転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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81話:迷宮解放

 迷宮下層にて妙に自信満々なラミリスとヴェルドラを見て少し不安になりつつも時間も迫っているため、一旦脇に置いて貴賓室へと戻る。

 

 ラミリスはついてきたが、ヴェルドラは挑戦者を待つと言って残り、事前の説明を全く聞いていないことが伺える。しかし、事実を伝えて絡まれるのも面倒なので放置することにする。

 

 舞台にはディアブロに代わりミョルマイルが立っており、その時を待っていた。

 

『さあ、時間となりました! それでは開国祭三日目、最後の催しをご紹介します!』

 

『御来賓の皆様、大変お待たせ致しました。これより一部をお見せするのは、この魔国連邦が誇る難攻不落の地下迷宮(ダンジョン)で御座います。魔王両陛下が冒険者達へ解放する、最難関。果たして、これを突破(クリア)出来る者は現れるのでしょうか──ッ!?』

 

 武闘大会でもマイクを握っていたソーカと違い、ミョルマイルは緊張のためか少々ぎこちないながらもセリフを噛むことなく読み上げている。

 

 今回の地下迷宮のお披露目は攻略するパーティーをスクリーンを通して放送することになっており、マサユキ曰く「三人称ゲームの実況動画みたい」とのことだった。

 

 参加パーティーを募った結果集まったのは三パーティー。

 

 まず名乗りを上げたのは“轟雷”というパーティー。

 

 リーダーはスキンヘッドの戦士バッソン。彼は武闘大会の予選受付に間に合わなかったようだが、参加できていれば優勝は自分だと豪語し、迷宮を虚仮威しだと言い切っていた。

 

 次に手を上げたのはエレン達三人組。

 

 B+ランクとしての権威で旧ファルムス領内の自由組合でヨウム勢力の下地作りなどを頼んでいたのだが、あまり冒険者らしいことをできていなかったため地下迷宮へ挑戦することにしたらしい。

 

 ちなみにリーダーはカバルなのだが、参加はエレンの一存で決められている。

 

 最後にマサユキを先頭にした“閃光”。

 

 マサユキには五階層までの地図を渡しており、宣伝のために注意すべき罠の場所も教えられている。

 

 順調な攻略で火付け役を期待されている。

 

 他のパーティーは二の足を踏んでいるらしく、これ以上の参加者はでないと判断して次の説明に移らせようとしたその時、一人の男が姿を見せた。

 

「待て。俺も参加してやろう」

 

 “流麗なる剣闘士”ガイである。

 

 ランガに倒されたのだと理解しておらず、ゴブタと魔王二柱が共謀して何かしらの罠にはめたのだと言いふらしながら、魔王の野望を打ち砕くと宣言する。

 

 ガイの物言いにいきり立つ者もいたが、取り敢えず参加させることにして説明に入ることになった。

 

 今回は四パーティーの同時攻略をソーカが実況する形になる。

 

 中継役は各パーティーに付き添う樹妖精(ドライアド)が行い、魔法通信と映写機でスクリーンへと状況が投影される。

 

 昨夜の話し合いもあって何かしらお小言をもらう可能性もテクトの頭をよぎったが、代案もないため諦めることにした。

 

 そして、今回は特別にアイテムの支給がされる。

 

 各パーティーに上位回復薬(ハイポーション)が十個、完全回復薬(フルポーション)が一つ、全員分の“復活の腕輪”と“帰還の呼子笛”が一つである。

 

 余ったアイテムは報酬としてそのまま持ち帰ることも可能であり、もし全て消費しきってしまっても樹妖精達が予備のアイテムを所持しているのでいざという時の補充も可能。

 

 また、本来なら二階層から設置する装備が排出される宝箱を今回は一階層から設置している。これも報酬の一環だった。

 

 宝箱の内容に関してはぼかしつつ、ソーカの説明はもっとも重要な点に入る。

 

『それでは、こちらのアイテムを御覧下さい。これはですね“復活の腕輪”と言うんですけど、我が国の迷宮に入る際には、是非とも購入して頂きたいアイテムとなっております。その効果はなんと、死からの復活なのですっ!!』

 

 その言葉に会場が大きくどよめく。真偽を疑う言葉が飛び交う中、ソーカが声を張り上げる。

 

『落ち着いて下さ〜い! 重要なことですので、よく聞いて下さいね? このアイテムが効果を発揮するのは、我が国の地下迷宮の中だけとなっております!! 外に出たら効果がありませんし、内容が内容だけに間違った使用をされるては大事になります。外部では効果がないのだという事をご理解下さいますよう、伏してお願い申し上げますね!!』

