-86-外伝 最後の騎兵は白銀の棺に眠る 作:ジェイソン13
足掻け。最後の一発まで。
足掻け。最後の一発まで。
『それって、もしかして、シンエイ・ノウ―――――――――
鼓膜を破らんとする轟音と共にミレイユとの
レギオンは妨害する手段を持っていない。
レイドデバイスの故障もほとんど起きない。
距離に限界はあるらしいが少なくとも問題が出るほど俺達は離れていない。
思い浮かぶのは最悪の事態――ミレイユの死
「おい……ミレイユどうした?おいっ!!」
聞こえないと、届かないと分かっていても自然と俺は叫んでいた。
『整備班とも繋がらねえ!!』『
各々の驚愕、動揺、不安、焦燥が錯綜する中、夕空で赤みがかっていたガンカメラの映像が真っ黒に染まっていく。日没にはまだ早すぎる。雲だとしても変化が早い。
俺はキャノピーを開け、空を見上げる。最悪だ。そこに
機械の蝶――
山岳の稜線、その向こう側から青白い光が、レギオンの光学センサーライトが溢れ出して来る。
「基地が……」
ミレイユと整備班たちの生存は絶望的だ。いや、むしろ死んでいることを願う。生きながら皮膚を、筋肉を、脂肪を、神経を、臓器を、骨を焼かれる感覚に苦しむこと無く、即死していることを願う。
二度と祈らないと誓った神に祈り、願った。
「…………各小隊。現在地と状況を教えろ」
『何でお前が仕切って――』とライオが噛み付くが、「いいから教えろ!!」と勢いで押し通す。
『<ブラッドヘッド>および第二突撃小隊。ポイントG4からG3へ移動中。縦断道路沿いに北上する大規模部隊を捕捉。重量機中心だ。交戦は避けてる』
『<ファイアブレイク>以下、第三突撃小隊。B2から基地へ移動。到着まであと十五分。クソッ……山火事で先が
『<シュヴァリエ>以下、第四突撃小隊。F5にて敵小隊と交戦。応戦しつつF4へ後退』
『こちら<ペルーダ>。第五突撃小隊。第四と合流して後退を支援中』
『<キタルファ>、第六突撃小隊。A7の旧天文台より偵察中。屑鉄は南部縦断道路、エルカラット渓谷、ロワンワン鉄道より侵攻。数は……数百、いや千はいるかも。これって……』
「ああ。大攻勢ってやつだ」
十数機の欠陥兵器でどうにかなる相手ではない。足止めにすらならないだろう。基地も真っ先に叩き潰されてしまった。進むことも引くことも叶わない。
しかし頭はまだ戦うことを考えている。生き残ることに思考を割いている。ジャガーノートに弾がどれくらいあったか、緊急用の食糧と衛生用品はスカベンジャーに積んであったか、短期で一気に削るか、長期で粘るか、俺達はあと何日、いや何時間戦えるのか。
考えろ……考えろ……考えろ。
基地はレジャー目的に作られた小型機の着陸場を大戦時に無理やり軍事転用したものだ。施設そのものに防衛力は無く、それらは周囲の山岳や渓谷で補っている。俺たちは天然の要塞を活用して効率的な機動防御を展開してきたが、同じ陸戦兵器を使う以上、レギオンに課したハンデはそのまま俺達に返ってくる。レギオンに道やトンネルを封鎖されれば、俺達の戦域は虫籠と化す。
天然の要塞と俺達を閉じ込める牢獄、その表と裏が入れ替わる瀬戸際が、今ここだ。
「<ファイアブレイク>――『ああ。分かっている。救助は中止だ』
俺の意図を汲んだかのようにマクサは遮って応答した。ミレイユと整備班を見捨てるという酷薄な決断を俺の口から言わせなかった、俺にだけ背負わせようとしなかった彼の優しさだったのかもしれない。
『せめて、遺体の確認だけでも』とランカが涙声で乞う。
『無理だ。これ以上は俺達が丸焼きになる』
『クソッ!!』と怒り任せにライオはキャノピーを殴った。
戦隊編成当初は白豚と蔑んでいた新入り達からもミレイユの死を悲しむ声が聞こえてくる。ウルシも泣きたいだろうが必死に涙を堪えて、鼻を啜る音だけが聞こえてくる。
――俺達を『連れて行く』って言ったくせに、先に死んでんじゃねえよ。馬鹿騎兵隊長。
「全隊、最終プランだ。全ての防衛ラインおよび基地を放棄。ロワンワン鉄道を北上してミラヴェル・グランヴォワ駅で合流。そこで迎え撃つ」
それはミレイユが生前に考案したものだ。最終防衛ラインを突破され、基地を失うという最悪の事態になっても
