-86-外伝 最後の騎兵は白銀の棺に眠る 作:ジェイソン13
エイティシックスは異端である。
『ははっ。面白えじゃねえか。<ブラッドヘッド>了解』
『<ナイトノッカー>、さくせんとかよくわかんないんでとつげきやりまーす』
『<ファイアブレイク>行くぜ!! エースの座は渡さねえ!!』
次から次へとプライドの高い号持ち達が速度を上げてミレイユの後を追っていく。工作部隊、砲撃部隊の編成も決まっていないのに脳筋どもはもうレギオンとおっぱじめるつもりのようだ。
『後は頼んだわ。<
「はぁっ!?」
まさかのご指名に俺はつい声を上げてしまった。戦隊長の代わりに指揮を執る――副長の座を狙っていた俺としては願ったり叶ったりだったが、唐突に決められてしまうとどこか腑に落ちない。
しかし俺の納得など関係なく状況は進んでいく。
俺は深呼吸し、ミレイユの作戦概要とそれを実現させる為の編成を頭の中で組み立てる。
「戦隊各位。これより編成を伝える。工作部隊の指揮は<
突撃部隊が戦いを始めれば、戦闘に向かない
俺はジャガーノートの速度を落とし、間抜けな蛇のようになった戦列の前方4割の位置まで下がる。
「新人。レーダーを見ろ。<アルファウリス>より前を走っている4人。お前らは工作部隊だ。何が何でも先輩のケツに齧りつけ。残りは砲撃部隊だ。時間は突撃バカどもに稼がせる。遅れてでもいいからキルポイントまで走れ」
「了解」「はい」「りょ、了解」「了解」「うん」「が、がんばります」――――
息の合わない返答が返ってくる。乱闘に参加しなかった俺が指揮を執ることに文句を言う奴はいなかった。指示の内容を妥当だと思ったのか、それとも
レーダースクリーンに目を向けるとまばらになっていた戦列が俺を境に工作部隊と砲撃部隊に綺麗に別れていった。
*
その街は芸術作品のようだった。鉛白と象牙色の石造建築には善美な彫刻が彫られ、広場や街の空きスペースには半裸の天使や女神の像が置かれている。かなり歴史のある街らしい。それらには宗教的な意味が込められているのかもしれないが、生憎と神を信じたことがない俺達には理解するための学も教養もない。
『石ってレギオンの材料になるのかな?』とランカが呟く。
俺はランカの問いに「馬鹿か」と返答し、街道を走り抜ける。先に入った突撃部隊が上手くレギオンを引き付けてくれたためか、
我先に突撃した脳筋騎兵隊長も隊長らしく各部隊の進捗を確認している。
『<アルファウリス>、<シュヴァリエ>、ポイント到達までの時間は?』
『こちら<シュヴァリエ>。ポイント到達まで二四〇秒。会敵なし』
『<アルファウリス>は?』
「三〇〇秒くれ。あと新入りが二人やられた」
『……了解。それまで引き付けるわ』
ミレイユは数秒の沈黙に哀悼の意を込める。あの能天気脳筋バカ騎兵隊長にはは出会って1時間も経っていない仲間の死を悼む情と戦場では抑える理性があるらしい。
『戦隊各位。推測通り敵は
やっぱ、そう楽にはいかねえよなぁ――と俺は独り言ちる。
『何が『少し混ざっている』だ。
ライオが口をはさむ。ミレイユが予想を外したせいで(彼女を含む)突撃部隊は負担が大きくなったのだ。嫌味の一つや二つ言いたい気持ちはよく分かる。
『でも
俺はミレイユの言っている意味が分からなかった。「正解に変えた」という言葉の意味を自分の中で解釈しようとするが、『あはははははははは』と同調してきたアサギの笑い声が邪魔をする。
『突撃しなかったチキンども。この戦隊長は大当たりだぜ』
『おいおいライオ。頭でも打ったのかよ』
『悔しいがエースの座はくれてやるよ。チクショウ』
『マクサ。君までどうしたんだ』
