転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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79話:金勘定

 ギリギリまでヴェルザードを甘やかし、テクトは転移で応接室へと移動する。

 

 室内にはちょうど入ってきたベニマル、シオン、ディアブロを伴ったリムルと緊張した様子のミョルマイル、給仕の準備をしていたシュナが待っていた。

 

 ガゼルも間もなく来るらしく、ひとまず座り、雑談を始める。

 

「そういえば、ヒナタはマサユキが自分と同格かもって言ってたけど、テクトはどう思う?」

 

「正直、マサユキは強いとは思えないんだよね」

 

「どういうことですか?」

 

 質問したのはベニマル。

 

 ヒナタをして評価の定まらないマサユキの評価を断じるテクトに意外そうにしていた。

 

「例えば―ベニマル、今のお前ならガビル相手に勝利は堅いだろう。しかし、武器を槍に持ち替え、スキルを封じれば危ういのではないか?」

 

「まあ、確かにそうですね。身体能力では勝る部分もあるので戦えはするでしょうが、技の冴えはガビルに一日の長がありますし、苦戦は免れないかと」

 

「そう、まさに技の冴えという部分―そこがマサユキを強者たり得ないと判断する理由だ」

 

 テクトはマサユキをずっと観察していた。

 

 それこそ舞台に上る前の歩き方からであり、重心どころか筋肉のつき方まで推測出来るほどに細かく視ていた。

 

 その結果わかったのは、少なくともマサユキは武器を振るって前線を支えるようなタイプではないということ。

 

 スキルによっては身体強化も出来るため膂力が足りない部分は補えるものの、立ちふるまいに修練の跡は感じられない。

 

 そのためマサユキは魔法やスキルによる遠距離主体かベニマルの「大元帥(スベルモノ)」が内包する「軍勢鼓舞」のようなバフを周囲に与える指揮官タイプと判断できた。

 

 では何故、今回こうして矢面に立っているかだが、噂に尾ひれがついた結果だと考えられる。

 

 戦闘を共にした者たちが勇者の(バフ)のおかげで勝てたと言ったことを話を聞いた者たちの一部が勇者の(戦闘力)のおかげで勝てたと誤解し、話が広がるうちに後者が多数派に変わっていったのであれば、勇者の勝利を信じる者たちが多いことに説明はつく。

 

 しかし、これには少々疑問が残る。

 

 それはマサユキは武闘大会の覇者として名が通っていることだ。

 

 本人が戦えるのであれば消耗の激しいゴズールを相手に手が震える程緊張することはないはずだ。また、テクトの推測が正しければろくに使えず重しとなるだけの剣を持つ必要は無く装備に違和感を感じる。

 

 最終的な結論としてはバフ系統のスキル所有者の可能性が濃厚だが、本人の戦闘力は未知数ということになる。

 

 既に決勝の組み合わせは決まっているため、なるようになるしかないとしていると、部屋の扉が開けられた。

 

「待たせたか?」

 

「いや、大して待ってないよ」

 

 軽い挨拶して早速本題に入る。

 

 支払いに使うための両替についてだが、ドワルゴンで用意できるのは千五百枚を少し超える数らしい。

 

 天馬(ペガサス)で運ばせようとするガゼルをリムルが「空間支配」による転移を理由に制すると、納得したように引き下がった。

 

「運搬はいいとして、商人達への支払いは、これで足りるのか?」

 

「千五百枚あればなんとか……個人的にはもう少し用意したいところではありますが、支払いという点だけであれば不足はありません」

 

 ガゼルに答えたのはテクト。

 

 現在支払いに必要な金貨は四千枚足らず。

 

 最近貨幣制度を導入し始めた魔国連邦圏内で流通していた金貨が百枚弱。

 

 日中に連絡を取ったブルムンド王から借り受けた金貨も同量程度である。

 

 リムルの個人的な所持金貨が三百枚。

 

 ミョルマイルのかき集めた金貨が千枚ちょっと。

 

 さらにテクトが動かせる金貨が全部で九百と少し。

 

 そこへガゼルが用立てた千五百枚を加えてギリギリ足りるという状況だった。

 

「足りるのか! よかったよかった」

 

