昼となり、客の挨拶も落ち着いた。
来客はまだ来ているが、前夜祭に備えて準備をするために会談をする余裕はなく、面会希望の者は開国祭後に予定を組むことになった。
そういうわけで時間ができたので、リムルはイングラシアへと飛び、事前に招待状を出したユウキを迎えに行くついでに自由学園の子供達も祭りに誘うことにした。
自由組合本部に入った直後にリムルの素顔を知らなかった冒険者達に新入りと間違われ、新入りが増長するのを防ぐために威圧する役を買っている者達に絡まれたがそれを難なく流し、ユウキの元へ行くため受付へ向かうのだった。
受付にはすでに話が通っていたらしくすぐに案内され、部屋に通された。
「やあリムルさん、久しぶり! 大変だったみたいだね?」
「大変なんてものじゃないよ? ヒナタに襲われるわ、ファルムスの軍勢が攻めてくるわ、果ては魔王達から呼び出されるわ……これでもかってくらいに、色々あったんだよ。それを、大変の一言で片付けられてもねえ?」
「あはは、それで済むのが、リムルさんらしいね」
冗談めかして答えるユウキの声には労いの色が混じっており、リムルは苦笑しながら席に座る。
「ま、ヒナタとも和解できたし、結果オーライだな」
「そうらしいね。僕もヒナタとはたまに会って情報交換していたし、リムルさんの人柄もきちんと伝えたんだけどね。ヒナタってほら、かなり疑り深いから」
「ああ、わかるわかる。人の話を全く聞かないもんな、あいつ」
「そうそう。自分の目と耳で確かめたことしか信じないタイプ。今までもそれで、どれだけ僕が苦労したことか……」
そう言って二人はヒナタの愚痴で盛り上がる。
信奉者の多いヒナタは下手に外で悪口を言うと本人まで筒抜けになるとのことだった。
そういうわけで密室のここで存分に話し、それが落ち着くとリムルは本題を切り出した。
「それでどうする? 忙しいようなら無理しなくてもいいけど、二、三日だけでも祭りに参加してみない?」
「ふっ、行くに決まっているさ。そのために必死こいて仕事を片付けたんだぜ? それに僕にも、留守を任せても問題ない頼もしい部下がいるんだよ。ちょっと待ってて」
そう言うとユウキは部屋を出ていくと、すぐに一人の女性を伴って戻ってきた。
「紹介するよ。名前をカガリと言って、自由組合の
カガリはスーツに似た衣装をパリッと着こなした淑やかそうな女性であり、藍色の瞳とシニョンにまとめた金髪。そして
「初めまして、リムル・テンペスト、いえ、魔王リムル様。ワタクシはカガリと申します。お会いできて光栄ですわ」
「初めまして。ここに来たのは二回目ですが、以前はお見かけしませんでしたよね?」
初回以来自由組合本部を訪れていないテクトはもちろん、リムルもカガリには会ったことはなかった。これまで訪れた際にはいなかった理由だが、西方にある世界最大級の古代遺跡“ソーマ”の調査をしていたらしい。つい先日踏破して最近戻ってきたとのことだった。
カガリは探索部門の頂点に立っており、ユウキが自由組合を立ち上げる前から遺跡探索を生業にしていた。
自由組合の前身である冒険者互助組合には参加しておらず公に名のしれた人物ではなかったが、自由組合は戦いだけが目的の組織ではないと考えたユウキがスカウトとしてきたらしい。
そのためコネで高い地位についているとされていたカガリだったが古代遺跡ソーマを踏破した功績により汚名を返上し、Bランク以上の探索系冒険者の教育係となることになったらしい。その報酬として遺跡から発掘された品々の一部が支払われる事になっているという。
そこまで聞いたところでリムルは遺跡の話となり、ちょうど専門家がいることもあって、思い出したことについて聞くことにした。
