転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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86話:運営会議

 前回の会議から数日後。

 

 ついに三十階層突破者が現れた。

 

 無論、マサユキ一行である。

 

 迷宮内外でマサユキの三十階層突破を発表したため、町では大歓声のマサユキコールが響くことになる。

 

 それに応じるマサユキの表情は引きつっていたが「英雄覇道」の効果で輝く笑みに見えていたのか歓声に拍車がかかるだけだった。

 

 大鬼の狂王(オーガロード)とその配下五人衆の戦いではジンライが武闘大会で贈られた魔銀全身鎧(ミスリルアーマー)を装備してヘイトを一手に引き受け、マサユキの「英雄覇道」の補正を受けたバーニィとジウの〈元素魔法〉と〈精霊魔法〉で一気に殲滅されていった。

 

 そして、さらに話題となったのは装備を揃えることで特殊効果が発揮される希少級装備が出現したことだった。

 

 その名もオーガシリーズ。

 

 三十階層のボス部屋の金の宝箱から出現する希少級武具はこれに属するものに限定されており、何が出るかはランダムとなっている。

 

 武器は大斧(アックス)大剣(ソード)(ボウ)長刀(サーベル)短刀(ナイフ)の五種類。

 

 防具が面兜(ヘルム)胸当て(ブレスト)小手(ガントレット)脚絆(レギンス)具足(ブーツ)の五種類である。

 

 ボス部屋の金の宝箱からの希少級の出現率は二%程で、それぞれの武具の出現率は均等である。

 

 そのため一式を揃えるにはそれなりに時間がかかると予測された。

 

 オーガシリーズを揃えることで発揮される効果は「魔力妨害」で、四十階層のボス嵐蛇の「毒霧吐息」に有効である。

 

 そのため一つ前のボスのシリーズ防具を揃えてから進むというのが現在構想されている攻略の流れである。

 

 マサユキの場合はオーガシリーズの胸当てよりも魔銀全身鎧の方が防御力が高く、力押しが通る相手なのでそのまま進むことになった。

 

 また、マサユキ発案のアイテムドロップだが、迷宮内へ流す魔素量を調節する配管を各階層ごとに入口を一つにまとめ、魔物が大量に湧く部屋を作ることでアイテムを飲み込ませる作業を簡略化した。

 

 その結果、効率的にアイテム持ちの魔物を配置することができ、冒険者達に多数のアイテムが行き渡っていた。

 

 鑑定屋には長蛇の列ができており、途切れることはないという。

 

 各階層の階段前から繋がるようにした九十五階層も大盛況となっている。

 

 目立つように設けられた部屋には宿屋の看板と不自然な扉、呼び鈴が置かれており、呼び鈴を鳴らして迷宮管理者を呼び出し内容を聞くことができる。

 

 扉は銀貨一枚で開くことができ、その先では割高だが寝泊まりや洗濯、風呂、武具のメンテナンスなど様々なサービスを受けることができる。

 

 アイテムの運搬のため食料を減らしたり寝具の持ち運びをなくすことのできる宿屋の存在は非常に受け、休まない場合でも排泄が安全にできるということで扉の通行はそれなりに行われている。

 

 生活魔法:健康管理(ヘルスケア)状態清潔化(クリーンウォッシュ)により排泄時期の管理や風呂の代わりをある程度行えるが、そういった魔法を習得している者でも扉を利用する事が多いのである。

 

 ちなみに、迷宮内ではスライムがゴミなどの除去を行っており、迷宮の変遷時にもゴミの消去が行われるので迷宮は割と清潔に保たれていたりする。

 

 そんな中でも“帰還の呼子笛”の需要は高まっており、アイテムの運搬に重宝されていた。

 

 ハズレであるクロベエの弟子の失敗作でも安値で買い取っているうえ、中には特上級の武具もあるということでどんな者でも取り敢えず持ち歩くことになっているのが理由だった。

 