「お前は自分の国の予算割もしておらんのか?」

 

「いや、だってテクトがやってくれたし……」

 

「……どこから叱るべきかもわからん」

 

 支払いが問題なくできそうだというテクトの言葉にリムルがホッとしたように形を崩し、その様子にガゼルが呆れる。

 

 テクトによって資金繰りについても抜かりなく資料は作られており、それを読めばリムルも理解は出来るのだが、本人がいるためそれを確認することもなくこの場に赴いていた。

 

 これ以上失言をしないよう黙る魔王二柱と何から言及すべきか思案するガゼルに鈴を転がすような声が割り込んだ。

 

「金貨が必要なら、私が用意しても宜しくてよ?」

 

 声の主へと視線を向けるとエラルドを伴ったエルメシアが部屋の入口に立っていた。

 

 エルメシアの姿を見て、一瞬ガゼルは嫌そうな表情になるが、テクトはひとまず脇において事情を訊ねることにした。

 

「遅くに申し訳ない、エラルド公。それで、何故皇帝陛下まで?」

 

「いやあ、それがですねテクト殿、私が陛下に相談しましたところ、快く協力を申し出たいと」

 

 エラルドの説明にエルメシアは笑顔だった。

 

 一方説明した本人は苦々しい表情であり、本心から相談したわけではないことが伺えた。

 

「要求を聞きましょう」

 

「テクト、足りるなら別にいいんじゃないか?」

 

 視線でシュナに給仕を頼みつつ交渉をしようとするテクトをリムルが押し留めようとする。

 

 ガゼルやエラルドの態度から面倒事の気配を感じた故の行動だったが、テクトはリムルを撫でながら話す。

 

「別に取引するわけじゃないよ。ひとまず話を聞くだけ。さっきも言ったように金貨がほしいのは個人的な理由だからね。国に不利になるなら蹴るだけだよ」

 

 歯に衣着せぬ物言いにエラルドとガゼルが緊張する。

 

 対するエルメシアはシュナから受け取った果実酒を一口飲み満足そうに微笑むと口を開いた。

 

「貴方に協力するに当たって、私からの要求は一つよ。このようなお祭り騒ぎを企画するのなら、是非とも誘って欲しいのよ。次回から私を誘ってくれるなら、喜んで両替に協力して差し上げますわ」

 

 こんな面白い事を、私に内緒で企むのが許せないと言い放つエルメシアに、エラルドは頭を抱えて天を仰ぎ、ガゼルは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 二人の反応は気になったが、テクトの回答を揺るがすほどではなかった。

 

「まぁ、それぐらいならいいかな。では、宜しくお願いします」

 

 テクトの返事を聞き、エルメシアは嬉しそうに笑う。

 

「王族は民の奴隷ではないのよ? 王族が自由に生きる方が、民も嬉しい。私も嬉しい。皆が幸せになれると思うのよ!」

 

「反論はありません。現状が示す通り、考えなしに動くことがあるので協力者が出来るのは頼もしいですしね」

 

 テクトの言葉にリムルの表面が僅かに波打つ。

 

 それをテクトが手刀で静めるのを面白そうに眺めながら、エルメシアは財布を取り出した。

 

「ここには私のポケットマネーだけしかなくて、金貨は千枚くらいしかないわねえ。もっと必要なら用意して持って来させるけど?」

 

「いえ、十分です。先程も申した通り、支払いには足りていますので」

 

 そう言いながらテクトはエルメシアの金貨千枚と星金貨十枚を両替する。リムル達が必要ではないのに金貨を用意する意図を計りかねているのを感じ、テクトは説明することにした。

 

「金貨を集めたのは個人的な理由だとさっき言ったけど、何のためにかと言えば、一種の示威行為だ」

 

「と言いますと?」

 

 聞き直したのはシオン。

 

 シオンが状況の把握に積極的なことに嬉しく思いつつ、詳しい内容に移る。

 

「今回の支払いにおける騒動が何者かの差し金であることは昨日話したな? 連中は正規のルールに則っているのにこちらはそれを守れないと主張し、俺達の信用を貶めようとしている。だが、やることが大掛かりすぎる。だから、他にも目的がある―俺はそう考えた」

 

