転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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83話:虚飾と強欲(それぞれ)の標的

 支払いを終えた日の夜。

 

 大会議室に大人数が集まっていた。

 

 幹部陣やガゼル、エルメシア、ヨウム、ブルムンド王などの友好国の重鎮にユウキとヒナタにマサユキまで参加する形になっていた。

 

 今回は人類側の価値観が重要なためミリム達は呼ばれていない。

 

 最後にヴェルドラが端ですねていたが、誰も取り合うことはなく反省会が始まる。

 

「えー、まずは皆様、今回はお疲れ様でした!」

 

 開始の音頭を取ったのはリムルの労い。

 

 続いて口を開いたのはベニマルだった。

 

「しかし、意外でしたよ。あの商人達まで、テクト様が断罪するとは思いませんでした」

 

 ベニマルの言葉に他の幹部も頷く。示威のために金貨を集めたとはいえ、支払いを終わらせて終わりだと考えていたらしい。

 

 顛末を知らない者達に語って聞かせると、ガゼルは呆れ気味に嘆息し、エルメシアは笑顔で流し目を送る。

 

「ウフフフフ、私がそれでいいと思うわよお。やられたらやり返す。当然、その先の事まで考えての事よねえ?」

 

「それは勿論」

 

 エルメシアの確認にテクトは頷いて返す。

 

 周囲を見回し、詳細を知りたがっているものが多いことを確認して語り始める。

 

 まずあの時言ったように、西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)の風下に立つつもりはない。ただし出来るなら、対等の関係として仲良くはしたいと考えている。

 

 また、西方諸国評議会としても魔国連邦と明確に敵対したくはないはずなのだ。

 

 だからこそ首輪をつけて取り込む為にミューゼが派遣され、様々な工作を行っていた。

 

 だが、魔国連邦側が相手方の主張するルールを守った上でテクトがミューゼを拒絶した。

 

 今回の交渉は立ち消えとなったため、次は経済戦争か再度の交渉となるわけだが、経済戦争は互いに相手の存在がなくとも経済圏が成立する以上成り立たない。

 

 その上、現行の国際法にとらわれずに切り崩しが出来る魔国連邦に有利な状況となるのだ。

 

 であれば再度の交渉となるわけだが、すでにあちらが失態を犯した後であるため、上役が出てきた上で魔国連邦にとって有利な交渉が期待できるわけである。

 

 説明を聞いて幹部達も納得したようだった。

 

「そうねえ、相手は交渉するしかないわねえ。でも、相手に少し同情しちゃうわあ。輸出入による経済制裁も通じず、軍事的圧力なども意味がない相手から、良い条件を引き出そうとするのは困難だものねえ」

 

 そう嘯いたのはエルメシア。

 

 その言い分はサリオンにも当てはまる話であるため、的確ではあるのだが、テクトとしては素直に頷きづらいかった。しかし、幹部たちには純粋に納得したらしく素直に頷いていた。

 

「なるほど、その点は理解出来ました。それで、商人達への厳しい対応にも、何かお考えが?」

 

 質問したのはゲルド。

 

 あの場にいた全員が工作員というわけではなく弱みを握られているものもいたと考えられるが、十把一絡げに処断したことに疑問を持ったようだった。

 

 それにテクトが答える前にミョルマイルが満面の笑みで口を開いた。

 

「フッフッフ、それは簡単な話なのですよ、皆様。エルメシア皇帝陛下が仰った通り、やられた事をやり返したのです」

 

 その説明で理解出来たものは少ないようで一様に首を傾げていた。

 

「御二人はワシに後を任すと仰いました。つまり、あの行き場を亡くした商人達に恩を売り、ワシの手足とせよという意味なのですよ」

 

 相手を従えたい場合、恐怖や威圧といった強硬的な手段を取るよりも、恩を売るほうが何倍も簡単で、成功率も高い。

 

 商人であるミョルマイルはそれを理解している。

 

 あの場で何かに縋りたい気持ちになっている商人達は魔王へと取り成すと話すミョルマイルには多大な恩を感じていることだろう。

 

 そのため商人の取り込みは滞り無く解決し、ここ数日で頭を悩ませる事になった問題は完全に解決を見たのだった。

 

 

 

 続いての話題は開国祭に関する意見交換。

 

 まず声をあげたのはガゼルだった。

 

「同盟国の王として言っておきたい事がある。昨夜もお前達の暴走について意見したと思うが、今回も同じよ。アレはどういうつもりだ?」

 

