転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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75話:魅せつけるための音

 前夜祭も終わり、開国祭当日。

 

 多少発生していた雲をテクトがこっそりと吹き飛ばし、快晴へと変える。これ以上発生しないよう発生源をなだめてから準備を整えた。

 

 魔国連邦の首都リムル。

 

 この国を統べる魔王の一柱の名を冠した都市の、行政機関が集中する北区。

 

 その中央にある議事堂のバルコニーにて、魔王二柱が眼下に集う者達を見下ろしていた。

 

 議事堂に続く大通り。町を縦横に走る道に溢れんばかりの人々が集い、リムルに緊張が走る。

 

 そんな背中をリムルの斜め後方に立っていたテクトが柔らかく押した。

 

 リムルに呼吸はないため後ろから見る限りでは異常はなく、正面側はバルコニーの高さではっきりとは認識できない。感知や干渉の形跡はないためリムルの心情は知るすべはないはずだった。

 

 にも関わらず動いたテクトをリムルが「万能感知」で確認すると、テクトは片頬を上げてわずかに頷いて隣に並び立つ。

 

 それを見てリムルも笑みを浮かべると拡声器(マイク)を手に取った。

 

「俺が魔王リムル、そして、隣に立っているのが俺の相棒たる魔王テクトだ、宜しく。ええ、本日は我が国の招きに応じてくれて嬉しく思う。初めましての人もいるようだけど、どうか緊張しないで欲しい。魔王となったのは本当だが、俺達は人類と敵対するつもりなどない。俺達は、皆が仲良く暮らせる国を創りたいと考えている。人と魔物が争うよりも、手を取り合い協力する方が、より良い未来が待っていると信じるからだ」

 

 リムルが反応を伺うと、聴衆は真剣に聞き入っていた。

 

 そのことに手応えを感じつつ、演説を続ける。

 

「あなた方の中には、俺達が魔王だからと警戒する者もいると思う。それは当然の警戒だろうけど、素直に感じたままを信じて欲しい。貴方達に、俺達の考えを押し付ける意思はない。俺達を信じられると思ってくれたなら、嬉しく思う。しかし、俺達が信じられなくとも、それは仕方ない事だろう。信用とは一晩で成らず、これからの付き合い方の積み重ねで勝ち得るものだと思うから、焦って結論を求めたりはしない」

 

 そこでリムルはテクトに拡声器を手渡す。

 

 受け取ったテクトはわずかに「畏怖」を漏らしながら厳かに告げる。

 

「ここに集った貴族の諸君、国に戻った後の報告では、ここで見たままを素直に伝えてもらいたい。我が国と友誼を結んでいる国は存在する。我が国を信じられずとも、既にそちらと国交を持っている国であるならば信用はできるはずだ。俺達が魔物であり、魔王だからと、偏見を持つのは止めてもらおう」

 

 ここに来て、テクトは選別した者に対し「畏怖」を強め、その注目を集める。

 

 選別の対象になったのはテクトの言葉に息を飲んだ者。

 

 彼らの大半は貴族として参加している者達であり、国としての判断に関与できそうな人物である。

 

「我等としては、手を取り合わないならば戦争などと、短絡的な行動に出るつもりは断じてない。ただし、我等が魔物だからと不平等を強いたり、討伐という名目で戦争を仕掛けて来るようであれば、こちらとしても一切の容赦もすることはない。それは、先日滅んだファルムス王国の一件を見れば、理解できるだろう」

 

 注目を集めた上で行われたのは入念な釘刺しだった。

 

 何割かが生唾を飲み込み、更にそのうちいくらかが冷や汗を垂らす。

 

 テクトの言葉を受け、明らかに緊張した様子を見せる者がいるのを確認し、テクトは満足そうな雰囲気でリムルへと拡声器を返した。

 

 テクトの様子を確認しリムルは苦笑すると、演説の締めに入った。

 

