-86-外伝 最後の騎兵は白銀の棺に眠る   作:ジェイソン13

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地を這う豚よ。空を飛べ。

 

 

 地を這う豚よ。空を飛べ。

 ――サンマグノリア共和国軍航空戦隊「ストーム・シャドウ」標語

 

 

 大攻勢から四十日後 共和国東部 行政第五十三区

 

 中層ビル群が並ぶ市街地で俺達のジャガーノートが駆ける。舗装されたアスファルト、葉が焼けた街路樹、道路標識、首が()()()()()屍の海を踏み荒らし、建物で姿をカバーしながら目的の()()を目指す。

 

『私らだけで空港奪還? しかもレギオンのキャンプ場? 無茶苦茶だよ』とランカが愚痴を零した。他の面々のうんうんと首肯するのが知覚同調(パラレイド)越しに伝わってくる。

『また俺達だけか。女王陛下は人遣いが荒いな』

『なんつーか、本隊から外されている気がするんだよなぁ。気楽で良いけどさ』

 

 ライオとマクサの言う通り、大攻勢が始まってからジョスラン騎兵隊は遊撃隊として部隊単独での任務をこなすことが多かった。最初はスカベンジャーのエスコート、レギオンの陽動、橋梁や建物への破壊工作など、小規模部隊で可能かつ補助的なものが多く、他の戦隊と肩を並べてレギオンの大部隊と撃ち合うという大攻勢らしいものもあったが、何故だか俺達は早々に後退を命じられた。

 本隊が北部戦線の残存戦隊、合流した東部戦線の戦隊を中心に構成されており、山岳地帯という特殊な環境で戦ってきた南部戦線は足並みが揃え難い。また大攻勢当初は北部戦線から離れていたことで南部戦線の戦隊が自動的にバックアップ要員となり、それが今でも継続されている。それが理由だろう。

 

『初っ端でジョスラン騎兵隊を名乗ったのが拙かったんじゃねえか?』

『頭のおかしい戦隊扱いされてるよ。私達』

 

 正直、これも否定はできない。

 

『レギオンとたたかいたいー!!たくさんたおしたいー!!』

 

 頭のおかしい戦隊員(アサギ)のせいなんじゃないかとも考えている。

 

 目的の空港が見えて来た。短い滑走路とデザイン性もクソも無い灰色の直方体を並べただけのターミナル。滑走路脇には格納庫が並んでいる。敷地は簡素な金網に囲まれていたようだが、レギオンに踏み荒らされて跡形も無くなっていた。

 空を飛ばないくせに滑走路はレギオンが闊歩し、回収輸送型(タウゼントフュスラー)が放置されていた航空機の解体に勤しむ。

 

「<アルファウリス>より鮮血の女王(ブラッディレジーナ)。そちらの予測通りだ。リュナセ()()()()にて機甲部隊を確認。編成は重戦車級(ディノザウリア)一機、直営に戦車級(レーヴェ)三機、近接猟兵型(グラウヴォルフ)斥候型(アーマイゼ)がざっと二十機ほど。自走地雷もそこら中に歩いている」

 

『分かりました。繰り返しますが、目標は第四格納庫の()()にあります。そちらへの被害は抑えてください』

 

「了解。バルディッシュ戦隊、作戦を開始します」

 

 女王陛下との会話はずっとこんな感じだ。大攻勢初日からずっと<ジョスラン騎兵隊>について触れられることは無く、俺達から白銀種(セレナ)の騎兵隊長のことも話すことも無かった。

 睡眠を必要とせず、昼夜を問わず襲撃するレギオンに対し、たった一人で全部隊の指揮を執る彼女と天気の話をしようとは誰も思わなかった。既知の間柄である“家臣”も含め、「鮮血の女王(ブラッディレジーナ)に余計な負担かけない」という暗黙の了解の下、俺達は指揮官(ハンドラー)の指示で動く部品、それ以上にもそれ以下にもならず、淡々と最低限の事務的なやり取りに終始した。

 皮肉なものだ。あっちは俺達を人間だと認めてくれているのに、俺達は鮮血の女王(ブラッディレジーナ)に気を回すあまり制御装置(プロセッサー)として振る舞ってしまっている。

 

『<ファイアブレイク>、作戦ポイント到達。俺が一番乗りだぜ』

『<ブラッドヘッド>、到達。ったく、()()重いんだよ』

『<キタルファ>、着いたけど、良い感じの土台が無い』

『こちら<ナイトノッカー>えーっと……なにするんだっけ?』

 