「他の目的?」

 

「魔国連邦に恩を売ることだ」

 

「なるほど。頼まれてもいないのに、仲裁に入ろうとする者が現れる、と。そういうことですね?」

 

 テクトの言葉に反応したのはディアブロ。

 

 リムルは置いてけぼりだったが、内容が核心に近づいていることでエルメシアも微笑んだ。

 

「そういうことだ。状況としては対七曜のときの会議が近いか。まぁ、今回の仕掛人は黒幕とは程遠いだろうがな」

 

「しかし、支払いを補填するにしてもかなりの額が必要になるのでは? そのような大金を持ち込んでいるのであれば、すぐに調べはつきそうなものですが」

 

 シオンの質問にベニマルも追従するように頷く。

 

 これに答えたのはエルメシアだった。

 

「金貨の現物が無くても、証文があれば問題ないでしょうねえ。この国には信用がないのだと各国の重鎮に見せつけつつ、自分には信用があるのだと、貴方達に恩が売れるわ」

 

「欲深い。実に、人間らしい考え方です。勉強になりましたよ」

 

「要はしゃしゃり出てきて小売商を説得し、恩を売りつけようとするトカゲの尻尾がいるだろうということだ。魔国連邦の信用を得れば良し、そうでなければ切り捨てる程度の小物がな」

 

 テクトのまとめにシオンが納得を示す。先にディアブロが理解したことに悔しそうにするが、相手が悪いというものだった。

 

「当日は小物が馬脚を表すまで待ってから金貨を運び込み、支払いを行う。全員への支払いが終わってなお潤沢に金貨が残っていれば、奴らの計画はご破産というのがわかりやすいだろう? ギリギリ足りたでは何とか間に合わせたように見えて付け入る隙を与えかねない。だから、なるべく多く金貨がほしかったわけだ」

 

「そういうことであれば、最初から言ってくださればよかったのでは?」

 

「後ろに金塊を置くだけでも威嚇にはなるからな。最初から余剰が欲しいなどと言えばいらぬ無理をさせてしまう。そういう事態を防ぐために黙っていた」

 

 再び質問したシオンだが、今度は納得と言い切れぬ表情になる。気遣いを受けるべきか信用が足りないことを嘆くべきかといった表情にテクトは苦笑する。

 

「黒幕に関しては役者が揃ってからになる。西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)の深いところまでいくだろうから、焦らず調べを進めるように」

 

「御意」

 

 テクトの声にソウエイが姿を現して跪く。

 

 突然現れたソウエイにエルメシアまでもが驚いた顔をしていた。

 

「驚いたわ。まるで気配を感じさせないのね」

 

「だから申したのですよ、陛下。ここの者共は異常ですから、生身で訪問するのは危険です、と」

 

「うふふ。でもお、面白い体験ができたわねえ。それで魔王の御二柱に、一つ質問していいかしら?」

 

「何なりと」

 

 面白そうに笑うエルメシアにテクトは気負いもせずに答える。次の瞬間、エルメシアの雰囲気が一変した。

 

「朕は、その方等と盟約を結ぼうと考えておる。じゃがその前に、貴殿等の考え方を聞いておきたい」

 

 放たれたのはガゼルの比ではない「英雄覇気」。

 

「伺いましょう」

 

 リムルが気圧されそうになるのを「魔王覇気」で対抗するのを見つつ、テクトは「狡知之神(ロキ)」で周囲を覆ってミョルマイルを保護する。

 

 互いに視線を逸らすこと無く、睨み合う形でエルメシアが問う。

 

「貴殿等は、悪魔共をどう処すつもりだ? 危険極まりない原初を」

 

「ごふっ」

 

 エルメシアの言葉にテスタロッサも原初の一柱であることが確定的になり、恐らくギィから降りかかるであろうストレスを幻視して、テクトが小さく吹き出す。

 

 相棒の反応を不思議に思いつつもリムルが答えた。

 

「いや、別に? どうもこうも、二人とも気持ちよく働いてくれているし、何か問題あります?」

 

「……聞き方を変えましょう。悪魔共が暴走したなら、貴殿等はどう責任を取るつもりじゃ?」

 

 再びの質問に魔王二柱は僅かに思考する。

 

