「さてと」
テクトは立ち上がると、左の指を鳴らす。同時に結界が展開され、最下層全体が覆われていった。
「アダルマンに仕込んでいたのと同じ、核となる者を設定した方位結界だ。核―すなわち俺を殺さない限り、この場からの脱出はできない。こいつの厄介さはよく解っているだろう、“カザリーム”?」
「っ!?」
テクトの視線はカガリを捉えていた。
正体を看破され動揺するカガリだったが、テクトからすれば当てずっぽうに近かった。
クレイマンが末期の瞬間にカザリームを頼った以上、その生存は確実。また、魔王達の宴で示唆したように何者かを頼り復活したのであれば、その先は中庸道化連の雇い主であるユウキぐらいだろう。
会長が魔王であったということなら納得もいきやすいので、状況証拠的にはありえなくもないという程度である。
それでもカザリームの名を出した理由は単純に挑発である。はずれていれば気まずいところだが、上手くいったので良しとしてテクトは内心で開き直っていた。
「それにしても、随分周到だね。あなたに命を狙われる理由に心当たりはないんだけど?」
「はっ、よく言うぜ。クレイマンは中庸道化連の一員だと名乗ったぞ。その雇い主であるお前の野望の道程で、俺達の配下に死人が出たんだ。落とし前はつけないとな?」
おどけるユウキをテクトは鼻で笑う。が、すぐに真面目な表情で言葉を紡ぐ。
「まぁ、半分ぐらいは建前だけどな」
「半分?」
「世界を支配しようとするお前の野望は俺達とは相容れない。最後には俺達と敵対することになるだろう。そうなると最終的にリムルが決断を下すことになる。だが、今でもお前を許そうとするようなヤツだ。そうすべきだと解っていても必ず苦しむ。だから、今ここで俺がお前達の野望を断つ。「俺個人の過度な復讐」であいつが納得できるこの最後の機会にだ」
「そんなわがままのために僕達を殺すって?」
「あぁ、だから、生きたきゃ死ぬ気で抗えよ? ここが分水嶺だ!」
会話は終わりとばかりにテクトは妖気を垂れ流し始める。
物理的な圧迫感さえ感じる濃密な妖気にカガリが息をつまらせる。
心が弱い者であれば妖気に触れるだけで発狂死してしまうような環境で、ユウキは不敵に笑った。
「なるほどね。このまま筋書き通りに進めるならテクトさんを支配するしかないってことか。中々きつい縛りだけど、乗り越えて見せようじゃないか」
この状況、ユウキの視点では一見するとかなり厳しいようにみえる。
テクトにとって、この戦いにおける自分の生死はさほど重要ではない。無論、負けることなど考慮していないが、仮に死んだとしてもリムルの迷いを断つという目標は達成せしめるからだ。
対して、ユウキはテクトを支配し、この場で描いていた筋書きが正しかったとテクトに証言させるしか魔国連邦を敵とした情報戦での勝ち筋はない。
初めて使う能力での一発勝負という非常に細い勝ち筋。
しかしそのような状況でも、ユウキは勝利を確信していた。
神楽坂優樹は天才である。
この世界に召喚される前の時点から超能力を有し、それをひけらかすことのリスクを鑑みて隠匿する理性を持っていた。
両親を社会構造による理不尽な事故で失ったが、それを是正するための道筋を立て、成功させる事ができるほどの器量もあった。
実行に移す前に精神体だけとなったカザリームにより召喚され、仕掛けられた呪印により心を砕かれる前にその天才性でもって世界の仕組みを理解し、望む力を得ることで呪印を跳ね除けたのである。
得たのはユニークスキル「
自在に能力を作り出す能力であり、真っ先に生み出したのが「能力封殺」である。
これこそがユウキの自信の源。