「ここに集った、商人や冒険者、そして農民といった普通の人である皆さん、俺達はあなた方に手を出さないと誓う。まあ、犯罪者は別としてだけど。我が国では、人手が足りない。仕事は多くあるので職を探しているなら移住を検討してみて欲しい。人が集まる場所には、新たなチャンスも生まれるだろう。基本的に我が国は、自由な発想を保障するものである。発言の自由は認めるし、職業選択の自由も認めるものである。ただし、その発言や行動には責任が伴うけどね。それを踏まえた上で我が国に興味を持ってくれたなら、今言った俺の言葉を是非とも検討してみてくれ。今後も我が国では、様々な催しを開催する予定だ。今日から始まるテンペスト開国祭も、その第一弾として企画したものである。それでは、是非とも楽しんでいってくれ!!」

 

 リムルの結びを受け、聴衆の多くが歓声を上げる。

 

 もとより配下であった町の住民だけでなく、他国からの来訪者も興奮したように叫ぶのを見て、リムルも満足そうにすると、二柱は同時に身を翻した。

 

 こうしてテンペスト開国祭は大歓声の中、幕を開けるのだった。

 

 

 

 リムルはやることがあると移動したテクトと別れ、一階のホールへと下りる。

 

 そこには服を着替えた子供達が揃っていた。

 

「ちょっと先生、この国の王様だったのかよ!?」

 

「知らなかったのかケンヤ? 俺の偉大さに気付いたのなら、今からでも遅くない。敬ってくれていいいのだよ?」

 

「何で」

 

「私は先生を敬う!」

 

 リムルのからかいに反応したケンヤに割り込んだのはクロエだった。クロエはリムルに抱きつき笑顔を浮かべる。

 

 一方でアリスは不思議そうにしていた。

 

「リムル先生は王様なのよね? じゃあ、テクトは?」

 

「二人とも王様って考えてていいと思うぞ。まあ、王様になったのはお前達と別れた後だけどな」

 

 アリスの質問にリムルはクロエを引き剥がしながら答える。

 

 同格ならさほど忙しさは変わらないはずなのにテクトだけがイングラシアを訪れていたことには不満そうだったが、リムルは子供達を宥めて注意事項の伝達に移る。

 

「いいかお前達、祭りの時は気分が高揚する。そして、ついつい羽目を外しやすくなる。浮かれたり調子に乗ったりして、誰かと喧嘩したりするなよ?」

 

「「「はいっ!!」」」

 

「ちゃんとハンカチ、ティッシュ、ペンダントは持ったか?」

 

「「「勿論っ!!」」」

 

 リムルの言葉に子供達は元気よく返事をする。

 

 だが、子供達だけで行動させるのに若干の不安を抱えていると、後ろから声がかかった。

 

「どうしたの? 何か困り事でもあるのかしら?」

 

 声をかけたのはヒナタ。

 

 黒に近い紺色の、ノースリーブワンピースに細剣(レイピア)を一本腰に下げており、ラフな格好をしていた。

 

「ヒナタか。ちょうど良かった。誰かに引率頼めないかと思っててさ、鎧来てないってことは仕事はないんだろうし、頼めないか?」

 

「いいわ、引き受けてあげる」

 

「助かるよ。礼と言ってはなんだけど、これを渡しとく。銀貨百枚まで使えるぞ」

 

「気が利いてるわね」

 

 あっさり引き受けたヒナタにリムルは子供達と同じペンダントを手渡す。ヒナタに子供達を任せるのはテクトの発案だったりする。

 

 もしうまいこと出くわせば程度の考えだが、発端は子供達だけのところ―というよりはアリスにヴェルザードが合流した時に折衝役がいればいいのにという理由である。

 

 突然現れたヒナタと話をつけるリムルに怪訝そうな表情を浮かべる子供達だったが、ヒナタの素性を話すと色めき立つ。

 

 姉弟子であり、有名人であるヒナタの同行を嬉しそうに受け入れた子供達にヒナタは屋台巡りから始めると声をかけ、子供達も素直に従う様子を見せる。

 

 この様子なら安心だとリムルがホッとしていると、ヒナタが囁く様に告げる。

 