「えや、えっと、その、迷宮内の雰囲気を伝えるにはちょうどいいかなって……すみません」

 

 ガゼルが話にあげたのは映写機による映像のリアルタイムでの送信である。

 

 開発段階ではテレビを参考にした娯楽用品の開発だったのだが、各国の重鎮からすれば凄まじいまでの文化的衝撃(カルチャーショック)である。

 

 まず考えられるのは軍事利用。

 

 強行偵察による敵情視察で得た情報が離れた場所の本部へと即座に、それも会話による伝達では無く映像による共有という形で伝わるのである。

 

 これにより認識に齟齬が生じづらくなり、命令の精度は上がるため、革新的技術といって差し支えなかった。

 

 一応欠点はあり、動作にかなりの魔素を必要とすることと、伝達距離と情報量が使用者の力量に左右されるという二つがある。それも改善のめどが立っていたりするのだが、流石にそれは伏せて欠点だけを話すことにした。

 

「ともかく、軍事に利用出来そうなものは、軽々しく公開せぬように。それを娯楽に用いようと考えるのは、お前達くらいのものであろうよ……」

 

「はい……」

 

 ガゼルの呆れた様子にテクトは肩を落として応対する。

 

 そこにエルメシアが口を挟んできた。

 

「そういう発明品が他にあるのなら、私が買い取るわよお? 貴方達のいた世界では、確か特許っていうんだっけ? 権利に対する代価を支払うから、優先的に利用できるようにして欲しいわね」

 

「あ、それじゃあエルちゃん。トイレやお風呂なんかも、この国の仕組みを導入してほしいかもぉ!」

 

「わかったわ、エレンちゃん。吉田氏との交渉もうまくいったし、これからはもっと、私の館に遊びに来てねえ!」

 

「勿論よお!」

 

 テクトが返答する前にエレンが話に割り込む。これに慌てたのはエラルドだった。

 

 如何に血縁とはいえ、エレンの態度は皇帝に対するものではないのだが、本人達はどこ吹く風で息ぴったりにエラルドを非難する。

 

 後ろに控える魔法士団(メイガス)にフォローする様子を見て、エラルドが少し可哀想になるテクト達だった。

 

 一方、エルメシアは背後を気にすること無く交渉を再開する。

 

「というわけだからあ、私達の国にも技術者を派遣して欲しいのお。勿論、これは正式な要請なので、技術指導料はお支払いするわあ」

 

「製造に関しては設備を持っていくのが大変だし、技術習得も時間が掛かりそうだから、導入を優先するなら完成品を輸送するのが一番早いですね。列車も本体の開発がまだだから、魔導科学の専門家の派遣をお願いしたいところなんですけど」

 

「勿論よう! エラルド?」

 

「ハハッ! 手配致します」

 

 交渉の片手間にエラルドの仕事が増えていく。ガゼルが憐憫の眼差しを送るが、サリオンの協力が欲しいテクトは気にしないことにした。

 

「それなら、街道工事と並行してレールの敷設を進めますね。そちらで人員を用意するなら、その手続もしておいて下さい」

 

「ええ、わかったわ。エラルド、そのように計らいなさいね」

 

「承知しました……」

 

 どんどん萎れていくエラルドがとうとうため息を吐いた。

 

 そこにモミジから手が挙がる。

 

「この前、ベニマル様から提案されていたトンネルというものですが、それは将来必要となるものなのでしょうか?」

 

「必須ではないな。ただ、開通出来るのと出来ないのとでは膨大な差が生じる。土地の権利だとか安全対策とかいろいろと。だが、トンネルがなくとも問題なく運用は出来るから気にする必要はないぞ。嫌がることを無理に押し通すつもりはないし」

 

「わかりました。テクト陛下のお言葉を信じましょう。御山に影響がでないという保証があるのならば、トンネルを通す事も承認しようと存じます」

 

「「マジで!?」」

 

 テクトとリムルが同時に声を上げる。対するモミジは少々頬を染めながら言葉を続ける。

 

「マジで、です。ただし、その」

 

「ベニマル、お前をトンネルの工事責任者に任命する。この大役を見事果たして見せろ!」

 

 モミジが要望を言い切る前にテクトに結論を出すとベニマルを視界の中心に捉える。突然の指名にベニマルが慌てた。

 

「ちょっと待って下さいよ!? 俺を売るつもりですか?」

 

「人聞きが悪いぞ。お前以上に人を率いることに長けている者はいない。ゲルドも今は大仕事で手が離せないからな」

 