魔素の動きを無効化する「能力封殺」はテクトにとって最悪の相性と言える能力なのである。
テクトは権能の特性上、前線で戦うようなタイプではない。
正面戦闘で負けるようなやわな実力ではないが、罠を張り策を弄して、戦う前から勝負を決めるのが本来のスタイルである。
最近でいえば迷宮の規則違反を起こしたガイへの制裁が近く、宙に糸を張って絡め取るのがテクトにとっての正道なのだ。
だが、ユウキ相手では糸は使えない。魔素の動きを阻害され、糸の操作が封じられる。慣性は残るため速度の乗った糸を叩きつけることはできるが、所詮は糸。重量はさほどではなく対したダメージにはならない。
そうした情報は魔王への進化前のヒナタが聖浄化結界に捕らえた時の話が根拠になっているが、如何なる成長をしようと法則が同じである以上、「能力封殺」により対応可能だった。
故に、テクトの能力は無力であり、ユウキの勝利は揺るがない。
そう錯覚してしまったのだった。
テクトの初撃は糸による挟み撃ち。
わざわざ対面で大きく広げた手を交差させるという軌道を読みやすい攻撃であり、これに対する動きでこの後の戦闘の組み立てを行うつもりだった。
対するユウキは不動。
全力の魔王が相手だからと諦めるような相手には思えず訝しむテクトの前で、カガリがユウキを盾にするように後ろに付き、ユウキへと触れる寸前で糸の制御が失われた。
先程、混沌竜相手に知った「能力封殺」の領域に入った際の挙動にテクトは思わず舌打ちする。
「「能力封殺」かよ。ってことはこれも」
「通じないよね」
テクトの吐き捨てるような言葉を継ぎ、ユウキは罠として張られていた糸へと触れて地に落とす。
「次はこっちの番だね」
苦々しい顔のテクトに対し、ユウキは口の端を上げながら蹴りかかる。
身体能力が異常に発達したという言葉通り、かなりの速度での蹴りにテクトは受けることを選択した。その結果結界をあっさりと突破され、骨を砕かれ苦悶の表情で後退する。
関節とは関係のない箇所で折れた腕を即座に治癒し、ユウキを睨んだ。
「これも駄目。ほんとに厄介な体質だ」
「? ああ、視界を媒介にする能力ですか。ほんと、色々できるんですね」
「ならこれだ」
ユウキに取り合うことなく瞬きを一つして大鎌を取り出す。
例の金属を用いて鍛え直し、純白の大鎌は通常の刃物とは逆に刃の部分が漆黒に染まる異様な見た目となっていた。
希少級の武具のような特殊能力も無効化できるものの、その異様さに警戒するユウキの前で、明らかに間合いの外であるにも拘らずテクトは無造作に袈裟斬りの軌道で刃を振るった。
「
ユウキは本能が鳴らす警鐘に従いカガリを突き飛ばして回避する。
「避けたか。自らを過信して受けていれば今ので終わっていたな」
超絶聖剣技―暴嵐覇斬
崩魔霊子斬を参考に迷宮内で繰り返された
今の一撃で床から壁まで一筋の斬撃が刻まれ、衝撃波が砂埃を巻き上げられた。暴風系魔法の崩壊はテクトの干渉で押し止められ、必要以上に破壊は広がらない。
「こっちもこっちで出鱈目じゃないか」
今度はユウキが苦い顔をする。
能力だけでなく魔法さえ無効化する「能力封殺」であっても切りつけられれば怪我をする。さらに、付随する能力は無効化できるが、超絶聖剣技のような
先程リムルからも暴風系魔法を使用した剣技を受けていたことで受けきれるという過信は捨て、大鎌へと最大限警戒する。
それでもユウキは余裕を持っていた。
「確かにそれは食らったらまずいかもね。でも、全部一人で済ませないといけないそっちと違って、こっちは協力できるんだぜ!」
ユウキが笑うと同時に近くに身を隠していた三人が飛び出し、テクトへと襲いかかる。存在には気づいていたためあっさりと躱し距離を取ったテクトの前で道化達が並んでいく。
