-86-外伝 最後の騎兵は白銀の棺に眠る   作:ジェイソン13

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拝啓、クソ指揮官(ハンドラー)

 拝啓 クソ指揮官(ハンドラー)

 

 ミレイユ・ジョスラン

『共和国南部戦線第二線区第一防衛戦隊“バルディッシュ”

 戦闘報告書№914396-6』

 

 遊撃部隊による橋への攻撃が始まるとレーダー上の赤いアイコン(レギオン)が一斉に動き出した。ミレイユの目論見通り、レギオンは撤退を開始した。どうやらあちらの指揮官機は行き当たりばったりな判断を下す残念な頭脳の持ち主らしい。

 

「チビ共。お待ちかねのレギオン狩りだ。収容所での鬱憤はここで晴らせ」

『了解』

 

 返事は揃っていた。全員が塹壕に収まり、レギオンが通過する予定の箇所に集中しているからだろう。知覚同調(パラレイド)を通じて全員の緊張が伝わる。

 ジャガーノートの最大火力たる主砲もある程度距離を詰めないと有効打にはならない。ガンカメラがレギオンを捉えても俺はひたすら「まだだ」「まだ撃つな」「指をかけるな」と新入り達に囁き続ける。

 

「――――――――撃て」

 

 塹壕から五七ミリ滑腔砲が一斉に飛び出し、撃発。秒速一八〇〇メートルの高速徹甲榴弾が撤退するレギオン部隊の横っ面を叩く。陣形の右翼を担っていた斥候型(アーマイゼ)に徹甲弾の大穴が開き、内部で高性能爆薬が炸裂する。

 撤退するレギオン部隊が回頭。亡霊のように青白く煌めくセンサーをこちらに向ける。

 敵を目の前にした恐怖心を紛らわすため、新入りたちが弾数も気にせず滑腔砲を乱射する。お陰でスカベンジャーは大忙しだ。塹壕の中をいそいそと走り弾倉を交換していく。

 自走地雷が塹壕へ吶喊するも滑腔砲の風圧でバラバラになり、斥候型(アーマイゼ)の残骸が積み重なっていく。

 

『やった!!倒した!!』『やれる!!僕はやれる!!』『三機!!四機目!!』

 

 突撃部隊がお膳を立てた上、固定砲台というつまらない役割だったが、レギオンを倒したという実績が自信に繋がり、歓喜の声が耳障りなほど繰り返される。

 

 ――調子に乗ってんなぁ。馬鹿共。

 

 新人達とは裏腹に俺達は不意打ちの成功に酔い痴れることなく、冷徹にガンカメラと集音マイク、レーダーで状況を分析し、レギオンの次の手を読む。

 

 ビンゴだ。

 近接猟兵型(グラウヴォルフ)の背部、七六ミリ多連装対戦車ロケットランチャーのハッチが開く。曲線射撃で塹壕を叩ける彼らの装備は厄介だ。

 俺とランカは冷静に近接猟兵型(グラウヴォルフ)へ照準を合わせ、発射前のランチャーを撃ち抜く。既に点火されていた燃料と弾頭の炸薬が一斉に爆発し、派手な花火を上げてマニピュレータとブレードが四散する。

 

「A班!! B班!! 第二ポイントへ移動!!」

 

 爆発の衝撃でレギオンが足を止めた一瞬に砲撃部隊内の小グループが移動。それをレギオン悟られないよう残ったグループと俺たち号持ちで砲撃を継続する。

 塹壕があるとはいえジャガーノートは正面切ってレギオンと撃ち合いが出来る機体ではない。逃げ回って横や背後から撃ち、敵が向いたらまた走って逃げて撃つ、かっこつけた言い方をすれば機動防御が基本戦術なのだ。

 だが、そんな戦術も虚しく、轟音と共に塹壕が吹き飛んだ。レーダー上から騎兵隊のアイコンが一つ消失。断末魔すら聞こえなかった。

 戦車型(レーヴェ)の主砲一二〇ミリ滑腔砲が炎幕を突き破り、その姿を現す。四機の編隊が巨体で黒煙を掻き分け、ジャガーノートが虫のように這い回る水路に等間隔で撃発。弾頭と衝撃波で石造りの道を抉り取り、更に“虫”が一匹駆除される。

