というわけで一応ネタバレ注意です。
開国祭から数日後。
来賓もほとんどが本国へと帰り、平穏な日常が流れていた。
魔国連邦に残ったのはユウキを警戒して転校手続きを済ませた子供達とその指導を請け負ったヒナタぐらいで、1週間もすることには街道も落ち着きを見せていた。
住人にも手すきの者が増え始め、問い合わせも多くなってきたこともあって地下迷宮の解放が決定されたわけだが、それがデスマーチの始まりだった。
問題の発覚までそう時間はかからず、初日の数時間で頭を抱えることになる。
挑戦者の攻略の仕方があまりに稚拙だったのだ。
開国祭での様子から落とし穴の撤去と難易度の低下を行ったが、三日経っても二階層へ到達するパーティーは現れなかった。
一階層の魔物は自然発生するFランク程度で、宝箱のある部屋にはDランクの魔物が配置されている程度。
にも関わらず、開国祭で参加したバッソン達までリタイアする始末だった。また、欲に目がくらみ、宝箱へと突撃して配置された魔物に殺される事案が大量発生した。
更にはソロで突入する者まで現れ、そういった考えなしは早々にリタイアしていく。中には空腹によってギブアップを宣言する者まで出始める。
事前に迷宮の広さや安全地帯は五階層ごと、記録地点は十階層ごとであることと合わせ、食料の重要性は説いているのだが、プライド故か生き残れるという慢心故か保存食すら持たぬものが続出した。
参加費こそ取れるがリピーターの確保には繋がらないため、先細りになることを恐れて緊急で会議が召集されることになったのである。
参加者はテクト、リムル、ヴェルドラ、ラミリス、マサユキ、ミョルマイル。
マサユキはオブザーバーとして、ミョルマイルは運営担当として呼ばれている。
内容としては冒険者へ攻略の心構えを教えることだが、ミョルマイルから意見が入る。
どうやら、自由組合を通して実力のある冒険者への呼びかけや商人達での口コミにより実力のある者達への宣伝がされているらしく、今挑戦している冒険者とは一線を画す者達の流入が期待できるらしい。
勇み足で来た者達に合わせるのではなく、後から来る者達を待ってから判断を下しても問題ないというのがミョルマイルの話である。
帰りがけに貴族に雇われた冒険者もいるらしく、そういった者達はまだ準備をしている最中だ。準備万端の冒険者を難易度の低い地下迷宮へ挑ませる方が損失になるという言葉にリムルも納得し、希望者向けの訓練施設の創設が提案された。
そこにマサユキからゲームのチュートリアルのように報酬を用意したクエスト形式での講習が提案され、魔国連邦製の武具の貸出やガイドブックの発行などが企画された。
その後はマサユキのアイデア無双が始まる。
まず、各階層の階段付近に休憩場所への出入り口が用意され、通行料を徴収することで冒険者に利用させることに決まる。
また、強敵との戦闘準備や定期報告のため、“帰還の呼子笛”との併用することを前提として、一度だけ使用可能な簡易的な記録地点が提案され、“事象の記録球”というアイテムが作成された。
効果としては登録地点での復活。または“帰還の呼子笛”での脱出後、再入場した際に登録地点からの出発である。
迷宮の構造変化後は同一地点ではなく最寄りの安全地帯から再開となる。
高額での販売のほか、宝箱の希少級の枠にも採用され、思いも寄らないアイデアにヴェルドラとラミリスもマサユキを認めることになるのだった。
一階層は最低限の知識を身につけるための事前体験用訓練場とする事になった。
それに伴い一階層では死亡しないよう設定され、その場で即時の復活がされるようになる。
更に四階層までは即死系のトラップは排除され、徘徊する魔物もEランクが最高とされた。部屋にはDランクの魔物が一体だけ配置され、そこにある宝箱からは下級回復薬等のアイテムが排出される。装備類は五階層以下から出現することになった。
最後にミョルマイルから宣伝に関して提案がされる。
その内容とは報奨金の設定である。
各階層守護者を倒したパーティーに月ごと先着で賞金を出すということだ。
十階層―Bランクの
ジンライには瞬殺されたが、バッソン達であれば苦戦するレベルである。
これを討伐した先着五組に金貨三枚
二十階層―B+ランクの