まず口を開いたのは豚頭帝との戦いの後にトレイニーが示した、人を馬鹿にしたような笑い顔の道化だった。
「初めましてやな、テクトはん。ワイは
仮にも戦闘中であるにも拘らずおどけて自己紹介を始めるラプラスにテクトも一瞬呆気にとられる。
しかし、道化達はその隙に攻撃するでもなくラプラスに追従した。
「ほ──っほっほっほ。私は
「アタイはティア。
「よろしくするつもりはねぇよ」
フットマンとティアの自己紹介にテクトは冷たく返すと指を鳴らす。それを合図に墳墓の一部が崩落し、外への出入り口が物理的に塞がれた。
「つれないなあ。これから長い付き合いになるんだから親交は深めるべきじゃない?」
「ここで全部終わらせるんだ。付き合いも何もないだろ」
鎌を肩に乗せて鼻を鳴らすテクトにユウキが苦笑する。
どうあっても相反するのだと頭を振るのと同時にテクトの頭上から極大の魔力弾が落ちてきた。
まともに受ければ大抵の者が消し飛ぶような威力の魔力弾だが、テクトは目を向けることなく空いた手で受け止めるとそのまま握りつぶすような動作を取る。それだけで魔力弾は粉砕され、衝撃とともに残滓が散っていった。
「俺も人のこと言えないが、手癖が悪いな」
「あれを一発かい。嫌になるわ、ほんま」
愚痴をたれながらラプラスが切り込む。それにユウキとティアも合わせ、高速での戦闘が始まった。
前に出るのはユウキ。
自分が最も狙われている自覚はあるが、「能力封殺」による罠の除去と結界が意味をなさないためテクトがダメージを抑えようとすれば回避を強要することができ、アタッカーとして最適だった。
先程のリムルとの戦闘で武器を使わず殴りかかる方が体質を活かせることを実感しているため、素手で格闘戦を行っていた。
しかしてテクトを相手に攻撃の隙を与えないというのは不可能である。その隙を埋めるのがラプラスとティアだった。二人が精神さえ犯す毒を塗ったナイフを持って切りかかっていく。
解析によって毒の効果を認識したテクトが防御に手を割き、ユウキへ攻撃する機会が奪われていく。
特にティアの動きは凄まじく、少なく見積もっても膂力はカリオンを優に凌ぐ。技量こそ拙いが簡易な罠では止まらず、毒の効力もあって片手間に相手をできるレベルを超えていた。
ラプラスもまた厄介だった。動きは追えているが牽制は打つ前に躱され当たらず、罠に踏み込むこともない。トレイニーから逃げおおせ、推測ではあるがロイを殺したはずの実力をみせることなく援護に徹していた。
そして、フットマン。
ゲルドとの戦いを鑑みても接近戦が主体と思われるが、固定砲台となり外側からの糸の槍やカガリへの攻撃を防いでいく。幾度か繰り返したところで埒が明かないと考えたテクトがカガリへの攻撃をやめたことで、今では警戒をするだけに留まっている。
罠も張れずに攻め立てられ、テクトの身体にはユウキの打撃によるダメージが積み重なっていく。
ユウキはテクトの防御にも「能力封殺」を合わせ回復を阻害しようとするが、それは読まれて防御に使われた腕や足が切り離されて塵に変わり、即座に再生される。その分余計にダメージは重なっていくため優勢にみえるのはユウキではあるが、焦りがあるのもまたユウキだった。
仮に外から突入された場合、テクトと相対している以上、ユウキと敵対することに迷いのあるリムルはともかく、シオンとゴブタ、ランガは確実に介入してくる。
流石に援軍も合わせて無力化するのは難しいと考えており、見えない時間制限が課せられているように感じているのだ。
しかして、テクトが目の前の三人に集中したことでユウキ側の攻撃の準備が整った。
「ラプラス! ティア!」