「子供達の面倒は引き受けるけど、貴方にはルミナス様を任せるわね?」

 

「え?」

 

 困惑するリムルにヒナタは一方的に説明する。

 

 ルミナスは魔国連邦に滞在することになるアルノーとバッカスのお供に扮して祭りに参加するつもりらしい。

 

 昨晩は新設した教会に宿泊していたようで、初日は貴族位である聖騎士とともに王侯貴族の集団に混じるようだった。

 

「それじゃあ、頼んだわよ」

 

 それだけ言い残し、ヒナタは面倒事の気配を察することなく颯爽と子供達と去っていく。

 

 リムルは面倒事を押し付けられたような気分になったが、落ち込んではいられないと頭を振ると、迎賓館で催しの説明をしているリグルドと合流するのだった。

 

 

 

 リグルドと合流し、彼の案内で来賓とともにすぐ側の歌劇場へと移動する。

 

 この世界の芸術関連の文化は発展しているといえる。

 

 しかしそれは王侯貴族の間でのみ広まっているものである。

 

 一定以上に都市が発展すると、それを狙って天使族(エンジェル)が攻撃を開始するため、公にされることなく貴族間で楽しむものとして認識されている。

 

 そもそも芸術等の娯楽は余裕があってこそ楽しめるものであるため、この世界でそれを望むのは酷と言える。

 

 とはいえリムルは諦めておらず、芸術の才能の発掘を目指し、文化の波及をしようとしていた。

 

 その第一歩を今回の鑑賞会だと考えており、音楽に通じていた魔物達を対象にリムルとテクトの知識による指導が行われていた。

 

 楽器類は主にクレイマンの居城から接収されたものを利用しており、ヴァイオリンやトランペット、ティンパニなど様々な種類が存在していた。

 

 魔物達もそれぞれ好みの楽器を手にとって練習を積んでおり、リムルとテクトの知識由来の楽譜の習熟がされている。

 

 リムルがミョルマイルに聞いたところ、成果は保証できるとのことで、リムルはとても楽しみにしていた。

 

 相変わらずテクトの姿は見えないが、来賓は指定された席に座ったらしく、ゆっくりと照明が暗くなり、舞台の幕が上がる。

 

 統一された礼服に身を包んだ多種多様な種族がそれぞれの楽器を携え、小人族(ハーフリング)へ注目する。

 

 小人族の名はタクト。

 

 体力もなく計算も苦手で、できることがないと嘆いていたタクトだったが、歌は得意であり周囲をまとめるのが上手かった。

 

 そのため指揮者に向いているのではとテクトによって名付けをされ、この場に立っている。

 

 妙に緊張した様子のタクトだったが、来賓へと一礼して気持ちが切り替わったのか、その表情は激しい情熱をたたえていた。

 

 タクトが振り返り、その手に持った指揮棒を振り上げる。

 

 始まったのはクラシックの演奏。

 

 タクトの指揮に従い一糸乱れぬ動きでピタリと揃った演奏が来賓を魅了する。

 

 リムルが視界の隅に捉えたユウキも懐かしそうに聞き入っており、当のリムルも過去に行ったコンサートにも負けぬと満足そうにしていると、一瞬音が止み、転調する。

 

 クラシックの次に流れ始めたのは異世界人には馴染み深いアニメの曲だった。

 

 まさかの転調にユウキがリムルへジト目を向ける。

 

 演奏する楽譜の順番には関わっていないリムルは言い訳したい気分だったが、違和感を覚えたのはリムルとユウキだけらしく、来賓は聞き入っていた。

 

 その様子にユウキと目を合わせ苦笑していたリムルだったが、ざわつき出した来賓に舞台へと視線を送る。

 

 見ればタクトが台を下りて横に移動しており、しかしそれでも演奏は続いている。

 

 奏者に動揺がないあたり、事前に打ち合わせしているとわかるのだが、どのような意図があるのかとリムルが考えを巡らせていると、中心にできていた道を歩いてサックス奏者が台へと登る。

 

