転生時の要望が違う形で受け取られた件   作:篠白 春夏秋冬

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95話:試作機完成

 人材不足に悩みつつも時間は進み続ける。

 

 テクトはリムルの視察の結果を聞きつつ作業を進めていく。

 

 ユーラザニア跡地での建築作業は順調であり、ゲルドによって捕虜の魔人の掌握ができたことで効率も想定以上となっているようだ。

 

 ドワルゴン、イングラシア、ユーラザニア、サリオンの各方面への街道とレールの敷設はおおよそ予定通り。

 

 ドワルゴン方面はすでに街道が通っているため魔導列車の車線用の拡幅を進めてる。冒険者などを日雇い作業員として雇い、順調に進んでいた。

 

 イングラシア方面は最初から広く整備されていたためそのままレールが敷かれていき、完成間近となっている。

 

 ユーラザニア方面は道の拡幅を行っている。切り出した材木は王都の建設に使用するため運搬の調整に従って作業は進捗している。

 

 サリオン方面では道を作るための伐採の最中である。ユーラザニア方面での切り出し同様に建設資材として使用するため「胃袋」による物資輸送が可能である猪人族が主力として作業を行っている。物資輸送のためトンネルとレールは後回しにして道を拓くことが優先している。

 

 魔導列車の採用には東の帝国への情報漏洩の懸念がされていたが、現状動きが不透明な相手を必要以上に警戒する必要はないということで魔国連邦内で一致した。また、会議はいざ戦争で破壊されれば再建するだけとお気楽なリムルの言葉で纏まり、戦時は人材保護を優先することになった。

 

 現在は工事をしていないファルメナス方面だが、魔導列車の運用に乗り遅れないようミュウランの主導で測量が行われ、すでに大凡の測量は終わっている。現在は各担当者の結果を照らし合わせ、許容範囲を超えたチームの再測量待ちだ。

 

 しかし、真面目に勉強していたため再測量の時間はそうかからないらしい。

 

「ってことは、結界用の装置も用意しておいた方がよさそうだね」

 

「順調に進みそうそうで良かったよ。優先順位は後の方とはいえ、滞らせるのはよくないしな」

 

 互いに頷きつつ話しを終える。ちょうどシュナが軽食とともに入室し、小休止となった。

 

「それにしても、ヨウムとミュウランに第一子かぁ……上位魔人と人間でも子供ってできるんだね。ああ、でも荒木白夜がハクロウの祖父って話しだし、魔物とは子供ができるものなのか」

 

「お前らのときは盛大にお祝いすることになるんだろうな―どうした?」

 

 軽食をつまみつつのリムルの言葉にシュナが頬を染め、テクトは僅かに硬直した。訝しむリムルにテクトは持っていたカップをソーサーに戻すとシュナを座らせた。

 

「いつ言おうか迷ってたんだけど、こうして話題に出たわけだし伝えておくよ」

 

 テクトの纏うただならぬ雰囲気に二人とも居住まいを正す。

 

 部屋の様子を伺っている者がいないことを確認するとテクトが口を開いた。

 

「真なる魔王になって完全な精神生命体になったわけだけど、その結果として三大欲求の根幹がなくなったんだ」

 

「というと?」

 

「すなわち、食欲・睡眠欲・性欲―これら三つを支えるものがなくなったってこと。精神生命体は飢えないし、疲労しないし、繁栄しない」

 

「まさか……」

 

「そう。精神生命体は子を成すことはできない」

 

「な……」

 

 テクトが暗い顔で断言するのにリムルは絶句する。無性である自分のことはすでに諦めているが、テクトは男性であるあめ失われたことに何をいえばいいのかと迷っていると、先にシュナが口を開いた。

 

「それで魔王達の宴の後で白氷宮に向かってしばらく、不安そうにしていたわけですか」

 

 シュナの声音に責めるような雰囲気はない。どこか呆れを含んだ様子に魔王二柱で目を瞬かせる。シュナは小さくため息を吐くと続ける。

 

「そもそも、テクト様が真なる魔王へと覚醒したことに関しては私達にも原因があります」

 

「いや、それは」

 

「反論は後で伺います」

 

「はい……」

 

 思わず声を上げかけたテクトだったが、シュナの語気に圧されて黙り込む。リムルも視線だけで沈黙を選び、完全にシュナが場を制した。

 

