転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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92話:混沌竜

 遺跡調査当日。

 

 元々予定されていた探検服に加えて拳銃の試作も行われ、テクトが形状をリベレーターに似せようとする一幕はあったが*1、最終的にM1911A1に落ち着き、ここでもテクトが妙なこだわりをみせる事になった*2

 

 リムルもこれに乗り、試作品一号は好感触を示したゴブタに渡された。

 

 着替えを終えると待ち合わせ場所であるイングラシアの自由組合本部へと向かう。

 

 そこではすでにカガリが待機していた。

 

「お久しぶりです。今日から暫く、お世話になりますね!」

 

「初めまして、テクトだ。宜しく頼む」

 

「初めましてだな、ミリムだぞ。宜しくなのだ!」

 

「初めまして、カガリと申します。こちらこそ宜しくお願いしますわ」

 

 挨拶を交わし、カガリの案内で移動する。

 

 ミリムは何やら違和感を感じたようだが明確な言葉にできず、警戒をするに留めることになる。

 

 案内された先では今回同行する調査団が揃っており、人数は十名だった。

 

 今回の調査の際にどこぞの勢力から襲われる可能性にも恐れず志願した者達であり、テクト達のような雰囲気装備ではなくちゃんとした重装備だった。

 

 自身の能力に任せてリュックどころかライトももたないテクト達にカガリは探索を舐めていると怒り心頭だったが、軽くなだめて移動に移る。

 

 馬車で移動しようとする調査団の前で転移門を開き、二ヶ月以上かかるはずの移動時間をほとんどゼロにする。長旅のための準備が無駄になったと嘆く姿に、事前の連絡をしておくべきだったかと反省することになったのだった。

 

 

 

 ジスターヴでは黒妖耳長族(ダークエルフ)によって受け入れ準備が整っており、あまりの展開の速さに唖然としていた者達もしばらくして状況を受け止めた。

 

 荷物を置き城の内部を案内してもらい、地下の遺跡についても説明を受ける。

 

 構造は三層になっており、最下層は墳墓とされている。

 

 黒妖耳長族が立ち入れるのは上層部のみであり、中層以上はクレイマンしか内部を知らないという。

 

 上層部の構造は把握されており、宝物も回収済み。今は黒妖耳長族の住居となっている。

 

 内部は古の魔法により明るく保たれており、太陽の動きと連動して夜には暗くなるらしい。扉はクレイマンにしか開けられなかったため地下から魔物が上がってくることはなく平穏に過ごしている。

 

 二層に進むための扉は古代魔法による防衛機構で閉ざされており、正しい手順で解けば問題なく開くと推測できるため調査団の面々が熱意を向ける。

 

 その横でリムルがあっさりと開封に成功し、その方法をレクチャーすることになった。

 

 リムルの解説に従い何人かが成功し始めたあたりで終了となり、それぞれにあてがわれた部屋で休むのだった。

 

 

 

 翌日。

 

 カガリが代表して扉を開き、探索が始まった。

 

 通路は縦横二メートルほどで手狭であり、罠への警戒も兼ねて隊列を決めていく。

 

 最前列をリムル、シオン、ゴブタ。

 

 中列にカガリ達調査団。

 

 最後尾にテクトとミリムという並びで進んでいくと、時折壁画を交えつつ通路が続いていく。

 

 休憩の際にも権能を活用して弁当やスープを取り出し、外のトイレまで繋げる。

 

 休憩の間に「精霊交信」や幻覚魔法による地図作成の簡略化が行われ、最下層への扉前まで進むことができた。

 

 

 

 探索二日目。

 

 最下層への扉前から探索を再開し、調査団による扉の解析が始まった。今回は手を出さず見守る事になり、暇を持て余したミリムを筆頭に中層部の探索が始まった。

 

 当然のようにテクトも探索に同行する事になり、護衛としてゴブタとランガを添えて調査団のメンバーとともに進んでいく。

 

 罠の解除をしながら進んでいくテクト達だったが、通路の一つに入った瞬間に警報が鳴り始めた。

 

「周囲警戒! 壁に気をつけろ!」

 

「うむ!」

 

「ハイっす!」

 

「承知!」

 

 テクトの指示に従い、前後へと視線を向ける。

 

 通路の奥から武装した魔人形(ゴーレム)が現れ、テクト達へと向かってきた。

 

「魔人形だけかな?」

 

「そのようだな。だが、罠は見つからなかったぞ」

 

「のんびり話している場合じゃないですよ! 逃げないと!」

 

 罠の内容を検分する魔王二柱に調査団のメンバーが慌てて撤退を進言する。

 