 白髪をなびかせ深紅の眼から妖しい輝きを放つ奏者は紛うことなきテクトだった。

 

 一瞬の思考の停止を経て、リムルが思わず吹き出す。

 

 音を聴く場ではマナー違反もいいところだが、それを気にする者はいなかった。

 

 単にリムルの反応が正直すぎるだけであり、心情的には大半が同様の感情を抱いていたからだ。

 

 始まったのはテクトのソロ。

 

 編曲の都合上、時間はわずか二十秒程だったが、その演奏は見るものを魅了する。

 

 テクトのソロが終わり、再びタクトの指揮による合奏が始まる。

 

 直前のソロに気を取られていた者達も再び演奏に聞き惚れ、彼らの心を掴む。

 

 演奏が終わり、来賓が名残惜しそうにする中、タクトが指揮棒を振ると照明が一斉に落ちる。

 

 突然の暗転に同様が走る。

 

 直後、細いスポットライトが一人の人物を照らし出す。

 

 照らされたのはシュナ。

 

 純白のアメリカンスリーブドレスに身を包んだ可憐な姿に来賓が目を奪われる。

 

 歩くシュナに合わせて光が動き、シュナがピアノにたどり着くと同時にスポットライトが広がる。

 

 そこには既にテクトが座っていた。

 

 打ち合わせ済みであるためかシュナに動揺はなく、自然な動きでテクトの隣へと腰掛けた。

 

 先程サックスのソロを披露したことでテクトへの期待値は十分であり、今度は何をするのかと注目が集まる。

 

 視線を集める二人は周囲の人間などいないかのように見つめ合い、微笑み合うと鍵盤へと向き直る。

 

 そして、何の合図もなく完璧なタイミングで連弾が始まった。

 

 息の合った四手による重厚な響きが観客の期待を外すことなく魅了する。

 

 連弾の最後の一音とともにテクトが姿を消し、わずかな間を置いて再びサックスを手にした姿でスポットライトに照らされる。

 

 そしてもう一人。

 

 細い光がもう一本伸び、今度はシオンが照らされた。

 

 その服装はいつものスーツではなくスリップドレスを着ており、光の加減によって透ける様にも見えるその衣装は扇情的であり、普段は感じさせない色気を見せていた。

 

 シオンが手にしているのはヴァイオリンであり、先程のテクトとシュナの連弾の息の合いようからそこに入るシオンに不安そうな表情を浮かべる者もいる。

 

 そんな空気を感じていないかのように始まったシュナのピアノにあわせ、シオンとテクトが音を奏でていく。

 

 曲目としては三重奏(トリオ)のジャズなのだが、ドラムのない編成はリムルからすれば違和感があった。

 

 しかし、始まってみれば不思議と違和感なく響き合い、シオンの激しさのあるヴァイオリンとそれに相対するようなシュナのピアノをテクトのサックスで見事に繋げていた。

 

 観客にとってはあっという間に演奏が終わる。

 

 訪れた静寂を補うように楽団員が並び、きれいに揃った礼を見せる。

 

 これで演目はすべて終了したのだが、誰も動くことはない。

 

 スッキリした表情のテクトに対し、タクトを始めとした楽団員は不手際があったのではと不安そうな顔をする。

 

 それを見たリムルが我に返り、慌てて拍手をしようとしたところで、別の人物から拍手がおこる。

 

 それに追随する形でリムルも拍手を贈りつつ、一人目を確認すると、拍手を贈っていたのはルミナスだった。

 

 その表情はとても満足気であり、従者が目立っていることに対する奇異の目などお構い無しだった。

 

 そしてその視線も拍手の意味を理解した者達が魔王二柱に追随するうちになくなっていく。

 

 異世界人が広めたのか定かではないが、皆自然と立ち上がり、惜しみない拍手を贈る。

 

 それを受けた奏者たちが改めて礼をして公演は終了となったのだった。

 

 昼食を挟み、次の催しのため博物館へと移動する。

 

 昼食の間は公演への賛辞で溢れており、もう一度演奏を聴くにはどうすればいいかとリムルに直接尋ねる者もいた。

 

