転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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90話:力の片鱗

 膠着した状況を取り仕切るようにエルリックが片手をあげる。そこにギャバンが並ぶと叫んだ。

 

「静粛に!! 各自傾聴せよ、エルリック様のお言葉であるッ!!」

 

 その言葉に満足そうに頷いたエルリックは周囲をゆっくりと見回してから、おもむろに告げた。

 

「議員諸君! 今、ここで、その意思をはっきりと示すがいい!! 私達に賛同し、魔王を討伐する勇者となるか。それとも魔王と手を組み、人類の敵対者となるのか。国を代表してこの場にいる諸君が正しい選択を為すと、この私、エルリック・フォン・イングラシアは信じているぞ!!」

 

「今更民主主義を取り繕うのか。とんだ茶番だな」

 

 役者のように決めて悦に入っていたエルリックだったが、テクトの言葉に頬をひくつかせる。

 

 それでも気を取り直し、自信満々と言った様子で答える。

 

「これが茶番と感じるとは、所詮は魔物だな。本来なら投票を行うまでもなく、評議会は賛同してくれるのだ。それを目に見える形で示してやるこの公平さがわからないとはね」

 

 テクトは実に呆れたと様子で首を振り、エルリックと一部の議員の反応から買収の可能性を疑う。同じタイミングでリムルも思い至ったのか、変わらない顔色を悪くした。

 

 智慧之王がソウエイの情報から裏帳簿を作成し、不正の証拠を作り上げたことでリムルが安心しているなか、エルリックの声が高らかに響く。

 

「それでは、決を取ろうじゃないか。公平に、公正に! 魔王をこの場で倒し、支配する。賛成のものは起立せよ!!」

 

 その声に従い、何人かの議員が厭らしい笑みを浮かべながら起立する。

 

 明らかな内通の様子にリムルが歯噛みするが、事態は想定通りに動かなかった。

 

 双方にとって。

 

「決は出た。過半数に達したので、この議題は可決されたものとする!」

 

 立ち上がった議員が拍手を始めるのを聞き、エルリックが勝利宣言を行う。

 

 ギャバンやライナーも厭らしい笑みを浮かべて捕縛に動こうとするが、立ち上がっていたのは全体の三分の一に満たなかった。

 

 エルリックは自分の策を疑いもせず、結果を見ることなく勝ち誇っていたのだった。

 

 拍手を送っていた議員も自分達が少数派であることを察し、青褪め始める。

 

 帳簿に載る名前の数は起立している議員より多いのだが、精神干渉の解除によりエルリックに乗ることの愚かしさに気付いたものと思われた。

 

 智慧之王の解析では精神干渉は人の欲望を刺激するものだったらしく、かなりの強制力を持っていたらしい。

 

 リムルが議員への同情と議員個人で国運を左右しかねない評議会の制度への問題意識を持ち始めていると、状況が動き始める。

 

「盲目的な馬鹿というものは愚かしいな」

 

「何ィ!?」

 

「回りを見ろと言っているんだ」

 

 テクトの声に従い、エルリック達が周囲を見回す。

 

 明らかに過半数に達していない賛成者に目を剥いた。

 

「過半数を占める者が、貴方の意見に反対みたいね。第三者である私が公平な立場にて、この投票が成立したと宣言します。まあ、貴方に何の権限があって投票を行わせたのかについては、追って評議会にて査問会議が行われるでしょうね」

 

「クッ、こんな馬鹿な話があってたまるかッ!! 貴様等、私を裏切る気か!?」

 

 エルリックが直前までの態度から急落し慌てる様にヒナタの表情が和らぐ。

 

 そして、慌てているのはギャバンも同様だった。

 

「そ、その通り。エルリック様の仰る通りじゃ! 貴様等、わかっておるのか? このような真似をしたら、我が国からの援助は」

 

「待て、それはどういう意味ですかな? ギャバン殿、詳しく話してくれるのでしょうな?」

 

 疲れた様子ではあるが聴き逃せない言葉があったのか、レスターがギャバンの言葉を遮り詰問し始める。

 

 口ごもるギャバンに代わり、テクトが帳簿を読み上げ始めた。

 

「ラーバッハ王国では、水害への対策工事。カルナダ王国では、旱魃による被害への食糧援助。等々、その他の国々でも様々な支援を約束しておられるようで。その見返りがこれというわけですか? ですが、貴方々の命令に従わなければ支援を打ち切るとなると、これは悪質な買収行為と認識さざるを得ませんな」

 

