「
「そのあたりって、
「はい、その通りです」
ガビル達蜥蜴人族が去った日の夜、テクトとリムルはリグルドやカイジン、鬼人たちといった主要なメンバーを集め豚頭族の動向から今後の行動指針を決定すべく会議を行っていた。
「二十万か…………実感がわかないぐらいに途方もない数だな」
「そもそも豚頭族の目的って何だろうね」
元々宮仕えの経験もあり、魔物の情報に明るいカイジンからすると豚頭族の進行については不可解な点が多く、何かしらの背後関係を考え必要があるらしい。
「魔王が絡んでる可能性もありそうだな」
「少なくとも、えっと、ゲロメット? 「ゲルミュッドです」そう、それ。その魔人は関係ありそうだね。それと
「ええ。元々知能の高くない豚頭族を二十万も統率しているのだとしたら、可能性は高いかと。少なくとも「いない」と楽観視するより、「いる」という前提のもと警戒してことを運ぶべきでしょう」
「そうだね。なら、豚頭族についての対処についての具体的な指針を……ソウエイ、何かあった?」
ベニマルの言葉を受け、会議を進めようとするテクトがソウエイの顔色が変わったことに気づく。
ソウエイが体を硬直させた原因は、豚頭族を偵察させていた分身体に接触してきた存在があったらしい。
それはテクトとリムルに面会を求めており、種族は
森で暮らしていた魔物たち曰く、樹妖精が姿を見せるのはとても珍しく、数十年ぶりだとか。リムルが応対することを告げると、部屋の中で光が起こり、その中から一人の女性が姿を現した。
「「魔物を統べるもの」達とその従者たる皆様、突然の訪問申し訳ございません。私は樹妖精のトレイニーと申します。どうぞお見知りおきください」
「私はテクト・テンペストです。よろしくお願いします。トレイニーさん」
「俺はリムル・テンペストです。それで、いったいどのようなご用向きで?」
「本日はお願いがあってこの場に参りました。リムル・テンペスト並びにテクト・テンペスト、「魔物を統べるもの」達に豚頭帝の討伐をお願いしたいのです」
トレイニー曰く、樹妖精はこの森で起きていることであれば大体のことは把握できるらしく、豚頭帝の存在を断言した。そのうえでリムルは村の主として参戦に関しては会議によって決めることをトレイニーに告げ、彼女の会議への参加を認めた。
「さて、豚頭族の目的について何か意見のあるものはいるか?」
「思い当たることが一つあります」
シュナが声を上げ、ソウエイに彼らの里の跡地の調査の結果を確認する。ソウエイは痛ましそうな顔で報告する。
「同族のものも豚頭族のものも何一つ残ってはいませんでした」
「何が?」
「死体です」
リムルの問いかけに短く答えるソウエイ。この瞬間、テクト達の脳裏に嫌な予感が浮かぶ。その予感を確かなものにするかのようにトレイニーから説明が入る。
豚頭帝が生まれながらに持つユニークスキル「
その一方、常に満たされない飢餓感に襲われる。そしてその効果は支配下にある豚頭族全体にも影響を及ぼすとのことだった。
その結果、豚頭族は食らった相手の能力が豚頭帝にわたり、それが豚頭族に還元されることで食えば食うほど強化されていく軍団となっている。そのため、力尽きた仲間を食らうことにも抵抗はなく、空腹を満たし、力を増しながら進軍を続けているということである。
「そうなると、ここも安全というわけではないわけだね」
「そうなるな。「
「一二を争う勢いで奴らが食いつきそうな餌を忘れてはいませんか? いるでしょう、最強のスライムと蜘蛛が」
「ん? 何のことだ? なぁテクト…………テクト?」
リムルの問いかけにテクトは答えない。この時のテクトは全く別のことを考えていた。
(味、か。そういえばブラックスパイダーは薄いけどカニの味がしたっけ。
「お~い。テクト~」
「リムル。ちょっと私の体を食べてみない?」
「何言ってんだお前⁉」
テクトの意見はあっさりと却下され、話を本筋に戻すべくトレイニーが話し始める。テクトはそのうちゴブタあたりに食わせて実験でもしようと考えていた。
「豚頭帝の出現の要因として魔人の存在を確認しました。あなた方、特にリムル様にとっては無視できない相手であると思いますけど。どこかの魔王の手のものであることは確実ですので」
(森で起きたことは大体把握している、か)
(食えないお姉ちゃんだな)
シズとの約束による魔王レオンとの確執を知っていると口外に伝えられたテクト達は同時にため息をつき、参戦を決定する。その場にいる者たちが団結し、豚頭帝を倒すための会議へと切り替わった。
「これ以上の強化がされる前に豚頭族と戦うとなると、戦場は湿地帯になるわけか」
「なら、蜥蜴人族との同盟は前向きに検討する必要が出てくるわけだけど」
「「使者がなぁ」」
