転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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80話:武闘大会本戦・二日目

 開国祭、三日目の朝。

 

 リムルの両替してきた金貨を加え、支払いの準備を整えて闘技場へ。

 

 既に闘技場は熱気に包まれており、決勝戦の勝者の予想で賭けも行われていた。

 

 オッズは圧倒的にマサユキが優勢であり、ゴブタへ賭けている者はほとんどいなかった。

 

 リムルとテクトは二人してゴブタへ賭けており、完全に倍率に目が眩んでいた。

 

『サァ──ッ、ついに決勝が始まろうとしておりますッ!! 本日、勝者の栄光を手にするのは、果たしてどちらの選手なのか! “閃光”のマサユキか、あるいは、“四天王”候補として台頭した小さな闘士ゴブタなのかっ!?』

 

 ソーカのアナウンスに観客が湧き上がる。

 

 あまりの歓声にソーカの声もかき消されそうになり、ディアブロが手を挙げて諌めた。

 

『さーて、皆様! 遂に第一回テンペスト武闘大会の、決勝戦が始まろうとしております!! 一方の雄は、魔王両陛下直下、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の若き隊長ゴブタ選手! それに対するは、西側諸国の英雄、閃光の“勇者”マサユキ選手です!! さてさて、二人は一体どのような戦いを魅せてくれるのか──ッ!? さあ、両者が中央にて睨み合っております。試合開始まで間もなくです!!』

 

 改めて舞台に立つ両者を観察すると、どうにも落ち着かない様子で向かい合っている。

 

 明らかに気負った様子のゴブタに対し、マサユキは緊張からか震えていたが、ゴブタを見ているうちに落ち着いたのか震えが収まる。

 

 それを確認したわけではないだろうが、ソーカが上げていた手を下ろした。

 

『それでは、始めて下さいッ!!』

 

 試合開始とともにゴブタは突進する。

 

 警戒しながらの先制攻撃はマサユキから漏れる「英雄覇気」を前に断念され、そのまますり抜けて場外ギリギリへの退避へと変わる。

 

 一方マサユキはゆっくりと振り向いて、ニヒルな笑みを送っていた。

 

『お──ッと、やはり、顔面偏差値が高い方が強いのかぁッ!? ゴブタ選手のトリッキーな動きをまるで無視して、マサユキ選手が余裕を見せつけているぞぉ──ッ!!』

 

 マサユキびいきのセリフにゴブタの顔が引きつる。一瞬悔しそうな顔をしたが、気を取り直して構えを取った。

 

「へ、へへっ、予想通り、っすよ……その反応、オイラが何をしても無駄、ってことなんすね? 今の実力で、何処までやれるか試してみたかったっすけど……まるで歯が立たないっすか。それでは、使わせてもらいます。この、新たに得た究極の力を―ッ!!」

 

 何やらしでかそうとしているゴブタだが、智慧之王いわく昨日のランガによる召喚割り込みをきっかけにユニークスキル「魔狼召喚(オレニチカラヲ)」を獲得したという。

 

 これによりランガの召喚と同一化が行えるようになったらしい。

 

 なお、リムルから関与を疑われた智慧之王は言い淀み、何かしらの影響があることは明らかだった。

 

「とくとみるっす! 魔狼合一(ヘンシン)ッ!!」

 

 ゴブタの言葉とともに空間が歪み、ランガが現れるとそのまま二人は黒い霧へと包まれる。

 

 そうして完成した同一化にはゴブタの要素はほとんどなかった。

 

 容姿としては直立し人型に近づいたランガであり、強いて言えば姿勢はゴブタのものだった。

 

「う、うわぁ──!! かっこいい。何だあれ、格好良いのだっ!!」

 

 突然の変身にミリムが大はしゃぎで身を乗り出す。

 

 ミリムのセリフに若干モヤモヤするのにテクトは自分自身で面倒くさいと結論付けつつ、すっとミリムを座らせた。

 

『こ、これは!? ゴブタ選手が、異形の姿へと変身したのでしょうか……?』

 

『そうですね。召喚獣の力をその身に宿す、とても希少な能力(スキル)です』

 

