はバラキア王国に根を張っていたが、勇者がその汚職ぶりを暴き、国王の協力と自由組合からの援軍を得ての掃討作戦が行われた。
また、その際に繋がりのあった各国の貴族が摘発され、カザックも関わっている事がわかり、逮捕されたとのこと。
イングラシアでも奴隷商会壊滅の噂は広がっており、西側諸国最強の勇者として祭り上げられているらしい。
これはヒナタがリムルと引き分けたという話によって評価に変化があったことも理由だという。
そして現在。
勇者マサユキによって奴隷商会に捕らわれていた
だが、マサユキの目的は魔王討伐であるという噂が蔓延しており、それを知っているソウエイはマサユキが魔国連邦到着する前に対処しようとしていたが、一応は配下を救ってもらった恩義があるので最初から敵対的な態度を取るのではなく、一度話をする方針と取ることにリムルが決め、この日の会議は終了した。
その夜。
テクトとリムルはラミリスからの呼び出しを受け、地下迷宮最下層を訪れていた。
特に理由を告げられたわけでもないため訝しみつつも大広間へと転移すると、ラミリスが偉そうに腕組みして待っていた。
「よく来たわね、テクト、リムル。
「帰る?」
「そうだな」
「わぁぁぁぁ! 待って、ごめんってば! 調子に乗ったのは謝るから!」
迷宮自体は本人の能力であるためラミリスの言い分は間違っていないのだが、若干苛立ったため回れ右をする二人にラミリスが必死に謝り引き止める。
この国における力関係がよく現れた光景である。
実際に帰るつもりではなかったため二人も素直に引き止められ、全員で奥の小部屋に向かうと着席する。
魔王三柱にお茶が出されたあたりでテクトが切り出した。
「それで、急にどうしたのさ。迷宮の問題点に関してはさっきの会議で方向性は示しただろ?」
「迷宮に関しての話じゃないのよ。今回来てもらったのは「勇者」についてなの」
「勇者って、今魔国連邦に向かっている奴か? なにか知ってるならさっきの会議でも言えばいいじゃないか」
「ああ、違う違う。アタシが言ってるのは「勇者」そのものについてなのよさ」
ラミリスの言葉にテクトとリムルが首をかしげるのを見て、ラミリスは得意げに説明を始めた。
曰く、勇者とは二種類存在し、
前者がケンヤやレオン、後者がマサユキとなる。
違いとしては主に精霊の祝福を受けているかどうかだが、共通するところもあり、それが魔王との因果だという。
何かしらの因果があるのは以前にもミリムが話していたが、勇者には魔王と対峙する運命に置かれるのだ。これは魔王側にも同じことが言え、魔王を名乗れば勇者と対峙することになる。
実際にギィやルミナスも勇者と戦っており、彼等以外の魔王も勇者と対峙したはずだという。
例外なのはレオンであり、勇者から堕落したレオンは魔王と勇者の要素を両立しているため、因果が自己完結している。
「因果がどうとかはわかったけどさ、それがどこにつながるんだ?」
「要するに、新人の魔王が二柱いるこの国には少なくとも今向かってきてる勇者以外にも勇者が来る可能性があるってこと。でもそんなの面倒でしょ? それを解決する方法があるのよ」
ラミリスの言葉にテクトとリムルが瞠目する。
それを見てラミリスは一層得意げな顔になると決定的な言葉を繰り出した。
「テクトを勇者にするのよ!」
それを聞いた途端にリムルの視線が呆れを含むものになる。
頭を掻き、深い溜息を吐くと、頭痛をこらえるような顔で諭すように話し始めた。
「あのなあ、テクトは魔王なんだぞ? そりゃレオンは勇者から魔王になれたかもよ? けど、それは勇者からの堕落っていう経過があって、逆は無理だろ」
「ブッブー! 残念でした! アンタは忘れてるかもしれないけどね、ちゃんと根拠はあるんだから!」
「はあ? おいテクト、なんとか言って」
「やっと出したか。もう出てこれないかと思ったじゃないか」
「うん……ごめんね、ほんとに……」
リムルは自身の言い分を真っ向から否定するラミリスに本人にも話をさせようと振り返ると、ちょうど一体の闇の上位精霊が現れたところだった。
精霊女王を介した勇者の誕生に必要なのは光か闇の上位精霊の加護。そう、テクトは用件を満たしていたのである。
これまで闇の上位精霊が顔を出さなかったのは魔王への進化の際に「虚飾者」によって隔離されていたためである。
その理由はラミリスが堕落したことに起因しており、ラミリスがミリムの魔素を受けて堕落したように、闇の上位精霊が魔王への進化の際の余波を受けて妖精にならないよう対策として行っていた。
隔離はそのまま「
その後は別に解放しても問題なかったのだが、修羅場を端に発するあれこれで後回しにされ、「虚飾之王」も使う機会がなかったので若干忘れられていた。
それをラミリスの指摘で思い出し、実に数カ月ぶりの解放となったのである。
ここまでくれば、リムルもああ、そういえばと思い出した。
リムルの表情を見て、再び闇の上位精霊が憤慨する。
リムルの「胃袋」に入っていたヴェルドラ同様に、テクトの記憶から漫画などを閲覧することをシラヌイより許可されていたため、何もすることがなく退屈というわけではなかったらしいが、忘れられていたとは思わなかったのだ。
そうして散々文句を言い、その正当性を誰も否定できず受け止め続けることしばし―ようやく収まった頃には闇の上位精霊は肩で息をしていた。
「え、え~と要するにさ、資格のあるテクトを「勇者」として認定しちゃえば、リムルかテクトの因果を終わらせられるわけよ。そういうわけだから、テクトも勇者ってことでいいわよね?」