 冒険者にとっては迷宮内部でサービスを受けられるということが第一で質は二の次であるため、魔国連邦側としても接客の心得を勉強中の者の練習にちょうどよく、まさにWin-Winの関係である。

 

 というわけで迷宮の運営は順調なのだが、テクト達が頭を悩ませる事態も存在する。

 

「やはり、受け取ろうとしないか」

 

「はい。ブルムンド王国の平均賃金換算で計算しても、労働者への賃金は十分に賄えるのですが……」

 

 魔国連邦では給金の支払いがないのである。

 

 正確にいえば支払おうという意思はある。

 

 しかし、住民たちは受け取ろうとしないのだ。

 

 衣食住に関しては配給制でシラヌイと智慧之王により不足なく管理されている。そのため満足度はとても高く、それ以上を望むことをしないのである。

 

 無賃のまま精力的に働く住民達に何かしらの還元も考えているが、一方で欲望に正直な者もいる。

 

「ところで、アタシへの支払いは大丈夫そうなの?」

 

 質問の主はラミリス。

 

 賃金関係の話題が出たために心配したようだが、そこは問題なかった。

 

「期待していいぞ。細かい支出計算は後で確認してもらうとして、ざっとこれぐらいだな」

 

「マジで!? こんなにもらえるの!? これはアタシの時代が来たってことじゃないかしら!」

 

 概算の金額だが支払予定の金額を提示すると、ラミリスは高笑いしながらふんぞり返る。

 

 その横からヴェルドラも口を出した。

 

「その支払いとやらだが、我にはないのか?」

 

「いや、用意しているとも。ラミリスもそうだが、ヴェルドラ無くして迷宮は成り立たないからね。ラミリスと同額としておいたから考えて使うように」

 

「クワーッハッハッハ! 任せておくが良い! 我とて祭りの屋台で仕事の尊さと金の重要性は身にしみておるわ」

 

 ラミリス同様高笑いするヴェルドラだったが、失敗するなら使える金額の少ないうちのほうが都合がいいと考え、テクトは放っておくことにした。

 

 迷宮外の様子だが、活況の一言に尽き、自由組合に所属する者どころか大商人と呼べる者まで出店許可を求めているらしい。

 

 ミョルマイルだけでなくリグルドまで対応に追われるほどで、貿易の中継地点として機能し始めたといっていいようだ。

 

 他国にはない食事や迷宮による魔物の素材、娯楽という刺激により導線ができたことで完全に軌道に乗った魔国連邦は西側諸国からの信用を手にしたといっていい。

 

 順調そのものな推移に満足して会議は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 場所は変わり、百階層研究施設。

 

 新たに用意された区画にテクトとリムル用の施設が用意されていた。

 

 名目はもともと考えられていた樹妖精の依代制作。真の目的はディアブロが連れて来る者達の依代制作や構想段階の研究施設である。

 

 普段の執務とは逆に主としてリムルが研究に当たっており、夜の状況共有で成果確認をしていく。

 

 好奇心の赴くまま様々な開発を行うリムルを微笑ましく見守る中、迷宮で異変が起こり、テクトは呼び出された。

 

「今どの段階だ?」

 

「あ、テクト! もう八十五階層を超えるところだよ! アタシの聖霊の守護巨像も一発だったし、アピトもやられちゃた!」

 

「ゼギオンは?」

 

「それが、ちょうど蛹になっておってな。先に目覚めておったアピトが相手をしたが、あの女の動きには追いつけなんだ」

 

「クマラの尾獣は……まだ相手にならないか」

 

 スクリーンにはヒナタがクマラの配下を倒した瞬間が映っており、扉が開くと同時にヒナタはそのまま駆けていく。

 

 そのまま発生している魔物を突破し、最奥へと進んでいく。

 

 そう時間をかけずに八十六階層も突破しようという光景に、テクトは引いていた。

 

「早すぎるでしょ……」

 