「総員、一五五ミリ(リリアム)発射準備。何でもいい。仰角を取れ」

 

 横転したバスに<アルファウリス>の前肢を乗せ、天に向けて五十七ミリ滑腔砲を向ける。主砲の先端にはケシの実のように膨らんだ砲弾と使い捨ての発射装置が備え付けられており、規格外の装備重量により主砲と脚部の軋む音が聞こえる。

 

一五五ミリ榴弾(リリアム)

 

 鮮血の女王(ブラッディレジーナ)の協力者が共和国軍の倉庫から()()()()砲弾を無理やりジャガーノートで撃てるように改造した()()の追加装備だ。

 大要塞壁群(グラン・ミュール)の迎撃砲を除けば俺達が使える最大火力だが、これを撃たないと砲口が塞がって主砲(五十七ミリ)が使えない、前肢をトラックなどの台座に載せて仰角を稼がないとろくな飛距離を稼げない、弾頭が重くて長時間つけたまま走ると砲身が曲がる、撃つか切り離さないと戦闘機動が出来ない、そもそも……規格外ゆえに曲射や関節射撃の弾道計算を行うシステムがジャガーノートのソフトウェアに組み込まれていないという安定の共和国クオリティを発揮する。

 これをまともに扱うには距離・初速・発射角度・弾道係数・重力加速度・空気密度・風速・風向などなど、様々な要素を計算しなければならないのだが、学校すら行ったこと無い俺達エイティシックスにそんな難しい計算など出来る訳もなかった。

 

「<サギタリウス>。計算頼んだぜ」

『……了解』

 

 ――そういう訳で学校で一番の秀才(首席のダスティン)に全部やらせた。()はただの学生で弾道計算なんてやったこと無いと言っていたが、俺達の中で一番頭が良いのは確かなので無理矢理やらせた。(どうやら、正規軍人から公式を教えてもらったらしい)

 

『風向、風速問題なし……大丈夫です。砲撃、開始してください』

 

 ダスティンの合図に合わせて戦隊各位がトリガーを引く。市街の各署から屁のような鈍い音を立て、空港の周囲から一五五ミリ榴弾(リリアム)が飛翔。それらは空中で放物線を描き、<サギタリウス>の計算通り、滑走路へ着弾。数十キロの高性能爆薬が破片を撒き散らし、レギオンを焼き払っていく。戦車級(レーヴェ)以上の重量機にはまず効果は無いだろうが、斥候型(アーマイゼ)近接猟兵型(グラウヴォルフ)回収輸送型(タウゼントフュスラー)といった軽量機は複雑な機構の脚部、センサー類を潰されて沈黙。爆発の余波で自走地雷はガキのオモチャのように吹き飛んでいく。

 

 ――すげえ威力。豆鉄砲で一機ずつ撃ってたのが馬鹿みてえだ。

 

「全弾、滑走路に着弾」

 

「<ナイトノッカー>。重戦車級(ディノザウリア)はくれてやる。確実に仕留めろ。<キタルファ><ファイアブレイク>は俺と一緒に戦車型(レーヴェ)どもだ。<ブラッドヘッド><サギタリウス>は撃ち漏らし小型を掃討しろ」

 

 戦隊各位から素直な「了解」という応答が来る。その場のノリで勝手に名乗った戦隊長代理という肩書がこの数十日でようやく実を結んだ気がした。

 

「女王陛下がドレスとハイヒールで闊歩するんだ。塵一つ残すなよ」

 

『タジク、またハイになってる』『鳥肌立つからその言い回しやめてくれ』『俺は面白くて好きだけどな』『わたし知ってる。ちゅーにびょーってやつだよね』『はは……ノーコメントで』

 

 どうやら俺の勘違いのようだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 筆舌に尽くしがたい壮絶な空港奪還戦が完了し、飛行場はレギオンのスクラップヤードと化した。

 俺達はジャガーノートのキャノピーを開け、数時間ぶりの風を堪能する。格納庫や庁舎、管制塔の中には自走地雷が潜んでいるが、待機している滑走路とは距離があり、飛び出して来たとしても脅威ではなかった。

 

「<アルファウリス>より鮮血の女王(ブラッディレジーナ)、敵部隊の掃討を完了」

『了解しました。屋内の掃討は()()()で行います。バルディッシュ戦隊は滑走路で待機してください』

 

 ――別働隊?

