転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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あけましておめでとうございます。

今年も拙作をよろしくお願いいたします。


71話:千客万来

 謁見式も終わり、テクトとリムルの仕事は武威を示すことから無害であることをアピールすることに切り替わった。

 

 要するに来客への応対なのだが、招待客以外にも噂を聞きつけた商人もいるらしく、町は活況に満ちていた。

 

 貴族用の旅館と一般用の旅館はサービスの内容やセキュリティの観点から分けられており、貴族用への飛び入りは不可能となっている。

 

 しかし、ミョルマイルの采配によって大きなクレームもなく宿の割り振りがなされ、開国祭の前段階として幸先のいいスタートと言えるものとなったのだった。

 

 貴族達との面会の最中、テクトが多少「畏怖」を漏らし効果の一部である「魅了」を活用して印象操作を行おうとし、その調節をする中で客がテクトに見とれて完全に棒立ちになったりギクシャクとした動きをしたりと様々な姿が見られた。

 

 犠牲者を多数出した末に出力の基準を定めることに成功した頃、ブルムンド王が来訪した。

 

 条約を結んでいる相手ということもあってテクトが「畏怖」を納め、童話の挿絵になりそうなやや太った見た目の男性が入室する。

 

 それに続いて男には不似合いに見える美人が入室する。

 

 この二人がブルムンド王夫妻であるが、見目のギャップとは裏腹におしどり夫婦として国民からは親しまれているという。

 

「礼が遅れて申し訳ない。ファルムスの貴族であるミュラー侯爵とヘルマン伯爵の懐柔と評議会及び西方正教会への揺さぶり、本当に助かった」

 

「いやいや、礼には及びませんぞ、テクト殿。ワシは、貴国との協定を守ったまで。それに、フューズから聞き及んでおるのでしょう? ワシは、貴方々に賭けた。我が国の命運を貴国に委ねたまでのことですじゃ。当然そこには打算もある故、感謝される筋合いの話ではありませんぞ」

 

 テクトの礼にブルムンド王は人の好さそうな顔で応じる。

 

 ブルムンドの情報操作の甲斐あってテクトとリムルの魔王就任後も商人の数が減ることもなく、むしろ増えているため二人からすれば礼を言うのは当然なのだが、はっきりと打算があると返され、テクトは苦笑いを浮かべる。

 

「それでも、俺達を信じてくれたその気持ちは嬉しかったのですよ。本当にありがとうございました」

 

 言葉に詰まったテクトを脇にリムルが重ねて礼を述べる。

 

 その言葉に今度はブルムンド王が苦笑を漏らす。

 

 それから表情を改めてブルムンド王からの謝罪が始まった。

 

 内容としてはカザックの件である。

 

 国際的犯罪組織である奴隷商会(オルトロス)に協力していたカザックは身分と財産を剥奪され国外退去に処されたという。

 

 テクトとリムルもその処罰に特に異論はなく、両国の関係の維持を約束してブルムンド王と握手を交わし、この件の話を終わらせた。

 

 挨拶も終わり話は本題へ。

 

 にこやかな表情のブルムンド王は婉曲に話すことなく直球を話し始めた。

 

「そういえば、フューズから聞きましたぞ。なんでも御二人は、壮大な計画を立てておられるとか?」

 

「ああ、そのことか。後日関係各国の代表を集めて説明する予定だが、まぁ良いや。ブルムンドに引き受けてほしい役割は、流通の中心地だ。周囲の国で何が余っているのか、何が不足しているか、それを把握し最適に分配出来るように取り計らってもらいたい」

 

 テクトの簡潔な説明を受け、ブルムンド王と王妃の表情が変わる。

 

 現状の物流事情と比較し、計画が実現した場合の利益が莫大なものになると受け取った二人が考えを巡らせるのを見てテクトは満足そうに頷くと笑顔で話を続ける。

 

「あくまで先の話だ。各国と足並みを揃える必要もあるし、今ここで何もかも終わる話ではない。ひとまず開国祭を楽しんでいってくれ」

 

