転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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89話:西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)

 一夜明け、会議当日。

 

 部屋は男女別に分け、最終的にテクトの抱き枕にされていたリムルだったがそれなりに機嫌はよかった。

 

 参加する三人はスーツを着込み、会場に向かうと、周囲はミューゼが暗殺されたことを受けてか厳戒態勢になっていた。

 

 テクト達が到着するなり待ち構えていた議員が挨拶に近寄ってくる。

 

 魔国連邦の周辺諸国の議員らしく、応対をしているリグルドやミョルマイルの成果か親しげに接してくることに応対しているリムルが感慨深い思っていると、その後ろから実に偉そうな態度で声がかかる。

 

「ウォッホン! 君達、リムル殿が困っておるぞ。見るべきものもない小国の代表風情が、長々と話し込むでないわ!」

 

「いやはや、まったくですな。礼節を知らぬ者が多いと、リムル殿が評議会に対して誤解してしまわれます。部を弁えて、さっさと去るがいい」

 

 後から来た議員は横柄な態度だが、話をしていた議員達は文句をいうことなく恐々とした様子で場所を譲った。

 

 後から来た議員はソウエイの調査によるとそれなりの規模の国の議員である。

 

 建前上は議員は平等であるのだが、それぞれの国が持つ議席数が評議会に対して拠出する金額により増枠が可能であることや、国同士の力関係から形骸化している。

 

 そのため彼らもその場を離れる議員達を当然という態度で視界から外していた。

 

「礼節を知らないのはどっちだ?」

 

 その一言にテクトへと視線が集中する。

 

 後から割り込んだ議員達が僅かに眉が動いたが、まだ不況を買うのは良くないと考えたのか、語調を変えぬままテクトへ問う。

 

「どういう意味ですかな、テクト殿?」

 

「道理もわからぬ子供でもあるまいに、説明が必要なのか?」

 

 テクトの煽りに議員達の顔色が変わる。

 

 顔を赤くし眦を釣り上げたが、すぐに落ち着きを取り戻すと背を向けて去っていった。さり際に無礼がなんだと喚いていたが、テクトは鼻を鳴らすだけである。

 

「大丈夫なのかよ。あんなこと言って」

 

「礼を欠いたのはあちらが先だ。それよりも、最後の目が気になるな。何か企みがあるのは間違いない」

 

「うへえ、めんどくさぁ」

 

 テクトの言葉にリムルはうんざりと言った様子になる。

 

 その後も不遜に振る舞うテクトによって他の議員は遠ざかり、あまり応対することもなく会議時間を迎えたのだった。

 

 

 

 会議室では扇形に椅子が並べられていた。

 

 要の部分に長机と椅子が二脚。

 

 そこに向かい合うように議員たちが座っていく。

 

 議長や国力のある国の議員とみられる者達は後方や二階席などテクト達から離れた場所に座っており、先程の横柄な議員達も後方側に座っていた。

 

 今回の会議の主題は魔国連邦の評議会加盟であるため、早速その話に入る。

 

 魔国連邦の評議会加盟にあたり、出された条件は主に以下の三つ。

 

 一つ―国際法の遵守

 

 二つ―経済圏の解放

 

 三つ―軍事力の提供

 

 一つ目は何ら問題はない。

 

 加盟国が共通に守る義務を負うものだからだ。

 

 司法は各国に委ねられ、それによる判決に文句がある場合は所属する国家の領事館へ訴え出ることになる。

 

 ここで国家間の問題になれば国際法による裁判となり、当事国を除いた議員による判決が下される。

 

 その際の判断基準として両国の法律の公開が必要となり、魔国連邦も制定予定の法案の提出を行っていた。

 

 二つ目は少々問題があった。

 

 特許のないこの世界では技術の盗用など茶飯事である。

 

 開国祭で大々的に発表しているため盗用を目論む者達が出るのは承知していたが、議員たちはそれよりひどい。

 

 自国との取引を名目に敷設工事を求めて騒ぎ出すのである。

 

 その優先順位も敷設工事の都合を考えず我先にと口々にわめき、議長が宥めなければ会議が頓挫するところだった。

 

 三つ目については少々検討のし直しが必要だった。

 

 ヒナタとの打ち合わせでもジュラの大森林とそこから生じる魔物対策と防備は魔国連邦が、不毛の大地方面の防備は聖騎士団が担うことになっている。

 