広範囲に「麻痺吐息」をばらまく魔物である。
これを討伐した先着五組に金貨五枚
三十階層―B+ランクの
ベニマル達と違い、本能のままに動く凶暴な魔物で、すさまじ膂力とある程度の連携をしてくる。
これらを討伐した先着五組に金貨十枚
四十階層―A−ランクの
「毒霧吐息」という範囲攻撃は生半可のパーティーでは一撃で全滅することになる。
これを討伐した先着三組に金貨二十枚
そして五十階層にはゴズールとメズールが交代で階層守護者を務めており、先着一組に金貨百枚を支払うことになる。勿論支払いは星金貨で行う予定だ。
初回限定だが月ごとの討伐者も発表し、冒険者の競争心を煽る。収益から考えるとさしたる額ではなく、効果としては十分以上といえる。
また、マサユキに一番槍を務めさせ、名声を高めつつ地下迷宮の宣伝を行うことが決定された。
「あのう、僕の意見は……」
静止をしようとするマサユキの意思は無視されるのだった。
方針は決まったが話は終わっていないらしく、ミョルマイルは悪い笑みを浮かべた。
「褒賞金の件ですが、もっと大きく仕掛けたいと考えておりましてな!」
「言ってみなさい、ミョルマイル君」
「周辺各国の貴族連中の度肝を抜くように、最下層突破者には褒賞として星金貨百枚と公表したく考えておるのですよ!」
それを聞き、テクト達の顔色が変わる。
ピンときていなかったマサユキも日本円換算で十億程と教えられて驚愕に頬を引きつらせた。
最初に反応を示したのはテクトだった。
「なるほど。そこまでいけば腰の重い連中も冒険者を雇いに動くか。そうして生まれた迷宮攻略の風潮に乗り遅れまいと日和見気味な者共も興味を示す。いいだろう! 俺はその案を承認する!」
愉快そうにするテクトにラミリスがオズオズと手をあげた。
「で、でも、そんな大金……」
「ラミリス、この迷宮の最下層で挑戦者を待っているのは誰だ?」
テクトが挑発的に見るのはヴェルドラ。
テクトの視線を追ったラミリスは自信満々なヴェルドラを見て表情を明るくする。
「クックック、クア──ッハッハッハ! 我だ。偉大なる竜種たるこの我、暴風竜ヴェルドラである!!」
「ヴェルドラを下せる者などそうはいない。一見破格の金額だが、実際には支払う必要のない金ということだ。ただ、あんまり釣り上げてルーシェが動いたりするとまずいから、支払えないわけでもないこの金額が丁度いいと思う」
「ルーシェさんってそんなやばいのか?」
「やばいぞ。ギィの配下ぐらいなら意識を向けずとも、不機嫌で溢れた妖気の余波で倒せるレベルだ」
「まじかよ……」
テクトの語るルーシェの実力をリムルは訝しむが、ヴェルドラが反論しようとしないのを見て信じることにする。
最終的に魔王からの挑戦状という煽り文句とともに宣伝されることになり、褒賞金に加えてリムルへの挑戦権が授与されることとなった。
マサユキも魔王討伐云々を誤魔化す理由ができたと喜ぶことになるのだった。
迷宮の調整がされたが、それらを無視して進む者はやはり存在した。
彼らはバッソン達の引き当てた希少級の武具に目がくらみ、愚直に挑戦を繰り返していた。
というのも、彼らにとって希少級の武具とはそれだけの価値のあるものだったのだ。
希少級とは本来、魔鋼製の優れた武具が進化して特殊な能力を顕現するようになったものである。ただし、魔鋼製といっても魔鋼を混ぜている程度でそれが馴染むことで武具が進化するのだ。
一方、魔国連邦での武具は鉄鉱石をヴェルドラの魔素に晒すことで簡単に入手できるため、完全に魔鋼のみで作成されており、そもそもの規格が違う。魔国連邦では一般兵でも
工房で量産された武具は失敗作なら破棄され、実用可能なものが宝箱に入れられる。大概が特上級でおよそ百本に一本がかろうじて希少級という割合だ。
とはいえ、少しすればきちんと訓練を積んだ方が効率がいいことは広まり、真面目に一階層で訓練を行う者が増えていく。
数日経つ頃には五階層へ到達する者も現れ始め、そうした先行組が八階層当たりで足踏みをし始めた頃、後発組の冒険者達が到着した。
競争が激化するなか地図の売買も始まったが、内部構造の変遷が通達され、地図の売買をした者達の不満を生みつつも断行された。