 先に口を開いたのはテクトだった。

 

「暴走する前に止めるのが最善でしょう。ですがそれでも止まらないようなら、滅ぼしてでも止めますよ」

 

 テクトの答えにリムルは大げさではと考えるが、そこは危険度の認識の差である。

 

 ギィと近しい存在で肩書相応の危険度があると見るか、シオンと同程度に沸点が低いだけと見るかという程度には差があった。

 

 ひとえにリムルが原初の悪魔について何も知らないことが原因だが、当人以外は周囲との認識の差に気付いていなかった。

 

「は? えっと、ちょっと待って? 思わず素に戻っちゃったけど、君たちで原初を止めるの? 責任を持って?」

 

「必要とあらばそうせねばならないというだけです。そもそもそんな事態を起こさせる気はありませんよ」

 

 なんということもないといった様子で答えるテクトにエルメシアは呆気にとられたようにぽかんとしていたが、しばらくすると少女のように笑い始めた。

 

「ちょっとお、聞いたエラルドちゃん? この国の魔王二柱は、エラルドちゃんから聞いていた以上に大物だわねえ!」

 

 楽しそうなエルメシアに対し、エラルドは渋面を深くしていた。

 

「もう良かろう、エルメシア殿。テクトがこう言うのだ、俺もそれを支持しよう。何かあったその時は、このガゼル・ドワルゴも此奴等の力になると約束しよう」

 

「その方等の考えは理解した。もしも貴殿等が人類の敵に回るなら、その時は朕が全力を持って止めてみせようぞ。このまま好ましい関係を維持し、両国の絆が深まることを願おう。エラルド」

 

「ハッ!!」

 

「朕も、魔導王朝サリオンとジュラ・テンペスト連邦国の、正式なる盟友関係を認めるものとしよう。後の手続きは、良きに計らえ」

 

「ハハァーッ!!」

 

 ガゼルがテクト達の肩を持ったことを楽しげに眺めた後、威厳たっぷりにエラルドへと雑用を回した。

 

「それじゃあ、何かあったら私かガゼルちゃんに相談して、決して暴走しないようにね?」

 

「はい……」

 

 笑顔で告げるエルメシアにテクトが気まずそうに返事をする。

 

 暴走云々に関してはリムルは物申したかったが、テクトに抑えられ失言は避けられた。

 

「本来、他国の王に相談をするよう言うのは筋違いなんだがな。お前達の場合は別だ。悪く思うなよ?」

 

 内政干渉となるため良いことではないのだが、転生者由来の発想は受け入れがたいものも多いらしく、事前の相談が望ましいとのことだった。

 

 テクト達としても天使族(エンジェル)の文明破壊へ備えるためにも基準は必要となるため、協力を取り付けることができたのは僥倖ではあった。

 

 その後、エルメシアが吉田シェフの紹介を頼み込むという一幕はあったがさしたる問題はなく、真夜中に開催された超大国による三巨頭会談は密やかに終わりを告げるのだった。 

 


 

 次回「武闘大会本戦・二日目」

 


 

 おまけ

 

 「魔物の国の歩き方」及び某ゲーム小ネタです

 

「呪文詠唱」

 

 

 

 開国祭で賑わう魔都リムルにて、純白の騎士服を身にまとった男が町を歩いていた。

 

 彼の名はアルノー・バウマン。

 

 神聖法皇国ルベリオスが誇る十大聖人の一人である。

 

 そんな彼が一人でいる理由はラーメンを探していたのだ。

 

 以前ヒナタとともにブルムンドで食べたラーメンの味を求め、様々な店を覗いていた。

 

 そうしてラーメンを求めるアルノーだったが、不意に肩を叩かれた。

 

「やぁ、アルノー殿」

 

 何の気配もなく接近を許したことに警戒し、腰の剣に手をやりつつ振り返ると、見覚えのない黒髪で黒眼の少年が立っていた。

 

 実に無害そうな少年だったが、こうして眼の前においていても見失いそうになるその存在感に、どこぞの刺客かと警戒していると、その考えを悟ったのか慌てて弁解し始める。

 

「待って待って、俺だって」

 