カガリの声に従い二人が飛び退く。
疑問に思う間もなくユウキの踵落としを腕で受け止めると、ユウキはその腕を軸に回転し、立ち位置を入れ替えた。
空いた空間に迫るのはフットマン。
絶大な闘気で身体を覆い、太った身体からは考えられないほどの速度で迫るフットマンにテクトが目を剥いた。
これを可能としたのはフットマンのユニークスキル「
能力は字のごとくあらゆるものの増幅と偽装。
フットマンが加速する間をラプラスが隠し、極まったタイミングで仕掛けたのである。
本来であれば知覚もできない内に直撃したところであるが、テクトからすれば隠すうちには入らない。それでも気づくのが遅れたのはユウキの「能力封殺」によってその後方への感知が阻まれていたからだ。
「喰らいなさい、
能力による超速度と超質量の突進が迫る。
受けたとて死ぬことはないが、肉体を粉砕されれば瞬時に再生はできない。その間精神体は無防備を強いられてしまう。
故に、テクトも手札を切るしかなくなった。
「
フットマンの正面に「空間連結」の穴が開く。そのサイズは握り拳ほどであり、フットマンの進行を妨げるものではない。そのためフットマンは止まることなく突き進もうとし、衝突した。
撃ち出されたのは黒い鏃だった。
しかしそれを認識していたのはテクトのみ。
なぜならそれは出現と同時にフットマンへと食い込み、相反するベクトルのエネルギーの衝突によってフットマンの身体と諸共に崩壊したからだ。
物理的なエネルギーを蓄えたもの同士の衝突に絶大な衝撃波が撒き散らされ、全員が大きく吹き飛ばされる。
空中で体勢を整えたテクト以外はそのまま壁へと叩きつけられる。ひときわ大きな轟音を立てた場所には上半身を消失した道化服の躰が埋まっていた。
「フットマ―」
「悪いな、もらいだ」
思わず視線を向けたティアにテクトの手が迫る。全身を裂傷に包みながらの突進を阻むことはできず、テクトはティアの首に手を添えると目を見開いた。
直後ティアの身体が塵へと変わる。
「やってくれるやんけ……!」
仮面から覗く目を怒らせてラブラスがこぼす。
対するテクトは苦々しい顔をしていた。
神域崩鏃はユウキに対する切り札だった。
原理としては単純で、魔法で真空状態にした空間の上下を「空間連結」で繋ぎ、そこに鏃を落とす。そうして延々と落下をさせ位置エネルギーを蓄えさせ、最後にもう一度「空間連結」を使って方向を変え射出する―所謂「質量兵器」である。
単純な運動エネルギーによる物理攻撃のため、「能力封殺」で防ぐことは出来ない。準備に時間もかかるためここで使うつもりはなかったのだが、フットマンに対する警戒から使うことにしたのだった。
技量こそさほどではないがその魔素量はカリオンやフレイを超えており、魔王への進化の恩恵を受けたばかりとはいえゲルドを相手に完勝する力がある。その上、様々なものを増幅する能力持ちということもあってユウキを始末した後に暴走させられた場合を考えたのだ。
対してティアはといえば、ほとんどついでのようなものだ。身の長に似合わぬ膂力を発揮していたが技量はフットマン同様に低く、優先順位は一番下だった。ユウキには手がなく、ラプラスはやや距離がある。カガリは更に後方とちょうど手の届く範囲にはティアだけだった。故に相手の手駒を減らせるときに減らしただけなのである。
「何を余裕かましとるんや!」
そんな事情を知ってか知らずかラプラスが詰め寄る。
語調こそ感情的なものだがその目には理性がある。フットマンとティアが妖死族であり、肉体の破壊だけでは死ぬことはないと理解していることに起因するものだ。
テクトは攻撃を受け止め、その威力に瞠目する。