 公演は開国祭の間は定時で行われることを伝えるとテクトについても言及されたが、テクトにも予定があるため恐らく出演はしないと答える。

 

 質問した者からは非常に残念そうな顔をされたが、この先ないかもしれない機会に恵まれたことに感謝しながら引き下がった。

 

 そんな一幕の後で始まった技術発表会。

 

 発表者はガビルとベスターであり、ドワルゴンで大臣を務めていたベスターの存在にざわめく者もいたが、発表会が始まった。

 

 内容は回復薬について。

 

 ベスターはリムルがテクトに会う前にヒポクテ草を「捕食」して作っていた回復薬と魔国連邦で作った回復薬を並べ、その製法や性能の差異について解説をしていく。

 

 しかし、来賓の反応は芳しくなかった。

 

 王侯貴族として成果報告を聞くことはあっても過程には興味が薄いことに加え、一つ前の催しである演奏会で感動していた分、丁寧ではあるものの単調さのある解説は退屈なのだろう。

 

 ベスターはそうした心情を理解したのか小さく苦笑した。

 

「やれやれ、やはり皆様には小難しい話は退屈な御様子。それでは趣向を変えまして、ここで実験を行うとしましょう」

 

 そう言ってベスターはガゼルと目配せを交わす。

 

 行う実験とは、ベスターの運んできた折れた剣に回復薬を使うというもの。

 

 生物でない剣が治る訳が無いと様々に文句を言い始めた者達をよそにリムルは思考を巡らせていく。

 

 治るもの、治らないものを比較し、やはりただの物質である剣は治らないよ結論づける直前、剣にも意思が宿るという話を思い出した。

 

 そして、それは実践される。

 

 ベスターが完全回復薬(フルポーション)を振りかけると、剣はわずかであるが反応を見せ、ほんの僅かに治っていく。

 

 無論武器として使えるレベルではないが、確かに治ったことにそれを見た者達が驚愕する。

 

 自身の常識を覆され開いた口がふさがらない彼らにガビルが補足する。

 

「効果が現れるのは、一定以上の成長を見せた武具に限るようです。魔鉱製の武具であるのが最低条件で、所有者が長く愛用していないと反応しませんでした。つまりは意思が宿っているものに限るという事です」

 

「何故、そんなことを知りたいと思ったのだ?」

 

 問うたのはガゼル。他の来賓も気持ちは同じなのかガビルへと注目した。

 

「簡単な話です。我輩には、野に生える草木に意思があるとは思えませんでした。しかし実験の結果、回復薬の効果があることが判明したのです」

 

 完全回復薬の量産が可能となり実験に回す余裕が生まれたことで、ガビルは様々なものに振りかけて実験を行っていた。

 

 草木では樹皮の再生や折れた枝に新芽が芽吹くなどの結果が得られた。

 

 そこでガビルはトレイニーたち樹妖精(ドライアド)を思い出し草木から魔物へ変じるために条件があるのではと考えた。

 

 実験の結果魔素を含まぬものは全く反応を示さなかったが、そこから意思とは魔素に宿る―少なくとも大きな関係があるという仮説が立てられた。

 

 では一体、魔素とは何なのかという疑問が残る訳だが、そこまで話したところで、二つの画像を映写機にて移して見せる。

 

 カラーの画像に驚く者もいたが、ベスターは構うことなく説明を再開した。

 

「この画像を御覧ください。これはとある植物の組織図です。そしてもう一枚、これはそこらに生えている雑草の組織図」

 

 二つの画像を見比べ、相違点を探した者達が色々と意見を交わし、違いがわからないという意見が大勢を占める。

 

 それを受け、悪い顔をしたベスターとガビルが説明を進める。

 

「この一枚目の植物の名は、ヒポクテ草。そして二枚目の方は、そこらで採取した、ただの雑草です。どうです、同じように見えますか?」

 

 それを聞き、訳知り顔の者達がわかりにくかっただのよく見れば違うところがあるなどと口々に言い募る。

 