「何故貴様が、そのような内情を知っておるのだ!?」

 

 慇懃無礼なテクトの態度にエルリックは絶句し、ギャバンが激昂する。

 

 レスターはこのやり取りで事情を理解し、鬼の形相でエルリック達を睨みつける。

 

 すでに趨勢は決し、魔国連邦側の優位は揺らがない。

 

 こっそりと座ろうとする者もいたが、すでにテクトの糸が動きを封じている。

 

 “緑の使徒”の団長も呆れた声でエルリックに三行半を突きつけ、もはや逆転の目はないのだが、敗北を認められない馬鹿というものはどこにでもいるものなのである。

 

「ふざけるんじゃねえッ!! エルリック様、諦める事などありませんよ。この俺が魔王共を倒しさえすれば、すべての問題は解決します」

 

「お、おお、ライナー!!」

 

「ラ、ライナー卿、そうじゃとも。ワシらにはまだ、貴卿という最高の切り札が残っておったのであったな。頼もしい限りじゃ!」

 

 吠えるライナーにエルリックとギャバンの顔が明るくなる。

 

 あくまで敗北を認めようとしない姿にテクトは呆れ顔で問う。

 

「俺達に勝てるつもりなのか?」

 

「馬鹿か、当然だろう! 這いつくばって靴を舐めるというなら、多少痛めつける程度で勘弁してやるぜ?」

 

 ため息でも吐きそうなテクトにライナーは支配の宝珠をちらつかせながら答える。

 

 その後ろでガイが兵士に命じ、扉を固めると、武器を取り出し構え始めた。

 

 レスターは彼らを非難しようとするが、他の議員とともに捕縛されたらしく、声が聞こえなくなる。

 

 すでに準備は終えているため一気にケリをつけようとするテクトだったが、その前にヒナタが動いた。

 

「こっちは私がやらせてもらうわよ?」

 

「何かいるか?」

 

「結構」

 

 短く言葉を交わし、テクトはライナーの周囲から糸を退かせる。ヒナタは丸腰だが、それでも悠然とライナーへと向かい合った。

 

「クックック、笑わせるぜ。イングラシア王国最強のこの俺が、貴様の化けの皮を剥いでくれるわ! 何が聖人だ。人類の守護者などと煽てられて調子に乗っているようだが、それも今日までよ。この俺が、貴様に現実ってものを教えてやる!」

 

 実力の差を理解することなくライナーが吠える。

 

 その横からガイがテクトを睨みながら進み出た。

 

「魔王テクト、貴様は俺が倒す! 卑怯な罠でこの俺を辱めたこと、後悔するがいい!」

 

「貴様が迷宮でペナルティを受けたのは自業自得だろうが」

 

 騒ぐガイを見て肩を竦めると、そのままシュナの引いてきた椅子に座る。

 

 そのまま腕を水平にあげると手を返し、人差し指を曲げて挑発する。

 

「ほら、来いよ」

 

「あ?」

 

 敵意を向けられているというのに悠然と座るテクトにガイが僅かに呆気にとられる。

 

 その様子にテクトは心底不思議そうにする。

 

「どうした? 来ないのか? それとも、まだハンデがほしいのか? 仕方ないな」

 

 そう言うとテクトは足を組み、椅子に深く座り直した。

 

「さぁ、これで激しい動きはできないぞ。このまま相手をしてやるから、さっさと来いよ」

 

 呆然としていたガイだったが、徐々に顔を赤くしていく。

 

「貴様ァ!! ふざけるのも大概にしろよ!?」

 

「えぇ……これ以上何をしろっていうんだ……これ以上にハンデなんてつけようがないぞ」

 

 無論、ガイのセリフは舐めた態度を取るテクトへと激昂したものである。それを理解した上で、テクトは困ったように告げるのだ。

 

 ガイは血管が切れそうなほどにキレているが、両者の間にシュナが進み出た。

 

「アナタの相手は、私がいたしましょう」

 

「あぁ!?」

 

 突然の乱入者にガイは凄むが、シュナは柳に風と受け流していた。

 

「これ以上、テクト様のお手を煩わせるまでもないと言っているのです」

 

「いいだろう。後悔するがいい、魔王テクト。この女の四肢を切り落とし、見るも無惨な姿になるまで嬲りものにしてやる!」

 

 そう言ってガイが抜き放った剣は、見た目は中々に凝っており、聖剣といえばある程度は通じそうなデザインをしている。

 

 ガイと向かい合うシュナにリムルは不安そうな顔をしたが、テクトが鷹揚に頷くのを見て安心する。

 

