-86-外伝 最後の騎兵は白銀の棺に眠る 作:ジェイソン13
血と汗を流し尽くし、市民となれ。
行政区外収容所に掲げられたスローガン
(撮影:トビアス・リヒター連邦軍伍長)
「ジョスラン騎兵隊。貴方達には作戦の要として、空を飛んでもらいます」
ミリーゼは明らかに空を指さし、俺達に言い放った。そこに誤魔化しや婉曲、「月が綺麗ですね」みたいな文学的な表現は無い。少なくとも軍事の場ではオブラートに包む事無く率直に述べる人間であることを俺達はこの数十日でよく知っていた。手段は分からないが彼女は本当に俺達を空に飛ばすつもりだ。こんな世界で快適な空の旅はまず望めないし、真っ当な手段でもないのだろう。
それが天国への直行便にならないことを祈った。
*
大攻勢時に放棄された空軍基地ターミナル、そこの会議室を拝借し、次の作戦のブリーフィングが始まった。
会議室は百人規模の利用を想定した広さだったが、ここにいるのは十数人程度だ。俺達――ジョスラン騎兵隊――は最前列から二列目あたりの席に分散して座り、まるで俺達を監視するかのように後方の席には
前方スクリーンの傍らにミリーゼが毅然と立ち、首輪型のレイドデバイス――女王陛下仕様――を起動させる。同調対象は会議室にいる騎兵隊と家臣団、加えてここにはいないプロセッサー達へと拡大していく。二十人、三十人、より多く、増えて、増えて、膨れ上がっていく。同調対象者の数はこの作戦が大攻勢以降最大規模のものになることを教えてくれた。
「これより、反転攻勢の
白衣を着た国軍本部の若手士官がタブレットを操作し、部屋の前面に設置された即席モニターに共和国行政八十五区と八十六区の北部、東部の地図を映し出す。レギオン部隊を示す赤いマーカーが行政区の北部、西部、南部に配置され、行政区東部に自軍を示す青いマーカーが集中して配置されている。
こちらの戦力はレギオンと比較すれば規模も数も雀の涙、展開している範囲も猫の額だが、地下鉄に爆弾を詰め込んで吶喊させた起死回生の電撃戦でようやく獲得した陣地だ。文句は言えなかった。
「まずは現在の状況についてです。先の電撃戦にて私達は東部軍事要衝を奪還。西のモントルイユ川に防衛陣地を構築し、ソードブレイカー、エストック、フランベルジュの三戦隊混成の防衛部隊によるレギオン機甲部隊の抑え込みが行われています」
モントルイユ川は行政区内東部を流れる河川であり、機甲兵器の渡河を阻む水深と流量を誇る天然の防衛ラインだ。レギオンの侵攻ルートは橋に限定されているが、その橋は既にこちらで爆破したため、工作部隊を投入して橋を架設しようとするレギオンとそれを邪魔する防衛部隊によるいたちごっこが続いている。
「現時点を以って第一フェーズを完了――」
ミリーゼはさも当然のように淡々と状況を説明していたが、俺は愕然としていた。彼女には畏敬を通り越して畏怖すら抱きそうになる。
この状況は、
――マジでやりやがったよ。こいつ。
「これより第二フェーズ、
スクリーンが行政八十五区の東端、
「大攻勢当初、
ライオが大きく溜息を吐く。
「こんな立派な要塞なら、ゲートを閉じて迎撃砲ぶっ放してた方が楽だったんじゃねえか?
腕を組み、厭味ったらしい態度で言い放つ。あいつは背後の家臣団から来るプレッシャーなど微塵も感じていないようだ。俺も態度には示さなかったが同じ考えだった。いくら機動防御に向いた戦力とはいえ、地雷原を根こそぎ吹っ飛ばす大火力を手放すのは惜しかった。
「北部を突破された時点で戦場が行政区内になることは確定していました。
理論整然とした言葉の雨に打たれてライオが固まる。
「お、おう……分かった。もう大丈夫だ。俺が悪かった」
ライオの敗北宣言、それ以前の挑発ですらミリーゼは眉一つ動かさず、作戦の説明に戻る。
「偵察部隊によるとレギオンは
マクサが「ん?」と眉をひそめる。
「それって、俺達の作戦が読まれているってことか?」
「いえ、逆です。先にレギオンが防衛陣地を構築したことにより、私達が叩くべき場所が露呈したのです」
ミリーゼの回答を聞いてもマクサは上手く理解できず、頭上に疑問符が浮かんだままだ。
「要するに常に優勢で市民の首を狩り回っていればいいレギオンが
俺の補足でマクサはようやく理解し、「おお。なるほど」と感嘆する。
俺は仲間内のくだけた姿勢を正し、騎兵隊長代理として、再び女王陛下に目を向けた。
「理屈は分かりましたぜ。女王陛下。でも、貴女にそう思わせるための大規模なブラフってことは? 」
「その可能性は低いです」とミリーゼは一切淀むことなく言い切った。
「失礼を承知の上で聞きますが、その根拠は?」
「他の情報と照合した結果です。まず結論から言います。レギオンが防衛陣地を作って守ろうとしている対象は大攻勢の要である
士官がタブレットを操作し、スクリーンのマップに重ねて小ウィンドウが展開される。建物に突き刺さった鉄塊の画像だ。画面の端に表示された見慣れたアイコンから、それがジャガーノートのガンカメラで撮影された映像の切り取りだとすぐに分かった。
「
俺を含めプロセッサー全員が唖然とした。その数秒だけ時が止まったかのように感じた。超大型レギオンが放ったレールガンで北部戦線は壊滅したというのは聞かされていたが、たった一撃で
「これまで交戦や鹵獲によって収集したレギオンのデータを基にレールガンの射出に必要なエネルギー量、それ生み出すだめのジェネレーターの出力と重量、射出に必要な砲身の長さと強度、それらを動かすための駆動系を計算しました。その結果、
――大怪獣じゃねえか。
「はい。質問」とランカが挙手。「それだけ大きいなら動けないんじゃない? 」
「いえ、移動は可能です。当該機は大攻勢以前にも東部戦線にて複数回の試射を行っています。これまでの射撃から発射地点を逆算した結果から――」
スクリーンに移された地図に複数の赤い点と線が追加される。点は破壊された
「
ミリーゼの説明は推測に基づいていた。当時の共和国には
――こんなすげえ奴がいたのに何で負けたんだよ。共和国。
「オペレーション・スクレテルにより
スクリーンから小ウィンドウが消え、再び
「本作戦は地上部隊、空挺部隊による二面侵攻となります。ブリジンガメン、サンダーボルト、リュカオン、ファランクスは地上部隊。バルディッシュは空挺部隊です」
滑走路で聞かされてはいたが、やはり空挺部隊というのはしっくりこない。俺達は他の戦隊と同じくジャガーノートで地を這う虫けらだ。空への飛び方も落ち方も分からない。
「地上部隊の目標は『前面に展開するレギオン機甲部隊の排除』『大要塞壁群内部の制圧』。空挺部隊の目標は――」
スクリーンに小ウィンドウが追加され、偵察隊が撮影した大要塞壁群の画像が表示される。センサー感度の高い
「屋上で警戒する大型レギオン
今回は内容のほとんどが「偵察機を出せないレーナたち共和国側はモルフォをどこまで把握し、どう対処しようとしたのか」という説明回になってしまいました。話があまり進んではいないのですが、原作の裏側を書きたい欲が抑えられなかったのでそのまま詰め込みました。