「そういえば、遺跡の権利って誰のものになるの? その遺跡がある国が管理しているのかな?」
「うーん、それは難しいね。例えば今話題になった古代遺跡ソーマの場合は、自由組合が管理を受け持ってる。場所が微妙でね、西側諸国が属する地域の更に西、不毛の大地と呼ばれる砂漠地帯で発見されたんだ」
「厳密にいえば不毛の大地とは、魔王ダグリュールの支配地域に面しているのです。なので誰もが恐れて、この地方を支配している者がいないのですわ。こうした空白地帯に存在する遺跡などは、その所有を訴え出る者がいないというのが現状なのです」
「そうか……じゃあやっぱり、あそこの扱いは慎重に考えないと不味そうだな……」
「ん? リムルさん、何か気がかりがあるのかな?」
リムルが思い出したのはクレイマンの居城にあった遺跡についてだった。
「実はさ、クレイマンの本拠地に遺跡があったんだよ」
「何ですって? それは本当ですか!?」
リムルの発言にカガリが激しく反応を示す。殺気すら感じるほどの勢いに驚きつつもリムルは自身の考えを話す。
発掘品の権利が発見者のものとなるのであれば遺跡の保全など考えずただただ利益を求めて遺跡を踏み荒らす連中を呼び込みかねず、それはリムルの趣味ではなかった。
考古学的な価値を重視するリムルにとって遺跡の保護は重要なことであり、それもあってリムルは遺跡のことを秘密にしていた。
「へえ、リムルさんって、意外とロマンチストなんですね」
「意外とって何だよ? 俺はかなり、ロマンを愛する男なんだぞ?
「アハハ。言われてみれば、確かに。ロマンチストじゃなきゃ、魔物の国を創ろうなんて思いつきもしなかったでしょうね」
そう言って笑うユウキの横でカガリは深く考え込むと頷いた。先程の殺気はどこへやら、理知的な輝きを煌めかせている。
「なるほど……確かに、ワタクシにはない考え方ですわ。ですが、理解はできます。ワタクシとしても、何でもかんでも好き放題に遺跡を荒らされるのは好みませんもの。然るべき調査団を鍛え上げた上で、ソーマに派遣する予定でしたし」
自身の考えに一定の理解を得られたことでリムルは頷くと、懸念点を話し始める。
クレイマンの領土は死の渓谷で東の帝国とつながっており、そこを利用していた痕跡が見つかっており、東の帝国が入り込んでいた可能性もあるため、警戒対象になっている。
遺跡に関してはクレイマンも大事にしていたようなのでミリムにもよく言い含めたうえで管理を移譲し、防衛線の構築も任せる方針になっていた。
「じゃあ、その遺跡を探索しようとするなら、魔王ミリムの了承がいる訳か」
「そうなるな」
「そうですか……その遺跡にはとても興味があるのですが、何とかしてお邪魔させてもらう訳にはいかないでしょうか?」
「言えば許可をくれるだろうけど、間違いなく自分も行くと言い出すぞ、アイツ」
「それは……」
リムルの予想にカガリは残念そうに肩を落とす。
とはいえ、調査をするのにプロの力を借りたいリムルとしてはここで話を終えることはできなかった。
そこで、今回は魔国連邦から自由組合に調査依頼を出す形を取り、調査費用を出す代わりに発掘品の扱いに関してはある程度リムルの意向を通せるように提案する。
ユウキとカガリもこの話に食いつき、調査団の編成はカガリに任せることになる。
ミリムの説得はテクトを生贄に成立させればよしとしてリムルは話をまとめると、ユウキを伴い自由組合本部を後にした。
訪問は予告していたが祭り関連の話はしていないので反応を楽しみにしつつ自由学園に辿り着くと、教頭に挨拶し教室へ向かう。
「いよーっす。元気だったか、お前達」
教室の扉を開け、リムルが声をかけると、子供達はすぐに集まってきた。
「もう! 先生、来るのが遅い!!」