 テクトの言葉に一度思考を打ち切り、二人はあっさりと去っていった。

 

 その翌日、現れたのはガゼルだった。

 

 他国の目にも留まる公式な訪問ということで普段のように飛翔馬(ペガサス)に乗ってやってくるわけにはいかず、大所帯での馬車移動になったことを愚痴りながら次々と茶菓子を口に放り込んでいく。

 

「ガゼル王本人がお越しになるとは思っていませんでした。てっきり使者の方を遣わすものだとばかり……というか、やっぱり普段がおかしかったんですね」

 

「フンッ、お前達が何やら企んでおるようだから直接この目で判断しに来たのだ! それに……、聞きたいこともある」

 

 ガゼルは茶菓子を異空間から補充しつつ呆れ顔になったテクトに鼻を鳴らして答えると、リムルへと視線をあわせた。

 

「なんだよ?」

 

「リムルよ、お前は坂口日向(ヒナタ・サカグチ)と戦ったようだが……引き分けたというのは嘘であろう?」

 

 察する者もいると考えていたため、ガゼルの言葉にもさほど驚きはなくリムルは顛末を話す。

 

 ガゼルの分析では剣術だけならともかく、総合するとヒナタの方が強いという判断だったらしく、リムルの勝利に心底驚いていた。

 

「運が良かったってのもあるけどね。実際、俺が倒した魔王クレイマンなんかよりよっぽど、ヒナタの方が強かったしね。俺が勝てたのは、能力(スキル)による恩恵によるところが大きいと思うよ」

 

「フッ、運も実力の内よな。弟弟子の成長は嬉しくもあるが、このまま簡単に負けを認めるのは少々面白くないぞ」

 

「そんなこと言われてもな……俺の本来の実力じゃあ、まだまだハクロウにも勝てないんだぜ?」

 

「相変わらず、お前はおかしなヤツよな。本来もクソも、能力を含めてお前の実力であろうが?」

 

 演算は任せきりであり、時に本人にも内緒で自主的に動く智慧之王(ラファエル)抜きの力はさほどでもないと自認しているため謙遜するリムルにガゼルは呆れた様子で頭を振る。

 

 そして、ガゼルは補充された菓子を一通り腹に収めると様子を一変させて真面目な顔になる。

 

「まあ良いわ。それで、お前達は今回、何を考えておるのだ?」

 

「え?」

 

「何のこと?」

 

 ガゼルの漠然とした問いに真意を掴みきれずリムルとテクトは顔を見合わせる。その様子にガゼルは青筋を立て怒鳴り始める。

 

「『何のこと?』ではないわ! 西方正教会が我がドワルゴンに、今後の交渉を見据えて正式に窓口を開きたい、と打診してきおったぞ? 今まで我等の事を、魔物に近しい者と定めておった西方正教会が、何故にその教義を覆したのだ? 突然のこの変わりよう、どうせ貴様等の企みであろうが!!」

 

 それを聞いてテクトとリムルはルベリオスとの交渉の際にドワルゴンも巻き込んで友誼を結ぶことを提案していたことを思い出した。

 

 他国が行う交渉ごとであるため確認を取る必要を考えておらず、予想外のガゼルの怒りにテクトは素知らぬ顔を貫き、リムルはすっとぼけようとしていたが、智慧之王から表層心理の「思考読破」を受けていると報告が入る。

 

 敵意や害意がなかったため放置されていたようだがリムルが慌てて妨害を指示すると、ガゼルがにやりと笑って額の青筋を増やした。

 

「フ、フフッ、俺の「思考読破」を見破ったか。それは見事と褒めてやるが、しかし。邪魔をするということは、(よこしま)な考えがあったということであろうな?」

 

「い、いやいや、そんなことはないと思うよ?」

 

「馬鹿め! テクトの方は相変わらず読めんが、俺を巻き込んだらいいという思考が、チラッと視えたぞ!」

 

