転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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94話:再誕/思案

 アムリタの一件から一月程。

 

 警戒こそ続けているものの平和な日々が続いていた。

 

 マリアベルの遺体はテクトと中庸道化連の戦いで完膚なきまでに損壊し、辛うじて金髪の子供と認識できる状態で瓦礫に埋もれていた。

 

 そのためそのまま荼毘に付し、ユウキのシナリオであった自爆により消失が採用され、ついでにユウキとカガリもそれに巻き込まれ行方不明として報告された。

 

 シルトロッゾ王国とは内々に連絡を取り、マリアベルに関しては“事故”ということで処理がされた。

 

 ギルドの運営は臨時の対応として最重要事項に関しては各支部長の合議制となり、情報操作に長けたブルムンド王国の支部長であるフューズがそれとなく方針の操作をしている。

 

 この間に何かしらの妨害もなく、魔国連邦による西側諸国の掌握が進んでいった。

 

 各国の弱みを握り、いくつかの組織を支配下に置いた。

 

 評議会を裏から操っていた五大老も、グランベルは沈黙を貫きギャバンが失脚、ヨハンは融和派であり、ドラン将王国の王とシードル辺境伯も黙認の形を貫いたことで魔国連邦が成り代わる土台が出来上がっていた。

 

 結果として魔国連邦は評議会の最大派閥へと躍り出たのである。

 

 その結果として問題を抱え込むことにもなっていた。

 

 

 

 問題というのもやはり西方諸国評議会である。

 

 本来であれば意思決定には議決が必要であるため議員数が重要となるのだが、魔国連邦が武力的に突出している上、各国の弱みを握ったため魔国連邦へ反抗する勢力は現状ではいない。

 

 そうして最大派閥となったことで苦情や陳情は魔国連邦が窓口となっており、それらの取りまとめや折衝などを行えるものを議員として送り込む必要が出てきたのだ。

 

 明晰な頭脳と社交性にある程度のカリスマが必要とされる立場であるため、条件の精査によって筆頭候補となったのはテクトだが会議の結果棄却される。

 

 リムルだけでも決裁権の面は問題ないため実務上問題はないのだが、相手はあくまで貴族であるため国家元首であるテクトを対応の窓口にすることは憚られたのだ。

 

 同様の理由でリムルも却下。

 

 ベニマルは軍事面の総大将ということで今後起きる可能性のある東の帝国との戦争中には議員としての役目が果たせないため不可。同様の理由で軍事顧問であるハクロウも不可だ。

 

 ソウエイは諜報の要であるためそこから外すことはできない。ゲルドも重要な工事の仕事があるため無理だ。ガビルも最近確保した飛空龍(ワイバーン)の調教があるため外せない。

 

 シュナやリグルド達にも議員の適正はありそうだが、国家的な仕事に差し支える。

 

 次々に候補が減っていくわけだが、ここでシオンが手を挙げた。

 

「では、ここは私が」

 

「「却下だ!」」

 

「なぜですかっ!?」

 

 立候補を魔王二柱がかりで遮られ、シオンが驚いたように問い返す。その反応にリムルは呆れたように質問した。

 

「仮にだ。仮にだが、お前が議員だったとしよう。目の前に、腹の出たスケベそうなオッサンがいます。その人も議員だ。そしてそのオッサンが、馴れ馴れしくお前の肩に手を置きました。さあ、お前はどう対応する?」

 

「決まっています。左手でその男の首を掴み、持ち上げて、有無を言わさず打つべし! 打つべし!!」

 

「はいダメ」

 

「そんな!?」

 

 テクトのすげない判断にシオンが絶望するが、他の面々からすれば当然の判断である。

 

「となると、やはりディアブロかテスタだな」

 

 テクトの言葉に幹部達も頷く。

 

 二人とも能力が高く、賄賂等に屈することもない。

 

 特にテスタロッサはテクトの補佐として法律関係にも精通しているため適格と考えられた。

 

 そのため第一候補をテスタロッサ、第二候補をディアブロとして彼らの帰還を待つことになったのだった。

 

 

 

 会議も終わり、クロベエの工房へと向かったリムルを見送ってテクトは執務に戻る。リムルにも回すべきかどうか判断しながら処理を続けていると慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

 足音の主は勢いそのままに扉を開け放ち突撃してきた。

 

 突入してきたのはミリム。

 

 本来であればお仕置きが待っているが、今回は特別である。

 