 評議会の思惑とも一致するが、東の帝国との戦では魔国連邦が矢面に立つのは確定的なのでそこは問題ない。むしろ背後が混乱して背中が刺されないのであれば有効な取り決めだ。

 

 散発的な魔物への対処も行うことになるが、国防を魔国連邦に頼る場合、魔国連邦は無視できない存在となるため、戦力差を理解させるための示威行為が重要となる。

 

 そのため部隊の運用も含めて協議が必要になると考えられた。

 

「以上を以て、ジュラ・テンペスト連邦国の加盟に対する条件とする。魔王両陛下に置かれましては、何か異論は御座いますかな?」

 

 議員の横槍を抑えつつ説明を終えた議長の声が響く。

 

 それを受けてテクトの手が凄まじい速度で動き始めた。

 

 何をしているのかと呆気にとられる議員達の前でテクトはペンを走らせ終わると書き上げたものをシュナへと任せた。

 

「すべての条項を検討し、それらへの疑問点と代案を作成した。これらを受け入れるのであれば、当方が口出しをする部分はない」

 

「なっ!?」

 

 シュナから文書を受け取った議長が絶句する。

 

 テクトの不遜な言葉にではなく、書き上げられた書面によるものだった。

 

 議長の説明を一言一句漏らさず記載し、その上で魔国連邦側の要望も込めた条件が書き加えられている。

 

 書記のように説明を聞きながら書いていたわけでもなく正確に書き起こし、その上修正案までその場で作ったように視えるテクトに魔物であるという侮りが間違いであったと思い知らされたのである。

 

「異議があるのなら、協議には応じるが?」

 

 テクトは書面を押し出しながら議長へと問う。渡されたものと同じ内容の書面を見せながらの言葉に議長は僅かに言葉に詰まりながらも返答する。

 

「いえ、そのようなことは……ただ、少しだけ、テクト陛下の案を検討する時間を頂戴したい」

 

「ほう? まぁ、いいだろう。存分に検討すればいいさ」

 

 本来であれば魔国連邦にも検討の時間を取らせるべきであるにもかかわらすそれを取らせず、自分達は時間を取ろうとすることに口を出すべきか僅かに迷ったが、テクトは慇懃無礼に返す。

 

 それを受けて会議は長い休みに入るのだった。

 

 

 

 再開されたのは三時間ほど後のこと。

 

 議員からは要望書という題目の文書が提出された。

 

 議長は明らかに疲れており、検討中に様々な攻防があった事が伺える。

 

 肝心の要望書の内容だが、以下の通りである。

 

 一つ。

 

 "魔導列車"をイングラシア王国まで開通させる事。それにかかる工事と費用は魔国連邦側が負担するものとする。

 

 一つ。

 

 高品質の武具の提供。西側諸国の軍備増強を目的とし、魔国連邦側に協力を求めるものとする。

 

 一つ。

 

 魔国連邦に出現した迷宮(ダンジョン)は人類の宝である。故に、その運営に評議会も加えるものとする。

 

 一つ。

 

 評議会に加盟するにあたり、毎年一定額を納めるものとする。また、議員の選出については安全面を考慮して人間のみを認めるものとする。

 

 等々。

 

 不平等条約など目ではない条項に、それらを確認したリムルの思考が一瞬怒りに染まる。

 

 それを行動に起こす前にテクトの手がそれを制した。

 

「クックックック、ハーッハッハッハ!」

 

 突如としてテクトが哄笑する。

 

 目元を隠し、上を向いて笑っていたテクトだったが、嗤いを抑えると開いた指の間から議員達へと片目で睨みつけた。

 

「貴様等、俺達を舐めすぎたな。随分と好き勝手言ってくれるものだ。勘違いを正してやろう。魔国連邦はすでに、巨大な経済圏の構築に王手をかけた状況だ。それでもなお西方諸国評議会への加盟を望んだのは、人類への敵対をしないという意思表示のため。しかし、それを望まないというのなら、無理に事を推し進める理由は、ない」

 

 テクトは断言とともに要望書を握りつぶし、それはすぐに塵へと変わる。同時にわずかながら「畏怖」が漏らされ、議員に最悪のシナリオを予見させた。

 

 機嫌を損ねれば、交渉が失敗に終われば、自身も塵へと変わるのではという想像が議員を言い訳に走らせる。

 