 

「ったく……判断が早ぇな」

『最近こんなのばっかじゃん』

 

 戦車型がいるのは織り込み済みで第二ポイントへの移動も彼らに狙われないようにする為だった。しかし、相手の動きが予想より早かった。

 向こうも経験を蓄積させたのか、敵の行動予測や判断がより正確に、より高度に、より複雑になってきた。前の部隊では会敵せずチェスのように動きを読み合う戦いも起きたくらいだ。まるで人間相手の戦争だ。やったこと無いけど。

 

『マルケンがやられた!!』『ねぇ!? エンザは!? エンザはどこ!?』『嫌だ!!死にたくない死にたくない!!』『邪魔だ!! さっさと退け!!』『テメェこそ邪魔なんだよ!!』

 

 撤退するレギオンを一方的に蹂躙する勝ち戦から状況は一転、調子に乗っていた新入り達はパニックに陥る。水路の中でジャガーノートがわちゃわちゃと動き、機体同士が接触し、悲鳴や怒号が聞こえる。

 これはひどい。俺の初実戦よりもひどい。

 

「ったく……世話が焼ける」

 

 俺達ぐらいの世代は「全滅して欲しいがレギオンを撃退して貰わないと困る」という白豚側の事情により最低限戦力になれるような訓練を受けられた。しかしレギオン全停止を目前とした最後の出涸らし世代になると「戦場に出て、さっさと全滅しろ」という方針になったのか、訓練は更にひどいものになったようだ。

 

 ――まぁ、ジャガーノートを走らせただけで吐くレベルだもんな。

 

「<キタルファ>、俺達で戦車型(レーヴェ)を引き付ける」

『ええっ!? 私達、()(がま)になるの!?』

「バカ言え。時間稼ぎだ」

 

 俺とランカは滑腔砲で戦車型(レーヴェ)を牽制、塹壕から飛び出し、混乱する新入り達と真逆の方向へ疾走する。ジャガーノートは貧弱な四脚で聖堂広場の白骨遺体を踏み荒らす。罰当たりと言わんばかりに跳ねられた骨片がアルミの装甲を叩く。

 目論み通り、戦車型(レーヴェ)は主砲をこちらに向けた。()()型と銘打つように彼らは正面切っての撃ち合いを想定した設計になっている。弱点である排熱口と予備弾倉は砲塔後部に集中しており、熟練した俺たちにそれを晒さないよう動くのは合理的な判断だった。

 だからこそ、簡単に釣ることが出来る。

 

 問題なのは――釣られた獲物を仕留める奴がいないことだ。

 

 俺とランカは戦車型の注意を引くことで手一杯だ。二機で四機編隊を足止めしているのだから上出来だろう。普通なら反対側にいる部隊が砲塔後部を狙い撃つのだが、残念なことにそこにいるのはパニックになって逃げ惑う新入り達だ。知覚同調(パラレイド)で呼び掛けてはいるが届いていない。

 

『おうおう。やってんじゃ()()えか。豚共』

 

 不快な指揮官(ハンドラー)の声が知覚同調(パラレイド)で戦隊員に共有される。相当、酒が頭に回っているのだろう。出撃前の時よりも呂律が回らなくなっている。ただでさえ醜い濁声も膿とゲップで更に酷くなっている。

 

『まぁだ……ヒック、五匹しか死んでねえのか。オラァ。もっと気合い入れろ!! 人間様のために死んで来い!!豚ァ!!』

 

 白豚の常套句は何百回も聞いたせいでもう慣れた。

 俺は鬱陶しさのあまりレイドデバイスをオフにしようと耳に手を添える。

 

『神速の馬に跨って~帝国の腰抜け蹴散らすぜ~』

 

 童謡のようなクソダサい歌が知覚同調(パラレイド)を通じて頭に響く。声は勿論、<ロシナンテ>ことミレイユ・ジョスラン(突撃バカ脳筋騎兵隊長)だ。

 