 それに対する回答はあっさりとしたものだった。

 

「大丈夫です。もう解決しましたから」

 

「へ?」

 

 テクトが指を弾く音とともに魔人形がバラバラに解体された。ミリムでは周囲に影響がでる可能性があるため遠慮なく糸を振るっていたのだ。

 

 脅威があっという間にガラクタへと変わったことに呆然とする調査団をよそに、テクトとミリムは残骸から武器を取り出していく。

 

「魔鋼が馴染んで進化してるね。お、特質級まである」

 

「これだけあれば、収穫としては十分だな。しかし、なぜ罠が作動したのだ?」

 

 魔人形が打ち止めとなったことで警報も止み、残骸をより分ける音だけが響く。

 

 ミリム達の戦利品の仕分けの間にテクトが探索したところ、事前に登録した生体反応意外に反応するように仕掛けられていたらしく、初見では正面突破しか方法がなかったようだった。

 

「回避は無理そうだね。強力な隠形なら作動させずに済むかもしれないけど、それを出来るような存在は限られる」

 

「なるほどな。では、これは仕方のない結果だったのだ。我等の迷宮にも、このような仕掛けを設置しようではないか」

 

 検分を終え、扉の前で解析を見守っていたリムルの元まで戻る。他の場所にもある可能性を考慮し、生体認証の罠について共有していると、大地が揺れる。

 

 天井から石片が落ちるのと同時に一帯を巨大なエネルギー反応が覆い、圧迫感と緊張感が一気に高まった。

 

 自分たちが地下にいるため動揺する隊員をカガリが一喝する。

 

「静かに!! 揺れは一瞬、これは地震ではないわ。これだけ頑丈な建造物なら、そう簡単に崩れたりしません。落ち着いて避難行動を取りなさい」

 

 揺れの原因は地上で衝撃波が吹き荒れたことだった。

 

 局所的であるため人為的であることは明らかである。

 

 地上部の様子も気になるため一度外まで移動を考えていると、何者かが敵意を持って遺跡へと踏み込んだ。

 

『アムリタへの侵入者を確認。排除せよ!! アムリタへの侵入者を確認。排除せよ!!』

 

 警告音とともに魔人形が起動し、動き出す。

 

 明らかな異常事態にカガリも余裕をなくしていた。

 

「そんな馬鹿な!? この遺跡の―アムリタの防衛機構が勝手に動いたというの!?」

 

「俺達とは別口での侵入者が引っかかったみたいだな。まぁ、俺達は無関係と主張しても区別はしてくれないだろうが」

 

 テクトはそう答えつつミリムへと視線を向ける。

 

 ミリムであれば「思念伝達」や魔法通話も認識出来るため、扉の近くにいたカガリが侵入者にタイミングをあわせて機構を作動させた可能性を探るが、ミリムは首を横に振る。

 

 しかし、魂の回廊経由であればミリムにも感じ取れないため疑いを晴らすわけにはいかず、敵を抱えての戦いの可能性にテクトは小さく舌打ちをした。

 

「まぁいい。予測の範囲内だ。パターン二―調査隊員を全員守りつつ迎撃するぞ!」

 

 テクトの号令にリムル達が応諾する。

 

 シオンの武器はここでは振るいづらいため、広間があることを祈りつつ扉を一気に解析して開け放つ。

 

 最下層にもゴーレムが出現している可能性を加味して先頭をゴブタとランガ、ミリム。調査団を挟んで殿にテクトとリムル、シオンの並びで駆け下りていく。

 

 その最中、二度目の振動が来る。

 

 ちょうど魔力感知の範囲が遺跡の外部まで伸ばしきり、テクトとリムルは振動の元凶を認識した。

 

 外観はヴェルドラよりも一回り大きい竜の姿。ただし、皮膚は腐食したように爛れ、膨大な妖気が垂れ流しになっていた。

 

 少なく見積もっても覚醒魔王以上の魔素量。危険度に直せば天災級は確実である。

 

「あれは──ッ!!」

 

 声を上げたのはミリム。

 

 目を見開き、虚空を―その先にいる竜を睨みつけていた。

 

「ワタシには急用が出来たのだ。あれは、あの竜は」

 

 そこまで言ってミリムは転移で消えていく。

 

 その反応から状況を察したテクトは今度は隠すことなく舌打ちする。

 

「チッ、混沌竜(カオスドラゴン)か!! やってくれたな! リムル、俺も行く。こっちは頼むぞ!」

 

「任せろ!」

 

 リムルが言葉少なに応じるのを確認してテクトもミリムを追って転移する。

 