 

 未だざわめく会場にソーカの説明が繰り返し行われる。

 

 念入りに説明を終えた後、実践による証明ということになったのだが、挑戦者達は誰も立候補しなかった。

 

「それなら、お前が実験台になれ」

 

 声を上げたガイが指したのはミョルマイル。

 

 セリフは偉そうであるが効果が効果であるためその要求も当然として、ミョルマイルが腕輪をつけ迷宮へと入る。

 

 すでに蘇生を体験しているためか気負うことなく進んでいき、ソーカが剣を抜いた。

 

『それでは、こちらのミョルマイルに、実際に攻撃して』

 

「騙されるものかよ!」

 

 ソーカの言葉を遮り、ガイがミョルマイルへ突撃する。

 

 止める間もなく腕を断ち切られ、ミョルマイルが叫びながらたたらを踏んだ。

 

 そこにガイはいたぶるように攻撃を重ね、哄笑していた。

 

「ハハハハハッ! さあ、トドメをくれてやる!!」

 

 その映像を見て怒りを覚えていたリムルだったが、硬質なモノが砕ける音に視線を横に向ける。視線の先では完全にキレているテクトが肘掛けを握りつぶしており、破片が刺さって血が流れていた。

 

 かろうじて妖気は漏れていなかったが、いつ漏れてもおかしくない状況だった。

 

 そんなことは露知らず、ガイが得意げにミョルマイルの首を刎ねるとミョルマイルの身体は光の粒子と化し消える。

 

 そして何事もなかったかのようにミョルマイルは舞台中央へと現れ、衣服にさえ傷は残っていなかった。

 

『ほれこのように、ワシは五体満足無事ですぞ!』

 

 無傷なミョルマイルの姿に会場が沸く。

 

 腕輪には痛覚の軽減効果や死亡時の苦痛がキャンセルされるようになっている。

 

 また地上に転送されるまでに十秒ほど蘇生猶予時間が取られ、神の奇跡:死者蘇生(リザレクション)等によって蘇生が可能である。

 

 また、迷宮内では魂が拡散しないため完全回復薬による肉体の損傷の完治で復活も可能だが、外部でも可能と勘違いが起きると困るため蘇生をキャンセルして地上への送還がされるようになっている。

 

 死亡時に苦痛がキャンセルされるとはいえ苦痛を受けることには変わりなく、元凶たるガイが得意げにしている姿に椅子が塵へと変わり始める。それを押し止めたのはリムルだった。

 

「大丈夫だ、テクト。ミョルマイルも無事だし、一応は狙い通りだ。だから落ち着いてくれ」

 

 リムルは胸にテクトの頭を抱くようにしてゆっくりと語りかける。

 

 暫くそうしていると、テクトの手がリムルの肩を叩く。

 

 テクトの表情は落ち着いており、リムルが安心する。

 

「後で縊り殺す」

 

 小さく、さりとて明確な意思を持って呟かれた言葉にリムルの表情が引きつる。

 

 とはいえ取り繕える程度には落ち着いたのでテクトも新しい椅子を用意して座り直し、迷宮攻略の様子の見学が始まった。

 

 まず映し出されたのは“轟雷”。

 

 誰一人として地図を作らず目印もつけずに談笑しながら進む姿にあきれていると、案の定迷ったらしく焦り始める。

 

 その様子にバッソンはハッタリだと笑い飛ばし、来た道を戻れば問題ないと言い切った。

 

 迷路の攻略法の一つである右手法で進んできたため戻るのも簡単だと笑う彼らにテクト達が内心で頭を抱えていると、唐突に画面から消失する。

 

 即死トラップに嵌って送還されたわけではなく、落とし穴で下の階層へ落下し画角から外れたのだった。

 

 間の抜けた様子に観客は笑っていたが、それを見ていた魔王二柱に疑問が生じる。

 

 そもそも上層は広さによる疲労を誘うことが目的であるためショートカットに繋がる階層をまたぐ落とし穴は設置していないはずだった。

 

 不穏な空気を感じ取ったのかそっと距離を取ろうとしていたラミリスだったが糸に引き寄せられ、リムルの手の中に収まった。

 

 笑顔で問い詰めると下層には落とし穴を設置していたが上層には一つもなかったため設置し忘れたのかと勘ぐり、かなりの数を設置したのだという。

 

 余計なお世話に今度は実際に頭を抱えながらスクリーンを確認すると、ちょうどエレン達が映し出された。

 

「カバルの奴、完全にリーダーの立場取られてるな」

 