 そう言うと少年の黒髪が右側だけ白くなり、右の瞳が紅く染まる。そうして僅かに妖気を漏らして正体を示す。

 

 その妖気を感じてアルノーは剣から手を離し、身体から力を抜いた。

 

「なんだ、驚かさないで下さいよ、てk」

 

「おっと、その名で呼ばないで下さいな。俺の名は……そうだな、黒瞳(コクトウ)です。そうお呼び下さい」

 

「は、はあ」

 

 本名を呼ぼうとしたアルノーの口を糸で塞ぎ、コクトウの名を名乗る少年(テクト)

 

 テクトの奇行に慣れていないアルノーは困っていたが、テクトは気にせずに話を続ける。

 

「それで、アルノー殿は何をしに?」

 

「へ? ああ、ちょっとラーメンを食べられる店を探してまして……」

 

「ふふふ、毎度ありがとう御座います。そういうことなら案内しますよ。俺もラーメンが食べたかったところなんです」

 

「それは有り難いのですが、話し方は戻してもらえませんか? どうにも正体を知っていると違和感が……」

 

「そう? じゃぁ、行こうか」

 

 困った様子のアルノーに従い口調を戻したテクトの先導に従い、一軒の店に辿り着く。

 

 その店には列ができており、客層はガッチリした体型のものやデブラのような体型のものが多かった。

 

「ここがラーメンの店なんですか?」

 

「ああ、最近作った店でな。リピーターが多くいる」

 

「確かに繁盛しているようですね」

 

 周囲の者から浮いてしまう体型であるアルノーはやや気まずそうにしていたが、身長も縮めているため余計に違和感のあるテクトが気にしていないのを見て、落ち着かないながらも周囲を気にするのを止める。

 

 そうして少しづつ列が進んでいく中、テクトが口を開いた。

 

「そういえば、アルノーはよく食べる方かな?」

 

「まあ、身体が資本ではありますし、人並み以上には食べると思いますが……それが何か?」

 

「いや、ここのはなかなかボリュームがあるからね。そうそう、注文方法にも違いがあってさ。ここは試験的に食券っていう前払いのシステムなんだけど、それ以外にも色々注意事項があって」

 

 不思議そうにするアルノーにテクトは笑顔で説明をしていく。アルノーはその説明を聞き、気の毒そうにする他の客に気づくことはなかった。

 

 そうして説明を受け、アルノーはテクトと店に入る。

 

 テクトが支払いを持ったことでアルノーは恐縮しつつ、「チャーシューダブル」と書かれた食券を受け取った。

 

 そして案内された席に座るなり、アルノーは口を開いた。

 

「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ!」

 

 アルノーの宣言を聞き、店中が騒然とする。

 

 その雰囲気を感じ取ったアルノーは情報源であるテクトへと助けを求めた。

 

「えっ何か間違えましたか?」

 

「いや? 間違ってないよ? ねぇ、店員さん。あ、俺も同じトッピングで」

 

「あ、はい。少々お待ち下さい」

 

 困惑した様子のアルノーをテクトは軽く誤魔化し、食券を渡して注文を確定させる。

 

 アルノーが微笑むテクトに何やら嫌な予感を感じながら待つこと数分。

 

 二人の待つ席に山が届けられた。

 

「チャーシューダブル、メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ二つですね。ごゆっくりどうぞ」

 

「え……? なんですか、これ?」

 

「チャーシューダブル、メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシだよ」

 

 アルノーは丼の上に更に丼を重ねたように盛られた野菜に圧倒され、うろたえる。

 

 なんということはないと言うように答え、テクトが割り箸を割る音で正気を取り戻したアルノーはこの事態を唆した魔王へと詰め寄った。

 

「どういうことですか、これは!」

 

「だから確認したじゃん、「よく食べる方?」って早く食べないと伸びるよ」

 

 それだけ言うとテクトは山盛りの野菜を口に放り込んでいく。

 

 これ以上問い詰めても無駄だと察したアルノーは意を決して割り箸を手に取り、山盛りの野菜へと挑みかかった。

 

 この日、明らかに収まりそうにない量を食べきった小柄な少年がいるという伝説ができる。

 

 そして、この店へのリピーターが一人増えた。




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