「い、いや、テクト殿、我等はそのようなつもりで申し上げたのではなく……」

 

「さ、左様ですぞ! 我が国としても、貴国と友誼を深めたいとの思いから、つい甘えた意見を出してしまったのですじゃ」

 

 その言い訳がよりテクト達の怒りを加速させる。

 

 まず、呼び方に問題がある。

 

 相手は仮にも一国の王なのだ。にも関わらず、議長以外の使う呼称は殿である。

 

 彼らも同じ国家元首に相当するのであれば問題はないが、そうではない。

 

 例えば、この態度をエルメシアにでもしていれば、命知らずのうつけものとして後世語られることになるだろう。

 

「ほう? では、どういうつもりだったと? 我が国の民に、貴様等の奴隷として馬車馬のように働けと、どのような思惑でもって言っているのかね?」

 

 テクトの問いかけに議員は必死に言い募る。

 

 議員から出て来るのは言い訳程度であり、聞く価値を感じずこの際帰ってしまおうかなどとテクトが考え始めたあたりでシラヌイ及び智慧之王から報告があがる。

 

 なんでも、議員達に精神干渉の痕跡を発見したらしく、議員達をサンプルとして法則を発見したらしい。

 

 開国祭で不遜な態度の目立ったガイも同様の精神干渉を受けていたとのことだった。

 

 それはさておき、何かしらの思惑が動いているなら黙ってやられるわけにはいかないと精神干渉を解除すると、沈黙を保っていた議員が声を上げ始める。

 

「テクト陛下が憤慨なされるのも当然だぞ! この失態、どう償えば」

 

「待て、そもそもこんな条件、先の会議では話題にもなっておらぬ!」

 

「誰だ、誰が勝手な真似をしおったのだッ!?」

 

 唐突に潮目が変わったことにシュナとリムルが瞠目する。

 

 精神干渉は魔素に影響しないものであったが、同じ精神の波長をした議員があまりにも多いことで智慧之王が疑問を持ったらしい。解除には時間がかかると思われたが、テクトの「畏怖」に当てられてほころびが生じていたとのことだった。

 

「ふっ、計画通りだ」

 

「本当ですか?」

 

「そういうことにしといて」

 

 格好つけたテクトだったが、シュナからの確認に白旗をあげる。事前に注意したにもかかわらず会場を混乱させたことで睨みをきかせるヒナタを誤魔化すためにも、上手くいったということで押し通そうとするテクトにシュナはこっそりとため息を吐くのだった。

 

 目の前の問題を解決するのが先決であるため追求は後回しにされ、安心したテクトは改めて会場を観察する。

 

 正気に戻った議員に要望書を作成したと思われる議員が詰め寄られているが、一部の者は余裕そうな表情を浮かべていた。

 

 これ以上何があるのかと訝しむテクト達の耳に複数の足音が聞こえ始める。

 

 鎧の音から衛兵と思われるが、外部に連絡を取った形跡はないため、要望書に激昂し暴れるのを見越して事前に呼ばれていたものと推測された。

 

 魔王を前にして暴れさせるのを前提にした策を弄したことに危機意識の低さを感じ取りつつ、ヒナタの匂わせていた馬鹿共と思しき者達の到着を待つことにした。

 

 

 

 扉を開け放ち入室したのは十数名の兵士と大男が一人。

 

 隊長格と思しき大男はテクトを見下すように、リムルとシュナを値踏みするように眺めながら吼え始める。

 

「おうおう、威勢がいいな。お前さん等が魔王を名乗る馬鹿共か。だがよ、ろくな御共も連れて来れないのに、そんなに威張っていてもいいのかい?」

 

 その言葉を聞き、テクトとシュナから表情が消える。

 

 わずかに呆気にとられたリムルだったが、二人の雰囲気から念の為、勘違いの可能性を消すために確認を取る。

 

「あのう……俺達は一応、魔王を名乗っているリムルとテクトという者なのですが、どなたかと人違いされていたりはしませんか?」

 

「おう、お前等で間違いねーな。馬鹿共の名前はリムルとテクトだと聞いたぜ」

 

 大男の答えは肯定。つまり、このまま戦闘に入っても何ら問題はないのだが、流石に殺人事件は不味いと考えたリムルは追い払えないか試してみることにした。

 

「おい、おまえ。いい加減にしろよ? 何が目的か知らないが、目撃者が大勢いるこの公共の場で、そんな無法な行為が許されるのか?」

 