 その声を皮切りにガゼルの説教は始まり、テクトとリムルはヒナタ達と交わした話の内容を洗いざらい白状させられたのだった。

 

「そうであったか。人間至上主義だったのは“七曜の老師”共であったか……」

 

「ああ、だからヒナタ達は、この際に“七曜”に毒された者達の粛清を考えているみたい。親玉が滅んだ以上、ヒナタが実権を完全掌握すると思うよ」

 

 ルミナスの正体をぼかしながらの説明を聞き、ガゼルは熟考する。

 

「で、あろうな。ならばこの話、断るのは愚か、か」

 

「そう言ってくれると思ってたよ」

 

「抜かせ、勝手な真似ばかりしおってからに……まあ良い。せっかくの祭り時に、野暮な話は控えるとするか。最高の席を用意しておるのだろう? せいぜい、楽しませてもらおうではないか」

 

 そう言ってガゼルが立ち上がるのを見てテクトが息を吐き、ガゼルの視線が鋭くなる。慌てて取り繕うテクトを見て頭を振るガゼルにリムルは祭りの後に会談の場を設けることを約束し、面会は終わった。

 

 そして前夜祭当日、戴冠式を終えたヨウム達が到着した。

 

 従者とともに入室したヨウムは席に座るなりふてぶてしい態度で挨拶する。

 

「旦那方、久しぶり! 約束通り、俺も王になったぜ」

 

「馬子にも衣装だね、ヨウム君。これからも宜しく頼むよ」

 

「ハンッ! それはこっちのセリフだぜ。俺みたいな男を王に担ぎ出したのは旦那方なんだから、最後まできちんと面倒見てくれよ? 俺達は、アンタ達の野望に乗ったんだ。中途半端は御免だぜ」

 

「おいおい、俺としてはやれると思って任せたんだよ? そう弱気になってもらっちゃ困るな」

 

 ふてぶてしい態度だったヨウムがテクトの評に言葉に詰まると頬を掻く。しばらく照れていたヨウムだったが王となった自覚によるものか軽く息を吐くと表情を戻した。

 

 ディアブロとテスタロッサの暗躍により確固たる地盤を手にしたヨウムは約束通り王となった。

 

 長い歴史を持つ国家ファルムス王国は滅び、英雄ヨウムを王と戴く王国が誕生したのである。

 

 脅威により生まれ変わった国という意味を込めて、国名はファルメナスと改められ、初代国王となったヨウムは、ヨウム・ファルメナスと名乗ることにしたようだ。

 

 ヨウムの傍らにはミュウランとグルーシスがおり、常に護衛しているという。

 

 また、ミュウランは名をミュウと改め、ヨウムの妻としてミュウ・ファルメナスと名乗っている。

 

 その所作はヨウムと比べて様になっており、本人曰く礼儀作法にうるさかったクレイマンの影響だという。

 

「何でも経験しておくものだね。俺達なんて、それでものすごく苦労してるんだよね。ちょっと前までジュラの大森林の各種族から挨拶されてさ、ずっと置物になった感じで大変だったんだよ」

 

「リムルはすぐボロが出るからでしょ。私を見習い給えよ」

 

「テクトもそう変わんないだろ」

 

「でもわかるぜ。俺も貴族連中から面会依頼がひっきりなしでさ、すでに派閥争いを始めそうな馬鹿どもに頭を悩ませているんだよ。ま、そこら辺はあのジジイ―魔術師長ラーゼンがうまくやってくれてるんだけどな」

 

 ディアブロの「誘惑者(オトスモノ)」の影響下にあるラーゼンは内戦の後始末に奔走しており、今回は留守番だという。

 

 同様にディアブロの支配下にあるエドマリスも知識や教養に欠けるヨウムを支えるため正体を隠して顧問として政治面で色々と助けているそうである。

 

「で、グルーシスは騎士団長になったんだっけ?」

 

「そうなんですよ、リムル様。俺はスイレンでいいだろって断ったんだけどさ、こいつが言い出したら聞かなくって……」

 