「テ、テクトよ! 生まれる。もう生まれそうなのだ!!」

 

 そう言って見せてきたのは卵となったガイアだった。

 

 淡く明滅を繰り返し、胎動する卵から今まさに生まれようとしている。

 

 テクトが見分し直すまでもなく卵全体にヒビが入り、内部から全長五十センチ程の小竜が飛び出してきた。

 

「ガイア、なのか?」

 

「キュイ、キュイッ!!」

 

 ミリムの確認にガイアは快活に答え、二人は抱き合った。

 

 再会が叶ったことでテクトも安堵し、脱力しながら二人を眺めていた。

 

 

 

「さあ、ガイアと一緒に冒険に行くのだ!」

 

 再会を噛み締めたミリムはガイアを抱えて宣言する。

 

 この発言は想定内であったため、テクトは特に驚くことなく念の為確認をとることにした。

 

「帰らなくて大丈夫?」

 

 ミリムは遺跡探索以降、ガイアの卵から離れることなく魔国連邦に留まっていた。とはいえ事情が事情であるため保護者であるフレイにもお目溢しを頂いていたのだが、生まれたことでこれ以上心配する要素がないため魔国連邦にとどまる理由は存在しない。というより、ガイアが生まれたら帰還するという約束をフレイとしているため、ミリムは溜め込んだ仕事をするために一度帰る必要があるのだが、

 

「わはははは、心配ないのだ!」

 

 ミリムは素知らぬ顔で聞き流した。

 

「これは必要なことなのだぞ? 竜は最上位の捕食者なので、自ら仕留めた魔物しか口にしないのだ。それは赤子でも例外ではないから、ガイアに狩りを教えてやらねばならぬのだ」

 

 竜であるため水と魔素さえあれば生きていけるが、強く育つためには運動と食事が必要なのだという。

 

 したり顔で言うミリムにテクトは肩を竦めるとリムルにも連絡を取り、迷宮へと移動するのだった。

 

 

 

 ヴェルドラとラミリスも呼び出し、“死を齎す迷宮の意思”全員がガイアに続いて迷宮を進んでいく。

 

 生まれたばかりとはいえ元が混沌竜であるため弱いわけがなく、数回の戦闘でコツを掴むとどんどん進んでいく。

 

 数日でパーティーは四十九階層まで踏破できるほどに成長し、前回敗北したゴズールを下すことに成功したのだった。

 

「クアーッハッハッハ! ゴズールなど、最早我らの敵ではないわ!」

 

「そうよね、そうよね! 所詮、ゴズールなんてこんなものよ!」

 

「わははははは! 調子が出てきたのだ!」

 

「キュイ──ッ!!」

 

 前回苦渋を舐めた相手への勝利にヴェルドラ達は大はしゃぎとなっていた。興奮した様子の面々を前にテクトは手を叩いて注目を集めた。

 

「はいはい、はしゃぐのもそこらへんにして。ミリム、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」

 

「何を言うのだテクトよ! まだまだガイアには教えることが」

 

「フレイの限界も近いんじゃない?」

 

 ミリムの主張を遮ったテクトの言葉にミリムの肩がビクリと震える。すでに迷宮で遊び回った前科があるため再犯となればフレイが厳しくなることは容易に想像でき、ミリムは頭を抱える。

 

 実のところはテクトがフレイへと連絡し、ガイアがある程度育つまでは大目に見てもらえるように伝えている。そのため若干ながら猶予はある。

 

 そんなことは知らないミリムはフレイを怒らせるかガイアを優先するか悩んでいたが、テクトの説得もあって後ろ髪を引かれつつも魔国連邦を後にし、ガイアは迷宮で自動行動に設定された仮想体とともに迷宮で行動することになった。

 

 

 

 ミリムがいない間に遊んでいると後に引くため、それぞれ真面目に仕事をすることになった。

 

 現状では全権をテクトが握っており、連邦国家という名の独裁政権状態である。一応リムルも同様の権利を持っているが、政務の偏りなどを考慮すると実権を握っているのはテクトだけだ。

 

 とはいえ行政はリグルドに、軍事ではベニマルに代理を任せており、それぞれ掌握はできている。

 

 目下の問題は法整備だった。

 

 一先ず三権分立の制定を目指し、ルグルド、レグルド、ログルドがそれぞれ司法、立法、行政の最高位へと任命している。

 

 立法府は任命を受けて継続的に議員の資格を有する上院と選挙により選任される下院に分けられている。今のところは選挙そのものが浸透していないのでこの部分は試行錯誤の最中である。