「そうですよ。テクト先生は時々来てくれていたんですよ!」
「そうだぜ。テクト先生に聞いてもはぐらかすし、俺達のことなんて忘れちゃったのかと、心配してたんだぜ?」
「でも、来てくれて嬉しいですよ、先生!」
「おかえりなさい、先生!」
子供達が口々に話すのに、リムルはふと疑問に思う。
テクトが来ていたという点だ。
テクトが来たタイミングを聞くと、概ね休暇と一致したので、ちゃんと休んでいることを喜ぶべきか誘わなかったことを追求するべきか考えていると、子供達がユウキへと勝負を挑み、断られていた。
ケンヤが不満そうに食い下がる姿にリムルはフォローも兼ねて思考を切り替えた。
「残念だけど、勝負はお預けだ。今日は時間がないからな」
「どういうこと?」
リムルの言葉にクロエがきょとんとした表情で応じる。
リムルはその目をまっすぐ見つめると得意げに答えた。
「君達五人を、俺達の国に招待しようと思ってね。明日からお祭りするんだよ。別に行きたくないっていうなら」
リムルの言葉は最後まで聞き届けられることはなかった。
子供達はリムルの横をすり抜けると我先にと走り去っていき、リムルの準備に関する話にも返事はなかった。
子供達を待つ間にリムルとテクトの後任の教師から相談を持ちかけられた。
何でも、子供達の力量が上がっており、すでにユウキでさえ油断ならぬほどになっているという。
だが、それは疑似上位精霊によって監理された溢れんばかりの魔素の余剰を振り回すだけで行われており、技術的な面はまだまだ未熟で、このままでは本当の意味で強くはなれない。
そのため、もっと強い者に教師を任せたいということだったが、後任にあたっている人物も元A−ランクの冒険者であり、Aランク以上となると教師を引き受けるような人物はそうおらず、頭を悩ませているのだった。
「それならさあ、俺達の国でも学校を作る予定なんだけど。Bランク相当のヤツなら結構いるし、俺達の指南役であるハクロウって爺さんが、教官役を務めてくれる。剣技だけなら俺より強いから、アイツ等にも指導はできると思う」
このリムルの回答にユウキは子供達を魔国連邦に預けることに乗り気になる。
しかし、周囲が魔物ばかりでは人間社会での常識に欠けてしまう可能性もあるためリムルとしては完全に魔国連邦で生活させることに否定的である。
また、彼らが精霊を身に宿すことからそれを利用した戦闘を行う
しかし、ヒナタに子供達の事を頼むのもどうかという話になり、そこに子供達が荷物を持ってきたのを契機に話を保留にすることにするのだった。
リムルはユウキと子供達を連れて幹部用の施設である旅館へと転移した。
日中は開国祭での予定があるため会うことはできないと告げると、子供達は不満そうにするが、リムルはそれを遮るとペンダントを取り出した。
ペンダントは開国祭でのフリーパスになっており、あらゆる商品の購入とイベントへの参加ができる。上限は銀貨百枚となっており、使用状況を影からソウエイ達が記録する事になっている。また、握って念じることでリムルにメッセージを送る魔法が発動する。
銀貨百枚の上限を超えないよう考えながら祭りを楽しみ、もし超えてしまえば旅館で宿題に追われてしまうというゲームを持ちかけると、子供達は嬉しそうに参加を決める。
ちなみに露店の商品は銀貨一枚もしないものが大半であり、飲食物は割と量が多い。そのため子供達が全額使い切ることはほぼ不可能と言って良かったりする。
ペンダントを受け取った子供達は明日からの予定について話し始める。満足そうに頷くリムルが戻ろうとした時、アリスがハッと顔を上げた。
「そういえば先生、テクトは?」
アリスの言葉に子供達も話を止め、そういえばという顔をする。
リムルは相変わらず呼び捨てにされるテクトを思い苦笑する。