後発組は役割分担のできたパーティー構成がされており、順調に攻略がなされていく。
到着から数日で十階層を突破するパーティーも現れ、攻略済みの階層の情報の売買も始まり、挑戦者は活気づいていた。
そんな中、一つのパーティーが注目を浴び始める。
そのパーティーは上限いっぱいの十人パーティー。
まずは一人がすでに十階層の記録地点に登録済みのパーティーに加えてもらい、登録。その後、“帰還の呼子笛”で脱出し、本来のメンバーと十階層へ到達する。
更にそこから三日ほどで二十階層へと到達した。
単独でもBランク。連携を加味すればパーティーではA−ランクと評価できる実力だった。
元素魔法:地図作成と違い、通っていない道までわかっているかのように進む彼らだったが、どうやら
ルールに則り快進撃を続けるチーム“緑乱”はマサユキ率いるチーム閃光に迫る勢いで人気を獲得していった。
改装から十日、テクト達は問題の確認のため再び集まった。
前回は問題が山積みでろくに紹介をしていなかったためそこから始めることになったが、竜種や魔王が集っていたことを知り、マサユキは放心することになった。
前回の会議からヴェルドラとラミリスがマサユキとミョルマイルを認めていたこともあり、マサユキが立ち直ると同時に会議が始まる。
改善の効果は上々。
冒険者カードによる迷宮への入場許可もスムーズに進んでいるらしい。
ラミリス制作のアイテム類も順調に売り上げており、“復活の腕輪”は銀貨二枚という安さと死亡時の怪我の回復や入場時の注意喚起のアナウンスもあって、売上はトップだった。
“帰還の呼子笛”は銀貨三十枚と高めではあるが、死亡による転移とは違い、入手したアイテムや装備を落とすことなく持ち帰れるためそれなりに売上を出している。
“事象の記録球”は金貨一枚と高額なため、大口で購入された形跡があるもののあまり売上は多くない。だが、下層にいけば記録地点を待たずに帰還する必要も出てくると考えられるため、そのうちに売上は増えると考えられている。
武具の貸出もあまり利用者は多くないが、少しずつ利用者を増やしていた。
最前線の攻略組も脱落者なく進んでおり、他の挑戦者の士気も上がっている。
現状では大成功といえる状況だが、
まず議題に上がったのは「精霊交信」の対策について。
これに関しては精霊がいない区画を作ることで一度に全域を探れないように対策することになる。
次はアイテムドロップについて。
これはマサユキの発案でゲームではよくある仕組みだが、回復薬の入手難易度を下げる意図があった。
というのも回復薬は高ランクの冒険者以外にとっては高価な部類となっており、あくまで保険として携行するもので使用するものという意識が薄い。また、復活時に完全に回復するので薬の使用を渋り敗北する場合が多いのだ。
そのため魔物から回復薬を入手できるようにすることで戦闘の敷居を下げ、回復薬を使う意識付けを行おうということだった。
自然発生に任せている魔物にアイテムをもたせるのは難しいのではとテクトとリムルは考えていたが、ラミリス曰く、生まれたての時点でアイテムを飲み込ませれば実現可能らしい。
さらにマサユキの発案で鑑定を行うまでドロップアイテムの正体がわからなくようにする処置がされることになり、鑑定のためにアイテムを抱えやすく帰還の必要性があがることになる。
その他にも細々とした調整が加えられることになり、会議は終わるのだった。
その翌日の夜。
テクトとリムルはともに決済業務に向かっていた。
ここ数日は基本的に日中はテクトが一人で執務室で仕事をしており、リムルは視察を兼ねて様々なところに顔を出している。時々はテクトも同行するが、大抵は実務はテクト任せとなっているのが現状だ。
そして、夜にテクトが共有すべきと判断された内容の報告と重要事項の決済が行われている。一応すべての決済は智慧之王経由で伝えられているのだが、リムルが認識しきれないため対面で伝えているのである。
「ひとまず順調、かな。酒場の売上が一割近く向上しているし、鑑定屋も早速客が増え始めてるね」
「そうか、いいことだな」
テクトから簡潔にまとめられた書類を受け取り、リムルは頬を緩めつつディアブロの注いだ紅茶に口をつける。カップを手にした瞬間にテクトが笑ったのを見て不思議に思いつつも、一口飲んで違和感に気付いた。