「第二、第三突撃小隊。
後退が完了した後、橋やトンネルを爆破してレギオンの侵攻を阻む――いわゆる遅滞防衛だ。
「俺達は第四、第五の撤退を支援する。<ナイトノッカー>、ウルシ、付いて来い」
*
「カッキの馬鹿野郎!! 先に逝きやがって!!」
吹き抜けのターミナルでマクサの怒号が反響する。コンクリートの柱に叩きつけた拳は虚しく鈍い音を立て、マクサは縋るように跪き、戦隊員たちの視線も憚ること無く啼泣する。
彼の背後で第四突撃小隊の隊員ユーセが罪悪感で押し潰されそうになっていた。齢十一歳で隊長の死を背負うことになってしまった幼いプロセッサー、彼のことを気の毒に想っているとジュンナはユーセの肩を叩いた。
「お前のせいじゃない。カッキが選んだ。それだけだ」
作戦通り、俺達ジョスラン騎兵隊はミラヴェル・グランヴォワ駅で合流を果たした。
だが、犠牲は多かった。第四突撃小隊長<シュヴァリエ>カッキ・ユリシャ、第五突撃小隊エルハ・ナトリとカイミ・ナトリ、そして第一突撃小隊ウルシ・モクレン。彼・彼女らはここに辿り着けなかった。
「お前も、無理すんなよ」
「嘗めんな。自分の心配をしやがれ」
ジュンナのやせ我慢を後目に俺はターミナルの外へ出る。八月の夜風で身を涼めながら、数時間ぶりに
<アンタレス>
ウルシに付けようとしたパーソナルネームだ。これから固く強い鉄となる赤色の巨星。
これを彼に伝えることも、彼をそう呼ぶことも叶わなくなった。
各々が限られた時間で心の整理をつけた後、ミラヴェル・グランヴォワ駅の一階エントランスに集まった。電気はとうの昔に止められており、俺達は放棄されたオフィスから持ち出した書類の束を燃やして、灯りを確保する。
「お前らが泣いている間に弾薬は補充しておいた」
「助かったぜ。ライオ」
「さっすが~」
「なっ、泣いてねえよ!!」
「いや、お前ガチ泣きだったろ」
俺達が子どもじみた茶化し合いに興じる中、ライオは咳払いして話の軌道を戻す。
「スカベンジャーはもう空っぽだ。弾避けぐらいにしか使い道がねえ」
「ってことは、俺らが戦えるのも明日の午前……いや、今晩が関の山か」
その場にいた全員が口を閉ざす。エイティシックスになった時から死は身近なものだった。自分が死ぬ覚悟も出来ていた。だが、緩やかな侵攻でカウントダウンをされるのは初めてだ。
「悩んだって仕方ないでしょ。いつだって、やることは同じなんだし」
「そうだな。俺達には
「湿っぽいことなんてらしくねえ。気張って行こうぜ。ここが最後の戦場だ。俺達の死に場所で、俺達が辿り着いた場所だ」
「“辿り着いた場所”? 随分と後ろに下がっちまったじゃねえか」
「空気読めよ。せっかく盛り上がって来たのによぉ」
「まぁ良いさ。私も暴れたい気分だ。一機でも多く道連れにしてやる。あの世への手土産は多い方がいい」
号持ち達の腹は決まった。爆睡中のアサギの意見も聞きたいところだったが、ジャガーノートジャンキーの答えは皆と変わらないだろう。
「ユーセ、アレン、ガンタ、ハレメ。お前らはどうする?」
俺は焚火を囲う新入り達に目を向ける。十数人いた彼らも今や
四人は顔を合わせると同時に頷いた。俺達があれやこれやと話している間に彼らも腹を決めていたようだ。ユーセが代表して、俺に視線を刺す。
「僕達も同じです。戦わずに死ぬなんて、そんなカッコ悪いことはしたくない」
「全員、腹は決まったようだな」
俺は手を叩き、全員の視線を集める。本当は怖い。死にたくない。逃げられるものならどこかに逃げたい。そういう気持ちを押し殺すために、そのプレッシャー役に戦隊員を利用して、俺も腹を決める。
「さあ、泣いても笑ってもこれが最後だ。使えるもん全部使って、出せるもん全部出し切って、一発デカいのぶちかましてやろうぜ。そんで真っ先におっ死んだ騎兵隊長に――――
全員のレイドデバイスが一斉に起動する。基地の誰かがまだ生きているのか、もしかするとミレイユが――一瞬、期待を抱いたがどれも違う。戦隊の誰かではない。ましてや一年近く繋いで来なかったクソ
こいつが、まさか
『
レギオンによる大攻勢が始まりました。