会議も終わり、テクト達は暗殺者を確保しに行ったソウエイを待ちながら喫茶店へと移動していた。
「しかし、こうなると俺はいかなくて正解だったかもしれませんね。状況はテクト様から「思念伝達」で見せていただいていましたが、あの場にいたら全員焼き尽くしていたかもしれません」
開口一番のベニマルのセリフにリムルがコーヒーを吹き出しかける。
「おいおい、おま、それは絶対に止めろよ?」
「ははは、冗談ですって!」
慌てた様子のリムルにベニマルは笑って誤魔化す。
そんなことを話しながら一杯目を飲み終える頃にソウエイが入店した。
見たところ傷一つなく完勝といった様子だが、中々の強敵だったらしく、手の内を暴く間に「分身体」を三体も消される事になったという。
それほどの使い手の存在は報告されておらず、おそらくディアブロの報告漏れだと考えられた。
西側諸国でも指折りの実力者であるラーゼンを小物といい切るディアブロの尺度では報告にも当たらない存在なのかもしれないが、ソウエイに強敵と言わしめる相手は間違いなく危険なので、テスタロッサも含め、一度教育したほうがよさそうだということで話がまとまった。
問題の暗殺者だが、意外にもヒナタから情報が出る。
名前はグレンダ。
前任であるラーマを下して三武仙の座を奪ったらしく、ヒナタもグレンダのスキルは初見だったらしい。
グレンダは拳銃の他にも手榴弾のような武器も使っており、これはこの世界では確認されていないため、グレンダも異世界人である可能性が濃厚であると考えられた。
同じ作戦に参加していた他の三武仙のことも聞きたいということでヒナタも尋問への参加を希望し、ともに魔国連邦まで移動する事になったのだった。
「げえぇ、筆頭──ッ!?」
「久しぶりね、グレンダ。お元気そうで何よりだわ」
目を覚ましたグレンダの第一声は悲鳴じみていた。
対するヒナタの視線は冷たく、容赦というものが感じられない。
僅かな間動揺していたグレンダだったが、冷静さを取り戻すとふてぶてしい態度になる。
「ハンッ! どうやらアタイもここまでのようだね。殺すなら、殺しな。捕まったスパイの末路なんて、古今東西そんな違いはないだろうさ」
「殺すなんてとんでもない! 君には色々と
明るい声で告げるのはテクト。さっさと心を折るためにわざと明るくえげつないことを言っているのだが、リムルとヒナタは完全に引いていた。
まず質問を始めたのはヒナタ。
西方聖教会の動きが評議会に気取られている様子だったことにスパイの存在を疑っていたらしく、最も疑わしいグレンダの粛清の機会を伺っていたらしい。
いつからなのか、黒幕は誰なのかを聞くが、グレンダはノーコメントを繰り返すばかりだった。
「最後に一つ。貴方は、ルミナス様を信じていたのかしら?」
「チッ、神なんざいないさね。そんなもんを信じるくらいなら、金を」
次の瞬間、ヒナタの細剣がグレンダの首を撥ねる。
テクトが肩を竦めながら首と血を床に落ちる前に回収するのを尻目に、テクトの膝から飛び上がったリムルがヒナタへと詰め寄る。
「おい、ヒナタ! 何してんだよ!」
「まぁまぁ、リムル落ち着いて。シュナ」
「はい! 死者蘇生!」
テクトの言葉に即応し、シュナが神の奇跡:死者蘇生を行使する。
問題なく進む蘇生にヒナタが感心しているうちにグレンダも生き返り、テクトによって尋問は再開された。
「さて、ヒナタの聞きたいことは終わったみたいだし、ここからは俺が聞こうか。まぁ返答は必要ないがね」
反応だけで十分と言い切るテクトをグレンダは無言で睨みつける。
始まったのは尋問というより確認作業だった。
まず、ユニークスキルは多くの場合、魂に根付く。
異世界人であるグレンダも例に漏れず、魂にユニークスキルが根付いている。
その結果として、議員達とは違い欲望の影響から不完全ながら逃れることができていた。
だが、重要なのはグレンダが欲望に染まっていることではなく欲望を植え付ける事ができるユニークスキル持ちがいるということだ。
開国祭のときにはガイや商人達の一部も影響下にあり、それほど大規模に影響を与えるには術者本人も付近に存在する可能性があると考えられた。
「マリアベル・ロッゾ。この名を知らないということはないだろう?」
テクトの断定にグレンダが僅かに反応する。
「俺は隠し事には敏感でな。何か隠そうとしていれば気づいてしまう。特に怪しい動きをしていたのが、マリアベルというわけだ」
「ロッゾ、ね。日曜師グランの正体―グランベル・ロッゾ。彼は元勇者にしてロッゾ一族の創始者。グレンダも当然、そのことは知っているはずよ」
「やはり、生きているということか」
「まず間違いないでしょうね。ニコラウスにやられたように見せたのも油断を誘うためかも。少なくとも何か企んでいることは確かでしょうね」