 

 行政府では各種族の長老が推挙され、高齢のものは代理を立てさせている。現状は各種族の利害対立の融和を図っており、それが済めば各種族の官職は徐々に能力主義での入れ替えが検討されている。

 

 ただし、執務の優秀な者は弱小種族だった者達が多く、戦闘に長けた者は書類仕事に向いていなかった。行政においては武力が役に立たないため、弱小種族側が武闘派種族の権利を侵さないよう気を回す必要があった。

 

 そして、最後の司法府だが、ここが一番の問題だ。

 

 秩序の守護者として公平に裁く必要があるのだが、これは恨みを買いやすい。逆恨みによる裁判官の襲撃の可能性もあるため護衛をつけることも予定しているが、やはり本人にもある程度の強さがほしいところだった。

 

 公正さを優先して指名したルグルドだが、戦闘能力はさほどではない。考えたくはない事態だが、幹部や議員への取り締まりを考えると実力不足は明らかだ。

 

 さらに開国祭以降は迷宮を目指した腕自慢も集まっており、司法庁の人選は課題となっていた。

 

 急成長の弊害である人材不足に頭を悩ませつつ、日々は過ぎていった。

 


 

自由組合総帥(ユウキ・カグラザカ)が? 本当なの?」

 

 部屋の主に呼ばれた女は告げられた事実に目を瞬かせる。

 

 部屋の主は鷹揚に頷くと続ける。

 

「情報局が持ち帰った情報だ。間違いはないとも」

 

「それもそうね……」

 

 女は頭を振ると考え始める。

 

 珍しく考え込む姿に部屋の主は訝しむ。

 

「西側を知りたがっていたから伝えたが、それほどに重要なことだったか?」

 

「当てが外れたって感じかしら。あれは本拠をこちらに据えていたでしょう? あちらで魔王の台頭が始まったということは、遠からず流れてくる可能性もあった。あちらでの手駒も切り捨てたという話だったしね。聖人たるヒナタ・サカグチと同門の強者であれば、器に足ると思っていたの」

 

 女の言葉に部屋の主は納得したのか息を漏らした。

 

「ふむ。お前がそれほどに期待するとはな。序列でいうならどれほどだと見る?」

 

「窶懊? 縺ィ縺代◆謨ー蟄冷? 昴b迢吶∴繧玖? 蜉帙? 縺ゅk縺ァ縺励g縺?? 縲」

 

「どうした?」

 

「いえ? もういない者のことを考えても仕方ないでしょう」

 

「それもそうか」

 

 女の言い分は思考を打ち切るような言葉だったが、部屋の主は賛同するように話を終える。

 

 部屋の主が肘掛けにもたれるのを合図に女は身を翻し、退席していく。部屋から出る直前に思い出したように首だけで振り返った。

 

「そうだ。ユウキ・カグラザカが残した“三巨頭(ケルベロス)”―もらっていかしら?」

 

「好きにしろ。奴を納得させられるのならな」

 

 部屋の主の返答に女は広角を上げると今度こそ退室した。

 

 女は歩きながら予定を組み上げていく。

 

 これから必要なモノを考えながらどう動くのが最適かを思考する最中、立ち止まる。

 

「なんの用?」

 

 周囲に人影はない―そのはずだったのだが、気付けばそこに一人の男が立っていた。

 

「相変わらず不遜な態度だな、最初の悪魔(ファースト)

 

 男の言葉に女は妖気を放ち始める。

 

 下手な実力者程度であれば感じ取っただけで発狂するような波動を浴びつつも男は平然としていた。

 

「相変わらずなのはお前の方だ。大願を前に滅ぼされたいのか?」

 

 見開いた目に宿るのは純然たる殺意。

 

 その表情を見た男が喉の奥で笑うと女は舌打ちしながら殺意を収めた。

 

「いいか? 私がお前達に協力しているのは、あいつにあの子が入れ込んでいる―それだけの理由だ。それさえなければここに顔を出す理由はない」

 

「解っているさ。君が敵となる可能性も憂慮しているとも」

 

「白々しい……」

 

 女は男を睨んでいたが現れたときと同様にいつの間にか消えていた。女はもう一度舌打ちすると苛立ちを露わにした足音で去っていった。

 

 

 

「ユウキ様が!? 本当なのか?」

 

 報告を聞き、男は思わず立ち上がり声を荒らげた。

 