『という事は、ゴブタ選手は、昨日の召喚獣の力を自分のモノとして扱える訳ですね? これは凄い! 凄い事が起きているようです!!』

 

 興奮するソーカの疑問にディアブロが冷静に答え、観客にも状況が伝わっていく。ミリムや幹部達も期待しているのか興味深そうに見守る中、ゴブタがにやりと笑った。

 

「へへ、次は自分の番っすよ!」

 

 そして僅かに力を溜め、直後に観客の視界から消え失せた。

 

 轟音が響き、全員の視線がそこに集まる。

 

 その先ではゴブタとランガが目を回していた。

 

『おおっと、ゴブタ選手、起き上がって来ませんが、大丈夫なのでしょうか?』

 

 気絶した様子の二人にソーカが心配そうにする。

 

 起きたことといえば、単にゴブタの自爆である。

 

 ランガが行動の如何をゴブタに任せたことでランガの力を扱う事になったゴブタだったが、その身体能力をまるで制御できていなかった。

 

 簡単にいうなら小さなライターのつもりでガスバーナーを扱うようなものであり、加速に意識がついていかず、舞台を走り抜けてしまったのだった。

 

 結局ゴブタが何の役にも立たずに敗退したことで魔国連邦の面々になんとも言えない空気が漂う。

 

 特に直前までゴブタを弟子の中でも有望株と評していたハクロウはモミジががっかりした様子になったことで怒りを浮かべており、剣呑な表情になっていた。

 

 何が起こったのか理解できていなかった観客も誰かが発した空気投げという言葉に納得し、判定も待たずにマサユキの優勝に湧き始める。

 

 そんな中、ミリムは怒りに震えていた。

 

「あ、アイツ……ワタシを舐めてるのか? せっかく恰好良かったのに、あの様は何なのだ?」

 

「ま、まあまあ。アイツはアイツなりに、あれでも頑張ってくれていたんだよ」

 

「リムルよ、貴様がそうやって甘やかすのは、あの者の為にならぬぞ!」

 

「そうですぞリムル様。ゴブタの事を、ワシも少々甘やかしておったようです。これからは、もっと厳しく接さねばなりますわい」

 

 ミリムがテクトに乗り上げながらリムルに詰め寄り、ハクロウも剣呑な表情のままミリムに賛同する。

 

 普段の訓練からはとても甘やかしているような気はしなかったが、誰もそれを言うことはなかった。

 

「良し! ワタシが鍛えてやるのだ。リムルよ、ゴブタをワタシに預けてくれ。そうすれば、きっと素晴らしい戦士に育てて見せるのだぞ!」

 

 珍しいスキルを前に楽しそうに展望を語るミリムにゴブタを偲んで了承するか迷うリムルだったが、ふとテクトへと視線を送る。

 

 ミリムの胸で首を変な方向に曲げられていたテクトが手を上げると、ミリムはようやくテクトから下りる。ちょうど膝の上に収まるようになったミリムにリムルが小さく声を上げたが、誰の耳にも届くことはなかった。

 

「ミリムに頼みたい事があったんだけど、それを聞いてくれるならいいかな」

 

「ふふん、任せるのだ」

 

「先に内容を聞こうね。クレイマンの城に遺跡があったんだけど、一応ミリムの領土だし、勝手に探索するわけにはいかないからそのままの状態で保存させているんだよ。で、外部の人間も連れてそこの調査がしたいと思っているんだよね」

 

「何だそういうことか。勿論構わんが、ワタシも連れて行ってくれるんだろうな?」

 

「話をする専門家次第かな。仮にも領内のことだし、問題ないと思うけど」

 

 そんなことを話しながら判定を待っていると、ソーカとディアブロの話は終わったらしく、ソーカが進み出る。

 

 結果発表というのもあってミリムを席に戻すと、ソーカが口を開いた。

 

『判定結果が出ました! 未だに意識の戻らないゴブタ選手が心配ではありますが、この試合の勝者は』

 

『待て』

 

 異を唱えたのはマサユキだった。ソーカは困惑しつつも手を差し出したマサユキへマイクを手渡した。

 

『この勝負、僕の負けかな?』

 