「テクト、何かしたか?」
「何も。口に合わなかった?」
「いや、そんなことはないけど……」
「そっか、よかった。特訓の甲斐があったね、シオン」
リムルが驚いた様子でシオンを見ると、シオンは恥ずかしそうに口元を隠した。
「前々から改善はしないといけないとは思ってたんだよ。ようやくディアブロも納得したし、満を持してね」
「ディアブロも協力してたのか?」
「はい。ベニマル殿も嫌がっておりましたし、テクト様に毒見をしていただくわけにはいきませんので、仕方ありませんでした。そのせいで、体調不良という初めての体験もさせて頂きましたし、何事もやってみるものですね」
ゴブチを被験者とした実験の甲斐あってディアブロも納得し、晴れてリムルに提供することができたのだった。
スキルを使うことなく劇物ではないものを作りあげたシオンにリムルは感動しながらカップの中身を飲み干した。
空のカップにシオンが慎重な手つきでお代わりを注ぎ、それを飲む最中に思い出したようにディアブロへと視線を向ける。
「そう言えば、お前には褒美を与えていなかったな。ファルムス攻略も見事だったし、帰ってきてからも雑事を任せてしまっていた」
「いえいえ、私は御二人の御役に立てる事が望みですので」
「と、言われてもな」
「しまった。テスタロッサもそのままだった」
リムルの話を受けて、テクトも思案顔になる。
少し考えてから「思念伝達」で呼び出すと、すぐにテスタロッサがやってきた。
他の者に関しては
ハクロウにはモミジと過ごすための休暇
ゴブタには九十五階層の特別会員専用の店の利用券
ガビルには百階層の最奥に新しい研究所
というように褒美が与えられている。
だが、悪魔二人は開国祭中にも記者の召集など色々と仕事を任せており、結果褒美の件は伸ばし伸ばしになっていた。
「というわけだ、テスタロッサ。何か要望はあるか?」
「要望など、とんでも御座いません。私は召喚して頂いた際に何もなし得なかった汚名を濯げただけでも十分なのです。にもかかわらず褒美を頂くなど、厚かましい真似はできませんわ」
「わかったよ。そこまでいうならこれ以上はやめておく。何か思いついたら言ってくれ」
恐縮した様子のテスタロッサを軽く制して改めてディアブロへと視線を向ける。
「それでは、一つ許可して頂きたい願いが御座います」
「聞こうか」
「では、お言葉に甘えまして。私も、雑用を任せられる部下が欲しいと思います」
「雑用、ね。テスタでは不満か?」
いきなり話を振られたテスタロッサは口を開きかけたが、会話に割り込むことはせず滅私に徹する。直後に何か気になることがあったのか、再び何か言いたそうな顔になったが黙り込む。
「そういうわけではありませんが、柔軟に動くにはある程度の数は必要かと思いまして」
「それもそうだな。軍資金は要るか?」
「いえ、金銭には興味を示さないでしょう。その代わりと言っては何ですが、テスタロッサをお借りしても宜しいでしょうか? テスタロッサがいたほうが円滑に話が進むと思いますので、それと、依代となる肉体を用意して欲しいのです」
「テスタ、異論はあるか?」
「いえ、私が考えている者達を勧誘するのであればディアブロの言葉は正しいかと」
「なら、頼む。依代だがお前達みたいなのは無理だな。ベレッタやマウザーのようなものになるぞ」
「文句は言わせません」
「ならば良し。数は?」
「そうですね、テスタロッサの子飼いの者も考えて、精々数百体、多くても千体には届かぬ程度か、と」
「わかった。用意しよう。失敗してもいいから、ちゃんと帰ってこいよ」
サクサクと話を詰め、案じるような言葉をかけると、悪魔二人は感極まったように一礼する。
「承知いたしました。断腸の思いですが、しばらくの間、御二人のお傍を離れることをお許し下さい」
「私もしばし暇を頂きますことお許し下さいませ」
「気を付けてな」
さっさと済ませてて戻りたいのか、退出するその足で旅立つ二人を見送り、大げさな態度を取る悪魔にため息を付くのだった。
次回「運営会議」
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