「「先生」な。テクトはお前達とは別のお客さんの迎えに出てるんだ。今日は遅くなるって言ってたぞ」
「まさか、あのオバサンのところじゃないでしょうね?」
「オバサンが誰かは知らないけど、明日には会えるだろ。文句は本人に頼む」
そう言ってリムルは部屋を後にした。
アリスはしばらく不機嫌だったが、祭りの予定を立てる内にそれなりに機嫌は直るのだった。
時間を巻き戻し、昼頃。
リムルと別れたテクトは白氷宮を訪れていた。
以前と打って変わって気負いもなく大扉を開くと、ここ数日面会で座りっぱなしだった身体をほぐしながら進んでいく。
そうして目的の部屋へと辿り着くとノックもせずに押し開ける。その先には玉座があり、そこでギィが退屈そうにあくびをしていた。
「ギィ、ちょっと話があるんだけど」
「ん? ああ、テクトか。珍しいな、お前が自発的にここに来るとは」
「別に普段も強制されてるわけじゃないんだけど」
一見すると唐突に現れた用に見えるテクトにギィは驚くことなく対応する。
というのもテクトは休みの凡そ三分の一はここを訪れているため、突然現れるテクトにギィも彼の配下も慣れきっていた。
「数日ほどヴェルザードを借りたくてね」
イングラシアへの迎えをリムルに押し付けたため他に用事があるわけではないが、時間があるわけではないテクトは早々と本題に入る。
「何があった?」
テクトの依頼にギィは訝しげにテクトを見やる。
テクトがヴェルザードを連れ出すことはよくあることだが、その日程は日帰りである。唐突にヴェルザードを数日にわたって側に置こうとするテクトに疑問が湧いたのである。
対してテクトは苦虫を噛み潰したような顔になると、声を潜めて話しだした。
「いや、明日から魔国連邦で祭りをやるんだけどさ」
「それは知っている。何かあるのか?」
ギィは自身の役割のため情報収集は欠かしておらず、世情に明るい。そのため開国祭のことも把握していたが、続く言葉に渋い顔になった。
「招待客の中に、ミリムがいるんだよ」
ここ最近、ヴェルザードによる八つ当たりが日常茶飯事となっている。
ギィの配下から魔国連邦周りの情報を
もし開国祭でミリムが楽しんでいたという話が後から耳に入れば被害は計り知れず、普段の報告なら復帰できているギィの配下も再起不能になりかねない。
そういった状況を幻視し、ため息を吐くギィにテクトは追い打ちをかける。
「それに、イングラシアでヴェルザードがやたら張り合ってた子供を、今リムルが迎えに行ってるんだよね」
「ああ、もういい。みなまで言うな」
ギィはうんざりした様に空を仰ぐ。そして、深いため息を吐くと死んだ魚のような目をテクトに向けた。
「好きにしろ。ただし」
「わかってる。ヴェルザードだなんて呼ばないし、周囲に被害が及ばない様に俺が抑えるよ」
「ならいい。不機嫌なままここに帰すなよ」
テクトの返答にギィはひらひらと手を振ると話は終わりとでも言うようにテクトから視線を逸らす。
それを受けてテクトは踵を返し、ヴェルザードを探して白氷宮をぶらつきだした。
テクトは「万象捕捉」によってヴェルザードの位置を把握し、迷うことなく場内を闊歩する。
目的の部屋にたどり着いて扉を押し開けると、ヴェルザードが不満そうな顔でベッドの前に立っていた。衣服は魔法で着替えたため乱れはないが、髪が僅かに荒れていた。突然の訪問に焦りを隠せずにいるヴェルザードにテクトはイタズラに成功した子供のように笑う。
「やぁ、ルーシェ。久しぶり。ここ最近は祭りの準備で忙しかったから、一月ぶりぐらいかな」
テクトはヴェルザードに歩み寄ると後ろに周り、乱れた髪を整える。ミリムであればこれで大抵鎮まるのだが、流石に寝室に押し入られたヴェルザードは収まらなかった。