『ええと、ですがマサユキ様、今のはどう見ても、ゴブタ選手の自爆なのですが……?』

 

『そうかも知れない。でもね、彼の攻撃を僕は見きれなかったのさ。そんな未熟な僕には、まだまだ魔王に挑戦するのは時期尚早だと、そう思ったんだよ』

 

 それだけ言うとマサユキはマイクを返し、その場を立ち去っていく。

 

 突然、敗北を宣言して去っていく姿に困惑していたが、一人の男が声を上げる。

 

 いわく、ここでの撤退はマサユキなりの警告だという。

 

 マサユキであれば武闘大会の優勝は簡単なことだが、剣を抜かずに決勝まで進んだことでそれを魔王に示す。

 

 また、魔王二柱が人類との共存を望んでいるため、非暴力の姿勢を取りつつも挑戦する一歩手前まで行くことで悪事を働くようであれば容赦はしないという無言のメッセージを送ったとのことだった。

 

 この主張が周囲に伝播していき、最終的に自分を下に見せてまで平和を願う姿が素晴らしいとマサユキの名の大合唱にて彼を称えるという事態に発展した。

 

 智慧之王による解析ではマサユキのユニークスキルの効果の可能性があるらしく、テクトの考察も踏まえ、本人はさして強くないが、影響力は無視できないものだと評価が定まった。

 

 名前からも日本人と思われるため、話をするためにソウエイに伝言を頼み、閉会式へと移るのだった。

 

 最終的に優勝はゴブタ。

 

 正式に“四天王”の五人目として任命され、改めて人数がおかしいことに妙な空気になったものの、異世界ではこういうものだと押し通し、貴賓室に残っていたテクトはヒナタから苦言を頂戴した。

 

 マサユキからはこっそりと招待に応じるという返答がされ、その覚悟を決めたかのような表情にリムルが不思議そうにしているうちにゴブタはミリムによって迷宮まで拉致された。

 

 ゴブタの優勝に協力したと言い張り褒めてもらおうとしたランガも「同一化」が前提の修行であるためゴブタ同様に拉致され、フェルは召喚に割り込みをかけずによかったと心底安堵していた。

 

 

 

 そして昼食時。

 

 参加者はテクト、リムル、マサユキの三人。給仕としてシュナも控えているが、魔王二柱と勇者の会食が実現していた。

 

「は、ハジメマシテで、いいのかな? 閃光とか“勇者”とか呼ばれたりしている、本城正幸(マサユキ・ホンジョウ)です……」

 

「初めまして、だな。魔王テクト・D・F・テンペストだ。白織拓磨という名もある」

 

「一応、初めまして。俺が魔王リムル。本名、三上悟です。元サラリーマンなんだよ」

 

 二柱の名乗りにマサユキは緊張からか泳いでいた視線を魔王へと移した。

 

「え? もしかして……日本人、ですか?」

 

 そう言ってマサユキはシュナに視線を向ける。

 

 日本人か確かめたいのがありありとわかる様子にテクトは苦笑しつつ否定する。

 

「シュナは転生者じゃないぞ。単に俺の恋人で身の上話は共有することにしているだけだ」

 

「は、はあ……」

 

「まあ、詳しいことは食べながら話そうか」

 

 首を傾げていたマサユキだったが、リムルの声に箸を持つと戸惑うように視線を彷徨わせた。

 

「って、これ、本当に食べてもいいんですか?」

 

「そのために用意したからな」

 

「最後の晩餐とか?」

 

「そうしてほしいなら、やぶさかではないが」

 

「えっ、いやっ」

 

「からかってやるな。話の通じる同郷の君とは仲良くなりたいと思ってるんだよ。勿論テクトもな」

 

 用意されたのは寿司と天麩羅。

 

 状況を誤解していたマサユキも魔王二柱のじゃれ合いにおずおずと手を合わせて箸を伸ばし、一口食べた途端に無言で食べ始めた。

 

 久方ぶりの故郷の味に浸るマサユキを邪魔しないよう話は後回しにしてテクト達も食事にする。

 

 四人とも食事を終えると、真っ先にマサユキが口を開いた。

 