豚頭帝の存在がある以上、決戦を先送りにするわけには行かないため、本隊と別動隊が合流する湿地帯付近で戦うことになるのは必然といえる。
その付近を根城とする蜥蜴人族との同盟は戦闘において有利になることは間違いない。にもかかわらず躊躇してしまうのは、先ほど使者として村を訪れたガビルの存在があるからだ。
傲慢不遜に振る舞い、自身の言動によって相手にどのような感情を抱かせているか理解できていない彼が有能であると考えることができなかったためである。どうしたものかと考えているとソウエイから提案があった。
「蜥蜴人族の首領に直接同盟の話をしてきてもかまいませんか?」
「任せていいの?」
「ええ、お任せください」
「なら、蜥蜴人族と合流し、豚頭族を叩く。それとソウエイ、念のため言っておくけど、私たちのことをけなすような奴がいたからといって、そいつを殺したりしないように。対等な同盟を結ぶために話すんだからね。まぁ、何もするなっていうのは酷だと思うから差を見せつけてやるぐらいなら許可するよ」
「御意。では行ってまいります」
そう言って蜥蜴人族の根城に向かうソウエイ。テクト達は蜥蜴人族の首領がバカでないことを祈りながらソウエイを待つことになった。
「ゴブリンライダーは出撃。ベニマル、ソウエイ、シオン、ハクロウが参加だね。シュナ、クロベエ、コウカ、スイレンは村で待機。もしこっちに豚頭族が来るようなことがあればすぐに連絡をするようにね」
『テクト様。今よろしいでしょうか』
テクトが出撃するものと残るものを決めているところにソウエイから連絡が入る。どうやら蜥蜴人族の首領のもとまでたどり着いたらしい。同盟に関しては締結前に一度テクトとリムルに合いたいとのことだったので、ソウエイに五日後にそちらにたどり着くこと、絶対に打って出ようとはしないことを伝えさせた。
『そういえば、殺してないよね?』
『不届きなものがいたので手は出ましたが、殺してはいません』
ソウエイの言葉に一瞬顔が引きつるも、事前の忠告を守りに殺害までは至っていないことに安堵し、伝言に関して了承があったのでソウエイを撤収させた。
ひとまず同盟が成立する運びとなり安心したことで見落としていた。名付けを行っていた魔人の存在を。豚頭帝の出現、牙狼族との戦いで戦死したゴブリン「リグル」への名付け、未遂ではあったが大鬼族への名付け、これらすべてに関わっていた存在が静観し続けるはずがないことを。
この見落としが蜥蜴人族を危機に陥らせることになるのだが、誰も気づくことはなかった。
翌日
テクトはカイジンとクロベエの工房に来ていた。
「武器をあるだけくれって、いったい何をするつもりなんだ?」
「魔剣みたいな特殊なものはなくていいんだ。リムルは剣を使うってことに決めたけど、私は何を使うかまだ決めてなかったからね。今回は近接戦闘の機会もあるだろうし、しっくりくるのを見極めようかと思って」
カイジンは了承し余っている武器を持ってきた。テクトがそれらを片端から「
ところ変わってシュナの工房。テクトは戦闘に向けて衣装替えをしていた皆のもとへやってきていた。
リムルはコートにマフラー、ベニマルは赤い着物、ハクロウは山伏風の衣装、ソウエイはローブ、シュナは巫女服、シオンはスーツを着ていた。シオンに関しては動きにくいのではないかと思ったが動きを阻害するようなことはないらしい。胸元が開いているため谷間がよく見え、同じくスーツを着ていたコウカは恨めしそうに見ていた。
「みんなよく似合ってるね。縫製もしっかりしてるし、やっぱり私もシュナに頼んでおけばよかったかな」
「でしたら、これを。実は普段お召しになっているものと同様のものを作ってみていたんです」
テクトがそうこぼすとシュナが衣装を持ってくる。見た目こそ変わらないものの、テクトの曖昧な知識で作られたものと違い着心地がよかった。
「ありがとう、シュナ。いい出来だよ」
「い、いえ。そんな、私などまだまだで///」
「あっと、ごめん」
「ぁ、いえお気になさらず///」
予想以上の出来に感動したテクトが礼を言うとともにシュナをなでる。アラクネの状態だと体高が高くなでるのにちょうどよい高さだったのだが、リムルのニヤついた表情とシュナが赤くなっているのを見てなでるのをやめる。
「んんっ、着替えも終わったしほかの準備もすぐにできるはずだから今日は早めに休んで明日以降の移動に備えるよ。じゃぁ、私はこれで!」
なおも続くリムルの視線に耐えかね、咳払いをしてまくしたて、その場を去るのだった。
次回「
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紅蓮の絆編は書いた方がいいのか
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書かなくてもいい