 そうして始まった戦いだが、あっという間に決着がついた。

 

 まず、ヒナタとライナーの戦いだが、一瞬だった。

 

 評議会に参加するにあたり、正装で着飾っていたヒナタだったが、動きにくそうな服装と裏腹に流れるような動きでライナーを投げる。

 

 全く反応できなかったライナーはそのまま叩きつけられ、実力の差を思い知ったのだった。

 

 動けなくなったライナーをギャバンとエルリックは叱咤するが、ヒナタが追撃に出ようとしたのを契機に失禁し、蹲って動かなくなった。

 

 そして、シュナはというと、ガイの一撃に取り出した扇子で返す。

 

 その一撃でガイの剣はあっさりと折られた。

 

 それもそのはず。

 

 シュナの扇子は例の黒い金属を骨にテクトの糸で編まれた扇面という等級にして伝説級に匹敵しそうな逸品である。

 

 一方、ガイの剣は特上級であり、ハクロウから柔術も学んでいるシュナが打ち負ける理由はないのだ。

 

「ゴミですね。アナタは楽には殺しませんよ。確か、Aランクがどうとか言っていましたが、そろそろ本気を出して下さいますか? まさか、剣が折れたくらいで諦めたりしませんわよね?」

 

「ク、クソがあッ!! 魔物風情が、俺を見下すような目をしやがってぇーッ!!」

 

 剣を折られ呆然としていたガイはシュナの煽りに再び激昂し、予備の剣を抜いて攻めかかる。

 

 シュナは今度はあっさりと剣を折ることなくガイを翻弄し、足払いで転倒させた。

 

 鎧の重さに咄嗟に起き上がることのできないガイの耳にシュナの詠唱が届いた。

 

「神へ祈りを捧げ給う。我は望み、聖霊の御力を欲する。我が願い、聞き届け給え」

 

 驚愕するガイを積層型魔方陣が囲い込んでいく。

 

 Aランクは伊達ではないのか発動しようとしている魔法に気づき、必死に助けを乞う。

 

「やめ、やめてぇ―ッ!」

 

「万物よ尽きよ! 霊子崩壊!!」

 

 光りの奔流がガイを飲み込み、対象物を消し去っていく。

 

 その結果、パンツ一枚となったガイが残された。

 

「あら、私の腕が()()だから、魔法が不発だったみたいです。練習中の魔法なんて使うものじゃありませんね」

 

 ニッコリと笑うシュナだが、リムルは突っ込みたい気持ちでいっぱいだった。

 

 なにせ、ガイの鎧や衣服はきれいに消し飛ばされている。にも関わらず傷一つなく、その上、頭髪に関しては見る影も無い。まるで産毛まできれいに剃ったようにツルリとした皮膚が照明の光を反射していた。

 

 テクトの関与も多分にあると思われるが、おそらくヒナタでも不可能であろう絶技に戦慄を禁じ得なかった。

 

 完全に決着がついたのを確認し、テクトが立ち上がる。

 

 ガタリとわざとらしく音を立て、エルリックへとゆっくりと身体を向ける。護衛という役目であるため“緑の使徒”が近くにいるが、そっと間を空けて、敵対の意思がないことをアピールしていた。

 

「さて、エルリック王子殿下。まだ続けるつもりかな?」

 

「あ、いや……」

 

「賛同した議員諸君も本国の承認のもと参加していると判断できる。覚悟は、できているのだろうな?」

 

 問いかけられた議員達は青褪め、一様に俯く。何人かは必死で言い訳をしようとしていたが、テクトは目をくれることさえしなかった。

 

 どう詰め寄っていこうかと思案する最中にふと思い至る。

 

 エルリック達の本来の計画では精神干渉により欲望を刺激された議員の賛同を得て、賛成多数で魔王討伐が可決されていた。

 

 内情はどうあれ、評議会で承認されたことを覆すのは困難であり、魔国連邦の立場が悪くなるのは避けられなかったはず。

 

 今回は偶然にも採決の前に精神干渉を解除することができていたために大きく動く必要はなかったが、物理的に立てなくするなど採決を妨害する事もできる。

 

 失敗する可能性を考えれば、計画者が次善の策も講じるのは当然である。

 

 そしてそれは今回も同様だった。

 

《告。殺意を感知しました。対象は、個体名:エルリックです》

 

 智慧之王の警告に合わせ、シラヌイが「万能感知」の範囲を広げる。

 

 殺気を放っていたのは赤毛の女性であり、その手には拳銃が握られていた。

 