 

 どこの誰だと疑問に思う時間すら与えること無く、フェンスを踏み破ってライトグレーの兵員輸送車が飛行場へ突入する。八十六区でよく廃車を見かけたが実際に動いている姿を見るのはこれが始めてた。

 八台の車列が次々と入るが、俺達には目もくれず、戦闘車両から続々とる格納庫、基地庁舎、管制塔が集中する区画へとハンドルを切っていく。とりあえず敵ではなさそうだ。

 車列の最後尾にいた兵員輸送車だけが真っ直ぐこちらに向かってくる。車輛は四機のジャガーノートを護衛に付けるという贅沢な待遇を受けており、加えてジャガーノートが装甲車の速度に合わせて足取りを遅くしている。

 

 ――まさか。

 

 今の共和国でそこまでの待遇を、それもエイティシックスから受けられる人間は一人しか思い当たらない。

 

「総員、ジャガーノートから降りろ。女王陛下の御成りだ」

 

 全員が俺と同じ考えに至っていたのだろう。意味が分からず聞き返したり、茶化したりすることなく、全機が機首を下げてハッチを開いた。

 戦隊長()()である俺を先頭に立たせ、他の戦隊員達は半歩後ろに整列する。

 兵員輸送車の側面ハッチが開く。上下に分割して観音開きしたハッチは屋根と階段に変わり、軍服の少女が降りてくる。

 

 ――あれが鮮血の女王(ブラッディレジーナ)

 

 物騒な二つ名とは裏腹に彼女は可憐な十八歳の少女だった。輝きを放つ長い白銀の髪、白雪の美貌、硝子細工を想わせる繊細さ、絵に描いたような貴族の御令嬢だったが、その所作は軍人らしく剛毅かつ堅実なものだった。

 他とは異なる黒色の軍服、流血を想わせる一房の髪、俺達が排除したとはいえ敵勢力圏のど真ん中を堂々と歩く姿は“エイティシックスの女王”に相応しい風格を見せる。

 俺は自分が(形式上は)軍属であることを思い出し、鮮血の女王(ブラッディレジーナ)に向けて敬礼。彼女がそれに応える。

 

「サンマグノリア共和国軍()()鮮血の女王(ブラッディレジーナ) ヴラディレーナ・ミリーゼです。初めまして」

 

 鮮血の女王(ブラッディレジーナ)の正体、その推測として生前にミレイユが呟いた名前。ミレイユの推測が当たっていた、その答えが目の前にいる。興奮が湧き上がるが、それを胸の中で抑え込む。

 

「<バルディッシュ>戦隊 戦隊長()() <アルファウリス> タジク・ロウニです」

 

 ミリーゼが敬礼していた手で軍帽の鍔を掴み、深く被り直す。軍帽が陰となり、唯一見えていた口元がほくそ笑んだ。

 

「ジョスラン騎兵隊の間違いではありませんか?」

 

 ――覚えてたのかよ。チクショウ。

 

 黒歴史とまでは言わないが、あの時の言動を思い出すと鳥肌が立つ。俺が今更になって恥ずかしがっているのは傍から見ても分かっただろう。

 

「あー、はいはい。そうですよ。俺達がジョスラン騎兵隊ですよ。何度も言うが俺は隊長代理。本物の隊長は八十六区に置いて来ちまった」と半ばヤケッパチになる。

「女王陛下に拝謁の栄を賜り、恐悦至極に存じているが、この際だから色々と聞かせてくれ。なぜ俺達は本隊から外れて運用されていた? 俺達は()()()()何をさせられる?」

 

 この数十日、知覚同調(パラレイド)越しの声しか知らなかった鮮血の女王(ブラッディレジーナ)()()()()目の前に現れた。世間話や慰安のためでないことは確かだ。加えて、格納庫に向かった車列のことも気がかりだった。

 

「次の作戦のために南部戦線の戦力を温存しておきたかった、これが理由です」

 

「行政中央区の奪還か?」

 

 そうではないと分かっていながら、俺は問う。()()を手に入れる一抹の希望をかけて。

 ミリーゼはかぶりを振り、空を指さした。阻電攪乱型(アインタークスフリーゲ)のいない、陽が差す東の空を。

 

「次の作戦はレギオンに掌握された大要塞壁群(グランミュール)東部ブロックの奪還』です。ジョスラン騎兵隊。貴方達には作戦の要として、空を飛んでもらいます

 

 ――はい?

 

 

 




第三章が「鮮血の女王(ブラッディレジーナ)」なのにレーナの出番は少ないし、出す予定の無かったダスティンは出てくるしで共和国防衛戦になってから想定外の連続です。

(安里先生曰く)原作の予定(プロット)を尽く踏み倒してきた男ダスティン・イェーガー恐るべし。
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