『おい。なんだ。このクソダサい歌は』

 

 腹立たしいが白豚と意見が一致した。

 

『熊も猪も慄き~頭を垂れて引き下がる~我ら東方最強ぉ~ジョスラン騎兵隊ぃ~』

 

 戦車型(レーヴェ)の一機が後方から高速徹甲榴弾を撃たれた。成形炸薬弾(HEAT)のメタルジェットが排熱口を貫徹し、炸薬が砲塔内部を焼き尽くす。装甲の隙間から黒煙が吹き上がり、流体マイクロマシンの中央処理装置が銀色の液体となって銃創から漏れ出す。

 戦車型(レーヴェ)の後部を守るように展開していた斥候型(アーマイゼ)近接猟兵型(グラウヴォルフ)の編隊が回頭するが、高速徹甲榴弾で爆散。歴史ある街に不釣り合いな鉄筋コンクリートの廃墟から連携された砲撃が続き、雨に晒されるかのようにレギオンが屠られていく。

 ピンチにかけつけたヒーローを気取るかのようにパーソナルマークを付けたジャガーノートが並ぶ。真っ赤な骸骨(ブラッドヘッド)火の翼を持つ鳥(ファイアブレイク)、その他諸々――ミレイユに付いて行った突撃部隊の号持ち達だ。

 文字通り鉄屑となったレギオンの死骸を踏み荒らし、一機のジャガーノートが戦車型(レーヴェ)編隊との距離を詰める。滑腔砲から零れる硝煙を置き去りにするスピードで走る銀色の白馬。<ロシナンテ>だ。

 同編隊の戦車型(レーヴェ)の一機が回頭。時計回りに走る<ロシナンテ>に主砲の照準を合わせる。砲塔の回転と主砲の角度調整もジャガーノートのスピードにしっかりと対応している。

 

『ふふっ』

 

 知覚同調(パラレイド)越しにミレイユの笑みが聞こえた。

<ロシナンテ>は脚部のスパイクを地面に押し当てて、火花を散らしながら急減速。戦車型(レーヴェ)は敵が走り続けると予測していたのだろう。一二〇ミリ砲から放たれた砲弾は虚しくも瓦礫の街の向こう側へ消える。

 

 ――さあ。次はどうするんだ? 騎兵隊長。

 

 敵前で脚を止めるというのはジャガーノートにとって自殺も同然だ。今のブレーキで脚にも負荷がかかっている。数秒だが動き出しは遅いだろう。敵の装填、照準、発射はそれより早い。

 ブレーキをかけながら回頭していた<ロシナンテ>はワイヤーアンカーを戦車型(レーヴェ)に向けて射出。本来は建物や地形に突き立てる爪を脚部に引っ掛け、モーターでワイヤーを巻き取る。重量級レギオンたる戦車型(レーヴェ)とアルミの棺桶のジャガーノート、どちらが引っ張られるかは一目瞭然だった。

 本来、重力に逆らってジャガーノートを引っ張り上げることを想定していた巻き取り用モーター、その馬力を水平方向の移動に使えばジャガーノートを走行と変わらない、もしくはそれ以上の速度で引っ張ることが出来る。理屈は分かるが、レギオン相手にやるバカはまずいない。

 

 <ロシナンテ>は足裏から火花が散らしながら吶喊。戦車型(レーヴェ)は一二〇ミリ滑腔砲を向けるが間に合わない。砲口と砲口が交差、五七ミリ滑腔砲の砲口が装甲を突いた。

 最低起爆距離設定(ミニマムレンジ)消去(キル)した高速徹甲弾の零距離射撃。胴体と砲塔の間にある僅かな繫ぎ目を貫徹した徹甲弾は破壊的な爆轟で内部を焼き尽くしただろう。

 

『わたしもまぜてー!!』

 

 もう一機、白骨とレギオンの残骸を踏み荒らしながら広場を駆ける。五歳児がクレヨンで描いたような妖精のパーソナルマークの機体<ナイトノッカー(アサギ)>だ。彼女はミレイユが倒した戦車型(レーヴェ)の屍を踏み越え、頂上から跳躍。俺とランカが足止めしていた戦車型(レーヴェ)に飛びついた。