「挨拶の前に言うことがあるのではないかしら」
「ごめんごめん、ちょっと驚かせたくてさ。まさかこんなに慌てるとは思わなくて」
ヴェルザードが振り返りながら向ける鋭い目線に、テクトはおどけながら謝り頭を撫でるが彼女の表情は不満そうなままである。
しかしながら手をどけようとはせず、されるがままになっているヴェルザードに微笑むと、テクトは本題に移ることにした。
「今回はちょっとしたお誘いに来たんだよ」
「え?」
「明日から三日間祭りなんだけどさ。せっかくだからヴェルザードもどうかと思って」
お誘いという言葉に期待したヴェルザードだったが、続く言葉に少しだけ落胆する。その一方でテクトからの泊まり込の日程の提案に気分が昂揚していた。
「もちろん行くわ。早速ギィに言ってこないと」
「ギィにはさっき話してきたよ。注意事項はいつも通り。あえていうなら、予定が詰まってて夜ぐらいしか俺の自由時間がないけど」
「それは口惜しいけど、主催者だし仕方ないわね。いつもみたいに日暮れには解散じゃなくて夜に会えるってところで納得しておいてあげる」
「そりゃどうも。じゃぁ、お手をどうぞ、お嬢さん。衣装の用意はあっちでしよう」
テクトが手を差し出すと、ヴェルザードが迷いなく手を重ねる。とはいえそのまま歩き出すわけではなく、転送術式で地下迷宮九十五層へと移動する。
深い緑に包まれた空間ではあるがここがジュラの大森林ではなく異空間であることを感じ取ったヴェルザードが周囲を見回すのに構わず、テクトは進み始める。
テクトに引かれるままについていくと少し先で森は開け、いくつかの建物が揃っていた。テクト達がそのうちの一つへと入ると、そこはブティックのようになっていた。
この建物は迷宮解放後は防具店として扱う予定のものであり、今回は試着スペースをヴェルザード用のフィッティングルームとして流用するつもりなのだ。
事前に用意していたドレスを渡し、テクトが着替えの終わりを待っていると、唐突にドアが開く。テクトが視線を向けるとそこにはヴェルドラがいた。
「テクトよ!
「楽しそうね、ヴェルドラちゃん」
ブツブツと文句をつけるヴェルドラの後ろからヴェルザードが声を掛ける。その声にヴェルドラはさっと顔を青ざめさせると、振り返りながら飛び退いた。
「ぎゃわ!? な、なな、何故ここに姉上がァ──ッ!?」
「少しは成長しているかと思えば、相変わらず騒がしいのね。でも、人の姿になれるようになったのは偉いわよ。それに、封印が解けたばかりにしては元気そうだし、私も安心したわ」
「あ、姉上もお元気そうで、我も嬉しいです……」
微笑むヴェルザードに対して、ヴェルドラはプルプルと震えていた。テクトがその反応からヴェルドラがヴェルザードに対して苦手意識を持っていることを確信していると、ヴェルザードはゆっくりとヴェルドラに詰め寄っていた。
「久しぶりに会えたのだし、ゆっくりとお話ししたいわね」
「い、いや……姉上もお忙しいでしょうし、我も仕事があって、暇という訳ではありませんので」
「気にしなくてもいいのよ。今日はプライベートなの。だから、ゆっくりと、お話ししましょう」
ヴェルドラが目を泳がせながら後退るのにヴェルザードもついていく。よほど姉が怖いのかテクトへと視線を向けるのをみて、テクトは苦笑いを浮かべる。
「ヴェルザード、ドレスのサイズはどう? 違和感はないかな?」
「ああ、ごめんなさい。久しぶりにヴェルドラちゃんに会えたから抜け落ちてたわ。サイズは大丈夫。流石テクトね、ぴったりだわ」
「それは良かった。よく似合っているよ」
安心した様に笑顔を浮かべるテクトにヴェルザードも柔らかく笑う。