 その先ではミリムが混沌竜の攻撃を受け止めていた。

 

「ミリム、こいつがお前の友達で間違いないな?」

 

「ウム……このままでは甚大な被害が出る。故に再度封印しよと思っていたのだが、どうにもならぬのだ……」

 

 テクトの確認にミリムが泣きそうな顔で応じる。

 

 一瞬内側で妖気をたぎらせ、しかしてそれを細大漏らさず抑え込むと、安心させるように笑顔でミリムの頭を撫でる。

 

「大丈夫だ。俺に任せろ!」

 

「頼もしいな。それで、どうするのだ?」

 

「やることは暴風大妖渦の時と一緒だ。核が露出するまで吹き飛ばして隔離する」

 

「しかし、あの時も失敗したのだぞ? また失敗したら……」

 

 テクトの断言に一度は元気を取り戻したミリムだったが、フォビオが死にかけたときのことが頭をよぎり、青ざめる。

 

 顔を伏せるミリムの頬を挟み、目を合わせると笑顔のまま続ける。

 

「調整も確保も任せろ。お前は全力でぶっ放せ!」

 

「わかったのだ。信じるぞ、テクト!」

 

「もちろんだ。さぁ、始めるぞ!」

 

 まずは核の位置を探るため、全力で解析を始める。

 

 外部からの影響で汚染されきって壊れた星幽体や精神体の奥で、すでに何の保護もないはずの心核の輝きを見つけ、テクトは瞠目する。

 

 封印するための手順として核を隔離するつもりだったテクトは望外の僥倖に口元が緩んだ。

 

 もとより失敗するなどと考えていないテクトだったが、万全を期すため拘束を試みる。

 

 しかし、混沌竜の周囲に展開した糸は制御を失って垂れ下がり、神域眼は何の効果も示さなかった。

 

「ミリム、ちょっと聞きたいんだけど、混沌竜って何か特殊能力ってあったりする?」

 

「そういえば、「能力封殺(アンチスキル)」という魔素を絡めた干渉を無効化する能力があったような……」

 

「なるほど、拘束は無理ってことね」

 

 状況の好転をテクトへと委ねたためかミリムも余裕を取り戻し、無用な被害を防ぐべく撒き散らされる暴威を相殺しながら答える。

 

 眼の前の事象に納得すると、ミリムを背中から抱きすくめた。

 

「ミリム、準備はいいか?」

 

「無論だ。では、行くぞ。友よ、星々の瞬きを、その目に焼き付けよ―竜星拡散爆(ドラゴバスター)―ッ!!」

 

 ミリムの放つ閃光が混沌竜の禍々しい力の障壁に衝突し、拮抗する。

 

 今のテクトではなし得ない出力の閃光を受けても平然としている混沌竜に辟易しながら、ミリムの力の流れを操作して障害を取り除き、慎重に混沌竜の心核へと近づいていく。

 

 集中に従いテクトから力が抜け、ミリムに体を預ける。

 

 たどり着いた先では、混沌竜の心核にまとわりつく邪気と精神汚染、そしてさらに別の覚えのある黒い霧が心核へと触れるのを邪魔する。

 

 それらを極限の集中で色を失った世界で丁寧に剥がしていく。竜星拡散爆に紛れさせて能力封殺を突破し、神域眼と「虚飾之王」を駆使して魂に働きかける力を相殺していく。

 

 無防備な心核の直ぐ側で魂に干渉する力を奮うのは一歩間違えばそのまま心核を砕きかねない行為だが、過度に緊張することなくスムーズに作業が進行する。

 

 加速した世界で数年―実時間にして数秒で作業は終了し、心核の周囲を完全に掌握する。

 

 そのまま「夢幻牢獄」によって隔離し、混沌竜はその機能を停止した。

 

 核を失ったことで、混沌竜の身体が崩壊を始める。しかし、そのまま朽ちるに任せてはどんな影響が起きるか解らないため念の為「狡知之神」で回収し、テクトは大きく息を吐いた。

 

「終わった……のか?」

 

「まだまだ。次はお前の友達を何とかする」

 

「出来るのか!?」

 

「ちょうどいい物があるからな」

 

 ミリムから離れ、相対したテクトが取り出したのは疑似魂。

 

 理解の追いつかないミリムをよそに、テクトは魂の器へと心核を移し、それを手で包み込むように持つ。

 

 欠片を組み合わされ定着していない訳では無いが、反応を示さない疑似魂に内心焦りつつも、表面上穏やかに問う。

 

「ミリム、こいつに名前はつけていたか?」

 