 戦車型(レーヴェ)は振り払おう跳躍、百トン越えの巨体が宙に浮くが、<ナイトノッカー>は子猫のようにしがみ付き、上部の排熱口に零距離射撃で徹甲弾を叩き込む。

 空中で戦車型(レーヴェ)を乗り捨てた<ナイトノッカー>は最後の一機の上へ跳躍、前方宙返りしながら着地すること無く、真上から上部装甲に徹甲弾を撃ち込んだ。宙返りした<ナイトノッカー>は華麗に着地。息を合わせたかのように戦車型(レーヴェ)は爆散した。

 主力である四機の戦車型(レーヴェ)編隊が沈黙。他の号持ち達に削られたのもあって、残った斥候型(アーマイゼ)近接猟兵型(グラウヴォルフ)も撤退していった。

 

 ――はぁ……新入りのお守はもう御免だ。

 

 アルミの棺桶の中で俺は脱力する。頭のおかしいミレイユ・ジョスラン(白豚の戦隊長)、頭のおかしいアサギ・スミリヤ(ナイトノッカー)、ろくに訓練を受けていない新入り達、白骨死骸だらけの広場、戦闘そのものは大したことなくても頭を疲労させる要因が重なり過ぎた。

<ロシナンテ>はワイヤーアンカーを格納。ガンカメラをこちらに向ける。

 

『無事かしら?』

『ああ。助かったよ。騎士(ナイト)様』

 

 俺は軽く手を振る。勿論、ミレイユには見えていない。

 

『……まぁ、ありがと』

 

 ランカも白豚に助けられたことを癪に感じながらも感謝の弁を述べる。

 

『あしがこわれたーうごけなーい』

 

 アサギの間抜けで舌足らずな喋りで一気に気が抜ける。足回りが貧弱なジャガーノートで戦場を駆け回り、跳躍、宙返り、着地という曲芸をこなしたのだ。それ以外にも彼女は無駄な動きが多く、戦闘後に脚が壊れるのはいつものことだった。

 

『はいはい。引っ張ってやるよ。エース様』

 

 俺はワイヤーアンカーを<ナイトノッカー>に向けて射出。錨がしっかり引っ掛かったことを確認する。

 

『戦隊各位。レギオンは撤退を開始したわ。私達も帰ってデブリーフィングよ』

 

『デ、デブリーフィングって何ですか? 痛いことですか?』と新入りの一人が恐る恐る尋ねる。他の新入り達も同じ心境だろう。俺達エイティシックスは収容所で「自由」「平等」「博愛」「正義」「高潔」といった言葉と共に虐待をされてきた。その概念を理解する前から殴られ、蹴られ、撃たれ、殺されてきた。聞いたことない軍事用語を「自分達を虐めるための単語」と認識してもおかしくはなかった。

 

『結果報告よ。どういう風に動いて、何体のレギオンを倒したのか報告し合うの』

 

 騎兵隊長としての威勢のある喋りとは裏腹に、お淑やかな、それこそ令嬢のようにミレイユは説明する。まさか本当に八十五区内の令嬢だったんじゃないかとも思ってしまう。

 

『おい。なに勝手に帰ろうとしてんだよ。まだレギオンが残ってるじゃねえか』

 

 撤退ムードになっていた戦隊に指揮官(ハンドラー)が水を差す。白豚が空気を読めないのはいつものことだ。

 

指揮官(ハンドラー)殿。レギオンは撤退しました』

『いるじゃねえか。その撤退している奴がよぉ』

 

 ミレイユはおそらく眉をひそめただろう。知覚同調(パラレイド)に表情を伝える機能はないが、彼女ならそうするはずだという謎の確信が俺の中にはあった。

 

『お言葉ですが、今から追っても市街地の部隊は防衛圏内で追いつけません。橋に攻撃を行っていた部隊も撤退しています』

 

 指揮官(ハンドラー)は舌打ちする。不機嫌が頂点に達しているのだろう。

 