突撃部隊の変容ぶりに砲撃部隊のジュンナと工作部隊のカッキは戸惑いを隠せない。声に上げないだけで他の号持ちの困惑、新入り達の期待が
『“
アサギの間抜けな声に俺は愕然とする。白豚がレギオンを倒した。「たくさん」と言うからには一機や二機どころの話ではない。それも
そんなことが出来るエイティシックスはそうそういない。居たとしたら1年前に特別偵察任務に行った<アンダーテイカー>ぐらいだ。
――いやいやまさか。
アサギはバカなので3以上の数は「たくさん」という言葉で表現する。きっとミレイユが倒したのは4機か5機ぐらいで(これでも多いが)、ライオとマクサは悪乗りしてミレイユの活躍を囃し立てているのだろう。
俺は信じていないが、念のためレーダーに目を向けた。
我が目を疑った。
「マジかよ……何つー距離で戦ってんだ……」
驚きのあまり冷や汗が流れ、冷静さを保とうとレーダーの不具合やシステムエラーの可能性を考えるが、それはないと否定する。ジャガーノートはハード面でこそ共和国の誇るべき欠陥兵器だが、ソフト面に関してはエラーやバグを起こさない堅実さと子供の無鉄砲な操縦に対応する柔軟さを持っている。悔しいが傑作と言うしかない。
レーダー上では赤のアイコンで表示されるレギオン部隊と青のアイコンで表示されるジョスラン騎兵隊が綺麗に分かれ、砲撃の応酬を繰り広げていた。
とある2機を除いては除いては――
赤いアイコンが重なって大量に表示されるエリアに2つの青いアイコンが混ざり、縦横無尽に動いている。赤いアイコンの数が減っているので運悪くレギオンの中に飛び込んでしまい逃げ惑っている馬鹿という訳でもないらしい。
アイコンに付随するパーソナルネームを見て、俺はアサギのそれが戯言ではないとようやく認めた。認めざるを得なかった。
彼女達は、戦狂いのエイティシックスの中で飛び抜けて狂っていた。
*
『こちら<シュヴァリエ>。予定ポイントに到着。損害なし』
『テメェの読み通りだ。騎兵隊長。古い橋を使って谷を越えやがる。ありゃ良い的だな』
報告通り、工作部隊が予定ポイントに到達したのは予告通り、こちらの60秒前だった。
『橋はっ――崩せそうっ、かしら?』
レギオンの群れの中を飛び回りながら応答しているせいでミレイユの言葉は途切れ途切れだ。だがそれを馬鹿にする者はいない。俺と同じように工作部隊の面々もレーダーでミレイユがどこにいるのか気付いているからだ。
『レギオンの重量に耐えられる橋だ。
『橋の上の奴らだけでも殺っちまうか?』
『そうね。そっちは始めて構わないわ』
『『了解』』
エイティシックスはシンプルで実力主義な一面もある。力を示せば、つい数分前まで彼女の能力を疑っていたカッキも疑心暗鬼から砲口を押し付けたジュンナも素直に従い、支持を請う。
ただ、この早さは異常だ。喧嘩やジャガーノートの動きだけじゃない、何か別の“力”がはたらいているように思えて仕方が無かった。
「――ったく、どいつもこいつも絆されやがって」
俺は
ジャガーノートの仰角を大きくとり、半壊した鐘楼にワイヤーアンカーを撃ち込んだ。ウィンチでワイヤーを巻き、脆くて軽いジャガーノートを鐘楼の頂上に引っ張り上げる。
ミレイユ曰く、フィデリテ市は貴族たちが権力を誇示するために宗教建築を濫立させた歴史があるらしいが、レギオン侵攻の激戦区となったことからそのほとんどが倒壊し、市の中央にある大聖堂と幾つかの鐘楼以外は古くから残る一、二階建ての家屋と瓦礫ばかりとなった。お陰で鐘楼の上から街全体を見渡すことが出来る。地図や地形データを持たない俺達にとってはありがたいことだ。