「名前、か……」

 

 テクトの手の上の疑似魂を見つめ、ミリムが考える。

 

 名前の持つ力に期待していたテクトはミリムの沈黙に焦り始めるが、幸いすぐに答えは出た。

 

「ガイアだ。いつか、そう呼んでやろうと思っていた。この者の“名”は、ガイアなのだ!!」

 

 ミリムの声を受け、疑似魂に淡い光りが灯る。

 

 心核が胎動を始め、十分に復活可能な状態へと推移したことにテクトはこっそりと安堵しつつ、今度は魔精核で疑似魂を包む。魔魂核が完成するとともに状態も安定し、テクトは一旦力を抜いた。

 

「成功だ。ミリム、これが新しいガイアになる。魔魂核だけど、これを本体として生まれてくるはずだ」

 

 テクトが差し出した魔魂核をミリムは慎重に受け取ると、大切に胸に抱く。

 

「そうか。ありがとうなのだ、テクト」

 

 ミリムは淡く輝く魔魂核を眺め、相好を崩すと、自然な動きで近づき、テクトの頬へとキスをする。

 

「ミリム?」

 

「礼とはこうするといいのだろう? リムルが前にそう言っていたのだ」

 

 したり顔のミリムにテクトはキスを受けた頬に手を添えて微笑む。しばらくそうして表情が緩んでいたことに気づくと切り替えるように首を振る。

 

「まったく……まだやるべきことがあるから、俺は戻るよ。ミリムはそのままガイアといっしょにリムルと合流してくれ」

 

「うむ! ちゃんと戻るのだぞ、テクト!」

 

「わかってるよ」

 

 笑顔のミリムに軽く答えると背を向けて自由落下していく。

 

 地上に音もなく降り立つとわずかに時間をおいて転移していった。

 

 それを見送ってミリムも地上へと出てきたリムルに合流するために飛んでいくのだった。

 

 

 

 マリアベルは逃走に入っていた。

 

 それは勝利を諦めたわけではなく、最後の手段が残されていたからだ。

 

 事前に準備していた聖浄化結界は魔国連邦の魔物によって阻止され、連れてきていたガイは「強欲者」で強化していたにもかかわらず魔王リムルに瞬殺された。グレンダの失踪を理由に煽って連れてきたラーマは狼人にあしらわれ、更には「強欲者」の奥義であった生への渇望を反転させ自ら死へと向かわせる技も無効化された。

 

 唯一有効な手段であったのはユウキであり、護衛の悪鬼を倒し、今はマリアベルの支援を受けて魔王リムルの足止めを果たしている。

 

 とっておきの奥の手である混沌竜へと魔王テクトが向かったことは少々予定外だったが、魔王ミリムでさえ封印しか手のなかった化物を「強欲者」で強化しているのだから勝てるべくもないとして考えから排除する。

 

 マリアベルの向かう先は墳墓の奥。エルフの古い都の心臓部にある旧世界の魔法技術の結晶―魔導制御動力炉である。

 

 ユウキの報告から古代遺跡ソーマにも同様の機構があり、その仕組は聞いている。

 

 アムリタとソーマを創った種族は同じであるため、同種の機構があることは確実とされている。

 

 仕組みを知った以上マリアベルには簡単に操作出来るため、魔導制御動力炉を暴走させ、大規模な魔力破壊を生じさせることで周辺もろともに吹き飛ばすつもりなのだ。

 

 そうした思惑を持ってたどり着いた墳墓の最奥はもぬけの殻だった。

 

 正確には空の棺や宝飾品は転がっていたが、魔法武具の類が存在しない。もちろん、魔導制御動力炉など見る影もなかった。

 

「おかしい、おかしいの。ど、どういうこと?」

 

 思わずマリアベルは疑問を口にする。

 

 追手もなく単独での行動―故に答える者などいないはずだったが、哄笑とともに答える者がいた。

 

「あはははは! この遺跡には、魔導制御動力炉なんてものはないぜ?」

 

「ちなみに、ソーマにもありませんわよ」

 

 マリアベルが振り向いた先にいたのはユウキ。そのとなりにカガリも付き添っていた。

 

「貴方、魔王リムルの相手は?」

 

「終わったよ。本気でぶつかってみたが、あれは無理だね。リムルさんには手加減する余裕があったのに、僕の方は全然駄目。勝てそうだったらそのまま倒そうと思ってたんだけどねえ」

 

「見ているこっちは冷や冷やものでしたわ。それ以前に、本気で裏切られたのかと焦りましたわよ」

 