グランベルの生存は不可侵条約の締結の際にも考えられていたためリムル達も驚きはなく、情報のすり合わせが進んでいく。
「チクショウがッ!! アタイは何も喋ってないのに、なんでそこまでわかるんだい!? フザケンナよ、これじゃあ、アタイが全部ゲロっちまったみたいじゃないかーッ!!」
情報を読まれるまでもなく結論が出たことにグレンダが絶叫する。尋問の最中にさしたるミスもないのに真実が詳らかにされていったのだ。文句の一つも出てこようというものである。
「このままじゃ、このままじゃ殺されてしまう……」
顔を青褪めさせ慄えるグレンダにテクトは改めて彼女を観察する。
グレンダの魂に術式が纏わりついており、いざとなれば呪殺出来るようになっていた。
先程一度死んだが、すぐに蘇生したためか死亡と判定されなかったようだ。
「なるほど、口封じは簡単に出来るというわけか」
「魂が砕かれた人間は、死者蘇生でもどうにもならないし、方法としては確実ね」
「俺の魂の牢獄でも無理だな」
解析した情報を共有するうちにグレンダの顔色はさらに悪くなっていく。
裏切ったかどうかの判定は感情を読み取っているマリアベルの判断一つらしく、裏切ったつもりはなくても殺される恐れがあるらしい。
そんなことを話している間にリムルによって術式が破壊され、それを告げられたグレンダは呆気にとられた。
「言っておくが、俺達に敵対するなら容赦しない。そうでないなら好きに生きればいいさ」
「事情もあったみたいだし、私も今回は目を瞑ってあげるわ。リムルが見逃すという相手を始末したら、私が恨まれてしまうもの。ただし、肝に銘じなさい。貴方はルミナス様を裏切った。西方聖教会は貴方を決して許さない、と」
リムルの判断にテクトは肩を竦め、ヒナタはため息を吐く。
しかし、決定を覆すつもりはなく、それは配下も同様だった。
これで決着という雰囲気のなか、グレンダは突然跪いた。
「お、お願いがあるんだ! アタイの知る限りの情報を話すから、どうかアタイを雇っちゃくれませんか? 汚れ仕事でもなんでもするので、何卒お願いさね!!」
それを聞き、テクト達は一瞬相談する。
ひとまず事情を聞くと、どこか別の国に行ったとしても三武仙として顔が割れているため裏切り者として扱われるか、顔を隠して生きるかになる。しかし、ヘタを打てばルベリオスやグランベルからの追手がかかることは間違いない。
それを避けられるのであれば多少扱いがひどくても構わないということだった。
テクトは給金の支払い制度も整っていないため無給であることを理由に断ろうとしたが、ルベリオスも給金の支払いがなく、そこは問題ないらしい。
ルベリオスではすべてが現物支給で金銭は各自が現地調達。
三武仙ともなれば国賓待遇を受けることは出来るようだが、ヒナタでさえ無給が基本らしい。一応は立場上動かせる予算はあるそうだが、個人の収入はないそうだ。
長い歴史を持つルベリオスでも無給で成り立っているということで制度を整えることの重要性を下げつつ、ソウエイに身柄を任せて尋問は終わるのだった。
夕食を挟み、グレンダからの情報の聞き取りを再開する。
夕食として用意されたポイントを貯める必要のあるスペシャルメニューにグレンダが金の亡者からポイントの亡者へとジョブチェンジする一幕はあったが、様々な情報が聞き出された。
まず、評議会について。
評議会は五大老という五名の重鎮によって掌握されており、その長がグランベルらしい。
残りの四名には会議に参加していたギャバンとヨハンも名を連ねており、魔国連邦への考えが支配と融和で割れていたのはマリアベルの方針らしい。
あえて組織を対立させて主流派となった側を生き残らせることで組織の活性化を図っているようだ。
今回はギャバンが成功すればよし。失敗すれば融和を主張していたヨハンが内側から策を巡らせるということだろう。
後の二名はイングラシアの北方守護を任されているシードル辺境伯と西方の軍事国家であるドラン将王国の国王だという。
評議会を取り仕切る一族が判明し、敵を明確にできたことでテクトが満足気にしていると、グレンダが口を挟む。
「得意げなトコロ悪いけど、テクト様は気をつけるべきだと思うさね」
「急に何だ?」
「マリアベルはアンタを排除しようとしているみたいなんだよ」
「どういうことだ?」
目を怒らせたリムルがグレンダへと詰め寄る。
ベニマル達も雰囲気を一変させたことに冷や汗をにじませながらも答える。
「立ち聞きしただけだから詳しいことはわからないんだよ! でも、確かにマリアベルは魔王テクトは排除するしかないって言ってたさね。何でも、欲望が欠片もない徹底した合理主義の魔王は排除するしかないとかなんとか」
「はあ?」
グレンダの話を聞き、今度は呆れた顔になる。