 ヒナタが単独攻略に乗り出した原因はフリッツの言葉だった。

 

 戦闘訓練として五十一階層から行軍を始めた聖騎士団はアダルマンの支配する不死系魔物を浄化しながら進軍し、そのまま相性差でアダルマンを撃破。

 

 ラミリスの仕掛けた罠も無酸素部屋には戸惑ったものの、後続が蘇生して事なきを得たらしい。

 

 ヴェルドラが監修した六十一階層以降の罠も乗り越えていったが、七十階層のボス―聖霊の守護巨像により全滅したらしい。

 

 それに呆れていたヒナタだったが、フリッツの口にした「ヒナタ様でも攻略は無理では?」というセリフに苛立ったのか単独攻略に打って出たそうだ。

 

 そこからは快進撃を続けており、テクトが会議室に顔を出すまでの間に六十一階層から八十五階層まで駆け抜けたということだった。

 

「ラミリス、下層での戦闘データ採取にうってつけだし、情報に干渉する権限がほしいんだけど」

 

「え? 干渉はいいけど、迷宮の情報って凄い膨大でアタシはほとんど破棄してるんだよ? 大丈夫?」

 

「大丈夫。こういうのは得意だしね」

 

「まあ、テクトがそう言うならいっか! じゃあ、テクトにも、アタシの「迷宮創造」への干渉権限を与えるね!」

 

 そう言ってラミリスがテクトに触れると、あっさりと権限の付与がされ、流れ込ませ始めた情報量に僅かに眉根が寄る。

 

 情報を整理する内にヒナタが八十六階層を突破し、次の階層への階段を駆け下りていく。

 

 凄まじい勢いで進むヒナタにテクトはハッとしたようにラミリスを見た。

 

「そういえば、九十階層の階層守護者ってクマラだったよね? 流石に子供に相手をさせるのは無茶じゃない?」

 

「心配するな。すでにベレッタとマウザーが向かっておる。あやつらならばあの女も止められるやもしれん」

 

 腕を組み答えたのはヴェルドラ。

 

 マウザーも魔王への進化(ハーベストフェスティバル)の影響で進化をしており、ラミリスの警護として修練を積んでいるが、ヒナタ相手には何処まで食い下がれるかというレベルである。

 

 リムルに思念を送るも「今いいところだから後で」と返事がされ、テクトは強硬に呼びつけるか若干迷ったものの楽しんでいるのを邪魔するほどでもないと放っておくことにした。

 

 そんなことをしている間にもヒナタの進軍は止まらず、九十階層へと到着した。

 

 硬質なボディを盾に前衛を張るベレッタと何故かスカートの中から飛び道具を取り出し援護するマウザーのコンビは中々強力そうだったが、照準を合わせる間もなく両断され、あっけなく敗北した。

 

 九十一階層から九十四階層は研究施設等の施設のためスキップされ、九十階層の階段が通じるのは九十五階層の宿泊施設になる。

 

 それを知っているヒナタはこれまでと打って変わってゆっくりと歩を進め、この日の宿を選定し始めていた。

 

 今日はこれ以上の戦闘はなさそうだとモニターを落とすと、ラミリスは敗北したベレッタとマウザーの様子を見るため飛び出していく。六十階層で敗北したアダルマンが落ち込んでいたのを見て二人もそうなのではと心配になったらしい。

 

「この勢いだと残りの階層も突破されそうだね。上位竜(アークドラゴン)じゃヒナタは止められないな」

 

「なんの問題も無かろう。この迷宮の王を誰と心得る!」

 

「俺も心配はしていないさ。明日は頼むよ」

 

「クア──ッハッハッハ! 任せておくがいい! この暴風竜ヴェルドラが、侵入者を撃滅してくれるわ!」

 

 高笑いしながらヴェルドラは身を翻し、部屋を後にする。

 

 明日以降のことを考え改めてリムルと連絡を取るか考えていると、百階層のボスの間にヴェルドラが転移する。

 