エイティシックス(人の形をした豚)が勝手に判断してんじゃねえよ!! 突撃だ!! 今すぐ行って全員死んで来い!!』

 

 またしても白豚の常套句が飛んでくる。マニュアルでもあるのかと思うくらいに内容が一緒だ。もしかして、昔の部隊の指揮官(ハンドラー)だったりしてな。

 

『どこかで聞いたことのある声かと思えば、ルイス叔父様? ルイス叔父様ですの?』

 

 キャノピーの中で独り笑いしていた俺は唖然とする。上下していた肩は息と共に止まる。まさかの知り合いかよ。

 

『あぁ? 何だぁ? テメェ』

『その声、ルイス叔父様で間違いありませんの。私です。ミレイユです。お忘れですか?』

 

 芝居めいた喋り方に俺を含む戦隊各位はミレイユの意図がなんとなく見えて来た。新人達は困惑し、ある者は「白豚が……」と呟いて舌打ちするが、なんとなく悟った号持ち達は薄ら笑みを浮かべる。

 

『知らん。お前なんか知らん!!』

 

 

 

『いいえ。その声、シャルリューデ宮殿の感謝祭で酔った挙句に脱糞し、慌てて女子トイレでパンツを洗っていたルイス叔父様に間違いありませんわ!!』

 

 

 

 あまりに、あまりにも汚く下品な内容に俺は吹き出しそうになる。笑い声が漏れないように知覚同調(パラレイド)を切ろうかと思ったが、続きを聞きたくて、手で口を押え、息を無理やり殺しながら耳を澄ませる。

 

『ちっ、違う!! 俺はルイスじゃない!!』

『そう恥ずかしがらなくて良いですわ。叔父様の名誉のため、成人男性が女子トイレでパンツを洗っていたところを9歳の私に目撃されて、『黙っていてくれ』と土下座で懇願するなんて恥ずかしい話、誰にも話していませんわ』

 

 とんでもない大嘘だ。このパラレイドは戦隊総員に筒抜けだ。指揮官(ハンドラー)がそれに気付いているかどうかは分からない。真っ当な奴なら気付くかもしれないが、真昼間から酒を飲む指揮官(ハンドラー)でそれは厳しい話だろう。

 戦隊各位から笑い声が漏れ始める。俺も堪えるのをやめて知覚同調(パラレイド)越しに嘲笑をクソ指揮官(ハンドラー)に届ける。

 

『……今日はもういい。明日も同じ口を利いたらタダじゃおかないからな!! 』

『ごきげんよう。ルイス叔父様』

 

 舌打ちと共に指揮官(ハンドラー)知覚同調(パラレイド)が切られた。

 砲声が遠い昔のように思えるほどの静寂――指揮官(ハンドラー)の前で嗤った俺達だが、その腸は煮えくり返りそうだった。俺達から全てを奪って、こんな戦場に放り出して、それを人道だの愛だの正義だのと宣う連中の声を聞いて、気分が良い筈がない。

 ミレイユも黙っていたが、ふと深呼吸する。

 

『戦隊各位。もし指揮官(ハンドラー)が繋いで来たら、徹底して“クソ野郎”と呼びなさい。知覚同調(パラレイド)を繋いでこなくなる日まで続けなさい』

『『『了解』』』

 

 号持ちも新入りも揃えて返事をしたのはこれが初めてだった。

 

 

 

 

「おい。脱糞野郎」

「クソ指揮官」

「今日はちゃんとパンツ洗ったの?」

「トイレットペーパーが無えぞ。無駄遣いするなよ」

「嗅覚も同調すんなよ。ウンコの臭いがするぜ」

「女子トイレも詰まってるんだけど。またパンツ洗ったの?」

「そう気にしないで下さい。太り過ぎて自分で肛門を拭けないのでしょう?」

「豚だって尻尾でケツを拭くのにお前はそれ以下かよ」

「トイレが詰まったぞ。何とかしろよ。脱糞野郎」

「クソ指揮官」

「ファッキン白豚」

「脱糞野郎」

「排泄物おじ様」

「うんち」

 

 

 

三日後、クソ指揮官(ハンドラー)の声を聞くことは二度となかった。

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