究極能力に覚醒している様子はないが、ラプラスがその身に纏う異質な空気から、次のカードを切ることをためらわなかった。
「は?」
声を漏らしたのはユウキ。フットマンとティアを倒されたのは悔しいが、全力のラプラスと共闘すれば十分にテクトを無力化できると考え、動きを合わせるべく構えていた。
しかし、突然にラプラスの身体が破壊され宙を舞う。
直前まで仕掛けていたはずのラプラスがまるでコマ送りを飛ばされたように不自然な挙動で吹き飛んだのだ。
「神糸戦鎚……」
テクトの追撃は不可視の糸の塊による範囲攻撃。
過去にラプラスがトレイニーから逃げおおせたことを警戒しての一撃により身体は完全に破壊され、テクトが視線を向けることで完全に塵と化した。
それを見届けてテクトは荒い息を吐く。
ティアを倒した直後と比べて明らかに消耗している様子にユウキは頬を引くつかせた。
「ハハッ……まじかよ……」
テクトの為したことをなんとなく想像しながらもそれを信じきれずに苦笑する。しかし、その裏で準備を着々と整えていた。
「創造者」の力を自身に駆け巡らせ、肉体を望む形に変化させていく。
人間から仙人に。
そして聖人へと進化させ、完全な聖人となったことで精神生命体に等しい存在となったことでユウキは呼吸を止めた。
ユウキの纏うエネルギー量と呼吸音の喪失にテクトは荒い呼吸のまま青い顔を向けた。
「なんだよ……それ……仲間がやられてピンチで覚醒とか……主人公かよ」
「さっきリムルさんもそんな反応してたっけ。ま、これで形勢逆転ってやつだよね」
「ぬかせ……俺はまだまだ元気だぞ」
「痩せ我慢はよしなよ。ふらふらじゃんか」
ユウキの目ではすでにテクトは限界だというように見えている。
張り直した結界も脆弱であり「能力封殺」なしでも砕けそうなほどだ。それに伴い精神面での防御も弱っていると予測でき、テクトを「強欲者」で支配することも可能であるという確信を得ていたのだった。
「なら、これはどうだ?」
「無駄無駄―おっと」
テクトの糸がユウキへ迫る。これまで通り近づくだけで制御を失う意味のない攻撃かと思われたが、「能力封殺」の範囲内に入った途端にユウキの身体に巻き付くように動き、縛り上げた。
これも原理としては単純で、最初から曲がった形で生成した糸を無理やり伸ばして制御を失えば巻き付くようにしていたのである。
とはいえその程度の小細工ではユウキを止めることは出来ず、あっさりとちぎられて突破される。
「ちょっと驚いたけど、その程度じゃ僕は止められないぜ!」
ユウキの蹴りに対し、テクトは防御こそ間に合ったものの、踏ん張りが効かずに吹き飛ばされる。
震える足でよろよろと立ち上がり、それでも敵意を絶やさないテクトへとユウキは悠然と歩み寄った。
「ま、目が覚める頃には全部終わってるさ。それじゃあお休み、テクトさん」
ユウキの手から溢れた黒い波動がテクトを包み、しばらく間をおいて波動が晴れるとがっくりと力を抜いてうなだれるテクトが残った。
初めてではあるが成功した感覚にユウキは頷くと、未だに壁へもたれかかるカガリへと目を向ける。
三人の肉体の消失は痛いが、カガリ同様に人造人間の身体を用意すれば復活できるためそこまで不安はない。後は支配したテクトと打ち合わせてリムルを誘導するだけ。
そこまで考えたところで軽い衝撃とともに足が止まる。
視線を下ろすと自分の胸から腕が生えていた。
「悪いな。本来なら、こんな騙し討ちをするつもりはなかった。お前の宿願を阻む以上、正面から砕くのが礼儀だと思っていた。だけど、手段を選んでいられるほどの相手じゃなかったらしい」
腕の主はテクト。
その立ち姿にも顔色にも、なんの不足も無いようだった。