「だから無理ですって。そもそもの話、俺には工事に付いての知識なんてないですから!」

 

「頑張れ!」

 

「勘弁して下さい!」

 

 なんの問題もないかのように語るテクトにベニマルは抵抗する。その様子に肩を竦めるとモミジへと向き直った。

 

「仕方がない、視察の後にテングの里へ立ち寄ることで良しとしてはもらえないか? あそこはきれいだからな。仕事の疲れを取るのに良さそうだ」

 

「承知しました。おもてなしさせて頂きます」

 

「そういうわけだ、ベニマル。諦めろ」

 

 事前に打ち合わせたわけではないが、満面の笑みのモミジとしたり顔のハクロウにテクトが苦笑し、ベニマルががっくりと肩を落とす。

 

 調査については丁寧に行うことを約束して、サリオン方面の話は終わった。

 

 次いで手を挙げたのはヨウム。

 

 意見はあるがうまく話せるかわからないということでミュウランから話すことを提案し、それは承認された。

 

「質問というのは、かねてよりお話にありました、ブルムンド王国から我が国を通り、ドワルゴンへと至る街道を整備するという案件にも関わる事です。これは、以前にお話くださった構想―新たなる人魔共栄圏の構築の一環と考えても宜しいのですね?」

 

「その認識で構わない。それにしても、人魔共栄圏という呼び方はいいね。理想とする形が、とてもわかりやすいと想う」

 

 魔国連邦を中心として東にドワルゴン、西にブルムンド、南にミリムを頂点とする魔物の一大勢力圏が広がる。

 

 ブルムンドを基点として北にファルメナス、南にサリオンが広大な領土を支配しており、ブルムンドは西側諸国への窓口を果たす。

 

 人類と魔物が築く共存共栄の関係はこれまでに言語化したことはなかったが、人魔共栄圏という言葉をリムルの中でストンと腑に落ちた。

 

 ミュウランの質問とは人魔共栄圏の実現にあたり、何をすべきかということだった。

 

 以前に話した農産物の生産はすでに着手しており、国内もすでに掌握済みとなっている。そこでテクトが指示したのは仕事にあぶれた者達を集める事だった。

 

 基本的には増産した食料品を運搬するのに必須となるレールの敷設のための労働力である。

 

 魔導列車が完成すれば運搬効率は数百倍以上になるという話に大半が目を剥くという事態を挟みつつ、ミュウランは納得を示し、敷設予定地の確保とともに人足の確保を請け負う事になった。

 

 次に手を挙げたのはフューズ。

 

 今回はベルヤードが話をしたいとのことで参加したのだという。

 

 紹介されたベルヤードも小国の下級貴族とは思えぬほどに堂々と大国の王たちを前に挨拶し、話を始める。

 

 内容はこれまでにブルムンドの者に話した内容の確認だった。

 

 ブルムンドには魔導列車による物流の中継基地として世界各地からの物品の管理を任せ、それを各国に適切に分配するための情報収集と実行することを望んでいる。

 

 難しければ土地を借款し、一定割合の税を払うことも提案するが、ベルヤードは物流の合理化による情勢と価値観が一変する事態―いわゆるパラダイムシフトに対応し、任された仕事を十全にこなせるよう教育を施してみせると豪語する。

 

 ドワルゴンも認める情報戦を行うブルムンドであれば問題なしと任せることにし、交渉は終わった。

 

 意見を募り、立ち上がったのはヴェルドラ。

 

 自分に挑みに来る挑戦者が現れなかったことにご立腹らしく、グチグチと文句をいい始める。

 

 その上、テクトに一蹴されたガイがAランク、“轟雷”がチームでBランクと上澄み側であったため、当分挑戦者はでないと伝えるとヴェルドラは激昂した。

 

 しかし、テクトがそれを諌め、視線を送られたミョルマイルが説明を始める。

 

 今回の迷宮のお披露目は各国の貴族へのプロモーションとして大成功だった。

 

 特に各パーティーで希少級(レア)が排出されたのが大きかったらしく、貴族が用心棒として雇っている冒険者や傭兵を派遣してくる可能性がある。

 

 派遣した挑戦者の得た財宝の権利を得る代わりに、挑戦者の支援を行うのだ。

 

 また、雇い主がおらずとも一攫千金を目指して挑戦する者が出てくると思われる。

 

 そこに当たりを引くサクラを用意して射幸心を煽り、競争心を抱かせることも考えられている。

 