テクトの表情は読み取りやすい訳では無いが、基本的に欲まみれである。シュナを筆頭に女性関係はめちゃくちゃで割と食い意地は張っている方である。
自発的に休もうとすることはあまりないが、開発や製作など色々と求めることの多いテクトを知っているためマリアベルの評に疑問があった。
疑問は残るが、武力行使に出てくる可能性が高い以上、グレンダから出来る限り戦力情報を聞いていく。
マリアベルの手下や、ロッゾ一族の汚れ仕事を請け負う
「後は……そうさね。自由組合総帥かね。マリアベルに完全に支配されているようだし、冒険者が敵に回るかも」
それを聞いてテクトの表情が曇る。
リムルは任せると言ったが、それはユウキが自己判断で魔国連邦に敵対しているという前提の上で成り立っている。その前提を覆す情報にテクトはリムルの様子を伺う。
当のリムルは思考にふけっていたが、テクトの視線に気づき顔を向けた。
「何変な顔してんだよ。任せるって言っただろ? お前なら本当に支配されているか、判断して対処出来るんだから心配なんてしてないって」
「ん……」
リムルの言葉にテクトが黙り込む。
何やら妙な空気にヒナタは咳払いをすると口を挟む。
「操られているかは置いておいて、ユウキがマリアベルの命令に逆らわないのなら、彼の立場を考慮せずに何か企む可能性があるんじゃないかしら?」
「……まぁ、そうなるとちょっと面倒かもな。ロッソ一族は素知らぬ顔で責任を自由組合に被せられる。何も知らなければ魔国連邦と自由組合の関係はズタズタになっていただろう」
近々自由組合の調査班とともにジスターヴに赴く予定になっている。
プロであるカガリ達の邪魔にならぬよう遺跡には少数で向かうことは連絡しており、そこに合わせて仕掛けられれば危機に陥る可能性も否定できない。
失敗しても尻尾さえ掴ませなければ、魔王領にある未知の遺跡への調査中の事故として扱えるのだから仕掛ける可能性も十分に考えられた。
また、町の警備も厳重になっており、扇動を起こしづらくなっているのも仕掛けを疑う要因になっていた。
「となると、遺跡調査は危険ですね。この際中止にしては?」
「いや、決行する。万全の体勢で迎え撃ち、ここで禍根を断つ」
ベニマルの進言にテクトは首を横に振り、眼の前で手を握り込む。
参加するのはテクト、リムル、ミリムに加え、護衛としてシオン、ゴブタ、ランガ。
ベニマル達には警戒を任せ、当日に向けて準備を進めていくのだった。
次回「混沌竜」
おまけ「二つ名について」
方針も決まり、ヒナタもルミナスへと報告のため帰っていった。
グレンダの紹介や準備を始めるには遅い時間であるためゆったりと過ごしていると、ふとテクトが呟いた。
「いっそのこと「
「え? 何が?」
反応を示したのはリムル。
あまりに唐突に聞き馴染みのある言葉が出たため困惑しつつも聞き返すと、テクトは声に出していたことに気づき、口に手を当ててから改めて話し始める。
「いやさ、今は魔王になったばかりで暫定的に
「話はわかったけど、そんなにちょうどいいか?」
テクトの言葉にリムルは懐疑的な表情になる。
そんなリムルに論拠を示すように指を立てながら話していく。
「ほら、例えば今日はエルリック王子に当たる寸前だった銃弾止めたし、カルシウム不足のダイヤモンドぐらいなら素手で砕けるし、精密で高速な動きは出来るし、指伸びるし」
「指伸びるし!?」
予想だにしなかった言葉にリムルが目を見開く。
他の論拠を話そうとしていたテクトは面食らうと、気を取り直して指を誰もいない方向へ向ける。
「伸びるよ。ほら」
「うわぁ……」
宣言通り指が伸び、少し離れた位置にあった机を軽く揺らす。
いきなり指が伸びるという光景にリムルが引いているとテクトは悲しそうな顔で指を戻した。
珍しく真面目に傷ついたらしく沈んだ様子のテクトにリムルが慌てて慰める。
ちなみに指を伸ばしたのは姿を変えるときの応用である。
出会った当初は気味悪がられたりしたものの、それはほとんど初対面の時期であり、割り切っている。当時のような関係性の薄い相手であればまだしも、転生以降ほぼ一緒に過ごしてきた今となっては気の置けない相棒であるリムルに引かれるというのは中々にダメージがあった。
テクトの機嫌を直すためリムルは身を差し出し、しばらくのあいだ流線型のスライムボディは様々な形に変えられ弄ばれるのだった。
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現在「まおりゅう」で開催中の「ダンまち」コラボのヘスティア様の衣装を着たシュナがきちんとツモれて一安心…
奥義発動時にも言及されていますが、例の紐って結局何なのでしょうね…?
「このスバ」コラボのときはアクアの衣装だったし、神様の衣装を着ることになっているのかな?
まあ、可愛いからヨシ!