「俺は別にいいんだけど、何かやるべきことってある? 勇者を名乗ったりとか」
「そういうのはいらないわ。自分が勇者だって自覚だけ持っとけばいいんじゃない? と言っても、アタシが勇者に認定した連中が何してたか知らないけど」
「えぇ……」
無責任に話すラミリスに全員が呆れた目を向ける。
そんな視線に耐えかねたラミリスは強引に話を進めることにした。
「ンンッ、とにかく! テクト・D・F・テンペストを勇者として認定するわ! ちゃんと自覚を持って行動すること、いいわね!」
「あ~はいはい、承りましたよ、精霊女王ラミリス殿。本当にこれって効果あるのかなぁ」
勢いに任せるラミリスに呆れながら承諾を告げるテクトだったが、その結果は案外早く立証された。
《確認しました。勇者の卵を獲得しました》
「あっ」
「? どうした?」
「いや、なんでもない」
あまりにも早い結果の開示にテクトは声をあげたが、それを聞きつけたリムルを誤魔化し、他に変化が無いかを確認する。
《確認しました。ユニークスキル「
新たに手に入れたのはユニークスキルだった。
その権能は「思考加速/並列演算/詠唱破棄/解析鑑定/万象洞見/空間操作」であり、見覚えのない「万象洞見」の内容は隠蔽されている事柄に対する解析能力の強化だった。
総じて「峻厳者」の権能は事象の看破に特化した権能であると言える。
テクトの感想としてはすでに究極能力が主力となり始めており、ユニークスキルが役に立つ場面はあまりなさそうに思える。
また、解析系は「
その後、不思議そうにするリムルとラミリスを丸め込み、大した変化はないということで納得させた。
テクトがごまかしの言葉を紡ぐ中、なんとなく状況を理解している闇の上位精霊はため息を吐き、テクトの中へと戻っていくのだった。
次回「千客万来」
おまけ
「テクトの寝坊」
魔国連邦ではリムルとテクトは同じ部屋で仕事をしている。
基本的には最終的な決済はリムルが行い、その前段階としてテクトが精査をすることになっている。
とはいえテクトにも決裁権は与えられているため、案件をそれぞれ分担して捌くのが常である。
また、テクトは放って置くと際限なく仕事をし続けるという認識をされているため、始業時間と就業時間が割としっかり決められており、テクトも自業自得ではあると思っているため粛々とそれを守っている。
のだが、この日、テクトが始業時間近くになっても執務室に現れなかった。
ベニマルに付いて
『テクト様がご不在、ですか……申し訳ありません。昨夜は立て込んでいたのでテクト様の庵にはお邪魔していませんので……もしかすると寝過ごされているのかもしれません』
「テクトが寝坊? あの仕事人間が?」
『時々ですけど、中々布団から出てこられない事がありまして』
シュナはテクトの庵に通っているし泊まることも多いのだが、毎日ではない。仕事の状況によってはいかない日もわずかながらあるのだ。
とはいえ普段のテクトの様子を知ってるリムルからすればテクトが寝坊するとは思えなかったのだが、最もテクトに近しいシュナが言うのであればその可能性もあるかとテクトの庵に向かうことにした。
数分後、テクトの庵にシュナ―の姿を取ったリムルが訪れていた。
シュナは手が離せないらしく、リムルがテクトを起こし向かうことになった。
その際にいたずらも兼ねて、本人に許可を取った擬態によって決行している。
テクトとリムルは互いの庵の鍵を持っているため、鍵を開けて静かに入る。
間取りは知っているため迷いなくテクトが寝室に使っている部屋へと辿り着くと、ゆっくりと襖を開いた。
床の間では障子越しの陽光に照らされテクトが眠っていた。
ビスクドールもかくやという美しい寝顔にリムルはしばらく見つめていたが、ここに来た目的を思い出し、口調に気をつけながらテクトを揺り動かして目覚めを促す。
「テクト様、起きて下さい。始業時間になってしまいますよ」
「うぅ~ん……あと少しぃ」
リムルによってもたらされた刺激にテクトは眉根を寄せながら呻く。
普段のテクトとは違う様子にリムルは揺れるが、なんとか持ち直すと手に力を込めた。
「駄目です。こんなことをしていてはお兄様やシオンに示しがつきませんよ」
「もうちょっとだけだってばぁ〜」
そう言いつつテクトはゆっくりと身体を起こし、リムルへと手を伸ばす。その緩慢とした動きに起きるのを手伝おうとリムルが手を伸ばすと、いきなり動きが機敏となり、あっという間に布団の中へと引きずり込まれ抱きしめられた。
「ちょっ」
「
「え!?」
イタズラ目的ではあったがシュナと間違われるのは御免被るとリムルはテクトを止めようとしたが、あっさりと看破され瞠目する。
「気づいてたのか?」
「リムルを某と間違えるわけないでしょぉ」
眠たげに閉じられた目のままふにゃりと微笑むテクトにリムルは口の端を歪める。
そんなリムルの様子を知ってか知らずかテクトは抱きつく力を強めると懇願する。
「あとごふんだけぇ」
「……五分だけだからな」
リムルはため息を吐くと抵抗を止める。
その後、再び微睡むテクトを眺めるうちにリムルも居眠りしてしまい、昼過ぎにシュナの怒気をはらんだ声で起こされるまでぐっすりと眠る事になったのだった。
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次回は予告通り紅蓮の絆編になります。
時期的にハクロウ帰還後だと思うので「