「……え、ラスボスが前日入りするの?」

 

 テクトのつぶやきは誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 そして翌日。

 

 やはりというべきか九十六階層からのドラゴン部屋は前日ほどではないものの順調に突破され、とうとう百階層が日の目をみることになった。

 

 余裕綽々のヴェルドラにヒナタが斬りかかる。

 

 一太刀目で物理攻撃が通用しないことを確認したヒナタは攻撃方法を変え、魔法、呪符、魔宝道具(アーティファクト)まで使い、ダメージを与えられる方法を模索し始める。

 

 痛痒を感じないヴェルドラの煽りに歯噛みしながら放った霊子崩壊も体表を僅かに飛ばす程度で終わり、ヒナタは大きく舌打ちすると崩魔霊子斬の準備に入る。

 

 お約束的に技の準備を待ったヴェルドラへ崩魔霊子斬が突き刺さるがヴェルドラは感心するかのような反応をしただけでさほどのダメージはなく、これ以上の手はないと判断したヴェルドラの反撃にヒナタは敗北したのだった。

 

「いやあ、快勝、快勝! 中々強かったが、我の敵ではなかったな!」

 

「お疲れ様。流石の一言だよ」

 

「そうであろう? やはり我は最強だからな!」

 

 テクトのねぎらいにヴェルドラは高笑いをし始める。

 

 当分はヒナタに近づけない方が良さそうだと考えていると、シラヌイが迷宮内の異常事態を捉えた。

 

「三十階層を突破した連中が出たぞ。しかし、これはまた」

 

「む。どうかしたのか、テクトよ」

 

「ああ、うまいこと穴を突かれた感じだな」

 

 テクトがマサユキに次ぐ快挙を成し遂げたパーティーが出たことを祝うでもなく苦笑したことでヴェルドラも高笑いをやめて訝しむ。

 

「まぁ、見てもらったほうが早いな」

 

 そう言うとテクトはモニターに手をかざし、録画映像を流し始めた。

 

 映ったのはチーム“緑乱”。

 

 彼らは三十階層のボス部屋前へとたどり着くと、“事象の記録球”を取り出した。

 

 そのまま“帰還の呼子笛”を使い撤退すると、次々に同じ意匠の該当を羽織った者達が再突入してくる。

 

 その数、百名。

 

 あっという間に数を増やしたからくりは地上で一度パーティーを解除し、改めて別々のメンバーとパーティーを組んだらしい。

 

 最大数の十人がそれぞれ最大数でパーティーを組み直し総数を大幅に増したチーム“緑乱”は順番にボス部屋に突入し、三組目にして三十階層突破を成し遂げたのである。

 

「確か奴等は「精霊交信」で攻略していた者達だったか」

 

「あぁ、ソーカの調べでは“緑の使徒(ヴェルト)”という名の傭兵団らしい。それなりに有名でイングラシア王国が雇い主の可能性が高いらしいな」

 

 開国祭ではイングラシア王国からは傍系の王族が参加するだけだったが興味自体は引けていたようで、テクトはご満悦である。

 

 それよりも気になるのは“緑乱”のリーダーの実力だった。

 

「リーダーの情報を解析してみたけど、Aランクオーバーみたいだな。もう一人Aランクがいる以外は事前情報とさして変わらないけど、リーダーは精霊使役者だから能力的にはもっと上かも」

 

「嵐蛇は突破でそうか?」

 

「召喚した魔物を先行させて罠を避けてるから損耗は期待できないな。技量によってはゴズールとメズールにも匹敵するだろうし、このままだとまずいな」

 

「そうか。実に不味い展開だ」

 

 腕を組んで椅子に持たれるテクトを見て、ヴェルドラも苦々しい顔で悩み始める。事態を飲み込めていないのかラミリスがテクトの顔の前まで飛んできた。

 

「え? 何かあったっけ?」

 