 更に、迷宮を制覇したものには莫大な賞金を出すことを触れ込めば、金に目のない貴族が有望な冒険者を出資者(スポンサー)として支援することも想像に難くない。

 

 出資者達が冒険者の活躍の報告を受けるまでの待機する間は娯楽に興じてもらえば、魔国連邦の利益も大きくなる。

 

 このあたりでヴェルドラはミョルマイルの勢いに圧されたのか大人しくなっていた。

 

 その間に、ミョルマイルは事前に考えていた自由組合への依頼について話を詰めていく。

 

 内容は迷宮攻略での賞金を自由組合で管理すること。

 

 各国に支部のある自由組合であれば、情報伝達が広く早いため、宣伝の効果も大きくなる。

 

 また、挑戦者の管理に冒険者カードを利用すれば、面倒な手続きも省略できる。ここだけ切り取ると自由組合に負担を強いるように見えるが、実は自由組合にも利点はある。

 

 テクトとリムルがジュラの大森林を掌握したことで、その周囲との国境線は魔国連邦が管理することになる。

 

 そのため魔物討伐の依頼が減少することが予想されるが、迷宮内に発生する魔物を討伐することで魔晶石や魔物の素材は補填出来る。

 

 それを自由組合で買い取り、素材を必要とする店へと売れば利ざやが得られ、魔国連邦は税金を得る。

 

 それらを聞いたユウキは提案を了承し、魔国連邦で自由組合が使用する建物の提供を依頼するのだった。

 

 

 

 冒険者達が迷宮へと挑戦する導線ができたことで、極めて死にづらい環境で技量を磨くことができるため、二、三年後にはそれなりに奥まで進める者が出てくると考えられた。

 

 それを聞き、ヴェルドラは納得を示したが、そこに意見を出したのはヒナタ。

 

 冒険者が迷宮外で活動する際の危機意識の低下を指摘され、テクト達は言葉に詰まる。

 

 そこで提案されたのは西方聖教会から神霊術師(プリースト)を派遣することだった。

 

 神霊術師とは信仰系の回復魔法の使い手を指し、西方聖教会が秘匿する神聖魔法を習得した司祭級以上の使い手である。司教級ともなれば部位欠損を癒やすほどの神の奇跡を操れるそうだが、戦乱から遠ざかり始めた現状では古き時代から継承されてきた知識が埋もれる可能性があるという。

 

 そこで、迷宮の攻略に同行させ魔物との戦いの中で神霊術師に技術を磨かせ、冒険者たちにも攻略中の安全性を高め安易に復活に頼らないようにするということだった。

 

 テクトとリムルからしてもルミナスから教わった“信仰と恩寵の秘奥”を使いこなすために実際に行使している場面をみられるのはメリットが有り、提案は承認される。

 

 これに続いてヒナタから提案がされ、聖騎士の修行の一環として迷宮の攻略をさせたいとのことだった。

 

 ヒナタの見立てでは聖騎士に成り立てのものではゴズールには勝てない。そこで五人から六人のパーティーで迷宮の攻略を行い、実践訓練と神霊術師の育成をしたいのだという。

 

 隊長格も参加させるという言葉にアルノーとバッカスは反発したが、ヒナタの煽りに乗せられて参加が決定され、攻略する先でヴェルドラと戦わねばならないと知って顔を真っ青にした。

 

 訓練に関しても特に反対する理由もないため承認され、話は一旦終わりとなる。

 

 そこで、リムルはこの場に大勢を集めた目的を果たすことにした。

 

 確認したのは東の商人について。

 

 クレイマンの起こした一連の行動や七曜の件でも工作を行っていた可能性があるため忠告の意味もあって話題に出したのだが、反応は以下の通り。

 

 ドワルゴンは通行の自由を認めているため出入りするものはいるが、それらは全て監視下に置かれており、大人しくしているという。

 

 ブルムンドは小国であるためか取引も多くなく、十分に監視可能な範囲とのこと。

 

 サリオンはそもそも鎖国に近い状態で他国とはほとんど付き合いがなかったことに加え、外来品は中央で厳重に管理され、付け入る隙はないそうだ。

 

 ファルメナスではディアブロの指示でラーゼンが帳簿を確認しており、影響の根を断つために動いている。

 

 自由組合だが、組合員に取引の停止を命じることはできないため、それとなく指導を行うことにしているという。

 

 最後に西方聖教会―いや、神聖法皇国ルベリオスとして東の商人との取引を全面停止にしたらしい。

 

 理由はヒナタ自身が利用されそうになったからとのこと。

 