「私達の失態がテクト様の憂慮の原因となったことは忸怩たる思いではありますが、覚醒に後悔はないのでしょう?」

 

「うん」

 

「であれば、何も気にすることはありません。あの二人がいるのですから私だけ先に逝くわけにはいきませんので、なんとしても進化する所存です。テクト様は泰然自若と構えていてくださればいいのです」

 

「……本当に敵わないな、シュナには」

 

 テクトは憑き物が落ちたような顔で微笑むと紅茶を飲み干す。ソーサーに戻されたカップにシュナがおかわりを注ぎ、静かにお茶をしていると扉が開かれた。

 

「戻っていたか、リムルよ! 遂に試作機が完成したのだ。これのテストに成功すれば、実用機の量産に着手できるであろう!」

 

「うんうん。今回は自身アリ! 早速見に来てよ!」

 

 入ってきたのはヴェルドラとラミリス。

 

 ゆったりとした雰囲気をぶち壊されたことに揃って苦笑すると先導する二人についていく。

 

 たどり着いたのは九十五階層の研究所だった。

 

 獣人の避難民がいた空間を再利用して作られた建物にはドワルゴン、サリオン、ルベリオスの研究者が共同で研究を行っている。

 

 ドワルゴンからは精霊の力による現象を利用した科学を発展させた技術体系である『精霊工学』を得意とした専門家。

 

 彼らの中には以前のベスターを知る者もいて今の彼との違いに困惑した者もいたが、誠心誠意の謝罪や最も被害を被ったカイジンによる執り成しもあってわだかまりはなくなっている。

 

 サリオンからは魔法を用いた法則操作による世界の変革を突き詰める『魔導科学』を学んだ魔導研究者。

 

 ルベリオスからは魔法的な要素を一切排除して自然界のルールを見出す―所謂『物理工学』に関するデータの蓄積をしていた“超克者”達。災厄級に相当する実力者ではあるのだが、テクトにより徹底的な躾を施され、今では従順に雑務もこなしている。

 

 初期こそ自国の国益を求めて自分たちの技術の秘匿をしつつ他者の技術を盗もうと衝突し合っていたが、リムルによって技術情報のすべてを資料化して配布されたことで秘匿を諦め一つのチームとして対等な仲間として連帯感を持つようになった。

 

 今では研究所を構えた迷宮の主であるヴェルドラとラミリスを頂点とした独自の組織形態を組み上げ、悪の秘密結社のような存在を目指し始めている。

 

 その結果、研究所の外観は深い森の中で異彩を放っていたコンクリート製の建物が緑の侵食を受けているような見た目になっている。これらは耳長族と樹人族の共作であり、仕上がりには全員が実に満足していた。

 

 外観にこだわりを発揮している様子に置いてけぼりにされていたリムルが口を尖らせるのをなだめつつ、テクト達は研究所へと足を踏み入れた。

 

 実験施設となっている大広間は一面レールで覆われており、大人も跨がれそうな大きさの鉄道模型が走っていた。

 

 動力は蒸気機関ではあるが、熱量を得るために燃料を燃やすのではなく魔法によって魔素をエネルギー源とする魔導機関の実現を目標としている。

 

 ここにおける魔法とは精霊魔法を指している。

 

 元素魔法との違いは物理法則に則った事象が起きるかどうかという違いがある。

 

 同じガラス容器の内部に置かれたろうそくに魔法で火を灯した場合、精霊魔法では内部の酸素を燃焼しつくし消えてしまうのに対し、元素魔法では魔法に込められた魔素が尽きるまで燃え続けるのだ。

 

 このように魔法では物理法則に依らない現象を起こすこともでき、そのため物理法則と魔法を結びつけて考えることが主流ではなかったのだ。

 

 また、過程(原理)を無視して結果(現象)得る(起こす)ことができるので自然現象に対する理解が薄くなっており、科学技術は未発達だった。

 

 そのため今はデータ採取のため様々な環境下での縮小実験を行っているのだが、手渡されたノートを確認すると実物大の機関車を作るのに十分な量のデータと理論構築がされていた。それを確認したリムルはニヤついた表情のテクト見て察する。

 

「まさか、試作機ってこいつじゃなくて」

 

「その通りだ! 我らの成果はこの先にある!」

 

 ドヤ顔のヴェルドラが示す先には大きな扉が鎮座していた。

 