「能力封殺」がある以上、テクトの能力は通じないはずだ。しかし、ユウキにはすでに手遅れであるという確信があった。
「やられたね……けど、僕はともかくフットマン達は妖死族なんだぜ……あの程度じゃまだまだ復活できるさ」
「解ってるよ。だから、こいつが役に立った」
テクトが取り出したのは四つの球だった。
「妖死族が肉体なしでも生きられるのは解っている。対策はしたさ。「魂の牢獄」―俺の創った魔法道具だ。付近で無防備となった魂を閉じ込めるものだが、四つとも機能しているようだな」
「四つ?」
数に疑問を感じ、カガリへと目を向ける。
衝撃波に傷つき壁にもたれていると思っていたカガリだったが、すでにそこに魂はなく、テクトの手の中だった。
「ほんと……デタラメな人たちだ……」
「最期に種明かしぐらいはしてやるよ。俺は精霊を身にを宿してる。お前を油断させるために身代わりになってもらったのさ。そして、俺に「強欲者」の支配は通じない。スキルはユニークが最上ではなく更に上があるんだ。そこまでたどり着いたものに下位のスキルは通じない」
「……なるほど、最初から勝てなかったってわけか……ほんと嫌になるぜ……」
テクトにとって、ユウキを殺すだけであればすぐに済むことだった。わざわざ正面から時間をかけたのは禍根を断つため、ここで中庸道化連を全滅させるためだった。
そのことに気付いたユウキは自嘲するように笑うと最期の抵抗と言わんばかりにテクトの手を掴む。
「さようなら、神楽坂優樹。先に地獄で―いや、会いたいとは思わないか」
「そうだね。テクトさんが来る頃には楽しくやってる最中だろうから、邪魔しないでくれよ?」
「言ってくれる……
テクトの腕を起点に霊子崩壊と暴風系魔法を束ね究極能力で強化した魂ごと破壊する一撃が放たれる。
最奥の間を丸ごと吹き飛ばすエネルギーの奔流に巻き込まれ、残されていたカガリやラプラスの肉体も消失する。同時に「魂の牢獄」も処理し、中庸道化連の痕跡が全てかき消された。
虚無暴嵐爆により吹き飛んだ腕を再生し、感覚を確かめる。
しばらく虚空を見つめていたが、頭を振ると瓦礫を片付けて外へ向かう。
結界を解除して地上にでると、ミリムが駆け寄ってきた。
「テクト! 大丈夫か?」
「問題ない、一区切りついて気が抜けていただけだ。まだまだやるべきことはあるからな」
テクトは表情を取り戻すと見上げてくるミリムの頭を撫で、努めて朗らかに笑う。その表情を見てミリムは何かを言おうとしたが、上手く言葉に出来ず口ごもる。
続いて近づいてきたのはリムルだった。
「終わったか?」
「……ああ、全部終わった。『マリアベルは魔導制御炉を暴走させて自爆した。ユウキとカガリはそれに巻き込まれて行方不明。魔導制御炉に蓄えられていた魔力が少なかったためか被害は墳墓の最奥のみ。調査と行方不明者の捜索の要あり』以上だ」
「了解。後のことは各方面と協議だな。おつかれさん」
報告を聞き、リムルは一つ頷くと軽く背伸びをしてテクトの頭をポンポンと軽く叩く。
「さ、帰ろうぜ。探索チームの皆はイングラシアに帰しといたから、後は俺達だけだ」
「……そうだな」
微笑みを向けるリムルにテクトは叩かれたあたりの髪をくしゃりと握るとテクトも表情を崩し、大きく息を吐いた。
「帰ろう。魔国連邦に」
次回「再誕/思案」
感想・評価・お気に入り等ありがとう御座います。
書籍版の最終巻発売日が11月29日ということで寂しさがありつつも、楽しみにしつつ――やっぱつれぇわとか一人でやっていたら筆が遅れました。
現実逃避気味に現在の活動と全然関係ない原作に手を出したりしてました。
何やってんだか⋯