「罠にもかかってないし、宝箱も見つけられてる。これまでの評価を覆す程に順調だね」

 

「エヘヘ」

 

 やらかすことの多かった三人を見直していた二柱だったが、ラミリスが何かを誤魔化すように笑ったことで再度問い詰める姿勢に移る。

 

 その結果、ラミリスが情報を漏らしていたことが明らかになった。

 

 スイーツを差し入れに樹妖精達から少しづつ情報をせしめていき、ラミリスも暫くして気づいたものの、甘味の魔力に抗えなかったらしい。

 

 ヴェルドラとミリムも問題視していなかったからと逆ギレするラミリスを放置し、テクトとリムルは視線を交わす。

 

 最終的に攻略の仕方は手本と言って良いものであり、一階層の宝箱では質も大したものはない。もし当たりを引いてもそれはそれで宣伝になるため後で注意をする程度に留めることにするのだった。

 

 宝箱には三種類あり、銅、銀、金の三色。

 

 銅の宝箱には罠が仕掛けられていることもあり、最高で特上級(スペシャル)の武具が出ることがあるが大半はポーションや銀貨程度である。

 

 銀の宝箱は武具の確率が上がり、罠もない。その代わり数はかなり少なくなっていた。

 

 そして金の宝箱は特定の場所―主に十の倍数階層の階層守護者(ボスモンスター)の部屋に設置され、討伐後に開けられるようになる。世間的には貴重な希少級(レア)の武具も排出される、まさしく宝箱だった。

 

 画面が切り替わり映ったマサユキ達は、すでに四階層に到達していた。

 

 彼らは狙ったように落とし穴を踏み抜き、ショートカットとして活用して階段にたどり着くことなく下層へ進んでいく。

 

 “轟雷”のときと違いマサユキを称える観客に「英雄覇道(エラバレシモノ)」の効果を改めて実感しつつ、おそらく情報と違う罠に困惑しているであろうマサユキに心中で謝罪するのだった。

 

 最後に単独で挑戦しているガイだが、同行する樹妖精を引き離しかねない勢いで駆けていた。

 

 迷いなく進む様子から、脳内に位置情報を表示する魔法である―元素魔法:地図作成(オートマッピング)を使用しているらしくあっという間に二階層を走破すると、三階層ではこれまで無視していた小部屋を探索していく。

 

 どういうわけか銀の宝箱のある部屋を迷いなく見つける様子に何かしらの仕掛けを疑うも痕跡を見つけることはできず、ラミリスの本人の気質が欲望に染まっており、カネの匂いを嗅ぎつけることが出来るというのではという推論が考えを止める決定打になった。

 

 

 

 開始から二時間。

 

 現在中継されているのは二階層を探索中の“轟雷”。

 

 ちょうど隠し部屋を発見し、罠を疑いながら様子を伺っている。最初は無鉄砲だった彼らも様々な罠に掛かった結果、疑うことを覚えたらしい。

 

 周囲を警戒しながら入った部屋にあったのは銀の宝箱。その前には巨大熊(ジャイアントベア)がおり、テクト達からすれば難易度の低い当たりの部屋である。

 

 Cランクの魔物(巨大熊)に相対するBランクパーティー(“轟雷”)に宣伝効果を期待していた。

 

 しかしバッソン達は魔物を前に顔色を変えると決死の覚悟を決めたという様子で慎重に武器を構える。

 

『おおっと、バッソン一行は魔物と戦闘を開始する模様! 相手は、巨大熊でしょうか? その巨大な爪の一撃は、容易く人の命を奪うといいます』

 

 自分たちの考えとの乖離に首をひねっていたテクトとリムルだったが、ソーカの説明に思い違いに気づく。

 

 ポーションなどで戦闘後すぐに回復出来ることを前提にある程度の損耗を覚悟して戦うというのが想定だったが、本来高価なポーションは保険であり、無駄な戦闘を避け、もし戦闘になってもできる限り傷を負わずに戦うのがセオリーなのだ。

 

 最終的にバッソン達は五分程をかけて完勝し、奥の宝箱を開ける事ができた。

 

 開ける際に無警戒であったことで攻略に慣れていないことよりも探索系の冒険者の不在が何よりの原因であり、罠の多い迷宮の難易度が冒険者たちにとっては想定以上に高いことが考えられた。

 

 銀の宝箱には罠はないため無事に中身を取り出すことはでき、幸いにも希少級の剣が排出される。

 

 ヴェルドラが二階層以下の宝箱の排出率をいじっていたため通常よりも高い確率で当たりを引くことが出来る設定になっていたようだが、これまでバッソン達はハズレしか引いておらず、ここで希少級を引けたのはお互いにとって僥倖だった。