「間違いございません、ダムラダ様。ユウキ様は他の中庸道化連のメンバーとともに魔王テクトによって討たれました」

 

「……そうか」

 

 再びの断言に男―ダムラダは力なく座り込む。

 

 彼はユウキに期待していた。手を結べば自身の生きる意味―大切な存在との約束を成就せしめうるのではという期待が。

 

 そのためにユウキに忠誠を誓ったが、彼の者に対しての想いは別物だった。

 

 もはや時間はいくばくもなくユウキはある種の希望であったのだが、もはやそれは叶わない。

 

 策が潰れた程度で折れるような精神(ココロ)はしていないが、それでも多少意識に乱れが生じた隙にそれは部屋に侵入していた。

 

「ここが“三巨頭”の本部か。久しぶりね、ダムラダ」

 

 突然かけられた声に全身が粟立つ。

 

 そこに含まれていた悪意の欠片が弱っていた意識を犯していく。

 

 そんなダムラダの様子を漏れた妖気に気圧されて過呼吸となった報告者の様子から察し、咳払いをすると謝罪する。

 

「ごめんなさい、少々気が立っていたものだから……」

 

 気配が落ち着くとともに報告者も気を取り直し、侵入者に向けて暗器を構える。ダムラダはそれを手で制すると礼をした。

 

「お久しぶりです、参謀閣下。此度はどのようなご要件で?」

 

 告げられた言葉に報告者が目を剥く。

 

 裏社会を統べる“三巨頭”は、言うまでもなく後ろ暗いこともやっている組織である。にも関わらず軍の上層部となる名称を使われる相手と知己のように振る舞うダムラダに報告者はユウキへの裏切りを疑うが参謀の言葉に思考は吹き飛ばされた。

 

「報告よ。この組織は私が接収する」

 

「な、何を!?」

 

 声をあげかけた報告者の口に参謀の指が添えられる。

 

「抵抗は止めて貰おうかしら。無駄なことは嫌いなの」

 

「承知しました。参謀閣下の御随意に」

 

 添えられた指から感じる力と有無を言わせない口調に報告者は抵抗を封じられる。ダムラダも反対することなくその言葉を認めたため抵抗は無駄なのだと悟り、今この場での抵抗を諦めたことで身体からも力が抜け、膝から崩れ落ちた。

 

「いい子ね。この状況でも意志に陰りはない。縺輔☆縺後? √≠縺ョ螻? 髱「縺ォ蛻? j霎シ繧√k縺? 縺代? 縺ゅk繧」

 

「一体なにを?」

 

「気にしないで。こちらの話よ」

 

 参謀は片頬をあげると報告者から視線を外し、ダムラダへと向けた。

 

「根拠も通じないのに安心しろと言っても滑稽だわね。とはいえ、悪いようにはしないわ」

 

「根拠など要りますまい。参謀閣下の御随意に」

 

 ダムラダが恭順を示したことで漂っていた妖気が収まっていく。

 

 参謀はニンマリと笑うといつの間にやら用意した椅子に腰掛け、足を組んだ。

 

「いい返事ね。さしあたって、掌握から進めるわ。面倒なところから対処するからピックアップしてちょうだい」

 

「承知しました。しばしお待ち下さい」

 

 ダムラダは礼をすると報告者を伴って退出した。

 

 残された参謀は肘掛けで頬杖をつくと眉間にシワを寄せる。

 

「テクト・D・F・テンペスト

 

 ミリム(竜皇女)に唐突に増えた「D」と

 

同じミドルネームを持つ魔王

 

 ということは、Fにも相応の影響があるはず

 

だとすると誰が? 

 

 少なくとも魔王ではない

 

公になっていないもの? 

 

 でも、魔物にファミリーネーム?」

 

 ブツブツとつぶやきながら思考を進めていくも答えはでない。やがて思考を打ち切ると空を仰ぎ長く息を吐いた。

 

「魔王テクトをもっと知るべきね。それにしても、私に対するカウンターバランスにしては重すぎじゃないかしら?」

 

 参謀の視線の先では地上からの光に負けない星たちが瞬いていた。

 

 夜が明ける前にはダムラダの用意も終わり、リストの上から順に対処を進めていくのだった。

 


 

次回「試作機完成」




感想・評価・お気に入り等ありがとう御座います。

久しぶりのオリキャラですが、次の登場はかなり先になりそうです。思いつきではなく最初から計画していたキャラになります。
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