 ぼやくグルーシスだが、これはファルムスまでついてきたグルーシスにヨウムが役職を与えようとした結果らしい。

 

 実力的には申し分ないため残っていた騎士達からも文句は出なかったのだが、本人は自由気ままが良いと言い張り、義勇軍を集めていた際に合流したスイレンを推した。だが、魔国連邦の手前、一応は放逐されたスイレンを団長にするわけにはいかず、また最終的にミュウランからのお願いを断れなかったため騎士団長の任を承諾したらしい。

 

 ちなみにスイレンは副団長となっており、今回は合わせる顔がないということでラーゼンとともに留守番だという。

 

「俺は今でも、カリオン様の獣王戦士団の一員であるつもりなんですがね。ま、当分の間は、この馬鹿の面倒を見るつもりですよ」

 

「うるせー、馬鹿はお前だ!」

 

 グルーシスの発言を受け、ヨウムは立ち上がると睨み合いを始める。

 

 その二人をミュウランは呆れ顔で見て、ここまではいつも通りだったが、今回は横槍が入った。

 

「もう! ヨウム陛下もグルーシス団長も、魔王様方に失礼ですよ!」

 

 そう叫んだのは小学生ぐらいの少年だった。

 

「エドガー、お前はホントに真面目だよな」

 

「はっはっは、いいじゃないか。お前よりシッカリしているし、次期国王候補として申し分ないだろ」

 

「グルーシス団長! 冗談を言ってもらっては困ります。僕はヨウム陛下の従者として、陛下に立派な国王となってもらうべく努力しているのですから!」

 

 そう言って怒るエドガーはエドマリスの息子らしく、十歳だという。

 

 初めて会ってから数ヶ月と短い期間であるはずだが、すでに突っ込み役が板についているあたり割と苦労しているのだろう。

 

 賑やかな様子に苦笑していたテクトだったが、ヨウム達も長旅であったこととこの後も予定が詰まっていることを考慮して軽く「畏怖」を漏らして注目を集める。

 

 テクトが無言で上げた手に控えていたディアブロが証書を恭しい態度で差し出し、それを机に滑らせてヨウムの前にピタリと止めるとテクトが口を開く。

 

「約束通り王となったヨウムへのプレゼントだ。遠慮なく受け取ってくれ」

 

「旦那、これは……?」

 

 ヨウムは証書を開いて一瞥するとそのままエドガーへと預ける。内容を理解すれば多少はリアクションがあるはずなのでヨウムが読み書きが得意でないことが伺える。

 

 テクトが再び苦笑していると、内容を確認したエドガーが驚愕とともに顔を上げた。

 

「ば、賠償金の残りを帳消しにする、ですってッ!?」

 

「ああ、ヨウムが王になった以上、必要ないものだからな。使えるものは有効利用するべきだ。そうだろう?」

 

 魔国連邦としては賠償金の残りを請求する理由はない。

 

 テクト達は賠償金に関してはすでに回収した星金貨千五百枚で十分だと考えている。

 

 賠償金を請求したのもファルムスに内乱を起こす口実作りである面があったため、国盗りという目的も果たされた以上、無為に発展を邪魔する多額の借金は必要ないので請求自体を取り消したのである。

 

「へへッ、俺にはよくわからねーが、まあ、そういうこったよ、エドガー」

 

 ヨウムは理解していなかったが、エドガーはこの証書が及ぼす影響を理解していた。

 

 魔国連邦の計略が外部に漏れない以上、ヨウムが魔王と会談し賠償金の残りを帳消しにする交渉を成功させたという結果だけが伝わることになる。

 

 そうすれば英雄ヨウムの名声は更に高まる事になり、新興国だからと甘く見る者が減る。

 

 そういった事情を理解し、金額の大きさもあって飲み込みきれずに固まったエドガーはヨウム達に背を押され、部屋を後にしていった。

 


 

次回「魔王のお出迎え」




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