 会話は耳に入らないが、楽しそうに会話を続ける二人を前にマリアベルは自身が騙されていたのだとようやく悟る。

 

 その結果生じるのはある疑問。何時、どうやって「強欲者」の支配から逃れたのかということ。

 

「どうやって“強欲”を?」

 

「気になるのかい?」

 

「いいから答えるのよ!!」

 

「フフッ、いいさ。じゃあ、教えてあげよう」

 

 再び漏れた心情にユウキは憐れむような目でマリアベルを一瞥すると、実演してみせる。

 

 次の瞬間、マリアベルの視界の中で、晴れ渡るようだったユウキの感情が黒い霧によって覆われていく。

 

 それはまさしく“強欲”の象形。それを見てマリアベルの顔色が悪くなっていく。

 

 つまるところ、ユウキは最初から操られてなどいなかったのである。

 

 ユウキの野望はこの世界の王となること。

 

 その“強欲”の前ではマリアベルの人間世界の掌握は小さな“強欲”であり、欲の強さが力の強さの基準となる「強欲者」ではユウキの支配は出来なかったのだ。

 

「舐めるな! 私はマリアベル。“強欲”のマリアベル。貴方如き、私の敵ではないのよッ!!」

 

 マリアベルは叫ぶと同時に魂の力を振り絞り、ユウキへと放つ。

 

 強欲の波動(グリードフレア)―強靭な意志の力を物理的な破壊力に還元して放たれた攻撃はユウキの眼の前で霧散していく。

 

「無駄だって。君では僕に勝てない」

 

 ユウキは嘲笑すると、マリアベルへと詰め寄り、手刀で心臓を破壊する。

 

 もはや死に体となったマリアベルだったが、瞠目するとユウキに腕を握る。

 

「まさか、わ……私の力、を……」

 

「正解」

 

「ば……そ、そんな事が、で、出来……るもの……」

 

 マリアベルはユウキを睨むが、その力は抜けていく。

 

「もしも君が、後十年早くこっちの世界で生まれていたら、あるいは世界を支配していたかもね。君は運がなかった。その幼い身体では、能力を十全に操れもしなかっただろう?」

 

 マリアベルは答えない。

 

 否、答えられない。せめてもの抵抗のように睨みつけるが、それも長くは続かず、マリアベルの目から光りが消え失せた。

 

「おやすみ、マリアベル。君の欲望は、僕がちゃんと引き受けるから」

 

 その言葉が真実であるかのようにマリアベルからユウキへと「強欲者」が移る。

 

 マリアベルは懐疑的であったが、ユウキには確信めいたものがあった。

 

 「強欲者」の根源は“欲望”の大きさ―これはユウキを支配したと考えていた頃にマリアベルが語っていたことであり、その場にいた者では自身を害することなど出来はしないと信じ切っていた時の言葉である。

 

 その場における絶対強者であるはずのマリアベルが嘘を吐く必要はなく、それを前提とするのであれば、マリアベルでは支配できないほどの“欲望”を抱えるユウキのほうが「強欲者」の所有者にふさわしいとユウキは考えていた。

 

 結果として今回は「強欲者」が移動する形で決着し、ユウキが新たな所有者となっていた。

 

 ユニークスキルでも最強格の大罪系のスキルを手に入れ、野望へと近づいたと確信したユウキの耳へと拍手が送られ始める。

 

「なんだ?」

 

 ユウキとカガリは訝しみ、周囲を見回す。

 

 何者の姿もないはずだったが、奥の棺にいつの間にか腰掛ける者がいた。

 

「おめでとう、神楽坂優樹。君の企みはうまくいき、強力無比なユニークスキルも手に入れた。リムルが疑う理由も全て今は亡きマリアベルに押し付けて後は雌伏の時を過ごして力を蓄えるだけだな」

 

「テクトさん」

 

 禍々しい雰囲気を垂れ流しにするテクトを前に気づけなかったことで否応なくユウキの警戒は最大まで高まる。

 

 今後の方針も言い当てられ、何をしに来たのかは問うまでもなかった。

 

「なるほど、最後の最後でとんだ大仕事だ」

 

 苦笑するユウキに喉を鳴らし、テクトは立ち上がる。

 

 因縁の決着が近づいていた。

 


 

 次回「一つの決着」

*1

「どうしてリベレーターに似せる必要があるんだ?」

「かっこいいからに決まってるだろ?」

*2
「鏡のように磨き上げたフィーディングランプ。前部にコッキングセレーションを追加したスライド。フロントを大きく造ったスリードットサイト。リングハンマーに、指をかけやすく延長したサムセーフティ。更に」

「長い長い長い」




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