 いつの間にやら整列していた研究員達の前をカイジンが進んでいく。

 

「苦労したぜ。炉内に炎の精霊を召喚しただけじゃ駄目だしな。パワーの制御を行うのに人力では呪術師を列車の数以上に育てる必要がでてくる。それじゃあ時間がかかり過ぎるから、魔法回路で自動制御できるようにしたのさ。炉の“核”となる炎の精霊と、それを制御する「刻印魔法」を刻んだ制御盤が合わさり、こいつは完成したんだ!」

 

 説明をしながらカイジンが扉へと手を掛ける。

 

 そのまま勢いよく扉を開くとそこには魔鉱製の黒い光沢を持った鋼鉄の怪物が鎮座していた。

 

「これが、我らの技術の粋を集めた『魔導列車零号』ですぞ!」

 

 完成品である魔導列車を見つめるリムルの耳にベスターの誇らしげな声が響く。

 

 今後は耐久性能の試験の後、貨物車や客室車など運行に必要な車両の製造、細部の調整などやることが山積みだが、確かに完成したのだ。

 

 そしてその動力は聖霊の守護巨像の動力炉を発展させた精霊魔導核というものが使われている。

 

 聖霊の守護巨像はドワルゴンの廃棄した魔装兵計画の成れの果てをラミリスが回収し独自に組み上げたものだったが、その動力には召喚された精霊そのものが利用されていた。

 

 ドワルゴンでは元素魔法にて稼働させようとしていたため必要な反応の連鎖を起こすことができず実権は失敗に終わっていたようだが、各国の科学者の知恵を借りることで精霊魔法と元素魔法の法則の違いを知り、リムルの開発した魔精核を解析したことで、魔装兵計画にて実用を目指していた本来の精霊魔導核が完成していた。

 

 この精霊魔導核を通じて各種族の精霊に魔素を与え、様々なエネルギーを生み出すことができている。

 

 基本的には熱エネルギーを発生させて蒸気を生み出し動力と電気を生み出し各車両へと供給して室内灯を点灯させる。

 

 さらに、過剰な電気は精霊魔導核に溜め込む事もできるのだ。一度は精霊に直接電気を発生させてもらったこともあるが、制御が困難だったため蒸気機関で発生させた電気を利用する方針を取っている。

 

 精霊魔導核だけで発電・変電・蓄電を全て行える上、燃料は大気中の魔素で済むため、魔国連邦のような魔素濃度が濃い場所であれば補給いらずだ。もし出先で燃料が足りなくなっても持ち運びが簡単な魔石を燃料とすることができる。

 

 補給も簡単で枯渇する心配もない動力の完成にリムルが感動しているとヴェルドラとラミリスが得意げにする。

 

「どうだリムルよ、驚いたであろう?」

 

「アタシ達だって、本気を出せばこんなもんよ!」

 

「いや、すごいよ。これからもこの調子で頼むな!」

 

 普段であれば多少苛つくところではあるが、実績が実績なだけにリムルも手放しで褒める。今後の展望を考えニヤついているとカイジンが声を掛けてきた。

 

「ということで旦那方、一つ相談があるんだが……」

 

「まったく、しょうがないなぁ。シュナ!」

 

「もう、飲み過ぎはダメですからね?」

 

 テクトの言い分こそ渋々だが表情はまったくそんなことはなく、シュナへと声を掛ける。シュナも微笑みながら手配に向かい、研究員達がざわつく。

 

「せっかくの『魔導列車零号』の完成記念だ。今日は貸し切りにしてもらうこととしよう。俺の奢りだ! 存分に飲め!」

 

「クア──っハッハッハ! さすがテクト、話がわかるな!」

 

「「「ご馳走になります、テクト陛下!!」」」

 

 テクトの宣言にヴェルドラが上機嫌で肩を組み、研究員達が息ぴったりに礼を述べる。

 


 

 次回「自堕落者にもお仕事を」

 


 

 おまけ「機密情報保護のための試作」

 

 

 

 魔国連邦において秘匿すべき研究は全て迷宮内で行われている。

 

 文明の発達に反応して攻撃を行うという天使の存在を警戒するのが第一の目的だが、情報漏洩を警戒して入退場の管理を行う目的があった。

 

 研究員には復活回数制限のない“復活の腕輪”が配布されており、地上と研究施設の二点間のみだが転移機能も使える。この転移は記録されており、管理を行っていた。

 