「五十階層を突破されたらそこから先の階層守護者がいないんだよ。つまり、階段が素通りできるんだ」

 

「あっ」

 

 現在七十階層の階層守護者である精霊の守護巨像は原因不明だが復活してくれず、八十階層の階層守護者であるゼギオンは眠っている。九十階層の階層守護者であるクラマへ健在だが、成長を見込んで下層に置いているため矢面に立たせるには力不足である。

 

 一応六十階層のアダルマンは機能するが、ゴズールよりも弱いため突破される可能性が高い。

 

 アピトも実戦経験が不足しているため三十階層のような波状攻撃には耐えられないと考えられた。

 

 このままでは打つ手無しということでリムルの緊急招集が決定されたのだった。

 

 

 

 テクトが研究室へと乗り込み、リムルを迷宮百階層の会議室へと抱えてくる。

 

 道中で状況の共有を行い、会議室に到着するときにはリムルも状況の把握はできていた。

 

 ついでにミョルマイルとマサユキも呼ばれており、リムルほどではないが簡単に情報の共有は済ませていた。

 

「状況はわかった。確かに“緑乱”の奴等が四十階層を突破するのは時間の問題だが、慌てることはない!」

 

「おお、流石はリムルよ。策があるのだな?」

 

「やっぱりね。アンタがいれば心配ないと思っていたさ!」

 

 開口一番のリムルの言葉にヴェルドラとラミリスの表情が明るくなる。

 

 リムル以外は五十階層以上の罠の内容を知らないためテクトは不安そうな顔をしていたが、自身有りげにリムルが罠の内容を語る。

 

 真骨頂は四十九階層のスライム達。

 

 特定の通路を抜けるとスライムが湧き出し、分断する。

 

 幅三メートルに渡る壁となったスライムには物理攻撃は通用せず、隔離空間であるため爆発系など一部の魔法は使えないため、脱出の難易度は高い。

 

 他にも罠は張り巡らせられており、主に武具の破壊を目的とした実にいやらしい内容だった。

 

 また、アダルマンの戦力増強には心当たりがあり、おそらく単なるアイテム扱いで復活の要件である意思が存在しないため復活できなかった精霊の守護巨像は、手の空いたカイジンが協力できるため性能の向上と改良がなされた新型の建造も視野に入れられる。ゼギオンもしばらくすれば目覚める事になり、上位竜達も進化は近い。

 

 時間があれば可能性があるということで盛り上がるヴェルドラとラミリスだったが、テクトの表情は晴れなかった。

 

「でも、もし間に合わなかったら皮算用だ。罠だけで止められるとは思えないんだけど」

 

「わかってる。そこで、一つ試したい事があるんだ。テクトは勿論だが、ヴェルドラとラミリスにも協力して欲しい」

 

 テクトの不安にもしっかり答えたリムルに三人とも快諾する。

 

 マサユキにはオーガシリーズの完成を優先させて四十階層の突破は見送るように指示を出し、緊急の会議は終わりかと思われた。

 

「あ、お待ち下さい。一つ相談したい事が御座いまして……」

 

「どうした?」

 

 手を挙げたのはミョルマイル。

 

 なんとなく嫌な予感を感じつつもテクトが話を向けると、ミョルマイルが気まずそうに語り始めた。

 

「実はですな……その、ヒナタ様から、迷宮攻略の褒賞金が出ないのかとの問い合わせが……」

 

「は?」

 

「公式に突破された訳では御座いませんが、ヒナタ様から「正攻法で挑戦していたら、支払う必要があったのでしょう?」と申されまして……」

 

「う〜ん……」

 

 困り顔のミョルマイルを前にテクトも渋面を作る。

 

 ミョルマイルの言うように公式での記録ではない。だが、ヒナタの言うことにも一理あり、突っぱねるには分が悪かった。

 

 テクトはため息を吐くと断ることを主張していたリムルを机へと置き、立ち上がる。

 