 魔王達の宴の夜に東の商人であるダムラダと面会する予定だったが、それをドタキャンしたところ、侵入者と出くわし追い返すことになったという。

 

 ダムラダはかなりの大物だったらしく、そのためヒナタも面会に応じようとしていたのだが、状況からダムラダと侵入者は繋がっていることが察せられた。

 

 最後に東の商人は要警戒対象であることを共有し、会議は終わった。

 

 

 

 解散し、魔国連邦の者達だけが残る会議室。

 

 テクトはリムルと机を挟んだ位置に座り直し、肘をついて手を口の前で組む。

 

 立ち込める重苦しい空気の中テクトが口を開いた。

 

「決まり、だな」

 

「ああ、クレイマンの言っていたあの方ってのは、神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)だ」

 

「そうですわね。証拠がないのが口惜しいですが、間違いはないかと」

 

 端的なテクトの言葉をリムルが補足し、テスタロッサが同意する。

 

 リムルとシズの関係をヒナタに話したのは東の商人という証言は、ヒナタ本人から取れている。

 

 その他にも色々と情報は取れていた。

 

 まず、ミュウランは中庸道化連の存在を知らなかった。

 

 しかし、アダルマンは幾度となく道化達の姿を見ていたらしい。

 

 カザリームから続く支配のためかアダルマンの前では姿を隠そうともしなかった道化達が周囲に悟られずにクレイマンの居城まで近づくには商人に扮して近づくのが効率よく、シュナの調べた帳簿の記録からもその可能性が高いと考えられていた。

 

 少なくとも東の商人と繋がりがあるのは間違いない。

 

 だからこそ、最後に東の商人について確認したのだ。

 

 会議に出席していた者達にはリムルとシズの関係を知る者が揃っていた。

 

 カバル、エレン、ギドが何かをごまかせるような者達ではない。

 

 ガゼルやエルメシアもわざわざクレイマンを操る理由がないので容疑者から外れる。

 

 ブルムンドの者達も東の商人との関係性が薄いため、疑う理由はない。

 

 ヒナタは利用されたのが明白なので黒幕という事はできない。

 

 残るはユウキ一人。

 

 ユウキは東の商人との付き合いがあることを認めた。

 

 漫画の複製にも使った高品質の紙は東の帝国からの輸入品であることはすぐに分かるため否定するわけにはいかない。

 

 そういった方向から攻めれば言質も取れたかもしれないが、状況は悲観するようなものでもなかった。

 

 そもそも、リムルとシズの関係は特殊で、関係者にはデリケートなコトを軽々しく話す者がいない。

 

 また、ヒナタを動かすほどに信用を得られるのは、あの場ではユウキだけである。

 

「リムル、止めないだろうな?」

 

 認識のすり合わせがある程度進んだところで、テクトが問う。

 

「……」

 

 リムルは何を問われているかは理解したものの、答えることはできなかった。

 

「お前は無暗に優しいからな。大方、推定無罪を持ち出して判断を先々に伸ばし、最終的には功罪を相殺して許してしまうだろう。わからないでもないよ。一応は同郷の者で色々と話もした。殺し合うのに抵抗はあるだろう。だが、奴は敵だ」

 

 テクトは返事を待たずに立ち上がると、背を向けて扉へと歩いていく。

 

「止めたければ止めればいい。俺が動けないようにしっかりと縛りつけておけばいい。まぁ、そう簡単に捕まってやるつもりもないけどな」

 

 その言葉を最後にテクトは会議室から退出する。

 

 俯いたリムルの表情をうかがい知れる者はいなかった。

 

 

 

 シルトロッゾ王国にて。

 

 シルトロッゾの姫―マリアベル・ロッゾが感情のままに叫ぶ。

 

「あり得ない、あり得ないのよ!」

 

 ひとしきり騒ぎ、マリアベルは爪を噛んだ。

 

「どうしたんだい? マリアベル一体何があったんだい?」

 

 声を聞きつけ入ってきたのはグランベル。

 

 日曜師グランとしてのう姿は分身体によるものであり、本体には特に影響はなかったのである。

 

「あんなモノは存在してはいけないのよ」

 

「どういうことだ?」

 

「あの純白の魔王はイカれているわ。イカれているのよ」

 

「イカれている?」

 

 純白の魔王―すなわちテクトを名指しで異常と評することに疑問を抱くグランベルに、内心の焦りを隠すこともできずにマリアベルが答えた。

 

「あの魔王には欲がないの」

 