 

 武器が更新されたことで攻略の速度も上がり、魔物を倒して入手出来る魔晶石を次々に獲得し上機嫌で進んでいった。

 

 

 

 一方でもっとも慎重に攻略していたエレン達は唐突に落とし穴を活用して下層へと進み始める。

 

 五階層に到達すると罠で手傷を負ったふりをして一階層で手に入れた回復薬を使用し、やや棒読みながらその効力の高さを説明しながら階層を登り、休憩のための小部屋を探し始めた。

 

 いくつかの部屋をスルーし、一つの部屋へたどり着き扉を開けると中から吸血蝙蝠(ジャイアントバット)が複数飛び出してきた。若干驚き方に嘘くささがあったものの幸い観客に気づいた者はいないのか、攻略者達の危機に色めき立ちスクリーンへ注目する。

 

 戦闘は注意を引き付けたカバルに吸血蝙蝠が向かっている間に完成させたエレンの魔法で一網打尽と安定した内容だった。

 

 部屋の中には金の宝箱があり、ギドが慎重に開けると中からでてきたのは剣だった。

 

 希少級どころか特質級の剣を手にしたエレン達は“帰還の呼子笛”でさっさと引き上げ、残り時間を残して探索を終了した。

 

 

 

 そして、マサユキ達とガイは競うように下へ下へと潜っていた。

 

 落とし穴を活用してどんどん進んでいくマサユキ達に対し、道を逸れて小部屋を探索することのあるガイは出遅れていたが、それでも驚異的な速度で攻略していく。

 

 開始から二時間程で十階層へとたどり着いたマサユキ達は落とし穴で最奥の間付近へと着地しており、流石にラミリスも反省していた。

 

「ゴメン。落とし穴がこんなふうに利用されるなんて思わなかった」

 

「ボスも見せられるし今回はメリットがあったけど、本番ではなくしとこうね。それにしてもマサユキはともかく、ガイの探索速度はなんだろうね。銀の宝箱を嗅ぎつけてるにしても速すぎるでしょ。落とし穴も使ってないのに」

 

「めちゃくちゃ宝箱開けてる割に希少級はゼロだけどな。物欲センサーってやつか?」

 

 そんなことを話している間に通路に立ちふさがる魔物を蹴散らしマサユキ達は最奥の間へと入っていく。

 

 そこには階層守護者である大きな蜘蛛(ブラックスパイダー)が存在していたが、ジンライの一撃であっさりと撃破された。

 

 マサユキ達はそのまま金の宝箱から希少級の短剣を入手し記録地点(セーブポイント)の登録を済ませるとエレン達同様に帰還する。その直後、再び扉が開いた。

 

 入ってきたのはガイ。周囲を確認し、何も起きないことを確認すると舌打ちした。

 

「チッ、クソ勇者に先を越されたか。まあいい。さっさとボスとやらを復活させろ!」

 

 ボスの復活は時間制であり、三十分程に設定されている。

 

 残り時間は十五分程なので復活前に時間切れになるのだが、それを聞いたガイは不機嫌を隠すこともなく文句を言い始めた。

 

「ふざけるな! この俺様に指図する気か? 貴様らが無能なのは理解したが、この俺がそれに合わせる理由などない! さっさとボスを復活させやがれ!」

 

 詰め寄るガイの言葉を案内人としてついていた樹妖精―デルタは聞き流していたが、続く言葉に表情を変えた。

 

「フンッ!! 無能の主もまた無能。貴様らのような無能共が定めたルールなど、この俺が守る必要など断じてないのだ!!」

 

「貴方の発言は、我らが定める規定に明確に違反しております。謝罪するならば不問としますが、これ以上の暴言は見過ごせません」

 

「何だと? 案内人風情が偉そうに。あまり笑わせるな!」

 

「明確なルール違反を確認。これより、刑を―ッ!?」

 

 淡々と告げるデルタを馬鹿にしたように笑い飛ばすガイにデルタは視線を鋭くすると構える。

 

 その横に空間の歪みが生じ、武闘大会での経験から警戒するガイだったが現れたのはテクトだった。

 

「「「は?」」」

 

 突然の乱入に思わず貴賓室の面々は先程までテクトの座っていた席を見る。そこにはテクトはおらず本人が出向いたのは明白だった。

 

 先程のつぶやきを早速実行しようとする相棒に普段なら頭を痛めるところだが、今回はあまりに不愉快なことが続いたために責める気にはならなかった。

 

「さて、ガイだったか? 貴様に一つチャンスをやろう」

 