 リムルからすればここで引いてもらえなければ眼の前の大男が塵に変わるのが目に見えている。

 

 自身が見下されたのはまだしも、恋人を値踏みするような下卑た目でみられて我慢できるほどテクトの気は長くないのである。

 

 だが、リムルの願いは叶わない。

 

「馬鹿め! これはチャンスなんだよ。お前等を痛めつけてコレを嵌めれば、お前達魔物を言いなりに出来るだろうが!!」

 

 そう言って大男が取り出したのは支配の宝珠。

 

 解析結果は本物ではあるが、テクトとリムルを支配出来るようなものではない。

 

 そして、大男の答えを合図に冷めた目のテクトが立ち上がり、手を上げ始めたのを見て、議長が大慌てで叫ぶ。

 

「お、お待ち下され、テクト陛下!! これは何かの間違いなのです。決して評議会の意思ではなく、それは第三者であるヒナタ殿に確認して頂きたい!!」

 

 議長の声にテクトは手を止める。

 

 議長の声音に嘘の気配はなく、議員の中にも事態を飲み込めず混乱している者がいる。

 

 ヒナタも企みには関与していないのだから、議長の言葉は真実味があった。

 

 そのため、シュナとリムルへの視線に関して、周囲にわからない程度にどのように制裁を加えようかテクトが思案していると、その前にヒナタが立った。

 

「ライナー殿、これはどういうつもりなの?」

 

 ヒナタは大男―ライナーに問うが、当のライナーはニヤついた顔を崩さない。

 

 しかし、ヒナタが動いたことで勢いづいたのか議長が立ち上がった。

 

「許可なく立ち入るでない! 現在は会議の最中で、貴様等のような兵士の出る幕ではないわ!!」

 

 それに答えたのはライナーでも兵士でもなく、議員の一人だった。

 

「ははは、レスター議長殿。良いのです。彼らはワシが呼んだのです。そこの無法者を懲らしめる為に、ね」

 

「ギャバン殿、血迷ったか!?」

 

「ギャバン殿ッ! このような話は聞いておりませんぞォ!」

 

 レスターに続いて声を上げたのはロスティア王国の公爵であるヨハンだった。精神干渉を受けていなかった議員の一人で、魔国連邦の評議会入りに賛成派と思われる男である。

 

 それに続き、様々な声が飛ぶが、ギャバンはうろたえない。

 

「皆様、落ち着きなさい。皆様だって本音では、魔王を恐れている。違いますかな? ここにいるライナー殿は、我がイングラシア王国で最強の男。彼が魔王を倒し、支配する。そうすれば、ぽっと出とはいえ、九樹魔王に名を連ねる者が二柱も手駒となるのです。その上、暴風竜までも!!」

 

 ギャバンの演説にも議員の反発は止まない。

 

 しかし、ギャバンは態度を変えず、顔色を悪くして俯く議員がいることがリムルに嫌な予感を抱かせる。

 

 それを保証するかのように優男が入室してきた。

 

「落ち着け、諸君。我が騎士ライナーの言は正しい。魔王がノコノコと出向いてくれたのだから、この機会を利用せずして何とするッ!!」

 

 優男は偉そうにそう話すが、議員はそれに注意することもできずにざわつき始める。それが優男の地位が高いことを示していた。

 

「エルリック王子殿下、これは一体何の真似ですか? 私は貴方に、馬鹿な真似は止めろと忠告したはずですが……?」

 

 ヒナタの言葉から察するに、イングラシアの王子であるエルリックとは以前に話をしており、一連の計画を止めようとはしていたらしい。

 

 顔色の悪い議員はエルリックに扇動されているであろうこともなんとなく察せられた。

 

「ヒナタ、君には失望したよ。魔王に恐れをなし、人類の守護者という立場を放棄するというのだから」

 

「何ですって?」

 

 エルリックの物言いにヒナタの視線が冷たくなる。

 

 状況の変化にこれ以上やることはないとテクトは気を抜き始めていた。

 

「ゴチャゴチャ煩いぞ、ヒナタさんよ。ああん? 聖騎士団長か何か知らんが、イングラシア王国騎士団の総団長であるこの俺様の相手じゃねーんだよ。そこの貧弱な魔王にすら勝てず、互いに傷の舐めあいとは笑わせるぜ。本当は小便ちびって逃げたんじゃねーのかい?」