「わかりました。僕は、リムルさんとテクトさんの手下でいいです!」

 

「手下、ってお前ね……」

 

「いえ、大丈夫です。僕は勇者になんて、まったく未練がありませんから。ぶっちゃけ、『マッサユキ』とか言われるのが恥ずかしかったですし。いや、本当、どうやって逃げ出そうか悩んでいたくらいなんですよ」

 

 唐突に手下と言い出した事に引きつつ、詳しい事情を聞いてみるとマサユキは正直に話し始めた。

 

 マサユキは元の世界では進学校似通う高校生だったらしく、転移の直後、密かに趣味として読んでいたライトノベルの主人公ようになりたいとちらっと考えた結果、ユニークスキル「英雄覇道(エラバレシモノ)」を獲得したのだという。

 

 権能はテクトの予測した仲間へのバフのような力と、周囲への洗脳に近い思考誘導らしく、マサユキの意思に関係なく英雄へと崇められることになるのだという。

 

 イングラシアでも何もしていないのにいつの間にか武闘大会の優勝していたらしい。奴隷商会(オルトロス)壊滅の際も神輿として担がれている内に終わったそうで、何もしていなかったという。

 

 ちなみに究極能力(アルティメットスキル)持ちにはユニークスキルである「英雄覇道」は効果を及ぼせないらしく、これは他のユニークスキルもほぼ同様だという。

 

 腰に指していた剣もろくに振ることはできないとのことで、実際に戦うことになれば拳一発で死んでいた可能性が高かった。

 

「しかし、「英雄覇道」か……まだまだ進化の余地がありそうで恐ろしくなるスキルだな」

 

「進化ですか?」

 

「スキルが勝手にマサユキを英雄に押し上げてるんだろ? ってことは上り詰めた後でその名声を維持するための権能へと進化するかもしれない。そうなったら今より大騒ぎになるだろうな」

 

「勘弁して欲しいですよ……」

 

 げんなりした様子でうなだれるマサユキだったが、自分を崇める仲間たちと違い本音で話せる相手ができたのは嬉しいのか色々と話し始めるのだった。

 

「まぁ色々と話を聞きたいが、それよりもだ。マサユキはゴズールの件はどうするつもりなんだ?」

 

「あっ!」

 

 テクトの指摘にマサユキは顔を青くする。

 

 昨日は口先でなんとかなったが、午後からは相手の有利なフィールドに踏み込まなければならないということにマサユキが震えていると、安心させるように微笑みながら話を続ける。

 

「安心しろ。ゴズールが守るのは地下五十階層だからな。正解のルートを知っていても入口からは数日かかるし、今日は問題ない」

 

「じゃ、じゃあ、取り敢えず攻略を進めるフリをしておけば、今日を乗り切れるってことですね?」

 

 まだまだ問題は先延ばしに出来そうだとわかり、マサユキはホッと息を吐く。

 

 落ち着いた様子のマサユキにテクトはにっこりと笑った。

 

「でだ、よく目立つ君に頼みがあるんだが」

 

「え?」

 

「なに、難しいことではないさ。ダンジョンに挑戦して、攻略最前線を張る勇者として他の冒険者を牽引する役目を担って欲しいんだ。無論、バックアップは任せてくれ。装備や地図―罠と宝箱の場所といった情報や消耗品をそれとなく融通する。うまく使って攻略を進めてくれ。改善点などで気付いた点があれば遠慮なく言ってくれるとより良いな」

 

「わかりました。本当に頼もしいです。失敗しても死なないし、安心して臨めますよ。なんだかゲームのテストプレイヤーみたいになったみたいですね」

 

 テクトの提案が難題というほどでもなかったためか、マサユキは安心した様子で快諾する。

 

 風呂トイレ完備の宿に豊富な種類の食事、音楽を始めとする娯楽など離れがたい理由もあり、マサユキの滞在が決定した。

 

 ひとまず体型を精査してより動きやすい鎧と振りやすい剣を用意する準備を整え、会食は解散となったのだった。

 


 

 次回「迷宮解放」




感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。

思うところがあり各話にナンバリングをしました。
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