 一応、樹妖精に頼んで転移したり、九十階層を登り切るという方法もある。しかし前者は主がラミリスであるためスパイ活動の経路としては実質使用不可能。後者は登り切る前に発見されるため補足可能と警備体制としては万全と言ってよかった。

 

 研究資料は植物繊維の紙に記録されて保存されており、それは国家運営における決済資料も同様だ。

 

 そのためその保管にはセキュリティシステムの存在が必要となるのである。

 

「というわけで、こんなものを創ってみたんだ」

 

 場所は会議室。

 

 幹部を集め、得意げに開発結果を披露しているのはテクトである。手元に成果物が配られ、全員がそれを興味深げに眺める。

 

 大きさはカセットテープほどの大きさの箱状。箱ごとに色の違うカラフルな背面に黒いパーツをあわせている。また、黒いパーツには箱の色と同じ色で様々な動物が描かれていた。

 

 全員の手に渡ったのを確認してテクトは説明を始める。

 

「アムリタにあった生体認証のシステムを応用し、書類管理室のセキュリティシステムを構築した。これがその鍵なんだ」

 

「鍵? この動物の書かれた箱がか?」

 

 そう言って箱を検分するのは隣に座ったリムルだった。

 

 その手にあるのは青色の箱で狼が描かれている。

 

「そう、これが鍵なんだ。実際に使ってみようか」

 

 そう言ってテクトは転移門を開き、全員を誘導する。

 

 その先では重厚そうな扉があった。

 

 全員が揃ったことを確認し、テクトも自分の箱を取り出す。

 

 箱の色はバイオレットであり、蜘蛛が描かれている。

 

「まず、上部のボタンを押す」

 

《TERRITORY!》

 

 上部の銀色のボタンを押すとともに音が鳴る。

 

「次にここにかざす」

 

 唐突な音声に驚いた面々を置き去りに、テクトは箱を壁の前に置かれた台座に描かれた国章へとかざした。

 

《Authorize!》

 

「でここが開くようになる」

 

 そう言うと蜘蛛の描かれた部分を親指で弾き、絵柄部分が頂点の一つを軸に百八十度回転する。

 

「そしてここに刺す」

 

 台座に空いた四つの穴の一つに突き刺すとさらなる音声がなり始めた。

 

《Progrize!》

 

《Impossible to escape! トラッピングスパイダー! 

 

 "No one can escape its web."》

 

 音声が終わるとテクトが振り返る。

 

 何も起こらないことを訝しむ面々を前に説明を続ける。

 

「同様の手順をもう一つ、隣の穴に刺すと鍵が開くんだ。というわけでリムル、お願い」

 

「お、おう」

 

《BULLET!》

 

《Authorize!》

 

《Progrize!》

 

《撃ちまくまくりスティ! シューティングウルフ! 

 

 "The elevation increases as the bullet is fired."》

 

「音違うのかよ!」

 

「というか、何なんですかこの音?」

 

 思わず叫ぶリムルに続き、ベニマルが代表して鳴り響く音声について問う。対するテクトはいい笑顔で答えた。

 

「私の趣味だ。いいだろう?」

 

 皆がシュナへと視線を向けるが、シュナは軽く首を横に振る。処置なしという回答に諦めている間にテクトは扉へと手をかけた。

 

「この奥に書類を仕舞っていくわけだ。誰がいつ入室したかは記録されて、書類に関しては別途記録していくことになる。後はマスターキーだな」

 

「マスターキー、ですか?」

 

「そう、非常時に一発で開けるための鍵も用意した。基本的には俺かリムルが保管して必要に応じて使うことになる。こっちがリムルの分ね」

 

 そう言いながらテクトは新しい鍵を二つ取り出し青い鍵をリムルに渡す。

 

 全体が青い鍵は他の鍵と違い、可動部には狼が金色で造形されており、可動部とは逆側に短い円柱状のパーツが付いていた。

 

 もう一つは明らかに他の鍵とは形状が違っており、前方後円墳のような形状で金色のカバーの上には果物が描かれていた。

 

「なんかお前の色々違わないか?」

 

「これも趣味かな」

 

 笑うテクトに一同で苦笑し、説明は終わるのだった。




感想・評価・お気に入り等ありがとうございます。

メインヒロインが着々と強くなっている……

まぁ、頭が上がらなくても困らないので問題はないですかね
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