 だが、目の前の画像を正しく認識した一部の者は動揺していた。

 

 ざわめく者達を静めるとベスターは次々に画像を切り替えて説明をしていく。

 

 回復薬はヒポクテ草の汁を絞り、魔素と融合させることで精製する。

 

 一方残ったヒポクテ草の葉だが、すりつぶして魔素と融合させれば効果は薄いが軟膏として利用できる。

 

「さて、では皆さん。この画像を御覧ください」

 

 そこまで話してベスターは再び画像を切り替えていく。

 

 洞窟で栽培していたヒポクテ草と雑草を並べた画像が続くが、少しづつヒポクテ草の画像が変化していく。

 

 ガビルが最初に気付いたのは偶然によるものだった。

 

 搾りかすで作る軟膏は効果も低く、劣化も早いため使用できないこともざらにある。

 

 そのためすべて加工する必要もないのではと処理する方法を考えていたのだが、その搾りかすの葉の形状が栽培されているヒポクテ草の葉の形状と違っていたのだ。

 

 それに気付いたガビルは記録を取り始め、それが先程から切り替えられている画像なのだ。

 

「結論から申しましょう。ヒポクテ草という植物は、厳密に言えば存在しません。全ては高密度の魔素によって突然変異した植物なのです」

 

「そう!! 魔素の濃度が高い場所に生息するのではなく、魔素の濃度が高いから、突然変異した植物、それこそがヒポクテ草の正体だったのです!!」

 

 これを聞き、これまで興味の薄かった者も驚愕とともに騒ぎ出す。

 

 然るべき場所で発表すべき事実であるという言葉も飛び出すが、ガゼルやエルメシアでさえ驚愕していたのだからその言葉は正しいといえるだろう。

 

 そうした騒ぎを聞きつけたのかテクトが入室する。その後ろにはカートを押す龍人族(ドラゴニュート)を連れていた。

 

「あれ? もしかして出番無しか?」

 

「そのようですな。せっかくですので実践をと考えておりましたが、これ以上は流石に」

 

 テクトはコソコソとベスターに問いかけると、ベスターは苦笑とともに答える。

 

 彼らに目をつけたのはガゼルだった。

 

「待て、何をするつもりだ?」

 

「いえ、少々()()をと思いまして準備していたのですが、ご納得いただけたようなので必要ないかなと」

 

 テクトの言葉を聞き、ガゼルの表情が抜ける。それを見たテクトは後ろの龍人族を下がらせ、ベスターに続きを促した。

 

「私が抱いた「魔素とは何なのか?」という疑問については、未だその答えを持ち合わせてはおりません。魔物や魔人も、魔素の影響を受けている。これは、歴然とした事実であります。では、亜人はどうなのか? 体内から全ての魔素を取り除いたら、果たして人へと戻るのか? そうした疑問は尽きませんが、それらを検証するのは困難を極めるでしょう」

 

「我輩達はそれでも、今後とも研究を続ける所存である。大いなる知恵が集うこの地にて、その答えを求め続ける事を約束し、今回の技術発表を終えようと思う」

 

「御清聴」

 

「「ありがとうございました」」

 

 息の揃った二人の挨拶で技術発表会が締めくくられる。

 

 内容を見れば話し過ぎのように見えるが、この場で明らかにされた情報では何もできないのが現状である。

 

 人間の国ではそもそも魔素が足りないため実験をするための素材の確保さえ難しい。

 

 一方で魔国連邦では様々な方法で魔素を晴らす必要がある程度には魔素が有り余っている。

 

 どちらが有利かは比べるまでもないだろう。

 

 来賓達は午前は演奏会で人間と魔物の垣根を解され、午後は技術発表会で魔国連邦の優位性を見せつけられた。

 

 彼らの報告を受け、各国は魔国連邦との関係性を協議することになる。

 

 この日の内容だけでも魔王二柱が望む結果には近づくのだが、開国祭はまだ始まったばかりだった。

 


 

 次回「大事の前の小事」




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