 その距離は二キロほど先。

 

 拳銃の有効射程からは明らかに外、そもそも会場の壁に阻まれて終わりである。

 

 更に言えば、女性からはエルリックは視認できないのだ。何かしらのスキルで感知している可能性はあるが、それでも拳銃で狙撃するのは無謀と言わざるを得ない。

 

 しかして、女性は構わず拳銃を構え、発砲する。

 

 直後、凄まじい初速で飛び出した弾丸は、銃口のすぐ前に出現した黒い穴に吸い込まれ、エルリックの頭部横五十センチの位置に出現した黒い穴から飛び出してきた。

 

 これは「空間移動」の一種で「空間連結」というスキルによるものだ。認識範囲のほど近い二点間を狭く繋げるためさほど大きな労力を必要としない。

 

 距離を無視し、ほとんど威力を落とすことなくエルリックを絶命せしめる凶弾は、いつの間にやら移動していたテクトの手によって摘み取られていた。

 

「なるほど。これは初見の人間では防げんな」

 

 そう言ってテクトは足を鳴らす。

 

 影に潜むソウエイへの合図だったが、すでに「分身体」を向かわせたという返答にテクトは頷くと、鳴り始めた警報にホッと息を吐くのだった。

 

 

 

 会議は一時中断され、状況検分が始まる。

 

 テクトの止めた弾丸について異世界人としての知識でヒナタが解説し、魔国連邦を嵌めるためにエルリックが狙われたことが周知される。

 

「わ、私はずっと、命を狙われるのだろうか?」

 

 事情を知らされたエルリックが憔悴した様子で呟く。

 

「ないだろうな。すでに計画は失敗して、俺達に罪を着せることはできなくなった。評議会をかき回したことで王位継承権も剥奪されるだろうし、わざわざ殺しにかかる理由はなくなっている」

 

「ま、王になるだけが人生じゃないって。何らかの形で今回の件の償いをしないと駄目だろうけど、その後はゆっくり自分の人生を見直してみたらいいんじゃないか? 俺達だって、成り行きで魔王になっちゃったけどさ、本当はそんなものになりたいと思っていなかったしね。まあ、なった以上は仕方ないし、精々その地位を利用するつもりだけど」

 

 テクトとリムルの言葉にエルリックは諦めたようにうなだれ、ギャバンにも観念するように告げる。

 

 一方のギャバンは従っただけで、エルリックが計画したことだと白を切る。

 

 追求にも証拠がないと言い張るギャバンの口をどう割らせるかとテクトが思案していると、扉が開け放たれた。

 

「エーギル陛下の御成である! 一同、その場に控えなされぃ!!」

 

 近習と思しき者の声に議員や兵士達が跪く。

 

 つられそうになったリムルを止めつつ、テクトはエーギルを観察する。

 

 ふさふさの金髪にカイゼル髭で美中年といえる容姿をしていた。

 

「余の息子が迷惑をかけたようだな」

 

「まあね。でも、誤解は解けたみたいだよ?」

 

 応対するのはリムル。

 

 柔らかく応じるリムルにエーギルは軽く頭を下げた。

 

「そうか。王ではなく父として、謝罪と感謝を告げたく思う」

 

「許すとも。だが、次はない」

 

「うむ、心得ておる。余としても、良き関係を築きたいと思うておるのだ」

 

「それじゃあ、今後とも宜しく」

 

「こちらこそ」

 

 そう言って握手を交わし、エルリックの件は手打ちとなった。

 

 エルリックに関しては再教育が、ギャバン達に関しては魔法審問官による取り調べが待っているらしく、大人しく応じたエルリックに対し、ギャバンたちはエーギルにすがって抵抗し始める。

 

 現れた黒頭巾によってライナーやガイも押さえつけられ、あっという間に無力化された。

 

 黒頭巾は支配の宝珠のことも探していたが、見つかったそれは霊子崩壊によって半分にされており、一瞬動きを止めたあと回収していった。

 

 

 

 その後、再び休憩を挟んで議会が再開する。

 

 テクトの提出した文書が完全に受理され、満場一致で承認される。

 

 内容は大別して以下の三つ。

 

 一 魔国連邦を、国家として承認する

 

 一 魔国連邦を、評議会に正式参加させる

 

 一 魔国連邦に、評議会の軍権を移譲する

 

 様々な事があって疲れた様子の議員達に対してテクトとリムルが満足げに会場を後にするのを最後に議会は終了となるのだった。

 


 

次回「“荒海”への尋問」




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