テクトの用意したドレルは赤いノースリーブのドレスであり、長いファーがセットになっている。
ドレスの生地はいつも通りテクトの糸であり、ファーには
テクトの言葉に気分を良くしたヴェルザードが見せびらかす様にその場で回ってみせたりしているのを見て、ヴェルドラは信じられないものを見たような顔をしていた。
「テクトよ、姉上のことを知っていたのか? いや、それ以前に呼び捨てというか、姉上の態度というか……何があったのだ?」
「う〜ん、なんというか……色々あってミリムに近い状況というか……リムルやヴェルドラほどではないにしろある程度繋がりがあるというか……」
ヴェルドラの疑問にテクトは歯切れが悪そうに答える。
不透明な関係性ゆえの回答だったが、ヴェルドラはある程度得心がいったようだった。
「なるほどな。道理で最近テクトが怒っている時に凍えるような気分がしていたわけだ。姉上の妖気だったか」
「やっぱりヴェルザードのこと苦手なのね」
「ば、馬鹿を言うでないわ! 我に苦手なものなど存在せぬ!」
「そうよね? だって私、ずっとお世話をしてあげていたものね」
テクトの言葉に反射的に強がってみせるヴェルドラだが、その表情は強張っていた。対してヴェルザードは一点の曇りもない笑顔であり、自身が苦手とされているなど微塵も疑っていないようだった。
「お世話って?」
「生まれたてのヴェルドラちゃんが大暴れしていた時は、速やかに破壊して更生させたし。生まれ変わっても暴れた時は、動きを止めて大人しくさせたり、優しく説教してあげたりしたものだわ。人化もできない困った子だったから、被害が大きくなりすぎだったもの。後始末してあげていなかったら、もっと手が付けられなくなっていたでしょうね」
いいことをしてあげたとでも言いたげなヴェルザードにテクトは顔を覆う。当時の事を思い出したのか震えるヴェルドラにテクトは気遣わしげな視線を向ける。
「ヴェルドラ、大変だったね……」
「わかるか、テクトよ。わかってくれるか!」
悪意もなく相手のためを思って滅する姉と被害を受け続けた弟。余りのことにテクトはちょっと泣きそうになりつつ、せめて少しでも関係の改善をしてやりたくなった。
ちなみに竜種は死亡してもそのうちに復活する。そのため封印の洞窟で魔素を放出しきっていても一応復活はできるのだ。ただし、復活の際に記憶の齟齬や認識にズレが生じるらしく、テクトやリムルはそれを全く同じ存在として復活と考えていない。
「
「ヴェルザード、ヴェルドラは強がってるだけで、苦手意識は持ってるとおもうよ」
「あら、どうして?」
「一言でいえば、やり過ぎてる。頭ごなしに強制して言う事を聞かせるんじゃなくて、こうした方が良いって教え導く方が良い。誰かから押し付けられた価値観よりも自分から学んだ方が本人のためになるよ。俺達の配下に影響がでないように妖気を抑えたりしてくれたように、ヴェルドラも話せばちゃんとわかってくれるんだよ。だから、一回本音で話し合ってみない? 時間の許す限り俺も立ち会うし、手が出そうになったら止めるからさ」
テクトの言葉にヴェルザードはしばらく黙考してから首肯する。それを受けてテクトが笑顔で頭を撫でるのをくすぐったそうにするのをヴェルドラが再び瞠目する。
何か起きた際に周囲への影響を抑えるため三人は百階層に移動し、テクトが前夜祭の準備のため移動するまでゆっくりと話し合うことになるのだった。
次回「前夜祭」
感想・評価・お気に入りありがとうございます。
三者面談は参加者を変更のうえで前倒しになりました。
誘わないと大変なことになるのが目に見えていたのでヴェルザードを魔国連邦に連れてこざるを得ませんでした。
ヴェルザードのドレスはまおりゅうの「可憐氷竜」を参考にしていただければと思います。