 

 ライナーの言葉にヒナタの視線とともに再びテクトの雰囲気が静かになっていく。

 

 ヒナタからはともかくテクトはヒナタを友人だと思っている。その友人を公然に侮辱されて苛つきが戻り始めていた。

 

 波が引いてくようにゆっくりと気配が稀薄になっていくのを感じて、リムルは必死に宥め始める。

 

「クックック、言い返さんとこを見ると、図星かい? ええ、騎士団長様よ。どうせその役職も、色ボケ枢機卿にでも色仕掛けして手に入れたお飾りなんだろ? 雑魚同士、チンケな戦いだったんだろうぜきっと。殺す覚悟もないような魔王など、片腹痛いわ!」

 

 リムルとしてはライナーにはさっさと黙ってほしかった。

 

 嘲りの言葉が出るたびに、前後の空気が冷えていく気がするのである。

 

「だがまあ、ヒナタよ。お前の見てくれだけは悪くない。俺の女になるってんなら、愛妾としてかわいがってやってもいいぜ?」

 

 ここで、リムルは背後のヒナタに関しては諦めた。

 

 まだ行動に移さないヒナタの忍耐力に感心しつつ、流石に静止するのは不可能だと判断した。

 

「おいおい、ライナー卿。少し下品ではないかね? だが、ワシも魔王リムルには興味がある。連れている鬼も悪くないし、魔王テクトも役には立つだろう。一人占めは良くないと思うのだが、どうじゃ?」

 

 今度はギャバンが不愉快な視線でリムルとシュナを眺めながら告げ、リムルはテクトを抑えるのも諦めた。

 

 ただでさえ限界ギリギリだったメーターが振り切れるような幻聴が聞こえ、テクトの足元の床が魔素の影響で変質していく。

 

 後は何かきっかけがあればバカどもが塵と化すのだろう。

 

 トドメの一言を放ったギャバンとは距離があるが、そんなものはテクトには関係ないのである。

 

「エルリック王子殿下。この男、ライナー殿の言動を、イングラシア王国として許すおつもりですか?」

 

 ヒナタは怒りを感じさせない静かな声で問う。

 

 それをどう勘違いしたのか、エルリックは笑みを浮かべたまま答えた。

 

「ふふふ、ヒナタさん、君が協力してくれたなら、もっと礼遇したのだけどね。まあ、ライナーを怒らせた自分自身を恨むといい。そうそう。言い忘れていたけどライナーは、Aランクの冒険者よりも強い。それに他にも」

 

 そこまで言って、エルリックは指を鳴らす。

 

 それと同時に何人かが追加で入室した。

 

「紹介しよう。こちらはガイ殿。Aランクの冒険者で、今やライナーの副官だ。そして彼はかの有名な傭兵団、“緑の使徒”の団長だよ。魔王を討伐するのに失礼のないように、できる限りの凄腕を集めさせてもらったのさ。君達以上の強者は、幾らでもいるという事だ。多少強いからと、自惚れないで欲しいものだね」

 

 自信満々のエルリックに対し、リムルは苛つきながらも冷静だった。

 

 自分から挟まりに行ったとはいえ、激怒している者に挟まれれば冷静にもなるのである。

 

「問おう。エルリック王子殿下、貴殿は私だけでなく、西方聖教会をも敵に回すことになる。その覚悟はおありですか?」

 

「安心して欲しい。西方聖教会、ひいては神聖法皇国ルベリオスには迷惑をかけぬ。そこで黙って見学してくれるなら、君の身の安全も保障するとも」

 

「そういう問題ではないのです。私は今、評議会から請われて第三者としてこの場にいる。公平性の確認こそが役目であり、あなた方の暴走を見逃せる立場にない。これが評議会としての意思だというならともかく、一個人の勝手を見過ごせると思わないで頂きたい!」

 

 ヒナタの言葉に応じるように議員達も抗議を繰り返す。しかし、エルリック達には響いた様子はなかった。

 

 すでに勝利を確信した様子のライナーに対し、“緑の使徒”の団長は護衛が役目であり、自ら危険に飛び込む共は契約違反だと主張する。

 

 一方でガイは臆病者は邪魔だと断じる。

 

 一触即発の空気ではあるが、決定的なきっかけがないために膠着した状況にリムルは成り行きを見守ることにしたのだった。

 


 

次回「力の片鱗」




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