「お前でも感じ取れないほどに弱い欲だったのか?」

 

「いいえ、お祖父様。違う、違うのよ。感じ取れなかったのではなく、最初からそういった部分が欠如しているのよ」

 

「欠如、だと?」

 

「時間をかければ支配できるだとか、そんな次元ではないのよ。アレは本来生物が持つべき原理的な欲求さえ有していない。塗りつぶすべき部分がそもそも存在しないの」

 

 マリアベルの持つユニークスキル「強欲者(グリード)」の能力は欲望を操ること。所有者の欲望で対象の欲望を塗りつぶすことで、所有者と同じ目的を持つ同士(下僕)に仕立て上げることができ、しかも対象者はそれ(洗脳)を自覚できないというおまけつき。

 

 前世で金融を操り、経済を裏から牛耳っていたマリアベルは転生後にこの能力で配下を増やしていた。驚異的な速度で周囲を支配するマリアベルはグランベルの目に留まり、後継者と見込まれて、今では西側諸国に根を伸ばす強大な一族―ロッゾ一族のNo.2である。

 

 わずか十歳程度でこれを成し遂げていることが、如何に彼女が有能かをしめしている。

 

 ただし、「強欲者」による支配にも制約はあり、対象の欲望の大きさによって干渉できる規模が変わってくるのだ。

 

 すなわち、欲望というものを感じ取れないテクトには「強欲者」による干渉が通じないということだ。また、リムルの欲望は干渉可能となる下限ギリギリといったところである。

 

 だが、干渉の可否はマリアベルが荒れている理由ではなかった。

 

「欲望がないという事は、周囲の状況に左右されないという事。つまり、利益の最大化だけを目的に機械的に状況を動かすことができるということなのよ」

 

「何かおかしなところがあるのか?」

 

 マリアベルの方針は徹底しており、親兄弟さえも駒として扱っている。にも関わらず利益の最大化だけを追う姿勢を警戒することにグランベルは疑問に思っていた。

 

「問題はそこではないのよ。問題は、周囲に左右されないということなの。アレが魔国連邦に居座る限り、魔王リムルを支配しようが、周囲から責め立てようが、それを顧みることなく進み続けるわ。しかも、アレが取りまとめるのは力の強弱を是とする本能が前面にでている魔物達。仮に中核のモノを支配しようと切り捨てて次の手足を仕立てられれば、イタチごっこでは勝てないわ」

 

 マリアベルは歯ぎしりしながら、手に持ったグラスを壁に投げつける。破砕音とともに遺っていた内容物が撒き散らされ、絵画や装飾が汚れ傷つくが、グランベルもそれらに目を向けることはない。

 

 齢わずか三歳でグランベルに呼び出されたときでさえ、焦燥など感じさせずに堂々と自分の存在を主張していたマリアベルが髪を振り乱さんばかりに感情を露わにしている。

 

 それはすなわち、それだけ魔王テクトが彼らの野望―ロッソ一族の支配による人類の平定―の障害ということであり、同時に排除困難な問題であることを示していた。

 

 魔国連邦の頂点に立つのが魔王リムルだけであれば問題はないはずだった。

 

 あれほどの規模の国をまとめるには小さすぎる欲の大きさだったが、それでも支配するには十分な大きさだ。

 

 マリアベルも晩餐会での挨拶の前までは問題なしと判断していた。だが、挨拶の始め、隣りに立つ素性のわからぬ男が同格のテクトだと知り、前提が覆された。

 

 後はこれまでの会話の通り。考えのまとまらぬまま開国祭は終わり、本国で改めて思考を続けていた。

 

 最終的な結論はテクトの排除は前提として、リムルの排除か懐柔もしくは支配。

 

 テクトを排除する以上、懐柔は困難。

 

 リムルを支配できればヴェルドラをも支配下におけるが、支配前ではテクトの排除がどれほど影響を与えるか予測ができない。

 

 そのため順序としては、まずリムルの支配を完成させそれが十分に浸透してから、テクトを排除することになる。最も問題なのはヴェルドラだが、リムルの支配が成れば接触は容易になるため苦労はしないと考えられる。

 

 排除は現状では最後の手段。

 

 どうしてもリムルの支配ができないと確定した場合の、できればそうなってほしくない結末だ。

 

 方針が決まったことである程度は冷静さを取り戻したマリアベルはグランベルとともに必要なものを列挙し、それらを揃えるために動き始める。

 

 

 

 自身の思い違いに気づかないままに

 


 

次回「地獄の特訓」




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