「何?」

 

「貴様の行動は目に余る。だが、不便を強いているのもまた事実。故に、俺にかすり傷でもいい、傷をつけることができれば、この星金貨をくれてやろう。無論、その前に死ねばペナルティは受けてもらうがな」

 

「ハンッ! わざわざこの俺の眼の前に現れるとはな! お前を殺した手で魔王リムルも殺し、俺の名を轟かせてくれる!」

 

 テクトが実物を見せつけながら宣言した直後、ガイは笑いながら切りかかった。

 

「デルタ、復活の腕輪の痛覚遮断機能を解除しろ」

 

「了解しました」

 

 袈裟斬りを身体をそらして躱し、横薙ぎに反応して僅かに下がると星金貨をデルタへ弾いて指示を出す。ガイは反撃が来ないことで手の打ちようがないのだと判断し攻め立てていく。

 

「フハハハ!! 無様に逃げ回ることしかできないか!?」

 

「そう逸るな。すぐにわかるさ」

 

「馬鹿が。終わりだ!」

 

 余裕そうに見えるテクトの後ろに壁があるのを見て取り、回避は不可能と判断したガイは勝ち誇った様子で剣を振り上げる。

 

 実際にテクトは回避をすることはなかったが、剣がテクトへと届くことはなかった。

 

「何!?」

 

「時間切れだ。罰を与える。こんな風な罰をな」

 

 テクトの手から糸が着色されていき、天井で折り返してガイの全身を覆っていく。とりわけ目立つのは首に巻かれた糸であり、その太さは縄といっても過言ではなかった。

 

「かっ、こぁっ……」

 

 テクトが手を引き下ろすとガイの身体は宙に浮き、ガイの全身が締め上げられていく。宣言通り首の締め上げは強いが、気道を締め上げつつも血流を阻害しない絶妙な操作がされていた。

 

 ガイは反射的に首の糸を外そうとするが身動きは取れず、かすれたうめき声を上げることしかできなかった。

 

「勘違いするなよ? これはお前が規則を破り、案内人(デルタ)の警告を無視したことが原因だ。お前の責任だ。お前のせいなのだ」

 

 話す間にもガイの顔は酸欠に赤く染まり、口角から泡を吹いていた。

 

「ペナルティは迷宮内で完結する。手に入れたアイテムの没収と強制送還だ。次は規則というものを少しは精神(ココロ)に刻むんだな」

 

 意識を飛ばしかけているガイの首が更に締め上げられ絶命に至るとガイの身体は光の粒子となって消え、地上で気絶したまま復活した。

 

 テクトはそのまま貴賓室へと戻り乱暴に座り直す。

 

『今回は残念な結果になりましたが、ルールを守っておれば、“復活の腕輪”の安全装置は万全なものです。迷宮に関するする細かな規定については本番時にはルールブックの配布が行われますし、文字の読めない方には案内人が説明する手筈です』

 

『本番では少し待てばボスも復活するとのこと! 冒険者同士で争うのはルール違反となるようですし、ちゃんと順番を守って、正しく攻略を進めてもらいたいものですね!!』

 

 Aランク冒険者を一蹴する力と振りまいていた雰囲気に観客の空気が落ち込んでいたが、空気を読まない朗らかな声での解説とガイが無事に目覚めたことで落ち着きを取り戻していった。

 

 

 

 三組が攻略を終了し、残ったのは“轟雷”。

 

 残り時間僅かなところで不用意に開けた扉の先にいたスケルトンから一人が右目を撃たれて傷を負い、もう一人が眉間を撃ち抜かれて死亡し、死亡した者が復活する。

 

 時間がきたところで全員が地上へ転送され、死者の復活と回復薬による再生を改めて喧伝することになり、プロモーションとしての成果は上々といえるものだった。

 

 そして最後の挨拶へ移る。

 

 並び立つ挑戦者の前にリムルが進み出るとマイクを手にする。

 

『どうだったかな? 楽しんでもらえただろうか? この地下迷宮は、もう間もなくしたら正式に開放する予定だ。安全性は保証するので、興味を持ったならば是非とも挑戦してくれ。そして見事に地下百階層を制覇した者には、この俺に挑戦する権利を授けてやろう!!』

 

 歓声と共に全ての催しが終わり、祭りは終わりに近づいていく。

 

 最終夜には屋台も無料で解放され、魔物も人も関係なく笑顔で杯を掲げるのだった。

 


 

 次回「開国祭の清算」




感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。

ここ好きがついていたり、いつの間にか捜索されていたり、有り難い限りです。
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