「わかった。ヒナタとは交渉しよう。流石に全部払うわけにはいかないしな」

 

 ミョルマイルを伴い転移した先は九十五階層。

 

 正規攻略者用の宿の一室でテクトとヒナタは向かい合って座っていた。

 

「今回問い合わせのあった褒賞金の件で、支払いについていくつか条件があるんだけどいいかな?」

 

「いいわ。聞いてあげる」

 

「……それはどうも」

 

 開国祭で半ば意図的に気苦労をかけたためかヒナタとテクトが話す場合はヒナタは高圧的になりがちである。

 

 テクトは苦笑すると指を立てながら条件を告げ始めた。

 

 一つ。今回の攻略は非公式のものであるため階層突破者としてのアナウンスはしない。

 

 二つ。ヒナタが攻略を開始したのは六十一階層からなので七十から九十階層における踏破時の褒賞の支払いのみを行う。

 

 三つ。個人であれば今後も九十階層の記録地点は使用してよいが、パーティーを組んでの攻略時に使用することを禁止する。

 

 四つ。特例とはいえ下層階褒賞金を支払うため、今後の上層階の踏破時の褒賞金の支払いはしないものとする。

 

「待ちなさい。私は六十階層以上の攻略をしていないのに支払いをしないのはおかしくないかしら?」

 

「階層突破の褒賞金って高額なんだよ? 将来的にでなく今すぐにでも確実に出る損害を認めるのはちょっとね。それに、正規のボスを倒していないのに八十階層と九十階層の褒賞金は支払うんだよ? これだけでも破格の条件だと思うけど」

 

 テクトの言葉にヒナタは怯む。正規の階層守護者がいなかったのは迷宮側の都合だが、完成していない階層を蹂躙しただけと言われれば旗色は良くない。

 

 今後迷宮が完成しても突破できる自信はあるが、魔国連邦の者達の進化速度を考えると絶対とも言えない。

 

 そういった点でも妥協点を見つける必要はあり、ヒナタはテクトの出す条件を呑むことにした。

 

「……わかったわ。それで納得してあげる」

 

「ご納得いただけたようで何より。じゃぁ、これが階層踏破の褒賞金になります」

 

 わざとらしい敬語とともに差し出されたのは数十枚の硬貨だった。

 

「星金貨?」

 

「五十階層以下の褒賞金の支払いは星金貨になってるからね。まぁ今の魔国連邦にはこれと両替できるだけの金貨はないけど」

 

 星金貨の取り回しが悪いのは開国祭で魔国連邦が支払いに難儀したことからも明らかである。

 

 如何にヒナタとはいえこの数の星金貨を使うのは難しいが、金額自体は正当なものなので納得して受け取ろうとしたところでテクトが指を立てた。

 

「流石に使いづらいだろうし、お願いを聞いてくれたら優先的に両替してあげるけど?」

 

「今度は何をさせようというのかしら」

 

「別に難しいことじゃないよ。ちょっとアピトを鍛えて上げてほしいんだ」

 

「アピト?」

 

「今回八十階層で戦った娘だね。人型になってから日が浅くて実戦経験も少ないんだよ。聖騎士達だと速度だけで優位に立てるだろうから、七十階層のボスの再建が終わって訓練が本格的に再開するまでの間だけでも頼めないかな?」

 

「本人はなんて言ってるの?」

 

「やる気十分。強くなるのに手段を選ぶつもりはないみたいだよ。でも、そうだなぁ、足りないってことなら、ヴェルドラとの再戦権なんてどう? 本人はたぶん慢心してろくに受けようとしないだろうけど、ヒナタが権利行使するときにこっちから働きかけて真面目にやるように仕向けてあげる」

 

「やるわ」

 

 提案を聞きヒナタが即応する。よほど戦闘中の煽りが効いていたと見える様子にテクトは苦笑すると星金貨数枚分を金貨へと両替して仕事に戻るのだった。

 


 

 次回「迷宮改善」




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