全長数百メートルの石造り、アーモンドを半分に割ったような形状の屋根が特徴の大聖堂は建物の一部が崩落していたが、それでも神を信じない俺達を唸らせるほどの荘厳さを持っていた。
大聖堂の前には市の数%は占有するだろうシンメトリーの広場があり、ミレイユの言うとおり水路もあった。水が絶えて久しく、都合の良いことに中はすっかり乾ききっていた。サイズもジャガーノートはおろかスカベンジャーもすっぽり収まる。
突撃部隊に追い立てられ、橋まで攻撃されれば、レギオンは橋の防衛のため撤退を判断する可能性が高い。戦略的価値の低い南部戦線とはいえ、橋を落とされてしまえば陸上兵器がメインのレギオンは進軍速度に大きな支障が出るからだ。
そして、この水路は撤退するレギオンを横から嬲り殺しにするには丁度いいポジションだった。
『<アルファウリス>。早く下りないと的になるよ』
ランカに促されて俺はウィンチを回転させ、ワイヤーを伸ばしてゆっくりと降りる。間抜けな光景だが、こんな高さから飛び降りればジャガーノートの貧弱な脚なんて簡単に折れる。それ以前に俺が骨折するか最悪死ぬ。
俺はアンカーを外して着地する。
パキッっと軽い何かが割れる音がした。
ジャガーノート外部の集音マイクがその音を拾ったのだ。俺はガンカメラを下へ傾け、なるべく自分に近い地面を視界に入れる。
レギオン大戦時の避難民だろうか、レギオンに踏みつぶされ、獣に食い荒らされた白骨死体や衣服がそこら中に散らばっていた。数年の風化により頭蓋や胸郭といった分かり易い部位も砕けてしまっており、ここでどれだけの人数が死んだのか見当もつかない。少なくとも数千人は下らないだろう。
プロセッサーを続けると作戦に関係ないものは自然と考えないようになってくる。視界に入って記憶に留めてもそれについて思いを馳せることもなくなってくる。
故に俺は気付いていなかった。ここが白骨で埋められた広場だということに。
大聖堂の奥に祀られる神様とやらは、彼らの魂を救ってくれたのだろうか――
どちらにせよ、神様のいない俺達には関係の無い話だ。
エイティシックスは異端である。
獣が人の皮を被り、人であると偽り、
神の祝福を詐取した行為は許されざる大罪である。
東方より出でし鉄の悪魔を屠り、
共に地獄の炎で焼かれなければ、
獣は己の罪を自覚し、罰を受け入れることは無いだろう。
ジョスラン騎兵隊のゆかいな仲間たち
【名前】アサギ・スミリヤ
【性別】女性 【年齢】14歳
【人種】
【国籍】なし(エイティシックスは人ではない為)
【所属】共和国南部戦線第二線区第一防衛戦隊“バルディッシュ”
(通称:ジョスラン騎兵隊)
【経歴】
パーソナルネーム<ナイトノッカー>
とにかくうるさいアホの子。
収容所で教育を受けられなかった影響からか五歳児程度の知能しか持たず、字の読み書きも計算も苦手としている。ジャガーノートのマニュアルも読めず、部隊の作戦も理解できないが、天賦の才と勘だけでジャガーノートの動かし、エース級のレギオン撃破数を誇る。
【名前】ライオ・クリスト
【性別】男性 【年齢】16歳
【人種】
【国籍】なし(エイティシックスは人ではない為)
【所属】共和国南部戦線第二線区第一防衛戦隊“バルディッシュ”
(通称:ジョスラン騎兵隊)
【経歴】
パーソナルネーム<ブラッドヘッド>
気に食わない相手は全員拳で黙らせてきた喧嘩腰の大男。
相手が武装していようとスタンスは変わらず、収容所にいた白系種の兵士や武装した戦隊長にも食い下がってきた。一方で相手の実力を正当に評価し認め敬う面もある。
プロセッサーとしては、巨躯でジャガーノートのコックピットが狭いせいか実力を発揮しきれず、戦力としては「ちょっと強い(号持ち基準)」